●リプレイ本文
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共に出撃するKV、戦闘機、そしてその合間を縫うように、ミサイルが飛び、艦隊が波を掻き分け接近する。
その先にある遼東半島からも、砲撃やHW、機械化キメラの姿がわらわらと見える。
とっかかりの戦闘の一部。老鉄山辺りへ、デラード軍曹の率いる部隊スカイフォックスが、切り込んでいった。たちまち空に広がる爆炎。
戦闘の合間に出来た空間へと、能力者達が駆るKVの8機が、綺麗な軌跡を描いて飛び込んで行く。
目標は、老鉄山に伸びる高速道路。
「狙撃装備の個体がいるな」
仲間達と、僅かに逸れた高度を保つのは、白鐘剣一郎(
ga0184)のCD−016シュテルンと、御影・朔夜(
ga0240)のEF−006ワイバーンだ。降下のタイミングをずらし、老鉄山の偵察も兼ねる。老鉄山の麓に展開しているのは、4機のゴーレム。そして、山中にゴーレムが4機。
降下した機体を迎撃に迫る4機のゴーレムの姿と、足早に四方からやって来る機械化キメラの姿が見える。
その手にある兵装は、槍2体、ライフル1体、機刀1体。
事前情報と、確認したゴーレムの数は合っている。だが、迎撃に向かうゴーレムと、山中に留まるゴーレムとに分かれた。
「思ったよりも慎重な相手らしい」
淡く光りを纏う剣一郎は、先に降下する仲間達へと、所見を連絡する。機首を返せば、陽光に天馬のエンブレムが光を反射する。
藤田あやこ(
ga0204)のPT−054Kロジーナ。終夜・無月(
ga3084)のXF−08Bミカガミが、高度を下げて高速道路へと着陸する。
「雷公石‥‥厄介な‥‥けど必ず潰す‥‥」
滑らかな機械音を響かせて、2機は人型へと変形する。懸念は多いが、今はこの戦いを勝利へと収めるべく、全力を尽くすのみと、無月は月光の光が満ちた目を僅かに眇める。全周囲を警戒しつつ、前に出て行く月狼のエンブレム。
高速道路を降りれば、田園が広がっていた。その向こうに、影を落とす老鉄山を仰ぐ。
「勝姫光臨没有!」
同じく、着陸地点の安全を十分に確認して降り立つあやこ。その耳は僅かに鋭さを増し。
目前に迫る、機械化キメラを発見する。その姿は、三頭の首を持つ漆黒のケルベロス。恐れる様も無く、2機へと飛び込んでくる。
「っ!」
無月のロンゴミニアトが、重く空気を裂いて突き上げれば、その衝撃にケルベロスが吹っ飛んで行く。
あやこ、無月より僅かに遅れて降下するのは、CD−016シュテルン、シャーリィ・アッシュ(
gb1884)。R−01Eイビルアイズ、シェリー・クロフィード(
gb3701)。
「大規模作戦前の大事な一戦です‥‥確実に行きましょう」
激しい戦いが半島全てで行われている。その音、炎が目の端に過ぎる。シェリーはこの先の大陸戦を思い、慎重に機体を降下させる。
「ふみゅ‥‥こう言うガッチガチのKV戦は初めてですけど頑張るのですよー」
吹っ飛ぶケルベロスを見て、シェリーは小さく声を上げる。
速やかに人型に変形した2機は、戦闘に入りかかっている先行2機に加わるべく、その足を速める。高速道路を降りれば、次々と襲い掛かってくる、機械化ケルベロス。シェリーが唸る。
「みゅっ! 速いっ?!」
吹き飛んだ機械化ケルベロスとまた別方向からやってきていた、同種のキメラが4体。
色のくすんだ金髪をかき上げ、シャーリィは金の瞳で狙いすます。撃ち放ったMSIバルカンRの無数の弾丸が、真っ赤な口を開け、三つの頭を振り回しているキメラを襲う。
「後続の降下‥‥邪魔させはしません!」
「‥‥ベテランの方が多い‥‥足を引っ張らないようにしなければ‥‥」
F−108改ディアブロ、アリエイル(
ga8923)は、静かに深呼吸をする。降下する直前、かくりと人型に変形をする。上空を気にする事無く、降下地点を先行する仲間達が守っていてくれるからこそ出来る変形だ。減速した機体は、高速道路に地響きを立て、その舗装を陥没させる。
その後を着陸態勢に入ったのは榊 刑部(
ga7524)のXF−08Bミカガミ。
「名だたるエースの方々と、肩を並べて戦える機会など滅多にない事ですから、その腕を盗ませていただきますよ」
先行する月狼、燕。後方に天馬、渡鴉。その卓抜した操縦能力を見逃す事の無いようにと、刑部は銀の瞳で共に戦う仲間達を見る。金の瞳が、刑部機が着陸変形を行うのを確かめると、アリエイル機は走り出す。
「能力限定‥‥解除‥‥。蒼電の槍‥‥行きます!!」
仲間達全てが、無事降下したのを確認すると、朔夜機と剣一郎機が降下を始めた。
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ケルベロスをあらかたなぎ払った能力者達の目に飛び込んできたのは、槍を持つゴーレム。そのすぐ後ろからは、同じく槍を持つゴーレムと、機刀を持つゴーレムが三角を描くように前進してきていた。さらに背後からライフルを持つゴーレムが、距離を取って迫る。
真っ先に槍を持つゴーレムと対峙したのは、無月、あやこの2機。
「‥‥全部‥‥出て来ないというのか‥‥」
出て来ないのならば。薄く笑みを浮かべて、無月は槍持ちへとロンゴミニアトを掲げて向かう。GPSh−30mm重機関砲が横殴りの雨のようにゴーレム達へと向かい、その足を鈍らせる。
打ち合う寸前。無月機へと、後方から、銃弾が、嫌な音を響かせて飛んでくる。
「やい、ゴーレムたち! 愛機バジビルでたっぷり刻んでやるわよー」
不適に笑うあやこ。
激しい金属音が響き渡り、ロンゴミニアトとゴーレムの槍が激突する。
「敵の数が少ない‥‥何か罠があるのでしょうか‥‥?」
ゴーレムの数は8機。
後方から戦いの場へと接近するアリエイルが、接近する機体が4機だけなのに疑問の声を上げる。
無月は、打ち込んだその一合で、相手の力量を測る。押し勝つのは、出来そうだったが、ここで打ち破ってしまえば、ひょっとすると老鉄山に控える4機が逃走するかもしれない。
「藤田機‥‥まだ、全力で戦わないで下さい。各機、お願いします」
「えー? はーい」
迫るゴーレムに前進し、次々に繰り出す手を考えていたあやこは、無月機の後方へと再び下がる。
戦闘に躊躇しているように見えたのだろうか、やや後方に位置していた2機が距離を詰める。
やがて、老鉄山から、3体のゴーレムが山を下り、接近してくるのが見えた。そして、その3機の前には5体の機械化ケルベロスが、番犬よろしく先駆けとばかりに居るではないか。
「‥‥1機‥‥足りませんが‥‥行きますか」
流石に、7体全てと、機械化ケルベロス5体に同時にかかられては、苦戦は必死。無月が打ち合っていたゴーレムにぐっと接近をする。それとほぼ同時に、あやこ機、無月機と戦っている槍ゴーレムの、向かって左に槍ゴーレム、向かって右に機刀ゴーレムが無月機とあやこ機を挟もうと現れようとする。だが、同じように接近していたシャーリィ機、シェリー機が左へ。僅かに遅れて、刑部機、アリエイル機が右へと向かう。
山から駆け下りて来る3機を捕らえつつ、目の前のゴーレムの動きも良く見ていたシェリーがスナイパーライフルD−02の照準を合わせていた。
合流される前に数を減らさなくては、ひとたまりもないかもと、内心で小さく呟く。
「中距離火砲支援いっきまーす」
重い振動がシェリー機を揺らす。撃ち放たれた弾丸が、長い射程を生かして槍ゴーレムの足元へと着弾する。地響きがして地表が抉れ、土塊が飛び散る。ゴーレムに当たらなくてもかまわない。むしろ攻撃に対する隙が生まれればと、シェリーは思う。着弾の反動で、シェリーの狙った通りに槍ゴーレムの体が流れた。その隙を、シャーリィが逃さない。加速したシャーリィ機の足元から土煙が上がる。
「初撃で流れを引き寄せる。風を超えろ‥‥っ。紫電‥‥一閃っ!!」
加速したシャーリィ機が構えるのはヒートディフェンダー。突き出される槍にありったけの力を乗せる。体制を立て直す前に打ち込まれたゴーレムの足元がたわむ。減り込む大地。シャーリィ機はディフェンダーを槍に滑らせる。軽い摩擦音を立てて、ゴーレム本体に距離を詰め、ゴーレムの手元で、ディフェンダーの切っ先を叩き込めば、確かな手応えがシャーリィ機へと伝わった。ディフェンダーがめり込んだ、ゴーレムの胸元から火花が上がる。
刑部機、アリエイル機は、その足らない距離を弾幕で稼ぐ。
「連携はアッチだけの売り物じゃありませんしねー♪」
にゃははと、シェリーが笑う。
「援護します‥‥射撃軸線上、味方機クリア!」
足留めをと、アリエイル機がD−502ラスターマシンガンを軽快に撃ち放ち、刑部機が150mm対戦車砲を向ければ、重い銃弾がばらまかれ、機刀ゴーレムの足が止まる。
無月機は、急接近し、ロンゴミニアトで槍を受け流すと、そのまま弧を描くように槍ゴーレムへと切っ先を打ち込んだ。鈍い爆発音が響く。ゴーレムの内部が破壊されたのだ。突き飛ばすかのようにロンゴミニアトを引き抜くと、小規模な爆発が起こる。破片がばらばらと無月機とあやこ機に降り注ぐ。その爆風に混ざり、後衛から動かなかったライフルゴーレムが無月機へと銃弾を撃ち込んだ。攻撃の補助をと仲間達の戦闘も注意深く見ながら、自らの位置取りをしていたあやこが、いち早くライフルゴーレムの動きに気がついていた。
「遠距離攻撃、くるわっ!」
あやこは、ホールディングミサイルでライフルゴーレムを牽制する。ゴーレムの撃った銃弾が、無月機とあやこ機の付近へと着弾し、爆発をする。それに僅かに気を取られている間に、機械化キメラが迫ってきていた。そして、ライフルゴーレムはその個体を惑わせさせるように、左右に何度も交差すると、二手に散会して行く。その交差するライフルゴーレムを確認しようとすれば、新手の槍ゴーレムと機刀ゴーレムがライフルゴーレムの前に立ちはだかり、個体識別が難しくなる。
その合間、アリエイル機と刑部機が、ファーストアタック時点の機刀ゴーレムと戦っていた。
刑部は、アリエイルの動きやすいようにと気を配る。R−P1マシンガンで気を引いた後、真ツインブレイドを、くるり、くるりと旋回させて、漆黒の刀を受け流し、一撃の隙を伺う。何合か打ち合っていると、刀が流れる。その隙に、アリエイルが機槍グングニルを構えて突進する。
「白兵戦で負ける訳には‥‥グングニル・ブーストアップ‥‥せぇぇぇぇっ!!」
「やらせんっ!」
派手な金属音が響く。ゴーレムの胴へと突き刺さったグングニル。突き刺す為に一瞬動きが止まるアリエイル機へと、残った力で漆黒の刀を振り下ろそうとするゴーレムのその腕を、刑部ツインブレイドが旋風を巻き起こしながら吹き飛ばす。漆黒の刀を握ったままのゴーレムの腕が、大地に突き刺さった。
仲間達の戦いの背を見ながら、射線に重なる為、遠距離攻撃を控え、後方より前進してきた剣一郎機と朔夜機は、3機のゴーレムが地に倒れる合間をぬって前に出る。
機械化ケルベロスが、次々と、KVへと飛び掛って行く。一体ずつは、敵では無い。だが、キメラをなぎ払うその瞬間、どうしてもこちらに隙が生まれる。その隙めがけて、槍ゴーレムと機刀ゴーレムが合わせて来た。ライフルゴーレムも左右から銃弾を打ち込む。
老鉄山から、ちかりと何かが光って見えた。
左右に広がっていた刑部機とアリエイル機、シェリー機とシャーリー機が、銃弾で抉られた大地の礫で一瞬動きが止まる。
その一瞬に、ライフルゴーレムは撤退を開始した。
仲間達よりも前に出ている無月機とあやこ機へと2機が一度にかかって来た。だが、この場所にはもう一組辿りついて居る。
「こちらで斬り込む。フォローを頼むぞ!」
「──任せろ」
剣一郎機と朔夜機が機械化キメラと新手の槍ゴーレムに対峙する。試作型スラスターライフルを無造作に撃ち込むのは朔夜機だ。無月機からもガトリングで牽制弾が撃ち放たれている。あやこ機へと向かっていた2機は、一瞬足を止める。その一瞬で十分だった。接近した剣一郎機のハンマーボールが、空を裂いた音を響かせて槍ゴーレムへと、奇跡を描いて激突する。その高い攻撃力は、一撃でゴーレムが膝をつくほどだ。
あやこ機に迫った機刀ゴーレムに、無月機からスパークワイヤーが伸びる。電流が火花を散らし、機刀ゴーレムの動きを止める。その合間に、あやこ機の金曜日の悪夢が唸りを上げて機刀ゴーレムの腕を落とし、足をくじかせる。ワイヤーを回収した無月機が倒れ行くゴーレムへと、止めの一撃を突き刺した。
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「‥‥っ。撤退されるとはっ!」
迅速に殲滅したいと思っていたアリエイルは、軽く唇をかみ締める。接近するタイプは、行動不能に陥っているが、遠距離タイプは距離を開けたまま、ライフルゴーレム2体が、老鉄山へと後退を始めていた。
能力者達は装輪走行に入る。撤退するライフルゴーレムのうち、1体が、仲間達の射程に入り、複数の攻撃にさらされて撃沈する。しかし、もう1体が速い。
「倒したゴーレムは6機か」
「‥‥出てこなかったゴーレムが‥‥居ますね」
剣一郎の問いのような呟きに、無月が返す。
「逃げるか、まぁそれも選択肢の一つだ。――尤も、それも逃げ切れるのならな」
朔夜が笑みを浮かべる。ワイバーンの足は撤退したゴーレムと同じぐらい速い。しかし、このままでは差は縮まらない。
「山越えされれば海だな‥‥。この際VTOL機は上空から飛行形態でいち早く敵の捕捉を目指すぞ」
剣一郎が仲間達に声をかける。VTOL機は剣一郎機、あやこ機、シャーリィ機。
飛行形態に戻ると、次々に空へと上がって行く。
他の機体は、出来る限りの速さで老鉄山へと登って行く事になる。
「見えます」
あやこが眼下にゴーレムを発見する。
やはり、逃走の最終目標は海になるのだろう。
「山を越えて海に出る手前で反転が良さそうだな」
シャーリィが降下地点を探れば、剣一郎が危険な役を引き受けようと返事を返す。
「着陸支援を頼む。俺が頭を抑える」
「了解」
ひとつ頷くと、シャーリィは47mm対空機関砲ツングースカで弾幕を張る。
こちらからゴーレムの動きが見えるという事は、ゴーレムからもこちらの着陸は確認されている。しかし、海まであと僅か。後退して別ルートを探ろうにも、背後も塞がれている。
無事着陸した3機は、海岸が見える場所でゴーレムを待ち受ける。
姿を現したのは、両手に斧を持ったゴーレム。今までの流れを見ると、どうやらこのゴーレムが指揮官のようだ。
挟撃の合間を横に抜けようと動く。
剣一郎が接近する。
「逃がしはしない!」
「劣勢と見るや撤退、戦況は見定められているようだが‥‥逃がすと思うか?」
バルカンでその足を止めるのはシャーリィ。
追撃してきた仲間達が、足留めをしていたライフルゴーレムを仕留めている間、斧ゴーレムも、挟撃で最後の抵抗を試みたが、逃げ切れはしなかった。
程なく、老鉄山は、人類圏へと開放された。