タイトル:ある夏の日。マスター:いずみ風花

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 100 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/31 01:37

●オープニング本文


※当シナリオは参加者上限一杯まで、抽選処理が為されます。
ショートシナリオとなっていますが、文字数制限については緩和してあります。
また、参加者はイベントシナリオと同じく依頼拘束を受けませんのでご注意ください。


 空は何処までも青く、LH(ラスト・ホープ)の上空に広がっている。
 この移動島には、バグアの爪はかかっては居ない。
 ここだけ、穏やかに時は流れている。だが、もちろそれは、表面上のものだ。
 何時も何処かで戦いの火蓋が切られ、キメラを退治し、護衛、人探し、はたまた子守に至るまで。傭兵達の日常はせわしなく過ぎていく。本部内のモニターには様々な依頼が映り込む。オペレーターの指示を受けつつ、依頼を選び、各国へと、高速艇で散って行く。
 本部小隊内では、大規模作戦の時期になれば、綿密な作戦会議が行われている。三人寄れば文殊の知恵。ひとりでは成し得ない作戦も、そこから生み出される事が多い。もちろん、単独で大規模作戦に向かう者も多い。その手が無ければ、届かなかった場面も少なくは無い。
 立ち並ぶ兵舎のビル群では、終日、様々な依頼から戻ったり、スクランブルがかかり、飛び出して行く傭兵達が、好きなように時間を過ごす。
 お気に入りの歯磨き粉が無くなったとコンビニに向かう者もいるし、休日なのだろうか、ラフな服装で、出て行く者もいる。傭兵といっても様々で、仕事を持っている者も少なくは無い。書類片手に、難しい顔をする者も居れば、迷彩服を着込み、トレーニングに走り出す者も居る。
 愛機であるKV(ナイトフォーゲル)のメンテナンスが気になって、格納庫へと足を運び、KVを磨く者、ペイントを施す者。兵装を調節しようと、ショップへ向かったり、ドローム社や研究所へ向かうものも居る。研究所では、怨念が渦巻いているという噂が、都市伝説となって伝わっていたりするのは、きっと気のせいでは無いはずだ。
 図書館に篭るのも、空調が聞いていて、良いだろう。お気に入りの本を手に取ったり、調べ物に没頭するのもまた、楽しい。
 遊技場で依頼で稼いだ金額の増減に一喜一憂する者も多い。懐を膨らませて、ほくほくと帰る者。一瞬増えた、あの金額は夢幻だったのだろうかと、首を捻る者。その日の運試しにどうだろうか。
 広場で待ち合わせをする人々も多い。人の出入りの多い広場では、歴戦の傭兵から、駆け出しの傭兵まで、思い思いに過ごしている。時折、屋台が顔を出す。多国籍なその屋台は、おにぎり売りから、シシカバブ売りまで。探せばきっと自国の、思いもかけない屋台があるに違いない。
 車を走らせ、LHをぐるりと一周する者も居る。島の端には、海を臨む公園がある。何処までも広がる海原を眺めて、終日過ごすのも乙なものだ。
 近くには、プールもある。青い空の下、海を見ながら疲れた身体を癒すのも良いだろう。パラソルの下、長椅子と小さなマルテーブルが設置してあり、カキ氷や冷たい飲み物が売っている。簡単な食事も出来そうだった。

 それは、貴方のラスト・ホープでの、夏日のとある日の出来事。
 見上げれば、青い空。

●参加者一覧

/ 鋼 蒼志(ga0165) / 藤田あやこ(ga0204) / ツィレル・トネリカリフ(ga0217) / 空間 明衣(ga0220) / 御影・朔夜(ga0240) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 時任 絃也(ga0983) / 鷹司 小雛(ga1008) / 水理 和奏(ga1500) / 神崎・神無(ga1871) / 西島 百白(ga2123) / 翠の肥満(ga2348) / リヒト・グラオベン(ga2826) / 御影 柳樹(ga3326) / ランドルフ・カーター(ga3888) / 葵 コハル(ga3897) / クラーク・エアハルト(ga4961) / レイナ=クローバー(ga4977) / 瑞浪 時雨(ga5130) / 劉・黒風(ga5247) / 赤村菜桜(ga5494) / ゲシュペンスト(ga5579) / シーヴ・王(ga5638) / ヴォルク・ホルス(ga5761) / カルマ・シュタット(ga6302) / イリアス・ニーベルング(ga6358) / ハルトマン(ga6603) / ステラ・レインウォータ(ga6643) / 旭(ga6764) / 暁・N・リトヴァク(ga6931) / ルナフィリア・天剣(ga8313) / ミヅキ・ミナセ(ga8502) / ユナユナ(ga8508) / 守原有希(ga8582) / 紅 アリカ(ga8708) / チリュウ・ミカ(ga8746) / 虎牙 こうき(ga8763) / 天城(ga8808) / 高日 菘(ga8906) / フェリア(ga9011) / まひる(ga9244) / レイン・シュトラウド(ga9279) / 天狼 スザク(ga9707) / ジェイ・ガーランド(ga9899) / 暁 古鉄(gb0355) / クロスエリア(gb0356) / 宮明 梨彩(gb0377) / ティファ・グラード(gb0639) / イスル・イェーガー(gb0925) / 仮染 勇輝(gb1239) / メデュリエイル(gb1506) / 八幡 九重(gb1574) / 秋月 九蔵(gb1711) / 赤城・拓也(gb1866) / 志烏 都色(gb2027) / ドリル(gb2538) / イリアス(gb2760) / 鳳覚羅(gb3095) / 風雪 時雨(gb3678) / 澄野・絣(gb3855) / 森ヶ岡 誡流(gb3975) / 織那 夢(gb4073) / ノルディア・ヒンメル(gb4110) / 深墨(gb4129) / 待威 勇輝(gb4230) / トクム・カーン(gb4270) / 鳳由羅(gb4323) / 柊 沙雪(gb4452) / Y・サブナック(gb4625) / 天宮(gb4665) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / ジャマール・エクセル(gb4753) / ティリア=シルフィード(gb4903) / ウラキ(gb4922) / ノーマ・ビブリオ(gb4948) / 獅子河馬(gb5095) / 長門修也(gb5202) / 銀華(gb5318) / 上杉 怜央(gb5468) / 神咲 刹那(gb5472) / 鷹神・隼(gb5563) / 六方善処(gb5599) / 東藤峯人(gb5651) / 風見圭一(gb5860) / 武御門 火姫(gb5963) / 阿部 睦月(gb6106) / 氷室 昴(gb6282) / メシア・ローザリア(gb6467) / 結城悠璃(gb6689) / 犬神 狛(gb6790) / 海東 静馬(gb6988) / ヴィンフリート(gb7398) / 諌山詠(gb7651) / 亜(gb7701) / 流 星刃(gb7704) / くえす(gb7716) / 古坂 翔一(gb7994) / 月島 瑠璃(gb8001) / 柚紀 美音(gb8029) / 白蓮(gb8102

●リプレイ本文


 リヒトは、兵舎『月光』から、LHの一般住宅街の母へと連絡を取ろうと、電話を手にする。父をはじめ、大勢の人と母国を失った負の感情のまま能力者になった。それを母は最期まで反対をしていた。けれども、能力者として生きる中様々に出会った人や出来事が負の感情以外の意義を与えてくれた。受話器の向こうから、久し振りに聞く母の声。大丈夫だから。そう伝えるリヒトの声はきっと母に良い変化を伝えれただろう。
 クラリッサは、エプロンを脱いぐと、ぐるりと見渡す。綺麗に掃除し、布団も干した。太陽の匂いが心地良い。任務中の愛しい人が何時も安らげるようにと。共に傭兵であり、すれ違いも多いけれど、一緒に居られる時間は大事にしたい。とびきり美味しい料理を作って。薬指にはまった、24金とプラチナが連理の枝を示す指輪が陽光に僅かに反射する。
 アリカとジェイは、街でウィンドウショッピングを楽しんでいた。
 伊達眼鏡の前で新調しようかと悩むジェイの手をとり、マリカが微笑む。ジェイならば選ばないような服を選んで合わせて見れば、その色合いや模様が新鮮で、それも良いかとジェイがまた考える。帽子を見ようかと先を行けば、小奇麗な雑貨が目に飛び込んでくる。ペアで並ぶマグカップやランチョンマット。柔らかな色合いのクッションや香りの良い石鹸。あれこれ目移りしながら、買い物を進めて行く。スーパーでは、とりとめも無く、様々な食料を買い込んだ。大きな紙袋を抱えて、小さなひまわりが沢山咲くオープンテラスの喫茶店に腰を下ろす。
「‥‥今晩の食事は何にしましょうか」
 同じ事を言おうとしていたと、ジェイが言えば、どちらからとも無く、笑い出す。二人して歩き出した新しい生活は、きっとゆっくりと馴染んでいくのだろう。
 せっかくの休みなのに、何故自分はここで、大量の荷物を持っているのだろうかと覚羅は溜息を吐く。ダークスーツに革靴を履いた彼は、着物に下駄を履いたお嬢様のお供の執事のよう。そんなお嬢様、由羅が、溜息を聞きつけて、くるりと向きを変える。
「弟たるもの、姉の言うことは聞くものよ?」
 満面の笑みを浮かべた由羅に、何故か逆らえない覚羅は、この後もずっと引き回される事となる。
 柳樹は、本日何度目になるだろうか、首を傾げていた。休みの日に片付けようと思っていた自室がそんなに片付けなくて良くなっていた事実と、仲間内の部屋を片付けの手伝いという名のがさ入れに向かえば、そこそこ何処も綺麗で、がさ入れは不発に終わる。ならばと気を取り直し、ショッピングへと足を向ける。
「たまにはおしゃれするさ〜」
 普段は自作の服を着ている。幾つか気に入りを手に取るが、どう考えても入らない。巨躯と呼ぶほどの体形に見合うおしゃれな服は中々無いものだ。ダイエットを決意し、かっこいい自作を決意した。
 車を出して、街へと繰り出した蒼志は、様々な雑貨を見て回る。一通り眺めて、気に入りの品物を買い込むと、広場の喧騒を耳にする。日差し眩しい時間帯に、元気ですねぇと呟きつつ、のんびりとあちこち顔を出し。
 世はなべて事も無し。そう頷くと、日の暮れたLHを尻目に、帰路に着く。
 久々の休日だ。梨彩は、足らない消耗品を買出しに行く。あちこちを眺め、広場でブラウニーを見つけてひとつ買い。つい、デモで気に入ったCDを沢山買ってしまうと、後は夕食の買い物とカシスリキュールとオレンジ100%のジュースを買えば、何時もの買い物は完了する。
 ゆっくりと兵舎自室で湯船に漬かり、一日の疲れを取れば、冷蔵庫に冷えたカシスが喉を潤した。至福の溜息が零れ出て。
(「この一時の為に、今後も頑張って戦っていくんでしょうね」)

 図書館で菜桜は、日本に関する記事をチェックする。一通り見終わると、好きな作家の小説の新刊は無いか、未読の弓道に関する本や、戦略・戦術の本など、雑多に手に取る。思う様本を読める幸せに浸りつつ、戦禍で失われる貴重な書物の数々を思い、いつか、誰もが今の自分のように、読書が出来る世界を取り戻せたらと、戦いに対する気持ちを新たにする。
 LHにまだ馴染みの無い詠は、あちこちを覗いて回る。LHは広い。ちょっとした路地を曲がれば、こじんまりした商店街を発見する。色々な店を冷やかして回ると、お目当ての本屋を見つける。本の棚の間で、しばし立ち読みに精を出せば、ライトノベルならば読み終わってしまうほどの時間が過ぎる。コンビニも巡ってみる。探したいものがあったが、中々見つからず、訓練でもしようかと本部へと向かった。
 天宮は、大きなバックにLH中を巡って買い込んだ、多趣味な本を嬉しげに抱えて戻る。途中、広場で元気の良い演奏があった。見ているだけで楽しそうだった。その後は道場で射撃と鎌の訓練をこなし、AU−KVとKVの整備に顔を覗かせる。そうして、深夜。自室で戦利品を積み上げると頁をめくれば、幸せな時間が流れていく。

 巨躯を揺らしつつ、誡流は格納庫でKVのコクピットを拡張していた。そのままでも収まるが、いかんせん。窮屈なのだ。自分の体形に合わせた、目指せ、ゆったりとしたコクピット。あ、ちょっとお兄さんと、整備士が呼び止める間も無く、非常に重い機器を持ち上げて運んでしまう。それも筋トレの一環である。筋トレで増えた筋肉分、きっとまた拡張作業が待っているに違いない。立ち話をしている整備士の間に顔を突っ込み。
 勇輝は、整備士にペイントの仕方を聞いていた。コツを教えてもらうと、不器用ながらも塗装を始める。流石に格納庫以外でKVのペイントは無理そうだ。外の日差しに目を細め、汗をぬぐう。
(「今日も暑いね、まったく」)
 
 シーザリオを走らせる翠の肥満はの助手席には、爽やかな姿の亜。
 海風が吹き抜ける。流れるような海辺の景色と、軽快に走るシーザリオに、亜は満足そうに頷く。
「なかなかどうして、車ってのも悪かぁないですな」
「こうやって、のーんびりドライブできるのはいいですねえ。普段はこの車と、死体ゴロゴロの廃墟だの、ドカドカ・バンバンうるさい戦場だのを走り回ったりで、平和にドライブを楽しめたことが無いんですよ。いやあ、いい日だ」
 この後は、ショッピングに演奏会へと向かうつもりだ。ショッピングには牛乳とか、牛乳とか、牛乳を購入するのを楽しみにしながら。
 海辺から山道へと入るのは古鉄だ。真っ赤なオープンカーが、綺麗な軌跡を描いてヘアピンを抜ける。一般道は整備されたコースとは違い別の注意も要るが、手に馴染むハンドルに笑みが零れた。
 くえすは、ショップで支給品を受け取ると、そのままウィンドウショッピングをしながら、研究所へ向かった。アイテムを強化すると、AU−KVに跨り、近くの道を飛ばして行く。街並みを確かめながら。


 広場の一角では、音響機器が場所を占めていた。傭兵有志による演奏会が始まる。
 後片付けもきっちりとこなした為、後日の評判は上々だった。
あやこはマイクを握って熱唱する。青と白の縞ビキニに燕尾服。ビーストソウルを模した手作りのヘルメットを被り、熱いテンション。大きな声がシャウトする。
「ケモタマは世界一ィィ」
「滑り込みセーフ!‥‥ですよね?」
 間際にばたばたと走ってきたのは、フルートを演奏者の勇輝だ。機材設置を手伝った後、演奏するフルートからは、ほのぼのとした、憧憬溢れる曲が流れる。時間も終盤となれば、最近手に入れたフリーデン社のオカリナを吹き続ける。何処か郷愁を誘う音色が広場に響いていく。
 【OR】横笛「千日紅」を響き渡らせるのは絣。風の音にも混ざるかのような、涼やかで、鮮やかな音色が響く。休息中に広げられた、絣手製、お弁当の和風の香りが、仲間達へと漂った。同じくお弁当を大量に拵えてきた悠璃の大きなバスケットの中には、おにぎりやサンドイッチがぎっしりだ。仲間達は、思い思い、休憩中にお弁当を楽しむ。
 時折響くのは和太鼓。かなり遠くへと響くその音は、多くの人を広場へと向けさせる。ソロパートに入れば、連打の嵐。
「見よ! これぞ秘技、火炎連打の型! 続いて、一気火勢の型! そして、爆裂強打の型ァ!」
 合間に、絣と悠璃のお弁当をありがたく頂いて、もうひと演舞とばかりに、バチを握る。
 耳の良いものは、微妙に違う叩き方に関心をし、集まった人々は、惜しみない拍手を送る。
「――今日はようこそお越し下さいました! 暑さを吹き飛ばす傭兵楽団の演奏会、ゆっくり聴いて行って下さいねー!」
 MCをがんばっていた、少女が、シュヴァルツ・ガイゲ‥‥漆黒のバイオリンを手にする。一音がかき鳴らされると、歓声が上がる。背筋が伸びる。余韻を残して引ききられた音に拍手が沸きあがれば、にっこりと笑顔でがノルディアは次に繋げる。
 腹の底に響く重低音が響く。ジャマールのチューバの音だ。幅の広い深い音が、午前中のセッションの合間を引き締める。午後にはバルブトロンボーンの音が、楽しさを膨らませ。
 アコースティックギターの音を響かせるのはスザクだ。静かな曲から楽しいものまで、レパートリーは広い。
 【OR】白銀のハーモニカで、演奏をしていたのは、レイン。大勢の前で披露したのは久し振りだった。周囲を輪にするような人達から、リクエストも飛んで。
 悠璃はMCも兼ね、ノルディアと交代しつつ、笑顔を振りまく。奏でるのは涼やかな音。【OR】フラウト・トラヴェルソ。フルートが空へと響いて行く。盛況のうちに、演奏会は終了する。
「足を止めてくださり、ありがとうございました〜!」
 演奏後、数人は、別の場所へと足を向ける。
 霊園で戦い散った仲間の鎮魂を祈り、バグアやキメラをも思いつつ、安らかな眠りを願い、悠璃は静かに音を吹き鳴らす。
 兵舎『銀の交差』へと戻ったレインは、夜空を仰ぎ、水筒からミルクティーをコップに注ぐと、そっと口をつけた。昼の喧騒と打って変わり、静かな夜に似合いの曲を奏で始めた。
 海の見える公園で花火を手にして缶ビールを開けたスザクが思い出すのはフルートの音。なんともいい様のない気持ちがせり上がったのは、戦いの最中、バグアの手に落ちたフルート奏者を思い出したから。首を横に降ると、夜空に向かって乾杯をする。
「辛いこともあるだろうけど、この夏が皆にとって最高の夏となりますように‥‥」


「さ〜て、のんびりと広場でも散策するとするかのぉ」
 煙草に火をつけ、紫煙を吐き出しながら、静馬はのんびりと一人広場を散策する。途中、緑茶を買い求めると、木陰の下のベンチを陣取り、誰というわけで無く、行き交う人を眺める。様々な人を見るのも楽しくて良い。
「依頼を受けなきゃ基本的にいつでもお休みなんだよねぇ; まっ、気にしないで、今日は遊ぶぞ〜!!」
 そう、深く追求したら負けだ。クロスエリアは、広場で楽しそうな演奏会を目にする。しばらく楽しむと、そのまま個人商店を覗き、あれやこれやとやりとりを楽しむと、格納庫へと向かう。整備士を捕まえて、超線香花火をしようと言えば、格納庫付近は火気厳禁。公園でなら付き合おうと、整備士の兄さん方に、ばんばんと肩を叩かれる事になる。
 着流しを着込んだ狛は、機体整備に向かう途中、レイナと派手にぶつかった。聞けば、同じように機体整備に向かうとの事。
「いや、そういう意味ではなくて‥‥」
「犬神さんって格好いいですよね〜。身長どれぐらい? 年収は? あ、やっぱり彼女さんとかいますよね? あたしなんかと歩いてて変な噂立たない?」
 静馬の質問にと小気味良く答えるレイナだったが、自分の思った事しか言っていないようで、さてどうしたものかと、狛は唸るが、これも何かの縁だろう。
 イアリスは、妹のように思う都色と連れ立って、ショップを散策する。都色は憧れの機体があるようで、つい、KVカタログを穴の開くほど眺めてしまう。イリアスが、声をかければ、飛び上がらんばかりの都色。とりあえず、また今度と、都色は、カタログを閉じる。サンドイッチを手にした二人は、広場の木陰で語り合う。傭兵になって沢山の繋がりが出来た。都色があわあわと顔を赤くして語る恋人の事を、感慨深げにイアリスは聞く。良い事のはずなのに何かひっかかる心に気付き、首を傾げるが、都色は気がつく様子も無い。帰路につきながら、気安いやり取りが取り交わされ。
 イリアスは次第に成長していく彼女の笑顔を曇らせないようにとそっと心の中で誓いを立てる。全幅の信頼を預けているのだろう。都色は感謝の言葉を口にし、イアリスを見て笑う。
 黒風は、知らない場所で、途方に暮れていた。暑さの苦手な媽媽の為に、冷たいものを買うつもりだったのだが、買い物途中に猫を追いかけて、どうやら迷子になってしまったようだ。
 親友宅に行く途中、ステラは小さな所在無さそうにしている男の子を見つけた。時期はずれの真っ黒なコートが酷く印象的だ。どうやら迷子確定のようだ。兵舎まで連れて行く事にする。手を差し出すと、小さな手が握り返される。
 差し出された手に、僅かに驚いた黒風だったが、優しいその手をそっと握る。そうして、二人して兵舎へと向かうが、途中、楽しげな音楽に足を止めた。
 あまり表情の無い黒風だったが、ぴくりと顔を向けた姿に、ステラは微笑む。少し聞いていこうかと言えば、こくりと頷かれ。
「この服だけってのもそろそろ限界ねぇ‥‥」
 暑い。メデュリエイルは、黒のローブとロングスカートで、公園のベンチでへばっていた。じりじりと照りつける太陽に、目を細めると、暑さに逆らうようにゆっくりと立ち上がり、ショッピングへと向かう。気に入った服を手に取ると、そのまま着替える。腕とか胸とか足とか、ばーんと目立つ黒系の服装だ。ふと脳裏を過ぎるのは、戦闘訓練に明け暮れていた時間。こんな風に同世代の女の子のように過ごす事は無かった。くすりと笑い、賑やかな音に誘われて、再び広場へと足を向ければ、声をかけられる。
 LH内を散策してきた善処は、演奏会に引かれて歩くメデュリエイルに声をかける。
 街角で、バスケやスケボーなどの遊びに加わって、楽しんできた所に、一人で居る彼女を見つけたのだ。
 戦火を広げないという理由によって、傭兵として戦い続ける事を選んだ。傭兵になった悩みや苦しみを、一般人の友には見せたく無い。覚悟も動機も深くはないが、それでも、戦う手がひとりでも居るほうがいいだろうと、そう思い、誰か傭兵に声をかけてみたかった。声をかけるならカワイイコ。そう心に決めていたりもしたが。
 昴は、本部内のシューティングレンジで、持ち込んだ武器を変えつつ、射撃訓練を終えると、図書館へと足を向ける。『検証! 研究所の謎!』という、誰が検証したんだこれ。という本を読破する。夕方屋台を探し遅めの昼食をと思っていると、楽しげな音楽が聞こえて、思わず顔が綻ぶ。
「これはさしずめ、マシナリーオーケストラとでもいったところか」
 威勢の良い、クレープ屋が、威勢良く売りさばいていた。クレープ屋というよりも、バナナ屋さんだったのかもしれない。甘い香りがあちこちに飛び交う。
 響く音楽に、元気だなあとヴォルクは微笑みつつも、その手は休まない。ひと段落着いた頃、せっせと売り子をしていたカルマは、ヴォルクにジュースを手渡し、笑みを浮かべた。先のジェイド討伐戦では、互いに生死スレスレの戦いだった。小隊長としての弟を、一隊員である自分が労いたいと。
「まだまだ戦いは続くけど、よろしくな隊長」
 じゃあ、木陰で休もうかと、カルマも笑う。引いてきた屋台の中で焼きソバを作ると、暑かった一日を互いに労う。
 有希は、身支度を整えると屋台を引いて、営業へと向かう。途中、図書館にて様々な戦術所などを借り出す。屋台を引きながら、頁をめくり。
「水陸型の敵は両用化の皺寄せか、空陸で鈍か機種もあるけん。仕掛けるによし。HW等移動で勝る敵の策として想定するのも悪うなか」
 依頼の検証を兼ねて、次の戦いに備える。そして、辿り着いた広場では、長崎屋台が開店される。昼の繁盛期を終えれば、ホームセンターや模型店でプラモにフィギュア。及び材料をほくほくと買って帰るのだった。


 笑いながら、紺のスク水姿のコハルがプールの中で手招きをする。
「他ならぬ親友のシーヴの頼みなら断る理由はナイっ! 今日1日じっくり教えて人魚にしてあげよーじゃないの♪」
 ぜんぜん泳げない訳ではないが。ついっと横に目をそらしつつも、プールにちゃぽんと入ったのは、紺チェック柄のホルターネックAラインワンピース姿のシーヴ。
「がんばるぞぉ。‥‥でもちょっと怖いかも‥‥」 
 フリル付きビキニが可愛い美音は、コハルに指導され、ビートバンでバタ足をしている。自力で泳げるようになるのがこの夏の目標だ。
「なんとなく泳げる気がしてきた!」
 愛車ZXR250で乗り付けた天城は、爽やかなビキニを着た水泳教室でがんばる。中学生から泳いでなく、少し恥ずかしかったけれど、以外に泳げるようになるものだと笑う。
「‥‥泳ぎって、そんなに得意ってわけじゃ‥‥、っ、ごぼっ!?」
 こぽこぽっと溺れかかったりするのは青いショートボクサー型の水着を穿いているイスル。
 危うく小雛に救助されたりもしている。
 それでもどうやら皆、形になってきたりするのだから、指導が上手いのだろう。
 図書館で、『サルでも泳げるカナヅチ脱出法!』を人目を気にしつつ、借り出したノーマは白のスク水を着てプールへ。その本を読みながらプールサイドでゆっくりするつもりだっが、水泳教室が目に入る。皆似たり寄ったりだ。ちらちら見ていたので、コハルが笑いながら、ノーマを誘う。じたばたしていたが、泳ぎたい人のオーラは確認済みだ。コハルがひっぱって、そーれとばかりにプールに飛び込めば悲鳴が響き渡り、慌てて救助するコハル。
「‥‥わたくしに泳ぎかたを教えてくださってもかまいませんわよ?」
 命からがら、プールサイドに辿り着いたノーマは、髪をかきあげると、僅かに頬染めて横を向く。たっぷり泳いだ後は、兵舎『喫茶店“CLOCK”』で冷蔵庫が空に成る程食べたりもしたようだった。
 プールでゲームが開かれている時、シーヴはコハルを手招きする。水泳教室のお礼を言うと、はにかんで下を向きつつ報告をする。
「ちゃんと言ってなかったでありやがるですが、シーヴ、婚約した‥‥ですよ」
 親友の報告ににコハルは‥‥。

 メシアは、のんびりとプールサイドに居た。ビーチチェアーに寝転んで、繰り広げられる西瓜割りを眺めていた。アイスローズティを片手に、古典といわれる小説の単行本を開く。赤い薔薇の描かれた黒のビキニが眩しい。朝食の時に読んだ、ローザリア家の妹からの手紙を思い出し、笑みを浮かべる。
 ミヅキはバニー服のままプールへと。胸に詰め込んだもののおかげで、ばいんばいんであるが、準備体操中にぽろりとおちた詰め物はゲソ。ばたばたとかき集めて、別のところにしまい込む。すっきりした胸であったが、いいじゃないか。行商売り子状態のユナユナは、ゲソトッピングありという、ありとあらゆる夏の軽食を置いて一息つくと、メイド服を脱いで水着へと。水飛沫が上がり、歓声が響く。疲れたらお昼。ゲソ焼きソバを仲良く食べる二人だった。
 ミカは、白スク水で堂々とプールで涼んでいた。たまにはKVの匂いから離れてもいいだろう。サングラスに麦藁帽子。ビーチチェアに身を預け、酒を口にしつつ、しっかりと美少年をチェック。あれは良いものだ。
 兵舎食堂でしっかりご飯をおかわりした菘は、図書館で『対バグア10年戦史』なる本の間に漫画を挟んで楽しく読み終われば、プールへと向かう。彼女を誘おうかと思ったが、残念不在だ。だが、やっぱりここはプールだろう。ピンクのフリフリ付きビキニが眩しい。泳いでは食べ。泳いでは食べ。プールで遊んだ後は、格納庫へ行く予定だ。大規模作戦で一人反省会をするつもりだった。

 十分に泳げば、西瓜割りが待っている。星刃は、真っ先に手を上げる。
「スイカ割り一番手、流 星刃。いっきまーす!」
 かすっとかすったその棒。一瞬背景がどんよりすれば、影が薄くなった星刃は、逃げるようにプールへと入ると沈んで行く。後で、『PUB桜空』へ顔を出そうと思いつつ。菘もスイカ以外を叩いたかもしれない。ほんのりと酔いが回ったミカは、西瓜割りへと。酔いの為方向感覚がずれたお姉さんは、あらぬ方向へと、棒を叩きつける。楽しく笑えば、義理の娘へを思い出す。後で手紙を書こうと心に留める。彼女が戦う理由なのだから。
 誰か割って。
 そう思っていたら、ミヅキがユナユナの誘導で綺麗に叩き割り。大きくて甘いスイカが皆に配られたり、敗者となった星刃が、ががががっといっき食べを見せて、やんやの喝采を浴びたりもした。

 イスルがコインを投げる。プールに落ちたコインを探すのは結構大変だ。
 ミヅキに、ユナユナも歓声を上げる。つい頑張り過ぎて、ミヅキがユナユナにしがみつき、危なくぽろりといく寸前だったり。
 美音はコイン探しゲームに参加していた。泳げるようになったが、やっぱり少し溺れかかったり。パーカーを羽織りパラソルの下のリクライニングチェアで、落ちかかりながら、穏やかな昼寝に入って行く。
 水泳用さらし褌という、艶やかな姿の小雛は、プールサイドでデッキチェアーに身体を横たえ、休憩しつつ、可愛らしい女性の水着姿に目を細める。合間に救出。何という救護員。ともあれ、今日はのんびりと。パラソルの下のテーブルには鮮やかなブルーのカクテルがピンクの花と共に置かれていた。
 むん。そんな気合とビルダーの曲が聞こえてきそうな立派なスタイルのドリルは、お気に入りのビキニを着てプールに入る。鍛錬を兼ねた水中で、鮮やかに泳いで行く。
「二連剣舞・弐式飛燕が今、私が出来る最大の奥義」
 本部訓練場で、トクムはスキルの連続技の確認と修練を行うと、そのままプールでも訓練を始める。本当なら重装備のまま泳いで見たかったが、楽しんでいる中にそれはと思い、水着でみっちりと泳ぎを極める。そして、終身時には武器の手入れを怠らず、武人としての充実した一日が過ごせたようだった。
 演奏会をBGM代わりに、トレーニングをしてきた絃也は、クールダウンも兼ねて、プールへとやってきていた。
「普通の反応なら目の保養とか言いそうだが、俺にはリハビリだな刺激の強い」
 目のやり場に困りながらも、一通り泳ぎ、プールサイドで、しばしぼんやりと時間を過ごす。演奏会を思い出し、自分にも何か趣味があれば良いのだがと呟いて。
 水泳教室を横目に、瑞浪時雨は気ままに泳ぐ。競泳用の黒い水着だ。平泳ぎ、クロール、バタフライ。強弱をつけて泳いだが、最後は背泳ぎの延長でぷかりとプールに浮かんで空を見る。眩しいほどの青空が目に入った。束の間の休息も悪くない。
「世界中がこうだったら‥‥」
 少ない確立で能力者となった。ならば、持たない人々を守るべきは義務だ。
 瑞浪時雨は、温まった身体をもう一度ぱしゃんと水の中に沈めた。

 風雪時雨は、ビーチチェアで読書をしつつ、いつも持っているオーディオプレーヤーでクラッシックから、流行歌までごっちゃになった音楽を聴く。警備員その‥‥何人目。溺れた人が居れば、助けに行こうと、目線はそれとなくプールへと。ぱーんと割れた西瓜のご相伴に預かりつつ、まったりと時間は過ぎて行く。
 あちこち散策し、興味深い傭兵達を何となく観察してきた九重は、暑さもあいまってプールへと避暑にやってきていた。プカプカと浮かべば日差しが眩しい。
「あ゛ー‥‥涼しいぜー」
 水飛沫と歓声をBGMに、平和だねぇと、呟いて。ぼーっとするのもまた楽しいものだったりする。

 水泳教室とは別に微笑ましい泳ぎの練習もあった。百白は、リュウナの手を引き、プールを移動する。当のリュウナは浮き輪でぱしゃぱしゃと頑張ってるのかそうでないのか。楽しく散歩してきた後は、楽しくプール。そこで、泳げない事が発覚したりしていた。
「お腹すいたなり! 焼きそばと♪ デザートにアイス食べたいなり♪」
「‥‥飯にするか」
 あーん。リュウナの差し出すアイスを無言で頂く百白。
 楽しく遊んだ帰りは、当然のようにリュウナを百白はおんぶして。
「龍ちゃんの事どう思ってるなりかっ?!」
 突然の質問に、百白がどう応えたのかは、沈む夕日が知っている。


 翔一は、個人商店巡り。目当ての試作型スナイパーライフルCS01の競売に参加をするが、惜しくも落札出来ず。
「砂錐の爪とか脚甲プトレマイオスとか‥‥うろ覚えだがそんな感じの名前だったと思う、どっかに売ってなかったかい?」
 依頼で決めた必殺技、『究極! ゲシュペンストキック』を、生身で蹴り技で決めてみようと、装備品を探りに広場個人商店を巡る。昼頃になれば、プールへと向かう。久しく泳いでいないがと首を捻りつつ。夜には『PUB桜空』へと向かう腹積もりだ。
「何ィッ!? ドローム社キャンペーンだと!?」
 冷た〜い『とれたてみったんジュース』と『【OR】れいちゃんバーガー』で気合を入れたツィレルは、みっちりと、筋トレをこなし、暑さに溜息を吐きつつ、広場で個人商店を巡っていた。検索の仕方があれでそれなので、ひとり悶絶してしまう。負けるなツィレル。だが、どうやら何か見つけたらしく、がぜん元気が出てきたようだ。
 広場の焼きソバを食べながら、神無は、この後は格納庫でKVを磨こうかと思う。LHの何処かで祭りでもあれば、浴衣を着て夜のLHに向かうのにと。シュミレーション訓練での、良い具合の気だるさの中、思い出すのはバグアの強敵。機体差が圧倒的だったのかと思うが、首を横に振る。そうでは無い事は、自分が一番良く知っている。経験‥‥力量の差を。もっと精進しなければと、強く思った。
 こうきと旭は、本部内にある、戦闘シュミレーターに篭る。互いの連携を確かめる為に、様々なキメラを設定する。
「この盾は幻を覆い隠す影のごとく‥‥」
「影より現れし切り裂く幻影ってなあ!」
「「幻影十字」」
 旭の影に、こうきが隠れ、旭に注意が向いた時点で、こうきが回り込むという連携だ。視点が高い敵には、頭上から配置が見えてしまうのが、今後の課題だろうかと、二人して何度も地形や周囲の状況も変えて効果的な戦いを模索する。
「これだけあれば、あの鉄くず博士か社長の所にいけるか‥‥えーと、これが生活費で‥‥新しい銃も欲しい所だけど‥‥もっと先か」
 本部で依頼の報酬を確かめると、九蔵はやりくりを考える。耳に残るのは、今日広場で聞いた、セッション。楽しげな音楽の音に触発されたが、人には向き不向きがあると悟ったりもした。自サイトの歪みを朝一で直せたのは幸先が良かったはずなのに。軽く肩を竦めると、本部を後にする


 白蓮は、野菜ジュースを携行して、来る事になって間もないLHを見て回っていた。様々な場所で一時の平和を楽しむ事が出来る事に酷く安堵する。島全体を見渡せる場所は無いかと歩き始める。本部も眺めたかった。木々を掻き分け小高い場所へと向かう。穏やかな風景に、上手に暮らしていけそうだと、頷き、帰ろうと思い、ふと気がついた。
「ここは‥‥ど〜〜こ〜〜で〜〜す〜〜かぁぁぁぁ」
 丘の上に木霊する悲痛な叫び。麦藁帽子が揺れ、ワンピースの裾が無常に翻った。
 ふははははは! と、高らかに笑うナチュラル・ハイ状態のフェリアは、抱えられるだけのいっぱいのクレヨンと画用紙を持ち、絵日記を描いて回る。夏における開放的な人類の行動の考察を己の使命と課しているようだ。
「通りすがりの絵日記描きだ。覚えないでおけ」
 LHのありとあらゆる場所に顔を出し、凄い速度で書きなぐり、ステキな台詞を描かれた者の耳に残し。日が暮れかけた頃に、デラードを捕まえると、夏休みの宿題と称して満面の笑顔で提出をし、点数はと問えば。何処から出したのか赤ペンで花丸採点が返された。おーいえー。
 あちこちに顔を出した拓也は、詳細にメモを取っていた。LHは広い。何処と決めなかった為に、かなり歩きまわった。おかげで、沢山の場所をチェックする事が出来た。膨大な量の資料も何のその。
(「後でタウンマップみたいなものが作ろうかと」)

 和奏は公園へと向かう。潮風が心地良い。青い海と空を見ながら大好きな人へと手紙を書く。近況を書きながら、今年は本当に辛い事が多かったのを思い出す。辛く挫けそうな事が多かった。でも、その度にお姉さんも頑張っているのだからと頑張る事が出来た。
 何処までも続く青空に、空が大好きな彼女を思い目を細める。ぴたりと手を止めると、和奏は、ぽん。と顔が赤くなる。
 書き記された最後の文字──本当に、大好き。
 覇気が湧き上がらない。漠然とした気だるさのまま、街や商店街を歩き、途中で買ったサンドイッチを胃に収めると海風を感じながら転寝をする。しかし、どうにも何かしゃっきりとしない。何と思い当たらないのが、まずいのだろうかと考えるが、答えは出ない。いずれ自身でみつけなければならない気持ちなのかもしれない。
 夕暮れが辺りを包む頃、リトヴァクは、携帯にかかった電話の名前に相好を崩す。彼女の名を見るだけで安らぐのはどうしてだろうか。青いフレームの眼鏡の中の瞳が優しく揺れる。とりあえずは帰ろう。愛しい人の下へ。彼女の声を聞きつつ、ゆっくりと帰路に着く。
 最近結婚したばかりのクラークは、酒場のカウンターで、ほろ酔い状態になっていた。近くで飲んでいたデラードを誘えば、二つ返事で頷かれる。そして、延々と。惚気を語り出す。互いに傭兵。擦れ違いは多いが、共に居る時間はかけがえの無いもので。自分には勿体無いくらいの美人なのだと。コーヒー豆と、頼まれた買い物を横においてある。後は、潰れる前に、最愛の人の下へと帰るだけ。


暑さに参っているルナフィリアに、しょうがないなあと、まひるは手を取って引っ張り上げる。せっかくだから、遊びに行かないともったいない。
 途中の屋台で腹ごしらえをしつつ、木々のある場所へと向かえば、小川が流れていた。木々が覆い、木漏れ日がキラキラと光と影を落とす。
 ずっとぺったりとまひるにくっついているハルトマンは、スクール水着姿で、小川に入る。
 水浸しになれば、笑顔のまま、また、まひるにぺったりと。
 楽しく遊んでいると、時間などあっという間だ。
 涼しくなり、元気になったルナフィリアは、星が降るように見え始めた空を仰ぐ。
「空‥‥綺麗だな。‥‥どうすれば、届くんだろ‥‥」
「またこうやって戦いの事忘れて、ゆっくり平和に過ごせればいいな‥‥中にはこの戦時に遊ぶ暇があるならやる事があるだろうって人も沢山いる。今現在だって戦っていたり、苦しんだり、取り返しのつかない事になってしまった人だって‥‥だけどね。この平和をこうして実感出来るから、私達はそれを日常として取り戻す為に頑張れるんだとも思うよ‥‥ありがとね、ルナ」
 日暮れて来れば花火の出番。ぱちぱちと夜に光る花火をしつつ、まひるは胸に留めていた気持ちを夜の帳に零した。

「‥‥人を殺さなくてよくなった分‥‥マシ‥‥。人を脅かす存在なら‥‥躊躇無く引き金を引ける‥‥」
 真っ暗な兵舎の自室で銃を分解、組み立てる。闇夜でも手業と勘のみで、銃はパーツにわかれ、再び形を取り戻して行く。愛用のそれで、LH内のシューティングレンジで、立射から、抜き打ちまで、何度も何度も繰り返した。呼吸するように、戦いが側にあるから。光の無い漆黒の銃身と共にティファは闇に溶ける。
 LHの海岸で、ランドルフは、スブロフを半分ほど、海に撒く。
 バグアの犠牲となった人々への慰霊をと。特に、ヨリシロとなり、無残にも無くなった人々へ。
 バグアに弔いの心があるかどうかはわからないが、逝った者達を弔うその心の在りようが、地球人たる所以だろうと思うのだ。残った酒を静かに飲み干すと、ランドルフは決意を新たにする。死者を蔑ろにする事の罪深さを思い知らせてやろう。弔い合戦はこれからだと。
 星空を眺め、夜空へと立ち上る煙草の煙をじっと眺める。朔夜にとって、日常と同じに感じる戦いは、退屈を生んだ。何処にあるともはっきりとしない12宮に連なる乙女の星を捕まえるように、星空に手を伸ばす。
「――届いて見せるさ。何時か、必ずな」
 これは執着だろうか。それとも他の何かだろうか。抱く思いの新鮮さに僅かに笑みを浮かべて目を閉じた。
 人気の無い丘の上、サブナックは愛刀を引き抜くと夜空を見上げ左腕を軽く傷つける。夜風に晒される己が赤き雫。遠ざけていた刀に宿る過去の記憶。それを払拭するかのように。大切な人々を今度こそ護れるようにと誓う。それは宣誓。
「我が血を見よ、我今ここにスエアを誓わん、太陽と月の輝く限り、俺はピロシュカ、おまえただ一人に忠実であることを‥‥」
 夜のLHの明かりを見ながら、圭一は、公園へと足を伸ばす。昼に買い求めた使い捨てカメラで風景を撮りながら、気の向くまま歩く。ラフな格好で夜の散歩を楽しんでいる。明け方まで歩くつもりだ。
「バグアに渡すにはもったいなさすぎる風景だな」
 LHへはバグアの爪はかかってはいないけれども、絶対に戦い抜いてみせると思うのだ。
 仲間達が居るから。


涼しげな打ち水がしてある。『PUB桜空』から楽しそうな声が響く。
 明衣はポニーテールを揺らし、蛍の浴衣の裾を軽くさばいて、客の注文を受ける。
 両手に大荷物を抱えて、ふらりと寄った銀華は、見知った顔に会釈をすると、飾られた風鈴に、楽しげに目を細める。
「とても素敵なお店ですね」
「ありがとう」
 何を飲むかと、明衣が嬉しそうに尋ねる。
 カウンター内の明衣に声をかけるのは、ウラキだ。トレーニングをすると、KVの調整に格納庫で整備士と微調整が満足いくまで直す事が出来た。
 ジーンズに白い半袖。黒のベストを羽織った深墨は、隣に座るウラキに濃厚なビールの入ったグラスを掲げる。ジョッキで飲むものとはまた別で、グラスで飲むのも、この場所は似合う。図書館で手当たり次第に雑多なジャンルを貪り読んだ後は、演奏会をぼーっと眺めていた。一日、とても暑かった。かちりとグラスを合わせ。とりとめの無い話をする。
「んー‥‥こういう時、浮いた話の一つでもあれば面白いんだろうけど」
「最近女性に平手打ちされてね‥‥いや、理由が自分で分からないから性質が悪い‥‥」
「そ‥‥それはまた」
 前髪をかきあげて溜息を吐くウラキに、どう返そうかと唸る深墨。
 しょうがないなと、明衣が笑う。ご一緒して良いですかと問う銀華に、どうぞどうぞと席が詰められ。
 風鈴の澄んだ音が、店内に響いてくる。
「もう夏も終わりだね。少し淋しく感じるのもまた風流ってもんだねぇ」
 夜風に僅かに涼しさが混じっているのは、気のせいではないだろう。
 留守番をしていたティリアは、兵舎『装飾店「銀の階段」』に入ってきた刹那に笑いかける。銀細工を見て回る刹那だが、友人でもある二人はお客の来ないことだしと、ティータイムにする事にした。さくりと甘いクッキーと飴色の紅茶が喉を潤す。広げるのはトランプ。ブラックジャックに興じれば、遊技場のディーラーの強さに話の花が咲く。そして、いつしか恋人の話題に。二人はそれぞれの思いを乗せて溜息を吐く。
「あはは‥‥ちょっと、忙しいみたいで‥‥。まぁ、ボクみたいに遊びまわってるほうが問題あるんじゃないかなぁ‥‥」
 刹那がばつの悪そうにしている様を見ながら、ティリアは、荒んだ過去から抜け出すきっかけになったその人を脳裏に描く。
「‥‥あの人は、ボクにとって太陽なんです。暗がりしか知らなかったボクに、光を注いでくれた‥‥恩人であり、最高の友人。どれだけ感謝しても、感謝しきれません‥‥恥ずかしくて、面と向かってありがとうって言えないんですけど、ね」
 赤くなった顔を下を向いて誤魔化していると、刹那がくすりと笑った。
 兵舎『喫茶店“CLOCK”』の店じまいをすると、峯人は開け放った空を見る。冷蔵庫を空にしたお客は来たが。今日は一日楽しかった。帽子屋でニット帽を選んだり、時計屋で腕時計や置時計を見た。小気味良い、時を刻む音が心地良かった。持参したマグロパンを食べながら聞いた広場の音楽も楽しくて。
「ふぁ‥‥、うん、明日もがんばろ‥‥」
 自ら望んだ力では無いけれど。大切な仲間を守り、戦える力があるなら。期待に応えるべくがんばろうと。
「‥‥親愛なる父と母へ‥‥っと」
 柔らかな光の中で、イリアス・ニーベルングは両親への手紙を綴ると、日記帳を手にする。何時ものようにトレーニングをすると、兵舎『ネスト』へ顔を出し、ウィンドショッピングをしつつ幾分かキツイ日差しを受け街をぶらりと歩いた。今度はあの後編でデートをしようと可愛らしい公園や、喫茶店などをチェックしつつ。一見して退屈そうな、平凡な一日。けれども、大切な一日だった。

 こうして、傭兵達の穏やかな一日は、静かに暮れていくのだった。