タイトル:【DAEB】黒の糸マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/12 01:23

●オープニング本文


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 酷い頭痛は、治まってきていた。
 寝台の上から、ペイギーは上体を起こすと、頭についている幾つもの医療器具を引き剥がす。
「どれくらいだ、意識が無かったのは」
 人類側の傭兵達との戦いの最中から、妙な頭痛がペィギーを悩ませていた。
 深追いが出来なかったのもそのせいだった。
 あの場所で、戦いを挑まれでもしたら、勝ち目は五分。
 いや、五分もなかったかもしれない。
 増援で、傭兵達も無事では済まなかったろうが、自分は多分‥‥。
 侮っていた。
 軽く唇をかむ。
 かろうじて基地へと戻って来た所で、意識を失った。
「えーっと、丸一日って所かなあ」
 ロウが、コーヒーを手渡して、軽く口付ける。
 ──ペッパー。
 ──Why? ‥‥Yes‥‥No‥‥。
 その言葉を思い浮かべると、頭の奥でチリッと痛みがぶり帰す。
「そうか。状況は?」
「変わっていないよ」
 人当たりの良い顔が、えへっとばかりに笑うのを見て、ペィギーは、言葉を振り払うかのように首を横に振ると、ロウを軽く睨む。
「ただ、輸送経路は見直さないといけないんだけど‥‥」
「わかった、何も手をつけていないんだな? 良い。あんたが口を出すと面倒だ。そのまま黙っててくれ。あたしがやる」
「うん、ありがとう。私は防衛に行ってくるから。後は頼んでもいいよね」
「ああ」
 昔から、実務はからきし駄目なのだ。
 戦闘力はそこそこだが、何処に行っても人を引き入れるに役に立つその顔と性格以外は、まともに役には立たない。
 昔から?
 また、チリッと頭の奥が痛んだ。
 酷く腹立たしい。
「‥‥そうだ。あの輸送方法と経路をはじき出したのは?」
「? 現地で組み入れた親バグアの人が五人だよ」
「あたしの所に来るように言って。それと、組織図のパスワード。組みなおす」
「はいはい。助かるなあ」
 満面の笑みを浮かべるロウに苦笑しつつ、さっさと行けとばかりに手を振ると、ペィギーは感情を抑えた表情へと戻る。

 親バグアだと言う、屈強な男達が五人、執務室のペッパーの前に集められた。
 誰も彼も、この地で輸送を生業としていたという男達だという。
 ペィギーは、全部かと、確認をすると、そのまま腰の短銃で男達を次々と撃ち抜くと、黙々とコンピューターのデータを確認する作業へと戻っていた。
 ウランバートルからの物資輸送。
 あのルートは最短ではあったが、最短では無かった。
 酷く起伏の激しい場所であり、人類に見つかり易いルート。
 地上で物資を輸送するのならば、相応の道がある。
 獣道をわざわざ通す事は無いのだ。それこそ、リスクが多過ぎる。
 UPC軍、もしくは、反バグア‥‥いや、この国では反バグアも深い意味は無い。
 物資の横流しに間違いは無い。現在、この地域には建材は必要ない。それなのに、建材が時折、物資輸送にまぎれている。それらは、到着した事になっているが、実質、途中で持っていかれたに違いない。
 基地を維持するには多岐に渡った物資が必要だ。これが、弾薬などならば、数え上げ、横流しなどは不可能に近いのだが、建材ならば、上手く操作すれば、横流しは可能だろう。今までのずさんなやり方ならば。
 これまでの物流の流れを辿れば、横流しの位置は浮かび上がるはずだ。ならば、あえて彼らが生きている必要は無く、こちらの事などを調べられるのも業腹だ。
 何よりも。
 親バグアなど、人を裏切ったヤツラが再びこちらを裏切るのは自明の理だ。
「この大陸では、当たり前の事だわかっていても腹の立つ‥‥」
 そこまで呟くと、ペィギーは、再び頭痛に襲われつつ、纏め上げた物資横流しの証拠を、上層部へと送信した。


「コンタクトを取る者達が居る。皆も承知の通り、大陸は人々が反バグア、親バグアの括りを深刻なものと捕らえては居ない。どちらにつけば特かと算段の上で、反・親を掲げている。もちろん、熱狂的な親バグアも居るし、徹底抗戦の構えを持つ反バグアもどちらも少数ながら居る。だが、今コンタクトを取りたがっているのは、反・親どちらでもない、大陸寄りの考えを持つグループのようだ。『祭門』と自らを呼ぶグループと接触を試みたい。武器をおおっぴらに持ち込む事は出来ない。ゆえに、能力者である傭兵へとその接触を任せたいのだが」
 初老のUPC軍人が淡々と任務を告げた。
 接触を求められている場所は、赤峰空港近くの農村だった。
 家の門に、古ぼけた紙で蓮の花が描かれたものが貼り付けてある場所が目印だと言う。
 そこで、朝陽空港の情報と引き換えに、住民の保護を願い出る一派があるのだった。
 じきに起こるだろう戦闘になった場合、人々を取り纏めて、バグア側から人類側へと移動させるからというのだ。

 赤峰空港は、第二赤峰空港と共に、二つの拠点がある。
 その拠点付近を囲い込むように、人々の暮らす村があった。
「バグアもUPCもどっこいどっこいだけどなあ。バグアに侵略された時に、間に合わずにずっと手をこまねいていたUPC軍と、時々人が消えるけど、他はまあ、何とか暮らしていけるバグアとさ」
「決まった事に文句言うなっ!」
 軽口を叩く中年男が、肩を竦めると、白い髭を生やした老人が拳を突き上げた。
「今までのバグアなら問題ない。だが、これからのバグアはわからない」
 それを制するかのように、静かな口調の青年が、首を横に振ると、三人は顔を見合わせ頷いた。
 反でも親でも無い、ただ生き延びる事を掲げた組織、『祭門』の頭は、朝陽空港から、赤峰空港辺りの仲間達が、UPC軍の後押しをする事を決議決定を下したのだった。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
シエル・ヴィッテ(gb2160
17歳・♀・HD
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
杉崎 恭文(gc0403
25歳・♂・GP

●リプレイ本文


 林の中の道を、能力者達は指定された村へと向かってジープを走らせていた。
 台数は二台。
 ひときわ、目立たない場所へと、ラウラ・ブレイク(gb1395)はジープを停車させる。
 偽装網は申請しそびれており、無かったが、位置取りは完璧だった。ジープの動力音の反響を考えた起伏位置、陽光に反射するであろう鏡や窓ガラスの向きなどは申し分無い。
 ここに来るまでも、ラウラは周囲を良く警戒していた。
「本当に良いの?」
 ラウラの声に、朧 幸乃(ga3078)はこくりと頷く。
「‥‥帰る時‥‥足が無くなってるかもしれないし‥‥余計なお土産を貰っているかも知れない‥‥から」
 余計な心配かもしれないけれどと、は目を伏せる。
(「‥‥今は、動きがないといいけど‥‥」)
 ペィギーと名乗った彼女。そして、以前出会ったバグアの男が脳裏から離れない。
「AU−KVの使えないドラグーンなんて、飛べない鳥と同じだよね。まぁ、こんな依頼じゃ仕方ないけどさ」
 シエル・ヴィッテ(gb2160)は、幾分か所在なさそうに呟く。

 ジープ番に、幸乃を残し、傭兵達は思い思いに、村へと歩いて行く。
 全ての傭兵が、現地の人々と同じような姿へときっちりと変装されていた。
 その村は、活気に溢れていた。
 バグア寄りの競合地域であり、バグア圏と言っても良い地域なのに、多くの他国で見られるような、悲惨な状況とはまた少し違っていた。
 人の出入りが多く、自由度も高そうであった。
「珍しい物を持ってきましたよー、家でお茶でも出してくれれば割引有り」
 水やレトルト食品、小間物があると、にこやかに言うのは月城 紗夜(gb6417)。
(「刀が恋しい。切腹ものだ」)
 紗夜の心中は穏やかでは無い。客観的に見た自分の姿を思い浮かべるだけで憤死しそうな気分である。
 何にしろ、一度に何人もの行商が現れたという事で、村人達は興味津々で、彼らを取り囲む。
 何処にでもある必需品だろうかと、不知火真琴(ga7201)は品を並べる。雑貨や食品、薬等生活必需品を用意していたのはラウラ。
 保存食や常備薬を手にするのは杉崎 恭文(gc0403)。軍の横流しを貰えないかと申請した段階で、担当官に渋面を作られる。そんな品がある事が問題であり、あるのならば、所持者は処罰されているはずだと。
 仲間達が用意した品は、すべてUPCが用意可能と判断した、通常品が手渡されている。
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)事務方の風を装っている。
(「何だか‥‥色々と複雑そうな所だな」)
 準備には、仲間達にも手伝ってもらった。
 持ち込む商品は全て覚え込んできた。問われるままに、仲間を指して案内する。
「えっとさ、行商のついでに探してるんだけど‥‥」
 恭文は、ペッパーの容姿を告げると、さあと首を傾げられ、どういう関係かと問われ、気に入っている子なんだと、適当に言葉を合わせる。
 前回手にした輸送物資の行方。物々交換としてこの村にもあるのだろうかと、村の様子を伺い、どうやって食べているのか、何が足らないのかを軽口に織り交ぜれば、怪訝な顔をされ。恭文の近くから次第に人が居なくなる。
 車のパンフレットを手にする大泰司 慈海(ga0173)にはあまり人が集まらない。そっと場を離れ。
 取り立てて、普通に入村したシエルは、特に見咎められる事も無く。
 蓮の花の描かれる門へと最初に到達したのは、シエルと慈海だった。
「目立っとる奴らは仲間かっ!!」
 白髭の老人が、出会いがしら一発怒鳴る。その後ろから、ひょっこり顔を出した、にこにこと笑う中年の男が、二人を招き入れて、苦笑する。
「どうやってこの村に入ろうか、皆、考えたんだよ。あまり不自然だと困るし」
 慈海はパンフレットを軽く掲げる。
「ま、品物を売りつけようとしない、あんたはともかく、他は思いっきり不自然だぜぇ? 村に入る時間をずらしゃ、簡単だったのにぞろぞろと‥‥。にしても、品物が被らないようにするとか、こっちの知り合いに頼まれた品を持って来たとか、親戚を訪ねてきたとか、夫婦者だとか、家族で逃げて来たとか、言い訳なんざ星の数ほどもあるだろぅによぉ、一律単独商人ってなぁ笑えるなぁ。あれだけ固まって売られれば、誰に断わって商売してるんだと、地元の商人に、難癖つけられるぜぇ。それに、あいつぁ何だ? 全部の品をそらんじてる。怪しすぎだぜぇ?」
 シエルへと、あんた、他の奴らが目立ってて助かったなと、ウィンクを投げ。
「裏口から入れる。あのまま来られてはたまらん」
 眉ひとつ動かさない青年が仲間に、時間をずらして連れてくるようにと指示をしていた。
(「何処に親バグアの目があるかわからないもんね‥‥」)
 慈海は三人の力関係を薄々把握しつつ、小さく息を吐いた。


 初顔合わせは、あまり良いものではなかった。
 不機嫌そうな老人は白鼬(はくい)。にやにやと笑う中年男は斑猫(はんびょう)。寡黙な青年は狐老(ころう)と名乗り、北東部で祭門という一派を三人で纏めていると名乗った。
「このまま帰ってもらっても、俺は構わんっ! 聞き込みのマネまでしおって! こんな地域にやってくる商人は、地域の事情は大雑把に知っておるわっ!」
「まあ、まあ。村には商人は沢山出入りする。たまたま時刻が重なったって事もあるだろうって話を流しゃいい。寸鉄帯びずにやってきたのは好感が持てるぜぇ?」
 恭文を睨み、白鼬が言い放つと、斑猫が斑猫を宥める。
 服装などは問題無く現地人であったのだが。
 狐老が首を横に振ると、能力者達に向き直る。
「UPCに組すると決めたんだ。こちらから、誰か一人をあんた達に預ける。好きに選んでくれ」
 祭門から連絡は、以降、まちまちとなるとの事。こちらから、提示した人物では、UPCは不審感を持つだろうと。三人のうち一人。これでも、不信感はあるかもしれないが、堪えてもらえたらと。
 ほぼ全ての能力者が、白鼬を押し、彼がUPCへと同行する事となる。
 この人員提示は、祭門の話を通す事もあるが、祭門が裏切った時の為に身代としての意味もあるのだと。
 知らされた情報は、朝陽空港の見取り図とワーム分布。親も反も居る住民の取り纏め。攻略時点の朝陽空港への地上からの引き込み役の申し出の三点である。
「つまり、戦闘が起こった時に、バグア側から人類側の土地へ難民を逃す手伝いをしてほしいって事だね。で、その見返りが空港関連の内部情報っと‥‥」
「そうだ」
 シエルの言葉に狐老が頷く
「難民救助に関しては大丈夫。例の件で、UPCも信頼回復するのに必死だし‥‥。難民を見捨てるなんて選択肢は取れないはず」
 バグアが降下した際の大きな戦いの中で、偵察が敢行された。
 その、北東ルートは失敗に終わり、UPC軍への信頼は地へ落ちている。
 何か聞きたい事があればと促される。
「人類愛に目覚めたとか、下らん理由じゃないだろ?」
 無意識に首元をさわりながら、紗夜はバグアよりUPCを選んだのは撫ぜかと聞いた。
「実利で言えば、特に無いかなぁ。そうだねぇ、赤峰空港に居る仲間と連絡が取れなくなっちゃったんだよねぇ」
「此処からは赤峰空港の方が近いけど、情報をくれるのは朝陽空港‥‥そういう事?」
「そうだ」
 言い放つ白鼬を見て、慈海は口元に手をやり、考え込む。
「ウランバートル方面から赤峰空港へ、ワームが建材を運んでいたけれど、何か新しい拠点を作るという噂は?」
「無い」
「無い?」
 狐老の言葉に、慈海は目を見開く。
「ありゃあ、俺達の仲間が伝票操作して、運ばせたんだよ。人が増えりゃ、家が居る。物資はあるが、豊じゃぁねえしよ? 武器に鍛え直したりな」
 斑猫がにやりと笑う。
「人は、どうして雇われているのかしら?」
「バグアっていったって、広い世界全てがバグア人で固めるなんて無理だろ? 普通に整備員や、清掃係や、厨房を任されたり、煩雑な事務なんかをやる為に雇われてるぜぇ? 特に、大陸では反も親も大して変わらないからなぁ。身元確認も、このご時世だ。緩いもんなんだぜぇ」
 ラウラの問いに、斑猫がにやにやと笑いながら答える。
 慈海が問う。
「この周辺に過激派の親・反バグアの拠点はある?」
「この村の周囲にゃぁ、無いなぁ」
 答える斑猫へと、紗夜が質問を繋ぐ。
「では、これからの接触時点で、過激派の反バグアの妨害の予測は?」
「あるといやぁある。無いといやぁ、無いんじゃねぇ?」
「‥‥何だそれは」
「その時にならなければ分からないという事だ」
「分かった」
 狐老の言葉に、紗夜は頷く。万が一の事をUPCへと報告しておこうと。
「把握はしているという事で良いかしら」
 表面上は、全ての住民が親バグアという事になるだろう。
 だが、どちらかというと、反寄り、親寄りはあるのだと思い、ラウラが尋ねる。
「問題無い」
 狐老の頷きに、ラウラはしっかりと頷き返す。
(「倒すべきは、バグアそのもの」)
 人が傷つかなければ、何派だろうと構わないと。
 そんな雰囲気を感じたのか、祭門の三人は軽く目配せをして、もう一度ラウラに頷いた。
「ええとね、この集落内に、強化人間って混じっている? 混じっていたら、どれぐらいかな」
 避難する時に妨害されたらと、ユーリが首を傾げる。
「この地域で、強化人間が民間人の移動に妨害してきたら、バグアも末期だな! 奴等は民間人を必要以上に傷つけない。そうしていれば、UPCへと傾いて行かないからな」
 基地や空港ともなれば、バグアが殆どと言ってもいいが、市と名がつく場所は人々がバグアに混ざって普通に暮らしている場所が多い。全てではないが、それが、大陸であり、北京環状包囲網と呼ばれる地域の特色である。
 白鼬の言葉を狐老が引き継ぐ。
「強化人間は把握していない。出来ない。絶対とは言えないが、この村には居ない」
「‥‥では、キメラに襲われないのも、それに起因していると思っても良いかしら」
「そういう事だねぇ。やたらめったら襲われたら、まっしぐらにUPC側へとつくぜぇ?」
「黒いゴーレムは何処にでも居るのかしら?」
「環状包囲網には多いと思うぜぇ? 数体で組んで地表から、低空からの多角で攻撃をかける奴等だぜぇ」
 ラウラの質問に、斑猫が軽口を叩くように答える。 
「ロウ、ペイギーと言う強化人間を聞いた事があるか」
 紗夜の言葉に、祭門三人は顔を見合わせた。
「‥‥二名共、赤峰空港と第二赤峰空港のどちらかに居るだろう。多分司令官クラスだ」
 狐老が答える。
 能力者達の間に、微妙な空気が流れた。
「あっ、そうだ。そこの司令官とかの情報は無い? 容姿とかだけでもいいんだけど」
 シエルが尋ねれば、仲間達が見知った姿の符合が幾つも告げられた。
 ペッパーに間違いは無さそうだった。
「その二名の活動範囲を教えてくれ」 
「ペィギーというのは、最近来たばかりだから、わからないが、ロウは赤峰空港付近から、朝陽空港付近の合間を動いている。小競り合い程度の戦いなら、今までは、ロウだけで圧勝だった」
「今までは?」
「この間、阜新空軍基地をUPCが落としただろう」
 瀋陽市から、赤峰空港へと向かう丁度中間にある阜新空軍基地。
 そこは、ゴーレム工場があり、ロウは危うく傭兵達に落とされる所だったのだと言う。
 結果、阜新空軍基地はUPCの手に取り返され、ゴーレム工場は完膚なきまでに叩き潰されている。
 自分の質問は最後で良い。
 そんな風に、皆の話を聞きながら、質問を纏めていた真琴は、小さく息を吐き出した。
 聞きたい事も、知りたい事も沢山あった。
 だが、ここに来たのは、単純に保護を願う人達を助けたいという気持ちから。
 出立前に確認した住民保護の確約は、確かに聞いた。
 何よりも、仲間達の質問全てに、聞きたかった答えがあった。
 外に声が漏れないかどうか、気を配っていた慈海は、去り際、狐老に軽く肩を叩かれた。
 言葉はなかった。
 バグア寄りの地域で、UPCに接触を持とうとするのは、危険な行為だ。
 命を懸けた値踏みは比較的良好に置かれたようであった。
 どう、白鼬を連れて行くかを考えていなかった。固めて動こうとして、止められる。
 祭門の指示で、二人ずつが時間を空け、村を出る。
 最後の傭兵が出る頃には、そろそろ日が傾き始めていた。


 時折、人が行き過ぎる。
(「‥‥指導者移送の妨害‥‥ありえますよね」)
 この機に乗じて、混乱を誘い、人類側の心証を悪くさせる。
 それは、いかにもバグアがやりそうな手で。幸乃は首を横に振る。
(「何事もなければ‥‥それで‥‥良いのですが‥‥」)
 幸乃は、自然体でジープを守っていた。
「何やってんだい?」
 何処にでもいる、二人連れの中年男が幸乃に声をかけた。
「‥‥移動、商店です」
 商売の得意な者が村へ交渉し食料や燃料と商品を交換してもらっている所だと言えば、撫ぜジープでそのまま行かないのかと、首を傾げられるが、まあがんばってと、二言三言話して興味が尽きたのか、立ち去って行くのを見送った。
「ふむ。車番か。良い心がけだ」
 白鼬は幸乃をぱんと叩くとにやりと笑った。
(「‥‥あ、頭を使うお仕事でした‥‥」)
 真琴は、幸乃が目に入ると、目を和ませる。
「とりあえず、何もなしかな」
 村を出る時に、ユーリはGooDLuckをかけ、探査の目を発動させていた。
 覚醒時に目立った変化が無いからこそ、出来る事であった。
 車両まで戻る道を尾行されていないか気にかけ、車両付近からは、細工された形跡が無いか等をチェックすれば、小さな盗聴器が見つかり、それを叩き壊す。
 ラウラが背後を振り返り、監視者も追跡者も居ない事を確認し。





 傭兵達の働きで、UPC軍は、祭門、白鼬を客分として歓迎する事になった。
 その実は、情報管制を敷いた拘束に近かったが、不自由の無い扱いでもあった。
 北京環状包囲網を叩く為の猛攻は、新たな局面を生み出しつつあった。