タイトル:空の歌<火焔樹>マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/15 21:32

●オープニング本文


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 ハンノックユンファラン(gz0152)は、サーマートが戻らない時間が、こうも長いものだとは思っても見なかった。冷凍保存されている、彼の妹、マーヤの遺体のカプセルの前で、首を傾げる。
 強化してあるサーマートは、通常の人類の限界を軽く突破している。能力者を振り切る程度には。
 海中に落下した軍用ヘリから、脱出するぐらいは造作も無いはずだった。海中で、人一人を探し出し、捕獲するのは、余程準備が整っていなければ、無理だ。こちらが、どのようにサーマートを奪還するかと言う事も考えていなかったような相手からならば、易々と戻って来れるはずだった。それなのに。
「貴女のお兄さんは、今度は私を裏切るのかしら」
 それとも、そもそも、私は利用されていただけなのかしらと、呟いて、はっとなる。
 ありえない言葉を発したかのように牡羊座は口元を押さえる。しゃらしゃらと金のバングルが流れて落ちた。

 今度こそ、息の根を止めに行くと、牡羊座から連絡を受けた、バグア軍アジア・オセアニア総司令ジャッキー・ウォンは、笑顔で快諾した。君の事だから、仕損じはあるまいという言葉までつけて。
 優雅な動きで椅子から立ち上がると、ウォンは自らが動く事を部下に通達する。
 ゾディアック牡羊座の失敗を見逃すわけには行かない。見逃して博士が出向くのも一興ではあるが。
「まあ、面白い出し物を見逃すわけには、いかないですから」
 酷薄な瞳が笑った。

 サーマートは最後にマーヤと交わした言葉を思い出していた。
 ほんの一瞬戻った意識の中で、妹は『おにいちゃんの戦いは間違っている』そう、途切れ途切れに告げた。
 落下する軍用ヘリからの脱出は容易ではあったが、しなかったのは、もう目的は達成したからである。
 ムアングチャイは、全ての原因は自分にあると、堂々と国民に語った。そして、獄中のサーマートへ侘びにも来た。物知らずの男ではあったが、憎む事はもう出来なかった。憎んでも、誰も戻りはしない。
 自ら裏切った人類へ、後は少しでも役に立てば良い。オーストラリアで見聞きした事は殆ど無い。
 だが、強化された自分の身体から、何らかのバグアへの対抗手段が引き出されるのならば、それに協力するつもりでもあった。何故爆弾が埋め込まれていないのかと、先日、傭兵が笑った。爆発物の確認はまず最初にされたが、確かにそれは無かった。
 牡羊座、ハンノックユンファランは、元は、タイの貴族、ラタナカオ一族の女性だと言う事も知った。その一族がすでに絶えている事も。何処と無く不安定な様子の牡羊座を思い出せば僅かに胸が痛かった。
 同じ境遇だったのかと。今となっては、彼女は正真正銘のバグアだと言うのに。
 サーマートは深いため息を吐いた。

「護送をお願い致します」
 オペレータの女性の向き質な声が響く。
 UPC軍から、傭兵へと持ち込まれたのは、タイ国より、海上の空母までの護送。
 コンテナに収容されたサーマート・パヤクアルンをロープで吊るし、護送して欲しいとの事だった。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
煌月・光燐(gb3936
16歳・♀・FT

●リプレイ本文


 寄せる南国の波を見ながら、終夜・無月(ga3084)は静かに海を眺めていた。
「‥‥主様‥‥彼女には‥‥もしかして‥‥感情が?」
 無月に付き従うような煌月・光燐(gb3936)は、過去の報告書を読み込んできていた。牡羊座らしからぬ行動が表立ったのは、つい先日の依頼。彼女にとっては使い捨ての駒のような部下の為に、わざわざ奪還を試み、さらに呼びかけるという行動すら起こした。どうだろうねと言葉少なく返す無月に、光燐も首を傾げた。海風が、木々を揺らし。

「‥‥くっくっく、内通者の炙り出しを図ったほうが良いが、時間は無さそうだね」 
 軽く肩を竦め、錦織・長郎(ga8268)は、未だ混迷を続けるタイ軍内、及び王室内を思う。
(「ヘリが攻撃されても、彼が逃げなかったのは、僕達に協力するという意思が存在するからなのかね‥‥だとすれば、その意思を看破出来ぬ彼女ではなし。今回は必ず粛清に参上するだろうね」)
「防ぎ止めるには辛いものではあるが、やってのけなければならないね」
 長郎は独り考えを巡らせる。
 下級兵の溜まり場へと、アンドレアス・ラーセン(ga6523)は顔を出す。挨拶はされるが、何処かよそよそしい。それは、覚悟の上だった。何が出来るわけでもない自分を、アンドレアスは良く知っていた。ギッティカセーム一門が潰れればどうなるのかと問えば、今は水面下で大騒ぎ中だと苦笑が帰る。ギッティカセームが主だった政敵を全て排除していたため、新たに纏めて引っ張っていく者が出てくるまで、小競り合いが続くとのこと。しかし、国王が政務に積極的のようでもあり。相槌を打ちながら、一人一人の顔をしっかりと記憶する。行く末からは目を離さないようにと心に誓う。彼等の生活はここが終わりではないのだから。

(「‥‥これで本当に良かったのでしょうか」)
 深い溜息を吐くのは、ロジー・ビィ(ga1031)。北東部に赴いた彼女は、赤い獅子に面会を求めていた。
「以前はご無礼致しました」
 彼女の謝罪を、赤い獅子は苦笑しつつも受け入れた。
 しかし、話がこれからのタイの事に及ぶと、態度は硬化する。
「前にも言ったが、もう一度言おう。国を憂えてくれるのはありがたいが、実際にどうこう出来る立場ではない君と、茶飲み話のように対策を語ろうとは思わない。これからのタイの事は、タイ国民が決める事だ。君は傭兵として各地で戦うのだろう? その場の職務を頑張りたまえ」
 腹に響く声だった。ロジーは非を詫びると、ハンノックユンファランの事を話題に出すが、軽く眉を吊り上げただけで何も答えは返らなかった。触れるのも嫌そうな話題のようで、職務に戻りたまえと丁寧に退席をさせられる。

 ギッティカセーム老の屋敷へと赴いたのは大泰司 慈海(ga0173)だ。ラタナカオ一族の件について、話を聞かせてもらえないかと水を向けるが、それが、今どうして必要なのか、何故聞きたいのか、何か物証を持って探っているのかと逆に問いかけられて、全ての発端を知りたいと言えば、では、タイの成り立ちから語ろうかと、鼻で笑われる。消沈していても、質問を考えてこなければ、何ら引き出す事の出来ない相手でもあった。周辺は、人相の悪い輩が行き来し、警備が強固になっていた。
 帰路の途中、遠くにムアングチャイの屋敷が見えて、慈海は僅かに途方に暮れた表情になる。見ていたのは彼の地位。人として見ればまた違った結論が導き出されたかもしれない事を思い、首を横に振る。謝罪にと一瞬過ぎったが、それは自己満足だと思い直し、会わない‥‥会えない自分に又溜息を吐いた。

 平坂 桃香(ga1831)は、ムアングチャイの屋敷を訪ねていた。特に、これといった用は無いが、どうやら様々な事が収束に向かっているようだ。ムアングチャイは、桃香の訪問を苦笑と共に受け入れた。
「これからどうされるんですか?」
「どう考えても、私は悪くないのだよ。いや‥‥私が悪かったのだ。そうだな、許されるのならば、再びタイ軍へと戻りたいと思う。一兵卒として」
 どうやら、根本はそうそう変わるものでは無さそうだが、何か一本芯が生まれているような印象を受けた。
(「わりと、人類の為になるような方向に向かってくれそうですねー」)
 この戦いは、発端はネーノーイという部下の立身出世欲が、ムアングチャイを騙した事によって引き起こされている。有無を言わさない誤爆という、暴挙が無ければ、サーマートはバグアの手に落ちなかったし、牡羊座はタイ攻略に手をかけなかっただろう。だが、それを今更どうこう言うつもりも無い。
「説教する為に行ったわけじゃありませんからねー」
 暇を告げて、屋敷外に出た桃香は、その豪奢な屋敷を振り返り、小さく呟いた。警備はしっかりとされているようだし、周辺をうろつく不審者の影も見られない。この謹慎を、少なくとも好意的に国民は受け取っているようだ。


 サーマートは、大人しくコンテナの中に閉じ込められていた。
「また‥‥会えたね」
 慈海はくしゃりと顔を歪めて、対峙する。能力者の関与は、彼の求めるものを引きずり出す事は出来なかった。結果として、牡羊座の手を借り、南部を巻き込んだサーマート自身が解決の糸口を手繰り寄せたのだ。慈海は悔しかった。
「俺、不甲斐ないよね‥‥元から期待されて無かったかもだけどっ。 このままじゃ、恥ずかしいからさ‥‥名誉挽回の機会を頂戴っ! 何時になるかわからないけど‥‥気長に待っててよ☆」
「‥‥君は傭兵だろう? 国の根幹を正すのは、国民のする事だ。君のする事では‥‥無い。気持ちだけは受け取っておこう」
 穏やかともいえるほどの笑みに、慈海は一瞬怯む。
「自分が犠牲に‥‥とは思わず、生きてこの先も、タイの行く末を見届けて欲しい。自分がこんな事を思うのは可笑しいけど‥‥生きる情熱を捨てないでいて」
 全て失い、行き急いで駆け抜けて、目的をやり遂げたサーマート。燃え尽きてしまったのだろうか。捕虜引渡し時の彼とは随分と雰囲気が変わってしまっている。
(「ダーオルングとサーマート。もっと早く出会っていたら‥‥バグアより先に」)
 それでも、生きていて欲しいと慈海は願い、その場を後にする。
 移送時点での危険を告げに、煉条トヲイ(ga0236)は顔を出す。
「俺達がお前を命がけで護り抜く。 ‥‥お前には、妹や犠牲になった人々の分まで生きる義務がある‥‥天命の尽きるその日まで」
「それは、神のみぞ知る事だ」
 哀しげな笑みを浮かべたサーマートに、トヲイは唇を引き結ぶ。
 FR襲撃は、もう予測というよりは、確定事項に近いだろうと言う事は、誰しも共通の認識だった。そして、今度現われるその時は、いかにサーマートといえども、容赦される事は無いだろうという事も。トヲイは溜息を吐く。強化処置を受けた者の寿命は短い。それは、数々の報告からも読み取れる。彼の寿命も長くは無いだろうと言う事をトヲイは思っていた。
 けれども。
「‥‥国の為に全てを捨てた男を──こんな所で死なせはしない」
「君の期待に応えれる男ではないのだが‥‥ありがとう」
 トヲイは厳しい顔のまま踵を返した。固い決意と共に。
「私の機体がコンテナごと護送しますので、護送中に何かあるようでしたら、こちらの指示に従って下さいね」
「‥‥」
 桃香は、じっと見ているサーマートが自分を透かして、別の人物を見ている気がした。東洋人は幼く見える。ひょっとしたら、妹をダブらせているのかも知れない。聞いてみようかと思ったのだが、止めておく事にする。返事の無いのが気になるが、とりあえず、説明をきちんとすると、桃香はコンテナを後にする。
「目的達成ってトコか?」
 静かに座っているサーマートへと、半ば八つ当たりのようにアンドレアスは言葉を投げかける。
「UPCが介入する状況を作り出す事がさ‥‥戦いの勝利なんか望んでなかった訳だ。誤爆の真相は明かされた。けど、お前の真実は本当にそこにあったのか? 最後の瞬間に兄貴が側に居なかった子供の気持ち、考えた事あるか?」
「‥‥前にも言ったが、UPCの介入は最初から望んだ事では無かった。結果として、それしかない道に踏み込んでいってしまったが‥‥君か。部下が攫われた時、妹の安否を聞いた傭兵だな‥‥。あの子は、市内で治療しても長くは無かった‥‥せめて故郷でと、島に最新の医療機器を入れて貰うよう、もてるもの全てを出して、友人の医師に手配を頼んだんだよ‥‥だが、間に合わなかった。全てが」
「っ! いいか、てめぇは絶対死なせねぇ!!」
 アンドレアスは、誤爆の裏の真実を知る事となった。


 サーマートのコンテナ輸送をKVで行う事が、今回の任務だ。ロジーが熱意を持って語りかけたUPCの監査官は、怪訝そうな顔をして、早く行きたまえと促される。慈海の申請するエアタンクは、何処につけるのか不明であり用意はされなかった。
 コンテナは桃香の骸龍に吊るされて、空へと浮かぶ。この粗雑な扱いに、能力者達は、サーマートの生死は問われていない事を薄々と感じていた。バンコクを発つと、まだタイの領海内にも関わらず、目の前にHWとCWの一団が現われた。その一団は、お椀形に引き込む陣形で、高度を保っている。
 長郎が眉を軽く顰める。
「予測通りかね」
「来たね」
 何時に無く真剣な表情をした慈海のウーフーが、ジャミングを中和させているが、何時ものようにCWの数が多い。前面へと突出しているロジーのアンジェリカとディアブロのアンドレアス。
 下手に突っ込んでいけば孤立する恐れもありそうだ。
「手早く落としてしまいたいものですわねっ!」
 2機は、綺麗な軌跡を描きながら一番近い場所のCWを狙おうと飛ぶ。しかし、接近させじと、合間に入るHWから、行く筋ものレーザーが飛ぶ。前方ばかりに気を取られていると、お椀形の上部や下部から、ふわりとHWが近寄り、あらぬ場所からレーザーを飛ばす。瞬間的にアテナイが向かってくるHWへと向かう。ロジーは攻撃をかわしながら、ブーストで接近。レーザーを叩き込む。アンドレアス機はスナイパーライフルでCWを狙い撃ちながら、ロジー機と動きを合わす。
「出てきやがれ女狐!」
 お椀形の陣形で包み込むように迫るHWとCWは、前衛2機と戦いつつ、確実に残りの機へと迫っていた。桃香機着水時が危険と見て、戻りたいのは山々だったが、HWとCWの相手でアンドレアス機は手一杯だった。

 敵機影を発見した時点で、桃香機は、コンテナごと垂直に着水行動をとっていた。鉄の塊ではあるが、中には空気が入っている。かろうじて上部は浮いている。桃香機は着水すると濃霧が吹き上がる。スモークだ。そのまま、水中ガウスガンでコンテナへと狙いをつけようとするが、ロープを外さないと射程には入らない。ロープを外すと、桃香は撃った。いくら接近した場所で打ち、水中武器で、コンテナのロックを狙ったとしても、海面で揺れるコンテナは無事ではすまない。激しくへこみ、その衝撃でロープが揺らぐ。無理に扉を開けようとしても、思うように行かず手間取る。その間に、隙間から入った海水はコンテナを海中へと沈めて行く。桃香は中へと声をかけた。
「不測の事態です。出てきてくれませんかー?」

 次第に近寄ってくるHWとCW。後方からの攻撃は、未だ迫る敵機に届かない。長郎機と慈海機はじりじりとした気持ちを持ちながら、持ち場を離れず。
 水面に吹き上がった煙。その上空を維持する為に、トヲイの雷電、無月のミカガミ・白皇、光燐のフェニックスが旋回する。
 その、さらに上空に、強いジャミングを観測。無月、トヲイ、光燐はHWとCWの遥か上空の索敵を開始する。

 きらりと光った場所から、ミサイルが飛んでくる。そのミサイルは桃香機の降りた水面へと。発射場所へと、3機はそれぞれにペイント弾を仕込んだ攻撃を撃ち放つ。着水したミサイルは、激しい波を起こし、KVを揺るがす。桃香は、未だサーマートをコクピットに招く事が出来ていない。
「指示に従って下さいと言いましたよ」
「私はそれに頷いては居なかったよ、お嬢さん」
 海中に沈んでいきながら、派手に揺れるコンテナの上で、サーマートはFRの戦いを見ていた。その合間にも、戦いの余波である流れ弾が海面を大きく波立たせ、今にも沈んでいきそうである。

「この装飾はキライと言ったはずよ」
 ペイント弾で露になったのはFR。悠々と現われた牡羊座は、含み笑いを乗せて、無月機へと襲い掛かる。レーザーが無月の翼を襲う。しかし、その合間に光燐が入り、G放電を放つ。
「ユンファラン‥‥貴女は‥‥どうして彼にそこまで執着するのですか?」
 無月は機体を捻り、攻撃を回避して間合いを取る。
「『天から落ちた明けの明星。暁の子よ。お前は地に投げ落とされた』‥‥同じ星の下に生まれた2人‥‥だからこそ、惹かれたのか?」
「キレイな言葉ね。それはキライじゃなくてよ。少しロマンチック過ぎるかしら?」
 リニア砲は虚しく落ちたが、接近したFRへと、トヲイはソードウィングをぶち当てる。FRの片翼が、みしりと音を立てて一部が吹き飛んだ。
「‥‥不死鳥羽のばたき‥‥克目しろ‥‥」
 光燐は詰め寄り、フェザーミサイルを撃ち放つ。細かい穴がFRを穿つ。さしてダメージは受けてはいない。煙へ向かって降下しようとするFRへ無月はブーストを発動し、急接近する。
 無月機から、ドゥオーモが放たれる。雨の槍のごとく、降り注ぐ弾丸が、硬質の音を立てて、FRを揺るがす。FRからも、同等の弾丸が無月機を襲う。何故逃走しない。何故そうまでしてサーマートへと向かおうとするのか。無月は、らしくないFRの姿に、眉を顰める。
「牡羊座が堕ちる時‥‥それは皮肉にも人に戻った時だ‥‥」
「嫌ね。何時の間に、貴方達はそんなに強くなったのかしら?」
 ぐらりと傾いだFRへと、トヲイが再び急接近すると、ぶち当たる。怪訝そうな声は、笑っているようにも聞こえた。トヲイはぐっと奥歯を噛み締める。
「──暁の空に散れ。ハンノックユンファラン‥‥!」
 煙が消えれば、そこにはただ海面しかなく。
 FRがその推力を失って、落下して行く。
 慈海機と長郎機から、スナイパーライフルの銃弾が、落ちるFRに撃たれて。燐光のフェザーが舞い踊る。そして、数がようやく少なくなったHWとCWの群れの中から、アンドレアスも飛び出す。ブーストをかけ、K−02ミサイルに力を乗せて打ち出して。僅かにその落下位置がずれた。
 海中に没したFRは派手な爆発を起こした。海面は盛り上がり、水柱が空へと吹き上がり。
 ぼろぼろになった桃香機が引き上げられ、ずぶ濡れのサーマートも同上していた。
 このルール違反には、FRも出た、緊急事態だったのでという言葉で押し切られる事となる。

 爆発の規模から、搭乗者の原型は留めていないだろうという予測が立った。
 牡羊座は撃墜されたのだった。