●オープニング本文
前回のリプレイを見る「懇親会‥‥ですか?」
「ああ、事務官殿も交えて、いかがだろうか」
「私は問題ありませんの。では、傭兵の皆様にお声をかけてみますの」
「よろしく頼む。じき、先日引き上げてもらったHWの解体も終了する。完了すれば、輸送機で三番艦へと向かう護衛も頼まなくてはならない。その前に交友を深めたいといった所だ」
解体はほぼ完了しているのだが、北の大規模作戦の一端の終結を見ない事にはという。
現在タイ軍は再編成の真っただ中にある。
KVを操る能力者をほとんど持たなかったタイは、今までよりも積極的に適性検査を国の隅々まで行った。結果、進んで適性検査をしなかった者の中から、従来通年よりも二割もの適性者を発見していた。
もちろんこれは、ここ一年程で通年通りに戻る事も予測されている。
今まで発見されなかった能力者が表に出てきたという事であるからだ。
入れ替わりに中央のUPC特殊作戦軍からも、タイ軍の中にタイ出身者が選ばれ、何名か送り込まれている。
ファラン・サムット少尉もそのうちの一人だ。
かつての内戦の折には、歯がゆい思いを祖国へと抱いていた。
バグアに攻め込まれるほどの重要拠点では無い事もあったせいで、タイ軍は王立軍としてバグア侵攻以前の水準でしかなかった。僅かにKVが配備されるという状況ではあったが、それで何も問題が無かったのだ。
そこを、どんな気まぐれだったのか、ゾディアック牡羊座につけ込まれた。
空軍は全滅の憂き目を見た。陸軍は真っ二つに割れて、半壊の状態だった。
海軍のみが被害を最小限に留めていた。
「せめて、空母が大規模戦の補給地となれるぐらいにはならんとな」
ファラン少尉は、オールバックの髪を撫ぜつけ、軍帽を被り直すと、軍港があるタイの内海から外海を見た。
「ちょー強そやな、おい」
「あきませんぜ。あれ達とまともに戦ったら」
「何体か、水中用やなかったな」
「せや。あいつら狙い撃ちにすりゃええやん」
「あかんて! その間に他のんが来るやろ」
オーストラリア寄りの海域の一つで、バグア達が溜息を吐いていた。
ぷかりと海面に浮かんだ海洋迷彩のHWが五体。
その脇で、ぷかりと浮かんでいる、トカゲ。
のようなバグア。
頭から背中を通ってヒレがあり、尾が伸びている。
パッと見、トカゲのヒレ付きのような姿だが、みっちりと青緑の鱗で覆われ、白銀の腹は固そうな皮膚。ぽっこり出ている奴やぱっくり腹筋の割れている奴やら太め細めと様々に居る。
全てに共通するのは口調と、その丸い大きな魚のような目だ。
身長は高低差はあれど、おおよそ130cm程だろうか。尾は足よりもわずかに長いぐらいだ。
彼等は、タイ近辺の海域を偵察し、事あらば、オーストラリアに報告をするのが任務のバグアだった。
少し前はゾディアック牡羊座が手を出していたタイ。
特にめぼしい動きは無いが、彼女が手を出した事により、化ける可能性も無きにしもあらず。
というのが表向きではある。
いわゆる閑職を与えられている彼等は、せっかく地球に降下出来たのだから、少しでも功績を上げたかった。
「地球人‥‥何時の間にあないに強うなったんやろなあ」
「ここんところ、連敗っちゅうのは、わざとや無いちゅうのんはホンマの事みたいでんな」
「ドレアドル様が降下した際にも、えらい手間どった言う話、眉唾ものやと思うとった」
「とりあえずやな、小型やけど、HWが二体持ってかれたっちゅうことは報告したさかい」
「せやな。何ぞ他に動きあるかもしれへんから、偵察やな」
ため息交じりに、話を終えたバグア達は、それぞれのHWへと戻り、再びタイへと向かって動き出した。
今回も引き連れているのは大量の蛇と鮫キメラ。
それらを囮に何時でもケツを撒くって逃げ出すのが予定であった。
ティムの顔がモニターに映った。
何時もの電卓では無く、ピンクの小型ノートパソコンが手元にあるのが見える。
「パタヤビーチでのんびり海水浴とか日光浴とかしませんかと。いわゆる、傭兵と海軍の懇親会ですの」
水着必須ですと、ティムがにこにこと笑った。
●リプレイ本文
●
眩しい日差し。透き通る海。
わらわらと繰り出しているのは、タイ海軍の面々と傭兵達。
ほぼ全員、しっかりと水着とか、甚平とか装着完了っ!
「僕はこういうのを待ってましたっ!」
ぐっと、拳を握り込むのはヨグ=ニグラス(
gb1949)。視線を合わせてキラキラするのはティム。
「喜んでいただいてっ!」
しっかりと遊ぶ事が依頼だというのは何というパラダイス。
小脇に抱えたビーチボールが、日差しを受けてキラリと光る。
「僕達が勝ったらファラン少尉のオールバックをサラサラヘアーにするですっ! とオルカさんが言ってました」
「僕があっっ?!」
水着姿でもやっぱりオールバックだったファラン少尉が黒髪を撫ぜつけて、笑うのを見て、オルカ・スパイホップ(
gc1882)が、軽く叫ぶ。
「まま、それはともかく、負けたら、厨房で二人でプリン作ってても!」
「‥‥考えなくもない。じゃなくて! みんなごちゃまぜで分かれよう」
昨今、傭兵と正規兵との軋轢が問題となっている。ならば、傭兵VSタイ軍人では無く、混ざって組み分けしたらいいのではないかと、オルカは思っていた。そんなそぶりは見せずに、笑いながら、ごちゃまぜに分かれるようにと気を配る。
何時もの服装とは何処か違う。それが水着。にしても、着痩せするタイプだったのが発覚したのは、櫻小路・なでしこ(
ga3607)。
「あ、俺は審判ね〜。みんな頑張って〜っ」
生きの良さそうな、海軍の若者を両手に引っ張り、さらに引き連れ、大泰司 慈海(
ga0173)が、満面の笑みを浮かべる。仲間達にしろ、ファラン少尉にしろ、おにゃのこの水着姿は良いモノである。
「‥‥これでどうですっ?!」
文字通り、ごちゃまぜとなったビーチバレーで、如月・由梨(
ga1805)の気合の入った一撃が炸裂。
ふっふっふ。そんな感じで、オルカが片手で綺麗に受けて、海軍の背の高い男性へと綺麗に上げる。
任されたとばかりに、スパンと良い音が響いて決まる所を、リュティア・アマリリス(
gc0778)が走り込み、レシーブ。
「はーい、由梨ちゃんは軽く反則ーっ。一点こっちに追加〜っ」
「つ、ついカッとなってしまって‥‥」
勝負となると見境が吹っ飛ぶ由梨に、どんまーいと、慈海の声が飛ぶ。
「‥‥さて、整髪剤を落とさなくてはいけないか?」
「さらっさらも良いものですっ」
ファラン少尉が、楽し気な一団を見て、くすりと笑えば、ヨグが、こくこくと頷く。
リュティアは、休息中や応援中の燃え上がる人々の合間をぬって、微笑みながら、冷たい飲み物を配る。
「ビーチフラッグ大会を開催いたします。優勝者には、賞品も用意しておりますので、是非どうぞ優勝商品は‥‥」
ティムがぶんぶんと腕を振る。なでしこがその横で、にこにこと手招きをすると、指を立てた。
「‥‥ヒミツです」
どおっ。そんな歓声が上がる。勝手に盛り上がって行くのは、野郎共の哀しい性である。
こっそりと、なでしこがティムに耳打ちする。
(ええと、女神の祝福とかしませんか?)
(私が思うに、あの盛り上がりは、桜小路様の祝福が欲しいと聞こえますの)
(わ、私ですかっ?! ティムさんじゃないですかっ?)
ちちちと、指を立てたティムが、どーんと暗い溜息を吐き出した。二十数年生きてきて、色気があるとは欠片も思われなかったという、実績があるのだ。がきんちょ扱いは慣れているらしい。
ぐっと、手を握られるなでしこ。
(何でしたらあれですの。アマリリス様も巻き込んで、両方からちゅーとか、きっと喜ばれますの)
「あら?」
視線を感じたリュティアが、小首を傾げて、なでしことティムに手を振る。
これこれこういう訳なのだと、リュティアへと切り出せば、二つ返事でOKが。
「‥‥俺は大勢で騒ぐのは苦手だし‥‥弱ったな」
派手な盛り上がりを見せている集団に、どう混ざろうかと煉条トヲイ(
ga0236)は軽く考え込んでいた。
賑やかな場所なキライでは無い。ただ、羽目をどうやって外すのかが、わからないのだ。
そんなトヲイの横から、ひょこりと鯨井昼寝(
ga0488)が顔を出すと、声を上げる。
「誰かガイドお願いできない?」
遠泳も捨てがたいのだけれど、せっかくなので、ダイビングをしたい。
カウという小柄な軍人が頷いた。
海軍に入って間もない新兵で、漁村の出身だと笑った。
「助かるーっ。じゃあ、一緒に潜りに向かう人とかー? せっかくなんだから、皆で行きましょうっ」
はいはいはい。
そんな感じで、あっと言う間に、総勢五名でモーターボートを借り受けた。
エンジン音が響き、ダイビングポイントへと飛沫を上げる。
「‥‥まあ、あれです。私はひとりでぶらつくのが良いかと」
こくりと頷くと、由梨は、色鮮やかな海へと、素潜りで泳いで行く。
キラキラと陽光が海中まで届いて、とても綺麗。
一方、トヲイと昼寝達は、ダイビングポイントに到達すると、案内のカウの先導で、海中へと誘われていた。
ざあっと脇を魚の群れが泳いで行く。トヲイは、目を細める。
「‥‥こうしていると、今が戦時中だと言う事すら忘れてしまいそうになるな‥‥」
初めてのダイビングで、手探り状態で、泳いで来た。
経験者の昼寝が、ポイント事に、ストップ&ゴーを出す。
勘の良いトヲイが、形になったのを見ると、昼寝は僅かに深い場所へと潜る。
そして、そこで、ちょっとばかり妙なものと遭遇した。
真ん丸な目。
青緑のトカゲの様な姿。頭から尾までヒレのような突起が伸びている。手足には水かき。腹は白銀。
何となく、その生物が焦っているかのように見えた。たらーりとか、冷や汗が下がっているかのよう。
昼寝は、肩で息をした。俗にいう、がっかりだよ。というポーズ。
表情も、非常にがっかりさが張り付いている。
くるりと方向を変えると、見無かった事にしようとした。
タイ軍人が慌てるが、何もしないようだから、別方向へゴーというサインを出す。
岩場に半身を隠して、じっとしている魚人が居たと言う事のみ記憶して。
何かあったのかとハンドサインを送るトヲイへ、何もなかったサインを出した。
(何だ? トカゲの着ぐるみか?)
ちょっとばかり天然気味のトヲイは、素で、そう思った。
ガーン。そんな感じが漂う。
(あーあ。珍しい海棲生物が見たかったなあ)
ある意味非常に珍しかったのだが、昼寝は振り返りもしない。
「少しは驚けやっ!! 驚いたやないか〜〜〜っ!!」
泣きダッシュ。そんな感じで、彼は逃走をした。
甚平に駒下駄。いかにも涼しそうな恰好の錦織・長郎(
ga8268)は、釣りポイントを軍人に教えてもらうと、のんびりと海岸を歩いていた。
「韜晦、韜晦‥‥春の日差しも暖かく、良い釣り日和だねえ‥‥いや、転寝するのも良いかもだね」
タイには思いを残している。
(‥‥随分、復興も進んだものだ)
シュッと音を立てて、テグスが海中へと投げ込まれる。
エミタの適性者も増えたという。これは飛躍だ。その意気や良しと、長郎は思う。
長らく停滞していたタイに、新たな光がさす瞬間に立ち会っているのかもしれない。
内戦の泥沼から、引き上げられ、空へと向かう様は、関わった一人として、手伝いのし甲斐もある。
ふと笑みを浮かべると、くっと、竿に当たりが来て引き寄せる。
引き上げられたのは、青緑色の鱗持つ、トカゲの様姿の。真ん丸い目の魚人。
「‥‥」
とりあえず、探査の目は発動させていたのだが、特に待ち伏せをしていたわけでも、罠を張っていたわけでもなく、こっそり様子を見ていた彼には効かなかったようだった。だが、長郎が運が良いのか、彼が運が悪いのか。てか、テグスぐらい引きちぎって逃げればいいのだが、何だか不意をつかれたらしく、釣り上げられたようだった。
「‥‥河童君。通報は遅らすのでとっとと退散するが良いね、くっくっくっ‥‥」
痛っ。とか言いつつ、針を外していたバグアは、一目散に海へと飛び込んだ。
ざぱーん。腹をしたたかに打った様を見て、やれやれと、長郎は苦笑すると、踵を返した。
とりあえず、連絡だけは入れておかなくてはと。
海を満喫した由梨は、口元に手を当てて考え込んでいた。
次は釣りとばかりに、竿を持ったのはいいのだけれど、だんだん眉間に皺が寄って来る。
ふるふると、首を横に振る。
と。
パレオを着込み、Tシャツを着て、麦わら帽子を目深に被った、かき氷り売りに気が付いた。
何となく持ってきていた、聖剣デュランダルの柄を握り込む。
(こんなところで‥‥!? こちらから仕掛けるのは、一般人もいますし‥‥得策ではありませんか)
パレオの裾から、尻尾の様なものが見える。
大きなサングラスをかけているが、その体色は隠せない。
隠したつもりでいるのが不思議であり、気にしていない人々にも、軽い眩暈を感じる。
「なにその着ぐるみ!?」
潜ったり釣ったりして海を満喫してきた慈海が、ばしばしと、かき氷売りを叩いている。
他愛ない会話が慈海と繰り広げられている。
が、それ以上はどうも何という話が続かない。
「なる程‥‥」
あまりにも在り得ない事は、人は自分の基準に照らし合わせる。
その姿は、あまりにも在り得ないので、着ぐるみとして認識されているのだろうと。
由梨が溜息を吐きつつ、大剣を手に近付いて行けば、その大剣を目にしたバグアは、じりじりと後退して行く。
「あの、かき氷を‥‥」
「好きなだけ食べてってやーっ!! 全部サービスしとくさかいーっ!!」
「逃げちゃったねえ。逃げ足早いー」
「ふぅ‥‥化かし合いは苦手ですね、やっぱり」
慈海が笑えば、由梨が溜息を吐いた。
投げ釣りをしていたオルカは、強い引きに、途中でぷつんとテグスが切れる。
「うぉぉ〜! にがすかぁあああああ!」
そのまま、海へとダイビングっ!!
岩場の陰で、何だか大きな魚っぽいのが、刺さった釣り針を外している。
「魚ちゃうがなっ!!」
(あ‥‥れ? 食べ物? 喋ってるけど問題ない?)
ばちっと目があった。魚人の真ん丸な目が、さらに見開いたような気がする。
つい、反射的にカレーを一緒しないかと誘うが、アホかと一蹴される。
「今、休憩中なの〜。戦うのは好きだけど‥‥あ、帰っちゃうんだ〜戦場であった時は楽しく戦おうね〜♪ もちろん遠慮はしないからね♪」
「どあほうっ! んなんは当たり前やっ! 海の藻屑にしたるっ!!」
「シャチがトレードマークだよ〜!」
「! 絶対ガチ戦せえへんからなっ!!」
「え〜っ」
何だか妙な邂逅をしたオルカは、ま、良いかと肩を竦めた。
バグアも、はぁ? といった、何とも言えない顔をして帰路についていた。
数名がバグアにしっかりと覚え込まれた。謎の顔文字と共に。
●
「‥‥海軍にカレーか。定番過ぎて、食べ飽きてるか?」
大漁。ダイビングついでに魚を捕獲してきたトヲイが首を傾げれば、大好物だから問題ないと笑われる。
「トヲイは辛いの大丈夫なんだっけ」
昼寝の問いかけに、ちょっとだけ顔を赤くしてわたわたするトヲイ。
「‥‥料理より戦いの方が得意なんて少し複雑です」
随分と久し振りだと、由梨が下拵えの手伝いに入る。
さてと、腕を振るうのは辻村 仁(
ga9676)。ジャパニーズ着物。そんな感じで、もてはやされている。
万国入り混じるようになってもタイのビーチで着流しは人目を引く。
料理上手な仁は、海鮮料理を手早く山盛りにすると、カレー作りにも参加する。
「料理対決というのも面白そうですが‥‥」
瞬間的に固まったティムを見て、くすりと笑う。
現在は、総務課ではないのだから、収取決算とは無縁のはずなのだが、立場もあるだろうと仁は笑う。
「しませんので」
「‥‥くっ‥‥条件反射とは恐ろしいですの。しても構いませんの」
くすくすと笑いながら、仁は海兵達に地元料理を聞きながら、一緒に料理を増やして行き、写真に撮ったりして記録に残す。
なでしこも、地元料理を興味深く教えてもらいながら、やはり、鮮やかに一品を増やして行く。
「どんどん作って食べて飲もう〜☆」
海兵達と買い出しから戻った慈海は、飲みにケーションだよねと、ビールを飲みながら塩焼きそばを作り始める。
「ややーっ。沢山とれましたっ」
ビーチバレーが終了した後の流れで、海兵達と漁に出ていたヨグは、一緒に船出した海兵数人と、とカレー勝負を開始する。
勝負と言っても、勝敗はつかない。引き分けである。どちらも美味しいと、笑い声が溢れる。
「カレーも美味しいですが、こちらの料理の方もどうぞ」
なでしこが笑い、皿を広げて振る舞う。
三種類の色合いの綺麗なカレーを作ったリュティアは、メイド服に着替えていた。グリーンサラダに四種類のドレッシングを用意し、かかりきりとなる。
海軍のメニューを聞いて、楽し気に話をしているのはオルカ。
水中KV乗りは六名。空陸戦に特化したKV乗りが六名、計、十二機十二名のKV乗りが居る事をオルカは聞いて、彼らの合間に入り、KV談議に花を咲かせている。
こちらは未だ、手探り中だから、今度模擬戦が出来たらいいなと約束をする。
レーションも大好物だけれど、やっぱり皆で作って食べるカレーは比べ物にならない。
ご満悦の昼寝は、嬉しそうに全部のカレーを味見して回る。もちろんちゃんと手伝った。食後のデザートを切り分けるのは大切な仕事であると。
ひと段落したのを見ると、由梨はアルコールに手を出す。
二十歳は超えたので、少しだけ。ふわんと楽しい気分になった。
互いに命を預ける者同士、休暇代わりに、楽しい時間が過ごせたかなとふと思い。
「傭兵の軍徴用、どう思いますか」
「傭兵の良さは、規律にしばられない所だと思う。あくまでもこれは私の意見だ」
「まあその辺は地域柄、お国柄ってのもあるのかしらね」
おおよそ、タイはそうであると言外に告げるファラン少尉に、昼寝屋謝意を示し、記憶に留める。
スーツに着替えた長郎は、諜報畑の海兵を見つけようと考えていたが、この場には居なさそうだ。
ただ、ファラン少尉が、その役割を果たしている様子だったので、軽く会釈をすると他愛無い話をする。
空母へとなでしこと慈海が料理を持って留守番の海兵に振る舞えば、大歓迎を受けた。
過不足無く、傭兵達はタイ海軍との交流を笑顔の内に終える事となる。
仁が、写した写真を見ながら、バグアと邂逅した面々が溜息を吐く。
柱の陰。ヤシの木陰。海面の合間。
目的は偵察だろうと推測されたが、あまりにも杜撰な姿に、失笑が零れた──しかし。