タイトル:GQ†決別マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/15 02:05

●オープニング本文


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 バグアが侵攻してきてから、戦線間近の村や町には言い知れない緊張が続いている。
 そんな中でも、芸がしたい。人と触れ合い、喜ばせたいという命知らずの芸人ギルドがあった。大元締めの下、小さな旅団を組んで村や街を巡る。
 ジャグラー、占い師、踊り子、歌い手。主なメンバーはそのくらいで、最小6人で幌馬車を仕立てて回る。
 時代がかったその幌馬車から出てくる、きらびやかな衣装、笑顔、不思議。
 それは、玉手箱のようで。
 その中でも、特に芸が秀でれば、その名は何時しか有名になる。
 ジプシークイーン。
 タロットカードを手にするセルヴィアの名は、その幻想的な容貌とあいまって、良く知られるものとなっていた。
 銀糸で縁取られた、黒に近い紫の、大きなヴェールを頭から被った細身の麗人。亜麻色の癖の無い長い髪に縁取られた細面の顔は、はっとするほど綺麗で。明るい茶色の瞳が切れ長の目の中で揺らぐ。
 本人が望まなくても。回すカードは、高い確率でその結果を導き出した。しかし、噂には尾ひれがつきものである。大きくなった自分の仇名に、苦笑する姿をよく見かける。

 北京で移動遊園地『東の月』へと出張興行を終えると、『ほうき星』は中東へと向かった。
 そこは『ほうき星』の踊り子であるサラの生まれ故郷が近かった。
 次第に優勢になるUPC軍。息を吹き返す民兵。
 活気つけの一役にと、地元の有力者からの要請で、その足を延ばした。
 その町は、砂漠の中にあった。
 周囲を乾いた砂塵が吹き抜ける。
 隣へと行くにはジープが無ければ無理だろう。
 ぶらりと歩けば、半日で一回り出来てしまう。
 大きな旅館は一つきり。
 町の誰しもが顔見知りのようであり、年寄りと子供の姿が目立つ。
 路地という路地は無く、大通りが町を突っ切っている。
 そんな、街で『ほうき星』からの依頼が舞い込んだのは先日。
 それは、踊り子サラが居なくなったので探して欲しいというものだった。
 サラの行方は、すぐに知れた。
 疾風のイムランと称する民兵のリーダーと共に集落を立ち去ったのだと言う。
 イムランは、サラを旅団に預けた人物であり、居場所を確認した旅団員等はひとまず安堵する。

 が。日を置かずして、アジメール付近民兵から応援要請がULTへと舞い込んだ。
 サラが身を寄せた民兵が窮地に立たされたのだ。
 砂蛇キメラを退治した傭兵達は、サラを発見した。


 アジメールの戦いも、ひと段落し、UPC軍が拠点とするべく、整備にあたっていた。
 疾風のイムラン率いる民兵の一団は、つかの間の休息に入っていた。

 サラは困惑していた。
 自分の好きなのは、旅団のセルヴィアであるはずなのに、何かおかしいのだ。
「準備は終わったか?」
「‥‥」
「んだあっ?! 一度帰って、詫びるんじゃなかったのかっ」
 ひょこりとテントに顔を出したイムランを見て、サラは下を向いた。
 イムランは傭兵に諭されたらしく、帰ると言うサラを見て、複雑な面持ちで居たのだ。
 離れて行くには寂しさとせつなさが伴う。けれども、共に居ればまた、部隊とサラが双方に危険な目を見せる。
 決断の素早いイムランが、事、サラに対しては上手く決断が出来なかった。
「‥‥帰るよ‥‥帰るけど‥‥」
 胸が苦しいとサラは思っていた。
 どうしてイムランの側から離れるのがこんなに嫌なのだろうか。
 あっさりと旅団は後にしてきたのに。
「お、おう。ローハンとヴィシャールに頼んだから、気ぃつけていけ」
「‥‥イムランはっ‥‥」
 その言葉に、サラは、はっと、顔を上げた。
「今は部隊離れるわけにはいかなくて‥‥な」
 随分と負傷者を出した。傭兵に傷は癒してもらったが、彼等のケアが未だ十分では無い。
「‥‥わかった」
 胸が痛い。
 泣きそうだった。


「アジメール解放で、傭兵達と人々との交流をお願いしたいという事です」
 オペレーターの可愛らしい声が響く。
「長きに渡り、バグアの支配下であった地ですので、慰安をお願いしたいのです」
 材料費などは、酷く高くなければ軍が持つという事だ。
 民兵を主に、人々が集まりつつあるアジメール。
 そこで、炊き出しをするも良し、芸を披露するのも良しという話のようだった。
 

「急な話ですねえ」
「ええ、アジメールへ向かうなんてね」
 旅団『ほうき星』は、人々の慰安の為にと、UPC軍からの依頼を受けて、一日だけならと、予定を変更していた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文


 奪還されたという噂話は瞬く間に広まったのだろう。
 そこかしこから、人々が、神に祈りを捧げながら、アジメールへと集まってきていた。
「ここら辺はつい最近解放奪還したばかり‥‥色々、補填が必要って訳ね」
 くしゃりと、百地・悠季(ga8270)は髪をかき上げる。
 支援活動は得意分野だ。
 アジメールが、先行きの展望が開け、未来へと進めるようにと、様々に手伝おうと思っている。
 傭兵として戦いの中に身を置いてきた。けれども、ここ一年程、現場から遠ざかっていた。
 復帰して、まだ間が無い。
「体調は上向きだけれども、こういう処がお似合いだからね」
 遊んでいる子供達を見て、優しげに悠季の眼が細められ。
 さてとばかりに、炊き出しの手伝いへと向かう。
 まずは、炊き出しならばと、終夜・無月(ga3084)が設置や下拵えに加わる。
「随分落ち着いてきましたね。よかったです」
 安堵の息を吐き、レーゲン・シュナイダー(ga4458)は、アジメールを見渡す。
 そこかしこに休息を取る人々が居る。
 立ち働く人々の合間に座っている年老いた人へとレーゲンは笑いかけると、彼等も口の端を笑みの形に変え。
「あの、私でお話し聞く事が出来れば。話すと、気持ちが楽になりますですよ」
 そっとその皺深い、乾いた手をレーゲンが取れば、老人はそうだなと頷きながら、今は未だ、話す気持ちにはならないけれど、いつか、話す事が出来るようになれば、また聞きに来てはくれないだろうかと言われ、その時にはとレーゲンは頷く。未だ、語る程気持ちの整理はついていないのだろう。炊き出しの手伝いに回る事にする。
「何を作ろうか迷うところだけど‥‥キーマと‥‥それに合わせてのチャパティとプーリーで行ってみようかしら」
 炊き出しを手伝いながら、リン=アスターナ(ga4615)は、イムランの姿を見つけて、歩み寄る。
「今回はサラは衝動的に飛び出して貴方のところに来たわけだけど。――次。一座に戻って、自分の気持ちを整理して‥‥その上でもう一度彼女が貴方のところに来た場合。その時は、サラは覚悟を決めて此処に来るはずよ。だから、そうなったら貴方も覚悟を決めるべき」
 挨拶を交わしたリンの言葉に、イムランが戸惑いを見せる。リンは軽く息を吐く。
「その時、生半可な気持ちで彼女に相対したら‥‥きっと、貴方も彼女も不幸になってしまうと思うから‥‥ね」
 たとえ、どんなに迷いがあっても、離してはいけない手がある。
 その時を見失うなと。
「‥‥肝に銘じとくよ」
「そう願うわ」
 リンがイムランへと頷いた。
「また邪魔するぜ」
 音符が飛ぶような明るい口調で、アンドレアス・ラーセン(ga6523)が、前回顔見知りとなった民兵等を見つけ、軽く挨拶をする。
「うちのアスが、お世話になったみたいで」
 へにゃりと、人懐こい笑顔でアンドレアスの横で、挨拶をするのは空閑 ハバキ(ga5172)。たっぷりと炊き出しの材料は確保してきている。挨拶を終えると、立ち働く女性達の間へと、するりと馴染むように入って行く。
「おかーさん! ここの お袋の味 教えて?」
 その屈託の無い姿に、子供に対するかのように、女性達は、良いよとハバキへとついて炊き出しの場所へと。
 アンドレアスは、活気が徐々に戻りつつあるアジメールを見て、目を細めた。
(俺は生きてて、健康で、エミタの恩恵がある。そうでない人々に対して、何が手助けできるだろう? 最近、そんな事を考える。おこがましいのも判ってる‥‥)
「‥‥ってか、本来は柄じゃねぇし‥‥難しいな‥‥」
 かしかしと、頭を掻くと、アンドレアスは、現地の女性達と混ざって炊き出しを開始した友を見て苦笑すると、その炊き出しに参加しようと大きな歩幅で歩き出す。
「この辺りの旨い酒ってなんかある?」
 ひょいと覗き込み、借り受けた天幕の設営をしながら、声をかければ、笑い声と共に、酒瓶が回される。
(食って盛り上げる方なら得意だぜ)
 一口含むと、その度数の強さに軽く目を見開けば、女性たちがつまみとなる食べ物を、アンドレアスへと回してくれる。あっという間に、小さな笑いの輪が出来る。
 屋台を複数出してはどうかと杠葉 凛生(gb6638)がUPC軍に言えば、それは良いかもしれないと、UPC軍が様々な屋台を展開する。
 凛生は、集まってくる人々を見て、目を細めた。
 各地では様々にバグアから取り戻した大地が、その土地毎に、様々な様相を表している。
 アジメールは幸いだと。
(せめて、この地は、人が安らかに暮らしてゆける場所になるように尽くしたいものだが‥‥)
 軽く首を横に振る。
 凛生は、さて自分はどうするかと、とりあえず、炊き出しの一角でカレーを作り始める。日本の良くあるカレーだ。材料は大きく、だばだばと鍋に放り込まれ、出来合いの複合スパイスブロックがざっくり投入される。
「食ベレタラ、良インデス」
 その凛生の料理を手伝いながら、ムーグ・リード(gc0402)は故郷アフリカを思う。
(‥‥ユックリト、癒スシカナイノデショウカ)
 解放できたはずなのに、様々な出来事が現れ、ムーグは未だ安堵とは遠い心持ちであった。
 だから、アジメールが少しでも、人々にとって安寧の地となればと、強く思う。
 イムランを見つけると、ムーグは声をかけた。
「良いン、デス、カ‥‥?」
「良い訳ない」
 サラが、イムランの生きる指針。そう、ムーグは了解している。手放したと聞き、不思議に思ったのだ。
 生きて再び会える保証は、今のこの世界の中、何処にも無いというのに。
「こっちの気持ちだけじゃあ、人は動かんよ。サラも‥‥俺ん所の奴らもな」
 困ったように笑うイムランを見て、ムーグは頷いた。
(‥‥アア、ダカラアナタハ、疾風デ。ソウヤッテ、最善ヲ尽クスシカ‥‥ナイノデスネ)
 きっと自分も同じなのだろうと、ムーグはイムランに無言でうなずいた。
 と、その時。
 傭兵達は『ほうき星』がやってくるのを見て、目を丸くする。その中にサラは居ない。
 セルヴィアへと走って行き、サラとすれ違いになった事をもどかしそうに説明するイムランの言葉を聞き、何名かは顔を見合わせた。
 ジーザリオのエンジン音が響く。リンとレーゲンが、サラ達が向かったという地へと走り出した。
 それを見送るイムランの後姿。その様子を、傭兵達は様々に思いながら目の端に留める。
 
 アンドレアスは、ナンと鶏のキーマカレーを作り始める。この付近で馴染みのある野菜の塩味雑炊を別の火にかけてコトコトと優しい香りが立ち上り始める。
 現地の調味料を受け取り、アンドレアスは頷きながら、味付けを調節して行く。
「‥‥ジャーレビー?」
 甘いものも大切だよねと、言うハバキに、女性達は揚げる細く丸いお菓子を手渡した。砂糖コーティングの、見るからに甘いそれは、出来たてが、より美味しいけれど。
 走って行った妹とも思うレーゲンの顔を思い浮かべて、そっと取り分ける。
「俺も大概、根無し草だけど、旅って言うのは、また違うんだろうね」
 様々な準備を始めた『ほうき星』の一団を見て、ハバキはぽつっと呟いた。
「少し抜けて良いかしら」
 悠季が、子等をちらりと見て、炊き出しの仲間達へ告げて抜けて行く先では、子等の歓声が上がった。
 赤子を抱いた母達と会話しながら、悠季は、残してきた我が子を思う。
「戻って愛し子を抱きしめたい処よ」
 悠季の笑顔は、今はもう、母の笑顔だった。


 ジーザリオは、サラ達の乗るジープに並走する。何事かと、止まったジープへと、レーゲンが身を乗り出した。
(帰る場所。居たい場所。それは、イコールではないけれど)
 レーゲンはそう心中で呟く。サラが何を選び、どう行動するのか。
 全てを決めるのは彼女だから。そう、イムランも言っていた事をレーゲンは思い出す。
「『ただいま』って、言いに行きませんか?」
「何を言っているかわからないわ。今、移動中なの。邪魔しないで」
 渋面を作るサラ。
 一座がアジメールに居るという事を、レーゲンもリンも口にしていない。
 だが、同行のローハンとヴィシャールが、気が付き、ハンドルを切り返す。
「まだキメラがうろついている可能性が無い訳じゃないし、その護衛も兼ねて、同行させてもらうわ」
「助かる」
 ヴィシャールが笑いながらジープを動かす。
 理解したサラの瞳が不安に揺れるのをリンとレーゲンは見た。
「ホント、気難しい迷子の子猫ちゃんね」
 リンは軽く笑い返す。保護したと思えば、これだ。
(この前偉そうなことを言った手前、サラが一座に戻るのか見届けたい気持ちもあるしね)
 果たして、サラが選ぶのは。

 アジメールに戻ったサラは、ジープを飛び下りると駆けだした。
 傭兵達は、その動きを目の端に入れながら、炊き出しの手を止めない。
 セラと団長の前に立つと、サラは、黙って出て行ってごめんなさいと頭を下げた。
 少し離れた場所で、イムランが複雑な表情をしている。
「何時か帰るつもりでいたの」
 サラはイムランの居る方を見て、でも、と、再び旅団の面々に頭を下げた。
「今まで育ててくれてありがとうございました」
 セラが穏やかに頷く。言葉は必要ないようだ。旅団の面々から、盛大な歓声が上がり、鳴り物、紙吹雪が踵を返したサラの背に送られた。真っ直ぐにイムランに走って行くサラ。
 その行動に慌てたイムランだったが、飛び込んでくるサラをしっかりと受け止めた。
 
 集まった人々へと向かい、無月は穏やかに歌い始める。
 Light of hope
 Poetry of wind
 I wish the prayer
 Your safety
 Your return
 Even if you can do only the praying thing
 If it is possible to become your power
 It keeps praying
 It keeps thinking
 I think you who loves to be a mind

 Light of love
 Poetry of the earth
 I think and fight
 Your voice
 Your face
 Even if far away now
 If it is possible to think of the thing that it can meet you
 It keeps fighting
 It keeps thinking
 I think you who loves to be a mind
 それは癒しの歌だった。
 穏やかに微笑む無月に、顔を出した人々は覚醒の際に現れる姿を見て一瞬驚くが、キュア、錬成治療により、自身が回復の兆しを見せると、一様に破顔し、礼を言いつつ去って行く。
 無月は、大きな仮設テントを設えると、ベッドを設置する。UPC軍から誰しもが扱え、預かれるだけの医療器具、医薬品を借り受ける。それならばと、医療機関の人間が無月を補助にやって来ており、人々の健康状況は改善されて行った。
「特技つったらコレ、だわなあ」
 アンドレアスの、アコースティックギターの正確な音が豊かに音域を広げて響き渡る。
 乾いた風を思わせるアルペジオから豊かなストロークへ。
「さあ、さあ、リクエストはあるか? 有名な曲は勿論、鼻歌をなぞるのも得意だぜ。ちょっと派手なアレンジ入るけどなッ」 
 次々と声をかけられ、アンドレアスは時間いっぱい、鮮やかな音を響かせ続け。

 賑やかに、旅団の芸が始まる。今日限りと、サラが艶やかな踊りを踊り始める。
 気が付いていなかった民兵の一部がざわつく。
 レーゲンが感歎の声を上げて、初めてみる公演にくぎ付けになっている。
 その中で広げられる、カード。
 今回は簡易な設えであるためか、引くのは一枚のカードのようだ。
 凛生が設置中のセラへ挨拶をする。
「占いなんか信じちゃいなかったが‥‥お前さんのは当たるみたいだな。だが‥‥せっかく指針を示してもらっておいて悪いが、失うと分かっていても、手を伸ばすことが出来ない事もある。お前さんに言う事でもなかったな‥‥すまない。どうかしているな」
「‥‥いいえ。全ては‥‥貴方次第‥‥占いは‥‥手助けに過ぎないの‥‥」
 貴方の思うようにと、笑むセラに、凛生は、苦笑を返し、後ろ手に軽く別れの手を上げた。
 軽く挨拶を交わしたリンが引いたカードは『世界』の正位置。
「全てが結実したこの時から‥‥また貴方は動き始めるのでしょう?」
「そうね、またね」
「ええ‥‥また」
 リンが立ち去った後顔を出すのは、悠季。
「せっかくの余興だもの。お願いしていいかしら」
 悠季の引いたカードは『法皇』の正位置。
「貴方の信じるままに‥‥無償の愛を広げて行くのね」
 良き道が前に伸びるのが見えるとセラは悠季に祝福の言葉をかけて見送った。
 わくわくとレーゲンが引いたカードは『運命の輪』の正位置。
「‥‥転機が訪れているわ‥‥貴方の思う道を選んで‥‥」
 回る運命は様々な顔を連れてくる。だが、運命に良いも悪いも無く、ただ、現れるその事象を、どう自分が受け取るかで、その先は変わるのだと、レーゲンは、穏やかに見送られる。
「よう、久しぶり。憶えてるか?」
「ええ‥‥鮮やかな貴方もお変わりなく」
「千里眼も気苦労が多そうだってね」
 大きくなったと、踊るサラを見てアンドレアスは笑う。先の依頼での出来事を簡単に伝えれば、謝意を告げられ、見つけたのは俺じゃないけどなと、アンドレアスは、また笑うと、真顔に変わる。
「‥‥『1番』が2つになった時、お前ならどうする?」
 カードを広げようとするセラを制すると、遠い目をする。
「選べない程に特別な想いなら、名前も順番も要らない‥‥のかもしれない、きっと」
 僅かな沈黙の後、にやり笑う。
「さて占いを頼もうかね。この先、俺が進むべき道を示してくれ。答えは俺の中にあるのだとしても」
 占いを必要としない方なのにと可笑しそうにセラは笑う。アンドレアスが引いたカードは『皇帝』の正位置。
「貴方の望む方向へと‥‥何もかも抱いて‥‥」
 もう、決めていらっしゃるのでしょうとセラに言われ、アンドレアスはまあねと笑った。


 がれきの撤去や、廟の整備へと回っていたのは、ムーグと凛生。
 復興の様を見て、ムーグは凛生に声をかける。
「‥‥新宿、ニモ、イツカ、戻れル、ト、良い、デス、ネ」
「ムーグ、俺達は小隊の同僚で、アフリカ解放の戦友だ。それ以上でも、それ以下でもない。何も気に病む事などない」
「‥‥」
 戸惑う気持ちへと決別を告げたい凛生。それが分かる故に、答えに逡巡するムーグ。
 判り過ぎる相手のただ一つの気持ちが互いに分からない。
 帰還の時刻が迫る。
 笑顔が広がったアジメールを見て、ハバキは、時間いっぱい子等に歌を歌っていたのを切り上げる。
「こういうのも、良いかもね」
 アンドレアスへと呟いた。
 思うのは、先の事。考えるにはまだ早いのかもしれないし、自分も考える方では無かった。
 けれども、今は一人では無い。
 全てが終わり、その時自由があったなら、彼女と共に笑顔探しも良いだろうかとふと思ったのだ。
「旅にでも出っかなぁ」
 ハバキの言葉を聞いていたアンドレアスは、遠くを見ると、ぽつりと言った。
 



 アジメールに鮮やかな夕焼けが広がっていた。