●リプレイ本文
陽が沈み、空が紅く染まり始めた頃。作戦目標であるビルから遠く離れた場所で、軽い打ち合わせが行なわれていた。話を聞きながら、装備の点検をする者や周囲を監視するもの様々である。そこへ、1台のトラックと小型のバスが到着し、そのトラックとバスから計4名の男達が降りてきた。
「紹介しておきますわ。3階への突入を担当する『牛鬼(ぎゅうき)』のみんなよ」
リナ(gz0440)によると、『牛鬼』というのは、チームの名前らしく、リナがそのチームのリーダーという事だった。チームメンバーは能力者ではなかったが、一般人でもないというのは、誰の目から見ても明らかであった。
「そんで、3階へはヘリか、気球か、壁でもよじ上るか?」
質問しながらも、Nico(
gc4739)はトラックの積荷が怪しいという視線をしている。それに対してリナは、ニコニコと微笑みながら貨物室の扉を開け放つ。
「これを使って突入しますわ」
●開始の合図は『ド派手』に
遠く離れた海上で、ひとつの作戦が進められていた。その作戦の1つの節目の作戦が発動される。
「リーダー、予定通りです。敵護衛艦からの救難信号が出されました」
牛鬼メンバーの1人が、リナへと通信の傍受内容を報告していく。
『偽装ビルにも動きあり。音声送ります‥‥』
斥候として先にビルの監視をしていたメンバーからも報告が入る。どうやら、船からの信号を受け取り、慌しくなったようだ。その一部始終が、集音マイクによる音声通信から伝わってくる。
「作戦の開始条件が全て揃いましたわ。後はよろしくお願いします」
傭兵達を乗せたバスが、ビルに向かって発車する。
煌々と灯りが点るビルの玄関前に、1台のバスが停まり、そこから4人の男女が降り立ち、自動ドアをくぐり受付の前へとやってくる。
「あの、何か御用でしょうか?」
受付に居た女性は、その雰囲気から『普通の客』ではないと感じており、すでに警戒している。さらに畳み掛ける様に、水無月 蒼依(
gb4278)の質問がその警戒を煽る。
「‥‥こちらで、UPCの裏情報が聞けるとお聞きしたのですが‥‥」
それを聞いた受付の女性も、周りに居た者もすぐに客ではないと理解する。その緊張感が弾ける様な空気を察し、奥からも警備員が‥‥いや、その手にはすでに銃が握られており、彼等がただの警備員でないのはすぐにわかる。
ヒュッ! ボォン!
警備兵達の目の前が爆発。戦闘の口火を切ったのは和弓「夜雀」で弾頭矢を射った篠崎 公司(
ga2413)だった。
――2階・3階――
『能力者だ! 総員1階へ降りて来い!』
2階と3階のスピーカーが叫びをあげる。非常事態を告げるアラームと、1階からの指示が重なり、まるでパニックを増長させるかの如くである。しかし彼等とてプロ集団であり、反応する動作は機敏そのものである。
「敵は能力者! 我々に勝機はないと思え! オペレーターは全員3階へ! データの消去を急ぐんだ!」
支部長らしき男が、周囲の者に命令を下していく。しかし、それはすでに逃亡を計るための命令であった。
――牛鬼――
『能力者、ビルに入りました』
「こちらは、すでに出発したわ。突入後3秒で送電カットよろしくね」
大型バイクを一気に加速させる。リナが駈る大型バイクには、1m程の翼の様な物が付いている。しかし、空を飛べるとは思えない‥‥そして、バイクの背後には異形の者が2人。装甲服を纏い、両腕・両肩・両腰に銃器を備えているが、どこか手作り感漂う外見であった。その手から伸びるワイヤーはバイクの後ろに繋がっており、大型バイクに引っ張られる形で走行している様だ。
「いってらっしゃぁ〜い」
突如、バイクの翼が斜めになり、それと同時に急ブレーキが掛けられる。その瞬間、後ろの装甲兵が傾いた翼――これはジャンプ台の役目をしている――を利用して、空へ!
ガッシャーン! ガシャーン!
3階の窓ガラスを突き破り、牛鬼が突入。それに驚いたオペレーター達は固まってしまい、思う壺の状態になってしまう。
タタタタタタン!
装甲兵は、両腕につけた麻酔銃を的確にオペレーターに命中させていき、即座に3階から2階への階段を封鎖しに向かう。
――1階――
『牛鬼、突入。3秒後に消灯するわよ』
リナの通信が、能力者に伝えられてまさに3秒後‥‥。ビルの電気が全て消える。完全な暗闇になるかと思っていた能力者達であったが、予想外の事態が起こる。
「あれ? ちょっと! 明るいよ!」
黒のサバイバルベストを着用し、自身の覚醒変化でさらに闇に溶け込むつもりであったクラフト・J・アルビス(
gc7360)だったが、消えた筈の照明が、青くぼんやり光っている。
「蓄光照明ですか」
電気の通っていないはずの照明が、かすかに光を放っているのを見て本郷 勤(
gc7613)がそう判断する。
「壊せばいいです」
と、言いながらエレナ・ミッシェル(
gc7490)すでに破壊を始めている。暗闇にされても困るとばかりに、警備兵が一斉にエレナに銃口を向ける。
「君達はバグアだから、我々能力者に退治されるのだよ〜」
エネルギーガンが次々と警備兵に命中。覚醒紋章がまるで孔雀の広げた羽の如きドクター・ウェスト(
ga0241)が半狂乱で乱射している。しかし、仲間へと銃口を向けた敵を優先で倒している。
戦闘の前線と思われた玄関フロアから、先に進んだ通路でも唐突に銃声がなり響く。
「邪魔するぜ?」
Nicoが単身、隠密潜行で先に進んでいたのだ。さすがに、通路でそれが敵に発見されてしまい、発砲されるがその弾は空を斬るだけで、警備兵がその場に倒れる。旋風による蹴りが警備兵を一瞬で気絶させたのだ。そのまま、Nicoは通路から玄関フロアで傭兵を足止めしようとする警備兵と、受付(存在的には空気)に向け、死点射を射かけて、一気に道を切り開く。
「行けよ。道はスカスカだぜ?」
Nicoが開けた道を、AU−KVを着たシリウス・ガーランド(
ga5113)が一気に突き進み、そのままさらに先へ突き進む。
「我ならばAU−KVの分装甲と重量がある故に、多少は銃撃にも耐えられよう」
その言葉通り、いやそれ以上に銃弾をものともせず、そのまま一気に道を作る。その道を、Nico、クラフト、エレナが続く。
――牛鬼――
『予備電源の細工も完了よ』
「3階も占拠した。コード類も全て切断完了」
『送電線の切断は役に立たなかったな‥‥』
1人、生身で送電線の切断を行なった牛鬼のメンバーは通信器越しにもわかるくらいにしょげていた。
「2階で現在戦闘中。リーダー頼みます」
『わかったわ。みんな聞いてる? 今からまた暗くなるわよ〜』
――1階――
1階の制圧は順調に進んでおり、2階への階段付近まで進んでいた。しかし、警備兵の数はなかなか減らず、陽動役のドクター、篠崎、水無月、本郷は1階のほぼ中央で、囲まれる形となっており、動けずに居た。落ち着きを取り戻した敵は、煙幕や閃光手榴弾、通路を塞ぐなどの作戦をしつつ、通常弾ではなくゴムスタン弾による妨害をメインで行なって来ていた。
「面倒だね〜」
ドクターが再び乱射モードに入ったその瞬間。
バスン!
とてつもなく鈍い音と共に、ドクターは壁まで吹っ飛ばされる。ドクターは壁に叩きつけられたが、大した怪我もなく、自分の体に張り付いたヒトデのような物を見ながら目を輝かせている。
「新型弾丸か〜、コレは調べてみたいね〜」
時を同じくして、2階への階段前でも新型ライフルの脅威が迫っていた。2階から降りて来た警備兵達の手には、新型ライフルが握られており、次々と能力者に向けられる。
「例の新型ですね」
見たこともないライフルの外見から、エレナが警戒し物陰に身を隠すと、それに続いてNicoやクラフト、シリウスも身を隠す。それに対して敵の攻撃がなされる。
ボスン! ドゴッ! ガン!
まるで鈍器による殴打の様な音が聞こえてくる。壁に当った弾は、その壁を大きく凹ませたり、家具などはポルターガイストの様に宙に舞う。それを見たシリウスは
「貫通力は皆無だが、打撃力のある弾か」
「当ると痛そうですね?」
それにクラフトが感想を述べる。ダメージはなくとも、あの打撃力は脅威である。当れば吹き飛ばされ、無防備な状態で敵の目の前という事も考えられる。しかも、敵は階段の上から攻撃しているので、回避するスペースも乏しい。
『みんな聞いてる? 今からまた暗くなるわよ〜』
リナからの通信からすぐに、消えていた明かりが急に明るくなり‥‥さらに明るくなり‥‥次々と電灯や、周囲にあるパソコンなどが爆発していく。
『予備電源に細工しといたの。暗闇に乗じて一気にいくわよ』
その通信よりも早く、牛鬼も傭兵達も一気に動く。エレナは迅雷で、クラフトは瞬天速で、それぞれが一瞬の隙をついて階段を駆け上がり、上に居た警備兵をなぎ倒す。Nicoはさらに上に居る兵を、シリウスは兵には眼もくれず2階へと駆け上がる。
敵に囲まれていた傭兵達も負けては居ない。光源の確保の為持参したランタンを、本郷が取り出し、わざと目立つように持って走る。暗闇の中で動く灯りを見て、敵はそちらに気を取られる。
ヒュッ! ヒュゥツ!
暗闇の中を、空を斬る音が連続する。篠崎の弓による攻撃だ。銃とは違い、音が小さいのが利点であり、それを利用して自分の位置がバレることなく仕留めていく。
「接近してしまえば、同士討ちを恐れて攻撃できないでしょう」
敵集団の真っ只中に、水無月が斬り込む。その両手の刀が次々と警備兵へと襲い掛かる。しかし全てが峰打ちであり、命の灯火は1つも消してはいない。
「地球の裏切り者だ、気にしてどうする〜」
それとは逆にエネルギーガンと機械剣αで戦うドクターが、水無月の戦い方の甘さを指摘する。とは言うものの、重傷は負わせても必要のない命までは奪っていない。
――2階 武器・弾薬倉庫――
「来たぞ! 撃て!」
2階へと登ってきたシリウスに対して、攻撃‥‥しかし、その銃弾は装甲に傷をつける程度だった。
「抵抗せずば命の保証はできるであろう。刃向かうならば覚悟を決めよ」
恐怖すら覚えるセリフに、兵が一瞬怯む。そして、崩れ落ちる。
「無音で迅速に、だね」
闇に同化した影の如く、クラフトが潜んでおり、怯んだ隙を突いたのだった。
「これで2階も制圧でき‥‥」
敵の背後に回る形であったクラフトだったが、それは敵に後ろを見せる結果ともなっていた。まだ1人残っていたのだ。
バスン!
クラフトが吹っ飛ぶ。新型ライフルによる攻撃だ。とはいえ、武器庫の棚に突っ込んだだけで、大した傷を負っていない。
「‥‥悲鳴が聞きてェ気分だ」
少々遅れてやって来たNicoが暴発を狙って最後の兵のライフルを狙う。
ガキン!
金属音が鳴り響き、ライフルは破壊され、最後の警備兵は両手を上げて降伏した。
―――
ビルの制圧を終えた一行は、一部逃走を許したものの、ほとんどの兵を拘束し、3階の情報機器も無傷で手に入れた事に満足気だった。
「あとはUPCに任せましょう。ちゃんと証拠になるデータもありましたし、もう大丈夫ですわ」
リナが笑顔で伝えると、牛鬼のメンバーはトラックに次々に荷物を‥‥情報機器以外にも2階の武器弾薬を積み込んでいる。なんでも、資金繰りがそれほど余裕もないので、他の作戦の時などに使うそうだ。その中には、例のライフルも含まれていた。
「押収品の弾丸、いくつか回してもらえないかね〜」
それを見たドクターが新型ライフルを指差し、そう願い出る。
「え? これですか?」
リナが新型ライフルと弾丸1ケースをドクターに手渡す。その弾丸ケースには、開発中というシールが貼られていた。
「ありがとうだね〜。あとでUPCに返却はしておくよ〜」
しかし、作戦が完了しても浮かない顔の者もいた。結局は人間同士の争いという現実は、敵がバグアである時とは違う気持ちになるようだ。
「‥‥人同士が争わないですむようにしたいところですね‥‥」
そんな切なさに満ちた水無月の言葉は、誰にも聞こえてはいなかった。今はバグアという敵がいるものの、この戦争に勝利すれば、また人間同士の争いが増えるのだろう。
「みなさんのご協力に感謝致します。報酬の方は後日にはなりますが、必ずお支払い致しますわ。その時に組織の名前もわかってしまうことなので、この時点で名乗っておくようにと指示されてます」
空気を一変させるかの様に、リナが事務的な口調でお礼を述べると、依頼の最後の任務を完了させる。
「私達は『エトセトラ』という一般人の為の一般人による傭兵組織ですわ。戦闘部隊が12部隊あって、私達はその中の『牛』組の『牛鬼』、私はその隊長を務める、アーリナ・ラウーラナマーシナと言います。依頼当初の秘密の保持に関しては、この作戦の情報の漏洩を危惧しての物でした。本当にごめんなさい、誰も信用できない状況でしたもので‥‥。ですが、お陰で無事終わりましたし、みなさんにこうやって名乗る事もできました。今後、もしご一緒することがあれば、またよろしくお願いしますわ。それではお疲れ様でした」