●リプレイ本文
なんだか、敵増えてるわね‥‥しかも、何あれ。ブーメランパンツ一丁の男たちは‥‥。あんなの連れてたのか、あの怪しい二人組みは。
「オマエタチ、16はどうしたの!」
完全に私を目標としてくれたみたいね。
『マリア、聞こえる? すぐに応援に向かうわ。場所を知らせて頂戴』
通信? 聞きなれない声ね。
「貴女は?」
『香月透子(
gc7078)よ。助けにきたわ』
助けがもう来たのね。この場所‥‥そういえば、私が迷子だって事忘れてたわ。正直に言うのも嫌だな
「わかったわ。派手に戦闘するから、そこ目掛けて来て」
『オーケー、ちょっとした小細工もするから吃驚しちゃダメよ。それと‥‥トドメは刺さないで』
「筋肉男に関しては少し減らしておくわ。指示されるだけの操り人形みたい」
うまくごまかした! 迷子だってこと、バレてない!
マリア・16によって運ばれた負傷した女性は、命に別状はないものの意識ははっきりしておらず、外傷以外にも注意すべき症状がありそうである。そんな彼女の治療に当っているのは、天水・紗夜(
gc7591)である。持参した救急セットで治療をしつつ、「GooDLuck」「探査の眼」を使って周囲の警戒を怠らない。元々は負傷した彼女が追われていたのだから、的確な対応である。
「じっとしてて。先ずは怪我をなんとかしないと」
「あの‥‥マリアは本当に記憶が?」
負傷した女性は、満身創痍だった。しかも、古い傷から新しい傷、切り傷から刺し傷‥‥手術の痕まであり、痛々しい程であった。そんな体であっても、彼女はマリア・16の事を気にかけていた。
――――――
まずは目印ね。
「‥‥ふぅぅぅ〜、はぁっ!!」
ズズズゥ‥‥バキバキバキッ!
「ナニ? あのコなんであんなにツヨいの?」
「情報照合‥‥理解不能、解析不能」
マリア・16が、大木をほぼ力技で横一文字に断ち斬り、それが倒れる時に轟音となる。それが、近くに居た傭兵達の目印となり、且つ追跡者の二人に倒れる事で引き離す手段となった。
ドドォン!
そして、一番最初に敵と接触したのは、香月であった。
バシュゥゥゥ!
「攻撃確認‥‥敵捕捉。詳細不明、情報収集開始」
香月が牽制でソニックブームを放つ。それが敵の足元の地面を抉り、敵は飛び退き体勢を整える。
「支援要請。攻撃開始」
プシュシュシュシュ!
大木が倒れた事と、突然の香月によるソニックブームで混乱していた筋肉男達が「支援要請」の言葉で我に返る。そして、追跡者はサイレンサー付きの拳銃で応戦を始めた。しかし、能力者に対して通常弾ではまったくといっていいほど無意味であった。
「いたっ!」
香月の手足に的確に命中したものの、「痛い」程度の効果でしかない。力の差を感じ取った追跡者は、筋肉男をけしかけ、自分は撤退の準備を始める。
――――――
「16のヤツ、なんであんなに‥‥」
「油断は禁物!」
困惑している追跡者に対し、マリアが斬りかかる。背後から腕を斬りおとそうと狙った攻撃だ。
ギィィィン!
「あれ?」
「アブないわね!」
肩口を覆う服が切れ、その下から金属質の皮膚が現れる。だが、無傷ではなく、金属皮膚の表面には大きく歪みが生じている。
ビシィィィ!
一瞬の隙を、追跡者は見逃さなかった。攻撃された逆の腕で、マリアの鳩尾に硬鞭を叩き込む。
「ぐぅっ‥‥」
マリア・16の顔が苦痛に歪む。追跡者がその機会を逃すわけもなく、さらに追撃により止めを刺そうとする。
「シマツさせてもらうよ」
「させません‥‥」
遅れて駆けつけたトゥリム(
gc6022)が、助けに入る。その姿は迷彩塗装を施した姿であり、普段の彼女をとは違っていた。そして、同じように迷彩塗装を施したエルガードを振りかぶり、追跡者へと全体重をかけて振り下ろす。
ゴォン!
「あふぅん‥‥」
脳天直撃、鈍器で一撃。
「トゥリム‥‥さん? 助かったわ。‥‥でも、大丈夫‥‥?」
「はい」
「あ、そっちがね‥‥」
マリア・16が指差したのは、倒れている追跡者であった。能力者の全力での大きな盾による強打‥‥。
どくどく‥‥
倒れた追跡者の頭部から赤い血が流れ始める‥‥。それを見て、マリア・16とトゥリムは呆然としている。いいから治療しよう、という突っ込みをする者はそこにはなく、筋肉男も指示する者が倒れたため、勝手にそこらで自由行動である。
「十五番意識不明。緊急避難。搬送指示」
香月から逃れて来た、もう一人の追跡者が現れ、即座に筋肉男に撤退、負傷した追跡者を搬送する指示を出す。それを見たマリア・16が搬送しようとする筋肉男に斬りかかる。
ヒュオォ!
空を斬る音がして、筋肉男を二人同時に斬り倒す。
ザザっ!
藪の中から人影が飛び出してくる。その人影は、倒れている追跡者を抱えると、もう一人の追跡者の方へと駆け出す。
「助けに来たわ。私は貴女達の味方よ」
人影は、風代 律子(
ga7966)であった。追跡者は身構え、風代に発砲しようとするが、風代が両手をあげてさらに言葉を続けた。
「とある筋から頼まれてね、貴女達を守る様にと言われているのよ。ま、貴女達なら何となくわかるでしょうけど」
「う、ううう‥‥」
頭から血を流している追跡者が眼を覚ますが、理解できない状況もあいまってか、意識がはっきりしていない。
「とにかく、一度引き上げましょう。アジトまで護衛するわ」
信じるかどうかではなく、まずは撤退が最優先である事を考えた追跡者は、風代に守られる形で撤退していった。
「何? どうなってるの? トゥリ‥‥居ない‥‥」
「私から説明するわ。マリア」
縛り上げた筋肉男を引きずりながら、香月がやって来た。彼女の説明によれば、風代は裏切ったわけではなく、仲間のフリをしてアジトを突き止めようと演技をしていて、トゥリムは念の為に尾行をしているという事であった。トゥリムの迷彩は尾行の為、香月が追跡者を倒さなかったのはアジトまで案内させる為と、すべては段取りだったのだ。そして、残されたマリア・16と香月は、負傷者の治療をしている天水の所に戻る事にした。
一方、助けに来た仲間のフリをして、追跡者に同行していた風代であったが、信用は得られぬままと言った状況であった。しかし、あくまで演じ続ける覚悟である。
撤退から暫くすると、負傷し気絶していた追跡者も目を覚まし、フラつきならがも自力で走り始めた。先に口を開いたのは風代であった。
「どう? 最近の調子は?」
「フシギなコトをキくわね」
「肯定」
(会話からの糸口が掴めそうもないわね‥‥)
すぐに途切れてしまう会話に、焦りを感じ始める。
「タスけてくれたコト、それはカンシャするわ。だけど‥‥」
「攻撃開始」
突如、筋肉男達が風代に襲いかかり、そのまま地面へと捻じ伏せてしまう。そこへ次々に攻撃を続ける筋肉男達。
「ワタシタチは、マモられはしない。シッパイサクだから」
「‥‥破棄予定、肯定」
「どこのダレで、ナニをしようとしているのかシらないけど、カカわらないで」
「撤退再開。攻撃維持、30分後自壊行動開始」
追跡者の二人は、引き連れていた筋肉男に風代を任し、森の奥へと消えていった。そして、風代を攻撃し続ける筋肉男達は、追跡者の指示通り‥‥30分後に溶ける様に崩れてしまった。
「私は失敗したけど‥‥後はお願いね」
リンチ状態ではあったが、風代の怪我は大した事はなく、無事な様であった。そして、演じきる事に失敗したものの、尾行を行なうトゥリムに望みを託す。
「名前は?」
簡易的だが治療を終えた女性に対し、香月が問う。負傷していた女性は、木の幹に体を預け、浅い呼吸をしながら静かに答える。
「私の名前は、マリア・12」
「何処から来たの? 何故追われているの?」
「‥‥必死だったから、わからないけど‥‥。追われている理由は、私が大切な情報を盗んで逃げたから。ディスクの中の情報、あれが大切みたいです」
「ディスクの内容は? マリアを知っているの?」
「内容はわからないの。貴女の言うマリアって、どのマリアなのかしら‥‥でも、そこに居るマリア、私を追っているマリア‥‥全部知っているし、理解している‥‥」
少々意味の掴みづらい返事ではあったが、思ったより重要そうな情報は引き出せないでいた。治療に当っていた天水も、香月に続いて質問を始めた。
「マリアさんを助けたマリア・16さんと、追いかけてきてるマリア? ‥‥との関係は?」
「詳しく説明すると長くなるけど‥‥。私達は実験体。筋肉男も見たでしょ? あれも同じ実験体。でも、全員が失敗作として処分予定、だったの」
呼吸が乱れ、言葉が途切れる。マリア・12は呼吸を整え、険しい顔つきになり話を再開する。
「処分が決定した一部の実験体が、脱走を図ったのは当然の流れだったわ。マリア・16とマリア・13が、そして、時期をずらして私が脱走した。私は、13と16は処分されたと聞いてたけど、違ったようね。私は、ふぅぅ‥‥」
呼吸が乱れ、言葉がまた途切れた。これ以上話を続けさせるのは、厳しい様ではあったが、制止に入った天水とマリア・16にマリア・12自らが首を横に振り、話を続けようとする。
「うぅ‥‥っ。施設にあったディスクを」
「私の持ってるこれね?」
「ええ、マリア・16の持ってるそれ‥‥それを持って逃げ、結果が今よ。そのディスクの中身が何か知らないけど、思ったより重要みたい。‥‥追ってきた二人のマリア‥‥変な喋り方してる銃を持ったのが、マリア・14、片言で話す棒みたいなのを持ったのが、マリア15。二人とも、すでに『処分』されたマリアで、処分前と別人なの。それが『処分』という事なのか解らないけど‥‥。ごめんなさ‥‥い、ちょっと無理しすぎたみたい‥‥暫く眠らせて」
そう言うと、崩れるように横たわり、静かな寝息を立てて眠り始める。
『‥‥尾行完了』
いいタイミングで、トゥリムからの通信が入り、尾行が成功したという報告があった。その通信から遅れること10分程で、ボロボロな姿の風代が戻ってきた。
「作戦は失敗しちゃったわ」
悔しそうな表情である。けれど、彼女の失敗があったからこそ、トゥリムの尾行は警戒されなかったとも言えるかも知れない。謀らずも二段構えの作戦になったというわけだ。
「ここが、アジト」
マリア・14とマリア・15の二人が入って行った場所は、山腹にある洞窟。に、見せかけた場所であった。洞窟の壁の一部が扉となっており、中から筋肉男が迎えに出てくるのが確認できた。
「何あの筋肉男‥‥気持ち悪い」
トゥリムの独り言は、おそらくほとんどのものが同意するだろう。しかし、今はそれどころではないのである。その場所に目印を残すと、トゥリムは帰還することにした。
―――――
「命令実行、失敗」
「12とディスクのカイシュウはシッパイしました‥‥」
追跡者のマリアは一人の老人の前で、まるで怯える小動物を思わせる雰囲気で、自分達の任務失敗の事、邪魔に入って来た者達の事、生きていた失敗作のマリア・16の事。その情報の内容は、老人にとっては価値の薄い物であったのか、興味を持つそぶりはほとんどなかった。だが、老人の興味は違う物に向けられる事になった。
「おめぇたちの戦闘の経験、かなり積めたんじゃないか? どうじゃ、そろそろ素材にでもなってみっか?」
プシュー
マリア達の背後の扉が開き、鎧を纏ったかのような男達が現れ、がたがたと震えるマリアをどこかへと連れて行ってしまった。
「どぉなるか楽しみだなぁ、それに、邪魔してくれたやつらぁ、恐らくは能力者かぁ。これは、ここも荒れるなぁ」