●リプレイ本文
●漆黒に惹き込むその部隊は。
「私たちはバグアの、エースです。劣等種のエースとは格が違います」
白銀の髪をかきあげ、『地(ガイア)』と呼ばれるオリガ(
ga4562)が薄く笑う。
「脆弱なる人間が我々に逆らおうとは、随分と増長したものですね。覚えの悪い者には、一度きちんとその身で解らせてやる必要があるようですね」
静かな口調の榊 刑部(
ga7524)。『風(マーキュリー)』の名を持つ、彼は、口元以外を覆うファントムマスクのせいで、表情はわからないが、僅かに上がる口角が笑みを作っている様にも見える。
「屑どもが‥‥俺様が直々にぶっ潰してやる」
『炎(ヴァルカン)』の通り名そのもののように熱く言葉を吐き出す神浦 麗歌(
gb0922)。
バグアと人類の戦いは、刻一刻と様変わりして行く。
初期の戦闘と、現在の戦闘では雲泥の差がある。
メトロポリタンXの陥落以降、様々なキメラが生み出され、人類を恐怖に落とし込んでいった。
そのまま、人類はバグアによって飲み込まれるかどうかという時、エミタに適応した人々が現れる。
彼等によって、キメラは猛獣より僅かに上ほどの脅威に貶められた。
もちろん、今もって一般人にはキメラは脅威に他ならない。
能力者と呼ばれる彼等に対応する為か、バグア側に人‥‥どうみても人が現れた。
進んで手を貸す者、改造を受ける者、死から引き戻された者。
彼等は、人類の手に入れた力を相殺するようにKVを駆る。
●白銀と漆黒の軌跡が交差する。
UPC軍の空戦部隊が目の前に広がる。
白銀に輝くその機体達は、綺麗な飛行陣形を形作って、迫る。
『愚かで脆弱な人間どもよ。我らがお前たちを恐怖に陥れ、破滅の道へと誘ってさしあげよう。自らの過小さを思い知り、絶望の闇に沈み、我らが足元にひれ伏すがよい』
全てを凌駕する力を。
人の弱さを見限り、絶対的な力を求めたマッドサイエンティスト『水(ネプチューン)』の大泰司 慈海(
ga0173)が、やってくる部隊を嘲笑う。
ワインレッドのヴェルヴェットの布地で内張りされたコクピットには、重厚なクラシカルな曲が流れている。
くゆらす葉巻の煙が僅かにコクピットにこもる。高笑いが後をついて聞こえた。
これは仕事。漆黒の部隊に入っているのも、たた、適性があったから。
そう、冷たい笑みを浮かべるのは水上・未早(
ga0049)。
冷静、冷徹、冷酷をもって知る、彼女は、仲間達にも軽い侮蔑の視線を投げかけている。
信じるものは己の腕1つ。『雷(ジュピター)』の名を持つ彼女の行動は早い。
機体EF−006ワイバーンが、加速する。
同じく、加速をかけるのは『光(ヘリオス)』憐(
gb0172)のF−108ディアブロ。
漆黒の機体に黄金のラインが流れる。
「さあ、無様に逃げ回って楽しませるのにゃー」
黒光の狩人を自任する燐は、その可愛らしい顔に笑みを浮かべる。
その姿とは裏腹に、攻撃の仕掛け方は肉食獣のそれと変わらない。
獲物を見つけたら、速攻で、駆け、その攻撃で喉笛を食いちぎる。
「どけぇぃ!」
仲間達でドッグファイトでもするかの勢いで、さらに加速をするのは麗歌。
自分の動きのみを考えてKVを駆る漆黒の部隊に陣形は無い。
あっという間に散開するその様に、白銀の部隊は、一瞬目標を失ったかに見えた。
だが、突っ込んで行く数機めがけて、すぐ様速度を上げ、迫る。
「正義や理想で空を飛ぶと死にますよ? 正義の味方というのは、戦場に長くいる奴の妄想です」
その陣形の先端とも言うべき機体へと、突っ込んだ未早、憐、麗歌、慈海の攻撃が集中する。
蜂の巣のようになった機体が揺らぐ。
そこへ、オリガの雷電XF−08Dが止めとばかりに攻撃をしかけ。失速した機体は、爆煙を上げて落ちて行く。
だが、こちらの被害も少なくは無い。堕ち様の機体に、オリガ機が被弾する。
「この程度の攻撃でダメージを与えられるとでも?」
薄く笑うオリガ。
「我は”風” 故に何人とあろうと捕らえる事は叶わぬ」
仲間の機体をフォローするように、軽快に上空を刑部がとっており、一撃離脱を繰り返す。後続を撃ちもらすまいと、影のように現れたのは月村・心(
ga8293)。『闇(ハデス)』のコードネームのごとく、突進する仲間達のフォローに回り、動きの散漫な1機を落とす。
「機体の性能は良いようだが、肝心のパイロットの腕は二流以下のようだなぁ!? 卑怯もかかしもねぇんだよ! 生きるために勝つ! 負けたヤツは終わる! そういうところに俺たちはいるんだよ!! 」
前方では、突っ込んでいった4機が、白銀の部隊と撃ち合いになる。
「窮鼠猫を噛む、でも鼠に噛まれて死ぬ猫はいないにゃ」
燐が、忌々しそうに呟けば、軽く被弾した未早が、薄く笑う。
「無駄な事はしない主義だけど‥‥死ぬつもりもないのよね」
「燃え尽きた‥‥ぜ」
麗歌の機体が、撃ち抜かれ、堕ちて行く。
「我らの技量は優秀ですが、少々我が強すぎるのが問題‥‥でしょうか」
陽光を背にした形で、上空から急襲するのは、『天(ウラノス)』斑鳩・八雲(
ga8672)。
そのコード名の通りの攻撃は、敵機を穿つ。
八雲の攻撃により、堕ちて行く機体を眺めて、酷薄な笑みを浮かべた慈海が吐き捨てる。
「興醒めだな。暇潰しにもならない」
擦れ違い様の攻撃は、圧倒的に漆黒の部隊が有利に運んだ。
各機は再びその翼を交える為に機首を返す。
「ハッ、弱すぎるんだよ、テメェら! この程度‥‥レベル低すぎるんだよ!」
簡単に数機が落ちた敵。心は、苛立ちと嘲笑を込めて叫ぶ。
「まあ、悪い奴はなかなか死なせてくれないものです」
くすりとオリガが笑えば、刑部も口の端を上げる。
「所詮は人間。良くやった方だと褒めて差し上げましょうか」
空を舞う漆黒のKVに比べ、白銀のKVが飛ぶ数が減る。
しかし。
機首を返して、自軍へと撤退行動をとる白銀の部隊をさらに追う事は出来なかった。
援軍が姿を現したのだ。
こちらが後方に配備した空軍の数と、駆けつけたUPC軍の数はほぼ互角。
あるいは、UPC軍の方が多いかもしれない。
「潮時ね。じゃあお先に」
仲間達へも、嘲笑するような笑みを浮かべ、真っ先に、未早が機首を返す。
「‥‥ふふ、潮時、という奴ですかね?」
八雲が苦笑する。
練力にはまだ余裕がある。しかし、この展開は想定外でもあったようだ。
思い思いに飛ぶ漆黒の部隊は、悠々と自軍へと引き返す。
しかし、本当の戦いはこれからだ。
ヘルメットワームから、放たれる幾筋もの光りが、雨のように降ってくるUPC軍のミサイルを撃ち払う。
愚かなる人類は、バグアの力を知らない。
服従せよ。
その先に真の未来があるのだと。
信じてやまない者達が居た。
果たして、それは真実か?
力を持って地球を蹂躙すれば、力を持って、反撃されるだけでは無いのか。
行く先は誰もわからない。
<機体大破重傷>
神浦 麗歌
<機体損傷>
水上・未早(
ga0049)
大泰司 慈海(
ga0173)
オリガ(
ga4562)
榊 刑部(
ga7524)
月村・心(
ga8293)
斑鳩・八雲(
ga8672)
憐(
gb0172)
●打ち上げ
お疲れ様〜と、監督はじめ、スタッフ一同、から拍手が沸きあがる。
いやあ良かった。漆黒の部隊! 冷酷で揺るがない悪の信念の姿がっ! と、感無量の小さく、無精髭の生えた監督が感動している。付け替えの必要の無い機体は、そのままバルカンを持っていって欲しいと告げられる。
派手な演出やスピーディーな展開を押出し、手に汗握るエンターテイメント性は実現できたみたいと、嬉しそうに眼鏡を直し、穏やかに笑う未早に、映画の姿の欠片は見当たらない。
「超ド迫力のドックファイト! の撮影は楽しかったのです」
「オリガ姫〜★ お酌するよ〜」
ふっと笑うオリガに、慈海が何所からかアルコールを持ってやってくる。
それと! そう、怪しげな笑みを浮かべると、吐いちゃいなよ〜と、デラードに迫るが、何を吐けとと、笑顔でかわされ、そういう慈海こそ、吐いちゃいなよ〜と、返された。
何を? かは、やっぱりわからない。
お疲れさんと、デラードは、慈海をかいくぐると、冷たい飲み物を手渡して回りはじめている。細長い紙コップに浮かぶ冷たい汗の玉にまた微笑んだ。
「兵装全部置いて来たのが良かったかな」
それ、大事だねぇと、デラードが笑う。兵装の空きひとつは確実に欲しかったが、その潔さはプラス点と。
「悪役、遊ばせて貰った」
心は阿修羅の試運転を兼ねて、映画にやってきていた。思う様叫ぶのは意外と気持ち良い。
スタンダードな悪役で、小気味良かったと、デラードが頷く。ただ、武器は、バルカンだけで、悪いねと言われて、そうだったかと、台本を見返す。
「戦い振り、どうでしたか?」
デラードにジュースを手渡されて、八雲が尋ねる。一度、空戦の感想を聞いてみたかったのだ。
「八雲のレベルが無いと、急上昇、急降下は、進められないねぇ。下手すると墜落だ」
腕があれば、成功確立は上がるが、ただ、あくまでも、トリッキーな作戦として、常用はしない方が良いらしい。ケースバイケースだけどなあと、にやりと笑われ。
「‥‥勝ち負けは‥‥兎も角‥‥格好よく暴れられました‥‥『バグアっぽく』‥‥」
甘い香りのジュースを貰った燐が、こくりと頷く。大きな赤いリボンが嬉しげに揺れた。
「お手数かけました」
あははと、照れたように笑うのは、麗歌だ。覚醒すると、感情の起伏が少なくなり、映画で録音されたような熱血な台詞回しは直撮りは無理だったのだ。アテレコに、かなりの時間を費やした。大人しい人柄は、映画とは別人で。
白銀の部隊の出演者が、手を振っている。
映画を離れれば、白銀も、漆黒も無く、ただ、ラスト・ホープの仲間としていずれまた、何処かの依頼か戦場で会う事になるのだろう。
こうして、映画は無事に完成したのだった。