●リプレイ本文
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見渡す限り、木立がまばらに林立する。
吹きすさぶ風はKVの中ではわからないが、もう冬の寒さを十分にはらみ。
何処となく垂れ込めた色合いに、かさかさと朽葉色した落葉樹が風に舞う。
敵輸送部隊より、十分な距離をとった場所へ、次々とKVが降下して行く。
降り立つと、人形へと変形する。エイミ・シーン(
gb9420)は、HL12500ヘルヘブン250のコクピットで変形の成功に、小さな息を吐き出す。右目の周りに、文様が浮かび上がっている。
「上手く立ち回れるかな‥‥だけど、出来ることを全力でやらなきゃね!」
「KV戦は、初めてですが‥‥」
穏やかな物腰は何処かへ吹き飛んでいる。ヘルヘブンが滑らかに疾走を開始する。僅かにたわんだ車輪が、大地の感触を伝えてくる。白銀に染まった髪に、前方を睨み据える獣のような真っ赤な瞳。伊鷹 旋風(
gb9730)は、僅かに獰猛な笑みを浮かべた。
敵機がやってくるまで、まだ間がある。
「陸戦‥‥初めてなのです、よ」
滑らかな降下の末、柚井 ソラ(
ga0187)のS−01Hが立ち上がる。普段も優しげなソラだが、何処か捉え所の無い、ふわりとした雰囲気を纏っている。ソラの主戦場は水中戦だ。好んで水中を行き、たまに空も飛ぶ。
陸戦は勝手が違う。人形の滑走に、唇を噛み締める。GDABで別れたデラードの背中をふと思い出す。年はあまり変わらない。けれども、決定的に違うのは牡の雰囲気。成ろうと思って成れるものでは無いが、成ろうと思って進む事は、きっと間違いではない。
一歩づつ、着実に。大人の男へ変わる為に。
そう頷くソラの頬は、まだまろい曲線を描く。
「‥‥がんばりましょう‥‥多数のキメラを伴ってコンテナ輸送のHW‥‥キメラの数は多いですが‥‥全力で‥‥」
潰しましょうと、小さく頷くのは、ソラと共に、街道の脇、木立の中へと踏み込むセシリア・ディールス(
ga0475)。初出撃でもある。CD−016シュテルン・シレンスの実働具合を確認する瞳は、真っ赤に染まっている。
「‥‥大丈夫でしょう」
小さく頷くのは、奏歌 アルブレヒト(
gb9003)。白銀の髪は所々色を闇に変え、そのすべらかな手触りまでも硬質なものへと変化させている。淡々とした瞳が、散っていく仲間達の姿を確認する。Mk−4Dロビンが、スマートな動きで、ソラとセシリアの潜む林と反対側へと向かう。
シュテルンがその後を追う。淡くもろいような雰囲気の井上冬樹(
gb5526)は、コクピット内で、その柔らかさを削ぎ落としていた。
「で、敵を‥‥倒す、のと‥‥物資の‥‥補給と‥‥一石、二鳥‥‥ですか‥‥け、KVを動かすのは‥‥初めてに近い、ですが‥‥出来る限り」
頑張りますと、口の端に上らせる。硬い口調は機械的で、淡いオーラを纏う冬樹は機械人形のように表情を消していた。
降下する際に見渡す限りの大地が目に入った。
その広大さは、島国には無いものだ。
「大陸はやはり広いな」
久しぶりのKV戦闘。猛烈な飢餓感を覚えつつ、佐賀十蔵(
gb5442)は、PT−056ノーヴィ・ロジーナの、重心が安定した人形を大地に現す。瞳の奥に瞬くのは六ぼう星。
「敵の輜重を扼するのも重要な作戦ですね」
ES−008ウーフーが立ち上がる。篠崎 公司(
ga2413)は、穏やかな笑みを浮かべた。瞳をも飲み込んだ、真っ青な水をたたえたかのような双眸が、未だ見えない敵機の進行ルートを眺めた。十蔵と共に、後方からの援護を行うのだ。ざっと別れた2機はそれぞれに機体を木立に紛れ込ませる。
「機体のレンズの調整完了、無線の感度良好、偽装よし、問題なし」
木立は程好くKVの姿を隠す。
ざっと機体の姿を隠した十蔵は、コクピットで満足そうに呟く。
隠れている中、シュテルンのコクピットで、キツイ目じりに、光を放つ金色の髪が揺れる。香倶夜(
ga5126)は満面の笑みを浮かべた。
「よお〜し、頑張ってやろうね、みんな」
敵の物資を横取りするなど、面白い作戦だと思うのだ。
「敵を目視確認。作戦を開始します」
冬季迷彩仕様のシュテルンが、落ち葉色の中でひっそりと佇む。セレスタ・レネンティア(
gb1731)が迫り来る敵機を発見する頃には、仲間達全てが、作戦を開始していた。
奏歌の声も響く。
「‥‥各班突撃準備‥‥3‥‥2‥‥1‥‥アタック」
戦いの始まりだ。
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迫ってくるのはケルベロスに囲まれたムカデ状態のHW。
「行きますか」
「あんまり無理し過ぎないようにして下さいね!」
「そちらも」
「了解ですっ!」
その特徴たる巨大なタイヤが唸る。
旋風と、エイミが、小道へと躍り出た。
2機が小道へと出てくる姿を、ケルベロス達は捉えており、躍り出た2機すれすれに、迫っていた。
次々に襲い掛かる、ケルベロス。
旋風機から、47mm対空機関砲ツングースカがけたたましい音と共に、弾丸を打ち出す。
甘い香りがコクピットの中に広がる。お菓子がかさりと音を立てた。
エイミ機からは、突撃仕様ガドリングが撃ち放たれる。
降り注ぐ弾丸の嵐。
しかし、標的が小さく、素早い。中々標準をあわせる事が出来ない。
2匹ほど、その足を止めるが、残りのケルベロスは、真っ赤な口から泡を吹き、突進してくる。三つ首が揺れ、立ち止まるケルベロスの中には、炎を噴出すモノも居る。
どうやら、ケルベロスはKVと見るや突進してくるようで、不利、有利という事を考える頭は無いようだ。旋風は、こちらが不利になったかのように、装いながら、後退を始める。
「引くって事を知りませんか‥‥こちらは引いていきましょう」
「いつもの恨み! 悪いけど代わりに受けてもらうからね!」
ストライクファングと、機刀・陽光を振り抜いて、ケルベロスを吹き飛ばすエイミ。
つい、ケルベロスを見て、所属小隊・暁の騎士団の隊長に姿を重ねて、日ごろの恨みをぶつけていたという事は、絶賛秘密中だ。
2機のヘルヘブンが、ケルベロスを引き付け、十分な距離をとったと見た側面班が躍り出る。
「やっぱり数、多いですね‥‥っ!」
スラスター・ライフルが1体を吹き飛ばすのを確認すると、さらにその歩を進める。
ガトリングを撃ち放ちながら、接近するのはセシリア機。
「‥‥邪魔です‥‥」
突っ込んでくるケルベロスを、ディフェンダーで薙ぎ払う。
「此方フェンリル01.状況を開始します」
公司機が、横合いから姿を現す。仲間の狙撃機はもう1機。その仲間に当たらないようにと、狙撃する角度に注意し、手にするスナイパーライフルD−02から放たれた弾丸は、ケルベロスを確実に吹き飛ばす。軽い振動が、公司機を揺らす。ケルベロスの断末魔と、激しい唸り声が、林の中に響き渡る。舞い上がる落ち葉。迫る機体。
軽快な鼻歌を歌いながら、十蔵機からも、ライフルの狙い撃ちが重ねられている。
「貴様等に早く消えてもらわんとな」
軽い笑みを浮かべて、十蔵は引き金を引く。ガトリングで真横から迫るケルベロスを牽制する。ケルベロスは、現われた新手の2機にもその攻撃を分散させており、どの機が集中攻撃を食らうという事も無く。
「逃がしません、よっ!」
ソラ機が、間を抜けそうなケルベロスを、漆黒のマッドハウンドでひっかけ。
程なく、ケルベロスは殲滅される。
「引き離しに成功した様です‥‥一気に行きます!」
ストライクシールドを構えていたセレスタは、飛んできた光の束の衝撃を身に受ける。ブーストで接近していた速度が乗った重さは、セレスタ機を大きく後ろにゆるがせた。しかし、致命傷には程遠い。
息を吐き出すと、セレスタは自機をなおも前にと進める。
ブーストで、一気に距離を詰めた香倶夜機から、ガトリングナックルが雨のように飛んで行く。
「いくよ〜 ガトリングナッコ〜ル! とっとと沈んでよ! 敵はあんただけじゃないんだから」
無数の弾丸がHWに細かい穴を開けさせる。そのまま、続けさまにヘビーガトリング砲をも叩き込む。次の攻撃を繰り出すために、手はヒートディフェンダーへとかかっている。
マイクロブースターを発動させた奏歌機が、ぐっとHW側面へと接近をし、けたたましい音を立ててRA.0.8in.レーザーバルカンを撃ち放ち、3.2cm高分子レーザー砲の光が続け様にHWへとすいこまれて行く。
がちりと、大きな音が響く。
HWが後ろに連ねる連結を外したのだ。
「荷物‥‥置いていくのね‥‥」
同じように側面からブーストをかけて迫った冬樹はライフルで狙い撃つ。
鈍い音が響き、HWへと風穴を開ける。
冬樹は、攻撃を仕掛けるときも、慎重だった。狙いは確かにHWだが、その後ろに連なる物資の確保も重要な任務である事を承知している。
半数のケルベロスが落ちた時点で、公司機は、その方向を変えていた。
HWへ向かった仲間達のフォローに入る。
「苦戦しているわけでは無さそうですね」
反転して寄る仲間達の、怒涛の攻撃に、公司はくすりと笑みを浮かべた。
セレスタ機から、リヒトシュヴェルトが、大きく空を裂いてHWを切り裂いた。
波状攻撃を受けたHWは、ろくに反撃も出来ずに、その動きを止めたのだった。
「‥‥作戦終了です」
インカム内臓のヘルメットをセレスタは調節し、息を吐くと小さく呟いた。
多少、攻撃の余波を受けて、連結コンテナは歪んではいたが、その中身は無事のようだ。
ケルベロス班は、機体に僅かに焦げ目のついた機体が多かった。
傷ともいえない傷ではあるが、焼け焦げたような跡を土産にする事となる。
なにしろ、圧勝といって良い戦いだったから。
「セシリアさん、怪我ありませんか?」
「‥‥ありがとうございます‥‥なんとか無事みたいです」
「あは、良かった」
安堵の息を吐き出すと、ソラは、セシリアの無事を確かめる。彼女と彼女の彼氏も大事な人だ。共に戦う人達だから、怪我して欲しくないと言うのは我侭な言い分かもしれない。けれども、そう気遣わずにはいられない。
機体性能上では、セシリアの方が上ではあるのだが。
その気配りをセシリアも嬉しく思い、僅かな笑みが口の端に上る。
「やっぱり、AU−KVの方が性に合ってるかな」
白銀の機体の中で、旋風が呟いて、深い笑みを浮かべ。
「積み荷って何入ってるのかな? もしかしてキメラの材料‥‥?」
KV慣れた仲間が多く、さして苦も無く戦いが終わった。
エイミが興味津々で、少し壊れたコンテナの合間を覗き込む。
「積荷は、建材って言ってたけど」
実際、確認をしたわけではないが、最初にそういう情報があったと奏歌が教える。
「そうだっけ?」
首を傾げるエイミは、少し残念そう。
「デラード軍曹、任務完了だよ! お土産の物資を横取りされないうちに、取りに来てくれるように、本部に連絡してよね」
香倶夜の連絡に、笑いながら、サインを上書きしといてくれと返事が返る。
能力者のおかげで、瀋陽へ向かうはずだった建材は、GDABへ収納され、補強の一環となる。
戦争はまだ終わらない。
どれだけでも、余剰の物資が必要なのだった。