タイトル:花のラグーンマスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/21 00:18

●オープニング本文


 とある海域に、そのラグーンはあった。
 鮮やかなコバルトグリーンの海に囲まれたラグーンの周囲には、僅かばかりの陸地があり、そこに人が集落をつくり暮らしていた。
 小さな村と言って良いだろう。
 そこそこの施設が整い、漁をして暮らしている。
 穏やかな気候と共に、人々はのんびりとした気質だ。
 陸地には、色とりどりの花が咲き乱れ、鮮やかな色の鳥や蝶が一年中飛ぶと言う。
 ラグーン内へとダイビングすれば、銀の背や腹を見せる魚群と遭遇するだろう。
 透明度の高いその内海の中、サンゴの連なりの中、空へと延びるかのような海の円柱が見られるポイントがある。
 岩場の中へと潜ったその先に、コバルトブルーの光を見て、何を思うだろうか。
 
 そのラグーンに、キメラが現れた。
 ラグーン内の船着き場にいつの間にか大量に現れていたのだと言う。
 それは、牡蠣のキメラだという。
 全長が30cm程の牡蠣キメラは、船底へびっしりとへばりついている。
 一体毎の攻撃力はそう高くは無いが、どうにもこうにも数が居る。
 攻撃は突進。
 近寄れば、勢い良く飛んでくるという。
 下手をすれば船に穴が開く。
 何とか、このキメラを排除してはくれないだろうか。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
金 海雲(ga8535
26歳・♂・GD
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG

●リプレイ本文


「うおおおなんだコレ、どこまでもアラウンド砂浜ダヨお姉様!」
 広がる青と碧の海と真っ青な空、珊瑚の砂浜は何処までも白く、幻想的な風景にラサ・ジェネシス(gc2273)は、着いた早々、歓喜の叫び声を上げる。そんなラサに向かい鷹揚に頷くエイミー・H・メイヤー(gb5994)。表情は鷹揚だけれど、気分は上々。
「海の色も空の色も綺麗‥‥早く仕事終わらして遊ぼう」
 今にも走り出しそうなラサは、いけないいけないと、エイミーに満面の笑顔で振り返る。
「っとまずは依頼を片付けないとネ。依頼が食材調達になるとはナイスなのデス」
「‥‥ん。さっさと。片付けて。牡蠣を。堪能したいね」
 ほてほてと歩いて来た最上 憐 (gb0002)の瞳は、キメラ牡蠣の居るという船場に釘付けだ。
 食べ物が大量にある場所には、高確率でその可愛らしい姿を見られるだろう。
 そして、その理由を知るに時間はかからない。
「では、憐嬢の為にも、食べれる状態で沢山ゲットしなくてはな」
 エイミーが頷く。
「存在意義が今一良く分かんないケド、キメラって何でもアリなんだなー?」
 船底にビッシリとへばりついている牡蠣キメラ。そう、本部で聞いている。
 軽く腕を組んだノビル・ラグ(ga3704)は、少し考える風に小首を傾げた。
 確かに、謎な存在のキメラは多々存在する。
 例を挙げればキリが無いくらい、謎なキメラが過去もきっと未来も人類の前に立ち塞がるのだろう。
 そして、チャレンジャーな能力者達により、食材と括れるキメラが存在する事も最早周知の事実でもある。
「ラグーンの人が海に出れないって大変なんじゃ‥‥」
 沈みそうなほどびっしりとついた牡蠣キメラに、金 海雲(ga8535)は、眉を顰める。
「早く解決しないと」
 大真面目に頷く。
 んが。
「カキか‥‥北半球ではシーズンだな」
 発せられた言葉は、やっぱりしっかり、食べる気が満ち溢れていた。
 だよねーと、ノビルが笑う。
「特に体に害がないなら、退治後に食っちゃっても大丈夫‥‥だよな?」
「‥‥私は‥‥遠慮しておきますが‥‥」
 朧 幸乃(ga3078)が、僅かに微笑む。牡蠣そのものも、あまり好みでは無い。そして、正直、キメラも食べたいとは思わないので、食べる気満々の仲間達を見て、きっとすぐになくなるのだろうと、再び微笑んだ。
「俺も食ったこと無いよ、でもまあ、牡蠣にしか見えないし‥‥」
 幸乃の逡巡を見たノビルは、遠くからも視認できる、巨大牡蠣を見て笑う。
「くっくっくっ‥‥さて、気楽に行こうかね」
 しっかりと、現在ただいま水着姿の錦織・長郎(ga8268)が、軽く肩を竦めた。
 渡る風の心地よさに、長郎は僅かに目を細める。
 戦闘音とはかけ離れたこの地は、心のコリをほぐしてくれるかのようで。
「ま、手を抜く気は無いがね」
「じゃ、行こっか〜っ」
 キラリ。
 そんな感じで、大泰司 慈海(ga0173)が仲間達へと向き直った。


 さくり。さくり。能力者達が思い思いの方角から、砂を踏みしめ、船着き場へと接近する。
「‥‥アーミーナイフだけで戦うなんて初めてだぜ。まあ、相手が牡蠣キメラなら大丈夫だとは思うケド」
 銃以外で戦うの初めてだ。
 ノビルは、アーミーナイフを構えつつポリカーボネートをふらつきながら掲げて呟く。
「うわ‥‥! 盾って持ち辛ェ‥‥!!」
 半透明の盾で、前は見やすいのだが、何時もと違うスタイルはどうにも不安だ。
 派手な音を立てて、牡蠣が飛んでくる。顔よりでかいその姿。
 当たって落ちた牡蠣へと、砕かないように気を配りながら、ノビルはナイフを突き立てる。
「何とも無造作に存在している事だね」
 長郎は、スキルを発動してはいたが、露わに見える牡蠣にやれやれと溜息を吐く。
 サーペンティンで受け止めると、落ちた牡蠣へとやはりナイフを突き立てて。
「海から近づかなくても大丈夫そうですね」
 GooDLuckを発動させていた海雲は、ひょーんと飛んできた牡蠣をシールドで受け止め、マチェットナイフで止めを刺した。当然の様に、殻の継ぎ目を、しっかり狙った。
「大した衝撃もありませんし」
 攻撃の度合いを確認もした海雲はひとつ頷く。
 どっちにしろ、傷はたしょうつこうが、何しようが、食材として退治出来れば構わなかったりするのだから。
 海雲も良い笑顔で、美味しい牡蠣狩り。もとい、キメラ退治に専念する。
「一体づつ、確実に行こうね〜っ」
「‥‥ん。いっぱい。飛んで来た。まとめて。落とさせて貰う」
「うわおっ!」
 船に近づきすぎず、飛んで来る牡蠣を誘導するようにしていた慈海は、集団になりかかった牡蠣にあれ、やっちゃったかなみたいな感じになったが、こくりと頷いた憐が颯爽と食材、もといキメラに対峙する。
 憐は、複数飛んできた牡蠣を残像もかくやという動きで、ばっさりと一網打尽。
 んが。武器はナイフ。砂地へと落ちまくった牡蠣はしっかりと食用可能状態。
「‥‥ん。無事なのは当然」
 満足そうに頷く憐。
「‥‥地道に‥‥戦えば‥‥対処可能の、ようですね‥‥」
 少し時間がかかるけれど、人が近づけば飛んでくる牡蠣は、そう難なく退治できそうである。
 幸乃のデカラビアにがっつんと牡蠣が当たり。やっぱりナイフでさっくりと。
 水際まで踏み込んだラサのワンピースが海に洗われ、ふわりと揺れる。
 んが、ラサは、どやっ。という笑顔。
「こんな事もアロウカと下は水着ナノダ」
 ライオットシールドで叩き落した牡蠣は、シザーズナイフでがっつりと退治。
 何処から出したか、アルティメットフライパンに乗せる。
 その隙目がけて飛んでくる牡蠣へは、水音を大きく立てて走り込んだエイミーがエアストバックラーで叩き落す。
 そしてさっくりとナイフで退治。
「収穫は後の方が良くないかラサ嬢」
「はっ! お姉様の言う通りデス」
 と、きらきらとした空間を展開している二人だが、次から次へと牡蠣は飛んで来るようで。
 ラグーンの内海が穏やかな波を船着き場へ送る。
「――よし! こんなトコかな? ‥‥結構、凶暴だったぜ」
 ノビルが腰に手を当てて、やれやれと言った風に笑う。
 慎重に退治を続けていた能力者達の前に、これでもかというくらいの牡蠣の山が出来るのに時間はかからなかった。
「‥‥さて‥‥」
 水陸両用の槍へと持ち替えた幸乃は、水中に取りこぼしは無いかと確認へと回りながら、船体チェック。
「もったいないですからね」
 海雲がざばんと海中から顔を出す。退治した牡蠣が落ちたのを拾いに行っていたのだ。
「怪我した子は居ないかな〜っ」
 慈海が、仲間達を見渡すが、牡蠣キメラに後れを取る者は誰もいないようで良かったと、慈海は笑った。
「一般人にとっては充分に脅威だよなー‥‥コイツ等」
 山となった牡蠣を見て、ノビルが呟く。
 そう、あっさりと退治出来るのは、能力者だからこそ。
 人々はこんな可笑しなキメラですら、退治するのは容易ではないのだ。
 だから、今も、世界各地で、能力者達を待つ人々が居る。
 けれども、今日はひととき、休息を。


 何か手伝いをと、船の補修へと向かったのは幸乃。
 ゆっくりしてくれればいいのにと言う人々へ、笑顔を向け、人々の合間に入る。

「‥‥ん。調理は。お任せする。私は。陸を攻めて。食材を。探して来る」
 憐は、ぽてぽてと、木々の合間へと分け入る。
「‥‥ん。見た事。無い。花が。沢山。食べられそうな。匂いと。気配がするのを。少し。持って行こうかな。野菜代わりに」
 鮮やかな花、舞い飛ぶ蝶。色とりどりの鳥の囀り。美しい場所だったが、憐の瞳に映るのは、食べ物だ。
 するすると、ヤシの木に登った憐。
「‥‥ん。ヤシの実。ゲット。‥‥ちょっと。味見して行こうかな」
 ちょっと。
 亜空間に吸い込まれるかのように憐にとってはちょっとだけヤシの実、木一本分が無くなった。
「‥‥ん。美味」
 すたん。と、ヤシの木から降りると、次のヤシの木へと再び憐は登って行く。
「あ、じゃあお願いします」
 慈海は人当たりの良さを発揮し、救出した船で地元の漁師達と海へと繰り出す。
 その近くでやはり、ノビルも海へと潜っていた。
 鮮やかな光が、碧と青に色を変える。
 ざあっと横を通り過ぎる魚群は、七色に金銀の粉をまぶしたかのように光る。
 一瞬暗くなるが、それは岩場に入ったからだ。薄明るい白い光。
 その光目指して行けば、ぽっかりと円柱に海が空へと延びている。
 渦を巻くように泳ぐ魚達。
 祝福されたかのように降り注ぐ光。
 ノビルは目を細める。
 胸が痛い程綺麗なその場所で、胸が暖かくなる大切な人を思う。
 きっと今もどこかの戦場で戦っている筈で。
(‥‥凄ェ。あいつにも一度見せて遣りてえな〜。絶対に喜ぶだろうな。あいつ‥‥)
 こぽりと、気泡が海と空へと旅立つ。
 慈海はその景色に心中で深い溜息を吐く。
 刻一刻と表情を変える海と、この海と共に穏やかに生きる人達を思い、穏やかな笑みが浮かんだ。
(いい年して、悩んでばっかり、失敗してばっかりだけど‥‥)
 この場所を守る事が出来る能力がある事が、嬉しかったから。
(これから先も、沢山の困難が待ち受けているだろうけど)
 何時か、バグアから解放されるその日まで、この幸せを心に刻んでおこうと。

 憐が嗅覚で選び取った食材を、地元民は覗き込むと、それは食べられると笑われる。
「‥‥ん。オススメの。食材とか。特産物とか。あったら。頂戴」
 愛らしい手へと、村人達は喜んで魚を手渡す。
 ぺこりとお辞儀して謝意を示すと、憐は、海に潜っていた仲間に期待と、心の中で呟いた。


「‥‥ん。色々。沢山。採って来たよ。適当に。使って。余ったら。私が。食べるので。安心」
 大きなリボンをふわりと揺らし、憐が頷く。
 カレーのいい香りが立っている。
 エイミーが、オイスターカレーを作っていたのだ。
 こくりと、憐が頷く。
「‥‥ん。手伝おうか? 味見とか。味見とか。味見とかを」
「主に、憐嬢が喜んでくれると思った」
 エイミーが笑い、どうぞと差し出す。
「‥‥ん。いただきます。‥‥そして。おかわり。大盛りで。特盛りで」
 つるんとまるで飲み物の様にカレーが皿から消える。
 さっと差し出された綺麗な皿へと、エイミーが笑顔で特盛りにカレーを盛る。
 それも、また憐により、あっという間に消費されるのだけれど。
「新鮮なうちに食べないト」
 ラサは、ベジタブルパスタ+生牡蠣の刺身、フライ、グラタン、を手際よく作っていた。

 日本酒を、地元の人へと、さあさあと注いで回る慈海は、パーム酒を注ぎ返されご機嫌になってくる。
「‥‥一緒に‥‥」
「‥‥どんどんいって、どんどん〜っ」
 声をかけようとした幸乃は、すでに盛り上がりまくっている慈海とあっという間に宴会に巻き込まれる。
 隙を見て、大陸の依頼での事を告げれば、ああと、慈海は目を細める。
 軽くその方角へと、杯を掲げる。幸乃は、思いの残るその人の為、杯を置き、僅かに微笑んだ。
 エイミーが肉を串に刺していたものも、良い香りで焼かれ始める。
 フルーツは山盛り盛り合わせ。
 かいがいしく宴会会場を動き回るエイミー。
 すっと焼けた串に可愛らしい手が伸びる。憐だ。
「‥‥ん。BBQは。弱肉強食。食物連鎖。どんどん。頂く」
「エビも魚も良い感じに焼けてきたよ」
「‥‥ん。ありがたく頂く」
 憐の前から食べ物が無くなる事は、宴会が終盤になるまで無かった。
「あのさ、ガーリックバター焼きも良いと思うんだ」
「良いですね。それも作りましょう」
 ノビルが海雲へと声をかければ、海雲が任せろとばかりに良い香りを立ちのぼらせる。
「美味しいものだね」
 仲間達が食べる様を確認した後、長郎は牡蠣にてをつける。どの味付けも美味しいが、シンプルなものが良いだろうかと、浜焼きを開始する。
 ゆったりとした甚平が南の風をはらみ、心地よい。
 長郎にふと笑みが浮かんだ。
「バグアの影響のない海にしたいな」
 海雲は、ふと、視線を海へと向けて、穏やかに微笑んだ。
 海難事故で記憶を無くした自分だけれど、海。特に南の海がとても好きで。
「やっぱ牡蠣は飛び掛ってこない方が良い」
 じゅう。と、良い音をした牡蠣をぱくりと頬張ると、海雲は満面の笑みを浮かべた。


 BBQから早々に退出した幸乃は、ゆっくりと海を見ていた。
 さくりと踏みしめる砂が心地良い。
「コバルトグリーンの海‥‥ちょっと違うけど、彼女の髪も、緑だったな‥‥」
 海を見て、幸乃は懐かしい顔を思い出す。
「珊瑚に、魚‥‥まるで水族館みたい‥‥」
 そう、あれも冬の。
 幸乃は懐かしげに眼を細めた。

 ハンモックに揺られる長郎は、傾いてくる陽射しを感じて目を閉じる。
 ゆるりとした時間がやってくる。
 戦いは日常だ。
 名のある敵と何度も対峙した。
 様々な任務をこなし、ここまでやって来た。
(この先も、まさにしぶとき蛇として、進みたいものであるね)
 ふ。と、長郎は口の端を笑みの形に歪めた。

 去り行く日を惜しむかのように、ラサとエイミーは海へと走り出す。
 歓声が上がる。
 水飛沫が、陽光を受けて光った。

 慈海は、ハンモックに揺られ、鳥の囀り、花の香に目を閉じた。
 思う事は多々あれど、今は南の空気に抱かれて。
 ゆっくりとした眠りに入って行く。

 ぽーんとビーチボールが受け止められた。
 そろそろ日暮れだ。
「さーて十分休んだし我輩達は前に進まないとネ」
 ラサが笑い、エイミーが頷く。
「バカンスはあっという間だ。また頑張るぞ」 
「チャッチャとバグアでも倒しますカ」
 ラサは、うーんと伸びをして、満面の笑みを浮かべて振り返った。
「一人じゃないしこれからも大丈夫ダヨ」
 傭兵は個であるが、集団である。
 誰もが一人では戦えない。
 誰もが、仲間と共に、戦いへと赴く。
 その寄り何処は違うとしても。
 




 バグアとの戦いは、宇宙(そら)へと戦場を広げていた。
 戦いは未だ続く。
 けれども、一人では無い。




 いつか、きっと。