●リプレイ本文
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空の色が薄くなる。
それは、秋が終わり、冬へと向かう色の流れだ。
KV等が林の中を目的の丘を目指して進軍していた。
敵がどう動くのか定かではない。
二機一組に分かれた傭兵達。
「それじゃ手筈通り。正面は任せた!」
赤崎羽矢子(
gb2140)シュテルン・G、奉丈・遮那(
ga0352)ワイバーンMk. IIが、ある程度まで距離を詰めると、仲間達から離れる。丘を回り込み、挟撃をする作戦だ。
「邪魔なゴーレムにはさっさとお引き取り願いましょう」
遮那が軽く笑みを浮かべる。
白に塗装された遮那機には、頭から砲台の下を二手に囲むように朱色の呪のような文様が描かれる。前脚の肩の装甲は武者鎧の袖のような重なりがみられ。その低い背をさらに低く、回り込みを開始する。
羽矢子機の外装は、通常のシュテルン・Gとなんら変わらず、ハチドリのエンブレムのみが羽矢子機だと知らせる。だが、内は随分とカスタマイズされている。その愛機を低く屈める。
(「‥‥にしても‥‥」)
北東に潜伏する『祭門』という組織のありよう、そして、つまるところは大陸の人々の心の持ちように、軽くため息が出る。生きる為とはいえ、何処か釈然としない。
「バグアの旗色が悪くなりそうだから此方に‥‥か」
軽く首を横に振ると、ひとまずは目の前の敵に集中するべく、浮かんだ雑念を払いのける。
木々がまばらに生えている。
その背をなるべく低くして、二手に分かれ、本隊とも呼べる六機が進路を真っ直ぐ、丘頂上へと取る。
互いの距離は、フォロー可能な位置で、一丸となっていた。
その上で、ワザと接近を敵機に気付かせるようにと、低く構えながらも、音や気配は通常と同じく、もしくは、より敵に発見されやすいようにと立てながら進んでいた。
如月・由梨(
ga1805)のディアブロ、シヴァが、何時もの巨大剣シヴァを持ち、移動する。通常のKVは手にする事もかなわない。
変哲のないディアブロではあるが、その機体能力は桁違いだ。以前は四つのブーストがシヴァを振るうに必要であったが、現在は三つのブーストで行動が可能という。
由梨は、軽く口元に手を当てる。
見覚えのある機体があった。
ロウと名乗ったバグア。
それは、瀋陽から環状包囲網へと向かう先のバグア基地にて遭遇していた。
九月に叩いた阜新空軍基地内のゴーレム工場で取り逃がした機体だ。
気になって調べてみれば、ロウに絡んだ依頼の中に、以前関わったペッパーという運び屋の少女と関係があった。そのペッパーも、今はどうやら強化人間‥‥バグアとなっているようだという報告書の数々を思い出し、軽くため息が出る。
(「あれほど、親バグアを嫌っていたはずですのに」)
「考えても、分かりませんね」
小さく息を吐くと、由梨はシヴァを握り直す。
「‥‥ロウなら、何か知っているのかもしれませんが」
どちらにしろ倒すまでであると。
盾を壊す者の意味を持つ戦乙女の名を冠すのは、イーリス・立花(
gb6709)機、パピルサグ、Randgriz Nacht。夜闇に紛れるような黒と紫に塗り分けられた装甲に、閂をかけた城門にアヤメの花が配されるエンブレムが見える。多脚が軽快な機械音を密やかに響かせ、巨大を揺らし、由梨機の後を追うように動く。
「こういう時、愛機が鈍足なのを実感できます‥‥」
出発前イーリスは、何時ものように、モニターを軽く叩いて願掛けをしてきた。
一歩遅れがちな歩を、仲間達と合わせて、ペア数組が横並びになるようにと気を配る。
重厚な雷電を走らせるのは榊 兵衛(
ga0388)。忠勝と名のつく機体は奥行きのある朱漆色。細かな細工めいた塗装は、日本の武士甲冑を思わせる。
「敵はゴーレムか。彼我の機体数はこちらが不利だが、これだけの面子が揃っているんだ。必ず完勝出来ると信じて居るぞ」
共にと向かう仲間達は、多くが歴戦と言って良い。
機槍千鳥十文字が軽く振るわれ、空を裂く音を鳴らす。
超伝導アクチュエータが、兵衛機の命中と回避を底上げし、ゴーレムへと迫る。
その後衛として迫るのは佐賀十蔵(
gb5442)のウーフー2、瑞雲11型。ガンメタルに塗装された、ダークグリーンの迷彩色が木々の合間に沈む。
(「丘の上を取れか、難儀だな」)
モニターを確認すれば、敵機はさして移動していない。セオリーとしても高い場所からの攻撃の方が有利であるしと、十蔵は頷きながらスナイパーライフルSG−01の照準を合わせ、兵衛機と連携しつつ、的確な射撃ポイントは何処かと割り出す。
「注意を引き付ける様に行動? 本気かいな」
やれやれと言った風に機体を動かす。
「正面突破、ですか。‥‥腕が鳴りますね」
ティーダ(
ga7172)が笑みを浮かべる。彼女のアンジェリカは雪の粉を振りまくかのような白い機体だ。氷の妖精であるFrauと名がつけられている。雪の結晶のような冷却索が、僅燐光を受けて白銀に光る。
その後方から、アンジェリカ、瑞浪 時雨(
ga5130)、エレクトラが追う。黒を基調としたその機体は神話の中、父親の復讐のために母親を殺した女性の名。
「嫌な位置‥‥」
小高い丘の上から、黒いゴーレムが僅かに下り、待ち構えるのが見える。
僅かだが、傾斜のついたその場所から見下ろされている。
攻撃するにも多少なりとも敵機の方が有利かもしれないが。
「でも‥‥」
二機のアンジェリカが白と黒の色を引いて正面へと突撃を開始する。
本当の有利はどちらにあるか、戦いが始まる。
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丘上部から眺めていたゴーレムも二手に分かれたようだった。
三体一組のその黒い歩兵は、一組は回り込みに向かったKV二機の来る方向へと。
三組が、上ってくる六機へと展開する。
うち、金色の線のある機体は三組の中心後衛に位置していた。
「みなさん、いきますよ!」
回り込みの二機が気付かれたとみるや、ティーダから指示が飛ぶ。
全機、一斉にブーストでゴーレムへと迫る。
丘の上から、二体を前面に出して、三体のゴーレムがゆらゆらと揺れながら、下ってくるが、固まってはいない。少なくとも、三方向に攻撃を分けなくてはいけないだろう。
ゴーレム二機から、バルカンの弾丸が飛んでくる。
傭兵達は、固まった状態から方角を僅かにずらし、攻撃を開始する。
SESエンハンサーを発動したティーダ機は、その弾丸をものともせずに突っ込んで行く。ぐっと、掲げた機盾ウルへとゴーレム二機の弾丸がはじかれる。
「その程度の攻撃では倒れませんよ?」
軽く笑みを浮かべるティーダ。
RA.2.7in.プラズマライフルがゴーレムを襲い、ゴーレムはその手にする大剣を手から落とすと、吹き飛んだ。
ティーダ機の後方から、DR−2荷電粒子砲が飛んだ。時雨機だ。だが、それは躱される。
「あんまり時間をかけるとこっちが不利‥‥、一気に行く‥‥!」
ブースト空戦スタビライザー、エンハンサーを展開した時雨機は、ティーダ機を援護。
阻まれたゴーレムの後方に位置したゴーレムが浮かび上がり、ライフル弾を後方の時雨機へと叩き込む。
その動きを見て、ティーダ機が時雨機を庇うように位置をずらす。
そのティーダ機へと、ゴーレムが大剣を振り抜く。
時雨機がDR−2を大剣を振り抜いたゴーレムへと撃ち放つ。
「Flauには負けるけど‥‥攻撃力ならエレクトラだってかなりの物‥‥消えて‥‥!」
桁違いの知覚攻撃がゴーレムに大穴を開けて吹き飛ばす。
ティーダ機から、軽い唸りを上げて、練剣雪村が現れる。
「‥‥燃え尽きなさい!」
バルカンを撃っていたゴーレムが槍を構えなおす為に、軽くブーストをかけて、位置を変えるが、ティーダ機はそれを追う。迫ったティーダ機が、槍を突き出したゴーレムの槍を打ち払い、返すその手で雪村を叩き込む。ゴーレムは雪村をまともに受ける。その凄まじい攻撃に装甲がぐにゃりと歪み、内部から爆発が起こった。
上空のゴーレムへ時雨機から、DR−2が飛ぶ。と、同時に、上空のゴーレムからはライフルが時雨機を襲う。
衝撃が時雨機を揺るがす。
肩にもろに食らったが、起動不可能な程では無い。
時雨機の放ったDR−2が、上空のゴーレムの腹を穿っていた。バチバチと音がする。軽い爆発音と共に、ゴーレムは腹から爆炎を上げて、地へと落ちた。
「これより、対空射撃を開始します」
イーリスは、クァルテットガン、マルコキアスで、ふわりと浮いた後方のゴーレムを狙う。
400もの弾丸が浮かんだゴーレムへと襲いかかる。
無造作に前を行く由梨機に、前方二体のゴーレムから、バルカンがぶち当たる。その衝撃に僅かに揺らぐが、目立った外傷は無い。
地を引くシヴァを振るう。いつものように、敵は叩くだけだ。その巨大剣が唸りを上げ、メキメキと周囲の木々を粉砕しつつゴーレムへと振り抜かれれば、槍を掲げるそのゴーレムは受ける事も出来ずに横殴りに粉砕され、吹き飛ばされる。
その隙に、剣を構え、バルカンで弾幕を張りながら、ゴーレムが飛び込み、由梨機の腹へと袈裟懸けに切り込むが、由梨機はかわし。イーリスが浮かんだゴーレムからのライフル弾を受けて、傾ぐ。僅かに衝撃を受けたが、動けなくなるほどではない。
由梨機がかわした体を戻しながら、巨大剣をそのまま逆に振りき、二機目を粉砕する。
「由梨さんは狙わせませんっ!」
イーリス機はぐらつく体を戻し、構える。マルコキアスが、再び空中のゴーレムへと、噴水のように吹き上がる。ようやく、ぐらりと空中に居るゴーレムが傾いだ。
十式高性能長距離バルカンが、唸りを上げて飛んで行く。十分なけん制だ。仲間達と速度を合わせるように、兵衛機が前に出る。
「ふむ‥‥ばらけたか」
「個別撃破という所だろうが」
十蔵機が兵衛機と共に距離を測る。強化型ジャミング中和装置は常に発動している。
ふわりと浮かんだゴーレムが兵衛機を狙う。
「援護するぞ」
スナイパーライフルSG−01を十蔵は撃ち込んで、その動きをそらす。
兵衛機の長距離バルカンが、一番手前のゴーレムへ叩き込まれる。幾つもの穴が穿たれ、後方へとゴーレムが吹き飛び、爆炎を上げる。
「‥‥ひとつ」
十蔵が呟く。
後方に位置していたゴーレムがその爆炎を盾に、兵衛機へと大剣を構えて迫る。バルカンが兵衛機へと弾幕を張るように襲うが、兵衛機はその弾幕をはじき返す。
そして、迫ったゴーレムへと、ファランクスが襲いかかる。
その激しい雨のような攻撃に前に出ようとしたゴーレムが一瞬ひるむ。
そこへ、十蔵のライフルが狙い済ます。
踏み込んだ兵衛機から 試作型スラスターライフルが発射される。
礫に体が傾いだゴーレムが、吹き飛んだ。
「‥‥ふたつ!」
仲間と会敵中のゴーレムの数もちゃくちゃくと減ってきているのを確認する。
回り込んでいる組のゴーレムも同じだと頷く。
と、ため息交じりの声が響いた。
敵機からだ。
「なんだろうね。あの巨大剣の子は避けたけど、皆、強すぎるよ、ホント。だからHWとか欲しいって言ったのに」
後方に位置していた金色の縁取りのある漆黒のゴーレムが、後退を始めていた。
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「‥‥あれ」
「どうしてこんな場所に‥‥」
危なげなくゴーレムを倒した羽矢子機と遮那機は、敵を挟み撃ちする為に、丘の反対側へとブーストをかけて回り込みにかかっていた。そこには、今となっては見慣れた姿、アグリッパが鎮座していた。
「破壊しましょうか。‥‥こちら、D班。アグリッパを発見。破壊します」
遮那が、仲間達へと連絡を取る。
何処か彫像めいたその姿が、ぐらりと揺れて、浮遊した。
「っ! 何っ?」
アグリッパは飛行能力を持っていた。
その浮遊は決して早いものではなさそうで、攻撃力が無いのは変わら無さそうであるが、二機に軽い緊張が走る。
羽矢子機から、8.8cm高分子レーザーライフルが飛べば、直撃し、ぐらりと揺れる。
続け様に遮那機からD−02が狙い撃ち、地響きを立てて落ちた所へと羽矢子機が走り込む。
「悪いけど、このまま置いてはおけないからっ!」
手にしたハイ・ディフェンダーを渾身の力を込めて叩き込むと、飛び退る。
アグリッパは細かく振動すると、爆炎を上げた。
もうもうと煙が立ち上る。
ロウ機は追い込まれていた。由梨機が迫り、その後方からイーリス機が援護射撃を撃ち込む。
「‥‥今度こそ逃がしませんよ!」
「嫌だってば。その機体とガチやり合ったら死んでしまうもの‥‥」
「よそ見はいけませんね」
ティーダだ。
最短で三体屠ったティーダ機と時雨機が接近してきていた。ティーダ機からプラズマライフルが、時雨機からDR−2が後方へとブーストをかけて逃れようとするロウ機を狙い、迫る。
「アグリッパ発見、破壊完了だそうだ」
十蔵が遮那と羽矢子からの通信を流す。
「‥‥ペッパーと言う名に聞き覚えは?」
由梨だ。
「知ってるよ。私のかわいい人だもの。あ、でも君も可愛いとぜったい思う。バグアにおいでよ、彼女みたいにさ」
「逃げずにお相手してくだされば?」
「だから嫌だって!」
「悪いがこっちは通行止めだ」
丘を登って来た羽矢子機と、遮那機がロウの逃走経路を塞ぐ。
「訳ありか? だが‥‥」
由梨機の様子を見ていた兵衛機だったが、十式が狙いをつけていた。
「撃墜が任務だ」
兵衛機の攻撃は、こちらを向きながら撤退するロウ機を吹き飛ばす。
「その距離から、その威力で来るっ?!」
ぐらりと体が傾ぎ、推力を失った。
丘の上に、ロウ機が落ちて、激しい爆炎を上げた。
傭兵によって、倒されたバグアは赤峰空港付近を管轄するバグアである事が『祭門』により確認される。
UPC軍が村を攻撃したという誤報は、それにより払拭された。
赤峰空港もじきUPC軍の手に取り戻される事は間違いが無かった。
着々と北京環状包囲網は削り取られていた。
北京解放の大規模作戦が、始まる。