タイトル:その空は〜蒼〜マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/22 13:32

●オープニング本文


「目達原駐屯地に、運んでもらいたい。至急だ」
 壱岐島から浮かび上がるドラゴンフライを駆逐する依頼がもう出発する。その後を追うように、出て欲しいという、急な依頼だ。依頼主は当然UPC軍である。
「新型のパーツを運んでもらう。諸君等が目指すのは目達原駐屯地だが、大回りして福岡から入ってもらう」
 壱岐島を回り込み、玄界灘から福岡上空を越え、目的は目達原駐屯地制圧。
 さして戦力は居ない。
 すぐ近くの鳥栖分屯地と共に、押さえに回って欲しいという事だ。
 戦線は混乱している。この隙に。
「‥新型ですか」
「そうだ」
 この新型は中国東部に拠点を持つ奉天北方工業公司が開発をしたという。能力者達に詳細な機体性能は知らされない。だが、パーツが無事移送されれば、現地で組み上がる姿が見れるという。
 この機体はバグアの様々な電子妨害をある程度無効にするという。
「時間無い‥ですね」
「無理は承知だ。だが、やってくれるのだろう?」
 そういわれては、やるしかない。
 バグアとの戦いが有利になるように、自分達はいるのだからと。

「壱岐島でドラゴンフライとの戦闘は明け方から、遅くとも陽が上りきるまでだと思う」
「それより早くても、遅過ぎても駄目って事か」
 あまり早ければ、ドラゴンフライとの戦闘に巻き込まれる。遅ければ、佐賀のバグアからの索敵にひっかかる。
 カーゴを守りながら海上を移動。玄界灘から福岡に入るが、福岡でも交戦中だ。
「どう索敵をして、どの高度をとるか‥」
「目達原駐屯地に送り届けるだけか?」
 とりあえずは、そういう事らしい。現地の状況はわからないが、九州上空に入ったら、火力武器は使わないようにと言われる。進入ルートが福岡だ。非戦闘員も少なくない。何よりも、そのミサイルがひとつ落ちる先、戦闘の破片が落ちる先が民家で無いとは言い切れない。
 目達原駐屯地に降り立てば、可変し、背中のディフェンダーのみが武器となる。
 打ち捨てられたも同然の場所であるが、何が出てくるかわからない。
「至急だってさ」
 その日程は確かに厳しいものだった。

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
佐嶋 真樹(ga0351
22歳・♀・AA
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER

●リプレイ本文

 ヘリの音が響く。輸送カーゴCH−47Jを能力者達は眺める。目達原駐屯地には長い滑走路が無い。輸送の大きさをかんがみても、CH−47Jが適切だと配備された。昨夜のうちに梱包され積み込まれた新型機。
 その新型機の予想はおおよそ立っていたが、現時点ではまだ能力者達に知らされてはいなかった。
 現地で組み上がるとの事だが、と、真田 一(ga0039)はぽつりと呟いた。
「新型か」
 組み立てあがった姿は見る事が出来るのかと問えば、希望ならば、充分な時間はあると言われて、そうかと、軽く頷いた。電子妨害を少しでも受けないようになれば、ヘルメットワームとの戦いに僅かに有利に運ぶ事は間違いないだろう。
「ほぇ〜、こん中に新型のパーツが入ってんのか。なんかプラモデルみてーだな」
 分解されての搬入に、ノビル・ラグ(ga3704)は興味津々であった。新型機。その響は心躍るものである。是非に、組みあがる様を見なくてはならない。その為には、この任務を成功させなくてはならないと、ぐっと心にガッツポーズを決める。
 黄色いマフラーを風になびかせ、流 星之丞(ga1928)はカーゴCH−47Jの搭乗メンバーと話し込む。
「カーゴの皆さん、絶対に僕達が守ります。だから、お互い頑張りましょう」
「おう、頼りにしてるからな」
「時間もあまり無いそうなので迅速に作戦を遂行しなければなりませんね」
 鳴神 伊織(ga0421)がふわりと笑う。長い黒髪が、風をはらんで流れた。
 本来ならば、新型機輸送護衛などはUPC軍が全てまかないたい。しかし、どうにも人手が足らない。もちろん、バグアと戦う為に人手が足らないのだが、今回この任務に限っては、どうも大掛かりな軍の移動が絡んでいる。大規模作戦が近いと、暗に伝わるものがある。
(「バグアの電子妨害を無効化する機体ってあれ‥‥かな?」)
 窺うような眼差しを向けているのは明星 那由他(ga4081)だ。小さな彼は機器に並々ならぬ興味を持つ。そして、彼女は新型機のテストパイロットもこなしていた。
 岩龍。
 そのテストパイロットがこの作戦の半数を占めていたのは偶然か。
「作戦通りに‥‥」
 真紅を身にまとう佐嶋 真樹(ga0351)が、仲間達に頷いた。明け方の空の光りが、真紅の瞳に反射した。

 壱岐島空域での戦闘の光りを確認する。
 ドラゴンフライという大型のキメラから、壱岐島上空の制空権を確保する為の作戦が展開されていた。その作戦に乗った形での輸送だったが、壱岐島上空の制空権を確保するのは、どうやらこの輸送だけの為では無いようだった。
 第一〜三ロッテとして、2機1班、3組に分かれる。
 ロッテ。それは、2機編隊の戦術である。真樹が詳しかった為、今回はこのような呼び名をつける事になった。2機編隊で1機が攻撃を行い、もう1機が上空から援護を行うのだ。基本戦術として、確立がされている。しかし、能力者は軍隊では無い。UPC軍を補助する立場にあり、ナイトフォーゲル──KVを駆るが、細かな軍関連の信号や隠語などは、普通、知らないし使わない。これがこの先全てに通じるわけでは無く、チーム名でもコード名でもペアでも、能力者のやりやすい方法で構わない。
 帰還する10機のKVを見送ると、危険の度合いの大きい移送空域に入ることになる。
「第一ロッテ、ノビル・ラグ。行っくぜーッ!!」
 真紅に染まった髪、金銀のヘテロクロミアが明けの空を睨む。掛け声と共に、ノビルの機体S−01が流れるように空を駆けてきた。
 次々に空に展開するKVの軌跡が空を掻く。CH−47Jを連れての移動なので、そうスピードは出ないが、間合いをとって、慎重にかつ迅速にと迂回空域を進む。
 壱岐島を大きく迂回するルートには、問題は何も無かった。
「静かね」
 那由他が、あまり役に立たないレーダに溜息をこぼして前方に目を凝らす。陽が昇れば、くっきりと壱岐島と九州が見える。青く波打つ海と抜けるような空の青さが眩しい。エメラルドに変化した瞳を眇める。
 各機、低く高度をとる。
 第一ロッテの右翼を飛ぶ那由他は、九州上空から地形を読み取る。玄界灘から、高速道路上空を通り、目達原駐屯地へ移動する。低空を選び飛行する彼等は、索敵に会わずに済んでいた。
「このまま、行けるかな?」
「何も無いなら、越した事無いぜ?」
 那由他の呟きに、ノビルが答える。
「第二ロッテ、真田。今の所異常無し」
「第二ロッテ。こちら鳴神。こちらも以上無し」
 左翼を飛行する一が、同班の伊織に確認を取る。右翼を注意深く飛行する伊織も静かな九州上空を静か過ぎるかもしれないと思いつつ、視線は四方に向けられる。
 バグアの侵攻は、前へ前へと向けられる事が多い。全てでは無いが、重要拠点をとれば、後の基地や空港に戦力を残す事はしないようだ。壱岐島の寂れた空港を思い出す。巻き返しとか、挟み撃ちとか、足がかりとか、そういうテクニカルを使うよりも、バグアは、圧倒的な戦力差を武器にして、着実に、その侵略の手を伸ばしてきたのだ。──今までは。
「こちら、第一ロッテ。前方に異変。‥え? 交戦中」
 那由他が目にしたのは、じき到着するはずの目達原駐屯地付近だった。
 爆煙が上がる。
 ノビルが、声を上げた。人と人とが戦っているのが目に入る。駐屯地を制圧。
「うっそ!」
「こちら、第二ロッテ。変形するぞ」
 九州上空では、火気厳禁。その意味が目の前にある。人の中に、ミサイルは打ち込めない。被害が大き過ぎるからだ。一と伊織のR−01が、その機体を揺すり、可変する。ノビルも、手際良く、機器を操る。
「うっし! 俺も第一ロッテ、行くぜっ?」
 鋼鉄の機器が軋む音が滑らかに移動する音が響いた。KVは、空中で変形すると、その太い足で34号線を軋ませて、九州の地に降り立った。
「人‥とも戦うの?」
 ぽつりと、那由他が呟いた。
 目立った産業の無い目達原駐屯地付近は、バグア軍に攻撃された後は、親バグア派と呼ばれる一派に牛耳られていた。同じ人同士、バグアに敵対する者と、バグアにおもねるもので、時には表立ち、時には静かに、戦いはずっと続いていた。
 壱岐島でドラゴンフライが掃討されたという情報は、すぐに反バグア派と、親バグア派に流れる。その後、一隊が目達原駐屯地に向かうという情報も、追って出されていた。
 時は今。
 そう思い、反バグア派の住民達が、決起したのだ。目達原駐屯地に、UPC軍機を無事進入させる為に。それを予測した反バグア派は、バリケードを作り目達原駐屯地を死守しようとしていた。
 空気を唸らせて、ディフェンダーの重さと扱いを確かめたのは、一だ。
「どっちがどっちだ?!」
「カーゴCH−47Jより、第一、第二ロッテへ。目達原駐屯地内が親バグア派だ」
「知って居たのか?」
 護衛の為に、カーゴの横を飛ぶ第三ロッテの真樹が憮然とした声を上げると、カーゴ内の今回の作戦指揮を取っていた男が溜息交じりで、全機に聞こえるように答えた。
「到着するまでは、状況がどうなるかはわからなかったさ!」
「やるしかないって事っしょ?」
 そびえ立つような可変したKV4機に、ミサイルが飛んでくる。
「! 街がどうなっても良いって言うわけかっ?!」
 親バグアについたのも、人としてどうしようもない選択の末だったかもしれない。けれども、怯えて暮らす人々がまだ居るというのに、そんな一般人を意に介さないような攻撃に、ノビルはS−01を走らせる。追いついた、星之丞も、機体を変形させて、ぐっと奥歯を噛締める。
「いつかみんなが笑顔で迎えられる明日の為に、僕達は負けられない!」
 迫る機体に、親バグア派は。
 そして、反バグア派は。

 抜けるような青空は、何所まで続いているのだろうか。
 能力者達と、可変したKVの圧倒的な力とで、目達原駐屯地は、制圧された。何より大きかったのは、反バグア派の組織だった動きである。元は、ここの軍人上がりの人が多く、内部まで詳しく知っていたのだ。年齢的には、年配と言って良い人が多く、少年少女が次に多い。働き手となる年齢層は、バグア侵攻時に、ほとんどが命を落としているとの事だった。
 抜けるような青空に、一体の機影が過ぎった。R−01で狭い滑走路に軽々と降り立ったのは、ズウィーク・デラード軍曹だ。カーゴ責任者と、一言二言交わすと、能力者達に手を振って、また、R−01で蒼い空へと消えて行く。前線に多く配属されるその人が動くという事は‥。

 とりあえずの平安の中、カーゴCH−47Jから、新型機が下ろされる。
 組み上がっていくのは、能力者達の乗るS−01やR−01よりも、僅かに小さな機体である。
 全長11.7m、全翼7.9m、空虚重量4.2t、乗員1名、直立時の全高6.1m。機体名H−114。通称『岩龍』。バグアの電子妨害をある程度無効化させた上で索敵能力に優れる機体である。
 やっぱりと、苦笑するのは、星之丞だ。
「‥‥先にこっちに乗って出撃したから、なんか新鮮な気がしないな」
「あの‥質問とか‥ダメかな?」
 S−01で駐屯地周囲を巡回してきた那由他は、組み上がった岩龍を見て、嬉しそうに整備班へと近寄って行く。何が聞きたいのかいと、訪ねられ、えっと。と、聞きたい事が沢山ありすぎるようでもある。
 自分の機体から降りると、その場で、ごろりと大の字に寝転んだのは、ノビルだ。真っ青な空が、目に飛び込む。
「戦い終わって日が昇り‥‥か。空の蒼さが目にしみるぜ」
 能力者達のおかげで、目達原駐屯地へ岩龍は配備された。
 そして、大規模作戦は開始されるのだった。