タイトル:HW☆ジャックとランタンマスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/16 21:49

●オープニング本文


『ラスト・ホープ』
 人の手で作られたこの都市でも、昔と変わらぬ人々暮らしが日々営まれている。
 その為か、いつもどこかしらで人々の心を和ませる色々なイベントが行われている。

 今日も街角の小さな窓を飾るオレンジ色のカボチャ。
 壁に蝙蝠やファンシーなお化けが描かれたポスターが貼り出されている。
 そこに書かれた「Trick or Treat!」の文字。
 ──『ハロウィン』である。

 ☆☆☆☆☆

 何時そのキメラがそこに入ったのか、見た者は居ない。しかし。今居るのだから、これをどうにかしなくてはいけない。
 ハロウィンの余韻覚めやらぬ街の住宅街。
 赤いレンガの歩道を挟んで、瀟洒な別荘が二件立っている場所がある。
 二件の別荘には古びた鉄の観音開きの門がある。門を越えればすぐに家に入るドアがある。
 西にある家は、赤茶のドア。東にある家は、黒いドア。
 
 お昼の鐘が街に響く。

 すると、ぎぃとドアを開けて出てくるのは、西からはオレンジ☆ジャック。東からはブラック★ランタン。
 オレンジ色の南瓜頭を持つ、身長60cmほどの小さなキメラと、真っ黒な南瓜頭を持つ、オレンジ色のキメラと同じぐらいの大きさのキメラ。
 二体のキメラは、びしびしと音を立てたような火花を散らし。おもむろに、後ろからゴロゴロと転がって来る小さなキメラを掴んだ。そうして、お互いが、お互いに投げあいをはじめたのだ。
 アルマジロのような形をしているその小さなキメラは、20cmほどの大きさである。それが、丸くなる。ボールのようになったそのキメラは、双方5体づつはいるだろうか。どちらが、どちらの陣営のものかはわからないが、投げあい続けて、お昼の鐘が鳴り止むと、再びにらみ合い、家に入っていってしまうのだ。その時点で、丸まった小さなキメラは、半々に分かれるのだから、以外にきちんと陣分けをしているのかもしれない。
 見ている分は、面白いのだが、ここは別荘地だ。やがて、冬の長期休暇で持ち主がやってくる。そのおもちゃのようなキメラの姿に騙されて、街の自警団が退治しようとしたのだが、いかんせん。投げあいに外に出てくる時を狙い、近寄ると、オレンジ☆ジャックとブラック★ランタンは、毎日睨み合い、いがみ合っているようなのに、人の気配を感じると、二体そろって、赤いレンガに立ちふさがる。そうして、まるまったアルマジロのようなキメラを一斉に投げてくるのだ。
「グゲゲゲッ」
 勝ち誇ったかのような、ブラック★ランタンの声が、後に響いて、非常に腹が立つとか。
 別荘地に銃弾の跡や、刃物の跡を出来るだけ残さないように、雪の振る前に、どうかこのおもちゃのような、けれども凶悪なキメラを退治して欲しい。
 白樺並木が美しい、高原のその街の切なる願いであった。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
三間坂 京(ga0094
24歳・♂・GP
シェリル・シンクレア(ga0749
12歳・♀・ST
麻斬 紘馬(ga0933
15歳・♂・GP
水邨 楓(ga1142
10歳・♀・SN
武田大地(ga2276
23歳・♂・ST
亜鍬 九朗(ga3324
18歳・♂・FT
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP

●リプレイ本文

●瀟洒な高原の街
 別荘地だとういうその町は、年季の入った赤いレンガの歩道が、やはり年季の入った色合いをかもし出す家屋敷の間を挟んで伸びている。低い漆喰の壁の上には季節の花を植えるプランタが設置されていたり、複雑な模様を描いた鉄の柵や、様々な緑が重なった生垣などが御伽噺のように組み合わさり、角ひとつ曲がればまた美しく手入れされた芝のある家が見えたりする。どの家屋敷も、道路に面し、表玄関からの距離は狭い。その代わり、庭から森へと繋がるように、白樺の林が、たっぷりと陽射しを入れて何所までも続いているかのようだった。退色した青や赤の屋根瓦が白樺林の向こうに見え隠れし、別荘地のプライベート空間を確保している。
 街の中心には石造りの塔が立つ。鐘撞き塔だ。塔の下には役所があり、決まった時間に鐘を鳴らす。そんな絵本のような空間を眺めながら、癖の無い長い白銀の髪を森林を吹き抜ける風に任せ、リディス(ga0022)は、困ったものですと軽く微笑む。こんな戦闘と無縁の場所にもキメラは出現する。
「迷惑極まり無いものですね‥」
「‥‥こわい‥でも‥‥がんばる‥‥うん」
 リディスを見上げて、水邨 楓(ga1142)は、頷く。初めての依頼だ。生まれてすぐにバグアに襲われ、命からがら家族と共に生き延びた。赤いレンガの隙間から逞しくも顔を出し、所々小さな白い花がこぼれるように咲いているのを見つけ、高原の空のような瞳を細め、微笑んだ。自分の出来る事をがんばろうと思うのだ。
 わくわくしているのはシェリル・シンクレア(ga0749)だ。可愛い被検体をエレガントに退治♪ と、心は妙に可愛かった一番小さな丸まったキメラに飛んでいる。
 キメラあるまじろん。体長20cm。丸まってゴロゴロ転がる体当りが得意と、いずれ判明する。キメラの気持ちはわからないが今回は何故かオレンジ・ジャックとブラック・ランタンと一緒に行動している。
 そう、オレンジのカボチャ頭はオレンジ・ジャック。身長60cm、黒いマントとタイツを身につけた、キメラである。得意技は突進。黒いカボチャ頭はブラック・ランタン。身長1m。オレンジのマントとタイツを身につけた、キメラである。得意技は怪力。依頼が終了する頃には、この三体のデータは本部に収納されている事だろう。
「ハロウィンパーティ♪」
 麻斬 紘馬(ga0933)は、にっこりと笑うシェリルにTrick or Treat! と返して、ふと立ち止まった。
「向うの悪戯を回避してこその飴なんだな。orよりandの方が適切か? とにかく頑張んねえとなっ!」
 役所に最初に顔を出した三間坂京(ga0094)は、カボチャに笑われて、腹が立つやら情けないやらの自警団の人々から、昼の鐘はお任せ下さいという、力強い握手を貰って来ていた。確かに。カボチャに笑われるのは腹が立ったんだろうなぁと頷く。本部に送られてきた映像のひとつに、小さなキメラ達は映っていた。小馬鹿にしてるようなその姿だけでも微妙な気分なのに、「ゲゲゲゲッ」と笑う黒カボチャに微妙な殺意が芽生えるのは当然だろうと頷く。
「‥まあ、喧嘩売られてるのに時間切れで姿は消さないとは思うが」
「何の為にあんな事をしているのか分からんが迷惑な話だな。早く退治してしまわないと」
 雪合戦ならぬ、あるまじろん合戦をする二体のキメラを思い出し、亜鍬 九朗(ga3324)も、やれやれと呟いた。小さなキメラがさらに小さなキメラを投げ合うのは、見た目にはコミカルな光景なのだが、いかにコミカルな光景でも、キメラなのだ。その矛先が何時人に向けられるのかはわからない。
 穏やかな高原の日差しに、お気に入りの麦わら帽子を被り直すと、潮彩 ろまん(ga3425)は、満面の笑顔を仲間達に向ける。うん、とひとつ頷き、竹刀を担ぐと、ろまんはまた笑顔になった。
「別荘の平和と、美味しいお菓子に紅茶の為にだよ!」
「‥‥とりっくあんどとりーと‥‥いらい‥開始‥?」
 お昼の鐘が鳴る鐘撞き塔のある方向を、楓が僅かに顔を上げて見て、そうして、音を立てて開く別荘の戸を能力者達は一斉に眺めた。

●カボチャ退治
 鐘が鳴るのを待ち構えていたかのように西にある家の赤茶のドアからブラック・ランタン。東にある黒いドアの家からオレンジ・ジャックがそれぞれに、あるまじろんを従えて現れた。
 二体のカボチャ顔は、すぐに異変に気がついたようだ。能力者達に、まるで双子のようにそろった動作で、目と口がくりぬかれたような顔を向けた。表情は無いのだが、怒っているかのようにも見える。
 軽快な動きで赤レンガの道へと躍り出るキメラ達。うわあと、ろまんが声を上げる。
「もうハロウィン終わったのに、ちょっと季節外れだよね。ヒーホーって鳴いてないし‥‥」
「怪我してもすぐ治したげるから」
 オールバックの髪を撫ぜつけ、いかにも怪しげなサングラスをかけ直すと、武田大地(ga2276)は、金色の八重歯を見せてにっと笑った。サングラスの奥の瞳が青く光る。覚醒だ。超機械γを駆使し、グラップラーの武器を強化し始める。超機械一号の電磁波攻撃を試したかったシェリルであったが、それは攻撃行動である。仲間で試すわけにはいかない。大地と共に武器強化に集中する。
 ぐっと二体のカボチャ頭に握られるあるまじろん。
「連戦です♪」
 投げ合っているところを見てみたかったかなと、にっこりと笑うシェリルの髪が、ふわりと舞い上がり、黒い煌きが髪からはらはらと舞い落ちる。
「オレンジの奴は任せました」
「後ろは任せろ」
 響く鐘の音を聞きながら、飛んで来るあるまじろんを打ち払うのは白銀の髪が漆黒に変化したリディスと、体中から赤いオーラが噴出して、髪が天を衝き真紅に染まり、アイスブルーに染まった瞳を瞬かせる九朗だ。九朗は、いくら、あるまじろんが飛んで来るとはいえ、全部が全部一斉投げつけられるわけでは無いと踏んでいた。何しろ、投げ手は2体なのだから。あるまじろんが九朗の刀に絡み取られて弾かれる。
 その脇を京と、髪が青っぽい灰色に変わり、瞳が赤く染まり、腕には呪印の様な紋様が浮かんだ紘馬が駆け抜ければ、オレンジ・ジャックにはもうすぐ手が届く。京と紘馬の動きに目をやるブラック・ランタンに、あるまじろんを一撃で跳ね除けたリディスが声をかける。
「どうした黒南瓜、あたらないぞ? 所詮その程度の銀鉄砲か」
「ゲゲゲゲッ?!」
 ブラック・ランタンは情報によると勝ち誇ったような笑い声を上げていた。ならば、挑発は有効ではないだろうかと読んだリディスに、ブラック・ランタンは見事に引っかかった。上下するオレンジ色のマントとタイツが、悔しげに揺れて、その手に握られたあるまじろんがリディスへと飛んで行く。あるまじをんを握るにも僅かに時間はとられる。
「そんなへなちょこな投げ方では俺は倒せないぞ」
 ふっ。と笑う九朗の挑発も、ブラック・ランタンの怒りの火へ油を注ぐ。見えるわけでは無いが、なんとなく、ごうっと音と共にブラック・ランタンのバックに炎が上がったような気もしないでもない。
 加速装置と声を上げると、ろまんもオレンジ・ジャックへ向かって走り出す。
 ぷんぷんと怒っていそうなブラック・ランタンへ、楓は標準をあわせる。九朗と京がオレンジ・ジャックに接近し、リディスがブラック・ランタンを挑発している距離は比較的近い。
「‥‥黒いかぼちゃの動きを止める‥役‥‥」
 慎重にと、楓は仲間達の接近で出来る隙を狙う。
 ぐっと腰を落とし、走り込んだ京のファングがオレンジ・ジャックを捉えた。足元に居る投げられていないあるまじろんが動き出す。その動きは早くは無い。寄ってくるあるまじろんを吹き飛ばすようにファングで薙ぎ払う。
「邪魔するな?」
 同じく突っ込む紘馬は、個別で突進をするあるまじろんを避け。オレンジ・ジャックにファングの一撃を入れる。
「ぼこ殴りにさせてもらうぜ!」
 突進する紘馬の攻撃をオレンジ・ジャックは僅かに避けるが、完全には避け切れずに、たたらを踏む。そこへ、ろまんの攻撃が入る。
「くらえっ、お爺ちゃん仕込みの『波斬剣』だ!」
 彼女の武器は竹刀だ。いくら鍛えられたといえどもSESを搭載していない。すぱーんと良い音をしてオレンジ・ジャックの顔面にヒットして、吹き飛ばす。むくりと起き上がるオレンジ・ジャックの顔には、竹刀でしたたかに打たれた跡が残る。ついでに、怒りの青筋マークが見えるような気もするが、オレンジ・ジャックの命運はそこまでだった。
「生憎だったな。ちまいの」
 足元のあるまじろんを警戒していなければ、足を取られてオレンジ・ジャックの頭突きと低位置に転がった事で他のあるまじろんの体当たりなどでかなりの怪我になる。京のファングがあるまじろんを蹴散らせば、紘馬のファングが、空を裂く音と共にオレンジ・ジャックに深々と入る。
「頭突きは出させねえよ!」
 キュウ。とか、聞こえたかもしれない。オレンジ・ジャックは能力者達の連携によって地に沈んだ。

 楓の矢が、風鳴りを伴い、ブラック・ランタンのオレンジの脚に突き刺さる。
「2個、かぼちゃがあって‥1個たおすまでけん制‥‥」
「助かります」
「此処は絶対に通さないっ!」
 あるまじろんを弾く為、ブラック・ランタンの前進を止められないリディスが、薄く微笑むとまた、飛んできたあるまじろんを防ぐ。同じように、背後にシェリルと大地を庇いながら、九朗が叫ぶ。サイエンティストが居るからこそ、受けるダメージはすぐに回復してもらえるのだ。
「行けそうですね」
「おう」
 リディスがその脚を早め、ブラック・ランタンに一撃を入れる。どうやら、オレンジ・ジャックの片もつきそうだと見えた。後は、数体のあるまじろんとブラック・ランタンのみ。楓の矢でその動きが鈍れば、逃がす事など無い。九朗も踏み込みを深くして、日本刀を振り抜いた。
「逃げちゃイヤですよ〜」
「脚は遅いか」
 二体のカボチャキメラが地に伏したせいか、あらぬ方向へと逃げ出すあるまじろんに、シェリルと大地の電磁波がものを言う。足止めしていれば、紘馬が、京が、リディスが、九朗が手にした刃であるまじろんを退治した。
 作戦勝ちの圧勝であった。

●のんびりお茶を
「前につけられた玄関のへこみぐらいかな」
 二つの別荘に、傷がついていないかどうか、確認してきたのだが、ブラック・ランタンとオレンジ・ジャックが投げ合いをしていた時の軽いへこみぐらいの傷で済んでいた。自警団と別荘の管理人が中を見れば、玄関を入ってすぐのエントランスとキッチンを陣取っていた気配はあるが、華奢な家具やら階段やら、他の場所に移動してはいないようで、胸を撫で下ろしていた。仕事の後の一服を吸おうとしたが、京は吹き抜ける森林の風に、ひとつ頷くと煙草をポケットに仕舞い込んだ。
 白樺の林が眺められるテラスで、能力者達は思い思いに薫り高い紅茶を味わう。深いブラウンの紅茶は仄かにナッツの香りがする。甘い南瓜マフィンの匂いもやがてテラスに満ちる。
「‥‥お茶会‥」
 ほう。と、微笑んだ楓は、自警団の人達が僅かに足を止めたのに、首を傾げ、あ。と、小さく呟いて、ハロウィンメットをさわって、くすくすと笑い出す。
「私も‥かぼちゃ‥なんだ‥ね」
「ボクもいつか、こんな素敵な別荘欲しいな‥」
 白樺並木の清冽さと、レトロで瀟洒な別荘を眺めて、ろまんは、自分がそこに佇むのを想像する。スカートの裾を翻して、リボンの大きな帽子を被り。振り返れば‥。ぱむぱむと、テーブルを叩いて、頬を染める。気分はすっかり別荘の住人のようだ。
 南瓜の甘みとバターの甘みとが香ばしい紅茶に良く合う。
「美味い」
 紘馬が思わず呟いた。出来立てのマフィンは、管理人さんのご自慢の一品のようだ。シェリルも、満足そうに南瓜マフィンをつつく。白樺林から零れ落ちる陽の光は、緑の陰影を落として揺れるのに目を細め。
「はぁ〜癒されますね〜ここは〜♪」
「美味しい物を食べられるとは幸せな事だ」
 手作りの食べ物は、それだけで貴重で美味しいと九朗は、ほろほろと口の中で崩れていくマフィンと紅茶味わいに思わず笑みをこぼす。とんだハロウィンだったと、リディスは穏やかに微笑む。傭兵家業はこんなものだろうかとも。けれども。
「今ぐらいはのんびりとしても良いですよね」
「ハムサンドもあるぞ」
 大地が持ってきたハムは、ライ麦パンと炙りチーズと組み合わされて、振舞われる。みんなでという気持ちに変える頃には、同じハムが大地の荷物に入っていたのに気がつくのはもう少し後。
 良かったら休んでいって下さいねと、管理人さんが別荘の部屋をメイクしてくれていた。迎えが来るまでどうぞ、と案内される。猫脚のベッド。マホガニーの机。刺繍の入ったベッドカバー。一部屋づつ違う、綺麗な壁紙。窓を開ければ、白樺並木と空が近い。手早く片をつけた事もあり、翌朝までぐっすりと疲れを癒す事が出来た。
 口直しにどうぞと、各部屋のサイドテーブルにはきらきらした甘いキャンディが置いてあった。
 ハロウィン。
 子供達がお菓子をねだるお祭りは、様々に変化しつつ、世界中に散らばった。お祭りは、何所のお祭りでも楽しいものだった。