●リプレイ本文
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安陽空軍基地へと向かう、傭兵達とスカイフォックス。
空に無数の軌跡を描くと彼等は二手に分かれた。
安陽空軍基地へと向かうスカイフォックスのKVを目の端に留めながら、傭兵達の機体はその高度を下げる。安陽空軍基地へと向かうタロスを、そちらへと合流させない為に。
そして、傭兵達のKVは、さらに二手に分かれた。
目標のタロスを挟み込むように降下し、挟撃をする心算である。
「予定地点に到着、降下するでござるよ。そりゃあ」
ノーヴィロジーナ・烈風の翼を傾けると、佐賀重吾郎(
gb7331)が真っ先に垂直降下を始める。砕のエンブレムがきらいりと光る。相手取る敵機は、今となっては見慣れたゴーレムの系統を受け継ぐようだが、能力者の力が増すのに呼応するかのように、高性能な機体となっているようだ。その特徴として挙げられるのは回復能力。重吾郎は、噂のタロス相手かと僅かに鼻を鳴らす。
「タロスが10機‥‥それだけでも脅威ですが、場所が場所だけに他にいないとは限りません。警戒は密にいきましょう」
ここは、大陸。敵地が隣接する場所である。どの様な奥の手が潜んでいるかわからない。
シャーリィ・アッシュ(
gb1884)の翔幻・アヴァロンの翼が傾く。降下体制に入ったのだ。白銀を基調に、白と黒に配色されたKVが陽光を反射して、僅かに光った。
タロスの前方へと回り込むα隊は5機。
「敵がわざわざ山中を進むというのが少し引っかかりますね」
後方に位置取りをする、斉天大聖を駆る篠崎 美影(
ga2512)が、思案するかのように呟く。
この地域、ジャミングは強い方ではあるが、大戦の戦場ほどでは無い。
遠くの空域に、火の手が上がる。安陽空軍基地の方角だ。
「とりあえず、前は任せておいて下さい」
スカイブルーに塗り分けられた鋼の翼が高度を下げる。主翼に描かれたエンブレムは羽と剣が交差し、黒豹が牙を剥く。井出 一真(
ga6977)の阿修羅・蒼翼号だ。
「早めに接近戦に持ち込みたいね。プロトン砲とか撃たれ続けるのは色々キツイし」
時枝・悠(
ga8810)が頷く。ディアブロに斧を持つ悪魔のエムンブレムが陽光を受けて鋼色に反射した。
地図を眺めれば、北京から南西にある安陽空軍基地を落とせば、一つの防衛ラインが出来上がる。
大原武宿国際空港から、南に下る開封市にある鄭州空港は、人類圏だ。降下作戦の際、済南空軍基地及び済南遥璃国際空港が同時制圧され、済南市が開放された。そうなれば、大原武宿国際空港、開封市、済南市が外周の三角を形作る大原武宿国際空港を、勢いに任せて攻略してしまえば、洛陽が孤立化する。隣接した許昌西空軍基地も、現在人類側の攻撃により、孤立を余儀なくされている。
石家庄市へと、降下した部隊が合流しているのならば、なおの事。安陽空軍基地を落とせば、石家庄市を攻略する為の防衛ラインが構築出来る。
(「戦略だとかはよく分からんが。勢いを殺したら不味いってのは何となく分かる」)
碁盤の戦いのように、取った取られたでは済まないのが戦いだ。だが、少しでも大陸の戦いを有利にするのならば。しっかりと仕事をこなそうかと、悠は、大陸の空から、広がる大地を見て小さく呟いた。
「‥‥道をそのまま歩いてきているようですね。じき遭遇します」
美影は、地殻変動計測器を設置すると、タロスの現在地を確認する。山間の舗装路を歩いているのは、歩きやすいからだろうか、それとも。
「この地形では完全遮蔽は無理、部分遮蔽ならいけるでござる」
山間に抜けられるのは仕方が無い。だが、タロスが道なりにやって来るのならば、前後を塞げばと重吾郎が呟く。
「よし、見えた」
悠がブーストをかけて、道路を疾走する。細かな砂埃と、歩道に残っていた小石がばらばらと音を立てて機体の後ろへと吹き飛んで行く。
「幻霧展開します。効果は一時的ですが、気休め程度にはなるはずです」
悠の行動とほぼ同時に、シャーリィ機がその回避を上げる為、幻霧を発生させると、ブーストをかけて、タロスへと向かう。
「T1〜T10までナンバリング。T1、T2を先頭に、二列を崩していません」
美影が情報を投下する。
淡紅色の光線が2本延び、周囲の空気や細かい砂や砂利を撒き込んで、振動音を響かせて迫る。逃げ場は道路上には無い。
悠機は機盾アイギスを構えている。光りの筋は、その盾で拡散されて散る。
「っ!」
シャーリィ機に光線が当たるが、傷は浅い。
「1人1機、なんてヌルい事を言える状況では無いか」
今この段階では、味方機は敵の半数。管制に専念する機体もある。
タロスに肉薄すると、悠機はビームコーティングアクスを振り上げると、槍を構えるタロスの懐へと飛び込んで、叩きつけた。雷のような細かな波動が斧と打ち込まれたタロスの胸から上がる。その一撃は、タロスに膝をつかせた。
「すぐ、次のタロスが来ますT3!」
美影が叫ぶ。
淡紅色の光線が、悠機へと至近距離で打ち込まれるが、盾が間に合い、派手な火花が拡散された。
衝撃を受けて、機体の足元がアスファルトにめり込みながら、僅かに下がる。
多少傷を負ったが、シャーリィ機はもう一方のタロスへと突進する。紫の光線を避けるかのように、小刻みに機体が踊る。
背後から、援護をと一真と重吾郎も前に出ていた。
「まだこっちだけ見てろよ?!」
前に出た2機の合間から、一真がシャーリィ機の背後から、スラスターライフルを打ち込む。
シャーリィが避けた紫の光線が後方へと伸びる。
機盾バックスが衝撃に揺らぐ。重吾郎機にとってその衝撃はかなり重い。ぐっと堪えては、前進し、レーザーガトリング砲を撃ち放つ。細かな光りの弾丸が、タロスを襲い、細かな傷をつけて行く。
「おおう 当たっている」
重吾郎は、ぐっと操縦桿を握り締める。
「行き、ますっ!」
シャーリー機は間合い十分と見るや、息を溜めて、スパイラスバンカーを叩き込んだ。金属が音を立てて砕ける音がする。タロスの腹に風穴が開く。
「とどかないっ?!」
そのタロスを押しのけるように、背後から新たなタロスが現れると、後方へと向かって淡紅色の光線を発射した。
一真機がまともに受ける。
下がったタロスの腹が見る間に修復して行くのが垣間見え。
「プロトン砲に気をつけて! T3、T4に照準をお願いします。T1起動停止。T2は最後尾に下がりました」
どの機体もそれがあるのならば、後6発は飛んでくるはずだった。
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α隊が交戦を開始したとみるや、高空域で待機していたβ隊が、交戦地域よりも後方へと降下を開始する。
「タロス10機を遊ばせてるようにしか見えないんだけど」
シュテルン・空飛ぶ剣山号、エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)が呟く。
「‥‥まぁ、バグアの連中と私どもの思考が同じ訳もないでしょうが」
中途半端な位置だと、ディアブロ、飯島 修司(
ga7951)は思う。
先の降下で個別に降下したタロスなのだから仕方が無いのかもしれない。空を飛んだ方が早いと思うのだが、そう出来ない訳があるのかもしれないと思う。
「やっぱり、空を飛べるタロスが戦術目的もなく道路を歩いているのは不自然ですものね」
竜牙・ぎゃおー! 食べちゃうぞー!が、今度は何処まで戦えるか。ミリハナク(
gc4008)は笑みを浮かべる。闘いを重ねる毎に強くなる、それが今のミリハナクにとって楽しい事であり。
「タロスかぁ、最近よく出会うよねー」
大陸もきな臭くなってきている。Memento mori.死を思えのラテン語警句が描かれた漆黒の機体には、銀で魔法陣や逆十字が描かれている。その不吉な姿は、さらに不吉な出来事を打ち払い進めという意味合いが深い。そんな、骸龍・イクシオンのレーダーに映る様々なものを確認し、夢守 ルキア(
gb9436)が頷く。
「基地からUPCの戦力を削ぐ為の囮って事かな」
「さすがにタロス相手だと正規軍では損害がバカにならないだろうし」
仲間達の後方から降下する、月と星の止め具で纏めたターバンを巻いた髑髏のエンブレム。シラヌイ・アルタイル、Anbar(
ga9009)が呟く。
「だねー」
正規軍が受け持てないような戦場がある。ルキアは、傭兵の仕事が無くならなくて良いのかなと、小首を傾げる。
「ここで俺達が敵兵力を少しでも削れれば、後々の味方の損害を減らす事に繋がるしな」
タロスは北京西方、僅かに南西に傾いた位置にある、石家庄市近辺へと集結をしているのだという。Anbarの言葉に、エリアノーラが頷く。
「ま、削れるだけ削らせてもらいましょう。今後の為にも、ね」
「このタロスが、囮の囮とか考えられません? 未だ見えない敵が居るとか」
バグアには地中兵器もある。ミリハナクは、作戦に入る前に浮かんだ疑問を仲間に投げかけていた。彼女の疑問は、仲間達全ての疑問でもあった。
「『他の敵の姿の見えない罠』って、まさか、FRなんて事は無いでしょうね?」
エリアノーラは、ミリハナクの言葉で、反射的に、光化学迷彩を纏った、嫌な敵を思い出す。何処からともなく現れる、彼等は、主にゾディアックと呼ばれ、12宮からその数は減らしたものの、未だ健在の者も居る。
「そういう事も含め、警戒は密に行いましょうか」
修司が頷く。
「勝利と幸運の女神の御手に、口づけを」
気分だよと、ルキアは笑いながら、幸運を上げる。KVには影響はしないのは十分承知だ。
変形したエリアノーラ機が、双機槍センチネルを軽く振る。
「堅さと垂直離着陸が特徴だしね、ウチの子」
一番槍かと、口元に笑みを浮かべて、エリアノーラはタロス後方へと向かう。
そのすぐ横には、修司機が、機盾ウルを構え、ブーストをかけ追いついていた。
2機の後を追う様に太い尻尾を揺らし、太陽と月の重なる皆既日食のエンブレムが背中で静かな凶暴性を誇示するミリハナク機が向かう。初撃の後、こちらが攻撃しやすいように、射線を空けてくれるはずだ。そうしたら、GPSh−30mm重機関砲を撃ち込む手はずだ。
Anbarは超伝導アクチュエータを発動させると、援護に回る為に後を追う。
タロスのナンバリングを確認していたルキアは、地殻変化計測器を設置すると、途端に横合いから迫る敵を確認した。タロスは前方に居る。しかし、その敵は。
「ちょ! 待って! 右手方向から、新手! 大きいよ!」
地響きが感じられる。
ルキアは、低空へと機体を逃す。
何処に?
方向はおおよそ感知出来る。
だが、出現地点まで細かく判断は出来ない。
山の中腹を食い破るかのようにEQが飛び出してきた。その降下地点は、ルキア機と後方のAnbar機、ミリハナク機。
ディフェンダーのような突起がぐるりとその長虫の身体からは突き出し、頭には、口と思しき黒い穴が。その穴の中には、光る牙のような突起物がみっしりと生えている。KVをひと飲みしてしまう口だ。
「タロスだけでも厄介なのに、EQが追加かよ。まったく、大盤振る舞いにも程があるぜ」
Anbarは眉を寄せると、G−44グレネードランチャーを撃ち込んだ。
「近づきたくありませんが‥‥近いですわね」
伸び上がったその胴体へと、重機関砲をミリハナクが撃ち込む。ばらばらと土塊が降って来る。
EQの移動は骸龍ほどもある。長いのだ。
煙幕弾で視界を遮り、ピアッシングキャノンで迎撃をしてから逃れようとしていたルキア機は、重い衝撃を受けて、小さく舌打ちをする。
「まだ余力があるって?!」
三方向から攻撃を受けたEQは、ルキア機を攻撃をしたその身体を、今度は降下する勢いをつけて、Anbar機とミリハナク機へと向かい急降下する。ざっくりと開いた口が迫る。
「喰らうのは俺じゃない」
再び、Anbarがランチャーを叩き込めば、ミリハナクが、重機関砲を浴びせかけた。
「させませんわっ!」
「私達はワイルド・カード、攻撃にも防御にも変容出来る」
ルキアは落ちるEQへとブーストをかけると、再びキャノンをお見舞いする。軌跡を描いて、その砲弾がEQへとぶち当たる。
地響きを立てて落ちた先には、すでに2機は居らず。
ブーストでタロス後方に接近していた修司機とエリアノーラ機は、EQの援護に回りたかったが、こちらはこちらで、後方に振り向いたタロスを相手取っていた。
1体から、淡紅色の光線が延びるのを、修司機ががっちりと受け止めれば、光線は拡散する。
「瞬間の防御力なら、マシな部類よ。だから───多少の無理でも通して見せるっ!」
強化型ショルダーキャノンと試作型スラスターライフルの弾が、タロスへと降り注ぐ。
盾の合間から、機槍ロンゴミニアトが、ぬっと現れる。修司はそれをタロスの長い手の合間を潜り抜けて腹へと突き刺した。引き抜けば、破壊された部分から、爆発が上がる。
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後方に現れ、味方を分断した、EQを見て、悠はやれやれと小さな溜息を吐く。
「追加報酬要求しても良いよな、これ」
振り下ろした斧は、何体目かのタロスを大地に落とす。
入れ替わるタロス。だが、追えないほどでは無い。美影は、倒されて行くタロスと、倒すべきタロスを仲間達へと伝え続ける。
「ガラ空きですわ。おいしく喰らいなさい!」
後方から、ミリハナクの重機関砲が、淡紅色の光線や、紫の光線と交差するかのように飛ぶ。
ミリハナク機に、光線がダメージを負わす。だが、まだ戦える。
山間へと向かった修司機を追うように、1機が山を登る。
先に山に入った修司機は、その斜面を利用して、高い場所からの攻撃位置を取る事が出来ていた。
何よりも、光線が当たり難いようだ。
「では、行かせてもらいますよ!」
盾を構えて、突進すると、ハイ・ディフェンダーを叩き込む。その一撃で、タロスはなすすべもなく崩れ落ちる。
修司機が1機落とせば、別の1機が、釣られる様に、山間を目指す。
「そおぉぉらああっ!」
混乱してきたタロスの合間へと、エリアノーラが双機槍センチネルを振り回して突進する。
前方からは、シャーリィ機がディフェンダーでタロスを切り裂く。
「SESフルドライブ。ソードウィング、アクティブ! 再生するなら再生してみろ!!」
混戦と見て取るや、一真機がブーストをかけて踊り込む。四足が大地を蹴り、背に生えるかのように伸びるソードウィングがぶち当たる。
「ドリルは貫くだけにあらず、受け止める事も出来るでごさるよ。そりゃぁぁぁ」
両腕のヴィガードリルがタロスを貫く。重吾郎の周囲では、ドリルの回転音が鳴り止まず、タロスの槍との攻防が何合も打ち合って。
「スカイフォックス‥‥デラード軍曹、こちら地上班です。タロス及びEQの殲滅完了しました」
長い手足、伸びた胴。煙を上げ、残骸を晒すのは、10体のタロスと、1体のEQ。
シャーリィの報告に、デラードからお疲れさんの言葉と共に、安陽空軍基地制圧の報が入った。
大陸の戦いは、一種の膠着状態を抜けようとしていた。