タイトル:【鍋】玄界灘に挑め!マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/09 12:19

●オープニング本文


冬の寒い時期、皆で囲めば会話が弾み体も心も温まる鍋。
 1人で囲んでも心に侘びしさを感じる時もあるが、体を温める鍋。
 万年常夏の地方では、香辛料たっぷりのアツアツを囲み、額に汗を掻き乍ら食べる鍋。
 犬やら猫が入って人を和ませたり、思わぬ物が入っていて恐怖を与える鍋。
 鍋の蓋をあければ。そこには、色々な物語が詰まっている。

 ──今、一つの鍋があなたの目の前にある。
 この鍋は、あなたにどんな物語を齎してくれるだろう?

 + + + + +

「護衛をな、頼みたいんじゃ」
 目達原駐屯地の反バグア組織だった『玄界灘一本釣りクラブ』の三山宗治は、何所かとぼけた顔して、とぼけた依頼を持ち込んだ。
「で、浜鍋ですか」
「寒いからのぅ」
 寒い。お腹が空く。それは、非常に辛い事だ。
 冬を乗り切るのは本当に辛かった。けれども、今は堂々と海に船が出せる。
「ただのぅ、壱岐島がな」
 壱岐島には未だキメラが多く生息している。万が一、キメラが襲ってきたら。防ぐ手立ては誰も無い。
 冬の浜鍋は美味いぞ。
 にやりと宗治は笑った。
 食材を持ってきてくれるのも大歓迎じゃと笑い。
 釣り船に同船し、浜鍋を食べるための護衛をお願いしたいという、寒風吹き荒ぶ海の依頼がやって来た。
 親睦を深めるのには鍋が良い。
 反バグアも、親バグアだった‥親子も。
 共同作業が絆を作るんじゃろう?と、宗治は笑った。

●参加者一覧

三間坂 京(ga0094
24歳・♂・GP
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
建宮 風音(ga4149
19歳・♀・ST
嶋田 啓吾(ga4282
37歳・♂・ST
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM

●リプレイ本文

●当たり前な日常が戻って
「楽しく過ごせれば良いね」
 能力者が居る事で、安心してもらえたら良い。建宮 風音(ga4149)が割り振られた船の船長に、人懐こい笑顔を向ければ、そうだなと、やっぱり笑顔で返されて。
 粋な依頼をしてくれるじゃないかと、口の端で笑うのは伊河 凛(ga3175)だ。キメラの脅威は確かにあるのだろうが、能力者達を交えれば、反バグアも、親バグアも表立っては角突き合わす事も押さえられる。ていの良い緩衝材といった所なのだろう。
「どーせ出るなら、巨大鮭型キメラとかだったら良いのにナ〜」
「そんなのが出たら、討伐依頼出しとるのぅ」
 見知った顔を見つけて、ダウンジャケットを着込んだノビル・ラグ(ga3704)が元気よく手を振った。振られた先の今回の依頼主、『玄界灘一本釣りクラブ』の三山は、刻んだ皺を撫ぜて、とぼけた顔して笑う。反バグアとして、水面下で人の心の拠り所となっていたこのクラブは、ようやく、何の裏も無い、ただの釣りクラブとして活動が出来る事となったようだ。
「え〜! 出ないのか?! キメラ」
 出るかもしれんし、出ないかもしれんなぁと、笑う三山の姿に、どっちだよ。と、突っ込みたいのは山々だったが、今回の依頼の主な目的は護衛と浜鍋なのだから、警戒は必要だろう。
「この時期ならば、クロやら、アラカブかね?」
「そうさな、アラカブもかかるが、メバルが一番多いようじゃ。クロは大物が連れるとええのぅ」
 仕掛けのコツを三山に聞く三間坂京(ga0094)だったが、釣れる時は、ばかばか釣れるが、釣れないとなったら、何をどう変えようとも、うんともすんとも言わず、最後は運じゃと、笑われるが、それでも、やはり、色々あるようで、集まった釣り好きがああでも無いこうでも無いと、京を捕まえてうんちくを‥もとい。コツを教えていた。
 スーツの上にフライトジャケットを着込んだ鈴葉・シロウ(ga4772)は、吹き込む冬の海風に、僅かに身を竦ませる。
「猫より犬派な私ですが、まぁ、鍋の中、猫がまるまって入って寝ている姿がかわいいにゃーというのは認めていますよ?」
 丁寧な物腰だが、妙にとぼけている。ニュアンスなのだろう。
「寒い玄界灘での釣りニャか〜。何が釣れるのかニャ〜」
 ツインテールに結んだ緋色の髪を揺らして、アヤカ(ga4624)が、うう。と手をさする。ピーコートを着込み、マフラーを巻き、防寒はばっちりだが、それでも寒い。
 手袋、マフラー。そして、一件薄着に見えるが、思い切り中は着込んだミオ・リトマイネン(ga4310)も、海風の冷たさに頬に手を当てる。
「浜鍋‥噂には聞くけど‥食べるのは初めて‥釣りも初めてだけど‥ね」
 人形のように表情の無いミオの切り揃えられた白銀の髪が海風を受けて、乱れるのを、そっと押さえ。
 うう、寒いと、嶋田 啓吾(ga4282)もマフラーをしっかりと押さえる。
「楽しく過ごせるよう、がんばりましょう」
 啓吾は、目当ての親子連れを見つけて、声をかける。憑き物が落ちたかのようにさっぱりした顔の父親に、深く頭を下げた。そんなつもりではなかったのだが、結果として、父親から、辛い話を引き出した事が、ずっと気にかかっていたのだ。
「おじちゃん。ココアありがとう!」
 小さい少女が、舌足らずに、啓吾にお礼を言い、少女の父親は、話をしにきてくれた、その気持ちだけで十二分に報われますと頭を下げる。ぎこちなさはあるが、鍋を用意したり、炭をおこしたりする姿は、ゆっくりと、だが確実に、親子を人の中へと返していくようでもあって、手が触れただけで一瞬固まる人と少女の父親との間に入る。持とうとしていた荷物を双方に渡しかければ、ぎこちないながらも双方から笑みがこぼれ。子供はもっと簡単だった。あちこちから集まったと思ったら、もう一塊になって遊んでいる。

●玄界灘での苦闘
「船は4艘あるんじゃが‥」
 いざ、出発という時に、能力者が2艘にしか乗らないと聞いて、僅かな動揺が走る。船と船の距離は意外と離れる。一般人が目と目が合うほど近くで4艘も固まって同じ釣りポイントには、あまり居ない。船を動かすのは、船長だ。能力者の思った通りに動くKVとは違う。出来る限りは協力するが、思った通りに動くとは思わないで欲しいとも告げられる。穏やかな日を選んだが、海の波次第なのだからと。三山は、それ以上何も言わなかったが、万が一、海底から襲われた場合、上手く能力者の居る船が襲われれば、問題は無い。けれども、一般人しか乗って居ない船にとりつかれたら。人とキメラが入り混じった船上に銃弾や矢を打ち込むのも困難。近寄る時間の差で被害は甚大になるだろう。海の上というのは、そういう警戒も必要であった。
 第一釣り船『浜風』、第二釣り船『うみねこ』、第三釣り船『はまゆう』、第四釣り船『青空』のうち、第三と第四に、能力者達はわかれる。小さな船だが、能力者達を乗せても人数は乗れる。1艘に10人前後が乗り込んだ。
 冬の空は薄い青に色をつける。それとは対照的に、冬の海は、その青を色濃く。時折吹く風は身を切るように冷たい。
「ああ、最初に言っておきましょう――覚醒しましたら、白い毛はもふもふです」
「もふもふなのニャ〜?」
「はい。もふもふです」
「もふもふ‥」
 第四釣り船『青空』の上では、シロウから不可思議な会話が、ほのぼのと展開されていた。アヤカがそうなんだと笑い、ミオは、もふもふって何だろう。と、もふもふという語彙を頭の片隅に残しつつ、竿を振る。その仕掛けは、船に近い場所へと落ちた。視線は、釣りをしながらも、満遍なく周囲を見回して。
「おっ! 来ましたよっ!」
「その引きは、大物なのかニャ!」
 まずは、釣り。啓吾は警戒をするアヤカの近くで糸を垂らしていた。ぐん。と、海中に引き寄せられる手ごたえに、すわ、大物かと期待は高まる。その引きに、一瞬周りの警戒を忘れてしまい、慌てて海上を見渡すアヤカ。
「いよっしっ!‥‥あれ‥」
 十分大物だよと、隣に座っている男性に肩をたたかれる。糸にかかっていたのは、20cmほどのメバルだ。何はともあれ、一番竿おめでとうと、言われ、啓吾は、思わず顎を撫ぜる。
「でかさに自信がある奴、かかって来い! っ! 来たかっ!」
 一方、第三釣り船『はまゆう』でも、気合の入った凛の竿に最初の魚がひっかかっていた。やはり、メバル。大きさも同じくらいだ。どうやらメバルが今回の流れのようだ。
「あ〜! いいなあ!」
 魚群探知機を興味深げに眺め、船長室の近くで周りを警戒していたノビルが叫ぶ。一匹釣り上げられれば、後はもう、次から次へと、魚がかかっていく。まるで、この日を待っていたかのように。
「どうやら、危険は無いみたいだね」
 吹き込む海風に茶の髪が舞い上がる。キメラの姿は無いようだ。風音は目立たないようにピーコートの胸にしまったハンドガンのふくらみを押さえた。
「大丈夫か?」
 軽く船酔った人を介護しつつ、京は水色の空と、濃紺の海を僅かに目を細めて眺め、警戒を怠らない。最強の脅威だよな、船酔いって。と、慣れない船に、自身も船酔いという有事に巻き込まれないようにと、横になった人の背をさする。
 どうやら、一般人の前で覚醒して戦うという、野暮な事をせずに済みそうだなと、釣果の上がる船を見ながら、思うのだった。
 第一位/第二釣り船『うみねこ』寒ブリが奇跡的に吊り上げられました。
 第二位/第三釣り船『はまゆう』順調にメバル、アラカブを100匹ほど。アジ3匹。
 第三位/第四釣り船『青空』順調にメバル、アラカブを80匹ほど。バカイカ2匹。
 最下位/第一釣り船『浜風』ガラクタ多し。

●鍋を囲めば
「セーフと、言って良いんだろうな」
 漁港で待っていた人達によって、後は魚を入れるだけとなっている複数の鍋。さりげなく、キメラ対策に海側に位置を取った京が、せっせと釣ったメバルが美味しく鍋で煮えている。
 警戒をしつつ、初めて見る浜鍋の味に笑みがこぼれる。
「チーム対抗でいえば、第四釣り船が負けだが‥」
 負けた場合、時期はずれるが、ミニスカサンタのコスプレを考えていたミオは、無表情に困惑する。まあ。良いかと、酒瓶を持ってお酌に回れば、海のおじさん達が非常に喜んだ。ミニスカも良い。けれども、肝心なのはかわいい子が居るかどうか‥。これ以上は奥様方、恋人の娘さん達の手前、男達はぐっと黙るが、行き過ぎた格好は時と場合によって地の雨が降るが、普通に、純粋に、娘さんは大歓迎である。
「美味しいニャ〜☆」
 はふはふと、味噌味の白身魚を頬張れば、身体の芯から温まる。罰ゲームは怖くないが、それよりも皆で笑顔で鍋がつつけるというのは、幸せな事だと、アヤカは笑う。
「ゼッコーか」
「はい。何かもう、その言葉だけで、一年ぐらい凹んでいられそうな気分です」
 啓吾は、血の繋がりは無いが、娘とも思う少女に言われた言葉を思い出して、切ない溜息をこぼす。三山は、それもまた楽しくてええじゃないかと、酒を注ぐ。息子とも思う少年の行く末も心配でと、こぼせば、子供なんぞ、勝手に大人になるんじゃから、接したいように接すればええじゃないかとまた笑われて、まだ、そんな境地にはなれませんと心配性の溜息が。煮込まれて角がほろりととれたジャガイモを崩して、魚の味を染みさせつつ、笑い事じゃ無いんですよと言う背中を、やっぱり笑いながら叩かれた。
「まあ、飲め?」
 笑いを堪えて、京が酒瓶を差し出せば、いただきますと、啓吾も三山もコップに並々と注がれて。そのまま京も座るかと思えば、あっちにも行ってこようと、動く。その姿に、三山から、ありがとさんと含みのある声をかけられる。なんだ、バレてるかと心の中で呟くと、京は、性分なんでと手を上げる。
「ふぁつ。ふぁつっ! ふぁつっ!!」
 シロウも、あたりを警戒しつつ、好物の豆腐を口にする。海の恵みの旨みの詰まった浜鍋の汁と共に、熱々の豆腐が口の中で踊る。凹みつつ三山と話す啓吾をこっそり覗き見し、くすりと笑うと、酒を飲み。火傷した口の中に旨い酒が染みて、ふぉっ! と美味しい叫びを上げて。
「おお、あんた行ってくれた人じゃの」
「あまりお役に立てませんでしたが」
 うどんを勧めてまわっていた風音は、三山を見つけると、元気良く挨拶をする。壱岐島滑走路の整備の報告を簡単にすれば、頷いて聞いてくれる。風音は、前回も、時間があれば、来たかったのだと。
「島民の信頼と治安回復の為に、数多く足を運ぶのが良いと思いました」
「‥‥おまえさんは、それを、わしらが、した方が良いと思うておるみたいじゃのぅ?」
 三山の目が笑みを深くたように細くなる。風音は、何だかわからないが、冷やりとする。確かに、前回の壱岐島での依頼でも、そう思っていた。けれども、その提案は、果たして三山にするべき事柄だったのか。
「あの‥」
「わしら、一般人でも、出来る事はするつもりじゃよ」
 また依頼を出す事もあるじゃろうと、風音に頷く。確かに、承諾の言葉は聞けたのだが‥。
 大勢で食べる鍋は美味い。ノビルは、何杯目かを平らげて、満面の笑みを浮かべる。鍋に人生の哲学を見たような気もして、不思議になる。
「鍋って1人で食っても侘びしいだけなのにな」
「うん。あったまるな」
 良く味の染みた鍋には、沢山の野菜が入っている。まだ、復興途中の佐賀の地。あまり余裕は無いはずなのだが、能力者達が持ち寄ってくれた食材費は、こっそりと、三山が領収書を集めて戻したのを、後で知る事になる。ノビルが、鳥栖分屯地で助けた親子に、今、何やってるのかとか、不都合は無いかとか、細かく世話をしている。ちゃんと、馴染んで行ってるんだなと、軽口をたたきながら。彼等の行く末が気になっていたのだ。でも、大丈夫そうだ。と、笑う。
 急に仲間にはなれないのは当然だ。でも、互いが歩み寄ろうとしていれば。遠くない未来には、きっと。
 その姿を、凛は、微笑ましく見ていた。何所と無くぎこちないが、なんとか混じろうとしている姿がみれれば、それで良かったからだ。
 何があっても、人を護る人になりたいと、そんな親子を見て、凛は改めて思うのだった。