●リプレイ本文
「さて、どう出るかしら」
ソフィアから出立する前に、櫻小路・あやめ(
ga8899)はズウィーク・デラードにバイクの貸し出しを申請していた。幸い、基地には少なく無い軍用バイクがある。バイクを疾走させるあやめの左右の瞳は金色と銀色の輝きを放ち、漆黒の髪は淡く蒼い輝きを帯びる。覚醒だ。
山間のリラの修道院から撤収する部隊の護衛。簡単なはずのその任務には、この度発見された新しいバグアの地中兵器、アースクエイク──EQと呼ばれる巨大ワームが絡んでいる事が報告され、途端に危険をはらむ事となる。
斥候の人型ナイトフォーゲル──KVが消息を絶った。そもそもは、それが発端だ。探査が終わる頃には、ヨーロッパ戦線に程近い各地でEQの出現確認がとられている。
土塊がかなりの範囲で他の地表と変わって出現している場所は、EQが顔を出したとみられる。その、土塊はリラの修道院を通過し、ソフィアへ向かうとみられた。
しかし、EQの侵攻は一端止まったようなのだ。
ヨーロッパ戦線が激しさを増し、UPC軍と能力者の混戦部隊がシシリー、コルシカ、サルディニアの3島を奪取する為に動いている。何時、EQにリラ修道院が襲撃されるかわからない。そうすれば、山間のその場所に逃げ場は無い。兵士達は軍用トラックに分乗を始める。
あやめは、バイクに乗る前に、リラの修道院詰めの兵士達に一礼をした。必ずソフィアにお連れしますと。
山を下るバイクは、順調に進んで行く。
『この速度でも大丈夫ですか?‥‥あの、何があっても、絶対に僕が守りますから』
あやめの後方からは、流 星之丞(
ga1928)のXN−01ナイチンゲールが、ゆっくりと進む。その振動が、山道を揺らす。EQの振動とどう区別するか。しかし、バイクを駆るあやめは、探査の眼を発動していた。
地中に潜んで、獲物を待つかのようなEQ。それは、待ち伏せに違い無い。あやめは確かに、その場所辺りが危険だと思えて、バイクを止めた。
「来るかもしれません」
『どの辺りですか?』
「そこまでは‥‥」
漠然と、罠がある、待ち伏せがあるとわかるが、それが何時、何所でまでは、広大な範囲の中からは絞りきれない。立ち止まるXN−01と、あやめ。
軍用無線は必要無い。申請時にデラードは言った。斥候の様な広範囲に広がるわけでは無い。十分にKV間の連絡がつくだろうと。そして、あやめが立ち止まったのは、まだそう下った場所では無い。振り返れば、仲間達の姿が小さく見える距離なのだ。
その時、嫌な振動が響いて来た。
「流殿っ!」
みしみしと亀裂の入る山道。あやめは、バイクの後輪をスピンさせると仲間達の居る方向へと走り出すが、大きな振動が襲い、バイクから弾き飛ばされ、したたかに身体を打ち付ける。覚醒していなければ、大事になっていた所だ。痛む身体を引きずり、倒れたバイクを引き起こす。
『桜小路さんは下がって。みんなが来るまで、ここは僕が食い止めます』
僅かの変化を見逃さず、ハイマニューバを発動させる。
走り去るあやめの方向へと自身の機体を逃がせば、あやめを潰す恐れもある。星之丞は、仲間達が来る反対方向へと、XN−01の機体を逃がす。
だが。
激しい地響き共に、長虫のような姿を表した、EQの巨大さは、半端ではなかった。星之丞は、回避して退却する事を目的としていない。バイクのあやめを無事逃がす為、残っているのだ。XN−01の半身が、EQの口の端にぶち当たり、胴体から生えるディフェンダーのような鋭利な刃が鋼の機体を嫌な音を立ててえぐるように切り裂いた。
巨大な物体が接近した時に動き出すようになっていたのかもしれない。あやめには見向きもしないのが幸いだ。
『そう簡単にっ!』
やられませんよと、動く半身から打ち込まれる3.2cm高分子レーザー砲に、EQは僅かに揺れる。
『無事かっ!』
空を飛ぶのは漸 王零(
ga2930)F−108ディアブロが空を切る音と共にやって来る。ソードウィングを打ち当てようと、EQに迫るが、地表をうねるEQには上手く当たらない。
緩やかな山間の木々も邪魔をし、間合が取りにくい。
「っ!」
王零機に衝撃が走る。僅かにその鋼のウィングがEQに当たったのだ。それと同時に、EQの身体から突き出ている、ディフェンダーのような刃が、王零機に衝撃を与えた。飛ぶに支障は無い。しかし。
空戦と陸戦ではその速度も距離も違う。瞬く間に戦線は遠ざかる。だが、真っ先に駆けつける事が出来、空中の王零機に誘われるようにEQが伸びきり、地表にかなりの姿を晒す引き付けになる。
奇襲には気をつけないと。そう、事前に思った通りだ。人型にならなくては拙いか。そう、王零はコクピットの中で渋面を作る。機首を返して、再びEQへと向かう。
『えーい! モグラ叩きー』
EF−006ワイバーンが地を蹴る。愛紗・ブランネル(
ga1001)だ。事前に調べたルートを飛行形態で周囲の地形を確認していた。空を飛べば、リラの修道院から麓まではあっという間だ。仲間達の下へとすぐに旋回して戻らなくてはならない。王零と愛紗は飛行形態から人型へと、山道で変形して駆けつける事になる。3.2cm高分子レーザー砲が軌跡を描いてEQに向かう。
EQの向うに、仲間達の機体と、トラックを視認すると、少し、唇を引き結ぶ。
(「全体的な連携が必要だと思ったんだけど‥‥」)
そして、それは正しく現実のものとなる。
星之丞の機体は、攻撃を受け、蠢くEQにより、稼動が難しくなっていた。幸い、飲み込まれてはいないので、命の別状は無さそうだ。だが、動けなくなった機体が出た場合どうするか、怪我人が出たらどうするか、誰も考えていなかった。EQの近くで稼動不能になった機体はみしみしと、壊れて行く。
「出てきましたね、あなたに殺されたパイロットの家族の恨みを晴らして見せましょう復讐代行人如月、いざ!」
このEQの侵攻を確認したメンバーのひとりである如月(
ga4636)は、鉄の塊りとなったKVを思い出す。G−43ハヤブサからも3.2cm高分子レーザー砲が飛んだ。
同じく駆け下りるR−01辻村 仁(
ga9676)は、射程ぎりぎりの間合いを取って、伸びきったEQへとアグレッシヴ・ファングを乗せ、突撃仕様ガドリング砲を叩き込む。
「このっ!」
どうしても、経験が足らない。突っ込んでは吹き飛ばされるだけだ。仁は、己の技量を測る。
それでも、自分に出来ることがあるはずだ。
そう、その一撃があるかどうかが戦場では勝敗を決める事もある。
EQの巨体に、震える心に鞭を入れて、如月の背後から攻撃の手を緩めない。
飛び出した和奏の攻撃はやはり、徹底して3.2cm高分子レーザー砲。SESハイエンサーで、その威力を高める事も忘れない。
PM−J8アンジェリカの優美な人型は、護衛のトラックをすり抜ける。
水理 和奏(
ga1500)は、ソフィアで会ったデラードと新品の愛機を見上げ、可愛いよねと頷きあった事を思い出しつつ、最近は空戦ばかりで、陸戦は久し振りだと呟く。
そして、その相手がEQ。アンジェリカで戦うのも初めてならば、EQも初めて。やり遂げてみせる。
「行くよっ!」
飛行形態に変化して駆けつけるつもりだったが、もう目の前に、EQは見える。
どれぐらい距離をとって移動するのか、EQが出たら移動トラック、護衛のS−01KVはどうするのか、何も打ち合わせては居ない。もちろん、彼等も軍人だ。臨機応変に動く事はするが、いかんせん、対処に対する相談があまりにも無かった。
EQが万が一地中に潜った場合、トラックが標的にならないとも限らない。目の前のEQを睨み、リラの修道院のUPC軍撤収組みは陣を構えてその場に留まる。
緩くカーブを描く山道で射撃は思うような遠距離から撃つ事は難しい。
「これが件のアースクエイク、か。大規模戦で戦い抜いたヤツは割合居るようだが‥‥」
割りに合う戦いが出来そうだと、和奏に僅かに遅れて南雲 莞爾(
ga4272)のF−108ディアブロからスナイパーライフルD−02がその巨体を狙い撃つ。仲間に当たるかと考えていたが、何しろ大きい。
「ザコにしては図体がデカいな。邪魔だ」
莞爾機が、山道を下り距離を詰める。前衛の如月機と辻村機の機影が僅かな壁となるが、勾配がある上、その巨体だ。近接するまでは3.2cm高分子レーザー砲が思う様撃ち込める。
反撃する間も与えられずレーザーの集中砲火を浴びたEQは、計らずして、挟み込むような形になったKVへと、その巨体をうねらせて、トラックへと飛び込むように、その身を地面に叩き付けるかのように襲い掛かろうとした。
身体についたディフェンダーのような突起が、陽光を反射してギラリと光る。それに注目していた如月は、攻撃範囲から上手く避ける。
「くっ、やはりでかいだけじゃないようですね‥‥」
「させないよっ! その大きな口が弱点かなっ?!」
刀身が何本も埋め込まれたかのような口の中は漆黒の闇が広がっている。その口に飲み込まれれば、KVは只では済まないのを、皆知っている。
飛び込んできたEQの口めがけ、何度目かのレーザーを撃ち込むが、回避に機体を流す。僅かに空気を振動させて、柄から剣のように伸びる光り。、試作品『雪村』の刀身を浮き上がらせると、王零がEQの背後から、斬り付けに接近する。
「トラックには行かせんっ!」
空気を切り裂き、EQの身体の刃がぐるりと回転し、和奏機と王零機に衝撃を走らせ、4機と、UPC軍前衛2機。計6機もの機体がひしめく山頂側は、回避するも思ったような回避行動がとれない。
「地中に潜らせる前に‥‥」
莞爾は、仲間達の攻撃の邪魔になら無いように背後から攻撃をしかけていた。まだか。そんな思いが頭を掠める。
EQの巨体は重量と長さを持って飛び込み、回避する如月機、辻村機、莞爾機をかすめ、トラックを守ろうと動かないS−012機に、したたかに打ちつけた。嫌な金属音が響くが、どうやらパイロットは無事、一番前で余波を受けたトラックも大破とはいっていないようだ。
「‥‥終わりましたか、ね‥‥? いや、終わっていてくれないと困ります」
如月が呟いた。
ぎらりと光るEQの刃はぴくりとも動かない。
山道を塞ぐ、このEQをどうにかしないと、トラックは撤収が効かない。しかし、EQは倒されたのだ。
山の中を大回りしても、もう危険は無いだろう。
ヨーロッパ大規模作戦は、UPC軍、能力者の部隊により優勢を保っていた。