●リプレイ本文
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三番艦轟竜號から海中へと飛び込むKVが飛沫を上げ、次々と、こぽりと沈んで行く。
アデンへと向かうUK3からは、ひっきりなしにKVが離着陸を行っている。
その船尾へと向かう敵の情報が傭兵達へと転送される。
光点は無数。
まるで魚影のように埋め尽くされるそれは、キメラの群れを意味する。
その中に紛れるかのように複数の水中用ゴーレム(巨人)が混じっている。
まずはと、飛び出して行くのは四機の水中KV。
「ぞろぞろと敵さんがお出ましだな」
何時もの事かと、威龍(
ga3859)がレーダーを見て僅かに口角を上げる。
「数揃えりゃどうにかなるとでも思ってンのかねェ‥‥」
ビーストソウル改、紅蓮天を泳がせる天原大地(
gb5927)だ。
昨今の戦闘域にみられるバグア軍にも、続々と新型が現れている。タロスなども通常に見られるようになってきていた。巨人とて最初に目にしたときには強敵ではあったのだが、それは最早過去の話だ。傭兵達の底力は、その頃とは格段に上がっている。
「いや、楽なのは良ンだけどよ」
大地の言葉は軽妙だが、その手を緩める事などは無い。
「とりあえず、母艦に無駄な損傷を負わせるわけにはいかないんでな」
ぐっと海中をかき分けるかのように進むのはリヴァイアサン、玄龍。
「敵は一気呵成に仕掛けてくるわ、十分気を付けて」
ただ一機のみ、水上を飛沫を軽く上げて飛ぶように動くのはグリフォン、Focalor。
「敵のタックルを阻止して、UK3がタッチダウンすれば勝ち。単純明快ね」
UK3がアデンへと到着するまでの時間稼ぎに徹すれば良いと、ラウラ・ブレイク(
gb1395)は笑みを浮かべる。
「抜けさせなければ良いのよね」
前を行く四機よりも僅かに後方に位置取り、リヴァイアサン、蒼牙・破を泳がせるのは一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)。
アデンへと進行して行くUK3を確認する。同じ海域で戦った事はあるが、UK3より出撃する事になるとは思わなかった。小型要塞の如き威容は頼もしい限りではあるが、その大きさ故に守りに隙が生まれる事も在るのだろう。
(小回りの利く私たちがしっかり守らなきゃね)
蒼子は自分へと小さく頷く。
(初めての水中戦‥‥緊張します)
レーゲン・シュナイダー(
ga4458)は、S−01改、17−4445/Wilfriedに水中キットを装備しての戦闘となる。それでも出来る事はあるだろうと頷く。
「精一杯頑張りますっ」
「そうね、頑張りましょうか。私の機体も元々海中用ではないけどね」
アンジェリカ、ルミナ(
gc7699)が頷く。海中に飛び込む前に空と海とが一体になった景色が目に入っていたのを思い出す。
「海と蒼空を見てると何故か落ち着くの」
静かな海を取り戻すために、戦おうとルミナは思っている。
そんな水中キットの二機と共に、後方に位置をとっているのは鯨井昼寝(
ga0488)。リヴァイアサン、モービー・ディックは静かに戦いの時を待つが、昼寝としてみれば静か所では無かった。何時もは強敵を求めて戦場を渡り歩き、前衛へと飛び込みがちなのだけれど。
「バグア風情が塵ひとつでもつけることなど許されない、私の! ユニヴァースナイトなのよ!」
ふんっ! そんな感じ。で、この後方からの敵に対して非常に憤慨していた。何しろ昼寝は昇進した暁には、UK3の艦長に就任するのが野望というか、己の中で決まった道筋なのである。強敵に襲撃されるならともかく、水中巨人辺りに襲撃されるという事自体が、はなはだ不本意のようだった。
敵と会戦距離が近付く。
リヴァイアサンを泳がせるマグローン(
gb3046)が、敵陣営を眺めながら呟く。
「右の鮪、左の鯱、正面の龍。さて、何処を狙ってきますか‥‥」
「おっと、俺も居るんだが」
大地は、UK3を先々の為にも必ず守る。そう、心に決めていたが、その言動には表さず笑う。
「失礼。水を得た生き物系では無かったもので。そうですね‥‥さしずめ、海中の太陽でしょうか」
「ま、そんな所でよろしくだな有人機とか居るのか」
「あれ、そんな感じじゃありませんか?」
会敵した瞬間に、後方へと下がった機体が一機。
四機はそれを見逃さなかった。
リヴァイアサン、レプンカムイを泳がすオルカ・スパイホップ(
gc1882)が瞳を輝かせる。
前衛四機へと、一斉にプロトン砲が伸びる。海中に淡紅色の光線が踊る。
かわすと、ブーストをかける三機。水流がうねる。
「任せる」
「助かります。では、鮪と鯱と龍でアレを包囲撃破に行きましょうか」
「よろしく〜っ! まぐろーんさん! 着いてこれますかね〜?」
にやりと笑うオルカ。突進する三機に目もくれず、左右上下。四方向に分散するとしUK3を目指す巨人達。
「さァてと、イきますかぁ!」
大地機が抜けようとする巨人の一方向へと向かいG−09X水中用大型ガトリング、水中用ガウスガンを発射する水海中を幾筋もの気泡をまとわりつかせながら、無数の弾丸が伸び、一体が爆炎を上げる。ごぼりと気泡が上がる。
「まさか私自身が巻き網漁をやってみる事になるとは思いませんでしたが‥‥」
アンカーテイルを振り回しつつ横を抜けようとする手近な敵へと突っ込むマグローン機。僅かに漆黒の色を背に入れる、銀色の機体。コクピットはスモーク塗装。回遊する鮪に激しく似ている。
回避する巨人達。
無作為に振り回すアンカーテイルに捕まる巨人は居ない。それが知れただけでもしめたものだと。
「『敵を知り己を知らば百戦危うからず』という言葉もありますしね‥‥おっと‥‥」
フェザー砲が飛んでくる。鈍い衝撃を幾つか機体に受けるが、航行に難は無い。
威龍が僅かに眉間に皺を寄せる。
G−09Xが、マグローン機にさらに襲いかかろうとする巨人を牽制、撃破する。
「何遊んでる」
威龍だ。
あ。とばかりに、マグローン。
「いえ、少し実験をですね」
「オルカが捕まえるぞ」
「おっといけない」
オルカ機が、有人機へと向かったが、数機が立ちはだかり、フェザー砲をオルカ機へと撃ち込んでくる。有人機はその数機を壁にして後方へと逃れようとする。キメラが、囲うように有人機を囲む。
「ちょっと退いてろ! 道は開けてやるぜぇっ!」
山吹色に燃え上がるエンブレムが水流をはじく。大地機が射程距離に追いついた。
G−09X、ガウスガンがオルカ機へと向かう巨人の動きを止め、一機が爆炎を上げる。大きな気泡が海面へと延びる。無数のキメラが巻き込まれて引き裂かれ、打撃を受け海面へと浮いて行く。
「始まったわね‥‥あの辺りかしら」
海面から迎撃を開始するのはラウラ機。
くっと標準を合わせる。四方へと散った数機のうち、海面近くへと迂回路を取った機影を確認する。
敵機から伸びるプロトン砲。水面から空へと淡紅色の光線が伸びる。スキルを乗せたラウラ機には当たらない。
「藻屑になりたければ通りなさい」
通常機よりも手数が多いラウラ機の容赦の無い攻撃が次々と叩き込まれて行く。ガウスガン撃ち込まれ、3.2cm高分子レーザー砲が、追撃する。
その容赦のない攻撃に数機が爆炎を上げ、水柱を吹き上げる。海面が荒れる。
何機かはその攻撃を掻い潜り、抜けて行く。
不用意なキメラの塊をレーダーに確認したラウラは目を細める。
その不用意なキメラの塊へと仲間達が突進して行く様も。
「ゴーレムが潜んでいるのは知れているようね」
海面へと向かった巨人の一部が、海中へと逆戻りしている。
遠回りをしている別の巨人をも確認しているが、そちらまで手が出ない。
中衛である二機へと向かう巨人と、さらに分かれた巨人。
手が間に合わないと、新居・やすかず(
ga1891)は呟く。
「鯨井さん、下方へと逃れたゴーレムが二機、向かいます」
初撃を、前衛の攻撃に合わせて、剣清の意味を兼ねて撃ち込んでいたリヴァイアサン、やすかず機がキメラを無数撃ち落としながら、後衛へと状況を伝えた。
蒼子が眉を顰める。
「本当に、数は多いわね」
キメラが突進してくる様に、首を軽く横に振りつつ、G−09Xで撃ち落していたが、照準を巨人へと移す。
「プロトン砲は撃ち尽くした感じですね」
やすかずは、そう言うと、狙い定めたガウスガンを撃ち込む。
飛んでこなければ、射程はこちらの方が長い。
蒼子機のG−09Xが狙い撃つ。僅かに傾いだ巨人二機が迫る。フェザー砲の紫の光が拡散する。
やすかず機と蒼子機が揺らぐ。
「‥‥来ますね」
やすかず機はエンヴィー・クロックを発動。
「っ! 接近されるならっ!」
人型に変じた蒼子機の腕部分から、長さ一m程の三本の爪が現れる。高分子レーザークローだ。
「そう上手くいくとは思わないで欲しいな」
狙いをつけたガウスガンが、蒼子機を襲おうとしていた一体を吹き飛ばす。
「逃しませんっ!」
蒼子機のレーザークローがざっくりと巨人へと叩き込まれる。
「脇へ脇へと向かうという訳ですか」
やすかずが、抜けてくる巨人を冷静に分析する。
「少しでも多くのゴーレムをUK3へと向かわせる為の分散でしょうか」
ざあっと横合いをキメラが群れとなって泳ぎ渡る。
その群れへとやすかず機と、蒼子機は攻撃を再開する。
「正面突破とかくると思ったんだけどね‥‥」
敵機が迫るのを確認した昼寝は、あからさまに不機嫌そうに下方から抜けようとする巨人へと急接近すると、ガウスガンを撃ち込めば、ごぼりと気泡が湧く。
「もいっちょっ!」
フェザー砲を撒き散らしながら糸の切れた人形のような動きをしていた巨人が、昼寝機の攻撃で爆炎を上げた。
水中キットの二機は、後方から着実にキメラを迎撃していた。
魚群ならぬ、キメラの群れにラウラと同じく注目していたのはレーゲン。
「中にゴーレム、それも有人機が隠れていたら厄介だからねェ‥‥だが、ここまではこれないか」
仲間達がこれでもかという程の攻撃を浴びせかけている。
大きな塊となって抜けて行こうとするキメラをガウスガンで撃ち落して行く。
「装填バッチリ! ファイア!」
来るものを手当たり次第にガウスガンで撃ち落すのはルミナ機。
細かい気泡が銃撃を終え度に湧き上がる。
キメラを減らして行く。
追いついたマグローン機が有人機の死角に回る。蒼い光がマグローン機の後方に流れる。
フェザー砲がマグローン機を襲う。幾つもの衝撃を受けるが、未だ機動に問題は無い。
「魚を捌く手順でも、まずは一番面倒な部分を取ってしまうのが常道ですからね」
人型に変じたマグローン機が水中練剣大蛇を叩き込む。
「頭の切り落としと胴体の下ろしは任せましたよ、オルカさん?」
微笑み、下がるマグローン。
人型に変じたオルカ機が速度を上げ、スキルを乗せて有人機へと突進する。どん。と、巨人の胸元へと体当たりをすれば、巨人が揺らぐ。揺らいだ巨人はオルカ機へとフェザー砲を撃ち放つが、気にせずに突っ込む。蒼い光がアイヌ模様を描いたオルカ機の後方へと拡散する。くるりと手に持つのは水中練剣大蛇。
「悪いけど、ここで沈んでもらうよ〜っ」
振り抜かれ突き込まれる大蛇。防戦しようと斧で弾こうとした巨人にそれをさせる事の無い速さ。
にっ。と、オルカが笑った。
「僕、約束守らなきゃならないんだっ」
海。
海は何処でも繋がっている。この、海の、中で。
あるヒト達と約束をした。
だから。
「負ける訳にはいかないんだ〜っ」
気泡が巨人から上がり、派手な爆発を海中に起こした。
急に巨人の動きがパターン化する。
人型に変じた威龍が軽く笑みを浮かべるとディフェンダーを構えながら、レーザークローを巨人へと叩き込む。浴びせかけられるフェザー砲はものともしない。
キメラの群れは、方向性を失いながらも、UK3目がけて進路を取る。巨人と戦うKVに見向きもしない。
「どォしたよ? その程度かァッ!!」
大地が吠える。
フェザー砲を浴びせかけ、抜けようとする巨人を押し止める為に突進し、人型に変形。ソードフィンでぶち当たる。鈍い音と共に、巨人が傾ぎ、気泡を吹き上げ海底に落ちて行くのを横目に、次の目標へと向かい突進を開始する。
UK3へと辿り着いたキメラは三割程度まで、その数を減らしており、然程激しい戦闘にもならず、無事、アデンへと到着、任務達成との報が入った。
アデン攻略は叶った。
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空も、海も。そしてアデン陸での戦いも様々に終結を見ていた。
次々と、UK3へと帰還するUPC軍と傭兵達。
「久々に満足行くまで食べられそうな量ですね。まぁ、味は二の次になりそうですが」
ふっと海面を見て笑うのはマグローン。
「私はアルコール飲めませんので、食事だけにさせて頂きますね」
マグローンは、甲板の一角で酒盛りを始めているスカイフォックス隊と仲間達へと会釈しながら、スーツの上着、ズボンと脱いで行く。ワイシャツを脱ぎ捨て、甲板のヘリに立った時点で、しっかりと海パン姿へと変じていた。
「それでは行って参ります」
キメラ。食べるんですね。魚系ですけど。盛大な水音を響かせて、マグローンの姿が甲板から消えたのだった。
別の海面に浮かんでいるのは、ルミナ。
「もっと平和だったら本格的に泳げるのに‥‥」
静かに目を閉じると、戦闘音の無くなった海の音を聞きながら、たゆたう。
「祝杯に混ぜてもらえるかしら」
「いよう、ラウラ。何時も別嬪さんだ」
「ありがと」
げらげらと笑い合っているデラードにビールを手渡されて、軽く杯を合わせる。
(アイスが良かったのに)
蒼子は軽く眉を上げた。
「お、何だ何だ? アイスか?」
「べっ、別にそんなこと思ってなんか‥‥!」
デラードに聞いたのかと思う程のタイミングで声をかけられ、反射的に真っ赤になってしまう。
ある。と、クーラーボックスに入ったアイスを選べと差し出される。
「欲しいとかじゃないんだから! でも、せっかくだから貰ってあげても良いし」
つ、と手を伸ばした蒼子はしっかりと好みのアイスを握りしめ。
「‥‥美人の嫁さんを泣かすんじゃないぜ、軍曹」
あちこちに声をかけているデラードと、何となくしょんぼり顔のレーゲンを見て、威龍がにやりと笑う。
「! ま、まだお嫁さんではありませんっ!!」
「未だ?」
「あうーっ!!」
「レグと美人は別物。美人はいっぱいいて楽しいけどレグじゃない」
威龍が、からからと笑いながらビールを飲み干す。
「‥‥フォックス隊と居るとい良い意味で緊張感が無いのよね」
軍人としてはどうかと思うけれどと、ラウラは笑みを浮かべると、軽く目を伏せた。
互いに背中を預けられるのならばそれで十分であり、後は期待に応えるだけなのだから。
「さて、整備班の人達にも差入れてあげないとね」
少し貰って行くわよと、ラウラは笑い、踵を返した。
人生は楽しんだ者の勝ちだから。この僅かな楽しい時間も良いのではないだろうかと。