●リプレイ本文
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北京戦域へと集まる無人HWを初めとするワームは、少なくなかった。
多くの戦力が大陸に分布されていたかを物語る。
北京近郊の戦力はすでに瓦解しているが、未だ起動していない遠方の無人機もあるのではないだろうか。だが、今は目の前の敵を撃ち落すのみ。
「初めての依頼ですが〜、気負いすぎないようにしないとですね〜」
のんびりとした口調で、ノエル・アーカレイド(
gb9437)が、戦闘に入ったらすぐに陣形を整えられるようにと、彼方此方を確認しつつ飛ぶ。機体はパピルサグ、Jet。宝石のジェットに似た黒色のカラーリングが施された、巨大機は、共に飛ぶ仲間達とその機首を揃えて空を泳ぐ。
(俺の力がどこまで通じるか‥‥)
今までは陸戦ばかりであった。少しは空戦にも慣れておかなければと、かすかに耳をつんざく飛行音を聞きながら、ノエル機と共に飛ぶ。今回は後衛を主に戦う心積りだ。結路帷子(
gc5283)機。ノーヴィ・ロジーナ、ガントレット3型が飛ぶ。
(HW落とし、ね‥‥気合入れて行くよ)
吹雪 蒼牙(
gc0781)機。ロングボウII、Fengaron。
風の牙という意味を持つ愛機は、空戦砲撃に特化しており、支援機と位置付けている。緑の機体へと白のラインが流れる。
氷をモチーフとする白銀の愛機は、雪を思わせる。単機で、囮や陽動を行うための、接近戦闘重視のチューニングを施してある。幾つもの戦いをこなしてきた機体だ。シクル・ハーツ(
gc1986)機。サイファー、Diamond Dust。
「絶対に守り通す‥‥!」
空戦は初めてである。理由はいたって簡単。高所恐怖症なのだ。だが、覚醒すれば大丈夫。避けてきた空だったが、人命救助もかかっている。苦手と言っている場合ではないだろうかと参戦を決意した。
「私の相手は‥‥蒼牙殿だな。よろしく頼む」
「よろしくね」
二機が交互に軌跡を描き仲間達と空を行く。
「ズウィーク兄様、今回は宜しくお願いしますの」
「お〜う。よろしくな、かわいこちゃん。ちゃっちゃと終わらせよう」
「はい。地上で逃げ遅れた人の救出に当たっているみんなの為にもHWをその村に近付ける訳にはいかないの。ファリス、頑張ってHWを墜とすの」
ファリス(
gb9339)は、デラードへと通信を入れると、仲間達へと、決意を込めた言葉を告げる。機体はS−01HSC、フラウス。初期機体ではあるが、兵装は十二分に充実している。
「ライン兄様、ファリス、頑張るから頼りにして欲しいの」
「了解だ。釣り出しは俺が。食いついたところにでかいの一撃よろしく」
UPC軍人上がりのライン・ランドール(
gb9427)が、生真面目で丁寧な返事を返す。機体はスカイセイバー、F−196RC(Rundall−Custom)。各部装甲の段差が滑らかな流線型へと削られたスマートな機体は、ブルーグレーで塗装され、空に溶ける風のように飛ぶ。
「‥‥お久しぶりです軍曹‥‥アフリカの時以来ですか。‥‥地上に居る孫少尉達の為にも‥‥迅速に制空権を確保します」
「おう、よろしくたのむぜ」
奏歌 アルブレヒト(
gb9003)機。ガンスリンガー、S・S(シュワルベ・シュネル)。
迅速という名を足した燕を冠する機体の色は紫黒。胴体部周りだけが白く、アクセントラインに赤が走る。
(‥‥北伐から一年‥‥この地も‥‥今度こそ開放される事を願います)
時の立つのは早い。けれども。大陸の激戦を経験していた奏歌は、眼下の地を思い、小さく頷く。鎮痛剤では抑止の効かない、CWの怪伝播がやって来るのに眉を僅かに寄せる。
たった一年ではあるが、その合間に奏歌は強くなった。
現行機は初期に近いが、その操縦能力は一級品となっている。
「こういう物は、父の得意分野なのですがねぇ」
スコットランドの旧家を思い出し、薄く笑みを浮かべるパトリック・メルヴィル(
gc4974)は、愛機ワイバーン、サー・バークレーのコクピットの中、学者然とした雰囲気を纏いつかせつつ、奏歌機と共に綺麗なラインを描き飛んで行く。
秋月 祐介(
ga6378)機。ワイズマンを自身の専用に情報処理機能を特化させるべく自作のプログラムを採用している。使うには癖のある機体にしあがっているが、祐介にしてみれば、それを乗りこなすのも良しとする所なのだろう。
(情報処理による未来視にはある程度慣れた、ならば如何にその精度を上げるか‥‥)
コンソールパネルを叩き、計器を見極めつつ祐介は心中で呟く。
(支援機は秋月さんだけですか、護衛はハードになるな)
目の前の敵機を見て目を細める。だが、祐介の情報処理と支援行動には全幅の信頼を寄せている。大規模な戦いで飛ぶ時と変わらない。エシック・ランカスター(
gc4778)機。リンクス、Black tailed Gull。
彼らは同じ小隊『380戦術戦闘飛行隊』に所属している。歴戦の小隊であり、祐介の現行機は初期機体と言っても良いが、幾度も死線を潜り抜けている。エシックはひとつ頷き、操縦桿を傾けた。
水無瀬みなせ(
ga9882)機。S−01改、Chernobog。彼女の機体も初期機体ではあるが、歴戦のKV乗りだという事の証でもある。光沢の無い漆黒の機体は、所々に無数の目のようなカラーリングが施されている。大鎌を持ったスラヴ神話の黒き死神から名付けられた愛機は、昼間でも闇より深き深淵を彷彿させ、見る者の視線を吸い込むように威圧する。
軽く笑みを浮かべる。電子機からの情報だけを頼らないようにと、目視索敵を怠らない。
「村には絶対降下させません。水際で全機撃墜しないとね」
「ああ、とっとと片付けてやるか! 頭の上でドンパチやられる方はたまったモンじゃないだろうからな」
那月 ケイ(
gc4469)機。パラディン、アイアス−S。
空戦は不慣れだ。だが、そうも言ってはいられないかと不敵に笑う。
スカイフォックス隊を含め、総勢三十のKVが空を駆け、同数以上のHWとCWの群れの中へと飛び込んで行く。
淡紅色の光線が、一斉に空に幾筋もの模様を描き出しながら襲いかかった。
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HWの群れがぐっと迫る。
「10秒後煙幕展開、敵位置情報の未来視を頼みます」
「了解だ」
空中に煙が発生する。エシック機だ。R−703短距離リニア砲が、煙の中へと叩き込まれる。
そのまま、煙の下へと機首を向ける。陽炎がスラスター噴射の際に揺れる。
「来ます!」
「おう」
みなせの声が上がる。ケイ機共に初撃をしっかりと警戒。難なく交わし、迫るHWへと集中する。
「旧式機と思って舐めてると、痛い目をみますよ」
「完勝と行こうか」
祐介機からの通信を耳に入れながら、ケイはヘルムヴィーゲ・パリングを発動させる。
「‥‥後ろは奏歌に任せて‥‥目の前の敵に集中して下さい」
KVがひらりひらりと飛び交う。奏歌機だ。
「了解です」
秋月機からの情報を受けながら、パトリック機が前に出る。
プロトン砲を大きめの綺麗な飛行で交わしていたのは、シクル機と蒼牙機。
鋼の翼が陽光を受けて光る。
「っ‥‥! そっちは大丈夫か?! 一機目‥‥私が囮になるからその隙に攻撃を頼む!」
初めての空戦だ。シクルは不安を覚えて思わず声を上げる。
「大丈夫。了解。後衛はフェンガロンの見せ場ってね」
シクルの後方に位置する蒼牙が、ひとつ頷く。
「削り合いならそうそう負けませんよ〜」
HWの初撃を受けていたノエル機だったが、激しい損傷は無い。
その巨躯を十分に生かし、帷子機への攻撃を受け流していた。
祐介機は未来視を発動させる。
「エシックさん目標H2。2時下方! そのままノエルさんの方向に追い込んで」
祐介機は、先に、タクティカル・プレディレクションBを発動させ。
煙の中から目前に現れたHWへと、ノエル機は3.2cm高分子レーザー砲を撃ち込んだ。
光線が、HWのフェザー砲と交差しつつ、HWへと撃ち込まれた。
ぐらりとHWが傾いだ。
鋼の色を失ったかのように、推力が落ちている。
そこへと狙いすました帷子機のスナイパーライフルSG−01が撃ち込まれる。
「踊れ踊れ、まぁ爆ぜろとは言わないがな」
迫るHWから、フェザー砲の紫の光線が飛ぶ。
「‥‥今だ!」
「ミサイルの雨‥‥食らえ」
シクル機が飛び込み、レーザーライフルWR−01Cを撃ち込む。
蒼牙機からは、ミサイルがこれでもかと飛んで行く。
金属を穿つ音が響くと、爆炎が上がる。
もうもうと煙を上げて、HWが落ちて行く。
「よし、次だ‥‥! 援護を頼む!」
すぐに新手がその煙の向こうから現れる。シクル機が機首を返す。
ガトリングを撃ち、弾幕を張りながら、無造作に距離を詰めるライン機へとHWが接近する。
「よし、いいぞ。釣られて来い‥‥」
それを見計らい、ファリス機から、ブレス・ノウで底上げした能力で螺旋弾頭弾が撃ち放たれる。
「‥‥この攻撃は必ず当てるの!」
唸りを上げ、軌跡を描き、HWへと着弾し爆発する。
「落ちろっ!」
その爆炎が収まらないうちにライン機からはアサルトフォーミュラAを発動させた攻撃が向かう。
UK−10AAMが空を裂いてHWを叩き落すように着弾した。
派手な爆炎が上がる。HWの金属片が四方八方へと飛び散り、鉄くずとなって落下して行く。
みなせ機、ケイ機。二機の機首が空を掻い潜り鋼の翼が左右に振れる。
ケイ機からCK−05Bアサルトライフルが、狙いすました一撃を撃ち込む。
HWに穴が穿たれる。
後方からみなせ機の短距離高速型AAMが襲う。
続け様の攻撃にHWが傾ぎ、推力を失い落下途中に爆発炎上する。
パトリック機が、HWへと接近する前に、発射するのは 短距離高速型AAM。
弾幕替わりだ。長い尾を引き、HWへと飛び、その合間に距離を詰める。
接近すれば、奏歌機から、UK−11AAEMが撃ち込まれる。
HWから、フェザー砲の紫の光線がパトリック機を襲う。
被弾。
だが、意に介さずに目前に迫ったHWへとパトリック機からガトリングが撃ち込まれる
細かな礫が、HWを穿ち、奏歌機からのショルダー・レーザーキャノンの光線が伸び、HWを揺るがす。
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ちらちらと光るCWが、次々と撃ち落されて行く。
空戦は混戦となってきていた。
前方のHWへと、ファリス機からAAMが飛ぶ。
が、背後を取られた。
フェザー砲が二機の背後を襲う。
「ライン兄様!」
「大丈夫。有利な状況ほど判断甘い‥‥ってな!」
アグレッシブトルネード、アサルトフォーミュラA機動。
各部が稼働し、エンジンユニットが左右に分割され、腰の両側と移動する。
フェイス部はセンサー素子の集合体となりバイザーとフェイスガードがカバーする。
一瞬で変化したライン機は、ブーストをかけ、迫るHWへと振り向き様にゼピュロスブレードを叩き込む。
その手数にHWが傾ぎ、爆炎を上げる。飛びのいたライン機へと別のHWが迫る。
「させませんのっ!!」
機首を返したファリス機から、UK10AAMが狙い撃たれる。
「ありがとな」
「ご無事で良かったですの」
ライン機が再び飛行形態へと戻り、次の敵機へと向かい、突進して行く。
危なげなく機体を駆けさせるのは奏歌機とパトリック機。
「‥‥そこ」
機体を急旋回させ、横合いから迫るHWへと、奏歌機がマシンガンを撃ち込んだ。
「数は多くとも、無人機‥‥という事でしょうね」
続くパトリック機からAAMが飛び込むように追撃する。
HWのフェザー砲が、落下直前に空を撃つのを見送り、次の標的へと飛ぶ。
僅かな下方でHWの爆発が起こった。
アサルトフォーミュラB機動。
ノエル機がフェザー砲を受けながらHWへと迫る。
「まだまだですよ〜」
僅かに機体を逃したHWが、ノエル機へと攻撃を仕掛けようとする。
「死角に入った程度で調子に乗るんじゃないよ。俺を忘れてるの か?」
そのHWへと、帷子機が機体をずらし、機首を向け、AAMをノエル機の脇から撃ち込んだ。
爆炎が上がる。
「よぉーし! いってこい──!」
視界の端に入った敵機。
帷子はにやりと笑うと、MM−20ミサイルポッドをも撃ち出した。
続け様の爆音。
HWが爆炎を上げた。
ホーミングミサイルDM―10が激しい爆発を起こす。
目の前に現れたHWを、エシックは撃ち落す。
祐介機へと接近はさせはしない。後方から迫る敵へと、機体を急回転させて回り込む。
祐介機は、ちゃくちゃくと次の手を打ち出す。
「4時方向。不審な動きのHWあり。近いロッテはハーツ君、吹雪君?」
祐介機から、指示が飛ぶ。
「っ! あいつ?!」
僅かに降下のそぶりを見せるHWをシクルは見つけ、機首を下げ、ブーストをかけて突撃して行く。
シクル機のブーストの炎が白く、ダイヤモンドダストのように美しく輝き、尾を引く。
「節弾は素晴らしいからね」
蒼牙は、コンソールを確認し、操縦桿を傾けながら、攻撃をしかける。
複合式ミサイル誘導システム2発動。
複数のミサイルが次々と蒼牙機から撃ち出される。
「目の前っ!」
白い輝きを引き連れたシクル機からマシンガンが叩き込まれた。
細かな穴が穿たれたHWが機動を停止する。
背後を取られた。
「っ! 一時散会しましょう」
みなせが叫ぶ。
「了解」
機体をひねり、HWをかわすと、再び二機は合流。
ケイ機はシステム・ニーベルングを機動させる。
僅かに空気がたわんだような錯覚を受ける。
HWのフェザー砲が撃ち込まれる中を、機体をひねり、かわし迫る。
ひゅっと息を吸い込む。
集中力を途切れさせず、ケイはHWへと狙い撃つ。
「行きますっ!」
「おうっ!」
みなせ機からミサイルがケイ機の脇を抜けてHWへと叩き込まれる。
爆煙が上がる。その煙が晴れる間もなく接近したケイ機からバルカンが叩き込まれ。
金属を穿つ音が響く。
鈍い振動が空気を揺るがす。
HWはただの金属の塊となり、細かな爆発を幾つも続けながら残骸となり落下していった。
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「なんとか、無事に終わってよかった‥‥」
ふと息を吐き、シクルが首を横に振る。高い場所ではあるが何とかなった。
全ての敵を迎撃撃墜した後の、広がる空。
地を眺め、あちらも無事であると良いと目を細める。
「ロッテ、ありがとうございました〜」
「こちらこそ〜」
帷子がひとつ伸びをする。ノエルがほわんと頷く。
「軍曹、お疲れ様でした」
「お〜う、そっちもお疲れさん。帰還してくれ」
謝意を告げるみなせへと、デラードから返事が返る。
CWは攻撃を通り難くする。
小さいがそれを先に撃ち落すのは定石となりつつある。
だが、共に付随敵機迎撃へと回らなければ、逆に攻撃の矢面に立つ事になりかねない。
傭兵達がHWを的確に撃墜してくれたおかげで、空域の確保は叶った。
北京へと集まる敵の一群を撃破。
そして、戦いは佳境へと向かう。