タイトル:GQ†落葉マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/05 08:19

●オープニング本文


 水面に真赤な紅葉が落ちる。
 そのお屋敷の裏手に広がる広大な庭の中に、枝垂れ落ちるような紅葉の木があった。
 紅葉の木は、アーチを描いて池に渡る、瀟洒な橋から良く見える。
 深緑色した水面に、真赤な紅葉が浮かんで、風が吹くとくるりと回った。

「結婚式の余興に来て欲しいそうだ。‥‥セルヴィアご指名で‥‥断っても良いですよ?」
 バグアが侵攻してきてから、戦線間近の村や町には言い知れない緊張が続いている。
 そんな中でも、芸がしたい。人と触れ合い、喜ばせたいという命知らずの芸人ギルドがあった。大元締めの下、小さな旅団を組んで村や街を巡る。
 ジャグラー、占い師、踊り子、歌い手。主なメンバーはそのくらいで、最小6人で幌馬車を仕立てて回る。
 時代がかったその幌馬車から出てくる、きらびやかな衣装、笑顔、不思議。
 それは、玉手箱のようで。
 その中でも、特に芸が秀でれば、その名は何時しか有名になる。
 ジプシークイーン。
 タロットカードを手にするセルヴィアの名は、その幻想的な容貌とあいまって、良く知られるものとなっていた。
 銀糸で縁取られた、黒に近い紫の、大きなヴェールを頭から被った細身の麗人。亜麻色の癖の無い長い髪に縁取られた細面の顔は、はっとするほど綺麗で。明るい茶色の瞳が切れ長の目の中で揺らぐ。
 本人が望まなくても。回すカードは、高い確率でその結果を導き出した。しかし、噂には尾ひれがつきものである。大きくなった自分の仇名に、苦笑する姿をよく見かける。
「結婚式。綺麗で楽しさが溢れてるよね!」
 小さな踊り子サラも、ここの所大人びてきた。足に絡む銀の鈴のバングルがしゃらりと瀟洒な音色を響かせる。
 場所を聞いたセルヴィアが、僅かに眉間に皺を寄せるのに、サラは小首を傾げる。
「断って来ます‥‥ね?」
 セルヴィアとサラの所属する、一座『ほうき星』の、人の良さ気な団長が、セルヴィアの顔色を伺い、ひとつ頷く。
「‥‥断らなくても良いわ。行きましょう。せっかくのご指名ですもの」
 ハスキーボイスが穏やかに響く。そんなセルヴィアに、団長はただ頷くと、踵を返した。
「セルヴィア?」
「昔のね‥‥知り合いの結婚式なの」
 怪訝そうなサラを撫ぜながら、セルヴィアは淡く微笑んだ。

 星も凍てつくような夜だった。
 その人の手を振り払ったのは。
 バグアとの戦いを人事のように話し、ただ、愛しい人との幸せを願う、可愛らしい人だった。
 ──けれども。
 哀しげな笑いを口の端に浮かべ、幌馬車にもたれて、見事な満月を仰いだ。仲間達の静かな寝息が心地良く、浮かべた笑みは、僅かに穏やかに変わる。
 ──けれども。
 嫌いになって、忘れてくれれば良かったのに。
 そんな事は互いに出来るはずが無い事を思い返し、浅はかだった過去の自分を自嘲する。月光が眩しい。セルヴィアは、僅かに目を伏せた。

「セラを呼んだって?」
 UPC将官の軍服を脱いだリブローは、出迎えに現れた小柄で可愛いらしい女性に首を傾げる。出迎えたシェスタは、淡い水色の瞳を和ませて微笑む。頬にかかるプラチナブロンドがふわりと揺れる。
「ええ。いけなかった?」
 屈託無く微笑むシェスタの顔が深い漆黒の瞳に映る。
「いや‥‥。君が嫌じゃなければ、私としては嬉しい。でも、本当に良いの?」
 バグアの戦線とはかなり離れている。安全地域と言っても良いこの場所では、戦いというほどの戦いは無い。大規模な戦いが起こっても、守備部隊がリブローの主な任務だ。地元の名士であり、能力者でも無い旧家の彼が前線に立つ事は無い。
 同じような場所に居た彼が、地元を飛び出したのは、バグア侵攻が始まって半年も経っていなかったと思う。
 困惑気味のリブローの黒髪を撫でようと、少しつま先立ちして手を伸ばすシェスタの腰に手を回す。穏やかな温もりが伝わり、細波立った心を落ち着かせていく。
「大事な幼馴染じゃないの。‥‥私達の」
 すっぽりと手の中に入ったシェスタが僅かに身震いするのが感じられた。彼女も平静では居られないのだろう。でも、呼ぼうと決めたのかと、リブローは心中で小さく溜息を吐く。
「そう‥‥だね」

 秋は実りの季節だ。
 沢山の地元の収穫物が届けられる。
 その内、1台のトラックが、キメラに襲撃されたという一報がラスト・ホープに入ったのは、それからすぐだった。
 大きな茶色のリスの姿。ざっと見て2mはあろうか。くるんとまいた尻尾が可愛らしいが、巨大である。それが、2体居るという。
 トラックに乗った、沢山の栗と柿が被害にあっている。
「栗や柿は、また別ルートで届けさせるけれど、その道が塞がれていては、『ほうき星』が間に合わない」
 あちこち移動して芸を見せている芸人一座を呼び寄せたは良いが、通り道を塞がれたのだ。回り道はあるが、結婚式に間に合わなくては困る。
 栗を食べては昼寝して、また食べてを繰り返しているらしいそのキメラの名はビッグロリス。駆け出しの能力者とほぼ互角。退治に難は無いが、逃走されるとやっかいだ。
「退治後は、是非結婚式に参加して下さい。大勢の方が楽しいですから」
 人の良さそうな地方UPC軍人将校は、リブローと名乗った。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
空知 ヒバリ(ga9723
19歳・♀・GP
原田 憲太(gb3450
16歳・♂・DF

●リプレイ本文

●秋の陽射しの下、健やかな昼寝をする‥‥
 問題のトラックから離れた場所で、能力者達は、オリガ(ga4562)の連絡を待っていた。
 さらに後方で待機する『ほうき星』の幌馬車をちらりと見ると、彼等と一緒になるのは久し振りだと、リン=アスターナ(ga4615)は、トランシーバーを持ち直す。最初に出会ったのは、蔓薔薇咲く、夏の事だったかと。匂い立つ蔓薔薇がとても綺麗だったのを思い出し、自然と笑みが浮かぶ。季節は変わり、木々も化粧を始める今、また一緒するのは楽しみな事だとも。
「セルヴィア様には、何か親しみに近い物を感じてしまいますね‥‥」
 やはり、ちらりと幌馬車を見るのは空知 ヒバリ(ga9723)だ。自身が占いを生業にしていた事もある。
 神森 静(ga5165)は、顔馴染みでもあるセルヴィアとサラに挨拶をしてきた事を思い出す。変わらず旅で回っているのかと問えば、言葉少なく頷かれ。サラに踊りは前より上手くなったかと聞けば、自分では分からないから、結婚式で踊るので見てくれたら嬉しいと笑顔が帰って。静は、薄萌黄色の弓身を持つ、洋弓リセルの具合を確かめる。リスなら可愛いと思うが、動きは素早いのでは無いかと、ひとり思う。
 依頼を見つけた時、結婚式ですかあ、めでたいですねと、原田 憲太(gb3450)は爽やかに頷いていたが、その邪魔になっているというビッグロリスに、呆れる。小さければ、リスは可愛いものだけれど、2mとなるとと、首を横に振る。
「柿と栗。食っちゃ寝してるとは、羨ましい生活ですね‥‥」
 遠くに見えるその姿は、今はどうやら動いていないようだが、詳細は連絡を待たなくてはならない。聞き漏らすまいと、耳をそばだてる。
 隠密潜行で、道路脇の木々の間を縫って進んで行ったオリガは、トラックの荷台にもたれて、大の字になって漠睡しているビッグロリスを発見し、何と言うか、何とも言えない気分になった。手にするトランシーバーをオンにする。
「こちらオリガ。良い具合に寝ていますね」
『了解』
 
「聞こえた? 寝ているそうよ」
 リンが、仲間達に振り返ると、皆、走り出す準備は万端だ。
 それにしても、2mのリス型キメラ。道の真ん中で、食っちゃ寝しているなどとは。
「‥‥愛らしいのか、憎たらしいのか微妙なラインだな」
 煉条トヲイ(ga0236)の右目が黄金の光りを放ち、右半身には、淡く光る真紅の紋様が浮かび上がっている。覚醒だ。だが、どうにもリス型というのは、気持ちが揺れる。
(「少々可愛そうな気がしないでも無いが‥‥」)
 相手はキメラである。今は、トラックの柿と栗を食べ放題テーブルとしているが、無くなれば、何処かの農園や家屋敷に侵入しないとも限らない。しかし、手際良く片付けるのが仕事だ。シュナイザーを握り込む。
「寝ていて幸いでしたね」
 瞳から光が消え、薄く朱に染まっている。辻村 仁(ga9676)は、見通しの良い道の先に居るトラックと、ビッグロリスが良く見えると頷く。
 こちらから見えるという事は、向こうからも見えるのだ。そこの位置から、トラックまでの距離を詰めなくてはならない。だが、逃走にかかられた場合の作戦も万全だ。何より、ラッキーが味方した。
 ヴェールを脱ぎ捨て、ヒバリはその日の運勢を表すタロットカードにキスをする。
「本日のカードは『恋人達』‥‥ふふ、結婚式のための戦いですものね」
 どこかそのカードの意味に近い雰囲気になるのが彼女の覚醒だ。愛の為に力を振るう戦士の雰囲気を纏い、ヒバリは楽し気に微笑んだ。
「星よ、力を‥‥」
 クラウディア・マリウス(ga6559)の左手にきらきらと光る星が連なるブレスレットが現れる。走って行く仲間達に練成強化を。星の加護を願うクラウディアの声が届く。
 全身が淡い銀のオーラに包まれ、瞳の色も銀色へと色を変え。走る様は、銀色の弾丸のようになるリンが声を上げる。
「寝込みを襲うのは趣味じゃないけどね‥‥引き出物を奪って食っちゃ寝してるような奴なら、話は別!」
 大勢が寄って来る気配にか、ただ単に起きる時間が来ただけなのか、ビッグロリスが、目を覚ました。ゆらりと、大きな尻尾が揺れる。
「見た目と仕草は、可愛いが、さてと通行の邪魔だ。急いでいるんだ。速攻で、どいてもらうぞ?」
 静の穏やかな色合いの茶の髪と青い瞳は冷たい銀色にと変わる。引き絞った弓から、矢が放たれる、空を裂く音と共に、1体のビッグロリスの巨大な尻尾に当たった。甲高い声が響き渡る。
「食べ過ぎで太ったんじゃないの? 足がもつれてるわよ、お馬鹿さん――!」 
 先手を取り、ビッグロリスの急所を狙いにリンの片足が勢いを増して蹴り込まれる。刹那の爪が、ざっくりとえぐる。
「ふん、リス如きが良い身分だな、だがその食料はお前達に用意された物じゃないんだ。食った分のお代は頂いていくぜっ! お前達の命でなっ!」
 憲太は、自分の身長よりもある、大鎌ノトスを構え、リンの後をついて走る姿は、別人のよう。漆黒の髪は金色になびき、眼光鋭く。近付いたビッグロリスへと、ノトスが空を大きく裂いて打ち込まれた。
 森際を仲間達の邪魔にならないように走る静から、再び矢が飛ぶ。しかし、ビッグロリスは、迫る能力者へ向かい、その大きな尻尾を振るいつつ、くるりと丸い黒目を煌かせ、だが、大きな前歯も煌かせて凶悪に迫って行く。
 その攻撃を反芻しつつ、トヲイはシュナイザーを振り抜く。ぐっと腕がたわむ。
「‥‥さて、と。少々名残惜しいが、そろそろお別れの時間だ。せめて、苦しまずに逝け‥‥!」
 ふわんとした、だが巨大な姿に刃が沈む。
「逃がしはしませんわよ?」
 同じく懐に飛び込んだヒバリのエリュクスの爪が、僅かに遅れて白い軌跡を描きつつ、重たい一撃を入れる。
 逃走したり、自分へと向かって来たらと、構えていたオリガは、意外と闘魂逞しかったビッグロリスが、仲間達の攻撃で地響きを立て地に伏す様を見ると、軽く肩を竦めた。

●収穫を祝い、その結婚を祝い。示すのは、カードか‥‥それとも
 結婚式の余興として、紫がかった布がかかる小さなテーブルを設えたセルヴィアの占いを見ようと、入れ替わり立ち代り、華やかな衣装の人々が行き交う。その結果が、望むものでも望まぬものでも、なにやら胸に残るような顔をしているのが印象的だと、オリガはセルヴィアを観察する。
 新郎新婦が、駆け寄ってきて、新婦が泣き笑いの顔をして抱きつき、新郎が手を差し出して。何やら訳有りの雰囲気が漂っていた邂逅からして、気になって仕方ないのだ。
 だが、見ているだけである。何をどう踏み込んで良いのか、具体的な行動にも、言葉にも紡ぐ事が出来ず、仕方無しに、すとんと占いの卓の前に座る。
 だが、逆に、そんなオリガの挙動不審な行動はちゃんと見られていたようである。占いをと頼めば、セルヴィアは、カードをシャッフルし、オリガにも混ぜるように即す。そして、生年月日を聞くと幾つか山をつくり、またひとつにし、深緑のカードを、流れるようにテーブルに横滑りさせて、一枚選ぶようにと微笑んで。
「好奇心は‥‥猫を殺す‥‥と、言うわ‥‥」
「ええ、それはわかっているんですが‥‥」
 笑みを浮かべて視線を合わせられると、何となく、たらりと冷や汗が出てくるようだ。気になって夜も眠れないかもしれないと思った意気込みも、萎んでしまいそうである。
 心拍数を上げながら引いたカードは『死神』の逆位置。
 逆位置で出ても、一瞬どきりとするカードだ。
 わだかまっていた事柄があったが、霧が引いていくかのように、真実が見え始め、酷く納得しているのでは無いかと。
「でも‥‥すっきりしても、ひとりで居続けるのは良くないわ‥‥貴女から‥‥何か行動をおこしてみて? きっと実りがあるはず‥‥よ?」
 気にかけてくれて、ありがとう。また、お会い出来る機会があればと、含み笑われる。
 オリガは、じっとりと手のひらに浮かんだ汗に、軽く溜息を吐く。パーティの端の方で、持参の酒をあおろうとすれば、こまめに動いていた屋敷の者に見つけられ、せっかくお越しなのですからと、爽やかな色合いのワインを注がれ。あおれば、ようやく人心地ついた。
 幸せそうな新郎新婦を眺めて、何時か自分も式を挙げるのだろうかと、恋人との将来を重ね合わせて。リンは、夢想の中へと踏み込んでいたが、すぐに首を横に振って浮かんだ夢想を追い払い、セルヴィアの卓へと近付く。
 悪戯っぽく微笑むと。
「前に貴女に示されたカードは『愚者』‥‥今の私は、あれから少しは賢い者になれたのかしら?」
「‥‥愚者は賢い者‥‥よ?」
 リンと同じような調子の笑顔で返したシルヴィアの繰るカードから引き当てたのは『吊るされた男』の逆位置。
 不可思議な姿に、リンは首を傾げる。
「少し‥‥耐えてみましょうか‥‥」
 楽しみにしていた事が中止か、延期になる暗示が出ていると。でも、残念な素振りを見せない方が良い。
「‥‥きっと‥‥そんな貴女の姿は‥‥好ましく受け入れられるから」
 軽く肩を竦めると、リンはそういう事もあるかもしれないわねと笑った。
 料理に少なからず興味のある仁は、テーブルを楽しそうに見渡す。
「へぇ、これ面白そうだな」
 ガーデンパーティのせいか、パイが多かった。小さなパイから、大きなパイを切り分けたものまで。大きなものは、肉や煮物が入っている事が多く、小さなものは甘い物が多く。
「こういうのも悪くないですね」
 鳴り止まない音楽。人の笑いさざめく声。
 引いたのは『戦車』の逆位置。白と黒の馬が勢いをつけて進む様に、仁は目を見張る。
「今は‥‥時では無いの」
「時?」
 ええ。と、穏やかに微笑んだセルヴィアは、急いでも良い事は無いと続けた。とても、気合が入って、今動きたくて仕方の無い気持ちは無い? と、尋ね、もし、進めている事柄があるのなら、一端立ち止まり、少し考える時間を持った方が良いと。時期は必ず巡ってくる。その時期は、来ればわかると微笑んだ。
 茶色のドレスで、ショ−ルをかけた静は、幸せそうな新しい夫婦を眺めて笑みを深くする。爽やかな秋風の中、鹿肉のパイや包み焼きなどをつまむ。かさかさと音を立てる落葉を踏みしめて、少し外れれば、『ほうき星』の出し物を楽しげに見る。少女から女性へと変化し始めたサラの踊りに目を細め。
(「結婚式‥‥女達には、永遠のあこがれね。本人達もすごく幸せそうね」)
 誰に言うでもない言葉を口の中で呟く。静のカードは『恋人』。
「ステキね‥‥好ましく思う方が近くに居るわ‥‥でも‥‥貴女から動かなければ、このカードの意味は消失するわ‥‥」
「どういう事かしら」
「待っていてばかりでは‥‥何も変わらない‥‥わ」
「そう」
 卓を立った静は、特に気にはしていないようだった。静の心の内に重ねて行く過去を、静は忘れたくないと思っていたから。
 祝いの言葉を告げてきた憲太が引いたのは『魔術師』。
「何を‥‥断ち切って来たのかしら‥‥新しい人との出会いが切り開かれるわ‥‥」
 大切な人が出来るかもしれない。今ならば、大抵は思い切って動いても大丈夫と、微笑む。
 ヒバリが前に座ると、セルヴィアは面白そうに笑った。
「こんな機会は滅多にありませんからね。普段は自分の事を占う事はいたしませんもの」
「‥‥ええ‥‥そうね‥‥」
 軽い音を立てて、広げられるカードから、ヒバリが開くのは『月』。
「あら‥‥? 何から逃げている‥‥の?」
 見えているのでしょうと、小首を傾げ。知りたくない、理解したくない、そう見ないふりをしても、真実はひとつ。まだ認めたく無いのなら、少しそれについて考えてみなくては、先へと進めないと。ゆっくりと考えれば良いからと、笑みが返る。
 ブラックスーツにメンズスカーフを洒脱に巻いたトヲイは、精一杯の祝福をと、思い、式からガーデンパーティに至るまで、模範的な参列者となっていた。しかし、その間中、セルヴィアが気になっていた。特に変わった様子も無いが、再会時の3人を思い出して、少し複雑な面持ちでセルヴィアを見る。
 新郎と過去に何かあったのだろうかと。まったくタイプの違う花嫁と引き比べて小さく溜息を吐く。未だ、トヲイはセルヴィアが女性だと思っているようである。真実は果たして何時彼に訪れるのか。
 それはともかく、セルヴィアの占い卓は別の意味で気になって。
「良いかな。占いは初めてで、勝手がわからないが‥‥」
「‥‥引いて下されば良い‥‥わ」
 人生初の占いをするトヲイが引き当てたカードは『太陽』苦手な人と仲良くなれそうねと、セルヴィアは微笑む。一緒に何か行動すれば、苦手意識は消え、好ましい人物へと変わるだろうと。貴方は貴方のままでとも。
 葡萄の詰まったパイを口にして、クラウディアは美味しさに、ほうと溜息を吐く。それにしても、新婦さんは綺麗だったと間近で見た姿を思い出す。
 ふわりと広がる膝までのドレス。真っ白なパンプスからはサテンの白いリボンが足首に結ばれている。三重の真珠のネックレス。パフスリーブの袖に、ロング手袋。手袋やドレスには、小さな真珠が幾つも縫いとられ、小さな楕円の帽子から、短いチュールが花が開くように後ろへとなびき。
「ほわっ、綺麗‥‥」
 新婦の姿に、マリウスは何度目かの感嘆の溜息を吐く。結婚祝いの言葉を告げれば、可愛らしい笑みが帰り。新郎もとても幸せそうで、みんな幸せそうで。こちらまで楽しく、嬉しくなって行く。
 こんな幸せを永久のものにする為に、バグアとの戦いを早く終らせようと、新たに胸に。
 暖色のグラデーションになっている秋の庭は、きちんと手入れされているが、毎日の落葉は掃ききれないのだろう。かさこそと足元から乾いた音がする。はらりと、紅葉がガーデンパーティのテーブルに色を添えたりもする。これから冬に向かう空気はとても清々しい。冬服用意しなくちゃと考えつつ、クラウディアはひとつ深呼吸をして、セルヴィアの卓の前にと辿り着く。
 つい、カードでは無く、セルヴィアを見つめてしまう。それに気が付いたセルヴィアはカードを止めて、問うように軽く小首を傾げた。
「あの、何か悩み事あるのですか?」
「私は‥‥悩み事をつまびらかにする方‥‥よ?」
 微笑まれて、いえ、あの、何となくですからと、誤魔化しつつ笑えば、そう? と、止まっていたカードが、軽い音を立ててテーブルへと広げられた。その深緑のカードに、何が分るのかなと、えい。と引いてみれば。『女教皇』のカード。
 セルヴィアは、また笑みを浮かべ。
「知りたい気持ちが‥‥高まっている時‥‥ね」
 難しくても、紐解くなら今だと。知識の扉が開いているうちに、沢山の調べ物や事を片付けると良いと微笑まれ。
 ざあと風が吹く。
 秋風の中に、冬の寒さも混じって来る、とある晩秋の日の依頼だった。