タイトル:【ODNK】323号線封鎖マスター:いずみ風花

シナリオ形態: イベント
難易度: やや難
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/10 10:36

●オープニング本文


 UPC軍が観音峠で激戦を繰り広げていた。
 九州戦は長期化していた。
 占領された期間が長ければ長いほど、当然ながら、バグアにとっては、その戦力を拡大させていた事となる。
 攻撃に晒されなかったバグア占領地域は、物量が半端無い。
 だが、ここに来て、UPC軍の猛攻。
 UPC軍の攻撃をまずは、一箇所撃破するという、余裕が与えられなかったのも大きい。
 一箇所ならば、圧倒するに難は無い。
 しかし、数箇所から攻められれば、その攻撃は分散される。
 何時もの小競り合いであれば、十分に力は拮抗し、何時ものように、戦線の押し戻しの綱引きをするだけだったはずなのだ。

 観音峠を唐津に向かう場所で、戦いが起こっていた。
 空から寄せるヘルメットワーム(HW)に本星型ワーム、キューブワーム(CW)。
 玉島川を下りタートルワーム(TW)とCW。
 山中を迫るのはサンドワーム(SW)とCWだという。
 時間差で迫るそれらは、全て、依頼が出され、迎撃の為に傭兵達が向かっていた。
 
 北九州各地での戦い、そして、間近の観音峠の戦いは激化している。
 長く続いた北九州の戦いを、UPC軍は今度こそ人類の有利に運びたかった。
 ダークグリーンのテントが廃墟となった七山中のグラウンドに設営されている。
 そこを行きかう軍医や、軍の能力者。
 だが、それでも救出するに人手が足らない。
  
 そんな折、レックスキャノン(RC)2体が、323号線を負傷兵の乗ったジープを追いかけて、迫ってくるのを確認した。323号線へと向かわせないようにと、ある程度は現地の正規軍が時間を稼いだが、突破され、七山中へと迫られるのは時間の問題だと。
 負傷兵や、物資を搬送するに323号線を爆破する訳にはいかなかった。
「323号線封鎖をお願い致します」
 九州UPC軍からの依頼が、緊急の点滅がついてモニターに表示される。
 玉島川沿いの323号線を下ると、七山中学があり、後方支援の足場が出来ていた。
 その七山中へとRCを近づけず、撃破を願うと。

●参加者一覧

/ 里見・さやか(ga0153) / 煉条トヲイ(ga0236) / 鳴神 伊織(ga0421) / 鯨井昼寝(ga0488) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / ロジー・ビィ(ga1031) / 地堂球基(ga1094) / 篠崎 美影(ga2512) / 終夜・無月(ga3084) / UNKNOWN(ga4276) / シリウス・ガーランド(ga5113) / ヒューイ・焔(ga8434) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 絶斗(ga9337) / ヨグ=ニグラス(gb1949) / 赤崎羽矢子(gb2140) / シン・ブラウ・シュッツ(gb2155) / ランディ・ランドルフ(gb2675) / 依神 隼瀬(gb2747) / 布野 橘(gb8011) / 希崎 十夜(gb9800) / 和泉 恭也(gc3978) / ミリハナク(gc4008) / エシック・ランカスター(gc4778) / ザ・殺生(gc4954

●リプレイ本文


 七山中は、負傷兵で混み合っていた。
 それを横目に、能力者達は、323号線を登る。
 この奥の、観音峠では、バグア軍と、UPC軍が、激しい戦いを繰り広げていた。
 九州戦線の攻防。
 この一年で、随分と激しさを増していた。
 力が拮抗している地域もあれば、押し込まれている場所もあり。
 ここで有利に運んでおかなくては、また、バグア寄りの競合地域へとなり兼ねない。
 それは、もう嫌だった。

 PR893パイドロスが、傭兵達の先陣を切って行く。
 戦場となるであろう山道の偵察である。
 ランディ・ランドルフ(gb2675)は、やってくると報告されているRCへ威力偵察。
 つまり、真っ先に攻撃をしかけるつもりだった。
 少しでも多く、仲間達に情報を伝えたかったから。
 その距離はそう遠くはなかった。
 エンジンをふかし、パイドロスを走らせると、ジープとすれ違う。
 曲がり角の向こう。あまりにも近くにRCが迫る。
 近くで攻撃をするのは危険だ。
 距離を取って、竜の瞳で射程を延ばし、可能な限り遠距離から攻撃をするつもりであった。
 しかし、相手は止っては居ない。
 ジープを追いかけ、迫ってきているのだから。
 ランディは、攻撃を諦めて、パイドロスの向きを返る。
 タイヤが軋み、アスファルトと接触する高い音を立てる。
 RCは迫ってきている。
 だが。
「プロトン砲による反撃がない? おかしい‥‥壊れているのか弾切れか! こちら先行偵察のランディ! 敵はプロトン砲が使用不能の可能性大! 肉弾戦で押し切れそうだ!」
 一定の距離を確保すると、ランディは無線で連絡を入れると、AU−KVを装着。
 竜の鱗を発動させ、防御を固めると、続けて竜の翼で一気にRCとの距離を引き離す。
 仲間がここと見据えて待つ場所まではあと少し。
「プロトン砲、使えないみたいです」
 両目から両頬にかけて血涙を流したかのように赤い筋が浮かび上がる。和泉 恭也(gc3978)は、無線機を持っていない仲間へと、ライディの情報を伝える。
 先日空戦で押し返した土地だ。
「さてさて此処が正念場ですか。皆様の頑張りを無駄にしないためにも、此処を抜かせるわけには参りませんね」

 ジープが傭兵達の合間を抜けて行く。
 それと同時に、咆哮が腹へと響く。
 地響きは、すでに体に馴染んでいた。
 前方か緑色の体色を持つ、RCが、その巨大な姿を現した。
 前後で二体が確認される。
 大きな口を開けた、頭が、ぐっと低い位置へと下がり、再び咆哮する。
 短いといっても、生身で向かい合う傭兵達にとってはかなり大きな前足が揺れる。

「北九州での戦況を好転させる又と無いチャンス――此処でその流れを断ち切る訳には行かない‥‥!」
 支持された場所へと向かいがなら、煉条トヲイ(ga0236)は、ちらりと横を見る。おさげにしたピンク色の髪が揺れていた。超ご機嫌に、スナイパーライフルを肩に担いで足取りも軽いのは鯨井昼寝(ga0488)だ。本部でこの依頼を見て、躊躇なく参加した。
「来た来た。やっぱり間近で見ると迫力あるわね! ヤバイくらいの相手が丁度良いよね」
 獰猛な笑み。犬歯が笑みこぼれる。
 トヲイへと、くるりと向き直る。
「どっちがより撃破に貢献できるか勝負ね!」
「ああ」
 そんな姿を見て、トヲイは口の端に笑みを浮かべる。
 共に戦うには信頼に足る相手だ。安心して戦える。
 それよりも少し、違う意味で気にはなるけれど。
「互いに成すべき事を成す。それだけだ‥‥」
 生真面目に呟くトヲイを見て、昼寝は軽く眉を上げ、小首を傾げる。
 昼寝も彼が気にかかっている。
 それが何とはっきりとした形には未だなってはいないけれど。
「っし!!」
 昼寝は自分に気合を入れる。不甲斐ない所をトヲイには見せられないから。
 何よりも、ここで一定の圧力をかけ、後方の負傷兵達の安全を確保したいと昼寝は思う。
 強引に突破されるのが何よりも注意する点だろうと。
「きゃ〜♪ 恐竜狩りですわ恐竜狩り!」
 そもそも、爬虫類が大好きなミリハナク(gc4008)は、RCと生身で戦うという依頼を見て、一も二も無く参加をしていた。何しろ、相手は愛しい恐竜である。愛しいが故に、しっかりと倒したいという愛の形。
「私のやるべきことは近付いてきたRCを通さぬように斬り倒すということだけですわ」
 金の髪がさらりと揺れて、赤い瞳が楽しげに瞬いた。
「お客さんのお出ましだ。盛大に歓迎するよ! まずは足から。支援に合わせて一気に仕掛けるよ!」
 赤崎羽矢子(gb2140)が、大きく声を上げる。
 何しろ大人数だ。間合いを決めかねている仲間も居るだろう。
「気を付けろ。奴は図体の割りには素早い‥‥先ずは脚を潰す!」
 やはり、トヲイが声をかけている。
 戦いのタイミングを計っているのなら、共に攻撃を仕掛けてくれると良い。そんな思いが乗る。
 羽矢子が手にするのはハミングバード。細身の剣だ。その柄部分に付いている、羽根飾りが揺れる。
(「KVに乗ってた仲間が頑張っ制空権は押さえてくれたんだ。今度はあたし達が踏ん張る番だね」)
 出来るだけ、周囲と合わせ、羽矢子は走る。背に翼が生える。
 その翼は、瞬間的に光の粒子と変わり、羽矢子の周囲に散ると、足首に集まり紋章へと変化する。
 もし、ここで押さえられないのならば、囮になり、RCを引きつけて撤退までの時間を稼ぐ心づもりも出来ている。
 射程を測っていたのは、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)。
「‥‥狩ったら、牙とか記念に貰えたりするんだろうか‥‥」
 恐竜狩り。
 何ともやり甲斐のある戦いではないかと、半ばあきれ顔でくすりと笑う。
 プロトン砲を撃ってはいないという報を聞き、ロジー・ビィ(ga1031)はやはりと頷く。
 ならば、迎え撃つこちらは、随分と楽になる。
「ロジー・ビィ‥‥お相手仕りますわ」
 蒼い闘気がロジーの周囲に現れ、その一部は羽根のように見える。
 緑の瞳は紫へと色を変え。表情豊かなその顔は、無表情にと変わる。
 二刀小太刀花鳥風月を構えて走る。
 長めの黒髪の髪先から、半ばまでが紅く燃えたような色を帯びる。瞳もその紅に染まり。
 ざわ。と、希崎 十夜(gb9800)の後ろ髪が僅かに揺らぐ。
 この戦いは、制圧させてもらうと、強く思う。
 戦いに赴く自分は戦い抜く為に在るのだからと。
 十夜は、バグアとの戦いに対して、自分の気持ちに一切の淀みが無い事を知っている。
(「ココで引いたら、此処まで辿り着く前に倒れた人達に、合せる顔もない」)
 志半ばで倒れたUPC軍人は星の数ほど。残された家族の気持ちはいかばかりか。
 戦いは過酷だ。
 だからこそ、どんな戦いでも、能力者の自分は、一歩も引かずに戦うだろうと。


 崖側の山腹へと、向かう傭兵達も居る。
 偵察をと布野 橘(gb8011)は山間へ。
 UNKNOWN(ga4276)は、軽く兎革の黒帽子を被り直す。
 腰に括りつけた縄は、ロッククライミング用フックDリングを使用し、太く根を張った木に結び付けられている。
「‥‥さて」
 目を細める。
 気配を伺う。万が一、敵増援が来るのならば、その足を生かし、最後まで壁になるつもりでもある。
 誰一人欠ける事無く無事に帰る事が肝要だから。
 手にするのはエネルギーキャノン。全長2040mmのずっしりと重い超機械だ。
 とりあえずは、やってくるRCが相手かと323号線を見下ろした。
 蒼く光る幾何学模様が、肌が露出した部分に現れていた。それは、見えなくとも全身に浮かび上がっている。
 紫の瞳が、射程距離を確認する。
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)は左右に持つエネルギーガンを二連射をかけて撃ち込む。
 RCは体色が変わると、非物理、物理と効果的に効く攻撃が変わる。
 エネガンが効かなくなればと、番天印を携えている。
 出来る限り、RCとの距離を射程内に収めるようにと、ぎりぎりの距離を取る。
 何しろ巨体だ。
 動くだけで、風圧が323号線を吹き抜ける。
「俺の力が奴に及ぶのか‥‥挑戦です‥‥」
 銃身に三つ首の獣が描かれた漆黒の拳銃ケルベロスから、ペイント弾がRCを襲う。威嚇の為に状態を下げたのが、こちらの好機となった。月光の金を彷彿とさせる瞳が狼の鋭さをもって現れる。終夜・無月(ga3084)は、ペイント弾が片目を潰したのを確認すると、布斬逆刃を発動させる。それは、攻撃が物理から非物理へ、またその逆もという、戦う為の新しい力。両手剣明鏡止水の名の通りの刃に一瞬波紋が浮かんだかのような錯覚を覚える。
 しっかりと握りしめたその剣を構えて、仲間たちの合間を駆け抜ける。
 狙うのは、その太い後脚だ。
 小銃スノードロップを構え、鳴神 伊織(ga0421)は切り込んで行く仲間たちの後方からRCの足を狙う。
 周囲に蒼く輝く淡い光が揺れる。
 長い艶やかな黒髪がさらりとひと房落ちる。
 首にかけた古い懐中時計が、艶やかな着物の胸元の合わせで揺れた。
 初恋のため息の花言葉の刻まれたグリップを握る。射線に注意し、狙い撃った。
「あれだけ的が大きければ、狙うのにも困りませんね」
 九州は、未だ予断を許さない状況なのだろうかと、ふと思う。
 それにしても。
(「‥‥また、ワームの相手ですか」)
 以前からそういう依頼はあった。
 だが、ここにきて、その数が増えている。
 今までは救う事が難しかった場所も、それによって増えている。
 長い戦いの果て、傭兵に対する信頼が増している。
 一見無理ともいえる依頼が、ふるい落される事無く、本部に上がるようになったのかもしれない。
 次の一撃を入れる為、伊織は着物の裾を小さく蹴立て、移動する。
 洋弓アルファルが、銀色に光を反射してしなる。
「白兵部隊の皆を支援するんだ。弓でも銃でも撃ちまくれ!」
 ランディは、立て続けに弓を引く。
 びょう。と空気を裂いて、矢が飛ぶ。
 偵察から戻るライディの援護をと様子を伺っていたが、無事合流したのを見てから、黄道十二星座のひとつ蟹座を意味する拳銃キャンサーを構え、恭也は援護射撃へと向かう。
 第一射は、仲間達と合わせて、足を攻撃に回る。
「行きますか」
 現れたRCへと、ユーリは拳銃の形をした特殊銃、真デヴァステイターを向ける。
 三発連続で、銃弾が撃ち出される。
 軽い反動が腕に伝わり、長い白銀の三つ編みが背で揺れる。
 仲間達に当たらないようにと、移動し、再びRCを狙う。
「もうちょっと、引きつけて撃ちたい所だけどね」
 何しろ前が混み合っている。両断剣を乗せ、良く狙うと、トリガーを引く。
 全体的に、優勢だ。前に出て行く事は無さそうだと、軽く頷く。
「少しでも消耗させて見せる!」
 細部の装飾が美しい。葡萄色の弓身に桜の模様が艶やかな長弓桜姫をエシック・ランカスター(gc4778)は引き絞り、狙い撃つ。仲間達とは僅かにタイミングをずらし、間断なく攻撃が届くようにと気を配る。
 金色の髪が陽光を反射して光る。緑の目が和み、その表情は終始笑顔である。
 最終目標はRCの撃破。
 前衛と後衛の連携がきちんと取れるようにと、近接戦を仕掛けている仲間達の動きを良く見る。
 もし、撤退や負傷などの不測の事態に陥るような事があれば、黒色の水晶球、超機械シャドウオーブに持ち替え、その黒色エネルギー弾で攻撃に加わるつもりだ。
 そうなったら、撤退者を見送ってから、自分も後退しようと考えている。
 仲間たちの攻撃がひと段落するのを目の端に捉えると、木々の合間をUNKNOWNが走り落ちる。
 RCの頭が目の前に見える。
 軽い笑みを浮かべ、キャノンをありったけ撃ち込んだ。
 激しい咆哮が上がり、赤へとその体色を変える。
 が、時すでに遅く。
 山間から、銃撃の音が響く。走り込んで行く傭兵達は、それぞれの得物を手に。
「このところ、なぜだか生身で本来KVで戦うべき敵との戦いが増えている気がしますわね。本来ならご免被りたい所ですけれど、何もせずに戦友の皆さんが傷付いていくのを見ているのはもっと辛いですものね。微力ながら最善を尽くさせていただきますわ」
 白衣が翻る。クラリッサ・メディスン(ga0853)が、RCの下へと走り込んで行く。
「もう一体を攻撃しなさい」
 小型超機械αを使い、攻性操作を実行する。
 そう、生身でKVで戦うべき敵と相対する事が少しずつ増えていた。
 それ故にか、生まれたスキルだ。
 それは、超機械を媒介とし、近接する、オートで動く無人敵機の行動を可能な指示であれば行動させる事が出来る。細かな制約があり、そのスキルが成功してもしなくても、使用する超機械は変調をきたし、破壊される。
 手にした小型超機械αから、力が失われたのをクラリッサは感じた。
 すかさず、エネルギーガンに持ち変える。
 RCは、僅かに停止する。
 そして横に並ぼうとしていた、もう一体のRCへと向かい、食らいつこうとするが、仲間達の攻撃によって、すでの瀕死だ。
 もう一体が、緑から、赤へと、その体色を変えた。
 長く太い尾が、空を切って傭兵達を襲う。
 その間も、傭兵達の攻撃は続けられていた。
「敵航空戦力は今ン所、大丈夫そうだな」
 狙った獲物は逃がさないと言われるほど、高い命中精度を誇る銃、番天印から飛ぶのは、貫通弾。ヒューイ・焔(ga8434)は、与えた衝撃を測りながら、仲間達へと当たらないようにと、射線を変える為、軽くアスファルトを蹴る。
 赤い髪が動きにつられて靡く。その赤い瞳は、油断無くRCの動きを注視する。
 万が一、接近戦となった場合にはと、腰には片手剣カミツレを佩いている。苦難の中での力という花言葉を持つその片手剣は、真偽の程は定かではないが、追い詰められるほどに強くなると言われている。
 幸い、戦いは優勢だ。だが、万が一撤退となれば、殿を担う事を決めている。
(「誰一人、置いてなんて行かねェ」)
 RCの咆哮が身体に響く。
 にっと笑うと、ヒューイは、再び番天印を構えて、脚の関節を狙い撃った。


 次々と現れるジープ。
 そのジープには負傷兵達の姿。
 その道を進んで行く傭兵達とは別に、後方へと逃れた兵士達へと手を伸ばす傭兵達も居た。
 響くRCの咆哮。
「負傷者の治療を行います。戦闘地点の後に停車して下さい」
 里見・さやか(ga0153)が、無線で連絡を入れれば、その地点へと止まるのと、七山中へと辿り着くのとでは差異が無く、そのまま七山中へと向かうとの返事が返る。
「了解です。七山中でお待ちしています」
 さやかが頷いた。

「オレ様ちゃん達が居る限りジープには近付け無ェぜ!!!!」
 抜けてきたジープを背に、機械巻物雷遁を手にし、前に突出して、ザ・殺生(gc4954)がにやりと笑う。
 さらりと長い髪は、綺麗なピンク。
 はたりとなびくマント。
 その下にはかぼちゃパンツ。
 最凶のビジュアル系を自認するザ・殺生だが、癒し系の男でもある。
「みんな、しっかりしろ! 妾も付いてるぜ!! 練成治癒!!! アーメン!!!!」
 とりあえず目につく負傷者を治療する。
 長いポニーテールが揺れる。
 何時もは黒髪に、茶の瞳ではあるが、今は、陽光を受けて輝く銀の髪が絹糸の束のようにさらりと揺れる。
 東洋系の肌は白く透き通るかのように。油断無く見渡す瞳は星のような銀色に輝く。篠崎 美影(ga2512)だ。
 抜けて来た負傷兵達へと錬成治療をかける。
 超機械クロッカス。信頼の花言葉を持つ名をつけられたその超機械は治療にと当たる美影の気持ちをも代弁しているかのようだ。
 すぐに始まるであろう戦いの後方へと、そのまま走って行く。
 
 ジープを先導するのはヨグ=ニグラス(gb1949)。
「七山中学までご案内ですっ」
(「レックスキャノンと戦ってみたかったですが‥‥怪我をしてる人がいるなら見てられませんっ! まま、気合入ってる人達がたくさん来てるので、恐竜狩りは任せましたっ」)
 途中で力尽きたのか、道端にうずくまっている兵士に手を貸すと、よいせとばかりにDN−01リンドヴルムの後部へと乗せ。
「だいじょぶですか? しっかりつかまってて下さいねっ! こちら323号線。重傷者五名確認っ!」
 ジープの後ろでぐったりとしている兵士を数えると、ヨグは七山中学へと無線を飛ばす。
 軽いエンジン音が響くと、リンドヴルムのタイヤがアスファルトをかんで走る。
 七山中のテントや外に広げられたシートに寝かされた負傷兵達の合間をさやかは衛生兵と共に識別して行く。
 緑、黄、赤。救助基準のシートの束を胸に入れる。
 負傷兵に括られるシートが手早くそのラインまで引きちぎられる。
「歩けますか? お名前は?」
 小さく頷き、名を告げる兵士に、頷く。脈拍、呼吸に異常は無い。緑のラインのままのシートを手渡せば、こちらをお願いしますと、手がふられるのに、軽く手を挙げて答える。
「呼吸正常、爪圧迫正常、歩行不能。赤と判定します。今、お助け致しますから!」
 左手の甲に自衛艦旗のような赤い紋様が現れる。
 さやかから、錬成治療が施されれば、呻いていた兵士の呼吸が通る。
 ふっと。息が抜けるのを確認すると、さやかは次の負傷兵へと向かう。
 エンジン音が近づいてくるのを感じて、山道を仰げば、リンドヴルムに先導されたジープがやってくるのが見えた。
 それと同時に、RCの咆哮が届く。
 僅かに動揺が走る。
「大丈夫です。多くの能力者が向かっています」
 笑顔を向けながら、さやかは超機械マジシャンズロッドをさわる。
 いざとなれば、戦いへと向かおうと。
 ジープが到着すると、ヨグは救急セットとエマージェンジーキットを両手に、駆け込む。
「えと、とりあえず歩けるか動けるか出来るように、ですねっ!」
 完璧な治療は必要ない。
 万が一防衛線を突破されるような事があれば、ここからさらに遠くへと、速やかに撤退が必要だから。
「どなたのお守りが良いです?」
 LHを代表する、様々な人物のお守りを手に、心が弱っていそうな人へと預ける。
 これで気持ちを強く持ってもらえたらと。
 地響きが伝わった。


 RCに追われて逃げるジープを見て、ふと昔見た映画を思い出す。
「とにかく、救助。とりあえず、OKかな」
 ジープは無事に後方へと逃げた。ならば。
 深とした、何処か清冽な神域を思わせる気配を纏う依神 隼瀬(gb2747)は、GooDLuckをかけ、信頼の花言葉を冠する超機械、クロッカスを手に仲間達へと声をかける。
「範囲治療行くよー! もうちょっと固まってね!」
 拡張練成治療は、効果こそ浅いが、範囲内の仲間すべてが恩恵を受ける。
 尾の一振り、頭ごと落ちるような噛み付くというより、大打撃のような振り下ろし。そして、前脚による猫パンチのような攻撃。傭兵達の攻撃はすさまじい威力を発揮していたが、RCの繰り出す攻撃も、全てが避け切れているわけでは無い。
(「強化については諦めた! ‥‥だって練力が、5回やったらお終いになっちゃうからね」)
 怪我人が多く予想される。
 ならば、この力は回復に回そうと、隼瀬は思う。
 新しい力は、多くのモノを能力者達に与えている。
 前職を引くモノ。違うタイプに変わるモノ。使い勝手を考えて、そのまま手数を増やすモノ。
 生き方、戦い方により、様々に姿を変えていた。
 隼瀬もまた。
(「そういえば、ドラグーンだった頃も怪我人の回収とか良くやってたよなぁ‥‥クラス変わっても、基本的に同じ事やってるね、俺」)
 くすりと笑いながら、近接で戦う仲間達に怪我は無いかと、注意を凝らす。
 敵増援も視野に入れている。
 もしも、戦いが崩れたら、七山中の負傷兵達の避難を確実に行おうとも。
(「こっちの避難が完了しないと、前線で戦ってる人たちも撤退出来ないだろうしね」)
 隼瀬は、いざとなったら自分の身ぐらいは守れるかと、腰に佩いた刀、夜刀神を確認し。
「‥‥一人の脱落者も出さずに、支えてみせなくてはなりませんわね。せめて、それくらいしなくては私がここに居る意味がありませんもの」
 一体のRCが倒れると、クラリッサは周囲の仲間へと向かい錬成治療をかける。
 それが、本来、自分がこの場所にいる意味だと、クラリッサは笑みを受かべながらも、仲間達の攻撃により、RCが前進を止めているのを確認すると、錬成治療の合間にも攻撃が出来ないかと隙を伺う。
「まったく、北九州の戦火が消えるのは何時の事やら」
 赤いプレゼントボックスにしか見えない、超機械PBを手にして、地堂球基(ga1094)は、回復手の足らない場所へと回り、回復が重ならないようにと練成治療を仲間達へと向ける。
 幼き頃から持つ宇宙への憧憬。いつかは宇宙開発にと夢見ていたが。
 地響きに唇を引き結ぶ。
「世の中そう甘くないしね」
 RCの他に、敵は今のところ見えない。
 細見だが、2mを超える長身が、油断無く周囲を見渡す。
 万が一、他の敵が現れれば、混乱は必須。
「ここはきっちりと押さえて、怪我人の安全確保に勤しむね」
 敵の攻撃範囲に入らないようにと気を配り、仲間達の個々の消耗すらも把握に努める。
 敵増援が来るようならば、即座に撤退を声に出せるよう、七山中とも連絡を取れるようにもしている。
「頑張るのと無謀は違いますからね? 気をつけて下さい」
 美影が錬成治療をかける。RCからの攻撃で、バッドステータスは食らわないようで、大きな胸を撫で下ろす。
 

(「真正面からやりあうのは得策ではない」)
 きっちりと撫ぜつけられた短い銀の髪が一筋、激戦の風に流れた。
 堂々たる体躯に着込まれ、スーツを羽織られたコートがその風をはらむ。
「ならばこれを喰らいたまえ」
 シリウス・ガーランド(ga5113)は、体色が変化したのを見て、布斬逆刃をかけて、狙う。
 非物理、物理と、様々に傭兵達が使い分ける。
 その為、タイミングがずれると、攻撃が当たりにくくなっていた。
 最初の一体が早々に倒れたのは攻撃がほぼ一定していたからであり、二体目に手間取るのは、変わる体色に一人が対応すれば、次の攻撃が来る前に、再び体色を変えられてしまうのだ。
「っと。緑色はやっぱり効果イマイチね。早く赤くなりなさいよ!」
 肌の色が褐色に変わり、髪の色がより濃さを増した赤色へと変化した昼寝が、Sライフルを撃ち込みながら、斜線を確保すべく、瞬天速で移動して行く。
 開けられた口を見て、軽く肩を竦める。
 あれに噛み付かれ、捕食されでもしたらと思うと。
「‥‥確かに‥‥早いが‥‥的は、大きいです」
 静かな水鏡のような刃が、RCの前脚の攻撃を受け流し、返す刀で無月の手から緑の巨体へと叩き込まれる。
 急に振られたRCの尾を、羽矢子はくるりと回転して逃れる。回転舞だ。
「この先は怪我人の救護所なんだ。お前達の居場所じゃないんだよっ!」
 逃れた地点から、瞬速縮地でRCの背へと駆け上がる。
 そして、その固い背へと真燕貫突の二連撃を叩き込んだ。
 迅雷で近くの木へと駆け上がっていた十夜は、近くへ来たその頭部へと向かいエネルギーガンを撃ち込んだ。
「全力、全開ッ! 雷・幻・閃!」
 エネガンで牽制しつつ突っ込むと、【OR】滝峰で切りかかる。
 だが、振り切られた前脚に吹き飛ばされ、ガードレールにぶち当たる。
「く‥‥まだっ! この、程度の傷なんて」
 後方から、錬成治療が飛んでくる。
「まだ、まだぁぁぁぁッ!」
 滝峰をアスファルトに突き刺し立ち上がると、再び切り掛かりに走り込む。
 薙ぎ払うかのようなRCの前脚を掻い潜る。
 咆哮を上げて暴れるRCの頭が、攻撃を仕掛ける傭兵達の合間へと、振り下ろされる。
 その大きな口が、アスファルトへと叩きつけられ、前脚が踊るように攻撃を振り払おうと動く。
「中々倒れねェな!」
 番天印の弾丸が少なくなってきている。
 ヒューイは大きなくせに、身の軽いRCの動きに何度目かの狙いをつける。
 先に倒れたRCが、接近戦を仕掛ける仲間達や、後方からの援護射撃の邪魔になっている。
(「行くか?」)
 残弾の少ない番天印から、ヒューイはカミツレへと持ち変える。
 混戦の度合いが増している。
 山際で狙いを定めているのはUNKNOWN。
 入れ代わり立ち代わりする仲間の合間から、再びの攻撃の機会を狙う。
「‥‥さぁ、交戦と参りましょう? その機動力、いただきましてよ?」
 ロジーが強刃、剣劇と力を乗せた攻撃を叩き込む。
「これで‥‥終わりに致しましょう‥‥?」
 脚を中心に、仲間達と共に攻撃を仕掛けてた。変わる体色にエネガンと小太刀を持ち替える。
 どうやら、敵増援はやって来る事ははなさそうだと、周囲に気を配るのも忘れない。
「――これで終いだ。嘶きながら逝け‥‥!!」
 強刃、猛撃、両断剣・絶。長く戦いを重ねて来た者が手に入れるそれを使い抜くだけの力。
 右目が金色に輝き、右半身に淡く光る真紅の紋様が浮かび上がる。
 両手にあるのはシュナイザー。攻撃に特化したその爪をトヲイは力を思い切り乗せて、叩きつける。
 鋭い軌跡がRCへと入った。
「フン。逃がすワケ‥‥ないでしょッ!」
 赤黒い口の中へと、昼寝はSライフルの銃弾を叩き込んだ。
 ゆらりと揺れる死神の鎌。その幻影は絶斗(ga9337)の喉元に刃を突きつけるが、幻影故に傷つく事は無い。
「せいやぁぁぁぁぁぁぁ!」
 気合と共に振り下ろされるのは、シールド。武器では無い為、自身の力分だけの攻撃のみが入る。
 金色の目の端に留めているのは、金の髪に赤い瞳の女性。
「どうやら俺は、何かを求めてるんじゃなくて愛するもののために尽くしたいようだな‥‥こんな時に悟るなんて思わなかったぜ」 
 RCしか目に入っていない彼女の強さに苦笑する。
「必殺──喰竜っ!」
 両断剣・絶を攻撃に乗せる。紋章が一瞬現れ、黒色の刃に赤い炎の模様が描かれた、禍々しい炎斧インフェルノへと吸い込まれる。斧を握るその両腕は黒い闇に包まれている。抑えきれない攻撃衝動に突き動かされる。
 ゴシック風の黒のロングドレスの裾を翻し、ミリハナクは、渾身の一撃を、振り回している前脚へと叩き込む。
 鈍い音が響き、前脚の指がアスファルトへと叩きつけられるかのように落ちた。
 ひときわ大きな咆哮が上がる。
 波状攻撃。
 多方向からの攻撃により、RCはその機能を停止する。
 ぐらりと体が傾ぎ、断末魔の咆哮を上げると、巨大な塊と化して、323号線上へと倒れ込んだ。
 みしみしとアスファルトとガードレールが歪む。

 横たわるRCを見て、ランディは嬉しそうに微笑んだ。
「移動砲台相手に勝てたか‥‥プロトン砲が無くて良かった」
 その素早い動きと、二門の砲台が、RCに相対する時には気をつけなくてはいけないのだ。
 だが、この戦いでは、砲台は沈黙していた。
 しかし、赤と緑に変化する防御は侮れない。
 けれども。
 勝ったのだ。
 トヲイは、倒れたRCを一瞥すると、すぐに昼寝の元へと向かった。
「お互いポロポロだな。――だが、無事で安心した」
「無事に決まってるでしょ‥‥どっちが勝った?」
 ふっとトヲイから零れるのは、安堵の笑顔。
 誰が止めをさしたのか、はっきりとしないほど、RCは巨大だ。
 何だかもやもやするとばかりに、昼寝が口を尖らす。
 その顔に、トヲイはまた笑みを零した。
「これで幾分か有利になればよいのですが」
 恭也は、七山中を見て呟いた。
 長く続いた九州戦線。
 その決め手のひとつとなれれば。と。
「手は足りていますか?」
 戦闘が終われば、七山中へと美影は顔を出す。練力も少なくなっているが、何かしらの手伝いは出来るだろうと、かいがいしく負傷兵の合間に立ち働く。
 さやかが軽く息を吐く。
 重傷者はほとんど回復へと向かっている。
 失われた部分の回復は、通常と同じほどかかるのだから、完全に安心とはいかないが、ひとまず、この場にいる負傷兵達は全て命の危険は無くなった。
 地響きも、咆哮も聞こえない。

 観音峠の戦いは、どうやらUPC軍が優勢に終了しそうであった。
 323号線を巡り、後方支援の拠点である七山中を確保出来たのは、傭兵達のおかげであった。
 そして。
 九州戦線に、ひとつの区切りが訪れようとしていた。