●リプレイ本文
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「篠崎公司、クラスはイェーガーです。転職後の最初の依頼になります」
生真面目な物言いで、篠崎 公司(
ga2413)が最初の挨拶を交わす。
傭兵の間では、現在職種の変更が可能になっていた。
より、強く戦い易く。バグアとの戦いの中、その変化は必然に生まれたものだった。
強化型ジャミング中和装置を展開している、ウーフー2、フェンリル01公司機の計器がワーム接近の報を告げる。
「レーダーにノイズを確認。中和を開始します。全機戦闘態勢へ移行して下さい」
三重の円を描き、お椀方に広がったワームの布陣に、傭兵達の機体は左右に割れた。
チラチラと光るCWの数の多さに辟易とする。
知覚武器の通りが悪く、KVのコクピットに居ながらも、頭痛が襲ってくる。
「これだけ数がいると‥‥狙うのも一苦労か‥‥」
スピリットゴースト、レッド・スコルピオ。D・D(
gc0959)が呟く。
「弱い処を突くというのは、ある意味向こうは追い詰められてるのかも知れませんが、だからと言ってその行為は許してはなりませんしね」
番場論子(
gb4628)は軽く首を横に振る。
ロジーナbis、Witch of Logic論子機は、ストームブリンガーBを起動させ、一斉攻撃へと備える。
熊本本部を巡り、九州では常に無い激しい戦いが繰り広げられていた。
決戦と言う言葉が、論子の脳裏を過ぎった。
「まぁた、ヤらしい陣形しやがって‥‥」
ディアブロ、スティングレイ。ヤナギ・エリューナク(
gb5107)が渋面を作る。
(「敵機は此方より有利‥‥か。何としてでも突破してみせるゼ」)
「これは‥‥厄介‥‥ですね‥‥やり辛い配置‥‥でも頑張ります‥‥!」
S−01H、15−20160≪ナイトリィ≫のコクピットで、ハミル・ジャウザール(
gb4773)は小さく溜息を吐く。
複合して襲ってくるワームは大規模作戦では良くある。けれども、こうして目の当たりにすると、その厄介さを改めて認識する。
「本星型を含むHW20機以上にCW30とはバグアも大盤振る舞いね。本部はあたし達に死んでこいとでも言うつもりかしら? まあ、仕方ないわね。任された以上ベストは尽くすわ。お仕事ですものね」
右翼へと展開したリンクス、リンクス小鳥遊神楽(
ga3319)は、大量に現れた敵機を見て、淡々と呟く。
「‥‥集中‥‥南無阿弥陀仏‥‥」
うっそりと目を細めるのはパラディン、へパイトスを操る歪十(
ga5439)。
聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で、念仏を唱えている。
CWによる頭痛対策として、自身の集中力を高める為だ。
(「俺達は、負傷兵撤退の盾であり矛だ! 絶対に引くわけには行かない‥‥」)
不適な笑みを浮かべているのはS−01H、15−19843/himmelwartsレーゲン・シュナイダー(
ga4458)。
浮かぶのは九州で世話になった人物。
酒を酌み交わした、その人物を、間接的にでも守る事に繋がるのならばと操縦桿を握り締める。
(「足手まといにならないよう、しっかりやらないと」)
眼下に見え隠れする323号線。背に守るのは七山中。そこには、負傷兵が運ばれる。その全ての撤退と安全を守る一つの手となればと、和泉 恭也(
gc3978)は思い、ディスタンを駆る。
前方を向いていた、外周十機のHWが、傭兵達の機体の動きを見て、陣形を変えずに、その向きだけを五機ずつ左右に変え、照準を合わせているかのようだ。会戦時の戦闘は五機対五機。プロトン砲の射程は長い。縦半円になったHWは、左右のKVへと淡紅色の光線がCWを抜けて次々に浴びせかけられた。
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「よし、射程に入った」
間合いを計っていた仲間達の中から、右翼、神楽機は、リンクス・スナイプを発動させると、スナイパーライフルLPM−1でCWを狙い撃つ。同、真帆機からも、スナイパーライフルD−02でCWが狙い撃たれた。
「ライフルで突撃、回避の反復で楔を打つ。これぞカラコール戦法、重厚な敵に有効‥‥っ!」
そのまま、CWへと雷電、風雲真帆城を操る熊谷真帆(
ga3826)が突っ込んで行く。
飛び込んだ、真帆機へと向かい、紫の光線収束フェザー砲が幾筋も延び、被弾する。
遠距離からの攻撃を受け、CWが後退を始めた。
「む‥‥」
その攻撃を見て、歪十機がD−03ミサイルポッドを撃ち放った。
「CWが後退する前に極力多くを墜としておきたいところだ。少しでも沢山の銃弾を喰らわせてやりたいねェ。出し惜しみはなし、全力で行くよ」
全機の有効射程距離に入る前に各機の攻撃が少しでも通り易いようにと思っていた試作型G放電装置をレーゲン機は長距離の攻撃を見送った後に発射する。
「味方の射線に気をつけます‥‥」
この時点で、一番射程の短い恭也機のホーミングミサイルFI−04が次々と、銀色の軌跡を描いてCWに爆炎を上げさせた。
「このっ!」
接近した神楽機から、再びライフル弾が飛ぶ。目の前に迫るHW。
「HW班右翼攻撃開始!」
声を上げるのは真帆。D−02が一番近いHWへと穿たれる。
「微力だが、支援させていただく‥‥」
それを歪十がフォローに入る。ヘルムヴィーゲ・パリングでダメージを軽減していた歪十機から、システムニーベルングが発動され僅かだが、貴重な能力の底上げが、右翼の味方機全てに届く。
右翼は一斉攻撃の意味が混乱していた。
射程の違う武器を持つのに合図も何も無ければ仕方の無い事かもしれない。
左翼は足並みを揃えてCWへと迫っていた。後退を始めているCWへと向かうが、その前にHWが立ちはだかる。
「痛みに気を取られる分、恐怖が拭えると思えば‥‥多少は耐えられるか‥‥」
D・D機が、ブーストをかけて、CWを追う。ファルコンスナイプを発動させ、D−02で狙い撃つ。その精度の上がった攻撃は、CWを粉砕する。
「いけませんな‥‥ですが、手はあります」
公司機からD−02の弾丸が飛び、CWを穿つ。光を反射していたその六面体は急速に色を落として落下して行く。
落下中に爆発し、その破片が陽光に反射し、落ちて行く。
「ですね‥‥まずはCWを‥‥落とさないと」
D−02が、ハミル機から撃ち込まれる。CWを追って行く僚機へと被らない様にと最新の注意を払い。
「接近しなきゃなんねぇな‥‥行くぜ、スティングレイ!」
その陣形を崩さない姿に眉を寄せると、ヤナギ機はCWを真っ直ぐに追って行く。何しろ、武器の射程が短い。
「うっとーしーんだよっ!」
くるくると回転するCWへと向けて、H−112長距離バルカンを撃ち込んだ。
「出来るだけ追い落としたいですが‥‥HWが目の前ですね。CWが減るまでは、凌がせていただきましょう」
CWを追おうとする論子機だったが、自機の役割はHW対応だ。CWを追う仲間達とHWの間に入り、出来るだけHWの死角から攻撃をと奉天製ロケット弾ランチャーを撃ち込み、弾幕と変える。
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左翼では、後方へと下がったCWを追う。
六機で円を描くHWが円陣そのままで、くるりと方向を変えて、攻撃を仕掛けてくる。
慣性無視のHWならではの動きだ。
「くっ! 深追いすれば、本星型に近づいちまうかっ! HWへ回るぜ」
仲間の攻撃で出来た隙をつこうと、ヤナギは慎重に狙いを定めつつ、プロトン砲の射撃を警戒しつつ動きをとる。
84mm8連装ロケット弾ランチャーが、八筋の軌跡を描いてHWへと向かう。
CWを追っていたD・D機が200mm4連キャノン砲を撃ち放った。
四本の軌跡が絡み合うようにHWに着弾する。
「まずは、目の前の敵‥‥ね」
「‥‥ですね」
ハミル機はブレス・ノウを発動させると、HWへとD−02で狙い撃つ。
「確実に行きましょう」
公司が頷くと、仲間達が仕掛けた攻撃の後から機体を滑り込ませると、G−M1マシンガンを叩き込んだ。
手近な僚機を援護する位置を必ずとるのを忘れない。
「集中させましょう」 切り込んで行くのは論子機。47mm対空機関砲ツングースカを撃ち放つ。
左翼は柔軟に最初の円を描くHWへと向かう。
十機のHWが、円形陣を崩さないでいるのが、随分と助かっているとはいえ、一対多の形を崩さない左翼は、次々に最初の円のHWを落として行った。
少しでも多く、CWを落としておきたかったが、そうも行かないようで、レーゲンは軽く舌打ちする。
下がったCWへと向かえば、六機のHWの攻撃範囲に入る。
淡紅色の光線がレーゲン機を襲い、鈍い衝撃が伝わるが、深手では無い。
「おかえしさねっ!」
UK−10AAMがHWへと飛んで行く。スナイパーライフルkk−1の照準がすぐに合わせられ。
「距離、とりましょうっ!」
レーゲンと共にと恭也は決して離れず、彼女の射線を邪魔しないようにと攻撃の手を緩めない。
僅かな間には、リロードを欠かさず、常に攻撃が通るようにと気を配る。
「未だCWは多いが、そうも言っていられないわね。狙撃でいけそうかしら」
神楽機から、127mm2連装ロケット弾ランチャーが二つの尾を引きながらHWへと撃ち込まれる。
「‥‥猟兵としての私の戦い方を思う存分、その身に叩き込んで上げるわ」
「敵陣右、バラけろ!」
敵機は、そういう風にプログラムされているのだろう、円形お椀型の陣形を未だに崩さない。
HWの正面に真帆機は躍り出る。
少しでも怯ませようと思うのだが、HWは動じず、紫の閃光が襲い掛かる。
そのまま離脱行動に出ていなければ蜂の巣だ。
「出来る限り、弾幕を張って近づけさせるな‥‥」
D−03が歪十機から、再び襲い掛かる。二十発もの弾丸が、雨のように降り注いだ。
「HWは全てお任せ♪ なんて、専門家を名乗りたいんだけどっ‥‥」
イケイケゴーゴー。回避よりも攻撃を重視する真帆は、HWからの攻撃をほとんど機体で受けていた。
辛くも右翼が受け持ったHWが落ちる頃、左翼は次の円周へと攻撃を開始していた。
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六機のHWが落ち、いよいよ四機のHWと本星型の小型HWのみとなった空域には、未だ半数のCWがその存在を誇示するかのように、チラチラと細かな光を放っていた。
その光を背にして、本星型が向かってくる。
向かう先は、先にHWを落としきった左翼だ。
CWがその背後につくように光る。
HWは、本星型を中心に、上下左右を固めるかのような格好になっている。
うち、二機が右翼から迫るKVへと泡紅色の光線を浴びせるが、これはかわされる。左翼へと、本星型と残り二機からの攻撃が飛ぶ。
HWを迎撃しつつ、CWに向かうのは左翼からハミル機、ヤナギ機、D・D機。右翼からは、神楽機、レーゲン機、恭也機。まずは残りのHWと、狙いに向かうのは右翼から真帆機と歪十機。左翼からは論子機と公司機。
どの機体も多少の差はあれど、被弾の後が陽光に反射する。
「長引いたな、おィ‥‥。此処は持てる限りの戦力を以って相手してくゼ!」
パニッシュメント・フォースを発動させたヤナギ機から、K−02小型ホーミングミサイルが飛んで行く。
細かな爆発が本星型の背後で起こる。
抜けていったKV六機がようやくCWを全滅に至らしめた。
金属を穿つ音が、嫌に大きく響いた。
CWの影響下を抜けた攻撃が、HWへと深いダメージを与えたのだ。
「やっと落ち着いたか‥‥能力者といっても不便な物ね」
D・Dが、僅かに口の端に笑みを浮かべる。
空気が揺れたかのような錯覚が生じる。
本星型が強化フォースフィールドを展開したのだった。
「微力だが、支援させていただく‥‥」
再び、歪十機がシステム・ニーベルングを発動すれば、その恩恵が周囲のKVへと届く。
ふっと息を吐くと、公司は表情を引き締める。
「ここで終わりにします!」
強化型ジャミング集束装置を発動させると、温存していたAAMを狙い撃つ。
「誘導するまでもなかったようですね。ならば、削るだけです」
本星型にこちらが疲弊した段階でFFを展開されれば、その撃墜は難しくなる。ならば、先に展開させれば。論子はそう思っていた。
FFを展開させる為であった攻撃を、FFを削る為の攻撃へと転換する。
47mm対空機関砲ツングースカを撃ち込むと、そのままソードウィングでぶちかます。
抵抗を感じるがお構いなしに突っ切った。
「援護します」
ブレス・ノウを展開したハミル機は、愛機の練力の残量を確認すると、DR−2荷電粒子砲を撃ち込んだ。削られる練力と引き換えのその攻撃は、深いダメージを与える。
引き換えに接近したハミル機はフェザー砲をまともに食らう。落ちるまではいかない。
傾ぐ機体を引き戻す。
ブーストをかけて引き返してきたヤナギ機から、3.2cm高分子レーザー砲が吸い込まれるように延びる。
「そんなにダメージは与えられそうにないンだが。それでも全力でお相手させてもらうけどねェ‥‥!」
試作G放電とAAMをレーゲン機が撃ち放つが、ダメージを与えられない。
FFが効いている間は、攻撃はほとんど素通りする。
それでも、攻撃が重なれば、僅かずつでもFFを消耗させる。
ふっと、空気が軽くなったかのような気がした。
「通りましたね」
論子が笑みを浮かべた。
FFが消えた本星型は、集中砲火を浴びると爆炎を上げ、重力に引かれるように落ちていった。
「作戦終了、これより基地に帰還する‥‥」
ぽつりと歪十が呟いた。
すぐに次の作戦が待っているから。
とりあえずの脅威は去った。
しかし、これは序盤戦でもあった。
観音峠から下る323号線を巡り、畳み掛けるように依頼が本部へと申請されていた。
七山中学を拠点とした後方支援の足場が保たれるかどうかの瀬戸際であった。