●リプレイ本文
●プールサイドの女神たち
ここはとある温水プール施設。外観は温泉施設に似ているが、ガラス越しに大きなプールが見える。支配人の依頼により、選りすぐりの傭兵が訪れていた。
「‥‥また‥‥斯様な、依頼‥‥? 嫌な予感‥‥する‥‥」
無表情なL3・ヴァサーゴ(
ga7281)であったが、依頼を受けた仲間を軽く一瞥する。
「こんな事もあろうかと、水着はご用意してありますです♪」
ヴァサーゴの視線の先には、危険な光が瞳に宿った伊万里 冬無(
ga8209)がいた。
「水着用意してくれていたのはいいですが、伊万里の準備がいいのが更に嫌な予感を加速させますわ」
若干、不審に思いながら、大鳥居・麗華(
gb0839)は冬無から水着を受け取る。
「うふ、うふふっ♪ 此処まできたら諦めて下さいです♪」
冬無はヴァサーゴに水着を差し出した。
「‥‥然れど、依頼なれば‥‥遂行、するのみ‥‥」
ヴァサーゴは静かな決意と共に差し出された水着を握りしめる。
「温水プール‥‥楽しそうたぬぅ!」
いつもと変わり無い様子で、呑気な椎岳 たぬ子(gz0407)は目を輝かせていた。これから、酷い目に遭うとは夢にも思わず‥‥。
本来なら来場客で賑わうはずのプールサイドには、9人の人影しかいない。ゴミ処理場の余熱を利用しているとはいえ、これでは完全に赤字である。諸事情によって現在、一般客は一切いない状態なのだ。
「プールでキメラ退治か。ま、これも修行の内さ。水中戦闘の実戦経験にもなるしな。ただ‥‥この格好だと遊びに来たみたいだな」
白地に黒のラインの入った、少しスポーティなセパレート水着を纏った夜光 魅鞘(
gb5117)は苦笑いを浮かべる。
「スライム‥‥嫌な予感しかしないわね」
胸を白いサラシで覆い、赤のロングパレオは袴のように巻きつけたユキメ・フローズン(
gc6915)は、まるで東洋の武士のようであった。
そう、この温水プール施設はスライム被害によって、客足に壊滅的ダメージを受けている。そのスライムを駆除する為に、傭兵達が呼ばれたのだ。
「ん‥‥なんか苦しい‥‥」
オレンジ色の競泳用水着を窮屈そうに、指で胸の辺りを引っ張りながら、エレシア・ハートネス(
gc3040)が呟く。サイズはぴったりの筈なのだが、特に胸の辺りが苦しいようだ。また一段と成長している。
「皆さん、準備は終わりましたですか?」
冬無は水色のラインが入った白の競泳水着を着用している。だが、生地が薄いのか、水着が体にぴっちりと張り付いていた。さくらんぼや、縦方向のすじがハッキリと分かる。
「参加した以上、やるしかありませんわ」
麗華が身に着けた紐で結ぶタイプの黒ビキニでは、たわわに実った果実がこぼれそうです。
「‥‥然し‥‥麗華、相変わらず‥‥大胆‥‥」
そう言うヴァサーゴだが、スクール水着の生地が非常に薄く、局所以外は完全に透けている。胸には「う゛ぁさーご」と書かれたゼッケンが付いている徹底ぶりであった。麗華に近づいたヴァサーゴは、つい手を触れてしまう。
「何によ、一直線にサービスサービスね♪」
黒の三角ビキニで決めた樹・籐子(
gc0214)が目の前に広がる光景に、ご満悦の様子。
「うー‥‥酷い目にあったたぬぅ‥‥」
妙に疲れた様子で、だぶだぶのスクール水着を纏ったたぬ子がプールサイドに現れる。どうやら、ここに来るまでに、素っ裸で歩いている所を職員に捕まって、無理やりスクール水着を着せられたようだ。
「まあ‥‥今回は頼もしい女性陣達が居る事だ‥‥俺は援護に入ろう‥‥なあに‥‥背中は任せてくれ」
紅月・焔(
gb1386)は女性陣から距離を取って、その背中を眺めていた。ガスマスクにスクール水着という妙な組み合わせだが、やたら小さいサイズの男子用スクール水着は、何処か危険な香りが漂う。
●スライム駆除?
ガラス張りの壁から、春の柔らかい日差しがプールを照らす。プールの水面は、何もいないのに波紋が生まれていた。
「ともあれさっさと倒し‥‥たいですけど、スライム見づらいですわね、これ」
麗華はプールサイドに立って、波紋の広がる水面を眺めていた。
「ん‥‥見つけた‥‥」
エレシアが目を凝らしてみると、クラゲのようにスライムが水中を漂っている。
傭兵達は事前の打ち合わせ通り、配置に付く。
冬無、麗華、魅鞘、籐子、ユキメはプールに飛び込み、水中でスライムを誘導。そして、残りのヴァサーゴ、焔、エレシア、たぬ子はプールサイドから水上のスライムを攻撃する手筈になっていた。
「器用さがウリだからこういうのは得意だ」
魅鞘は愛用の二刀でスライムを八つ裂きにして行く。一刀一匹手数でスライムを切り刻んでいた。だが、水中という事もあり、思ったようにダメージが入らない。
「はい、そことあそことあっちにスライムがいるから気を付けてね」
籐子はGooDLuckと探査の眼を起動して、見え辛いスライムを的確に発見していく。
「そっちに追い込むわ」
指示を受けつつ、ユキメはスライムをプールサイド側へと追い詰めていった。
「ん‥‥これで‥‥」
エレシアが、誘導されたスライムに対して試作型水陸両用槍「蛟」を投擲する。手から離れた槍はFFを貫く力を失って弾かれるが、あらかじめ結びつけておいた紐がスライムに絡んだのを確認すると、それを引っ張ってスライムごと回収した。陸上に引き上げたスライムを、持ち替えた超機械「アクアリウス」で消滅させる。
「たぬたぬたぬたぬぅ!」
たぬ子は一応、指示通りプールサイドから水面のスライムを爪で駆除する。それでも、プールに入りたくてうずうずしていた。
「援護は任せてくれ」
軍用双眼鏡を片手に練成強化、練成弱体で援護する焔であったが、その視線が何処を向いているかは、推して然るところだ。
順調にスライムを駆除していく傭兵達であったが、このまま黙って駆除されるキメラではなかった。
「はぁッ!」
試作型水中剣「アロンダイト」でスライムを切り裂いていく麗華。だが、水面に浮かぶ、見慣れた黒い生地を見つけて、キメラの本当の力に気付いた。
「な‥‥や、やっぱりこういうことですの!? 早く倒してしまいませんと」
どうやら、紐が溶かされて水着はその力を失ってしまったようだ。隠すものが無くなった豊満な果実を腕で抱えながら、スライムの駆除を急ぐ。
「それでも数は多いな‥‥」
スライムを跳ね上げ、プールサイドの仲間に任せていた魅鞘であったが、その数の多さに周りを囲まれてしまう。迅雷で離脱した魅鞘は、変な解放感を覚えて自分の格好を確認した。
「ひ‥‥きゃああああ!!? ちょっ、待て、なんだこれ!?」
白地のセパレート水着には、所々大きな穴が開いており、かなりきわどい事になっている。大事な部分だけはかろうじて残っていた。
「ひ、悲鳴が聞こえたぞ!」
「大丈夫ですか!」
温水プール施設の従業員(男ばかり)が魅鞘の悲鳴を聞きつけ、参上する。実はこの時を待っていたのではないかと、思う程の素早さであった。
「み、見るなっ!」
魅鞘はプールに肩まで浸かって、その姿を隠した。
「ん‥‥大丈夫‥‥今、援護に行く‥‥」
魅鞘の悲鳴を聞きつけたエレシアは、急いでそちらに向かうが移動の途中、スライムの残骸を踏みつけてプールへと落ちてしまった。
「ん‥‥失敗‥‥」
そんな事をしている間にも少し溶けた競泳水着は、その大きな果実を支えきれなくなり、力尽きてしまう。結果、その大きな果実が勢いよく飛び出した。
「切り捨てる!」
ユキメはアロンダイトでスライムを両断していたが、その数があまりに多く体に纏わり付いてしまう。サラシは一部が溶ける事で簡単に解けてしまった。
「‥‥許さないわ」
顔を赤く染めつつも、ユキメはスライム駆除を優先する。
籐子は蛟を振り回し、キメラを駆逐していたが、数多く対処する間に三角ビキニはすっかりその力を失っていた。
「これくらい、想定範囲内よね〜」
周囲もいい感じに阿鼻叫喚となってきたので、その様子を眺めていた。その時、顔を真っ赤にしたユキメが苦戦しているように見え、籐子は援護に向かう。
「ん、柔らかくて気持ち良いー♪」
だが、つい『事故』でユキメに抱きついてしまった。
「な、何をしているのかしら‥‥?」
どう対応していいか分からないユキメは、ただでさえ赤かった顔をさらに赤くしていた。
「あはっ」
冬無は金蛟剪でスライムを切断していたが、ついに行動を起こす。
「はいはぁい、そちらの皆様にもお仕事です♪ とぅ!」
プールサイドの面々が暇を持て余してはいけないと、冬無はスライムを投擲し始めた。心なしか、ヴァサーゴに集中しているように見える。
「‥‥これで‥‥」
プールサイドで鎌を振るい、スライムを駆除していたヴァサーゴに冬無が投げたスライムが迫る。しかし、水面のキメラに集中している為、その接近に気付けない。
「だ、駄目‥‥か、斯様な処‥‥そんな奥まで‥‥んふぁぁぁ♪」
スライムが肌の上で蠢く刺激に、ヴァサーゴは敏感に反応してしまう。辛うじて隠されていた局所も、スライムが溶かし透け始めていた。
「ヴァサーゴ!? だ、大丈夫ですの‥‥って、きゃ!? 伊万里!?」
ヴァサーゴの危機に駆け付けた麗華だったが、やっぱり投げられたスライムの餌食になってしまう。スライムを引き離そうとするが、何故かヴァサーゴに抱きつかれてそれどころではなくなってしまう。
「ヴァ、ヴァサーゴ!?」
「ん‥‥んんっ‥‥」
ヴァサーゴは麗華のきめ細やかな肌の虜になっていた。そして、体のありとあらゆる箇所を擦り合わせてその感触に溺れてしまう‥‥。
「たぬ子嬢‥‥見ているが良い‥‥これが傭兵たちの戦い‥‥いや、見ない方が良いね‥‥うん」
「たぬぅ?」
焔はたぬ子の目を塞いで、地獄と化したプールから離れる。ただ、焔本人は双眼鏡でばっちり眺めていた。
「面白そうたぬぅ! たぬ子も遊ぶたぬぅ!」
スライム地獄がどうやら遊んでいるように見えるたぬ子に、焔は食べ物で気を逸らす。
「こんな汚れのない少女に‥‥この汚れた世界は早すぎる‥‥」
「カニ缶たぬぅ! カニ缶凄いたぬぅ!」
何故か、妙にカニ缶へ興味を持ったたぬ子は、焔の意図通り食べる事に夢中となった。
「それでは、ゆっくりと俺の心のメモリーに記憶するか‥‥」
大人しくなったたぬ子の隣で、焔は双眼鏡を覗く。
「なっ!? ナニで見てるっ! 双眼鏡とかやめろ!」
視線の向こうの人物から何か聞こえてきたが、何を言っているかハッキリと届かなかった。
「な、なんでお前ら平気なんだっ! しゃ、洒落にならないぞこれっ!?」
魅鞘の水着はかなり溶かされて、水着の隙間から豊満な果実が零れそうだった。プール内で顔を真っ赤にした乙女な魅鞘が、平然としているメンバーに問いかける。
「ん‥‥任務中の‥‥事故‥‥」
「このくらいのサービス、むしろご褒美よね〜♪」
「あふぅん、か、絡みついて‥‥はぁ、はぁ、ノってきましたです!」
エレシア、籐子は兎も角、冬無に至っては答えになっていない。
「くっ、早く終わらせて‥‥! ちょっ! し、下はやめろ‥‥! ダメェ!」
執拗に纏わり付くスライムは、ついに魅鞘の下まで攻め始めた。
「こ、この‥‥!」
ユキメは籐子に抱きつかれたまま、必死にスライムを駆除していた。
「適度に援護するわよ」
籐子は抱きつきながらも、蛟を操ってスライムを駆逐していく。
こうして、簡単だと思われた依頼は、悪夢のような惨状となってしまった‥‥。
●恒例の反省会
一部の真面目な方の尽力によって、スライムはどうやら完全に駆除される。何だかんだ言って、プールサイドへと放り投げるのは有効な手段だったようだ。そのお蔭で、焔とカニ缶を食べていたたぬ子を除く全員が、大きな被害を被ってしまった訳だが‥‥。
「『ちょっと』やり過ぎてしまいましたです♪」
そう言って無邪気に笑う冬無に、麗華とヴァサーゴが近づいていく。
「冬無‥‥」
「伊・万・里。よくもやってくださいましたわね? お仕置きしないといけませんわね?」
麗華は身体隠すのも忘れ、瞳が笑っていない笑顔を冬無へ向けつつ、ヴァサーゴと共に伊万里をどこかへと連れていった。
「‥‥どうやって上がろう‥‥」
スライムを駆除し終えたとはいえ、魅鞘の水着は犠牲となりプールサイドに上がる事もままならない。
「ん‥‥お疲れ様‥‥とりあえず、バスタオル‥‥」
エレシアは前もって用意しておいた人数分のバスタオルを魅鞘に手渡す。エレシア自身、既にバスタオルを体に巻き付けていた。
「ありがとう‥‥助かった」
魅鞘はバスタオルで恥ずかしい場所を隠しながら、プールサイドへ上がる事に成功した。
「は〜い、お疲れ様〜。ユキメちゃんもどうぞ」
プールサイドに上がれなくなっていたユキメに籐子がバスタオルを渡す。
「あ、ありがとう‥‥」
また、何かされないかとユキメは少し警戒していたものの、厚意でしてくれた事だと気づき、それに甘える事にした。
「カメラとかで撮ってないだろうな?」
プールサイドに上がった魅鞘は焔へと詰め寄る。
「案ずるな‥‥バッチリと脳内撮影して俺の心のメモリーに記憶した‥‥ばっちりナ! グヘヘ」
そう言いながらも、焔は魅鞘のバスタオルから覗く太ももや、二の腕を堪能していた。
「ん‥‥そこ‥‥見ないの‥‥」
エレシアの無慈悲な足払いが、見事に焔へと決まりガスマスク着用のままプールに落ちる事になってしまった。
「んー‥‥お腹いっぱいたぬぅ」
結局、たぬ子は焔から貰ったカニ缶と、温泉まんじゅうを食べるだけという活躍に終わった。それでも、本人は満足している様子である。
――薄暗い何処かの部屋にて‥‥。
「毎度毎度‥‥酷い事ばかり‥‥。いい加減‥‥許すまじ‥‥」
ヴァサーゴは冷たい目線で見下しながら、冬無をぐりぐりっと踏みつける。スライムを投げ付けられた恨みは忘れていなかった。
「さぁて‥‥どんなお仕置きがお望みかしら?」
何処からか取り出した鞭をパシッと鳴らせながら、満面の笑みを浮かべる。やっぱり、その目は笑っていない。
「あぁん♪ 麗華さぁん、ヴァサーゴさぁん、ご、ごめんなさぁぁい♪」
その後、温水プール施設にある何処かから悲鳴と高笑いが響いてきたらしいが、あまりの恐ろしさに、誰も中で何をやっていたか確認出来なかったという‥‥。
何はともあれ、依頼は無事終了。温水プールからスライムの脅威は去り、再び繁盛したのはまた後のお話。