タイトル:遥か<2月某日晴れ>マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/19 00:08

●オープニング本文


 タイを覆っていた得体の知れない戦いの空気は、一旦消える事となった。
 ゾディアック牡羊座ハンノックユンファランというバグアが、タイを侵略するつもりだったというが、俺には、本当にそうだったのかどうか判らない。
 南の雄、暁の虎サーマート・パヤクアルンは、強化人間になってた。
 強化人間として、UPC本部へと護送され、その行方はもう俺達は知る事も無い。
 強化人間はバグアだという。
 バグアは地球を侵略する為にやってきた、悪の異星人だ。
 それは、子供でも知っている。
 でも、俺はやっぱり、サーマートが悪い奴だとは思えなかった。
 奴は、南部で軍が圧政を強いていた事を変えようとしただけだった。
 南部で、酷い誤爆があったと言う事を、今では国民の大多数が知っている。その、誤爆の真相も、おおよそ出回っている。実にばかばかしい限りだ。ほんの少しづつ、誤解と手違いが積み重なり、無能な判断の上に成された誤爆。
 小さな『もし』が積み重なり、国を巻き込む戦いになっていたんだと思う。

 そこまで日記に書き込むと、男は溜息を吐いた。
「俺達、タイ国民は、結局、ひとりの小男に踊らされていたと言う事か‥‥」
 地上戦により破壊されたパーム椰子のファーム。
 南部の太平洋側の海岸線は、空戦の爆撃によって地形が変わっている。
 無事だった中央部には、いつの間にか、キメラが多数入り込んでおり、その対処で王宮は慌しい。北東部の守りである赤い獅子ワンディー・シングデーンが、国境警備から、南部へと移ってくる。
「軍人は良い。勝手に戦って、勝手に引き上げればいいんだからな」
 今年の出荷量を考えて、男は深いため息を吐いた。インド洋に面する海岸線はまだ綺麗なままであり、時折出没するキメラを何とかすれば、観光地としても十分やっていける。割を食ったこの地域の事を考えると、頭が痛かった。
「ソッド・シット。パーム畑で、キメラが沢山出たっ!」
「何時ものように、南部軍へと回せ。俺達がどうにか出来るものじゃ無いだろうが」
「ソッド・シット。忘れたのかい? 今月はもう3回呼んでいる」
「ちっ! ろくでなしどもがっ!」
 南部最大のパーム椰子ファームを持つソッド・シットは、椅子から立ち上がり、ブラインドから椰子畑を見る。細い精悍な身体だ。年の頃は40代半ばだろうか。
 林のように林立する、パーム椰子。
 そのあちこちに、爆撃の余波である穴が開き、木々はなぎ倒されている。
 少しづつ、なぎ倒された椰子を運び出すのは手作業だ。
 パーム椰子の畑の合間を走る農道に、軽トラックを置いて、その椰子を運ぶ。ミサイルで焦げた椰子は細く削り込み、みやげ物の木彫りにするつもりではあるが、そのままパーム油をとれていればと思う気持ちは少なくない。
 南部では、頻繁にキメラが出没する。中央部に比べれば少ない方だが、戦争以前と比べれば、数倍になっている。国の管理する場所や、個人宅に現れるキメラは、無条件で軍が出動し、対処出来なければULTへと連絡を入れるのだが、事、大きな農園や、土地を有する者には制限がついていた。ひと月の間に、キメラによった被害で軍が出動出来る回数は3回。それ以上の場合は、自費でULTに願い出る事という条例がある。不条理極まりない条例だったが、富を有する者は、それだけの責務が生じるという事なのだろう。その条例案をソッド・シットはじめ、富裕層は最初は快く頷いた。何しろ、この国では、キメラが出現する回数も知れていたからだ。
 しかし、今は内戦前とは違った様相を呈している。
「議会に捻じ込みたい所だが、ケチくさい奴と陰口叩かれるのはもっと腹が立つ」
 ソッドは、報告に来た部下へと、ULTにキメラ退治の依頼を出すようにと告げた。

「総数未定。20は確実に居ると思われます」
 オペレーターのよく通る声が響く。
 各地でよく見られる、丸い甲殻に覆われた、複数の足を持つ、虫のような姿のキメラがタイ南部のパーム椰子農園に現われたという報告を受けた。簡単なフェンスで囲い込み、それ以上移動しないような処置を農園側で行ったようである。
 キメラ殲滅が、今回の任務である。

●参加者一覧

三間坂 京(ga0094
24歳・♂・GP
大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
金 海雲(ga8535
26歳・♂・GD
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

●黒くて大きなつやつや
 柵で囲われた入り口から、パーム椰子林へと踏み入って、二手に分かれて進んで行くと、点々と、かさこそと動く1mほどの丸い虫の姿が。
「‥‥椰子ガニも何匹かぶら下がってる内は、ほのぼのした風景なんだがなぁ‥‥」
 やれやれと溜息を吐くのは三間坂京(ga0094)。くわえていただけの煙草をポケットに捻じ込むと、軽く首を振りつつ踏み込んで行く。
 椰子の葉が風に揺れ、綺麗に並んだ林の中では、思った通り、双眼鏡も大した役には立たないが。
「多少マシか‥‥」
 椰子の葉の隙間からも、時折黒い物体が。
「これがキメラじゃなければ‥‥」
 嬉し楽しの昆虫採集だったかもしれない。辰巳 空(ga4698)は、地獄の昆虫採集ですねとぽつりと呟く。
「まあ、慎重に進めていきましょう」
 復興の為の第一歩だとすれば確実にこなすのが良いだろうと、空は思う。
 パーム椰子を傷つけないために、装備のランクもかなり落とした。
(「出来れば、木の間で戦闘は避けたいのですが‥‥」)
 キメラのタイプによるが、あまり攻撃をしかけてこないタイプの敵ならば、ひっつかまえて、穴に放り込み、そこで改めて退治するのが、農園に負担をかけない戦いではないかと思うのだが、遭遇するまではどうなるかわからない。
 この状況の前を知っている。
 軽く眉根を寄せるのは、大泰司 慈海(ga0173)だ。高速艇から見えるタイ南部の海岸線は地形が変わっていた。そして、上空から見えたのはミサイルによって穿たれた地表。キメラに寄って荒らされた農園など。
(「俺たち傭兵は、破壊するばかりで‥‥ほんと情けないよね。でも、自分に出来ることをするしか‥‥ないんだよね」)
 何時も陽気な慈海だったが、長くタイに関わってきただけに、澱のように細かな感情が積もっているのを感じる。心が疲れてしまったのかもしれない。『力があるから言える事』運び屋の一般人の少女から投げられた言葉は今も胸に重い。各地で同じような境遇に落ちている人々の数はどれくらいなのだろうか。
 傭兵は敵を倒せばお終い。
 それしか復興や救出などの手助けは出来ない。慈海はそう自嘲する。だが、キメラを倒し、敵を倒さなくては、その先が無い。焦土になるか、バグアの支配下におかれるか。それが良いとは絶対に言えないのだから。
 沈む込む気持ちを、首を横に振って振り払うと、仲間と共に歩き出す。
(「自分の出来るベストを‥‥」)
 タイの力になると、サーマートと約束したから。
「とりあえず、端から順に、中央の穴に向けて探索って事で良いですよねー?」
 長いポニーテールが軽快に揺れる。平坂 桃香(ga1831)は、さくさくと歩きながら、最初の敵となるべく黒い物体から視線を外さない。手にしてるのは、くず鉄。石代わりにそれを投げつけ、こちらに注意を引き付けるつもりだ。ストックはおもいっきり十分持参した。もちろん、戦闘後はきっちり回収予定である。
「‥‥大丈夫だとは思います」
 桃香に頷き、共に歩く仲間を見て、空はひとつ頷く。このメンバーならば、戦いで劣る事も無いだろうと。
「よし。最初の奴とご対面だ」
 京は、笑顔を引き締め、ディガイアの重さを確かめながら構えを取った。
 南部のパーム椰子3割近くを保有するとあるソッドの農園は、大農園であるといえるだろう。事前に調べてきた京は、荒らされたのが、その中のほんの一区画である事に安堵していた。農場に働く者達にしてみれば、打撃は少なければ少ないほうが良いだろうから。

(「こちらは男ばかりか‥‥華がない‥‥」)
 聞こえないほど小さく呟いたのはエイミー・H・メイヤー(gb5994)。
 ヘッドドレスにワンピース。ロングブーツという出で立ちで、正統派ゴスロリの可愛らしい姿のエイミーは、そんな実も蓋も無いような感想を持ちながらも、依頼に対して、数々の戦いの方法を考えていた。何しろ、実戦経験を積みたいと考えていたから。
 その手に入れたいのは戦いの履歴。小石を、投石用に沢山拾い集めてきており、準備は万端だ。今回の仲間の中では自分が一番経験不足だとも思っている。
「指示には従います。何かおかしな事があれば、教えて下さい」
 ヤル気は十分。
 テカるキメラどんと来い状態であった。
「虫っつーのは湿ってて暗い場所にいるモンだが、堂々としてやがる」
 少し離れた目の前を過ぎった1mの巨大な物体を見て、アンドレアス・ラーセン(ga6523)は渋面を作った。
「‥‥居る‥‥ダンゴ虫みたいだな‥‥焼いても食えないだろうな‥‥」
 農園の人々が困っているのならばと、やって来た金 海雲(ga8535)だったが、待ち伏せし、罠を張るような狡猾さもさらさら無い、可愛げが無く、地味に嫌な気分にさせるキメラを見て、複雑な顔になる。その呟きを聞いて、アンドレアスはぴくりと動きが止まった。
「それは‥‥考えたくないな」
「‥‥同じ甲殻類ならヤシガニみたいのが良かった‥‥」
「同感だ」
 ヤシガニキメラだったら食べれたかもしれない。そんな大漁な想像をしてしまう海雲に煉条トヲイ(ga0236)が言葉少なく、小さく頷いた。こちらの班が最初に目にしてしまったのは、木に取り付いているキメラ。ツヤテカと光る黒いキメラがパーム椰子をしならせるように上っていた。
 さっさと退治しようかと、アンドレアスは声をかけた。
 仲間達とキメラを退治する途中、吹く風にふと顔を上げた。
 政治に翻弄される人々と、火焔樹の女に関わった日々が遠い昔のようにも、つい昨日の事のようにも思える。牡羊座を落とした代償は苦く。もっと何か出来た筈ではと、何度も考えた。
 しかし、答えは出ない。生きて行く事に正解が無いのと同じように。後悔は消えずとも。
(「‥‥今出来る事を、全力で果たす」)
 こうして必要とされ、再びこの国を訪れる機会がある事にただ感謝をと、そう思い。
「キメラ自体は大して強くも無いが‥‥木を傷付けずに戦う必要がある上、こうも数が多いと流石に厄介だな」
 行く先々で、合計5体ほどを片付けると、トヲイが苦笑する。
 ずっと心にあるのは、出迎えてくれたソッド・シット。そして、タイに住む人々全てに対する、申し訳なさ。
(「‥‥戦いの爪痕は深い。破壊は一瞬だが、再生には時間が掛かる。例え、どんな理由があったにせよ、何と不毛で非生産的な光景だろうか‥‥護る為には戦いしかなかった──だが、本当にそうなのだろうか?」)
 南部に吹き上がった反旗。それを止める為の依頼は、ほとんどが戦いの依頼だった。どれ程憂いても、傭兵は頼まれなければ動けない。その事実をつきつけられて、それでも尚、最善を求めた。
 求めるものがそれぞれ違う仲間達と、その時その時で精一杯の戦いをしたのだ。
 トヲイは、アンドレアスの声で、はっと我に帰る。
「石ぶつけりゃ寄って来るってのは良いな、エイミー」
「‥‥とりあえずキメラの殲滅・椰子の木保護はしっかりと出来そうか」
 しらみ潰しで行けそうかと、エイミーは呟く。

 順に回ってさくさくと虫キメラを退治した能力者達は、穿たれた穴に、集団で固まっている黒いツヤテカを見て、一瞬言葉を無くす。
「うぇ、エグい図だ。こりゃトラウマモンだな」
「かわいくないよねえ」
 呻くアンドレアスに、ぽむぽむと肩を叩く慈海。
「ま、さくっと行こう。順調に退治してたら、これでラストだろうしな」
 退治したキメラの数をカウントしていた京が笑えば、エイミーが真剣な顔をして穴の中を覗き込む。
「‥‥追い込むか、待ち受けるか」
「囲んで一気でも良いんじゃないか?」
「ぷちっと行きましょう」
 トヲイがシュナイザーを構えれば、海雲がロエティシアを構えてにっこりと頷く。
「連射でぶちぶちでも、早そうですよ」
 銃でと、思ったのだが桃香は何時もの愛用の銃を置いてきていたのを思い出し。
 月詠でざくざくもいけますと頷く。
「引き剥がすより、石で誘き出されるほどの奴らです。これで叩いてもきっと大丈夫でしょう」
 真面目な顔で、空は【OR】スタンプロッド「アルタード・キー」を掲げてみせた。全長1.2mの鍵型ロッドは、スタンプ仕様なのだが、SES搭載だ。きっとダメージは通る。スタンプを印つけながらきっと。
 そおれ。
 そんな感じで、虫キメラは殲滅されたのだった。

●赤い獅子
 トヲイは、ひとつの答えを赤い獅子から受け取っていた。
 爆風で吹き飛んでしまっていたが、タイ中心部の一角に、身寄りの無い者、犯罪者、遺体の無い者などが埋葬されるという無縁墓地があった。そこでハンノックユンファランとサーマートは出会ったという。
 ラタナカオ一族も、そこに眠っていたという。ただ知りたいと願うトヲイに、赤い獅子は多くを語らなかったが、その問いには、渋面を作りながらも、肯定の頷きを返した。
 外に出れば、からりと乾いた空がある。
「‥‥それを知った所で、どうすると言うんだ? 俺は‥‥」
 じき、また雨期がやって来る。
 トヲイは、一瞬、雨の臭いを感じたような気がして、空を仰いだ。
「あとその、依頼がないと動けない身ではありますが。なにか力になれることがあれば、協力させてくださいね。うん、なんか営業に来たみたいになっちゃってますね。そーゆーつもりじゃなかったんですけど」
 まとまらない気持ちがある。桃香は、南部軍の内情が気になっていた。軍として機能しているのだろうかという、一抹の不安もあった。赤い獅子は、傭兵と言うのは、おせっかいが主流なのかと渋面を作るが、笑みを零した。
「営業か。わかり易くて良い。国の在り様に介入するのでは無いのなら、我々は何も傭兵の介入を嫌っている訳ではない。手に負えない問題が起こるのならば、ULTに助力を請うのは、むしろ当然の事だ」
 ハンノックユンファランが落ち、サーマートが去った、今この状況だからこその返事でもあるのかもしれないと桃香は思った。反乱軍であった南部軍は、外から眺める分には、中央の軍と、さほど変わらない風景を見せていた。
 
●渡る風と青い空。そして椰子の実ジュース
「美味いです‥‥」
 ほぅっと、海雲は溜息を吐く。戦闘後の空きっ腹に、じんわりと甘味が染みる。
「飲みごたえがあるな、こりゃ。‥‥久しぶりの仕事だしな、鈍った体には助かる」
 ラージサイズのプラスチックコップになみなみと注がれた椰子の実ジュースを見て笑うと、濃厚な甘味に京は軽く目を見開く。けれども、後口は果物らしくさっぱりとしていて。
「水分補給と栄養補給が一度に出来そうだな」
 大の男の手にも巨大なそのコップにトヲイも笑みを浮かべる。
「お疲れ様だ‥‥」
 抱え込むようにして、エイミーはストローでジュースを飲む。ストローまで一回りも大きいのはきっと気のせいではない。その複雑な自然の甘さにほんの僅か、うきうきとした雰囲気が漂うエイミーであった。
「はいはい〜☆ お疲れ様の乾杯〜♪」
 慈海がにこにこと持ち前の笑顔でくるくると仲間達の間を回る。ソッドを見つけると、タイの状況はどうなのだろうかと、にこやかに話を振ると、ソッドは年も近いと見たのか、それよと、慈海の肩を引き寄せて内緒話をするかのように、しかし大声で話し始める。
 一時的だろうけれど、物価高騰の兆しが見える。男手を無くした家族の離散が増え、農場でも出来る限り雇うようにしているが、限界があること、国王が貴族を絞り、国庫を開けたが、一時的な放出では先細るだけだろうと渋面を作り、何より、戦いには勝たなくてはいけないが、育てるもんも育てなければ、後は無いだろうと苦笑する。
 ひとつひとつに頷きながら、慈海は、赤い獅子を思い出す。一度会ってみたいとは思うけれど『タイの事は、タイ国民が決める事』と一蹴されるかもしれない事が怖かった。同じ言葉をサーマートも言ったなあと甘いジュースを飲み込めば。
「聞いてるか」
「聞いてますよ〜っ」
 そう、ソッドに顔をぐいっと向けられて、こくこくと頷いた。
 そんな慈海を助けるかのように、アンドレアスが、そういえばと手を打つ。
「なんで俺らに仕事が回ってきたんだ?」
 依頼データには、農園のキメラ退治としか記されていない。この程度のキメラならば、軍が掃討してもおかしくは無い。
 良く聞いてくれたとソッドは今度は話をする相手をアンドレアスへと代えたようだ。人としての圧力があるなとアンドレアスは苦笑しつつ、ソッドの話を聞く。高額所得者に対するキメラ法とでも言うものに、軽く相槌を打ち、話し終わってジュースを一気飲みするソッドに再び苦笑すると、自分も一口口にする。
「ありがとな」
「うむ、遠慮する事は無い。どんどん飲め」
「あー‥‥うん、ありがとさん」
 最初の謝意。それは、再びこの地にやってこれた事に対する礼。だがそれは、ソッドには関係は無い。伝わらないのが当たり前で、伝わらない事が何処か嬉しかった。ふと見上げるのは、乾いた空。
(「よぉ、また来てるぜ」)
 この青い空の下、何処へ移送されていったのか。暁の虎は。
 アンドレアスの物思いは、ソッドの大きな声に小気味良く断ち切られ。

 全て掃討が終わった後、空は念入りに偵察を続けていた。運び出すにはトラックが必要で、どうしようかと考えていると、そこで働く人達が、後片付けぐらいはやりますからと声をかけてくる。
「‥‥後は、別の場所で火葬して、あの大穴埋めましょうか」
 空へと、ありがとうと声がかかり。
「キメラが出なければ‥‥本当に良い所ですよね‥‥」
 残骸の片付けや、パーム油の回収などを率先して手伝う海雲は、すっかり現地の人に馴染みまくっていた。青い空の下、木々を揺らす風を感じて働くのは、なんて気持ちの良い時間だろうか。
 ふっと零れる笑み。
 汗の浮かんだ額を擦ると、何か忘れていたような気がした。
「‥‥あ。高速艇の時間‥‥」
 海雲は慌てて走り出した。

 さわ。
 涼やかな風が傭兵達の賑やかな声と共に、パーム椰子のファームを撫ぜて行った。
 


『──賑やかな連中だった。何か抱え込んだ奴も何人か居たが、気の良い奴等ばかりだった』
 ソッド・シットは、薄い作業用ノートに書き記した日記を締めくくると、ひとつ伸びをした。
 
 南部復興度△15→△12へUP
 中部復興度△10
 北東部復興度△5