●リプレイ本文
●んではまず、むかいましょう。
山である。道の左右に生える木々はコナラとシイが目立つ。ここはまだ、人の手入れがされていた雑木林。これより先には、ブナやミズナラに覆われた広葉樹林。
「‥‥これ、際どい」
最上 憐 (
gb0002)は早々に茶色のキノコを、抜いていく。
「ちょっと待った。怪しいのに抜くの‥‥」
煉威(
ga7589)が注意の言葉を言う途中、最上が彼の口へと何かを放り込んだ。お約束のごとく、煉威の口が閉じる。歪む表情。そして、煉威は咳き込みながら口からキノコの破片を出す。
「‥‥ん。やっぱり駄目だった。確認、ありがとう、煉威」
ついで、そのキノコの名はドククリタケ。未加熱でよかったね。
「くそぉ、へたれと思われないように、と思ったら、毒見役かよ」
初めての仕事であるグリフィス(
gc5609)はそんな展開に、汗を出す。まだ、現場へと向かう途中なのに、いいのかな。これ‥‥、
「大丈夫。それより、食べ物、早めに集めよう」
最上のそれに同意するかのように、スバル・ヤチ(
gc5565)は黙々とコナラにナイフを立てている。ぼとりと彼の手に落ちたのは、サルノコシカケの一種。硬いそれは薬になる。
「あの辺りがよさそうだな」
ヘイル(
gc4085)は周囲を見渡した後、急に道から離れていく。テンポよく降りていくと、そこは沢。大きな石で敷き詰められている川原。斜面に木の根が這い回っている林の中と比べると、平坦。彼が川原の中央に立つと、
「テントを設置します。重たい荷物がありましたら、そこにおいてください」
無線を口元に近づけて報告。そして、手際よく拠点の準備をする。そうして
「‥‥ん。食べ物の。気配」
持ち込んだレシピ本をおくなり、唐突に沢を登るように進む最上、そんな彼女についていく煉威。
「元気がいいことですね」
ヘイルは、そんな彼らの後姿を見た後、地図を広げる。現在地は赤い線の途切れたところより、少し前。
「まずは、道へと戻っていくか」
そういって足を進める。
●晩秋の旬
「ない、ない、ないぞぉ」
あるものをひたすら求めるグリフィス。枯葉で覆われた雑木林をさ迷い続けること2時間。
「あったぁぁぁ」
ミズナラの木々の合間に頭を晒す、ちょっと赤みを帯びたキノコ。近寄り気合よく掘り返す。鼻腔へと進入する香りが、マツタケと彼の脳に連呼させる。
「‥‥これ、キクラゲの亜種? ま、とにかくお肌によさそう」
一方の最上は、目の前の倒木に群がっているゴムタケを全部、自分の胴より大きな籠へと放り込む。その中には、鹿の舌や栗茸、木耳等、とにかく食べられるキノコでぎっしり。その隣ではスバルが、
「これは薬効があったと思いますから」
といって、よじ登って、歪な形になっているマタタビの実を採取する。ついでに、蔦もいくつか失敬。取れたそれを、パンパンと伸ばして、
「これは使えるな」
道具としての使用に耐えられる強度があるのか確認。これを使って、万が一にもキメラが歩行等移動をした際、引っ掛ける罠を用意しようと考えていた。そんな作業をしている間にも、可憐な少女は、
「‥‥ん。これは、蟹の気配」
何かを察したのか、動き出す。その横では煉威が、大きな、大きなシャカシメジを両手に抱えていた。
「やったぁ、こいつは絶対大丈夫。よし、あいつらをぎゃふんといわせるぞ」
と、思わず大きな声。袋につめ終えると、何かに気づいて、朽ちかけたコナラに近づいていく。そこにあったのは、表面が茶色の、平らだけど、肉厚なキノコ。
「ラッキー。こんなところに椎茸じゃないか」
煉威は、木に張り付いているそれを思いっきり剥ぎ取ろうとする。が、
「まて、確認を‥‥」
一旦手を止める。ここで食べられないキノコなんて収穫したら‥‥首を横に振って、気合を入れなおす。そして、鼻を近づけると、
「なんというおいしそうな香り、これは間違いない」
芳しい香りが、絶品という確信を持たせる。
「これこそ、今日のメインだ。見ていろよ!!」
目に入る『椎茸』を次々収穫する。
「てか、よく見るとそこらじゅうに生えている。すげぇ」
と、一人感動して、乱獲を続けていく。
「ぱぁん」
と、その動作に割り込むように、軽い音。沢蟹を右手に掴んでいる最上も、センブリを摘んでいたスバルも、音する方向に首を傾ける。そこにはうっすらと白煙。照明弾だろうか。
「こちら、ヘイル。キメラを発見。‥‥収穫に忙しい等、こちらに向かえない人は連絡を」
●キメラ登場
「さて、仕事仕事」
「‥‥ん。キメラ。醤油焼きとか、楽しみ」
一斉に動き出す、4人の傭兵。彼らを包む周囲の情景は変わっていく。雑木林から、ブナやミズナラに覆われた広葉樹林へと変わった為だ。キメラの居場所は、4人がのんびり収穫をしていた場所からかなり離れていた。なので、たどり着いたときには、
「‥‥ん。結構なお味」
最上は途中で採取したアケビの実と持参したカレーを食べていた。その食欲に、改めて驚く煉威。知ってはいるが、山の中でも平然と食事を取るとは。
おまけに、4人全員の袋や籠に、クリタケやヤナギマツタケが覗き、がさごそと沢蟹がうごめいている状態。これがキメラ退治の光景といえるのだろうか。そんな彼らの視線は、低木以上の高さのマイタケ。具体的には、生垣にあるツツジやサツキ並みの大きさ。
「これが、食料候補っ!」
煉威の感嘆。ため息を出すものもいる。まさに、夢のよう。写真一枚ぐらいとって、どこかの雑誌に投稿したら、今回の報酬の半分ぐらいの現金収入が入るだろう。
「ようやく集まったか」
あまりに待ちくたびれたのか、呼び集めた本人の手元にはサンゴハリタケ。
「‥‥ん。それじゃ」
数十秒後。キメラはグリフィスとスバルの籠にギリギリ収まった。よく見ると、いくつかに裂かれているのが、激戦を伝える、たぶん。しかし、キメラは歩行をしなかったため、それに備えて張り巡らせたトラップが、周囲に未発のまま配置されている。
「それでは、俺は夕食の準備を」
そういってテントの場所まで戻るヘイル。残る4人も、秋の収穫と散策を楽しむのを再開。
川原に戻ったヘイルは、早速つりを開始する。
「‥‥ん、これは」
足首まで水に使って釣りをしていたヘイルは、強い引きに驚く。釣竿がしなったので、川魚、と思って腕を動かすが、なかなか手元に戻らない。だが、それより彼を驚かしたのはその感触。力強いというより、重たいそれは、彼が想像していた川魚とは違う。釣り上げる対象を見ると、必死に泳ぐ獲物の姿が見える。巨大な姿が、水面に写るばかりか、背びれが水面から覗いている。
「大物は逃がさん!!」
力いっぱい引くと、バシャリと大きな水の音。続いて、ぱちぱちと、川原で跳ねる魚の音。視線をそれに動かすと、自分の胴ほどの大きさがある、鮭。曲がった鼻が風格を漂わせる。
「これは、きのこと相性がよさそうだ」
ヘイルは、その海からの幸を、即席の竈があるテントまで、その暴れん坊を持っていく。
●日が暮れて
再びヘイルからの無線連絡で、テントのある川原へと集まった4人。そこでは、淡々と食事の準備をしているヘイルの姿。ごろごろ、と、ヘイルの前に展開されたキノコの数々。恐らく、スーパーではお見掛けすることがないものが多数あって、さて、これ本当においしいのか、と疑いたくなるものもある。
「これは、どう調理すれば‥‥」
ヘイルはゴム栓、もといゴムタケを摘んで、一言。今彼は、遡上したサケのホイル焼きに添えるキノコを選んでいた。キメラ、もとい舞茸をたっぷり乗せるのもよいが、今回は種類が豊富。彩を多くしたいところ。
「先ずは茹でてから、皮を剥がすか」
色々チャレンジをする必要を感じるヘイル。もとあった場所にその黒いゴムを戻す。そして、料理の品目を考え直すと、皿の枚数が足りないと気づく。近くに生えているクマ笹を取りにいかなくては。そう感じて、火元から離れる。
その側では、最上が、取れたてのキノコに醤油を塗って、くしに刺すことを繰り返す。
「‥‥ん。焼けたかな」
醤油の焼けるよい香りに反応する彼女。早速、焼きたてのキメラ、もとい
そこへ、一緒に焼こうと、煉威が『椎茸』を取り出そうとする。が、それをみた銀髪の少女は、睨む。そして、煉威の手からそれを素早く、そう、空気を切る音がするほどの速さで奪うと。
「‥‥光っている。それ、駄目」
じっくり見つめていたかと思うと、そんな言葉を吐いて、『椎茸』を川原へと投げ捨てる。さらに、煉威の集めたキノコから、『椎茸』を取り出し、ポイポイ放り出す。
「ちょっとまて、それは香りがよいから」
非道な行為に訴えようとする男性は、
「‥‥ん。これ、駄目。香りとか、じゃない。本能で」
そんな言葉に、悔しくなったのか、残る『椎茸』を奪還する。
「あ、後で専門の人に聞いて、食えることを証明してやる!」
どこか悔しそうな言葉をいう煉威。そこへ
「あ、これは結構な珍味だな。どうだ、この‥‥ゴム、もといキクラゲモドキの刺身を食べてみないか」
そういって、クマ笹の葉に乗せられた、湯がいて皮を剥がされたゴムタケの切り身をグリフィスとスバルに差し出すヘイル。それを察した最上も、素早く近寄り、ゴムタケの刺身を口に入れる。
「‥‥ん。味は、ない。けど、食感が、いい」
それからしばらくして、キメラの醤油焼きが焚き火を囲むように出来上がり、全員がその味に舞い上がるように堪能しはじめる。と、目は自然と湯気に向かう。それは、出来上がりを告げるサケのホイル焼き。ヘイルが丁重にそれを取り出し、アルミ箔をゆっくりとに開くと、
「これは香りがよい」
ヒラタケとマイタケが盛られたサケが、顔を出す。早速、箸で摘んで食べると、
「シメジの良いダシが効いている」
そう、隠れていて見えなかったシャカシメジの味も混じって、最高においしい。
「これ、もしかしてあのマツタケ!!」
ホイル焼きは一つだけじゃない。グリフィスが調達したマツタケを中心にしたホイル焼きに、
「ちょっと、粉っぽい」
スバルが採取した薬用キノコの茶も加わり、豪勢な夕食となった。
その後、最上と共に宿泊施設へと向かった煉威は『椎茸』をオーナーに見せる。
「ありゃぁ、最近増えているんだよねぇ。ツキヨタケ。これ、悪いことに利用されたぐらい、味や香りのよい」
首を縦に振って聞いている煉威に、オーナーはため息を吐きながら、
「‥‥毒キノコ。結構あぶないから、捨てておくね」
と言う返答を返す。それに答えるように、民宿に響く男の声、があったのかどうかは伏せておく。
それと同じ時刻、ヘイルは夕食のあった場所に留まり、防寒シートに包まれた状態で外にいた。上を向いて、じっとしている。
「‥‥こんな日があっても、悪くない」
そう彼に言わせているのは、、今まで口ずさんでいた歌が途切れてしまうほどの、秋の星空。