●リプレイ本文
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「んーぅ。相変わらずEQは厄介よねぇ」
シュテルン・G、空飛ぶ剣山号を操りながら、エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)は、小さく息を吐く。
EQの来る方角ははっきりとしている。昨今、計測器のおかげで、随分と戦いやすくはなったが。
「‥‥まさかとは思いますが‥‥対人キメラなどを輸送していたり‥‥しますか?」
時には、その口腔にキメラを潜ませる。奏歌 アルブレヒト(
gb9003)は、浮かんだ疑念に軽く眉を寄せる。
ガンスリンガー、Schwalbe・Schnell。
胴回りだけは白いが、全体に紫黒色に砂漠の陽光を反射する。
同班の仲間達と距離を取り、やや中央班寄りに奏歌機は移動する。何時でも援護が出来るようにと思っている。
「そう言えば地中対応型KVって無いわね」
様々に特化した敵に対応するKV。その数は戦いの初期から見れば格段に増えている。
エリアノーラは首を傾げる。
「ドリル=浪漫、とか言って某K社あたりが造ると思ってたんだけどなー」
「この辺りで良いでしょうか」
立花 零次(
gc6227)だ。地殻変化測定器をシュテルン・G、夜桜が設置する。
足元に砂を巻き上げつつ、仲間達が配置につくのを見て、はっと我に返るエリアノーラ。
「って、いけない。C班エリアノーラ、計測開始するわ」
「EQが三体に対してこちらは九機か。少し厳しい戦いになりそうだが‥‥さて」
軍からは初期情報として、ヤンブーへと向かうEQの情報が全てのKVに転送されている。それを見ながら、ヘイル(
gc4085)は、シラヌイS2型、HS2−テンペストで地殻変化計測器を作動させる。方向は間違いが無い。どれ程のEQが潜んでいるのかはわからない。EQ数体、然程離れては無いのだろう、一塊として、計測器に反映されている。
漆黒の破曉、黒焔凰が地殻変化計測器を設置すると、鳳覚羅(
gb3095)は、【ガーデン】の仲間二人を見た。
(大規模作戦以外でガーデンの分隊長が三人も揃うとは珍しい事もある‥‥心強いね)
戦いの始まった当初からその戦い振りで定評のある小隊だ。だが、内訳は花の名を冠した小隊が分隊として、無数に集まる、大きな部隊だ。陸戦で後れを取る事は殆ど無い。覚羅は笑みを浮かべた。
「EQが居たら、地上で戦う兵隊さん達の迷惑になるの」
くっと、可愛らしく口を引き結ぶのはファリス(
gb9339)だ。サイファーE、ジークルーネ
「だから、ファリス達がここで倒しておくのが一番なの」
砂塵が足元を抜けて行く。
「だから、兄様達と一緒にがんばって倒すの!」
ファリスは、EQのやって来る方角を睨みつけた。
「軍曹さんたちが空を抑えていてくれるなら、上は気にしなくても大丈夫そうですね」
HWと迎え撃つKVの機影が遠くに見える。
九条院つばめ(
ga6530)は、小さく頷く。二度の大破を経験しても乗り続けるディスタン。
『swallow』と銘打つその機体は、多くの人を守るというつばめの意志を表すように装甲が厚い。
「せっかく確保した橋頭堡を荒らされるわけには行きません。依頼でも大規模でも幾度となく相手にしているEQ、戦い慣れてはいますが、気を抜かずに行きましょう」
共に戦う【ガーデン】の仲間も一緒だ。座席近くに鎮座する、『swallow』そのままのぬいぐるみをつばめは軽く撫ぜて、笑みを浮かべた。
「蚯蚓退治も楽ではないか」
雷電、雷電21型を動かす、荒神 桜花(
gb6569)。
砂漠と言えども、KVは特に手当てを必要とはしないのだが、念の為に砂漠用にKVへと防砂用関節パッキンを装備、電装関係の防暑対策を確認していた。六芒星のエンブレムが浮かぶサンド系のデザード迷彩が砂塵の大地を進む。
「セット完了です」
ウィングに青い色が蝶のように差入れられたシュテルン・G、Edain。
リゼット・ランドルフ(
ga5171)が地殻変化計測器を作動させる。
方向は知れている。
EQがやって来るその方角へと全ての傭兵達の意識が向かい、地殻変化計測器が、塊になっているEQの進行状況をはじき出していた。それらは、同一方向ではあるが、僅かに逸れる。
ヤンブーへと向かい、ほんの僅か、横に広がった。
その数、三。
そして、傭兵達が待ち受ける場所に一番最初に到達するとみられるEQは。
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右に配置している傭兵達が、一番近かった。
「EQが向かってくる方向に進みながら計測器で位置と距離を計って、進路上に各班が向かって対応するのよね」
そう、エリアノーラが言った直後だった。
「っ! 反応! 各機、警戒・迎撃態勢へ」
零次だ。
奏歌は、仲間達よりも僅かにその位置を下げる。
「来ましたか。ここを、通すわけにはいきませんね」
地鳴りと共に、砂漠が盛り上がる。
砂がなだれ落ち、砂塵が舞う。
「大きいな。常に密着しているのは危険か」
零次だ。
仲間達すれすれに鎌首をもたげたEQ。
その体にはびっしりとディフェンダーの様な刃が生える。
砂塵を蹴立てて、零次がブーストをかけて退く。
「回避間に合わない人は居ないわね? 零次、当たらないでよ?」
「了解ですよ、エリアノーラさんも当たらないで下さいね。奏歌さん行きましょうか」
「‥‥援護を行います‥‥」
ざらざらと雨の様に砂が落ちる。その砂の中、エリアノーラが、目前のEQへとフィロソフィーの光線を叩き込み、
試作型スラスターライフルの弾丸三十発を雨の様に撃ち込んだ。巨体が細かく穿たれ、バチバチと帯電したかのような爆発が幾つもおきる。桁違いに重い攻撃だ。
砂塵の合間を裂くように、エリアノーラ機と挟撃の位置へと、回避する際に回り込んでいたのは零次。
スキルを乗せていた零次機は、RA.1.25in.レーザーカノン、150mm対戦車砲をカウンター気味に撃ち込んだ。光線と、十五発の砲撃がEQに着弾し、爆炎を上げる。
零次の攻撃に合わせるように、奏歌機からもスキルを乗せたフィロソフィーの光が伸びる。
咆哮が上がる。
ぐらりと傾ぐEQだったが、落ち様に、狙いをつけていたのは、一機だけ僅かに離れていた奏歌機。
飛び込むかのように、巨体が伸びる。
ずるりと大地から胴が伸びる。
ぎらりと光る刃。
そして、再び吹き上げる砂塵。
「‥‥っ!」
「っ!! と、危ないですね。流石に頑丈ですが、させませんよ!」
「お終いにしようっ!」
奏歌機は、ブーストをかけると飛び退く。零次が BCランス、ゲイルスケグルを片手に。機刀咲耶を片手に、無数の刃がうねるEQの胴めがけて突進する。エリアノーラ機が、その巨大な胴へと、機槍グングニルを突きたてた。
ぽっかりと開いたEQの口が砂塵を食むように落下した。
右側に現れたEQと戦う仲間達への援護を考える間は無い。
「――EQを補足、距離は‥‥、近いな。よし、やるぞ」
ヘイルが構える。
「来るね‥‥あまり手間取るわけにもいけないからね」
戦闘が始まった直後に、左側へと現れる兆しが起こったからだ。
盛り上がる砂漠。
ざあっと押し寄せる砂に、ともすれば足をとられそうになる。
「んっ!」
ファリスは、あまりにも近くに出現したEQの刃を軽く受けるが、即座にスキルを乗せていた。酷い衝撃は無い。
「――! これ以上はやらせん!! 俺が敵の目を引く、援護と砲撃は任せる!」
「早々に方をつけさせてもらう」
スキルを乗せ、ブーストをかけるヘイルが迫り、LRM−1マシンガン三十発がEQの動きを止める。
試作型スラスターライフルで、EQの気を引くのは覚羅。三十もの弾丸が礫となって、EQを穿つ。重い攻撃だ。
細かな爆炎がその胴体を揺るがす。
うねるEQの刃が禍々しく光る。
一旦引いたファリスが、びっしりとディフェンダーの様な刃が口腔を囲むかのように生えるEQの巨大な口を狙う。
「大丈夫なの。外が堅くても、お口の中までは堅くできないの。すでにたくさんの兄様姉様たちが戦い方のお手本を示してくれたの。ファリスもそれに倣うの」
暗いその穴の奥は、FFが上手く発動されていない。大ダメージを狙うならば、そこだ。
ぐっと捻ったその口目がけ、ファリス機はG−44グレネードランチャーを撃ち込んだ。
口腔の端へとその弾丸はぶち当たる。ど真ん中とはいかなかったが、着弾したその弾丸は、派手な爆発を引き起こす。ばらばらと、上部が一部吹き飛んだ。咆哮が上がる。
うねりながら、その長い体を叩きつけるかのように地面へと向かうEQ。
「ち、流石にしぶといな。攻撃を集中できるか? 連携して一気に突き崩そう」
ヘイルだ。
「そのつもりだよ」
「はいなの」
覚羅とファリスが頷き、EQがのたうつ場を囲むように、展開する。
「はずしはしない」
EQの出現地点の地盤が細かく割れる。砂漠が流砂となって、KVを引き込み、ともすれば、足をとられそうになるが、お構いなしに、三機は弱ったEQへと三方向から攻撃を仕掛ける。
量産型機槍宇部ノ守をEQの刃の間へと突き通すのはファリス機。
ヘイル機は、ぐっと、流砂を堪える。今の機体は二番機だが、一番機の癖をそのまま引き継いでる。ヘイルが馴染むその機動性は、ヘイルの望むような駆動を見せる。伸びる腕。機槍キジャをざっくりとEQに突き入れた。
告死天使のエンブレムが砂塵をぬって走る。覚羅機が、焔刃鳳、試作剣雪村を持ち、突っ込む。EQの刃が、覚羅機に細かな傷をつけるが、構わず、叩き込んだ。
最後に出現したのは中央。
「最後になってしまいましたね」
リゼットが何時もの穏やかな笑みを浮かべる。
「形がでかいなら小さくするまで」
最終調整に余念のなかった桜花が、その地割れに太い笑みを浮かべる。
「節操のない大食漢の胃袋に、グレネードをプレゼントですっ!」
つばめ機から、47mm対空機関砲ツングースカが撃ち放たれる。G−44グレネードランチャーの弾道が空を裂くように伸びて行く。
二門ある90mm連装機関砲が、二百発の弾丸が二度、暴風雨の様に襲いかかる。桜花機だ。牽制のその攻撃の後、すぐさま150mm対戦車砲を撃ち込んだ。
共に牽制をかけるのはリゼット機。DC−77クロスマシンガンが三十もの軌跡を描いて撃ち込まれる。
それなりに硬い自負がある。ツバメ機は、のたうつEQへと迫る。
花に舞う蒼い蝶のエンブレムが砂塵を振り払うかのように進む。リゼット機だ。
「ここで、ヤンブーを渡すわけには行きません」
つばめが突進するその動きに釣られるEQ。その横合いから側面へと回り込むと、ツバメが攻撃した箇所に重ねるようにGPSh−30mm重機関砲を叩き込む。
EQの動きをよく見ながら、リゼット機はその胴付近へと接近する。手にするのは双機槍センチネル。
出現した地表付近は地割れのようになり、砂漠が引き込むように流砂が起こる。
咆哮を上げたEQは、桜花機を狙いと定めたようだ。最後の力を振り絞るかのように伸び上がる。
ざあっと、流砂が足元のツバメ機とりゼット機へと襲いかかるが、何とか二機はその流砂とEQの胴周りの刃をかわす。
「引導渡したる!」
瀕死のEQの動きだ。鈍い。
桜花機が機盾レグルスを構え、機槍千鳥十文字を振りかざし、砂塵の中、落ちてくるEQ目掛けて飛び込む。
「お引き取り願います‥‥」
胴にとりついているリゼット機が、先ほどの攻撃で抉られた場所を狙い済まして深々と双機槍を突き刺さす。
「お終いですっ!」
ツバメ機が、胴回りの刃をものともせずに突っ込む。細かな傷が、いくつもつくが、気にせずに飛び込むと、機杖と機剣を叩き込んだ。
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吹きすさぶ砂塵が、EQを砂の山へと変えて行く。
「でかいと倒すんも一苦労やで」
桜花が、やれやれと言った風につぶやく。
「皆無事で何よりだ」
ヘイルが、頷く。
「‥‥援護は‥‥必要ではありませんでしたか」
奏歌が、小さく呟く。
「他にはもう居ないみたいよね」
エリアノーラだ。
「地響きはもうしませんし、他の計測器、どうですか」
零次だ。計測器は、一様に敵不在の値を告げている。
左右に展開していた傭兵達が、最後に現れた中央の戦場へと集結していた。
「‥‥この辺りの地域が安定するまでまだまだかかりそうだね」
戦闘音の代わりに、細かい砂の音が耳につく。覚羅がぐるりと周囲を見渡す。
リゼットが頷く。
「お疲れ様です。アフリカからの残兵流入というのもあるのでしょうね」
世界の戦局が動けば、戦う地域の特色も変わる。
守りきったはずの場所が、いきなり激戦区となる事もままある。
つばめがにこりと笑う。
「攻められれば、守るだけです」
「だね」
「ええ」
【ガーデン】の分隊長達は笑みを交し合う。
「ファリスは、がんばれたの。兄さまと姉さま達のおかげなの」
こくりと、ファリスが頷いた。
砂の大地。そして紅海の深い青。傭兵達は圧勝の報告を本部に告げる事になる。
ヤンブーは、傭兵達の働きにより、UPC軍の基盤が厚い拠点と化す。
紅海を蠢くバグア軍は、じわじわとその数を減らしていた。