●リプレイ本文
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「‥‥長く続いた九州戦が、片付くことを祈りましょう」
イーリス・立花(
gb6709)は、パピルサグ、Randgriz Nachtのモニターを軽く小突く。
それは何時もの願掛け。
地殻変化計測器のデータが夢守 ルキア(
gb9436)骸龍、イクシオンへと転送されるようにと設置する。
(「ここで踏ん張らねぇと!!」)
雷電、爆雷牙を操り、砕牙 九郎(
ga7366)は地殻変化計測器を仲間内の計測器と範囲が被らない様に、その特性が十分生かされるよう範囲の重複や、空白地域を作らない様に注意して設置する。
大くの仲間達が、計測器を電子機をはじめに、仲間達へとデータ転送が出来、共有出来るようにと設置を済ます。
山腹へと突入する合間、橘川 海(
gb4179)仕様に仕上がっているA−1ロングボウが、その無骨な手で木を触る。
(「お仲間さん、傷つけちゃうけど、ごめんねっ」)
海は、心の中で木に謝った。
どうしても倒してしまう事になるのだが、戦いが終われば、今度は自分達を守ってくれるはず。
だから、倒す木は最低限にしたかった。
その敵は、木々にまぎれて、チラチラと小さな光を放っていた。
CWの集団である。
その集団は、地響きをも引き連れていた。
僅かながらも、振動が山を伝っている。
「CWが山ほど居るみたいですわね。まあ、この頭の痛いのを我慢すれば、対処は難しくないのですけど。問題はSWですわね。上手く発見、撃破出来ると良いのですけどね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)は、シュテルン・G、アズリエルの垂直離着陸能力を使い、仲間達と目的地へと向かう途中で空へと上がる。
だが、空からではCWを視認出来難かった。
木々がカムフラージュとなっている。地を這うよう分布されたCWの大体の進行方向は、本部で確認した通りであり、地上を行き、それ等と接近遭遇するのは難しくなかった。
ジャミングが非常に強い。CWの数を正確にレーダーは捕らえない。
「‥‥大体、で構いませんわよね?」
仲間達が行く姿は、低空を飛ぶクラリッサ機かろうじて確認が出来る。
クラリッサ機はさらに高度を下げる。ノイズ混じりの通信がようやく可能になった。
ウーフー2、先見姫、天小路桜子(
gb1928)機、ルキア機からのジャミング中和が地上ではなされている。
「初撃合わせですね」
桜子が声をかける。
「すっごいジャミングが強い。でも、行けるよっ!」
ルキアが頷く。転職後、初のKV戦だ。不安が込み上げる。
今まで築き上げてきた繋がりが、ふっと消滅したかのような喪失感がある。
けれども、それはヨワイには繋がらないのだと。
「私はイクシオンのパイロットだもん、がんばろーね」
機体がルキアに呼応するかのような錯覚を覚えて笑みを浮かべる。
地殻変動計測器を積んで来た機体は多い。
最初の場所から、CWが見える場所までは、すんなりと辿り着いていた。
電子機器からの声かけもあり、目視でCWを発見した傭兵達は、その場所へと一斉射撃を開始する。
「初めての、敵だ気をつけよう‥‥南無」
艶の無い灰色にマントを付けたパラディン、へパイトスから、シングルショットライフル、20mmガトリング砲が次々とCWや木々を狙い撃つ。
木々を狙い撃つのは、仲間達の射線を確保する為だ。歪十(
ga5439)はその向こうに光を反射しチラチラと光るCWを眇めた目で見ると、小さく念仏を唱える。
九郎機は仲間たちの動向を良く見ながら撃ち込んで行く。
「SWか‥‥陸戦は久しぶりで初めての標的‥‥油断は禁物ですね」
鈍い青い色のサイファー、レブ・アギュセラから、G−44が発射される。ラナ・ヴェクサ(
gc1748)は、その着弾点が誘爆し、CWが木っ端微塵になる様を目の当たりにする。
本部へと届けられた情報から、そして、計測器のシグナルからも、SWが迫っている事は紛れも無い事実のようである。地中を進むそのワームは、アースクエイクと共に、KVを一飲みに出来る程大きなワームだ。さらに、SWは触手を伸ばす事が確認されている。その触手はKVを巻き取り、嫌らしい事に、武器を、もぎ取る。
何にしても、嫌な組み合わせだ。
「油断ならない敵ですが慌てず落ち着いて討ちましょう」
熊谷真帆(
ga3826)雷電、風雲真帆城のスナイパーライフルD−02が、目の前のCWを狙い撃つ。
「新型複合式ミサイル誘導システム、起動っ!」
システムを発動させた海機から、C−0200ミサイルポッドが発射される。四十もの弾丸が横殴りの礫となって、CWを襲う。
「今回は足元に要注意、と」
リュドレイク(
ga8720)機、ディアブロ、<アースゲイル>からも、間合いを合わせて発射されたG−44が幾つもの爆発を上げている。機体の足が土を蹴る。リュドレイク機は仲間たちの攻撃に注意を払い、散りそうな気配を見せるCWへとD−502ラスターマシンガンで弾幕を張りつつ、迫る。
「その前に‥‥数を、減らせるだけ減らしておきたい所ですね」
低空で、クラリッサ機は、おおよその場所へとG−44を叩き込む。
そのまま、仲間達の射線を塞がない様にと地上へと。
「‥‥まだまだ」
一斉攻撃による、木々粉砕、そしてCWが破壊された土埃や漠煙の中から、破壊を免れたCWの姿が見える。イーリス機は、そこへと、強化型ホールディングミサイルを撃ち込むと、その手に機刀玄双羽を持つ。イーリス機の巨躯が揺れ、素早くCWへと迫る。
「分散させるのは得策じゃないってな」
H−112、G−44グレネードランチャーが、立て続けに発射される。九郎機だ。
「前に出る、援護を‥‥」
「任しとけ!!」
仲間たちの斜線を良く見て、歪十機がワルキューレの騎行を発動させる。歪十機と行動を共にする九郎は、歪十機が機槍ゲルヒルデを構えて突進するそのすぐ後を追い、なぎ倒されていく木やCWを横目に、突出する歪十機の背を守るべく、ヘビーガトリング砲と強化型ショルダーキャノンで弾幕を張って進んで行く
左右に散るかのように分かれるCWを見て、傭兵達も二手に分かれるが、初撃が効いている。
分かれた互いの背が見えるほど近くで逃走するかのような。CWを撃ち落して行く。
「場所、開けてもらいますっ!!」
真帆機は、D−02で空間を開けて行く。何時近くにCWが迫ってもいいように試作型ブリューナクを準備するのもは忘れない。
「‥‥逃げられると思うな!」
フィールド・コーティングを発動させると、ラナ機の周囲の空気が一瞬緊張を帯びたかのようになる。ラナ機は、CSP−1ガトリング砲で弾幕を張りながら、練剣メアリオンを手に、CWへと突進して行く。
「逃がさないんだからっ!」
海機から、再びのミサイル群が空になだらかな弧を描き、CWを先へと行かせない。
仲間たちの合間から、するりと抜けて、D−02でCWを狙い撃っていたルキアは、測定器から送られてくる振動に息を飲んだ。
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土埃と、爆煙がおさまると、あれほど多く居たCWの光がどこにも見当たらず。
殲滅にそう多くの時間はかからなかった。
一瞬、しん。とした間が空いた。
「みんなっ! 敵は間近だよっ! 測定結果、至近距離っ!!」
木々がなぎ倒されたその空間、左右へと引き離した二点の土がたわみ、盛り上がる。
倒木が傾ぎ、さらに木々を倒して行く。
「歪十機、一番近いよっ!!」
巨体の出現ポイントを絞るのは、測定器でも難しい。おおよその方向は確認出来るが、どこへと出現というのは、電子機でも直前まで発見は難しい。
二つに分かれた、もう一方の電子機、桜子もSW出現の情報を仲間に伝える。
B班、四機は、桜子機、真帆機、ラナ機、クラリッサ機だ。
「SWは二体。二手に分かれていますが、出現距離は接近しています」
CWの殲滅が、思いの他早かった。小さなワームを全力で叩き潰した結果だ。
「出てくるか?」
ラナは揺れ、地表の動き、木々のたわみを良く観察していた。伝達されるSW接近の知らせに頷くと、土塊が盛り上がる場所から下がる。
「要注意です」
真帆も地表や地上の変化を良く見ていた。情報を耳に、頷くのはクラリッサ。
土塊が音を立てて、盛り上がる。
顔を出したその巨大な口からは、真っ赤な触手が何本も現れる。
ぬるりと出たその触手は、飛び上がったクラリッサ機へとするりと伸びる。
「おいたはいけませんわね?」
その底の見えない口腔へと、クラリッサ機からG−44が撃ち込まれる。
合間に、真珠色したクラリッサ機の足がまともに捉えられる。
派手な爆音が響き、幾本かの触手は力なく落ちたが、未だ触手は残っている。機体が傾ぎ、地表へと叩きつけられそうになる。その機体性能のおかげで、損傷は軽微だ。
突き上がった時点で、真帆機と、ラナ機がその巨大な胴へと迫っていた。
「このっ!!」
真帆機からR−P1マシンガン、ブリューナクから、弾幕が撃ち込まれれば、SWの胴へと細かな穴が穿たれる。
「引きつける攻撃に主体をおいて下さい」
戦闘区域の情報を確認しつつ、突進して行く仲間の合間から桜子機はスナイパーレーザーを撃ち込んだ。
「とっとと‥‥ぶった切られて、死にさらせ‥‥っ!」
練剣を構えるラナ機が、SWへと突進する。倒木を足場に、突っかかるようにSWへと。
レーザーの刃が唸りを上げて叩き込まれる。
ずっしりとした手応えに、ラナ機は切り伏せるかのように引き抜いた。
A班として動いているのは、歪十機、九郎機、海機、リュドレイク機、イーリス機、ルキア機、の六機。
「木が軋んでいる‥‥」
十分注意していた歪十機は、敵接近の情報とほぼ同時ぐらいに、場所を移動する。
土塊が盛り上がる。
ばらばらと土を撒き散らし、SWが現れた。
ヘルムヴィーゲ・パリングを発動させると、歪十は、ひっそりと口の中で念仏を呟きながら、シングルショットライフルを叩き込む。
「ったく、でかけりゃ、当たるところも大きいってな!」
九郎機からショルダーキャノンが浴びせかけられる。
SWが、その巨体をくねらせる。
うねる触手が、いやいやと言うように、四方八方へと赤い毒々しい色をまき散らすかのように伸びた。
「大丈夫? 何も取られていないっ?」
とられてても泣かないんだからねっ! そう、声をかけて、ルキアは大口径のショルダーキャノンを撃ち込む。常に、SWの動きを視野に入れ、捕まらない死角へと周り込む。
「全部出てこられると思わないで下さいっ。出てきても、良いですがっ!」
海機から、地表とSWの接点の場所へと弾丸が飛ぶ。
リュドレイク機はイーリス機と共に、攻撃に転じる。
「おおよそ、予測通りの場所からだね」
リュドレイクがつぶやくと、先端にある棘付きの球体が揺れる。機槌明けの明星を手に、SWへと殴りかかる。
「脚が沢山あるので、少しは振動も分かりやすかった‥‥かもしれませんよ?」
口の端に笑みを浮かべると、イーリス機から、アサルトフォーミュラAを発動させた、容赦のない攻撃が、触手へと向かった。それを狙い撃つのはガトリング。
「‥‥根元から、断ち切ります」
うねりを残しながらも、触手が何本か、撃たれ、千切れ飛び、びたんびたんと、地を打った。
すんなりと連携が決まる。
「B班、ちょっとまずいかも?」
ルキアが叫ぶ。
引きずられるクラリッサ機が目に入る。
先に、随分とダメージが入っている。
仲間達が総出で攻撃を仕掛ければ、クラリッサが、触手を振り払い、抜け出す。損害は軽微のようだ。
「‥‥不利だとわかっていましたのにね?」
戦って倒れるのならば、その方が良いと。
「ちょっとへしゃげてるけど、これくらいなら大丈夫」
ルキアが、クラリッサの銃器を見て、頷く。
SWが出現した場所は、酷い惨状だった。
だが、これで済んだとも言える。
傭兵達は、山を下り岐路へと向かう。
(「幸い、火災は広がらないで済んだ‥‥か」)
「これで済んだんですよね」
「ああ、これで済んだんだ」
山を振り返る海へと、ラナが頷く。
これは、仕事だ。
けれども。
また、この山が同じようになるには、きっと計り知れない年月がかかるだろう。
これと同じような惨状が、世界各国で見られる。
戦い続け、勝利し続けなければ、何時また、もっと悲惨な状況化へと叩き落されないとも限らない。
きっと、皆、そう、知っている。
観音峠から繰り出される敵部隊は、空、川、山と続いた。
これで終わりかと思えば、負傷兵を追って323号線をRCが下ってくるという報を聞く。
七山中学を拠点とした後方支援の足場を確保する戦いも大詰めのようだった。
九州の戦いの行方は‥‥。