タイトル:【VD】理想を現実に?マスター:守屋敬治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/28 21:56

●オープニング本文


総合メディア研究部
雑誌やテレビ、現在ではネットなどにおける各種メディアが与える影響を、
調査・研究し仮説を立て、実際に本や映像を作成し仮説の検証を行う部。

その部室にて栗色の髪を背中の中ほどまで伸ばした女生徒が、
近頃LHを賑わせる『対バレンタイン宣戦布告文書』を読み終えあきれた様な声を上げた。
「バレンタインといえば幼馴染からツンデレまで、属性を問わずイベントが発生するオイシイ日
なのにそれを中止だなんて、随分ともったいない事を言う人達もいたものね‥‥」
と、何か間違った感のある発言をしたのは部長であるクリス・エヴァンズマン。

察しの良い方は彼女のセリフでお気づきかもしれないがこの総合メディア研究部、
雑誌を漫画、テレビをアニメと言い換えて貰うと非常に分かりやすく、つまりは『漫研』と言い換える事ができる。
学内の「研究員」と称される協力者からマンガ・アニメ・ゲームなど様々な分野の流行の情報を集め、
それを基に漫画や小説などの二次創作を行い学園内のネットワークで公開しているのである。


「そうだ!バレンタインの素晴らしさを改めて広めましょう、この部らしいやり方で」
と眼鏡の奥の瞳を楽しげに細め彼女が突然に提案するのを聞いた男子部員が「ウチらしく、ですか?」と聞き返すと
「ええ、『理想のバレンタインをお手伝い』というイベントにして人を集めて話を聞いて、私達で作品にするの。
賛成派で恋人がいる人はモチロン、中止派でやり場のない怒りを溜め込んだ人も、
作品の中でくらいはバレンタインを楽しんで、少しは発散して貰えるんじゃないかしら?」
その言葉に室内にいた他の部員達からも賛同の声が上がるとクリスは
「それじゃ簡単なチラシを作って貼り出しましょう、学園内は当然としてLHの人が集まりそうな所にもお願いしてみてくれる?」と部員たちに指示を出した。
慌しく動き出す部員たち眺めながらクリスは内心で「この所ヒマだったから良いところにイベントが転がって来たわね、面白くなりそう‥‥」とほくそ笑むのだった。

そしてカンパネラ学園とLHの様々な場所にこんなチラシが貼り出された
「バレンタインの記念にあなたが思う『理想のバレンタイン』を作品にしませんか? 詳しくはカンパネラ学園・総合メディア研究部までお問い合わせ下さい」

●参加者一覧

熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
ミハイル・チーグルスキ(ga4629
44歳・♂・BM
ラガーナ・クロツ(ga8909
17歳・♀・FT
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

 と言うわけで、ネタ出しを引き受けた4人は、総合メディア研究部‥‥略して総メ部に集まり、打ち合わせをする事になった。
「ええと、確かこの辺り‥‥」
 熊谷真帆(ga3826)が貰った部室案内図を手に、棟の入り口で、現在地を確かめていると、後ろから「どうしました?」と、聞き覚えのある声がかかった。
「えっと、部室を探してて‥‥って、会長!? どうしてここに‥‥」
 なんと、聖那である。校内の見回りをやっていたらしい。学園の皆が求めるものを自らの目で確かめるのも、重要な仕事と言うわけだ。
「何かお困りごとでも?」
「ええ、実は‥‥」
 そう言って、真帆は依頼の事を話す。特に秘密にして欲しいとは描いていなかったような気がするが、会長だし、依頼には目を通している事だろう。
「人数が少ないようなら、私もお手伝いしてよいかしら」
「構わないですけど、その‥‥見回りの仕事は?」
 興味を惹かれたらしい会長に、彼女は首をかしげる。だが、何かあれば執行部の面々が知らせに来るらしい。それを聞いて安堵した真帆は、『まぁいいか』と、部室まで案内して貰う事にする。
「ん、どうかしたのかね? 一人多いが‥‥」
 既に、部室には依頼を受けたメンバーがいた。そう問うてくるミハイル・チーグルスキ(ga4629)に、真帆は「飛び入り参加だそうです」と経緯を説明する。
「ふむ、まぁいい。女性が1人増えるのは大歓迎だ。VDなのだしね」
 独身貴族で、女性と煙草とお酒は大好物の彼、夜の蝶々とはだいぶ趣が違うが、魅力的なお嬢さんである事には違いない。
「OK。さってと。面白いモンが出来るように手伝うとすっか!」
 そう言って、早速作業に取り掛かるヤナギ・エリューナク(gb5107)。聖那の「えぇと、作業手順はどうなりますの?」と言う問いに、「んーと、こんな感じかな」と、工程表を見せてくれる。
「なるほど、では打ち合わせには飲み物とお茶菓子がいりますわね」
「あー、手伝うぜ」
 そう言って、お茶と茶菓子を用意する聖那。ヤナギがそう言って、お茶を注いで回っていた。
「わぁい、いっただきまーす」
「確かに絵は苦手なんだがな、話を考えるのだったら興味がある」
 で、そのスナック菓子等々をつつきながら、そう答えるラガーナ・クロツ(ga8909)。
「私も絵よりも文章の方が得意でね?」
「要は読み手が次のページをめくりたくなるような画面構成が必要なわけだ。頑張ってみるよ」
 ミハエルは元々プロの脚本家だ。これなら、経験を生かして、面白そうな話がかけるかもしれない。
「まずはキャラ紹介からですね」
 と真帆。
「もう少しロマン分を‥‥」
 そこはこだわるミハイル
「BGMつけようぜ。バンドやってたから、ベースは得意なんだ」
 味気ないから、色々おまけにもこだわりたいヤナギ。
「サンプルは演劇部の奴に頼めば良いと思いますわ」
「そのお兄さんの話、もう少し詳しく!」
 聖那がモデルにぴったりそうな生徒を上げる中、担当生徒はラガーナをモデルにデッサン開始。
 こうして、皆で意見を出し合い、それを総メ部の面々がイラストをつけていくのだった。

 まぁせっかくだからと言う事で、電子化され‥‥試写会と言う事で、視聴覚室のプロジェクターを借り、出来上がりを見てみる事になった。あまり時間がないので、一般告知はされていないが、それでも『別クラスの友達』程度の人間が集まっていた。
 幕が上がる先に待っていたのは、こんなお話である。

【第一話:出会い】
 スクリーンにタイトルが表示される。原案の場所には、ヤナギの名前が書かれ、どこか和風なベースの響きが流れてくる。それもその筈、切り替わった画面には、日本の町並み。レンガ造りの洋風な建物と、古来の木造建築がごっちゃまぜになっている、そんな下町の風景。その片隅に、小さな花屋があった。
「あれ? マンガじゃなかったでしたっけ?」
「花が面倒だから写真になったらしいですよ。それに、こっちの方がヤナギのベースには合うんだそうです」
 聖那そう答える真帆。こそこそと席でそんな解説が聞こえた。どうやら、第一話は写真を使った、プロモーションビデオっぽい感じだ。
「でもこれ、どこで撮ったの?」
「兵舎」
 まぁ、あのあたりは、各傭兵の趣味趣向に応じて、様々な店と化している。花屋くらいあるだろう。個人経営らしく、小さなガラスケースの周囲に、埋もれるような花々が多数置いてある。だが、一つ一つをアップにしてみれば、それはどれもよく手入れされ、咲き誇るモノから、これから咲き頃を迎える蕾まで、種類豊富に揃っているのはわかる。そんな店には、一応と言う感じで、バレンタインデーのPOPが飾られ、鉢植えのいくつかには、赤いPOPが刺さっていた。
 だが、それを手入れする金髪の店主‥‥よくみりゃ演劇部部長やってる金髪少年だ‥‥は、がっくりと肩を落としている。確かにカメラが回っても、誰もおらす、かえって日の光の暖かさだけが強調されていた。そして、『欧米では』と書かれたミニ知識のPOPが映る。どうやら、小春日和の中、花屋の店主は、この日本式バレンタインデーを歓迎していない様子。
 そんな暇な本屋を訪れる女性。焦る店主。平静を取り繕うとするも何処かぎこちなくなる。そんな彼を、じっと見つめる女性。顔を上げ、持っていたかばんから、チョコレート菓子の包装紙で包まれた箱を取り出す。カメラがアップになったそれには、『好きです』と書かれたメッセージと‥‥花。
 それを渡された店主は、しばし固まっていたが、ややあって、店の奥へと消えていく。戻ってきた彼の手には、白薔薇数本に赤薔薇が真ん中に1本だけ入った花束。メッセージカードの添えられたそれを、彼は女性へと差し出す。あっぷになったそこには『俺も、ずっと惹かれてた…』の文字。
「こんなもんじゃないか? 何か恥ずかしいのか?」
 原作のヤナギ、不思議そうに首をかしげている。まぁ同じ事を自分がやる段になれば、こっ恥ずかしさで真っ赤になってしまうだろう。
 画面のヒロインのように。

【第二話:当然】
 休憩を挟み、2話目の上映となった。どうやら小説らしく、朗読スタイルになる。原案にラガーナの名前が書かれ、キャラクター紹介が行われた。まどかと言う女生徒に、茂と言う男子生徒らしい。イラストには、ラガーナによく似た姿が描かれていた。もっとも、彼女とは違って、黒髪の女性らしい姿だったりする。幼馴染と言う設定の男子生徒は、ラガーナ担当の生徒が、亡くなった兄の容姿を聞いてきたから、きっとそうなのだろう。
 キッチンの音が視聴覚室に響く。ナレーションはこうだ。
『恋人の茂がいつも「君の好きにすれば」といって意見を真剣にきいているとは思えないまどか。「本当は私のこと、どうでもいいのでは?」「バレンタインにチョコ作ったってバカみたい…」「私可愛くないし、気も強いから、嫌になっちゃんたんだわ」と色々考えちゃったまどか、これが最後のチョコ。この気持ちが「どうでもいいよ、好きにすれば」と言われたら…その時の覚悟はある…』と。
「なんだ、甘いにおいがすると思ったら、チョコ作ってんのか」
「そ、そうよ。私が作りたいんだからつくってるの! ちょ、ちょっと!!なにすんのよ!!」
 カツカツと響く足音。ボウルを取り合う音。調理室のサンプル音らしい。響いてくる音が立ち止まり、液体が揺れる音。
『また、好きにすればって言われるに決まってる…』
 静かに、ナレーションがかかった。
「うぇ…なんだよこのチョコ。苦いじゃん…」
 しばし、間。ヒロインの心の動きを表現するように。が、少年の声は、ややあってこう告げる。
「お前みたいな一癖あるチョコだぜ」
 苦いと言いながら微笑む茂。自分を受け入れてくれての言葉。
 君の好きにすれば、は無関心じゃなく許容。
「‥‥んもう! そんな事言うとあげないんだからねっ!」
 それを知った彼女が、いつもの様に声を張り上げる。
『当たり前のことが当たり前にあるということが、本当は一番の幸せ。それに気づけたから、今とても幸せ』
 どこか恥ずかしそうに。だがそれは、とても明るい声なのだった。

【第三話:非劇】
 三話目は、満を辞してコミックだった。演出の欄に名前のあるミハイルは、戦場の脚本家を名乗るだけあって、編集も得意だ。そして、真帆が『すごい萌え絵コンテ☆』を考えてきたらしいので、それに則り、足りない部分はミハイルが演出を入れ原作を担当したらしい。
「んと、女性向けギャグですよね。相手はスナイパーAくんで良いですか?」
 ヒロインの熊谷さん、年齢性別記入欄にしっかり『20歳男性・傭兵』と書かれている。百戦錬磨のファイターで、屠ったキメラも数知れないが、人間の女性だけは大の苦手とか言う、どこかの腐ったお姉さんの好きそうな設定だ。そんな熊谷は、毎年バレンタインを戦場で華麗にスルーしている。
「お世話になったお礼ということでどうかな?」
「こちらからもどうぞ」
 が、同じ兵舎では、親子ほど都市の離れた二人が、『世話チョコ』と言う事で、チョコレートを交換していた。その片方が、最近気になっていて、熊谷にはそれが非常に気に食わない。先日も、彼と同じ依頼に予約したが、落選したばかり。
「貴方と話すのが楽しいの」
「それは光栄だね」
 一方の相手は、依頼で知り合ったと言う、娘ほどの年頃の2人が、仲良さそうに離している。唯一、気分的に救いなのは、想い人が、女性と距離を置こうとしているらしいと言う事だ。
(ああ、俺はあの人を護ってあげられない)
 そうこうしているうちに、依頼の出発日が来てしまった。そんな事を考えながら、祈る思いでKVを見送る熊谷。尊敬し、敬愛する人をその手で守りたいと言う、そんな思い。
 だが、それをかなえる日がやってきた。数日後、追加の依頼が掲示されたのだ。
 そこには、愛する人の名前が書かれていた。まさか‥‥と言う不安がよぎる。バグア支配地域での隠密作戦。墜落機の救助。生死は不明。
「俺が行きます!」
「現地には危険なキメラがいます。未知のバッドステータスに注意して下さい。止めるなら今のうちですよ」
 オペレーターの注意事項が飛んできたが、真帆の耳には届いていない。そのまま高速艇に跳び乗り、現地へ向かってしまう。
「させるかっ!」
 到着したのは、今まさにキメラが相手に向かって毒液を振り掛ける瞬間だった。だが、彼はそんなキメラなど意に介さない様に、その間に割り込む。盾になってくれた彼に答えるように、相手が懇親の一撃を放った。倒れるキメラ。
「君、大丈夫か?」
「情けないね。逆に助けられるなんて」
「構わんさ。君は俺の大切な人だ」
「はは‥‥。俺が女だったらチョコを渡せるんだがな」
「いいからもう喋るな。大切な人を失いたくない」
 相手に抱きしめられた熊谷の意識が遠のいていく。だが、愛する人を守りきった安堵感に包まれ、幸せそうな表情だった。
 そして、数日後。
「だから言ったでしょ! 俺は男だって!」
 オペレーターに食って掛かる、変わり果てた姿の熊谷がいた。本部にある窓ガラスに映っているのは、腰まで届く長い髪と、豊かな胸。くびれた腰にドレスとか言う、もう非の打ち所のないカンペキな『女性』になった自分だ。
「ううっ…まさかこんな体になっちまうとは…。まいっか、チョコをあげる口実ができたわ」
 気を取り直し、入院している彼の病室をノック。
 ところが。
「はーい」
 既に先約がいた。きょとんとしている前で、中の女性は、勘違いかと思ったのか、そのまま話を続けてしまう。
「私は貴方のことが好き‥‥もう、傷ついて欲しくない」
 聞き間違いじゃない。中では、愛の告白が行われている。自分の気持ちを伝えている女性。手当てをしたのも彼女なようだ。
「ちょ、ちょっと待ったー!」
 しかし、今の熊谷は、指をくわえて見ていなければならない立場ではない。少なくとも、見かけだけは負けない。思わず、踏み込んでしまう。
「え、えっと‥‥。ど、どちらさま?」
「熊谷よ! その人は私が助けたんだからねっ」
 その後、彼らがどのようになったのかは、定かではない。
 ページの片隅に『結論:愛は、年齢と性別を越える』と書き記されるのだった。

「なぁ‥‥名前同じだけど、もしかして‥‥そうなんか?」
「あははは、どうでしょうねー」
 ヤナギの問いに目を逸らす熊谷。真偽のほどは定かではないが、配布許可の下りたその作品は、総メ部の手で、学園中に公開されるのだった。
(代筆:姫野里美)