タイトル:船から届く、突撃合図マスター:

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/01 23:31

●オープニング本文


 確か、ここだったはず。集まった皆がそう思っていたかも知れない。

「おかしい‥‥すでに15分過ぎている」

 依頼の説明を受けようと集まった傭兵達の一人が、最前列でそうつぶやいている。もちろん全員そうなのだが、軍人とは違い彼等にはそれほど統制という物がない。すでに、携帯片手に何やらやってる人や、直立不動で待っている者、すでに帰った者もいるかも知れない。

――パタタタタタタ‥‥

 足音が‥‥あれ? 遠ざかって‥‥

パタタタタタ!

 先ほどより急いで戻ってくる。

「あ〜! ここだ、ここだ! 大幅遅刻だ、いやいや、すまない」

 先ほど通り過ぎていった足音の主なのは間違いない。しかし、この男が皆を待たせた人物なのか? 依頼の説明なのだから、てっきりUPCかULTの関係者と思っていたし、例え違っても‥‥少なくとも、この風体はありえない。

「お? なんだ? 何か疑問に満ちた眼差しが突き刺さってくるが」

 理由が解らないと言った感じで、男はキョロキョロしている。問題なのはその姿である。作務衣に雪駄を履いた場違いな格好だからである。しかも、日本人ですらないのだから、疑問符が湧いてくる事間違いない。

「先に説明しとかなきゃいけない件があったんでな。それに関しても、後で少し話すことにはなるがな」

 男は部屋のカーテンを閉め、照明を消すと、部屋に設置してあったプロジェクターのスイッチを入れ、壁に映像を映し始めた。その映像は、小さな雑居ビルを映し出しており、外観上はごく普通のビルではあった。

「これが君達の乗り込む先だ。見てもわからないだろうが、ここはとある組織の支部だ。様々な情報を盗み、それを売買する事をビジネスにしている組織で、扱う情報は具体的には掴めていないが、放置しておくには危険だと思われる。しかしながら、情報を盗んでいるという噂程度であり、政府側は動くことが出来ないでいる。そこで、我々の組織のメンバーが潜入し、まぁスパイだな、その証拠を掴むことは出来た」

 男が少し真顔になり、次の言葉を慎重に選んでいるという風である。カリカリと頭をかく仕草の後、ふっきりれた様子で説明の続きへと戻る。

「このスパイ行為が違法である可能性が濃厚になったため、結局は違法な手段で入手した情報で政府、この場合UPCが動く事はないそうだ。そこで、別の作戦で囮の情報を流し、それで釣れた奴等を襲撃することにした。そして、襲撃の際にわざと通信をさせ、その通信でこの支部が反応を見せれば、それを確証として、我々が乗り込むというのが、この依頼の主幹になる。現行犯的理由での襲撃だな」

 男の説明は、筋は通っているものの、色々細かな点で矛盾していたりする事が多く、不審に思うものも多かった。その空気を察した男もまた、不審がられたままではマズいと思ったのか、慌てて話を変える。

「すまない、詳しい事はまだ言えないが、我々の組織というのは、非政府能力者支援組織だ。政府との関りがほとんどない組織であり、民間寄りの組織だ。本来なら、こういった形で能力者に依頼を出す事もないが、最近は人手が足りなくてな。ULTとの交渉で、これが実現したというわけだ。そして、囮の情報で釣った奴等の襲撃というのが、来た時に言っていた先に説明してきたという件だ。これも、別の能力者諸君の力の借りる事にした」

 連携作戦という程でもないが、別々の場所と目的でほぼ同時に作戦が進行される様だ。不信感は拭えたとは言えないが、それでも先ほどよりは良い空気になったと、男は満足そうである。

「ビルは3階。3階が通信設備を備えたフロアであり、中枢だ。ここは、我々の部隊が襲撃し、データの収集などを行なう。2階は武装した警備兵がおり、武器弾薬などもここにある。1階は普通の会社を装うための受付と、軽武装の兵が事務員のフリをして常駐しているそうだ。襲撃を掛けるのが夜だという事も忘れないような」

 説明しながらプロジェクターの映像を切り替えると、次の映像は襲撃の手順を示した映像であった。まずは1階の受付で、傭兵達に暴れてもらい、2階の武装兵が1階へと降り始めたのを確認した後、3階に組織の部隊が突入するという物であり、これにより2階武装兵に動揺が生まれ、行動が遅れるだろうと予測し、その隙に3階の制圧と1階の制圧を行い、両方から挟み撃ちにする形で2階での戦闘を行なうという内容だ。

「敵さん達の殺害を推奨はしないが、殺したからといって問題もない。我々も手加減はしないつもりだ。とはいえ、軍人崩れ程度の奴等だから、能力者が本気になる必要もないだろう。どういう戦闘をするかは、君達に任せる」

 男の説明はここで終わり、何かを探している。

――ガチャッ

 扉が開くと、差し込んで来た光と一緒に、女性が部屋に入ってきた。部屋がかなり暗いため、よく見えないが、プロジェクターの光が映し出す女性のシルエットは、かなりのプロポーションだと言うのがすぐにわかった。

「これ、必要でしょ?」

 女性が、男に紙の束を渡す。それを受け取った男は、暗い部屋だというのに、説明を聞いていた能力者達に配り始めた。

「その紙には、確認されている武装や、君達に貸し出す装備について書いてある。他にも重要な事がいくから書いてあるから、後で読んでおいてくれ。これで依頼の説明を終わる事にする」

 男の話が終わると、部屋の明かりが付き、元の明るさを取り戻す。その瞬間ほとんどのものが、先ほどの女性の姿に釘付けになった。

―――なぜ、パジャマ!!

 女性は何故か、パジャマ姿であった。

「あっと、自己紹介しますね〜、私の名前は‥‥」
「自重っ!」 ゴツン

 女性が、皆の視線が集まった事を感じて、自己紹介しようとするが、男がゲンコツで頭を叩いて止めてしまう。

「そういったことを話すのはまだ早い! 気をつけろ!」
「あの‥‥私、さっきの人たちに自己紹介しちゃいましたよ?」
「なっ‥‥したのか、お前‥‥」

 叩かれた事にまったく動じない女性は、むしろその言動で男を動揺させてしまった。どうもこの女性はどこかズレているようだ。

「やれやれ、お前は24時間監視が必要だと本気で思うぞ」
「20時間くらいでお願いします」

 大幅にズレているようである。男はため息をつくと、その場を締めくくる様に最後の説明を済ませた。

「単純ではないが、危険は少ない。だが、油断はしないように。作戦時は、オレは同行できないが、ここにいるリナが同行する予定だ。よろしく」

 男が女性の名前を言ってしまった事については、ほとんどの者が気が付いていなかった。そして、リナと呼ばれたパジャマ姿の女性がペコリと挨拶をして、その場は解散となった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
シリウス・ガーランド(ga5113
24歳・♂・HD
水無月 蒼依(gb4278
13歳・♀・PN
Nico(gc4739
42歳・♂・JG
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG
本郷 勤(gc7613
22歳・♂・CA

●リプレイ本文

 陽が沈み、空が紅く染まり始めた頃。作戦目標であるビルから遠く離れた場所で、軽い打ち合わせが行なわれていた。話を聞きながら、装備の点検をする者や周囲を監視するもの様々である。そこへ、1台のトラックと小型のバスが到着し、そのトラックとバスから計4名の男達が降りてきた。

「紹介しておきますわ。3階への突入を担当する『牛鬼(ぎゅうき)』のみんなよ」

 リナ(gz0440)によると、『牛鬼』というのは、チームの名前らしく、リナがそのチームのリーダーという事だった。チームメンバーは能力者ではなかったが、一般人でもないというのは、誰の目から見ても明らかであった。

「そんで、3階へはヘリか、気球か、壁でもよじ上るか?」

 質問しながらも、Nico(gc4739)はトラックの積荷が怪しいという視線をしている。それに対してリナは、ニコニコと微笑みながら貨物室の扉を開け放つ。

「これを使って突入しますわ」

●開始の合図は『ド派手』に
 遠く離れた海上で、ひとつの作戦が進められていた。その作戦の1つの節目の作戦が発動される。

「リーダー、予定通りです。敵護衛艦からの救難信号が出されました」

 牛鬼メンバーの1人が、リナへと通信の傍受内容を報告していく。

『偽装ビルにも動きあり。音声送ります‥‥』

 斥候として先にビルの監視をしていたメンバーからも報告が入る。どうやら、船からの信号を受け取り、慌しくなったようだ。その一部始終が、集音マイクによる音声通信から伝わってくる。

「作戦の開始条件が全て揃いましたわ。後はよろしくお願いします」

 傭兵達を乗せたバスが、ビルに向かって発車する。

 煌々と灯りが点るビルの玄関前に、1台のバスが停まり、そこから4人の男女が降り立ち、自動ドアをくぐり受付の前へとやってくる。

「あの、何か御用でしょうか?」
 受付に居た女性は、その雰囲気から『普通の客』ではないと感じており、すでに警戒している。さらに畳み掛ける様に、水無月 蒼依(gb4278)の質問がその警戒を煽る。

「‥‥こちらで、UPCの裏情報が聞けるとお聞きしたのですが‥‥」

 それを聞いた受付の女性も、周りに居た者もすぐに客ではないと理解する。その緊張感が弾ける様な空気を察し、奥からも警備員が‥‥いや、その手にはすでに銃が握られており、彼等がただの警備員でないのはすぐにわかる。

ヒュッ! ボォン!

 警備兵達の目の前が爆発。戦闘の口火を切ったのは和弓「夜雀」で弾頭矢を射った篠崎 公司(ga2413)だった。

――2階・3階――

『能力者だ! 総員1階へ降りて来い!』

 2階と3階のスピーカーが叫びをあげる。非常事態を告げるアラームと、1階からの指示が重なり、まるでパニックを増長させるかの如くである。しかし彼等とてプロ集団であり、反応する動作は機敏そのものである。

「敵は能力者! 我々に勝機はないと思え! オペレーターは全員3階へ! データの消去を急ぐんだ!」

 支部長らしき男が、周囲の者に命令を下していく。しかし、それはすでに逃亡を計るための命令であった。

――牛鬼――

『能力者、ビルに入りました』
「こちらは、すでに出発したわ。突入後3秒で送電カットよろしくね」

 大型バイクを一気に加速させる。リナが駈る大型バイクには、1m程の翼の様な物が付いている。しかし、空を飛べるとは思えない‥‥そして、バイクの背後には異形の者が2人。装甲服を纏い、両腕・両肩・両腰に銃器を備えているが、どこか手作り感漂う外見であった。その手から伸びるワイヤーはバイクの後ろに繋がっており、大型バイクに引っ張られる形で走行している様だ。

「いってらっしゃぁ〜い」

 突如、バイクの翼が斜めになり、それと同時に急ブレーキが掛けられる。その瞬間、後ろの装甲兵が傾いた翼――これはジャンプ台の役目をしている――を利用して、空へ!

ガッシャーン! ガシャーン!

 3階の窓ガラスを突き破り、牛鬼が突入。それに驚いたオペレーター達は固まってしまい、思う壺の状態になってしまう。

タタタタタタン!

 装甲兵は、両腕につけた麻酔銃を的確にオペレーターに命中させていき、即座に3階から2階への階段を封鎖しに向かう。

――1階――

『牛鬼、突入。3秒後に消灯するわよ』

 リナの通信が、能力者に伝えられてまさに3秒後‥‥。ビルの電気が全て消える。完全な暗闇になるかと思っていた能力者達であったが、予想外の事態が起こる。

「あれ? ちょっと! 明るいよ!」

 黒のサバイバルベストを着用し、自身の覚醒変化でさらに闇に溶け込むつもりであったクラフト・J・アルビス(gc7360)だったが、消えた筈の照明が、青くぼんやり光っている。

「蓄光照明ですか」

 電気の通っていないはずの照明が、かすかに光を放っているのを見て本郷 勤(gc7613)がそう判断する。

「壊せばいいです」

 と、言いながらエレナ・ミッシェル(gc7490)すでに破壊を始めている。暗闇にされても困るとばかりに、警備兵が一斉にエレナに銃口を向ける。

「君達はバグアだから、我々能力者に退治されるのだよ〜」

 エネルギーガンが次々と警備兵に命中。覚醒紋章がまるで孔雀の広げた羽の如きドクター・ウェスト(ga0241)が半狂乱で乱射している。しかし、仲間へと銃口を向けた敵を優先で倒している。
 戦闘の前線と思われた玄関フロアから、先に進んだ通路でも唐突に銃声がなり響く。

「邪魔するぜ?」

 Nicoが単身、隠密潜行で先に進んでいたのだ。さすがに、通路でそれが敵に発見されてしまい、発砲されるがその弾は空を斬るだけで、警備兵がその場に倒れる。旋風による蹴りが警備兵を一瞬で気絶させたのだ。そのまま、Nicoは通路から玄関フロアで傭兵を足止めしようとする警備兵と、受付(存在的には空気)に向け、死点射を射かけて、一気に道を切り開く。

「行けよ。道はスカスカだぜ?」

 Nicoが開けた道を、AU−KVを着たシリウス・ガーランド(ga5113)が一気に突き進み、そのままさらに先へ突き進む。

「我ならばAU−KVの分装甲と重量がある故に、多少は銃撃にも耐えられよう」

 その言葉通り、いやそれ以上に銃弾をものともせず、そのまま一気に道を作る。その道を、Nico、クラフト、エレナが続く。

――牛鬼――

『予備電源の細工も完了よ』
「3階も占拠した。コード類も全て切断完了」
『送電線の切断は役に立たなかったな‥‥』

 1人、生身で送電線の切断を行なった牛鬼のメンバーは通信器越しにもわかるくらいにしょげていた。

「2階で現在戦闘中。リーダー頼みます」
『わかったわ。みんな聞いてる? 今からまた暗くなるわよ〜』

――1階――

 1階の制圧は順調に進んでおり、2階への階段付近まで進んでいた。しかし、警備兵の数はなかなか減らず、陽動役のドクター、篠崎、水無月、本郷は1階のほぼ中央で、囲まれる形となっており、動けずに居た。落ち着きを取り戻した敵は、煙幕や閃光手榴弾、通路を塞ぐなどの作戦をしつつ、通常弾ではなくゴムスタン弾による妨害をメインで行なって来ていた。

「面倒だね〜」

 ドクターが再び乱射モードに入ったその瞬間。

バスン!

 とてつもなく鈍い音と共に、ドクターは壁まで吹っ飛ばされる。ドクターは壁に叩きつけられたが、大した怪我もなく、自分の体に張り付いたヒトデのような物を見ながら目を輝かせている。

「新型弾丸か〜、コレは調べてみたいね〜」

 時を同じくして、2階への階段前でも新型ライフルの脅威が迫っていた。2階から降りて来た警備兵達の手には、新型ライフルが握られており、次々と能力者に向けられる。

「例の新型ですね」

 見たこともないライフルの外見から、エレナが警戒し物陰に身を隠すと、それに続いてNicoやクラフト、シリウスも身を隠す。それに対して敵の攻撃がなされる。

ボスン! ドゴッ! ガン!

 まるで鈍器による殴打の様な音が聞こえてくる。壁に当った弾は、その壁を大きく凹ませたり、家具などはポルターガイストの様に宙に舞う。それを見たシリウスは

「貫通力は皆無だが、打撃力のある弾か」
「当ると痛そうですね?」

 それにクラフトが感想を述べる。ダメージはなくとも、あの打撃力は脅威である。当れば吹き飛ばされ、無防備な状態で敵の目の前という事も考えられる。しかも、敵は階段の上から攻撃しているので、回避するスペースも乏しい。

『みんな聞いてる? 今からまた暗くなるわよ〜』

 リナからの通信からすぐに、消えていた明かりが急に明るくなり‥‥さらに明るくなり‥‥次々と電灯や、周囲にあるパソコンなどが爆発していく。

『予備電源に細工しといたの。暗闇に乗じて一気にいくわよ』

 その通信よりも早く、牛鬼も傭兵達も一気に動く。エレナは迅雷で、クラフトは瞬天速で、それぞれが一瞬の隙をついて階段を駆け上がり、上に居た警備兵をなぎ倒す。Nicoはさらに上に居る兵を、シリウスは兵には眼もくれず2階へと駆け上がる。
 
 敵に囲まれていた傭兵達も負けては居ない。光源の確保の為持参したランタンを、本郷が取り出し、わざと目立つように持って走る。暗闇の中で動く灯りを見て、敵はそちらに気を取られる。

ヒュッ! ヒュゥツ!

 暗闇の中を、空を斬る音が連続する。篠崎の弓による攻撃だ。銃とは違い、音が小さいのが利点であり、それを利用して自分の位置がバレることなく仕留めていく。

「接近してしまえば、同士討ちを恐れて攻撃できないでしょう」

 敵集団の真っ只中に、水無月が斬り込む。その両手の刀が次々と警備兵へと襲い掛かる。しかし全てが峰打ちであり、命の灯火は1つも消してはいない。

「地球の裏切り者だ、気にしてどうする〜」

 それとは逆にエネルギーガンと機械剣αで戦うドクターが、水無月の戦い方の甘さを指摘する。とは言うものの、重傷は負わせても必要のない命までは奪っていない。

――2階 武器・弾薬倉庫――

「来たぞ! 撃て!」

 2階へと登ってきたシリウスに対して、攻撃‥‥しかし、その銃弾は装甲に傷をつける程度だった。

「抵抗せずば命の保証はできるであろう。刃向かうならば覚悟を決めよ」

 恐怖すら覚えるセリフに、兵が一瞬怯む。そして、崩れ落ちる。

「無音で迅速に、だね」

 闇に同化した影の如く、クラフトが潜んでおり、怯んだ隙を突いたのだった。

「これで2階も制圧でき‥‥」

 敵の背後に回る形であったクラフトだったが、それは敵に後ろを見せる結果ともなっていた。まだ1人残っていたのだ。

バスン!

 クラフトが吹っ飛ぶ。新型ライフルによる攻撃だ。とはいえ、武器庫の棚に突っ込んだだけで、大した傷を負っていない。

「‥‥悲鳴が聞きてェ気分だ」

 少々遅れてやって来たNicoが暴発を狙って最後の兵のライフルを狙う。

ガキン!

 金属音が鳴り響き、ライフルは破壊され、最後の警備兵は両手を上げて降伏した。

―――

 ビルの制圧を終えた一行は、一部逃走を許したものの、ほとんどの兵を拘束し、3階の情報機器も無傷で手に入れた事に満足気だった。

「あとはUPCに任せましょう。ちゃんと証拠になるデータもありましたし、もう大丈夫ですわ」

 リナが笑顔で伝えると、牛鬼のメンバーはトラックに次々に荷物を‥‥情報機器以外にも2階の武器弾薬を積み込んでいる。なんでも、資金繰りがそれほど余裕もないので、他の作戦の時などに使うそうだ。その中には、例のライフルも含まれていた。

「押収品の弾丸、いくつか回してもらえないかね〜」

 それを見たドクターが新型ライフルを指差し、そう願い出る。

「え? これですか?」

 リナが新型ライフルと弾丸1ケースをドクターに手渡す。その弾丸ケースには、開発中というシールが貼られていた。

「ありがとうだね〜。あとでUPCに返却はしておくよ〜」

 しかし、作戦が完了しても浮かない顔の者もいた。結局は人間同士の争いという現実は、敵がバグアである時とは違う気持ちになるようだ。

「‥‥人同士が争わないですむようにしたいところですね‥‥」

 そんな切なさに満ちた水無月の言葉は、誰にも聞こえてはいなかった。今はバグアという敵がいるものの、この戦争に勝利すれば、また人間同士の争いが増えるのだろう。

「みなさんのご協力に感謝致します。報酬の方は後日にはなりますが、必ずお支払い致しますわ。その時に組織の名前もわかってしまうことなので、この時点で名乗っておくようにと指示されてます」

 空気を一変させるかの様に、リナが事務的な口調でお礼を述べると、依頼の最後の任務を完了させる。

「私達は『エトセトラ』という一般人の為の一般人による傭兵組織ですわ。戦闘部隊が12部隊あって、私達はその中の『牛』組の『牛鬼』、私はその隊長を務める、アーリナ・ラウーラナマーシナと言います。依頼当初の秘密の保持に関しては、この作戦の情報の漏洩を危惧しての物でした。本当にごめんなさい、誰も信用できない状況でしたもので‥‥。ですが、お陰で無事終わりましたし、みなさんにこうやって名乗る事もできました。今後、もしご一緒することがあれば、またよろしくお願いしますわ。それではお疲れ様でした」