タイトル:【LP】千米橋奪還戦マスター:火灰

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/23 10:48

●オープニング本文


 中国は広い。この広大な土地の一箇所で大きく勝利したとしても、残る場所でも勝たなければ大勢は動かない。戦争の勝利だけではなく、補給拠点の維持や市民の不安の解消と、UPCの為すべき事は多岐に渡っている。
「‥‥で、手が足りない、‥‥と言う事ですか」
 状況を確認した孫少尉がため息をつく。穴埋めや何でも屋として使われる孫少尉の隊を当ててもなお、数自体が不足する事も多々あった。
「ラストホープへ連絡してください。手は早いうちに打たないといけない」
 今は、攻めるべき時。力の出し惜しみをする余裕は、無い。

 私、紅馬・家豪は天津市を通る運河の一つ、潮白新河にかかる橋の一つを通ろうとしていた。私達の部隊は装甲車1台と軍用トラック3台、バイク2台の編成。このまま、橋の先にある集落に物資の運搬を兼ねた、キメラ征伐の拠点設置、それが我々の任務である。
 橋に後、数分で着くとき、先行してバイクに乗って走っていたの王からの通信が入る。
「銃声がしました、注意‥‥」
 それを混じる銃弾の小さな音。それに続く、倒れる音が半分、そして無線機が振動することで生じる異常音。
「どうした、王二等兵。応答せよ、応答せよ」
「紅馬伍長、如何なさいましたか」
 隣で運転していた李二等兵がこちらを向いた。
「どうやら敵襲だ。任務変更、物資運搬のトラック2台は荷の安全のために一時帰還。無線連絡は行うが、念のために金一等兵、伝令も頼む。そして、残りの部隊は、襲撃を受けた王の救出と強行偵察を行う」
 私は命令した後、無線で敵襲来を連絡。雑音の多いそれに不安を覚えつつ、一気に橋を渡ろうとする我々。その時に目に飛び込んだのは、一頭の山羊。わき腹には長細い棒が、いや、あれは銃身だ、それが突き出ている。
「攻撃準備!」

 ここは天津市にある仮設のテント。そこにあるのは中年男性一人。彼は、ラストホープまで報告する時間がない緊急事態に備えて本部から派遣された職員だ。彼のデスクの上には山となって詰まれた様々な書類。色とりどりの紙切れがサンドイッチからはみ出した食材を思わせる。
 説明者は、傷一つない、しかし、くまが目立つ顔を君達に向けた。数が揃ったな、と独り言の後、口を開く。
「奇妙なキメラの群れと軍の部隊が交戦中です。現在、対応している部隊の火力と能力が高いお陰で、何とか戦線は保たれていますが、なにぶん、キメラの個体数が多いのと、その‥‥特殊性で、このままでは事態は悪化するのは必須。すぐに向かってください」
 そういいながら、報告書を確認する。
「キメラは山羊にライフルを背負った、または突き刺したような姿です。兵士の装備でも何とか倒すことが出来ますので、キメラ一体を倒すのは容易でしょう。ただ、一発の威力は能力者にとってはかすり傷程度です。が、射程は800mで、接近が難しいことこの上ない。個体数も多いので、集中的に狙撃に晒されれば、能力者でも一大事です。その上‥‥」
 中年男性がため息。疲労がどっと襲ったのか、デスクに手を置く。
「負傷したキメラ同士が癒着して壁となり、巨大なバリケードを形成しているらしいです。バリケード自体も砲撃してくる上、そのバリケードの上から突撃よろしく、山羊キメラが飛び出してくるそうです。今すぐに向かえば、戦線が崩れる前にたどり着けると思いますので、お願いいたします」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
ガーネット=クロウ(gb1717
19歳・♀・GP
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
レフィクル・ヘヴネス(gc5117
16歳・♀・DF

●リプレイ本文

●戦線維持を
 目の前に、道に対して横向きに配置された装甲車。それを盾に数名の軍人が重火器を持ちながら、腰をかがめていた。何百発もの銃声とメトロニウムに当たる衝撃音の中でも、
「援護に来たぞ」
 という須佐 武流(ga1461)の声が聞き取れたのは、現場になれているためだろうか。
「あれか‥‥不気味、と言うほどでもないな。では、勇猛なるキメラたちに、それ相応の礼をしなくては」
  レフィクル・ヘヴネス(gc5117) がそれを率直に口にする。
「‥‥よろしく頼む」
 紅馬は、仮装を思わせる姿の面々にちょっと引く。と、その時、
「伍長、きます!」
 部下の掛け声で気づけば、キメラが二頭、肉のバリケードを乗り越え、自分達に向かってくる。
「話す隙さえ与えない気か」
 秋月 愁矢(gc1971)が小銃「ブラッディローズ」の引き金を引いて、その山羊の頭を粉砕する。倒れてもその勢いは残したまま、アスファルトの上を滑る。そして、さらに秋月は24発を、倒れた仲間の左側を通るキメラへ全弾打ち込む。皮膚を消失し、中身をさらけ出す。そして、ジョシュア・キルストン(gc4215)が、いまだ活動するその肉へ小銃「フリージア」を放ち、キメラの脊髄と内臓を粉砕させる。
「キメラ退治と言うよりゾンビ征伐‥‥ああ、服が汚れる」
 まだ敵が近接してもいないが、目に入る『あれ』が連想させる。
「‥‥眠りにつけなくなりそうな光景だな」
  装填している秋月の側で、シクル・ハーツ(gc1986)も『あれ』を見て呆気にとられている。たしかに閉じている瞳に『あれ』が一瞬でもみえたら飛び起きることだろう。そう、『あれ』とはキメラのバリケード。
「全員配置が出来たようですね。それでは、一気に進みます」
 正面へと突進するシクル、須佐、レフィクル。それを待っていたとばかりに、文字通りの肉の壁から頭を出す山羊型キメラと対峙するべく、突進。それを好機と感じたキメラも、数十頭、飛び出していく。
「大丈夫なのか」
 一等兵の不安そうな声に答えるように、バリケードから発射される猛烈な銃弾。向かってくる能力者たちを倒そうとそれらは放たれた。援護射撃とも取れるその攻撃を、しかし、空中に止まるストラスを支えにするようにアクロバットに回避する須佐、エンジェルールドで完全に防ぐシクル。唯一傷を負ったレフィクルはレオタードに一筋の線を走らせる程度。それでは、
「フフフ‥‥ハハハハ」
 笑う余裕を奪うことはない。山羊キメラを 大剣「アウゲイアス」の餌食となっていく。彼ら3人が横一列になって進んだのは正しかった。相手はどれほど巨大になろうとも所詮、小物のキメラ。能のないものが集まっても、判断能力は変わらない。放たれる弾はバラバラ。
「コアがあるかと思ったが、もしかしたら見当違いだったかもな」
 その後ろでは、兵士達と連帯ととるべく、ジョシュアが説明をしていた。 
「と言うわけで、私、そして秋月は、彼ら3人から漏れた‥‥って、早速ですか」
 もれた数頭にジョシュア、秋月が一斉射撃。それによって赤く染まって転がったキメラへと、UPCの兵士達が重火器を浴びせる。そのキメラも、悪あがきとばかりにフォースフィールドの赤い輝きを発して、威力を弱めようとする。が、破損した体に幾つも弾丸が食い込む。
「よし、本来の任務のためにも、一緒にがんばりましょう」
 秋月は兵士達の空気を読みながら、一致団結できるよう、戦闘中声をかけ続けた。
 
●運河を渡り
「寒い」
 ガーネット=クロウ(gb1717)漏らすが、口の動きは小さい。なぜなら、うっかり開けてしまえば、冷たい水が流れ込むから。
 ここは、橋の下。凍ってはいないもの、冷水がとうとうと流れている。もう冬と言う季節なのに、ガーネットがするのは、敵の陣の裏側に向かうため。同じく、大神 直人(gb1865) も、
「任務とはいえ寒中水泳をする羽目になるなんて‥‥」
 と独り言を言いながら、上陸場所を探している。長年の動乱で放置されている。うっかり泥にはまって上がれないこともあるだろうし、それ以上に、
「ち、キメラがいる」
 2頭の山羊が、上陸予定の近くでフラフラとしている。橋からある程度離れたところだというのに。気づかれたら、銃声を上げるだろう。そうしたら、他のキメラたちを呼ばれる羽目になるかもしれない。
「‥‥なら私が倒しておくね」
 覚醒したことによって赤い瞳になっている和泉譜琶(gc1967)が、すいすい泳いで対岸に上る。挑戦的な性格になっている彼女は、隠密潜行を発動している。そのお陰で、淡々と使用したタンクを音を最小限にして隠す。そして、そそくさと、キメラたちに向かう。その光景を、放し飼いにされている山羊へと忍び足で近づく子供に見えてしまう。が、その片手には身の丈を超えた和弓。キメラたちとの間が70mまで近寄ると、
「それでは寝てくださいね」
 妖怪変化を撃ち落した弓の名を誇示するように、二つの矢がキメラの急所を射抜く。どさりと静かに落ちたのを聞いたガーネットと大神は、陸に上がる。
「全身ずぶぬれ、くそぉ。この恨み、償わせてやるから‥‥な」
 大神はこんな作戦を行う原因になったキメラたちに怒りを燃やす。が、その側で、急ぎながらビニールから乾いた軍用歩兵外套を取り出すガーネットの姿。ガーネットは、どうしたの、とう表情をするのみ。
「くそ、くそ、くそぉ、すべてキメラの性だ!!」
 声のボリュームは非常に小さいが、嘆きは充分に表している。
「それより、襲撃の合図の準備をしませんと」
 ガーネットの指摘で、大神は素早く、密封された無線機を取り出しながら、橋とその周辺を確認する。競り市から逃げ出したのか、大量の山羊キメラが橋の入り口付近に密集している。その場所へと、数頭の群れが引き寄せられるように集まっている。
「向かっているキメラが大方橋に集結したときだな、ん」
 大神は無線機を握りながら、ガーネットと和泉に伝える。

●「突撃開始」
 1頭のキメラが橋に集まる山羊の団子に、ぴったりとくっ付く。大人しく順番待ちをしているそれに弓矢が刺さり、ばたりと倒れる。変異を察したキメラたちが、頭と胴から伸びている銃身を一緒に、後方へと向けば、
「眠ってください」
 ガーネットがエーデルワイスと言う名の爪で2体のキメラを引き裂く。
「さて、俺の恨みを受けてくれ」
 大神が握る月詠が一体を斬る。背骨を中心に二つに割れた前半身から大量の血液が周囲のキメラをぬらし、彼らを興奮させる。が、バリケード側からの音が、興奮を伝える唸り声を黙らせる。
「待っていた!!」
 須佐がキメラのバリケードを飛び越え、無傷の山羊キメラの頭を踏みつける。それに続いて、
「癒着させるか!」
 冷気をまとうシクルが、バリケードを飛び越えたついでに切ったキメラを、蹴り上げる。そして、黒いオーラを纏うレフィクルも、突入を終える。金色の角が、太陽の光で強く輝く。それに何かを感じるかのように、一斉に山羊の唸り声。だが、キメラ達は過密の状態。キメラの足や腹、そして攻撃の要である銃身が、お互いにぶつかり合って、動けない。バリケードを越えてきた者達に、発砲で応戦しようとするが、方向は出鱈目で、同士討ちが見られるほど。
「残念ながら、全力を出させません」
 レフィクルが言い放つ。その隣にいる、シクルは不意に振り向く。それは肉の壁。そこには自分達を狙っていた銃身は殆どない。
「先に、動くキメラたちを征伐しよう」
 当初はバリケードを攻撃する予定だった。が、バリケード自体からの射撃は、今いる軍人達には脅威ではなかった。それより、いつ突撃しようか待ち構えているキメラたちを潰したほうが、自分達の負傷や逃走される危険が少なく済む。そう判断すると、握る筒から薄桃色のレーザーを出現させる。
「一気にぶっ潰す!」
 言葉通り、須佐は機械脚甲「スコル」を装着している足で次々キメラを蹴り倒す。宙を舞う山羊の首とライフル、そして血。橋の中央部側のキメラは混乱のきわみだった。その熱気に押されるように、橋の出口側のキメラたちは、飛び出そうとする。それを抑えようと、大神は2頭を斬り、ガーネットが4頭のキメラに巨大な切り傷を作って、異形たちを倒れさせる。
「これ、すべては無理かも」
 弱気な言葉と裏腹に和泉は弓矢を淡々と脱出しようとするキメラへ放っていく。そんな中、1頭のキメラが大神に体当たりを行う。大神は巧みに避ける。が、それに釣られるように数頭のキメラ。
「しまった」
 ガーネットはうっかり声を漏らす。その混乱に乗じて橋から脱出する山羊数頭。仲間からもらった弾痕から血を垂れ流しながら、疾走する。‥‥が、逃げ切れたのはそれだけだった。皮肉にも、倒れた仲間の体が障害となったのだ。それに、こうして数分後には、血の色で染まった肉の絨毯が橋の上に形成されつつあった。倒れているキメラ同士、癒着しようとするが、シクルや大神が蹴り飛ばしたり、投げ飛ばしたりして川へと放り込んでいくので、逆襲の狙撃が出来ない。
「あとは、動かぬバリケードのみ‥‥」
 振り返ったシクルは機械剣「フェアリーテール」を、動かぬ巨大キメラへと振るい、破壊する。

●戦闘は終わり
 川の水とキメラの血肉の臭いが橋の周囲を包んでいた。大神は背後から人の気配を察する。振り向けば、軍人一人。
「自分は、王二等兵でございます。倒れた衝撃で気絶していて申し訳ございません」
 敬礼をしながら、そういうのは、戦闘前に襲撃されたバイクの運転手の姿。どうやら敵の攻撃の対象から逃れたようだ。
「それだったら早く、隊長に会いに行くとよいですよ。キメラの集中砲火を受けていたから」
 それを聞いて、兵士の顔はこわばり、走っていく。その横で、ジョシュアたちの様子見を終えた和泉が、キメラの死骸の除去中。
「そこ気をつけてって、あちゃぁ」
 柔らかい何かを踏んで、転ぶ二等兵と、それを注意しようとして口を開いている和泉。溜まっている血液を排除しているガーネットは、それを見て、笑みを漏らす。

 橋を占領していたキメラの残骸が大方の取り除かれた頃、遠くからトラックが走ってくる音が聞こえ出した。
「部下の無事が確認できたので、早々に物資の運搬を再開したいのだが‥‥できれば、手伝ってほしい。金がないので、ボランティアと言う形だが‥‥」
 紅馬がそう、傭兵達に語る。秋月と和泉は同意を示す。が、その一方でジョシュアは、
「仕事には入っていませんよね、それは」
 といって、移動し、弾痕だらけの装甲車に入ろうとする。
「ジョシュアさん、昼寝しようとするの。サボっちゃだめ」
 和泉が注意をする。それに対して、紅馬が、強制はよくない、といって慌てて言う姿に、部下や須佐達の顔が自然と笑顔になっていく。その中で、シクルは川を見る。河に浮かぶキメラの目が、視界に入る。
「‥‥当分、山羊の群れと出会いたくないな‥‥」