●リプレイ本文
●白銀に煌くその部隊が。
「最優先事項は落ちない事です、全機無事に帰りましょう」
白銀の長い髪が揺れる。白銀の部隊、『シルバーブリッツ』隊長、霞澄 セラフィエル(
ga0495)が、にこりと微笑んだ。隊員達は、UPC軍の中でも選り抜きの者ばかりだ。
一騎当千の部下達を信頼している。
(「私達が空の守護者とならん事を‥‥」)
ザン・エフティング(
ga5141)は、カウボーイハットを軽く直して、霞澄の言葉を聴いた。
今日もまた、バグア軍との戦いに、先陣を切って飛び出すのだ。
「この役だけは、他の奴等には譲れない」
実直な表情で笑う彼は、仲間達にはいつも穏やかに接する、好青年だ。
「俺たちゃ正義の味方ってね」
にやりと、リュウセイ(
ga8181)が笑う。
腕に覚えのある部隊の仲間を見る。新人の遠倉 雨音(
gb0338)は、滑走路にある愛機XF−08D雷電を見る。新型機のテストパイロットに抜擢された自分の腕は、彼等に負けないはずだ。
優美な姿で、不敵な笑いを浮かべるのはキャル・キャニオン(
ga4952)。
大規模な作戦に参加し続けた実績が自身になり、笑みに現れている。
白銀の部隊にかける思いだが、キャルは役の思いと現実の思いとごっちゃになっているようである。
仲間達の動きをじっと見守る古郡・聡子(
ga9099)。
マニュアル通りにと、なるべく、その動きに合わせようと、する。
「さぁ、正義の味方をはじめよう」
クリア・サーレク(
ga4864)は、にこりと笑う。
紅く流れる長い髪がさらりと揺れた。紫の瞳がきらきらと輝く。
「この星に居る、守りたいと願う全ての大切の人達の為に、ボクは白銀の否妻を手に取るよ」
絶対に守り抜いてみせると、心に誓う。
正義。
この二文字を、複雑な思いで聞くのは葵 宙華(
ga4067)だ。
人々の希望。
それが、この『シルバーブリッツ』だ。
けれども。
脳裏に浮かぶのは、目の前でバグアに命の火を消された兄の姿。
自身が能力者だというのなら、何故、あの時、兄を守れなかったのか。
何故、兄を亡くした今となって『シルバーブリッツ』として戦いに赴かなくてはいけないのか。
様々な思いが錯綜する。
──敵機接近。
その報を受けて、白銀の部隊『シルバーブリッツ』の面々が、走り出した。
●漆黒と白銀の軌跡が交差する。
最近、バグア軍の先陣を切るという、漆黒のKV部隊がある。
黒雲のように押し寄せて、UPC軍を霍乱して行く。
その部隊が、黒い圧迫感として、青い空をやって来る。
「さて行こうかクルースニク、あの悪魔共を始末しに」
ザンが、愛機に語りかける。
同じ機体で共に前衛をと思っていたリュウセイは、ディスタンでは無く、R−01改に乗っている。
最大速度が僅かに違うが、大丈夫だろうかという気持ちが過ぎる。
宙華の声が響く。
『魔を狩りし銀弾、シルバーブリッツ! 出撃しますっ! 【白狼】よりグルグンニル! 全機突入!』
全面の敵の動きは。
ぐっと、速度を上げて迫る漆黒の機体。
その動きはばらばらだ。
しかし、ばらばらだからこそ、目標を定め難い。
漆黒の部隊が、決まった陣形でやってくるのならば、SB部隊の陣形はまずくは無い。
しかし、いきなり散開されては。
「バグアの皆様、あてくし、いや皆の人生台無しにしやがって下さりましたね! 恨み骨髄ですわ!!!!」
キャルが、漆黒の部隊を睨み据える。
数機が、SBの編隊の真ん中へと、勢いもそのままに、突っ込んで来た。
鋼の機体が接触するすれすれを、飛ぶ、その機体は、重圧感を持って迫る。
その僅か手前を、ブーストをかけているのか、空を唸らせ、4機が飛び込み、陣形を霍乱しにかかる。
「このっ! そこをどきなさいっ!」
SBの頭を飛ぶ宙華が、バルカンを打つのと、敵方の機体がバルカンを打つのとほぼ同時。
こちらの陣形は二重になっている。波状攻撃をしかける形だ。
だが、その先頭は一列縦隊。EF−006ワイバーンを駆る宙華のみ、突出している。
速度を上げて突っ込んで来た、4機に、宙華の機体は撃ち抜かれる。
「くっ!」
ずいっと目の前に迫る重厚な機体へと、堕ち様にバルカンを叩き込む。
青い空は反転し、碧の珊瑚礁が目の前に迫る。
(「‥‥兄様‥‥」)
「勝負はっ‥‥終了のホイッスルが鳴るまで判らないんだよっ!」
「私たちに出会った自身の不運をせいぜい嘆くことね‥‥沈めッ!!」
宙華に襲い掛かり、駆け抜けようとする機体へと、クリアと雨音の攻撃が飛ぶ。互いに、間一髪で被弾を逃れ。
鈍い振動が機体に襲い掛かる。
「おーっほっほっほ! 空中頬打頬打頬打‥‥」
ひたすら撃ちまくるキャルだったが、駆け抜けた4機の後からやってくる機体に撃たれた。
「ちょ、ちょっとお化粧直しに行くだけよ‥‥まだやれるんだからねっ」
ぐらりと揺れる機体。
さらに、後方からやってくる黒い機体が、キャルのXA−0813阿修羅を捕らえた。
「んま!ワタクシとした事が‥‥ホンのお手つきですのよこれでも手加減してますの」
石榴、離脱しますと、小さくキャルからの通信が入る。
一瞬のうちに、SBグルグンニル2機が堕ちたのだ。
「今回こそは終わりにしてやるぞ、漆黒の悪魔共っ」
グルグンニルをくぐり抜けた2機を、ザンが捕らえる。迷い無き攻撃が1機を屠る。
派手な爆音が響き、漆黒の機体が落ちて行く。
「どぅぉうわ!? いや、まだいける!」
リュウセイは、目の前に迫る漆黒の機体に撃ち抜かれる。
しかし、その隙をついて、霞澄の機体がターゲットをロックオンする。
逃がしはしない。
「いい動きですが‥‥まだまだですね」
霞澄が、迫る敵機へ攻撃を浴びせかけた。
上空から、陽光を背にして、落ちるように攻撃をしかけられた。
「これが実戦、悪い。あんたのこと好きだったぜ‥‥」
駆け抜けて行く霞澄機を見ながら、追い討ちをかけられたリュウセイ機が錐揉みして碧の珊瑚礁へと吸込まれていった。
「まだだよっ、雷電はこれくらいで落ちたりしない! っ!」
クリアの悲鳴のような叫びが響くが、数機に狙い撃ちされたクリア機も、落ちて行く。
白銀の機体に真紅の一本線が尾を引くように見えた。
『こちらRipple! 離脱しますっ!』
白銀の部隊、SBの4機編隊2部隊は崩された。崩された後の戦闘は、各個人の技量に委ねられる。
漆黒の部隊の攻撃は多種多様に渡った。
1機の性能は、白銀の部隊と比べてもそれほど格差があるわけでは無さそうだ。
決定的にその勝敗を決したのは、漆黒の部隊が、固まってやってくると最初に決めてしまっていた事だ。
初手を読み違え、その後の行動もはっきりとはしなかった。
もし、散開されたら、一番近い敵から攻撃をする。もしくは、一番足の遅い敵から攻撃する。仲間のフォローをどうするのかを決めていれば、敗北は免れたかもしれない。
『Seraphより、各機へ。このままでは危険ですね、全機撤退して下さい』
霞澄の声が、生き残った仲間達へと伝えられる。
「く、こんな所で無様に負けるとは‥‥」
軽く舌打ちをするザン。
「‥‥私が、未熟なばかりに‥‥!」
雨音が唇を噛締める。
援軍が、空を覆い尽くすような数でやってくる。
そして、バグアの援軍も、同じように。
漆黒の部隊は、用は済んだとばかりに撤退をしていた。
追撃が無いのが救いだった。
弾幕が、雨のようにバグア軍へ、空と海へと降り注ぐ。
鈍い爆音が響き。
何時果てるとも知れぬ戦いの火蓋が、再び切って落とされたのだった。
煌くエース達が、これからも戦場に散っていくかもしれない。
それでも、なお、我々は進まなくてはならない。
バグアから地球をこの手に取り戻すために。
<ロスト>
葵 宙華
<機体大破重傷>
リュウセイ
キャル・キャニオン
クリア・サーレク
古郡・聡子
<機体損傷>
霞澄 セラフィエル
ザン・エフティング
遠倉 雨音
●打ち上げ
お疲れ様〜と、監督はじめ、スタッフ一同、から拍手が沸きあがる。
いやあ良かった。白銀の部隊! 悲哀と決意を背負って負けていく姿がっ! と、感無量の小さく、無精髭の生えた監督が感動している。付け替えの必要の無い機体は、そのままバルカンを持っていって欲しいと告げられる。
「さ〜て今宵はどんなディナーを戴こうかしら」
涼しい顔のキャルが、試写室の椅子から、優雅に立ち上がる。映画出演でセレブになれる。そんな浮き立つ気持ちが、全面に現れていたが‥‥。
「映画撮影ですし‥‥普段とは違う演技をするのも、面白そうだと思ったんですが」
雨音が、小さく溜息を吐いた。
XF−08D雷電を手に入れたが、中々使う機会も巡って来ず、模擬戦なら丁度良いかと参加したのだが、簡単には勝つ事が出来なかった。
悪くない戦いぶりだったぜと、デラードが冷たい飲み物を手渡して回っている。
「精一杯やらせてもらいました」
甘い香りの飲み物を受け取ると、霞澄は、にこりと微笑んだ。
「機動性、生かしきれなかったか」
呟くザンだったが、機動性があればこそ、落ちなかったのだろうと、デラードが笑う。
マニュアル通りでは、戦いきれませんでしたかと、聡子が呟けば、しょうがないかとリュウセイが伸びをした。
「見栄えや派手さはあったね。正義の味方、負けちゃったけど」
戦闘機が入り乱れる様は、拳を握るほどだった。
仲間達との連携をと考えていたクリアだが。
デラードに、連携の方法を考えれば、次は上手く行くぜ。と、冷たい飲み物を手渡され。
「お疲れ様でした」
同じようにおつかれさんと冷たい飲み物を手渡されていた宙華が、漆黒の部隊の面々へと手を振って寄って行く。
本物のバグアもかくやと思われる働き振りをした、彼等と健闘を称えあおうと。
こうして、映画は、無事に完成したのだった。