タイトル:紅い影<二幕>マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/08 02:26

●オープニング本文


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「ワイン買って来るのに、どれだけかかってんだよ」
「ん、ごめんね。飲みたいヤツが無かったから、学校の近くの店まで行ってきた。あ、林檎剥くよ。‥‥ここ、果物ナイフ無いんだ‥‥」
「ああ、これか。良いな。だって、料理なんてしねーもん。ピザで生きてるしオレ」
「包丁は何であるのさ」
「それは備え付け。最初っからあった」
「次からは果物ナイフの備え付けのあるマンション買ってもらってよ? 窓開けるよ」
「ああ、紅老猿は今日は大人しいから構わないぜ」
 小さな丸窓が外へと向かって開く。空気取りの為だけにあるような、小さな窓だ。その下で、青年達の笑い声が重なり、ワインがグラスに揺れる。
 一息にあおる様に飲み干すカン・ドヨンを眺めて、小さく溜息を吐くのはキム・ヨンス。
「君が騒ぎを起こすのは、僕は嫌いじゃ無かった。案の定、大慌てしてるみたいだから。でも、能力者に手を出すのは、やり過ぎだったね」
「町、ふらふら歩いてる、チビだったぜ? あれが能力者だったなんて解るもんか。お前も知らなかったろ」
「まあ‥‥ね。でも、君にはもう紅老猿を預けてはおけない」
「‥‥んだよ」
「バイ。ドヨン」
「‥‥っヨ‥‥ンスっ!!」
 優しい笑顔で笑うヨンスを見てドヨンは手にしたグラスを取り落とす。
(「やっぱりテメーが一番ウゼー!!」)朦朧とする意識の中、テーブルを蹴立て、ヨンスに掴みかかろうとするが、あっさりとかわされる。
「紅老猿は、移動させておいたよ。安心して。こいつはちょっと強暴なだけの紅い失敗したヤツだって」
 奥から鋭い雄叫びを上げる紅い猿は、姿形こそ、良く似ていたが。
 被せてある布を持ち、指紋のつかないように慎重に檻の蓋を開ければ、よろめくドヨンへとその牙を食い込ませ、鋭い爪が、深々と突き刺さる。
「もう少し、あそんでたかったよ、ドヨン」
 構えるのは包丁。
 ドヨンの息の根を止めた猿は、ヨンスへと踊りかかる。このキメラは、ひとり屠れば、満足するはずだ。ヨンスはそう思い、手にした包丁で必死に応戦すれば猿キメラの個体情報通り、丸窓の僅かな隙間から、硝子を打ち破りつつ外へと飛び出した。血まみれになりながら、薄く笑うと、ヨンスは失血で目眩を起こしつつ、警察へとコールした。

 大学は騒然としていた。
 紅い猿キメラを飼っていたのがカン・ドヨンであり、自らがそのコントロールを失って殺されたのだと。
 そして、居合わせたキム・ヨンスが重傷を負って入院中なのだと。
(「その言い抜けは通るかどうか、五分五分。下手ですよ、ヨンス君。まあ、結果として、あのお方は楽しまれているようですが」)
 報告を上げた時の、嬉しそうな笑顔を思い出して、キム・ホンス教授は、先ほどとは別の笑みを浮かべた。

「紅い猿を見つけただと。よくやった!」
 公園へと逃げ込んだ猿は、木の上にうずくまっているという。逃がさないように囲い込み、ラスト・ホープへ退治する依頼をと手はずを整え、ふとある事に気がついて渋面を作る。
「DNA云々とまた言われるかもしれないな」
  前回の猫キメラの紅い毛は、連続殺人キメラのものとDNAは一致しなかった。しかし、先に資料を変えてしまえば、能力者達にあれやこれやと首を突っ込まれる事も無いだろう。警察の内部に居る、よく知る男へと連絡を取り、DNAのすり替えを頼む。
『聞きまわる能力者が居ますが、鑑識の私が細工すれば、まずわかる事はありますまい』
「頼む。後で報酬は弾もう」
『期待してます』
「またキメラが出たら、今度は違う能力者を寄越せと言いたいからな」
 連続殺人キメラという、妙に指向性のある事件だと、これ以上世間に騒がれたくは無い。区長イ・ドンギュは忙しい日程に急き立てられるように執務室を出た。
 新しい住宅地が出来たセレモニーがあるのだ。
 他地区から移動してくる、高い地位にある人物や芸術家達。その中に卓抜した才能がきっとある。今すぐでは無くても、いずれ才能は才能に惹かれて集まるものだからだ。
 平和な地域でなければ出来ない事は多いと呟いて。

 鑑識の動きを見ていたひとりの刑事が、軽く肩を竦めた。
 そういう事は、まったく無いとは言えないが、今この時期にやるかなと。ふと、能力者の顔が浮かぶが、それと同時に、養わなくてはならない妻子の顔が浮かんで首を横に振った。

 何事も無い地域であれば有能だが、事が起これば、無能に成り下がるか。
 月明かりに細い影が、広い部屋に落ちる。UPC陸軍少佐ヨン・サンジェは、皺深い頬を撫ぜると、どうでもよさそうに呟いた。
 新しい街並みと、その誘致力は一目置く所だが、ボロを出しかねないと、危惧する。
 ならば長居は無用。ヨン・サンジェはその、高級住宅地の一角で夜空を仰ぎ見た。

 多くの傷を作り、病院に担ぎ込まれたヨンスは、包帯だらけだった。顔、手に無数の傷を作った。
 ドヨンの家へと遊びに行って、ワインを飲もうという事になり、買い物から帰り、林檎を剥いている最中に奥で暴れる気配があって、それを見に行ったドヨンが猿に襲われ、自分も襲われそうになったが包丁で応戦したと。
 どうしてドヨンがと、涙を浮かべるヨンスは、参考人として病室に数日拘束される事になるようだ。
 各地元メディアが、けたたましく病院を取り囲みカン・ドヨンの心の闇というドキュメントとして報道特番を組んでいた。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

●1日目昼
 雑然とした病院の外側を潜り抜け、能力者だと告げて、クリス・フレイシア(gb2547)はヨンスの病室へと辿り着いていた。
 見舞いは受け付けられないと、入り口で取り上げられ、その分の出費は返される。ナイフなどは持ち込まないようにとの事だった。
 クリスはヨンスのベッドの脇に座る。事件の時間軸を追いながら、逐一確認を取るが、齟齬はみられない。
 礼を言い、立ち上がり、去り際に振り返る。
「そういえば‥‥あの紅い獣毛、珍しいね。君の部屋から採取したのだが‥‥何か特殊なペットでも?」
「僕の部屋? ‥‥ドヨンが落としていったのかもしれないですね。ドヨンとも、仲が良かったから」
 困った顔は、どういう意味か。その判断はつかないが、僅かに動揺したのは見て取れた。
 ドヨンとヨンス、最初の学内の犠牲者ウンスが仲が良かったという事は聞いている。行き来する事もあったろう。その時落ちたものとされれば、とりたてて不都合は無い。
 狸だなとクリスは思う。ヨンスは一般人である。たとえどんな容疑がかかっていても。盗聴器や小型カメラの申請は通らない。事件の特殊性は十分承知しているが、それは許可出来ないと。
 もし、この事件が終ってはいないのならば、黒幕はヨンスの命を絶つだろうか。ならば、そこから新たな足跡が辿れないだろうか。そんな思考に軽く首を横に振り、クリスは病室を後にする。

 ロジー・ビィ(ga1031)は、警察に押収されたセダンの写真と、セダンの中に落ちていた紅い毛のサンプルを目にする。ドヨンがキメラを飼い、亡くなったのだ。家宅物は全て捜査対象となり、その書類が山となって積んであった。どれも、ドヨンが一連の犯人だと言う証拠ばかりだ。
 捜査資料に不都合は見当たらない。煉条トヲイ(ga0236)は、ドヨン宅とヨンス宅への家宅調査を決行する。
(「何故、キメラは突然ドヨンを襲ったのだろうか? この街中でキメラが長期間潜伏出来たのは、主人の命令には忠実であり、常にその庇護下に置かれていたからこその筈」)
 現場は綺麗に片付けられていた。何日も放置してはおけないと、マンションの管理者が清掃を頼んだからだ。あらゆる現場の資料は押収され、ファイリングされている。ドヨン宅は、ひとりで住むには広く、寒々とした印象があった。窓が少ないからかもしれない。一方ヨンス宅は日の当たる温かい場所にあった。大きな家は何時もハウスキーパーがヨンスが大学へと言っている間に綺麗にしつらえている。驚くほど妙な所の無い、まるでモデルルームのような部屋だった。
 どちらも嫌な感じだと、トヲイは思った。車を走らせれば、一連の連続殺人事件の現場は全て幹線から僅かに外れた場所にある。土地勘の在るドヨンならば苦も無く行き来出来るだろう。
 全てがドヨンを示す。だが、ドヨン殺害は単なるキメラの暴走では無く、暴走を装ったヨンスによる意図的な殺人である可能性が高い様に思えてならず。

 公園に逃げ込んでいるキメラは、あっという間に退治される。
「やはり、素早いか? 逃がすか? これまで、好きに暴れていたんだ。お仕置きは、必要だろ?」
 榊 紫苑(ga8258)は無造作に天照を振るう。
 大声を上げ、存在を誇張しつつ公園へと入ってきた能力者達に、そのキメラは反応した。今迄、動きは無かったようだったのが幸いだ。
「逃げろ。大丈夫だ」
 逃げ遅れた人を視界の端に居れると、逃走経路を示し、迷彩服に身を固めた錦織・長郎(ga8268)も走り込む。構えた特殊銃デヴァステイターからの弾丸が狙い違わず撃ち込まれ、紅い毛並みを吹き飛ばす。フォルトゥナ・マヨールーの銃口を向ける鐘依 透(ga6282)は、寸分違わない紅いキメラに眉を顰める。
 大泰司 慈海(ga0173)超機械の援護もあり、紅い猿キメラは退治された。透はあまりに同じ姿に、首を横に振る。同じなのだが、なぜかしっくりと来ない。それは、どの能力者も同じ気持ちのようだった。

 慈海と透はトヲイとロジーと入れ替わりに警察に居た。
「薬物反応とかは?」
「ワインからの」
 透が捜査資料をめくり、厳しい顔を上げる。
「それはありませんね。残った瓶からは何も出ていません。グラスは落ちて粉々でした」
 ふーんと、めくりつつ、検死官の名前など不自然な点は無いかと確認し、前回のキメラのDNA鑑定結果を貰う。案の定、猫キメラと、最初のキメラとの類似点は低く、別物だという結論が出ていた。ならば、今回のキメラは。
「ええとねー。キメラの毛、UPCにも回させて貰うからー」
 倒したキメラの毛を少し、鑑識がやってくるより早く採取していた慈海は、警察へとにっこりと言い放つ。この区は何処かおかしい。警察内部ですり替えなどもあるかもしれないと。
 どうぞとは言われたが、渋面を作ったひとりの鑑識を視界に入れた。
 指紋の確認をする透は、籠からはドヨンのものしか無い事を告げられる。覆いとなっていたとみられる布は、キメラが籠から飛び出る際に地に落ち、ドヨンやヨンスの足跡や、倒れたふたりの血痕、指紋が多々ついていたようだ。
 ドヨンとヨンスの捜査状況は、このキメラ退治が終われば終了するような雰囲気が漂っている。
「UPCの偉いさん、この辺りに居るんでしょ? 住所わかるよね?」
 事件の事もあるし、会ってみたいと言えば、通るかどうかわかりませんよ。と、前置きされ、住所を手に入れることが出来た。

 大学内で、聞き込みをしていた平坂 桃香(ga1831)は、たわいの無い噂を丁寧にメモしていた。
 夜中や早朝などの時間帯や普通は行かない場所でドヨンかヨンスを見なかったか。
 教授のお使いか、レポートの仕上げかと、さして気にもしなかったという。そういう子等は多く居るからだ。
 彼等の家族関係を知る者は居ないか。
 ドヨンは亡くなったマンションが名義であり、親は海外で活躍する商社マンである。ヨンスの住むマンションは、親の遺産だった。18まで両親と共に生活していたが、海外へ旅行時に、バグアの襲撃を受けて亡くなっている。親戚なども多いが、気ままな一人暮らしだと笑っていたという。
 紅い妖怪に間しては。
 あまりにも続く現実の事件により、それを話題にする時期は過ぎたのだろう。今となっては、それは紅いキメラだったのだという事に物語が着地していた。
 聞き込みを終えた桃香は、キム教授の個室へと顔を出していた。用意していた質問には、学内で聞いた以上の答えは無く、ひとつ頷き。
「ヨンスとは、親戚か何かですか?」
「この国にキム名はどれくらい居ると思いますか?」
「よく似てますから、ちょっと気になりまして」
 名前の音も似ているのだ。だったら良いんですと、さり気なく凝視する目に惑いは無く、可笑しみさえ見て取れる。
 謝辞を告げて去る桃香を見送って、キム教授は笑った。単純だからこそ、そこを誰も着目しない。もっと先にその事を表に出していれば、別の展開もあっただろう。だが、事態は転がるほうへと転がっていったのだ。
「ようやく気がついたのか‥‥と言ってあげれば良かったですかね。ドヨン君は死に、ヨンス君は動けず。駒が尽きればゲームもおひらきにしなくてはいけません。私を捕まえるには至りませんでしたね」
 机の引き出しをからりと開ければ、中には一枚の航空券。良く見れば、部屋の中はこざっぱりとしている。最初からそうだった。
 ──何も執着が無い部屋のようだった。

●1日目夜
 紫苑はあてどなくふらりと警備をする事にしていた。新聞社も数がある。何処とひとつにきめれず、足取りは多岐に渡っていた。だが、事が起これば、メディアに真っ先に情報が流れるはずだった。
 資料は、警察内で見るものよりも、ゴシップ性が高いものが多い。
 謎の死。
 そんな見出しに目を留める。ヨンスの両親がキメラに襲われ、同行していたヨンスだけが助かった。
 それは、母が身を挺して守ったと言う美談だったが、ヨンスのみ助かったのは不思議であると。小さなゴシップである。紫苑はそれを記憶した。
 急に慌しくなる。
 ヨンスが死んだ。詳しい事はこれからわかってくるだろう。
 関係者の誰かが口封じの為殺される。もしくは逃亡される。そうなるのではないかと思っていた。
(「やっぱりね‥‥」)
 紫苑は携帯を取り出し、この話を仲間達へと流す。
 
 紫苑から連絡の入る前。クリスとトヲイと桃香は、夜の大学内へと侵入する。
 能力者という事もあり、苦も無く捜査の許可が下りる。
 全ての人物は帰宅している。教授が居るかと思っていたクリスはあてが外れる。
 警備員に話をし、鍵の束を預かる桃香。髪が淡く青い発光をしているのは覚醒をしているからだ。
 能力者達は、紅い妖怪の噂や、前回ヨンスが不審な動きをした事もあり、大学の夜を気にしていた。
(「噂話に真実が含まれているとしたら‥‥出現の可能性が高いのは深夜だ‥‥」)
 トヲイは油断無く辺りを見回す。

 ロジーと長郎は、静かに大学周囲を回る。広い構内を囲む周囲はさらに広いと前回確認しているが、せずにはいられない。万が一という事がある。だが、何処と決めず車も使わない警戒は酷く時間を食うものでもあった。
 
 桃香は、大きな荷物の移動しやすい場所、人目につきにくい場所に当たりをつけてあった。そこは、出入り口からは程遠く、駐車場へも出ない。
 具体的に探すべき場所を決めていた桃香によって、的確に捜査の場所が絞られる。ただ探すだけでは何も出てこなかっただろう。
 木立の中、怪しげな丘があり、その丘の前のベンチがずれて、穴が開いていた。通路だ。前回、ヨンスは誰にも見られずに大学から帰ったのではなかったか。
 ピザ屋顧客リスト地域に車を回していた慈海と透も、紫苑からの連絡を受け。

●2日目朝
 警察の鑑識が通路を確認している。昨夜から、大学は封鎖されている。その通路の中には、紅い猿キメラが檻の中で人を威嚇していた。遥か昔の戦時に作られた防空壕のようなものに手を加え、通路となって外へと伸びている。出た先は、大学の外の雑木林。すぐに幹線道路があり、500mも離れていない場所に小さな商店街がある。人の行き来は少ないとも多いとも言えず車が停めてあっても不審に思われない、そんな場所だった。
 出勤してくるキム教授を待ち、桃香は大学に居残っていたが、何時まで経っても、教授は来る事は無かった。
 事務局へと顔を出せば、今日からしばらく研修旅行に出かけるという事だ。
「‥‥出来過ぎ‥‥ですよね」
 風が大学の木々を揺らすのを、桃香は睨んだ。返り際に見る事になる住民票に問題は無い。
「今更だが、キム教授について、何も知らなかったな」
 教授の履歴を確認してきたトヲイも溜息を吐く。
 心理学。
 人の心の機微には強いはずである。

 ヨンスの面会は叶わぬ事となった。
 何処から手に入れていたのか、果物ナイフで喉を突いて自殺したのだ。その前に、尋ねてきたのは親戚の男だったと言う。その男の行方は不明となっている。大学へと回るが、大学ではキム教授が居ない事を知る。
 
「皆さん、お怪我は大丈夫でして?」
 キメラは見つけられ、キム教授は居ない。ロジーは心の中で溜息を吐くが、傷ついた人々へのケアを忘れないでいた。
 優しい手に、公園で寝泊りする人々はキツイ表情を和らげて、見舞い品を貰う。それは、後から感謝と共に区長から補填される。
「上っ面だけ優しくされて、何が救えるものか‥‥とか、叫んでたなあ」
「そうだな。私等はその上っ面の優しさですらありがたいもんだけど」
「死んだんだろ? 犯人だったのかなあ。あの男の子。私等より、よっぽど荒んだ目してたからさ、ソンウクさんが声かけてパン渡してたんだ。私が、金持ちそうなのに、渡すなんてと言ったらさ、食べ物は気持ちだから、心が痛んだときは誰かから貰うと、どんな不味いものでも嬉しいものだって、ソンウクさん‥‥」
 その男の子の外見は、ドヨンと外見特徴が一致していた。事件の起こる随分前に公園でぼーっとしてる事があったのだと言う。
(「もっと早く話して下されば‥‥」)
 ロジーは唇を噛締める。だが、ただ聞きに来るだけでは、彼等は心を開かなかっただろう。親身になってくれるロジーだったから、聞く事が出来た事実でもあった。

「キメラの入手先が残ってるからねー」
 慈海は、渋面を作る区長から、もぎ取ったUPC陸軍少佐への紹介状を手にして、問題の少佐の住む区画へと車を飛ばしていた。もう、終わりにしたいのが見え見えの区長に、そうはさせないよーと心の中で悪い笑みを作る。

●2日目昼
 ロジーと紫苑はメディアへと足を伸ばしていた。
 まだ、何か裏がある。そう、ロジーは思い、膨大な量のメディアの資料や映像を追う。
 学内の噂のあった妖怪は、問答を投げてくる。
 その問答は選択があるようでいて、無い。
 どう答えても、殺されてしまうからだ。
 それは、まるでこの事件そのもののようにも見える。
「あら?」
 そういうタイプの妖怪に会ったらという、Q&Aがあった。質問に答えず、逆に質問をする。お前はどう思う? と。すると、妖怪は賢しい奴と、笑って居なくなるのだと。
 他は以前調べた事と大差無かったが、学校の妖怪は事件に流され、今は姿を消しているようだった。
 
 透は大学でドヨンとヨンスに関して改めて聞いていた。ドヨンはヨンスとウンスのみを特別としていたらしく、友達は多いが、仲の良いのは2人だけだった。どの教授とも折り合いが良く、教授達は、頭の回転の速い彼等を可愛がっていたのだと。夜に出入りするのはこの事件前は誰でも良くあり、取り立てて不審な点は無い。
 謝辞を告げ、透は騒然としている大学を眺めた。

 長郎は、スーツを着込み、慌しい葬儀社へと足を向けていた。ドヨンの葬儀は終っていたから、関係者に話を聞くつもりだった。仕切ったのは誰か。どんな親類関係だったのか。
「寂しいものでしたよ。大学関係の方ばかりで。海外に出られていたご両親も、仕事で来れない。こんな不憫な話があってたまりますかね。まあ、顔出せないかもしれませんね、息子が連続殺人の犯人だったら」
 今度はその友達が自殺ですからと首を横に振るの。
 実の息子の葬儀に来ない親?
 拭えない違和感を感じて、長郎は葬儀社を後にする。
 図書館を使い、気になる点を上げていくが、特に引っかかる事は無い。

「区長は親バグアであると、そう‥‥ね、噂がある。だが、彼のやっている事は、この地域の活性化だ。根も葉もない噂として、何時もあっという間に握りつぶされるよ」
 他には、取り立てて、黒い噂は無く、謝辞を告げて、クリスは電話を切ったのだった。

「どちらへ?」
 トヲイと慈海はUPC陸軍少佐の家の前で出立する少佐に話をと言うが、急いでいるのでまた。と、振り切られてしまった。
 何かがおかしかった。