タイトル:帰る場所がありますか?マスター:

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/08 16:45

●オープニング本文


 人類とバグアの戦いが熾烈を極める中、一般の人々にとっては様々な思いが募っていく一方であった。いくら危険とはいえ、住み慣れた家や街を捨て、遠く離れた地へと逃げるのは、心の中に暗い影を落とすことになる。その影は、大きくなり、より濃くなり、いつしか闇へと変わる。
「金ならいくらでも出す!俺たちの街を奪い返してくれ!お前ら傭兵は金でなんでもするんじゃないのか?!」
いやらしいほどの派手な服と、必要以上に大きな宝石を指にはめた老人が、キメラ討伐を終え帰還した能力者の青年に詰め寄っていた。しかし、その青年は嫌な顔ひとつせず、傭兵の仕事の流れや、依頼の方法などを丁寧に説明していった。その青年の対応が良かったのか、ある意味予想外だったのか、老人は怒りを忘れ礼を告げると車に乗りどこかへ行ってしまった。

 ULTの依頼説明を聞き終えた傭兵の二人が、やる気のない感じで話している。
「なぁ、この依頼主ってアレだろ?」
「ああ、いわゆるクレーマーっすね?確か、報酬払う時点で、難癖つけて半分しか払わなかったりとか」
「でもよ、今回はすでに全額ULTに支払ってあるから、それはないみたいだが」
「そうっすね。けど、このキメラの情報おかしくないっすか?」
「これか? 体長2mほどのトリケラキメラ複数に、体長5m超えるティラノキメラ1匹‥‥」
「でしょ? でしょ? これって、リアルの奴より小さいっすよ!」
「あははは‥‥報酬は先に払っただろ的なクレーム予定ってか‥‥? まったく、クレーマーとしての腕は大したもんだ」
この二人だけではなく、他の傭兵たちもこの点には気がついていた。それでも、依頼を受ける覚悟をした者たちがいた。ただの一文に込められた、強く重い念を感じた者だった。依頼の説明の最後に付け加えられた一文

 そこに街があるから、帰りたい

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
荊信(gc3542
31歳・♂・GD
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
天羽 恵(gc6280
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

 森に囲まれ、街の近くには湖があり、その景色は自然に恵まれたといった街。しかし、その街並は、瓦礫と一部が壊れた家々が乱立しているようにさえ見える廃墟となっていた。元は人々が暮らす平穏な街だったに違いない。

「これは、困りましたね‥‥」
 
 高い木に登り、双眼鏡で街の状況を調べている鐘依 透(ga6282)が、真剣な眼差しで遠くに見える目標を確認してつぶやいた。
 この街を奪還するために集まった傭兵達だったが、事前の作戦では、街を占拠するキメラを個別に倒していく予定だった。しかし、鐘依が見た現実は予想していたものと違っていたのだ。

「こらぁ、やりにくいな」

 鐘依からの報告を受けた荊信(gc3542)もまた、険しい表情になる。トリケラキメラは全部で12体。報告にあったティラノキメラはどこにも確認出来なかった。しかも、トリケラキメラは、街中央の広場を巣にするように、『群』で行動していたのだ。これでは個別に倒すことは難しい。

「キメラの大きさは予想通りだな」

 須佐 武流(ga1461)が予想通りと言ってはいるが、依頼説明の際の大きさとはまったく違っていた。トリケラキメラの体長は約9mの固体がほとんであった。この分だと、ティラノキメラの体長はどれだけの物になるのか、そこは不安であったが、確認できないために不安は不安のまま残ることになる。

「プテラは?‥‥っと、プテラは居ないんだったな」

 なんとかのザウルス〜と、リズムに乗せて鼻歌を歌いながらブレイズ・S・イーグル(ga7498)は質問を自己解決して、離れていく。その質問から自己解決までの一部始終を見て、絶斗(ga9337)がブレイズに駆け寄って行く。何か思う所があったのだろう。その手には、ドリルアームと、足にはホイールレッグが装着され、ベルトからは『ポンッ』っと可愛い音を出していた。きっと、解る人には解る何かに違いない。だが、ここはあえて触れない方がいいのかも知れないと、周囲は理解していた。

 簡単な作戦の修正を済ませた面々は、2班に分かれて突入することにした。A班は北東から、B班は南西から。逆方向かつ、風上と風下からの二手に別れての突撃は、天羽 恵(gc6280)の発案によるもので、B班として須佐と鐘依の3人で行動している。

 瓦礫の街中を、周囲の気配を探りながら慎重かつ迅速に進んでいく人影。元エキスパートであった、國盛(gc4513)は探査の眼を使いながら街の中央を目指す。その少し後ろを、ブレイズと絶斗が、そのさらに少し後ろで背後に注意しながら荊信が続く。彼ら4人はA班として、『風上』から進んでいく。國盛の足が止まり、その場に全員が集まる。彼らが身を隠す建物の先に、トリケラキメラの群が見えている。どうやら、まだこちらには気がついていないようだが、ここが気づかれない限界と判断しての行動なのだ。

「手はずどおり。俺がいく」

 國盛が、超機械を手に建物の影から、走り出す。

「‥‥こっちだ‥‥」

 國盛が超機械を使う直前にトリケラキメラが匂いに気がつき、國盛の方に視線を向ける、と同時に、群の一体に向けシャドウオーブの漆黒のエネルギー弾が着弾。明らかな物理系キメラであるトリケラキメラにとって、この一撃は思ったより効果があったようで、直撃を食らったトリケラキメラは、崩れ落ちるように失神する。

「こっちは始めたぜ! おまらもしっかりやれよ!」

 荊信が、無線でB班に合図を送る。

「了解」

 天羽の声が無線機から聞こえてくる。それに続いて、須佐と鐘依の返事も返ってくる。

「あんたらもな」
「皆さん、ご武運を」

 國盛が、瞬天速によって距離を取るのを確認すると、絶斗が戦闘態勢に入る。
「さぁて、稼ぎますか」
「ウェイクアップ!」

 絶斗の声に反応するように、ベルトに付けられたバックル「BRAVE」が電子音声を高らかに響かせる。その合図を待っていたかの様に、先に荊信が動く。

「さぁ、食らいやがれ!」

 國盛を追いかけようと走り出すトリケラの群の側面から、制圧射撃による足止めを行う。それにより、群は出鼻をくじかれ、さらにその注意が荊信へと向く。

「おい! こっちへ来い! この野郎!」

 絶斗が絶妙なタイミングで、トリケラキメラ一体にドリルアームで攻撃を仕掛ける。その攻撃は、前足をえぐり、一体を移動不能状態に陥れる。さらに別の一体にブレイズが攻撃を仕掛ける。

「ファフナーァァァァ‥‥ブレイクッ!」

 強刃を乗せた審剣「リブラ」の一撃が命中!完全な意表をついての攻撃は、見事に一撃で一体を仕留めた。トリケラキメラ、残り11体。注意がバラバラになったトリケラキメラに対して、國盛が再び離れた場所から、超機械の攻撃で注意を惹き付ける。

ドスッ!

 トリケラキメラの後方から、鈍い音が響く。一番最初に失神したトリケラキメラを、須佐が蹴り上げたのだ。その脚に装着された「スコル」により、その蹴りの威力はかなりの物であり、失神していたトリケラキメラは、そのまま意識を取り戻す事なく絶命する。トリケラキメラ、残り10体。

「ここはあなた達が居ていい場所じゃない」

 天羽が、最後尾の一体に迅雷によって距離を詰めて斬りかかる。そのまま、連続で斬りつけると、トリケラキメラが振り向きざまに反撃を繰り出す。その直撃を回転舞で回避したもの、反撃により吹き飛んだ瓦礫が、天羽に思わぬダメージを与える。

「危ない!」

 射撃による牽制で、注意を惹きながら天羽の逃げる隙を稼ごうと、鐘依が前へと躍り出る。その間に、天羽は須佐の助けを借り逃げることに成功したが、注意を惹きすぎた鐘依に、3体同時の体当たりが迫る。回避を念頭に置いていたものの、さすがに攻撃を避けきれず、跳ね飛ばされた鐘依が、半壊した建物に突っ込んでしまう。その建物めがけ、再び3体が突撃していく。
 鐘依が建物に突っ込んだのを見て、ブレイズが瞬天速により群の中を突っ切り、そのままソニックブームを放つ!
 須佐もまた、高速機動とスコルのブースターで突撃する3体に追いつき、さらに飛び蹴りに真燕貫突を乗せた鋭い蹴りを繰り出す!
 しかし、2体の突撃止めたものの、1体はそのまま建物へと突撃してしまう。だが、その粉塵から、負傷しながらも鐘依が飛び出し、別の建物へと身を隠す。

 A班は、ブレイズがB班の援護に向かった為、3人となった。現在、6体を惹き付け、街の外へと誘導している。國盛は超機械の攻撃範囲ギリギリで攻撃しては、瞬天速で離脱し、荊信は仁王咆哮によってそのサポートをしていた。絶斗は、一足先に街の外で、迎え撃つ準備をしている。そこへ、國盛と荊信が到着する。

「いくぜ!」

 絶斗はすでに、限界突破を使用しており、一気に街の外に出てきたトリケラキメラに攻撃をしかける。すでに、國盛と荊信により疲弊していた為、反撃すら出来ずに2体がドリルアームにより風穴を開けられ、絶命。

「これ以上手前ェ等の好きにゃぁさせんよ」

 荊信が装填を済ませた拳銃で、制圧射撃を残った4体へと命中させる。さらに追い討ちを掛けるように、國盛が二連撃で止めを刺した。これにより、6体の巨体が地面に横たわることになった。残ったトリケラキメラは、4体、その内1体は移動不能である。

「さっきのお礼よ」

 トリケラキメラに突き刺した雲隠を抜きながら、天羽がその青い目で睨みつける。傷を負いながらも、自分を傷つけ、さらに鐘依に突撃していった相手を仕留めたのだ。そこから少し離れた場所では、ブレイズと須佐もまた、止めを刺した後であった。

パン! パン!

 銃声が鳴った方向を見ると、鐘依もまた、移動不能になっていたトリケラキメラへと止めを刺したようであった。

「あとは、ティラノだけだな」

 A班の戦況が解らないものの、須佐からの言葉は、仲間を信頼するが故の言葉だった。キメラ如きに負けるはずはないという信頼だ。

 その信頼を裏切ることのない働きをしてみせた3人は、急いでB班と合流しようとしていた。しかし、彼等に合流してきたのは、まったく別の者であった。

ドドドドドドドドドッ!

 街を囲む森の中から突如現れたティラノキメラが、絶斗、國盛、荊信へと猛突進してきたのだ。奇襲に成功したものの、今度は奇襲を受ける形になってしまう。ティラノキメラは、街の中にエサとなるものが乏しいために、街の外へと狩りへと出ていたのだろう。

「うぐっ!」

 ティラノキメラの脚に踏まれた絶斗の顔が痛みで歪む。

「‥‥!」

 超機械で即座に攻撃したものの、ティラノキメラは物ともせずに國盛に食らいつこうとする。間一髪牙から逃れたものの、ティラノの頭部で数十m飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「この皆遮盾荊信が、皆遮ってやらぁ!」

 渾身防御で、ティラノキメラの突進は受け止めたものの、薙ぎ払う様に振り回された尻尾の直撃を食らう。

「どうなってんだ!」

 3人が次々に倒された所に、ブレイズが戻ってきた。とにかく、この場所からティラノを離さないとまずいと判断した彼は、距離をとりつつ、ソニックブームで牽制しては後退する方法で、今度は街へと誘導していったのだ。

 異変を察知した須佐が、いち早く音のする方へと向かう。それから少し遅れて、天羽と鐘依も走り出す。その直後、広場の入り口近くの建物を破壊して、ティラノが広場へと現れた。やはり、一人では厳しかったようで、ブレイズの傷もかなり増えていた。

「これ以上、素晴らしかったはずの街を壊させない‥‥」

 天羽が、ブレイズの役目を引き継ぐようにティラノに仕掛けていく。その攻撃は主に、脚を狙っており、回転舞の連続に次ぐ連続で、まるで舞を舞うかの様にティラノの牙をかわしながら、攻撃していく。

「なるほど、脚か」

 天羽の攻撃の意味を悟った須佐が、雷槍「ターミガン」に持ち替え、超機械「ミスティックT」で牽制しながら、脚を攻める。
 さすがのティラノも、2人同時の攻撃に的を絞れず、その牙は空を斬り続けた。

「‥‥破っ!」

 突如現れた、國盛が脚甲による二連撃をティラノへと決める。瞬天速で追いついてきて、そのまま攻撃したのだ。先ずは、跳躍から首へと踵落としを決め、逆の脚で挟み込むようにサマーソルトを決めるという荒技だ。天羽と須佐が脚を狙ったことで、動きが鈍くなったからこその成功かも知れない。
 それを見た鐘依が、連剣舞と鋭刃を使った精密連続射撃を試みる。

「僕だって! 緋燕穿貫(ヒエンセンカン)撃ち!」

 エネルギーガンの弾が連射により燕のようになり、國盛が蹴り上げたことで露出した喉を貫き穿つ。その傷穴へと、天羽が刃を突き立て、傷を広げるように切り裂く。

「一秒でも早く、この街から消えてもらわないとね」

 天羽の言葉通り、一秒でも早く消えてもらうべく、須佐もさらに追い討ちを掛ける。

「終わりだ!」

 広がった傷へと、ターミガンを突き刺し、その柄に飛び蹴りを当てさらに深く突き刺した。

ドスン!

 首から始った傷は、胸部にまで達し、その深さは内臓まで達した。これで生きているわけもなく、ティラノキメラはただの肉塊と成り果てた。

●帰るという事
 街のキメラを殲滅し、奪還に成功した傭兵達だったが、彼等の帰還を待つ者の中に、依頼主である老人の姿はなかった。

「みなさん、ご苦労様でした。お疲れのところ申し訳ないのですが、コレを‥‥」

 依頼説明のときのオペレーターが渡してきた紙には、思いもよらぬ内容が書かれていた。故郷を追われ、あの街を逃げ出した他の人たちからの感謝の内容であった。帰るべき場所はあれど、帰ることの出来ない人々の想い、そして、今やっと帰れるようになったのだという想いなどが綴られていた。だが、その中にあの老人の言葉は何ひとつなかった。

「やっぱりクレーマーは、クレーマーか」

 吐き捨てる様に、須佐が言い放つ。天羽も同じ気持ちだったらしく、軽く頷いている。

「いえ、この依頼にはまだ続きが残っています」

 オペレーターの想いもよらぬ言葉に、一同に緊張が走る。

「確かに、街の奪還には成功しましたが、あの街が危険な場所である事には違いありません。調査の結果、まだ周辺にキメラが潜んでいる可能性も捨て切れない状況です。よって、一般人があの街で生活することへの許可を今の段階で出すことは出来ません」

 これが悲しい現実といったところか。そんな気持ちを皆が感じたのだろう。街があり、そこに家があって‥‥だけど、帰ることは出来ない。当たり前が当たり前に出来ない、それが今の世界なのだ。

「しかし、これは我々も予想すべき事だと認識し、報酬は満額お支払いします。あと、この依頼の続きについては、コレを各自読んで置いてください」

 そう言って手渡した紙、それは依頼主である老人からの物であった。

『残念ながら、街に戻ることは叶わなかった。しかし、報酬は払ってあるので受け取るように。だが、依頼は完遂出来たわけではないのだから、報酬分の働きはしっかりしてもらう。あの異星人達から、今度はこの星を奪還してもらおう。それが依頼の続きだ』

 どうやら、これが狙っていたクレームだったという事に、この時やっと皆が気がつくことになった。だが、最初の説明の時と同じだった。最後にはまた一文付け加えられていた。

 故郷に戻るのではない、故郷に進みたいのだ、これがその一歩になった。