●リプレイ本文
●本部での攻防inうさぎ
多くが行き来する本部では、あはは。うふふ。が、繰り広げられている。
可愛らしいラッピングに包まれた甘いチョコレートは、きっと渡す側の心まで甘く、渡された方の心も甘くとろけるのだろう‥‥。
ゆ る す ま じ。
そんな怨念背負った一団が、本部内のそこかしこに潜んでいた。
エントランスから、いかにもそれっぽい袋を持った女性を、わらわらわらっと囲み込む。
襟にはキラリと『NO! VD!』の高価そうなピンバッジ。
怯える女性に、救いの手は?!
ふわんふわんのもこもこが動く。
白兎の着ぐるみに身を包んだ、うさぎさんチームだ。
(「初めての依頼‥‥」)
夢姫(
gb5094)は、しろふわもこの、うさぎの着ぐるみにくるまれて、小さく頷く。袈裟懸けにかけられた人参型ポーチには、『Yes! VD!』と書かれた、ピンクの兎缶バッジが揺れている。これが、スタンダードなうさぎさんチームの衣装である。
夢姫のスタイルに、依頼慣れしている数名は、らしさを出すために、愛らしいワンポイント。
耳に青いリボンが揺れているのは五十嵐 薙(
ga0322)。体力強化依頼に参加出来た喜びに、満面の笑顔だ。それは、多分に、同チームの後衛として控えている暁・N・リトヴァク(
ga6931)の存在が大きいだろう。
首に、オレンジのアラビアスカーフを巻き付けた暁が、薙の視線に気がつき、手を振る。揺れる小さなうさぎ尻尾の横には、ピンクのハートのアップリケが2つついている。
戦いの前に、互いの無事を祈り、というか、らぶらぶの2人は、何をどうしても、桃色の時空間を発生させるのだから、しょうがない。しろもこ着ぐるみがはぐり合う様は、愛らしい様なのでよしとしよう。
初参戦のMk(
ga8785)は、桃色時空の余波を受け、僅かに遠い目をして、ひとり呟いていたりする。
「あそこだけなんか空気が違うんだが、いや、違い過ぎるんだよ。いや、お父さんそういう関係よくないと思うな、とゆうか人目をきにしろぉぉぉ!」
その突っ込みは、桃色時空に弾き返され、己に深く悲しみを刻んだだけかもしれない。
「あは」
がっくりしているMk越しに桃色時空を眺めて微笑むレーゲン・シュナイダー(
ga4458)は、同じくしろもこ着ぐるみの耳に淡い緑のリボンが可愛い。何時もの体力強化とは違った雰囲気だが、それはそれで楽しいから良いかと頷く。
「うさぎさん‥‥可愛い‥‥」
満面の笑みを浮かべて薙が頷く。
「では、行きましょう」
もごもごっと口元を動かしているレーゲンは、武器である豆チョコをひとつぶ頬張っていた。甘いカカオの香りが漂い、何をしていたかは、仲間内にもばればれである。薙が指を自分の口に当てると、レーゲンは慌ててごしごしと擦る。ひとつぶぐらいはご愛嬌であろう。
(「ちょっとしょっぱくて美味しいのですよっ」)
美味しい武器を人参ポーチに携えて、うさぐるみの一団が、兵舎の中をこそこそと移動する。
「よし。敵発見」
山となっているUPC軍の制服を発見した暁が仲間達に声をかける。
「職員スパイの顔は判別できないから‥‥レグさん頼み」
夢姫が、うーんと、目を凝らし、ペアとして動く予定のレーゲンに声をかける。
「よく見えませんねえ」
ペア指定は夢姫だけで、うさぎさんチームのペアは確定しておらず、多少の混乱は生じる。
だが、最初の攻撃はうさぎさんチームの先制で幕を開けた。
「フェンサーの戦闘は、一撃離脱が信条」
もこもこと走るうさぐるみな夢姫は人参ポーチからチョコ豆を取り出す。
「覚醒は出来ないけれど、鉢のように刺しっ!」
ばらばらっと撒かれたチョコ豆は、一番近い哀・能力者に Hit!!
「ぐっはあっ!」
何が起こったか、一瞬棒立ちになるが、ちゃくちゃくと迫るうさぐるみの一団に、哀・能力者達の反応は早かった。チョコ豆に当たった者は、うめきつつ廊下に倒れる。
「敵襲っ!!」
「我々は、断固VDを拒否するっ!!」
懐から取り出される色とりどりの蛍光カラーボール。
「時間差攻撃ですっ! 甘いチョコに沈むが良いのですよっ!」
レーゲンが夢姫の背後から、時間差でチョコ豆を投げつければ、テクニカル Hit!!
「VDは‥‥怖くない‥‥です。怖くない‥‥です」
穏やかに微笑みつつ、薙が、容赦なくチョコ豆を放る。桃色時空をそのまま連れてきているかのようだ。
その合間にもMkは、薙と共に奮戦していた。初撃により、哀・能力者はその数を大きく減らしている。チョコを撒く量は決まっている。一粒投げはカウントされないが、気を引く事は出来ているようだ。
「どう‥‥りゃあっ!」
正面の敵にチョコ豆を投げるフリして、その横に位置する相手にチョコ豆を投げつけようとするが、オーバーアクションは、諸刃の剣。その行動さえなければ、Hit したはずであるが、振りかぶったMkへと、正面の相手から、蛍光ボールがステキに Hit! する所に、暁のフォローが入る。
「愛の力で、撃退だっ!」
「そういうわけ? 何時もヒーローになりきれない、そんな端役?! っかしーなあ。オレ、ヒーローの役だったよね? そうだよね?」
なにやら呟きまくるMkは、その容姿の割りに、割を食うキャラなのかもしれない。
そうして第一次遭遇が終ると、屍累々である。
何時の間にか、白い画用紙に、『触れるな屍・依頼中』と書かれた白い三角ボード。死んだフリしている哀・能力者達は、エントランスの邪魔者と化しつつ、腹や背に三角ボードが括り付けられ。
チョコ豆とカラーボール飛び交う攻防中に、うさぐるみを脱いで、囮にと考える。お着替え中。Mkは、囮をひとつ確保した。だが、それは僅かに寒い事態でもあった。
寒さを堪えて、うさぐるみを抱えて仲間と共に移動する。
哀・能力者は、本部を移動し、次は中庭に居ると、横を行き交う、この依頼とは関係の無い、通りすがりの能力者が、うさぐるみ集団に声をかけてくれる。
「よし。見つけたぞ」
暁が、再び頷く。人数を半分程度に減らした哀・能力者達が、カップルを囲み説教をかましている。
今度は、先に発見される。
敵襲来。
その声と共に、カラーボールが投げつけられる。
「蝶のように舞‥‥っ!! きゃあっ!」
本部哀・能力者には距離を稼ぐ投げ手は居なかったが、夢姫がチョコ豆を Hit させるには相手の射程に入るという事でもある。軽い音が響くと、蛍光グリーンが、夢姫のうさぐるみにぺったりとついた。
引き気味の哀・能力者を目で追っていた為でもある。
「レグさーん。後はよろしく☆」
「はうっ! 夢姫さんっ! 任せて下さいっ!」
「すまんっ、間に合わなかったかっ!」
射程の長い暁が、背後から応戦してはいたが、何しろ、相手は倍の人数だ。どうしても、隙が生まれる。
──夢姫。戦線離脱。
どーんと置かれた、うさぐるみダミー。その後ろで震えつつ、Mkがチョコ豆を投げつける。
「暁さん! 大丈夫ですか! あたしが‥‥ガードしますから、今のうちに」
「薙さんっ!」
あ〜い〜。それは〜。
そんな何処かの歌が聞こえてきそうな、桃色時空発生。
飛距離はあるが隙を突かれて、暁へと向かう哀・能力者の前に、うさぎ跳びのように駆け込んできたのは、薙である。軽い音が響き、蛍光イエローがぺったりとしろふわもこ着ぐるみを汚す。
──五十嵐薙。戦線離脱。
「うん‥‥当たっちゃった‥‥折角真っ白だったのに‥‥」
ぺたんと座り込んだ薙のうさぐるみの耳が、心なしか下を向いているかのようだ。しょんぼりした薙へと駆け寄るのは、当然暁である。
「薙さんっ」
「暁さん‥‥」
桃色時空は、たとえ片方が撃沈しても、発生し続ける。むしろパワーアップして。
「撤収っ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げようとする、哀・能力者。
その際、2名ばかり、逃走しなかった者が居る。よくよく見れば、職員’Sである。見知った顔に手を振りつつやって来ると、その背後から、カラーボールを投げつけられて、あっという間に屍に。
これで敵は後1名。
うさぎさんチームの勝利は確定した。
●ショップでの攻防inきりん
当然のように、ショップ前には、チョコを買い求める人だかりである。
大規模作戦が繰り広げられている。
その合間をぬうように、チョコを確保しにショップを覗く能力者や一般人の姿がみられる。
武器を強化するより、貴方にこれをあげたいの。嬉しい。
なーんて。
そんな薔薇色の未来を想像してか、すでにそういう甘々な世界があるのか、それは定かでは無いが、浮き足立っている
ゆ る す ま じ。
何やら青白い炎を燃やすかのような一団が、ショップを少し離れた場所で、ふわふわとした人を狙っていた。
襟にはキラリと『NO! VD!』の高価そうなピンバッジ。
(「初参加ですが、がんばります!」)
軽く気合を入れているのはファーリア・黒金(
gb4059)前衛を担当する。
綺麗な薄い黄色い水干が、風をはらみ、ふうわりとゆれる。その額には、しっかりと被られる色画用紙のきりんさんのお面。
ショップ前の障害物は看板や街路樹辺りが、良いかもしれない。店の角や、路地なども隠れるには都合が良いだろう。きりんさんチームは、水干にきりんさん尻尾を付けて、裾や袖を翻して、哀・能力者に迫る。
中衛として、仲間達と共に行くのは辻村 仁(
ga9676)である。水干の手足を確り出すようにと考えれば、撮影班の皆さんが、タスキかけにしてくれ、足元ははしょってとめてくれた。
(「これでかなり違うと思いますが、さて」)
双眼鏡に、無線機を携帯し、連絡はばっちりだ。だが、実は数名連絡手段の手配が無く、完ぺきとは言いがたい。
水干の下には濃紺の袴。白小袖がちらりとのぞき、草履履きに、長い銀髪を組紐で、ひとつに高く括り、腰に差すのは彫金の飾りのついた、豪奢でレトロな神話時代の刀である。これは模造品であるが、撮影班の方々が嬉々として用意した。
(「うん、これは反対派の人の心に巣食う鬼を払うには最適の格好な気が。まさに心の鬼は外」)
ツーと言えばカーな、撮影班の技を再び目の当りにして、出来栄えに頷き、オリガ(
ga4562)は懐に隠した、チョコ豆を確認する。仲間達から手渡された、チョコ豆。は、仁とオリガに分配され、その手数に勝負をかける。
軽く頭を揺らしながら、不知火真琴(
ga7201)は、VDの騒乱を思う。
このお祭りは、あまり興味が無いのだ。だが。
(「人の幸せを邪魔するのはいけませんのですよっ」)
ふふふと笑い、囮になるべく、先頭を進む。
袖が僅かに重い。鳴神 伊織(
ga0421)は、その重さの原因である、豆チョコを確認しつつ、首を傾げる。
(「バレンタインの反対派に豆チョコをぶつける‥‥。和洋折衷とでも言えば良いのでしょうか‥‥いやはや何とも」)
これは体力強化では無いのかと、思うのだが。今回は番外という事もあり、体力はあまり関係無さそうだ。チームを見渡せば、依頼を共に解決した仲間も居り。ひとつ頷く。
「張り切っていきましょうか」
長い黒髪がさらりと綺麗に零れ落ちた。しっかりと頭にはお面が被さっているが。
囮役として、真琴が先を行く。コートを着込み、水干が見えないようにと気を配る。そして、きりんさんのお面を見えないようにと、大きな帽子を被り込む。
気を配っているからだろうか。ひしひしと切迫する視線を感じる。
チョコを購入して、外に出るが、あまり釣れるという感じはしない。
それもそのはず。
義理チョコと、本命チョコのオーラは違うのだ。
さっぱりとした雰囲気の真琴は、あまりにも、VDの怨念対象から外れている。
その横で、頬染めてチョコを買う女性能力者が、外へ出た時に、彼等は現れた。
地響きがするかのように、彼女を取り囲むのは、依頼にあったバッジがキラリと光る。
チャーンス。無線連絡を入れる真琴。
その無線を受けて、遠くに潜んでいた仲間達が接近する。無線を持って居ない者も、仲間の動きで、事があるのが知れる。というか、目の前に繰り広げられている。広すぎるフィールドや、入り組んだフィールドでは無いので、無線は別にいらなかったかも。
そう、哀・能力者を一斉退治するには、誰かを囲んでいる時の、初撃である。
「無体な事は、許さないのですよっ!! お逃げ下さいっ!」
帽子を投げ捨て、マントを脱ぎ捨て。豆チョコをぶつける真琴。綺麗に Hit!
「っ! 貴様っ! 崇高な行動を邪魔するつもりだなっ!」
「ぬぬぬっ! 悪の手先めっ!」
どちらが悪の手先だか。そう、能力者達は思ったが、どうやら、豆チョコを投げつけられて、何かが始まったのだと、理解したらしい。そうなればUPC軍人、対応は早い。懐からカラーボールを取り出した。
「油断すると、当たっちゃいますよっ!」
ファーリアが、楽しげに移動する。チョコ豆を投げつけるには、かなり近付かなくてはならないので、慎重に、だが、囮の真琴だけに意識が集中しないようにと気を配る。そのステップも、ジグザグと、一箇所に留まらずに美味く霍乱の役目を果たしている。
ベンチや、看板などに隠れて、近付いたのは伊織だ。伊織も、接近せねば、豆チョコが届かない。
「気持ちはわかりますが、諦めてください」
「油断大敵です」
仁の豆が真琴とファーリアに気を取られた哀・能力者に Hit! その間に、伊織の豆チョコが Hit!
翻弄される、哀・能力者。
しかし、ショップ前には、飛距離が伸びる敵が多かった。
一見だけでは、誰がそうだかわからないのが悩ましい。
「っ! お先にごめんですよっ!」
流石に、飛び交う蛍光カラーボールを全ては避けきれない。1人を道連れに。
──不知火真琴。戦線離脱
「仇は任せて下さい」
蛍光ブルーがぺったりと肩に当たった真琴を見て、オリガが眉を顰め、投げたの豆チョコが綺麗に Hit!!
「逃げ切れませんでしたかっ」
裾捌きは流石に着慣れている仁だったが、ついに射程内に捕まり、軽い音と共に蛍光グリーンが胸に広がり。
──辻村仁。戦線離脱。
姐さん! そう嬉し気に手を振りつつ、何やら壁になって飛んでくるのは職員’S、1名。強い絆を作り上げていた? オリガに向かい、懐きに翻ってやって来る。よしよしと思いつつ、オリガは職員’Sを盾にしつつ、もう1人 Hit!
一端撤収されたが、すぐにまたやってくるだろう。
「ふと、思ったんですけど‥‥豆チョコをぶつける行為って、チョコをあげる行為と同じような気がしますね」
軽く小首を傾げて、ファーリアが笑う。
(「かなり「ツンデレ」属性っぽいですけどw」)
「次、来ますよ」
伊織が目を細めて、遠くから物陰に隠れて接近する哀・能力者達を確認し、声をかける。
不意打ちで、半数以上を討ち取られ、1名離脱されたが、哀・能力者達は、まだ戦意を失ってはいなかった。
ショップより少し離れた場所で倒れている、被弾者には、いつの間にやら、白画用紙で、『触れるな屍・依頼中』と書かれた白い三角ボードが括り付けられている。
早めにケリをつけて、完全撤収を目論んでいるのだろう。
「相打ちなら上等でしょうね」
「っ捕まっちゃった!」
「まあ、今日の所はこれで勘弁して差し上げましょう」
──鳴神伊織。戦線離脱。
──ファーリア・黒金。戦線離脱。
──オリガ。戦線離脱
ほぼ互角。
伊織が笑みを浮かべ、ファーリアがえへへと笑い、オリガが軽く目を伏せ、首を横に振った。
かくして、ショップ前の攻防は、ほぼ互角ではあるが、能力者達の勝利に終る。
●公園での攻防inらいおん
誰が見てるかわからない。誰も見て無いかもしれないけど、でも告白しちゃうんだぞ。
そんな、周囲の視線をものともしない、VDの雰囲気に呑まれた老若男女が行き交うのが公園だ。チョコを手にして、語る言葉は、貴方に決めてました。か、どうかはわからないが!
ゆ る す ま じ。
告白したい相手も見つからないんだぜ。告白したい相手は、すでにお相手いるんだぜ。
そんな怨嗟の声が上がりそうな公園の物陰に潜むのは、襟にキラリと『NO! VD!』の高価そうなピンバッジをつけた、一団である。
何やら物慣れているのは、らいおんさんチームだ。
「らいおんさん、参上。お母さんらいおんも頑張るよ」
渋い低音が響く。UNKNOWN(
ga4276)は、咥え煙草で、何時ものような雰囲気なのだが、何時もとは激しく違うのがその衣装である。
お面は忘れず被っているが。身体のラインが浮き出るような、俗に言う全身スーツ。赤のネクタイにスパンコールやラメ、ビーズがふんだんに光る黒い衣装を羽織り、その上にマント。マントの先には金糸モールが緞帳の裾のように下がり、下準備は万全だ。輪になった縄が幾つも仕込まれている。
「やるからには勝ちますわよっ!」
拳を握り締めているのはロジー・ビィ(
ga1031)。鬣なびかせ、手には肉級も完備。真っ青な全身スーツに、スカートがついているのは、撮影班の皆さんのこだわりのようだ。女の子はちゃんとスカートらしい。
「蛍光ピンクでブリリアントだろ、ロジーv」
「とてもステキですわ、ジグ」
きゃっきゃうふふと、ロジーと戯れるジングルス・メル(
gb1062)の全身らいおんスーツは、目が痛くなるような、ピンク。仲良しの仲間達の中でも、特に仲良しの某隊所属のレーゲンと真琴に怪我だけはしないようにと、声をかけ、目的地のこよりを持って回っていたティムにも声をかけ、うきうきと、この戦場にやって来ている。
「『らいおん戦隊☆がおーれんじゃー』!! チョコを奪う悪の組織、『哀・能力者』と戦う正義のヒーローっ!!」
真赤に燃える、この命‥‥いや、空閑 ハバキ(
ga5172)は、きっちり世界に入り込んでいる。
「けけけけー! っしゃ、行くぜーっ!」
黄色の全身スーツに身を包み、辛うじて間に合ったNAMELESS(
ga3204)が、トキの声‥‥じゃなくて、気合を入れた突撃の雄叫びを上げる。
UNKNOWNがは、事前に、カップルが襲われる様を見て、哀・能力者の行動パターンを把握していた。そして、その時は来る。
「らいおんさん参上」
軽くお面のついた帽子を押さえ、びしっと決めポーズ。同じく走りこんでいたのはハバキ。
「がおーレッド!」
「がおー★もも! 物語はもう、始まってるんだぜ‥‥!」
「がおーブルー! 愛と正義の使者、らいおんさん参上ですわッ」
「けけけけーっ! がおーイエロー!」
「「「「「五人揃って、らいおん戦隊☆ がおーれんじゃー☆」」」」」
ジングルス、ロジー、NAMELESSの順に、びしびしとポーズを決めて、最後にそろえるのは、決め台詞。背後にはロジーが仕込んだ花火がぱちぱちと上がる。
どーん。
そんな、効果音がつくかもしれない。
ここは公園。哀・能力者だけでなく、一般人も多々居る場所である。
(「名乗りの間には、攻撃して来ないのがお約束‥‥だよね?」)
どきどきしていたハバキだったが、シーン。という、嫌な間が空くとも思わなかった。その、一瞬の間の後は、UPC軍哀・能力者達の行動は早かった。
というか、攻撃間合いを計っていたのなら、一気に攻撃すれば、かなりのポイントを稼げたのだが。
戦隊モノの魅力には勝てなかった、らいおんさんチームである。
そして、混戦を極める。
「合体中は、待つのがお約束だろっ!」
ジングルスが叫び、移動する。もちろん、お約束はそうである。だが、これは情け容赦の無い VD 攻防戦。最初の名乗りは、あまりの事で固まったに過ぎない。敵もある意味必死である。
それほど、距離は無いし、軽く、数のある豆チョコは、いかにスリングを作っても、飛ぶ距離は知れているし、その豆チョコは当たってもカウントされない。事前に問い合わせがあれば、NOの返事はきちんと返ったはずである。
「一般人には分かり難いはずですのっ!」
「おう!」
けけけけけー! と、声も高らかに、ロジーとNAMELESSが引き絞るスリングには、UNKNOWNが乗る。
「「「らいおんさんバリスター」」」
飛んで行くUNKNOWNだが、敵陣真っ只中である。そう高くは飛ばない上に、何人かに Hit させるが、自分もカラーボールの餌食になってしまう。軽い音と共に、マントに蛍光ブルーがてらてらと光る。
「私とした事が‥‥」
──UNKNOWN。戦線離脱。
豆チョコによって、倒れた、哀・能力者達は、何処からか白画用紙に『触れるな屍・依頼中』と書かれた白い三角ボードが付けられて、屍として倒たままでいる。
らいおんさんチームの最大の弱点は準備の多い動きである。瞬く間に接近され。
「くっ! 大丈夫っ。俺達の力を合わせれば‥‥!」
ハバキが、攻防の末、Hit! だが、もう何が何だか。その中に、総務課職員’Sを発見する。
「お、おまえは‥‥悪の組織を調べる為に潜入した職員! よく無事で‥‥っ!」
ハバキの言葉に、ざわりと動揺する、哀・能力者。
きらきらと、目の幅の涙を浮かべて、こちら側陣営に走り込む、職員’Sは、とりあえず、カラーボールの魔手から逃れて、何時の間に持っていたのか、豆チョコを取り出す。
「よしっ。今日からオマエも俺達の仲間だ!一緒に戦おう‥‥っ」
一瞬の間は空いたが、すぐに、カラーボールが飛んでくる。蛍光イエローが、まぶしい。
──空閑ハバキ。戦線離脱。
ついでに職員’Sも戦線離脱。
「かくなる上は! ジグ、NAMELESS」
「っよーしっ!!」
「けけけけけーっ!」
豪力発現で、ロジーは蒼い闘気に身を包まれ、その一部は羽根のように見え、瞳の色が紫へと変化。さらにテンションの高くなったNAMELESSと共に、ジグを飛ばす。飛行状態からの豆チョコ投下は、2人ほど、Hit させるが、UNKNOWNと同じく、カラーボールの餌食である。蛍光グリーンが鮮やかに色付いた。
──ジングルス・メル。戦線離脱。
──ロジー・ビィ。戦線離脱。
──NAMELESS。戦線離脱。
らいおんさんは、いつもルールの隙をついてくる。が、分からなければ良いと言うものでもない。バレなければ、何をやっても良いというものでもないからだ。一般人に分からなければ、良いという訳でもないのだ。
それでも、やってしまうのは、ある意味浪漫なのだろう。
哀・能力者も、白旗を上げた。
この戦いに気力をごっそり持っていかれた模様であった。
荒縄の縛りで、怪しげなものが密かにハバキにかけられていた模様であるが、その詳細は闇の中である。
こうして、なし崩しに公園の戦いはらいおん戦隊の辛勝となる。
●結果発表
どの場所で戦うかが、大きく戦局を分けた。総務課職員’Sは、各チームのジャッジマンとしての為にも、各地域にこっそりと分かれて居たのだと、後から知れる。
うさぎさんのお面を後ろに回したり、腕につけていたりお面が違っていたりした分と、武器装備の減点あり。
らいおんさんは、武器携帯の減点ありと、覚醒の盛大な失点。
戦いにおいて一歩秀でたのはきりんさんだった。
<作戦点>
うさぎさん 8点+14点−3点
きりんさん 10点+16点
らいおんさん 5点+16点−12点
ストレートに視覚と感触でポイントアップなうさぎさんだった。きりんさんは綺麗にまとまり過ぎたのが、仇となり。妙なインパクト満載のらいおんさんが、群を抜き。
終始桃色時空を発生させていた薙へとMVPが送られる。
<美術点>
うさぎさん 8点
きりんさん 5点
らいおんさん 10点
MVP 五十嵐薙(うさぎ) 3点
<総合結果>
きりんさん 31点
うさぎさん 30点
らいおんさん 19点
最高点を叩き出した、きりんさんチームには鬼のお面が手渡され、全員にチョコケーキが振るまわれる事になる。衣装提供は、総務課ティム・キャレイのツテとコネの友、某所撮影班からなので、全て無問題であった。
●敵も味方もお疲れ様
戦い終わって日が暮れて。
昨日の敵は今日の友。
「‥‥戦いとは虚しいもの、だ」
半ば、遊んでほしいが為の『NO! VD!』な、哀・能力者達は、一騒ぎ終わった後に、UNKNOWNに誘われるまま、『しろうさぎ』へと雪崩れ込んでいた。
レーゲンが、皆さんのどうぞと、ハートチョコを配れば、疲れた身体に甘いものが嬉しい。
総務課’Sは、トリュフチョコを貰って、感激でうるるとしている。大丈夫。奪い合っても。
「うちもありますよー」
にこにこと、真琴は『しろうさぎ』のキッチンで作った生チョコを、皆に振舞う。
そんな頃には、ズウィーク・デラード軍曹が召喚されて顔を出し、真琴のチョコを一つまみ。宅配屋さんと化していたレーゲンは、いいなあそれと、見るデラードへ、軍曹さんのは別にまたと、笑う。
「楽しかったですわー」
デラードもご一緒ですわねと、ロジーが楽しげにグラスを掲げる。
「AUKVが無いと、こんなに疲れるんだあ」
ファーリアは、冷たいソーダ水を前に、重厚なテーブルへと突っ伏している。何故かブルマ姿。
夢姫は、怒涛のように過ぎた、攻防戦を振り返って、楽しかったなあと、笑う。
「お疲れ様です。楽しく終われれば良いな‥‥」
伊織も、まわってくるグラスを手に取り、今日の健闘を称えあう。
ジングルスが、来たなと、へらりと笑い、デラードを捕まえて、プリンがあるかどうかとオーナーの老婦人へと聞けば、カカオを焦がしたブリュレなどいかがかと微笑まれ。
「VD、すき? 俺は好きだよーチョコ貰えるし?」
「こっち来てから、さらに好きかな。女の子から貰える日じゃなかったからねえ」
あ、そうなんだと、ジングルスは頷く。デラードの生まれた地域は、VD と言えば、ドレスや食事、アクセサリなど、恋人に送る、男性負担の多いデート日である。こっちのVD は、良い日だねえと笑われて。
「‥‥まぁ、恋人とかはまだ考えてナイけど、独身のが気侭に過ごせるって言ったら怒られる?」
「別に。‥‥縛られたくないんだろ? だったらまだ彼女は早いって事だ」
にやりと笑うデラードに、うーだの、あーだのジングルスは唸る。
「はーいじゃあ、グラス持ってーっ! 各チームも、職員’S も、哀・能力者もー‥‥皆、お疲れさんっ!」
ハバキが、音頭を取れば、『しろうさぎ』が揺れるほどの声が上がる。
成人には、シャンパン。未青年には、色とりどりのソーダ水や、ソフトドリンクだ。
「うさぎさん着ぐるみ‥‥着られて、良かった、ですね」
ふわんと微笑む薙は、暁と手をしっかりと握り合っている。何時でも何処でも桃色時空は発生する。
「うん、薙さん可愛かった」
「また、別の着ぐるみさんも着てみたいなぁ‥‥なんて」
「薙さんだったら、何着ても似合うよ」
「暁さん」
「薙さん」
ふんわりと、優しい桃色時空は、そこだけ別に切り取ったかのように甘そうで。
甘くて苦いのは、『しろうさぎ』特製の、チョコケーキ。
とろりとしたチョコレートがかかっている、小さな金色の砂糖漬けは、金柑。チョコケーキの中は、ほろ苦い柔らかなスポンジに、キャラメルが所々に顔を出し、薄くチョコムースの層が、ずっしりと重いトリュフチョコの上に乗っている。何層にもなったチョコに、顔がとろける。
「疲れた身体に甘味は最高なのです‥‥幸せですv」
真琴とティムと、シャンパンを傾け、チョコケーキにうっとりとしているレーゲン。その姿を見て、くすりと笑うと、オリガは、レーゲンと真琴を腕の中に抱え込んだ。
「福は内」
「っあ!」
「きゃっ」
きゃらきゃらと笑い声が、女の子達の間に響く。
いいねえと、笑みを浮かべつつ、ハバキは、未完成、らいおんさん合体技について、デラードへと語っていた。
「今度は一緒にやろう? デラードの色は‥‥」
「最後にいいところ攫ってく、金縁ついた、ホワイト」
「ええっ! ずりーっ!」
和やかな空間にひょこりとレーゲンも顔を出す。
「前から聞きたかったのですが、軍曹さんのR−01にお名前あるのですか?」
「あ、聞きたい聞きたいー」
ハバキもこくこくと頷けば、デラードが僅かに眉を上げて、笑みを深くするのを見る。
相棒。
どの機も、それだけだという答えに、レーゲンは、手を口元へと持って行き、ありがとうございますと、ぱやぱやとした笑みを浮かべる。
黙々と、チョコケーキの味を確かめるように食べている仁は、仲間達の喧騒の音に、楽しげに笑みを浮かべ。ひとり呟いているのはMk。
けけけけけーっ! と、NAMELESSの楽しげな声が響き。
お開きも近い、夜も更けて行く時刻に、ふらりと『しろうさぎ』を出るオリガは、夜の街へと繰り出すのならば、一緒にと声をかければ、二つ返事で頷かれ、飲兵衛の友は、アルコールとの出会いに出かける事になる。
こうして、VD攻防の一端は、幕を閉じる。
様々な人の様々な思いを乗せて。