●リプレイ本文
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「じき、遭遇」
迎撃に向かう先のジャミングが強くなる。
パピルサグ、フィンスタニスの頭部に延びる特設のアンテナが陽光を受けて光る。
ルナフィリア・天剣(
ga8313)機だ。KVの中でも巨躯に入るその六脚が川底をがしゃりとかいた。
山間の川の中。もうすぐ敵が視認出来るだろう。
(「うじゃうじゃいるようだな‥‥いつもの事だが厄介な。ここを通す訳にはいかない。確実に食い止める」)
川の中を岩の塊が光の粉を振り撒いて迫ってくるかのようだった。
やがて見えてくるのは、TWと、周囲に踊り、チラチラと光を反射するCWだ。
「また、物騒な団体さんだ事で‥‥報酬弾んでもらわないとな?」
リック・オルコット(
gc4548)が軽く肩を竦める。グロームの機体特性が生かせるかと機器を操る。
「IRSTの熱探査が何処まで有効かね?」
CWがやたらと多い。目視が一番の索敵になるようだと、リックは再び肩を竦めた。
もう少し近づけば、お決まりの頭痛がやってくるだろう。
CWが放つ怪電波は今の所解析不能であり、中和もなされない。
「それにしてもあの数は‥‥正直、やりづらいと言うか鬱陶しいというか‥‥」
アセリア・グレーデン(
gc0185)が口を尖らせる。パピルサグ、ストリガトゥーレの手、前脚と読んでも良いそれが川面を波立たせる。最前を歩く為、その巨躯で背後からの味方機の動きを阻害しないようにと気を配る。
「CWがああも居るとは大盤振る舞いだな。バグアもさすがに色々な手を打ってくるか。仕方ない。俺達傭兵は戦場は決められないんだ。与えられた状況で最善を尽くす事としよう」
雷電、忠勝の朱漆のような塗装に上流からの飛沫がかかる。榊 兵衛(
ga0388)機は、機槍千鳥十文字を構える。
CWはTWの合間を埋めるかのように光っているが、良く見れば川の中にも光るものがある。
それは陽光の反射ではなく、CWが水中にも配備されていたのだった。
前衛二機、後衛二機の四機が川の中を進んでいる。
川原の石が擦り合わさった音を立てる。
川の両側にも三機ずつのKVが展開していた。
(「皆、若いな‥‥いや、俺が考え過ぎなだけか」)
シラヌイ、影葬グロウランス(
gb6145)は、嵌っていた思考から引き戻されていた。
「‥‥ふ。今俺が考えても詮無い事、だ」
冷えた思考に自嘲の笑みが浮かぶ。
「さて‥‥この戦闘で学ぶべき事が在るか、それとも無いか」
通信を一瞬切って呟くと、再びオンにする。
その合間の呟きは、戦いに慣れ過ぎ、考え過ぎる己への戒めか、それとも。
バグアとの戦いの中で学んだのは、力押しや兵器の性能差だけでは勝てないという事。
年若い歴戦の仲間達もそれは十二分に知っている。
「TW御一行様のお出ましというわけか‥‥七山中学へは絶対に辿り着かせん。この場で殲滅してみせる」
雷電が機槍ロンゴミニアトを持つ。煉条トヲイ(
ga0236)機だ。
「チラチラと余計な奴まで付いていやがるか‥‥」
深緑色に塗装されたバイパー、バレル・バレッタを操るのは、カーディナル(
gc1569)。
敵の組み合わせを見て、小さく息を吐き出す。
KV陸戦は経験が少ない。たまには良いかと参戦してみたものの。
「‥‥ったく、嫌らしい配置してやがるな。クソ面倒くせぇ奴らだ‥‥」
知覚武器が比較的効き易いTWと全ての命中、回避率を下げ知覚武器の効力を下げるCW。
M2(
ga8024)がウーフー2を操りながら、げんなりという顔をする。
「‥‥ヤな組み合わせで来るなぁ‥‥バグアも学習してるんだな、やっぱり」
「ええ、嫌な組み合わせです。従来戦力の組み合わせですが、敵も色々と考えているということですね」
新居・やすかず(
ga1891)機、リヴァイアサン。大型シールドが揺れる。
南米、北京、九州。他、各国の前線は何処も激しさを増している。
(「まあ、何にせよ、やれる所でやれる事を積み重ねて行くしかありません」)
やすかずは軽く首を横に振ると、目の前の敵に意識を切り替える。
「せっかく大分を取り戻したんです。また奪い返されるような状況にはさせません、絶対に‥‥」
九州の戦いは取ったり取られたり、長期戦だった。
LM−01改、29−7261【ストライダー】の操縦桿を握り締めると、宗太郎=シルエイト(
ga4261)は、勝ち抜いた戦いを思い出していた。
落ち着いた宗太郎の雰囲気が一変する。覚醒だ。獰猛に笑い、TWを睨み付ける。
「‥‥さぁ、来るなら来やがれ! 全員纏めてぶっ飛ばしてやらぁ!」
前を進んでいたTWニ体の背にある砲台が、迎撃に向かうKVに向けられている。
プロトン砲は射程が長い。僅かに空気が揺れ、淡紅色のその光線が傭兵達を襲った。
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まともに食らったのは兵衛機とアセリア機。
兵衛機はさしてダメージは無いが、アセリア機はそこそこのダメージを食らった。
一発プロトン砲を撃ったTWは、その場に留まり、二体のTWの合間から、別のTWが前に出てくる。
攻撃の先手はTWに取られた。
傭兵達は、自分達の攻撃が届く範囲へと走り込む。
左右に展開していた六機のうち、二機ずつ四機がさらに奥へとその陣を伸ばす。
M2機が強化型ジャミング集束装置を発動させると、仲間達と共に走り込む。
G−44グレネードランチャーを撃ち込めば、TWの背で爆発し、周囲に居たCWが誘爆する。
川の左右に展開していたKVがブーストをかけてTWへと迫る。
宗太郎機は、そのまま、山中へと駆け上る。TWの背後へと回り込むつもりだ。
「――いくぞ!!」
トヲイ機は、機盾ウルを構えたまま、ブーストをかける。
TWの横腹を眺める位置に回りこむと、CWめがけてスラライを発射する。
礫が光るその箱を木っ端微塵と爆発させる。
「ま、CWの排除が先だが‥‥」
カーディナル機は、機盾バックスを構え、仲間と共にTWの横っ腹が見える位置へと移動する。
20mmバルカンがCWを撃ち落す。
TWと一口に言っても、その強さにはバラつきがある。
これが、通常のTWか強化型かはその反応で違うだろう。そう、カーディナルは踏んでいた。
攻撃の合間に、孤立してはいないか、また、仲間の誰かが孤立する位置に陥ってはいないかと、油断無く周囲を確認する。
横合いに迫ったKVへと、二列目に未だ残っていたTW一機が向きを変え、淡紅の光線を撃ち込んだ。
至近距離だ。
「くっ!」
トヲイ機の盾がそれを受け流す。
光線が拡散した。
ストライクシールドを掲げ、仲間達の合間から強化型ショルダーキャノンを撃ち込む。
大口径から弾丸が尾を引いて飛び、CWを破壊する。左端を陣取るグロウランス機だ。
初撃でプロトン砲を撃ったTWの横合いへと出る。
G−44を先頭のTWへと撃ち込むのはやすかず機。
右端へと展開し、やはりTWの腹が見える位置へと。
「ジャミングの影響で狙いが大雑把になっても命中が望めるのは良いですね」
爆発が誘爆を引き起こし、CWが巻き込まれて細かな光を爆煙と共に撒き散らす。
「後手に回るのとは思わなかったが、その先は思うようにはさせまいよ」
兵衛機から十式高性能長距離バルカンが撃ち込まれる。
その長い射程を存分に発揮し、CWを破壊する。
「色々、手はある」
水中用ガウスガンをアセリア機は川に浸して発砲する。
爆発の水飛沫が上がる。
CWが爆発し、TWへとその波がかかる。
「征くぞフィンスタニス。‥‥アセリア機は次の砲撃に注意した方が良い」
G−44が音を立て、空気を割いて飛んで行く。
ルナフィリア機からの攻撃はTWへと着弾し、爆発。
さらに、付随するかのように飛んでいたCWを巻き込み誘爆する。
一撃を受けたアセリア機が、何度もプロトン砲を受ければ、持たない。ルナフィリアが声をかける。
アセリア機と何時でも変わろうとリックがルナフィリアの言葉の後に続ける。
「かなり減ってきたけどね」
十式を撃ち込みつつ、リックはCWのジャミングが緩和されて行くのを確認する。
横合いに回り込めば向きを変えたTWのプロトン砲が飛ぶのも確認された事を仲間達へと伝達する。
だが、どうやらTWのプロトン砲は一発。
それ以上の攻撃がなされなさそうであり。
「カメ退治といきますか」
リックは笑みの形に口の端を上げた。
二体のTWが三体にと変わり、後方もTWは移動をしていた。
傭兵達の動きにあわせ、向きを変え、迎撃体制を整えている。
一度プロトン砲を撃ったTWとそうでないTWが入れ替わり、傭兵達へと向かおうとする。
前に出てきた、もう一体のTWがブーストをかけて、接近する兵衛機へと淡紅の光線を発射する。
だが、その攻撃は、あまり効いてはいない。
「最前線を支え続けるのが俺と忠勝の役目だからな。此処で退く訳にはいかない」
機槍を掲げて迫れば、プロトン砲を撃ちつくした前三体のTWは手足を引っ込める。
甲羅が硬くなったTWへと兵衛機は3.2cm高分子レーザー砲を至近距離から叩き込んだ。
「攻撃を放つタイミングが一番狙いやすい‥‥回避出来ないからな」
リック機から150mm対戦車砲が軌跡を描いて兵衛機の攻撃の跡へと着弾し、穿つ。
「小回りは利きにくいが‥‥でかいならそれなりの戦い方があるというもの‥‥っ!」
未だ大丈夫と踏んだアセリア機が突進する。
硬くなった甲羅へとブースターの付いた腕と一体になった爪、ジェットエッジを振り下ろす。
一撃では思ったような傷はつかず、もう一撃叩き込む。
「重いがそれだけ威力もあってね。受けてみろ」
ルナフィリア機から試作型巨大レーザー砲の光線が三発伸びて甲羅を穿つ。
「取っておきだ、存分に味わえ」
ぐらりと、TWが傾いだ。
「武器破壊‥‥も、狙いたいですが」
やすかず機から、クァルテットガンマルコキアスが、嫌になる程の銃弾がCWめがけて撃ち出された。
横殴りの雨のようだ。砲撃の牽制も兼ねている。
激しい戦いに、撤退は杞憂かと、口の端を僅かに上げて、グロウランスは水中のCWを叩き潰す。
じき、格闘戦に入るだろう。スパークワイヤーをTWに叩き込もうと隙を伺う。
「隙ありだ、逃がさねぇよ!!」
深蒼の機体が山中から躍り出る。宗太郎機だ。
太い笑みを浮かべて笑う。
「‥‥あぁ、そこか。それじゃあ、まとめて焼却だ」
TWの合間に見えるCWへとG−44を叩き込む。
その弾丸は爆発すると、誘爆した。
機槍を水中へと突き刺す。
トヲイ機のその攻撃力で叩き込まれれば、水中に漂うCWも深手を負う。
こちらへと顔を向けたTWへと、カーディナル機から凄まじい連射音が響く。
「コイツはテメェ用なんだってな? なら、好きなだけ喰らっとけや!」
TWなどを相手取る為の銃器、GPSh−30mm重機関砲が叩き込まれた。
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前衛のTW三機がその色を落とす。
色彩が無くなった訳ではないが、起動が止まった甲羅は、金属の塊のようにしかみえない。
突き出すブレード類も輝きを落としたかのように見える。
その最初の三つの岩山が今度は障害にも、戦いをする為の壁にもなり得た。
川中を進んでいた傭兵達は、それを乗り越えるか迂回しなければ、再び新手と戦う場には出れない。
この時点で、CWは八割がたが破壊され、TWは最前列三体が沈黙。
二列目、真ん中を空け、左右二体。うち、左端は沈黙。
三列目、真ん中を空け、左右二体、起動。
最後尾、三列。左右は左右に向き、中一体は前方を向き、砲台もそこを狙う。
左右では仲間達が戦っている。
仕方なく、川中を行くKV四機が、岩となったTWのブレードを薙ぎ払いつつ、乗り越えにかかる。
途中で、最後尾に位置したTWが、ひとつ前へと進む。
止められた川の水が、左右に一瞬溢れ、再び本流へと合流して流れて行く。
その頃、右端のTWが、宗太郎機とM2機と相対し、今にも沈黙しそうであった。
「中々、簡単には落ちないって事かな」
M2のショルダー・レーザーキャノンが手足を引っ込めた甲羅を穿つ。
「囲まれなけりゃ、こっちのもんだろっ! いけぇっ!」
機槍ロンゴミニアトを深々と突き刺せば、TWは沈黙をする。
「よぉし! 次っ!」
宗太郎機が機槍を引き抜き、一度後退する。川原の石がその機体の動きに引き込まれ、細かな音を立てる。
一度引いて、次の目標へと向かう。
「プロトン砲、来る」
M2が声を上げ、レーザーキャノンを撃ち放つ。光線はTWの背へとぶち当たる。が、未だ足らない。
最後のTWにはオメガレイを叩き込めるかと、様子を伺う。
「当たるかよっ! ウイング展開、ブースト全開! 飛べ、ストライダー!!」
至近距離だ。だが、宗太郎機はそれをかわし、TWの鼻先へと機槍を再び叩き込む。
「残念だったな、摩天楼の名は伊達じゃねぇんだよ!」
鈍い破壊音が響く。
システム・インヴィディアを発動させると、やすかず機はマルコキアスをTWへと向け放った。
最初に壁を乗り越えたのは、兵衛機。
三度目のプロトン砲が襲うが、がっちりとガードする。
ダメージがもちろん入っている。だが、それは軽微なもので。
レーザー砲を浴びせかけ、機槍を叩き込む。
「ま、一匹ずつ、だな」
カーディナル機がブースト空戦スタビライザーを発動させると、プロトン砲を抜け。
続け様にSAMURAIランスの攻撃を叩き込んだ。
TWは確かに硬い。だが、通常見かけるタイプだと判断したのだ。
無造作に振り抜いた練剣白雪。トヲイ機はその光る刃を叩き込む。
「‥‥七山中学へは一匹たりとも行かせない」
大ダメージを与えると、白雪を引き抜き、すぐに次のTWへと向かい。
程なくTWの掃討は完了したのだった。
「今はこれでいい、今は‥‥な」
グロウランスはこの戦いのレポートを個人的にファイルする。
「生きて帰って飲むウォッカは最高だね」
スキットルを煽るのは、リック。
ひとつの戦いが終わった。
「‥‥考えたくはないですが、この数が、複数箇所から一気に来るようなことになったらと思うと、気が滅入りますね‥‥」
アセリアが戦いを振り返って呟いた。
観音峠から繰り出される敵部隊は未だ続いているのを、戦い終えた傭兵達は後から知る事となる。
323号線を巡り、七山中学を拠点とした後方支援の足場を確保する戦い。
九州の戦いは正念場を迎えているようだった。