タイトル:目が覚めた、その日からマスター:

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/05 03:11

●オープニング本文


「ごめんね、お母さん達の分まで頑張るのよ」
「お前が大きくなったら、素敵な嫁さん見つけるんだぞ」

 夫婦が子供を強引に小船の上の箱へと押し込む。その夫婦の遠く後ろには、体長1m程のナメクジの様なキメラが無数に迫っていた。そして、その中に一匹だけ黒い個体が混ざっていた。黒いキメラの触角から、ひどい匂いのする液体が夫婦に目掛け飛ばされる。

ビシャ!

 夫婦が子供の壁となり、その液体を被る。その途端、他のキメラ全てが夫婦の方へと向かってくる。

「辛いけど、頑張るのよ」
「元気でな」
「イヤだ! 一緒に」

 少年の言葉が終わる前に、視界は暗く閉ざされてしまう。少年は泣き叫ぶが、外にその声が届く事はなかった。

――それから、数十時間後‥‥

 緩やかな流れで絶える事なく、恵みの水を紡ぎ続け大地を潤す優しく雄大な大河。時にその流れは様々な物を運んでくる。この日もまた、運ばれる。優しく強い母を、厳しく大らかなる父をなくした少年が

「おい! こっちに来てくれ!」

 兵士が川原に流れついた小船と、そこに積まれた大きく頑丈な箱を見つけて叫んでいた。その声を聞きつけ、数人の兵士が集まってきた。そして、その箱を慎重に開けると、そこには一人の少年が眠っていた。あまりに辛く、あまりに長い暗闇は、少年の体力を奪い、深い眠りへと落としていた。兵士達が少年を優しく抱き上げ、無骨なヘリへと運び込んだ。少年の入っていた箱には、大きな赤い文字で『助けて』と書かれていた。

―――――――――――――――――

 目が覚めた少年は、言葉を失いただ静かに泣くだけだった。しかし、全ての事情は周知の事実であった。少年の生まれ育った村は、川のはるか上流。その村の近くにキメラプラントが発見されたのが、少年が流されたどり着く一週間前。発見した時点で、UPCへとその情報は伝えられたものの、村からの避難を指示するに止まっていた。だが、その指示が村に届く事はなく、通信障害によるノイズだけが村へと届いていたのだ。村人たちは、きっと救助がくると信じて‥‥ただ、待ち続けていた。最後のその日まで。そして最後の日、少年の親は子供だけでも助けようと、小船で少年を逃がしたのだ。自分達を囮にして‥‥。

 キメラプラントが生み出したキメラは、脆弱極まる物であったが、なんの力も持たない人間にとっては成す術の無い相手に変わりなかった。そして、キメラプラントは生み続けた‥‥まるで、川の流れのように‥‥そして、流れは村を覆い尽くし‥‥

 救助を求めた村が、実際にどうなったのかは誰も知らない。だが、発見されたプラントの映像は誰もが同じ最悪の事態を想像させた。そのプラントには一台のジャミング装置らしきものが連結されていた。通信障害があったのは、プラントの起動を示す現象だったのだ。起動したプラントがやることは一つ、その後に起こった事も想像は容易い。容易いだけに、それは誰も口に出さない。

「今は、通信妨害のノイズはないが、一体どうなっているんだろうな」

 少年を助けた兵士の一人が、ぼそっとつぶやく。その傍らに居た別の兵士もまた、同じ日同じ場所で少年を助けた一人であった。

「さぁな‥‥だが、村を襲ったキメラが山から下りてきたって話は聞かないな。ジャミングも消えてるし、プラントは今は停止してるってのが専門家の見方‥‥らしいな」

 面白くも無い、と言った風に二人の兵士はため息をつく。本当に何も出来なかったのか?今も何も出来ないのか?そんな思いが二人の胸を、重く重く締め付けてした。

「俺達に何か出来ないもんかな?」
「あの子の願いを叶えるってか?俺達は兵士で、神様じゃねぇよ」
「俺達にムリでも、能力者なら‥‥」
「あの子の願い次第だな」
「聞くだけ聞いてみるか。タダってわけに行かないが‥‥」

 二人の兵士は、休日を利用して少年に会いに行くことにした。その途中、彼等は幸運とも言える話を小耳に挟んだ。UPCがプラントの現状調査と破壊を行なう事にしたらしく、それに伴って村へ降下し生存者の捜索も行なうとの事だった。もちろん、村にはキメラが居る事が予測されたため、その役目は傭兵達が担う事になっていた。これを利用できれば良いのだが‥‥兵士達はそう考えながら、少年の待つ病室へと入っていった。
その後、兵士達は少年からの願いが書かれた紙を持ち、ULTへと足を運んだ。その目的は、その紙に書かれた『少年の願い』を依頼に追加してもらうためだった。その内容とは、『一晩だけでもいいから家で眠りたい』という内容であった。言葉を失ってしまった少年が、子供らしい自分の字で綴った文章がそのままの形で依頼の書類に添えられる事になり、兵士二人についてもまた、オペレーターの口から伝えられる事となった。

●参加者一覧

秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
月居ヤエル(gc7173
17歳・♀・BM
黒羽 拓海(gc7335
20歳・♂・PN
月野 現(gc7488
19歳・♂・GD

●リプレイ本文

●これが最後の日

バリバリバリ!!

 ヘリのローター音が、耳を劈く爆音を轟かせている。その横を爆撃機が数機横切って行き、別々の方向へと飛び去って行く。作戦は開始された。ヘリの搭乗者は、パイロットの他に通信兵が1人、傭兵が8人、そして生き残りの少年であった。通信兵が後部に乗っている傭兵達にスピーカーを通して話しかける。

「ここが、その子の村だ。ここから降下してくれ」

 ヘリから身を乗り出して下を確認すると、下には学校の様な施設の屋上が迫っている。

「‥‥思っていた程。酷い光景には見えませんね」

 最初に屋上に降りた秦本 新(gc3832)は、村の建物が破壊されていない状況を見て、少し怪訝な顔をした。襲われた街や村を幾つも見ており、破壊され尽くした光景など見たくもないが、何かこの光景も異様極まる物に映って見えた。

「危ないですから、私にしがみついて居て下さいませ」

 最後に降りたのは、覚醒した状態で少年を背負ったリュティア・アマリリス(gc0778)だった。無事に降り立つと、少年を背中から降ろし、自分の装備をヘリの通信兵に投げ下ろしてもらい準備を整える。

ズズズズゥ‥‥‥

 その直後、少し離れた場所から爆発音と、地響きが伝わってくる。UPCの爆撃機によるキメラプラント破壊作戦が行なわれたのだろう。だが、これで敵が消えた訳ではない。

 双眼鏡で黒煙の上がるのを確認し、気合を入れて戦闘体勢に入っているのは、赤槻 空也(gc2336)だ。彼もまた、過去に少年と似た様な経験をしている為、自分と少年を重ねてしまいがちになっている。他の傭兵達にしても、少年の境遇と心境は理解できないというよりは、身近に感じる物でもあり、感情的になりがちな様子である。

――まるで、時間が止まった村

 静まり返る村はそんな雰囲気であった。出くわすキメラも、ナメクジの様なキメラであり、動きも遅く足音がない。攻撃も消化液を飛ばしてくる程度なので、無音に近い攻撃である。

(足音がないと奇襲が怖いものね)

 キメラから飛ばされた消化液を鉄扇で防ぎ、月居ヤエル(gc7173)はクーシーで敵を八つ裂きにしていく。予測されていたキメラの数からすると少なすぎる。住人が逃げられなかった程なのだ。この程度の数のはずがない。その疑問に対する答えは、UPCからの通信で判明することになる。

「爆撃は成功した。だが、その村の外に夥しい数のキメラが徘徊しているのが見える。薄気味悪い光景だ‥‥気をつけろよ」

 爆撃を終えたパイロットからの通信であった。村には既に食料になるものがない‥‥そういう事なのだろう。

「まぁ、報酬として出ている以上、蔑ろにする訳にもいかないんだが‥‥」

 秋月 九蔵(gb1711)は、キメラの討伐には賛成だが、少年を同行させることには、不安を感じざるを得ないでいた。少年もいくばくかの生存者‥特に自分の両親が生きているという希望は持っているかも知れない。それを自分の目で見て、答えを出さなければいけないわけだから‥‥辛いだろう。

「ここか? おまえの家‥‥ってのは?」

 少年の護衛役を買って出た一人、月野 現(gc7488)が少年の指差す一軒の家を見る。もう一人の護衛役である、リュティアと二人で家の安全確認を始めた。

「さっそく、一匹目ね」

 玄関扉の前に、一匹の小さめのナメクジキメラが転がっていた。生きてはいるのだが、こちらを襲う力すら残っていないのか、まったく反応がなかった。

コツン!コンコン!

 小石がナメクジキメラのFFにより跳ね返される。リュティアと月野が振り返ると、少年が泣きそうな顔で石を投げていたのだ。やはり少年の心にも、闇が巣食っているということだろう。自分の親を、自分をこんな目に遭わせた憎い敵を許せないのは当然だ。普通のキメラでもこうなのだから、群を指揮しているとされ、少年の親を狙うようし仕向けた黒いナメクジキメラには、どれほどの想いがあるのだろうか‥‥。とりあえずは少年を落ち着かせると、月野が少年の目の前でキメラを退治して見せた。それを見た少年の目からは、先ほどよりも多くの涙が流れ落ちていた。


「そこか」

 足を踏み入れた民家で、最初から判っていたかのように硬鞭で天井に張り付くキメラを突き上げる。赤木・総一郎(gc0803)は探査の眼を使い、隠れたキメラを探りながら住居内を捜索して居たが、生存者も遺体も見つける事は出来ていなかった。

 一方、屋外を重点的に捜索していた班には、収穫があった。

「日陰ばかり選んで移動しているのか」

 地面を這い回った跡が残るナメクジキメラ、その後を辿って討伐を行なっていた黒羽 拓海(gc7335)は、その跡が日陰になるところばかりに残っているのに気がついた。これにより、キメラの発見が容易くなり、時間は大幅に短縮されることになる。

●小人の靴屋

 夕方頃、村のキメラの討伐もほぼ終わり、面々が少年の家に戻って来ていた。

パチパチパチ‥‥‥‥

 少年の家の隣が空き地で、焚き火が焚かれている。その焚き火の世話をしながら、赤槻と、黒羽が向かい合って屈んでいる。

「俺‥思うンすよ‥‥アレが少年の本音じゃねーって」

 赤槻がうつむきながら、独り言のようにつぶやく。黒羽もそれに応える様につぶやきはじめる。

「一晩だけでもいいから家で眠りたい、か‥‥。彼は何を思って願ったのか‥‥」

 何をして良いのかも解らない。そんなジレンマや、無力感に苛まれつつある空気である。

「ご両親を殺されているんだし、本当のお願いって、家で眠るだけじゃないのかなって思うけど‥‥」

 二人に月居が話しかける。このまま少年が眠り、朝を迎え、帰る‥それだけで終わるなら、なんと簡単な依頼だったことだろう。それで満面の笑みの少年の顔が見られるとは、到底思えない。

 少年と一緒の食卓で、リュティアと月野が食事をしていた。二人が両親役なのかも知れないが‥‥そういう雰囲気でもない様子だ。言葉を発する事を忘れた少年にかけられる言葉も少ない。会話に努めようとしても、少年からは頷きや、首を横に振る仕草が返ってくるだけである。

(こんな世界でなかったら、親と一緒に食事をするなんて当然の権利なんだろうな‥‥)

 会話になりそうな話題を見つけられずに居た月野は、黙々とサンドイッチとホットミルクを口に運ぶ少年を見つめながら、そんな事を考えていた。リュティアはというと、少年が自分の用意してきた食事を食べてくれている事が嬉しく、終始笑顔ではあった。けれど、考えている事は外の3人や月野と似たようなものであった。

「美味しいですか?」
(この子の笑顔は見られないのかしらね‥‥)

 リュティアの問いかけにも、少年は軽く頷くだけだった。そのやり取りを、窓の外で待機している、赤木と秋月が聞いていた。二人は黙ったままではあったが、武器を握る手に力入っている‥‥。同じなのだ。この場に居る全員が。

 食事が終わった頃、月野が少年を寝室につれていき、リュティアは仲間の為に用意した食事を配っていた。配り終えたリュティアが寝室にいくと、月野が戸惑った表情でベッドの横に座っているのが眼に入る。月野は戻ってきたリュティアに一冊の絵本を渡し

「リュティアさん、すまないが少年のそばに居てくれないか? こんな時は女性の方が落ち着けるだろう」

 そう言われてリュティアが渡された絵本を見ると、その題名は『小人の靴屋』であった。

――小人と靴屋――
 靴屋の店主が眠っている間に、小人達が代わりに靴を作るというお話。小人達は店主に見つからないように一生懸命朝まで働くのだ。しかも、店主は靴を作るのが下手だったが、小人達の作る靴は素晴らしく、店頭に並べるや否や飛ぶように売れた。そして、店主はそのお陰で貧乏な靴屋から、人気の靴屋となり幸せに暮らした。

 部屋の外で聞いていた泰本は、その絵本を選んだ意味を理解する。

「私には‥‥、君がどんなに辛いかは分からない。だが、君の幸せの邪魔になるだろう、ご両親の仇は‥‥私達が討ってやる。だから、頑張れ」

 誰に聞こえるでもない、独り言だ。そして、泰本は足音を立てないように家の外へと足を進める。

 絵本を読む声は、優しく響き、外にまで届いていた。

「餓鬼の子守より、そっちの方が性にあってそうだな」

 そう言うと、秋月は隣の空き地へ。赤木もゆっくりと力強く後を追う。独り言のようにつぶやきながら

「大人の‥いや、小人の仕事は、靴屋の主の未来を切り開くことだ」

 秋月、赤木、泰本が空き地へ。赤槻、月居、黒羽の3人もすでに準備は出来ている様だった。そこへ、月野が顔を出す。それを見た黒羽は

「あの子を頼む」

 そう静かに頼んだ。

「何かあれば連絡を頼む」

 続けて赤木は全員にそう頼むと、焚き火を消す。

「少年の寝ている間に働く小人役ですね」

 絵本が意味していたのは、少年の寝ている間に、仇討ちをするという事だ。

「あの少年の為にやれることをやってやろう」

 月野の言葉が合図となり、小人達の仕事が始った。

――村の外 泰本・黒羽班

 AU−KVミカエルを纏った泰本は、次々とナメクジキメラの息の根を止めていく。鈍重なキメラ相手ならば、余裕である。

「やはり数が多いな」

 どれだけの数が居るのか、次々と集まってくる。

「邪魔だ」

 二本の小太刀が、ナメクジキメラの群の中で一瞬閃く。そして、群は一瞬で骸の群と成り果てる。

「私達の方は順調です。ですが、黒い奴は見当たらない。そちらは?」

 泰本が通信機で、赤槻・月居班に連絡を入れる。通信機から聞こえてきたのは、月居の声だった。

「同じです。ただ、赤槻さんが‥」
「オレは大丈夫っス‥‥お、えぇ‥‥」

 すぐに赤槻からの返答があったものの、様子がおかしい。ただ、自分の過去と今の状況が重なり、トラウマによる発作が起きてしまっていたのだ。

「赤槻さん! 黒いのが現れました!」

 月居の叫ぶ声が通信機を通して、泰本と黒羽の元に響く。

――秋月 そして、赤木

 単独で村の外へと向かった秋月だったが

「如何にザコが相手とはいえ、独りでの戦いは危険だ」

 と、言う赤木の忠告を受け入れ、二人で行動していた。そして、赤木の持つ通信機にも、先ほどのやりとりは届いていた。秋月は、月居と赤槻の居る場所へと行こうとしたが、簡単には行けそうにもなかった。彼等の前にもまた、無数のナメクジキメラが大挙して押し寄せていたからだ。

「ハッハー、トリガーハッピーだ…派手に行くぜ!」

 秋月は制圧射撃を繰り出すが、その弾数を優に超える数のキメラには焼け石に水状態であった。攻撃が止むの好機と睨んだのか、一層数の増えたナメクジキメラが、今度は一斉に秋月に消化液を吐きかける!

シュゥゥゥゥ‥‥

 飛び散った消化液が、当り一面の草木を溶かし、白い煙が包む。風が吹き、煙が晴れると、そこにはプロテクトシールドを構え、秋月の盾になる赤木の姿があった。すでに不屈の盾により防御力も抵抗力もあげて居た赤木だったが、一枚の盾で無数の消化液を防ぎきるのは無理だったようだ。飛び散った消化液の一部が、肌を焼いていた。

「おまえも武器を換えろ」

 赤木は硬鞭を取り出すと、そのままキメラの群と突っ込んでいく。この数相手だと、弾数に物を言わせるような銃器でなければ無理だ。秋月もまた、即座に銃を仕舞うと、イアリスを構え、赤木とは違う方向へと叫びながら突っ込んでいく。

「さぁ、パーティーの仕切りなおしだ!」

●夜と黒、そして朝

「赤槻さん、立って下さい!」

 強い口調で月居は赤槻に檄を飛ばす。しかし、近づくことは出来ず、声を掛けるしか出来なかった。黒いナメクジキメラを睨む赤槻の様子が変わる。

(あの黒い奴が‥‥アノ子の‥‥)
「‥‥ぉぁあああッ!‥‥アノ子の代わりにィ‥!ブッ潰す!喰らえよ鉄拳!」

 黒いキメラへとその怒りの矛先を向ける。しかし、それに対し、黒キメラは液を吐き出した。そう、少年の親を死に追いやることになった、あの匂い液だ。

バシャ!

 それを避けずに赤槻は被る。少年のトラウマを、そして自分のトラウマを乗り越える為に――
 
 キメラの群の中に走りこんで行く赤槻を援護する為、月居も走りこんで行く。次々と飛んでくる消化液を、赤槻はアフェランドラで防ぎ、月居は見事なステップでかわしていく。これに黒キメラは、危険を感じたのか、急に岩陰へと転がるようにして逃げ出したのだ。しかし

「逃がさん」

 突如、黒羽が立ちはだかる。迅雷の連続使用で駆けつけたのだ。そして、迅雷による踏み込みと助走、さらに刹那による居合いで斬り込む。

「鬼剣・瞬獄‥」

 完全に決まったかに見えた攻撃だったが、黒羽の攻撃を致命傷に至る事なく防ぐ。しかし、そこにさらに追撃が

「まだ続きますよ」

 泰本もまた、竜の翼で駆けつけていた。黒羽の攻撃で空中に弾き飛ばされた黒キメラに、竜の咆哮を乗せた和槍「鬼火」が叩き込まれる。これは防ぎきれず、大きく弾き飛ばされた。赤槻と月居の方向へと

「喰らいやがれ!」
「たぁぁぁ!」

 二人同時攻撃。赤槻の急所突きの一撃と月居の跳躍からのクーシーによる蹴り。

グシュゥッ!

 黒キメラは、体液を撒き散らしながら潰れ弾ける。その液は、群を操るための匂い液であり、それが飛散したため、群はパニックとなり統制を失っている。こうなれば、もはやただの動く的である。遠くに居たキメラも、徐々に集まっては来たが、匂いに近寄れば近寄るほど、混乱に陥っていく。

●新しい朝

 少年は、朝日の眩しさで目が覚める。ベッドの横には、リュティアが微笑みながら座っており、少年の目覚めを歓迎していた。

「おはようございます。良く眠れました?」

 少年はその問いかけに、軽く頷く。

「目が覚めたか、ちょっとカーテンの外見てみろよ」

 部屋の隅で立っていた月野が、朝日が漏れるカーテンを指差し、開けるように促す。少年は言われるままにカーテンを開ける――そこに見えたのは

 服がボロボロになった 秋月 九蔵
 満足げな笑顔を見せる 赤木・総一郎
 包帯や絆創膏だらけの 赤槻 空也
 赤槻の応急処置をする 月居ヤエル
 唯一無傷の雄姿で立つ 秦本 新
 少年の視線に気がつく 黒羽 拓海
 そして、山高く詰まれたナメクジキメラの死骸の山であった。その一番上には、かろうじて形の残っている真っ黒なナメクジキメラが見えた。そして、枕の横の絵本の最後のページ、そこにはこう締めくくられていた。

『小人のお陰で、靴屋の主人はずっとずっと幸せに暮らせましたとさ』

 その語、迎えのヘリに乗って帰還した一同であったが、来る時とはまったく違う雰囲気であった。そして話し声も、来るときより1つ多くなっていた。それが一番の違いだったかも知れない。