タイトル:見つめる赤眼マスター:鴨山 賢次

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/26 05:38

●オープニング本文


「喰らえー! ソニックブーム!」
 振り下ろす刃は、深い灰色だった。
 ぐるぐる丸めた新聞紙を、ビニールテープで幾重にも補強する。段ボール製の柄はV字型で、マジックで”Tsukuyomi”と書いてある。
「ふふん。そのてーどでは、俺様のライトニングソードには勝てないぞ」
 受け止めたのは金色の刃。折紙で丁寧にコーティングされた逸品だ。
 真に迫る斬り合いだが、刃同士が触れあう事はない。そのような愚を冒せばどうなるのか、2人の剣士は良く知っていた。
「待ってよぉ‥‥」
 斬り合う2人を追う、最後の剣士。彼の剣は半ばで折れ曲がり、ずるずると地面に擦れている。
 半べそを袖で拭って走る。転ぶ。また泣いた。
 戦友は自分達の戦いにのめり込んでいる。彼の涙は誰にも届かなかった。

 少年達はお手製の武器を手に、いつもの遊び場を目指す。森の中に取り残された、コンクリート製の秘密基地だ。
 両親どころか、他の友達にも教えられない、自分達だけの城。沢山の宝物を隠した、ボロボロの廃墟だった。
「てや! とー!」
 玄関前に倒れた両開きの扉を踏んで、金色の剣士が城に帰ってきた。
 続いて飛び込んてきた少年の、灰色の切っ先を避わし階段を駆け上がる。2階を飛ばして3階へ。彼らの決戦場は、いつも3階だった。
 屋根は無く、階段は途中で崩れ落ちている。雨風に晒された壁は、鉄筋が顔を覗かせている。申し訳程度に、かつての間取りが見て取れた。
 配水管を踏み越えて、金色の剣士が宿敵を待ち構える。
 自分と同じように、配水管を飛び越えた灰色の剣士めがけて、ライトニングソードを横薙ぎに振り払った。

 ザン。と、まるで本物の刀のような音。
 本当に跳ねられた友人の首は、廃墟の裏へと飛んでいった。残された首から下が、金色の剣士に覆い被さってくる。
 押し倒されて頭を打った。噴出した血液が金色の剣士を深紅に塗り替える。悲鳴は、出なかった。
 被った血のせいで目が開かない。暗い‥‥紅い‥‥。
 恐怖で開いたままの口に、友人の血が流れ込んでくる。苦い‥‥熱い‥‥。
「ギスラン、オノレ、どうし」
 頭の中で爆弾がいくつも弾ける。白と赤が明滅して、何も考えられない。後を追っていた友人の声にも、それが途絶えた事にも気付かない。
 金色の剣士‥‥ギスランは、ただ暴れた。
 友人の身体を跳ね飛ばし、両目を擦りながら床を這う。配水管を超えたところで、漸く目が開いてくれた。
 白い毛皮と長い耳、真っ赤な瞳がギスランを見つめている。鋭い爪から流れた血を見て、ギスランは逃げ出した。

 階段を駆け下りると、2階にも死体があった。
「ひぃっ!!」
 思わず足を止めてしまう。見覚えのある靴、見覚えのあるズボン、腰から上は見当たらない。
 ポンと、頭に何か触れる。
 逃げなきゃと判っていても、震える足は動いてくれない。確かめたくなんか無いけれど、頭は上を向いてしまった。
 見覚えのある折れた剣が、見覚えのある手に握られている。見覚えのある肘から先は、大きな口の中に収まっていた。
 大きな赤い瞳がギスランを見つめている。友人の上半身が、大きな口に飲み込まれていく。
 ポトリ、と折れた剣が地面に落ちた。
 我に返り、ギスランは階段へと転がる。全身を打ち付けながら、1階まで落ちていった。

 床に叩きつけられる、重い痛みがギスランを襲う。筈だった。
(痛くない‥‥?)
 代わりに、フサフサした感触がギスランを包んでいる。
 汗と糞と油の、獣の臭い。動物園で嗅いだ事のある嫌な臭い。
 閉じた目を開くと、茶色い毛皮が見える。もう駄目だ、と理解した。

 顔を上げると、赤い瞳の獣と目が合う。直後、ギスランの意識は断絶した。

●参加者一覧

赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
クロスフィールド(ga7029
31歳・♂・SN
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
佐藤 潤(gb5555
26歳・♂・SN
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP

●リプレイ本文

 階下で何かが動いている。気配は4つ。コンクリート越しに、微かな殺気が伝わってくる。
 彼等は獲物なのだろうか。兎は考える。
 動きを追うのは簡単だ。何かが燃える妙な臭いが、気配よりも正確に、彼等の位置を教えてくれる。
 臭いが強くなる。階段を上がってきたようだ。頼りない灯りが動き、兎の傍を通り過ぎる。
 一団は武装している。しかし、自分を見つけてはいない。

 彼等も前の連中と同じ、ただの獲物のようだ。最初に刈るのは‥‥そう、あの煙を咥えた男にしよう。
 赤い瞳を細め、兎は部屋の小穴へと身を躍らせた。





「全く‥‥酷い話だ」
 足元に転がった少年の頭を見て、クロスフィールド(ga7029)が呟いた。
 彼の手には、グロウランス(gb6145)から借り受けた無線機が握られている。ジッポライターを質に出すのは気が進まなかったが、見張りが通信不能では包囲作戦に障る。
 痛恨の忘れ物ではあったが、突入班のそれに比べれば大した問題では無い。何せ彼等は、一人として灯りを持ってこなかったのだ。
 森に囲まれた廃墟である。送電は望むべくも無いし、日差しは木々に遮られている。
「全く‥‥酷い話だ。位置についたぞ」
『確かに、被害者が出た後の作戦は気が重くなる‥‥救出作戦であってほしかったものです。自分も配置につきました』
 レヴィア ストレイカー(ga5340)の返答が聞こえる。借り物の無線機は、皮肉を伝えてはくれなかったようだ。
 勿論、レヴィアも光量の不足は認識している。しかし、キメラ達が逃亡する可能性が消えるまでは、突入班に任せるしかなかった。
「包囲完了だ。上がってくれ」
 クロスフィールドが、今度は1階の階段前に居る突入班へと呼びかける。
「これで敵が来なかったら‥‥いや、笑える状況ならまだマシか」
 一人ごちる。廃墟は静かに佇んでいた。

「ここも変わらず。しくじっったな‥‥」
 一縷の望みを打ち砕かれ、瓜生 巴(ga5119)が呟く。1階よりはマシなものの、廊下の先は殆ど見えない。
 窓からの光は、廊下の手前しか照らしていない。天井と横壁の亀裂から入る微かな光が、うっすらと瓦礫の輪郭を浮かび上がらせていた。
 月詠と懐中電灯を構え、手前から廊下を照らす。赤霧・連(ga0668)がエマージェンシーキットを持ち合わせていなければ、暗闇を手探りで進む事になっていただろう。
「慎重に行きましょう」
 サンディ(gb4343)は盾を構え、巴の隣を歩く。一つ目の小部屋を前に立ち止まり、合図と共に中へと飛び込む。ハズレだ。
 小部屋の壁には窓や穴があり、中を見渡す事はできた。が、キメラの姿は無い。
「己の分は弁えている、為せる事を為すのみ」
 二人の背後を護るグロウランスが、苦手な煙草を咥えながら己に言い聞かせる。蛇除けのつもりで咥えてはいるが、効果は期待していなかった。サンディと巴が部屋から出てくると、再び背後の警戒に当たる。
 階段手前の部屋をクリアすると、比企岩十郎(ga4886)はバスタードソードから片手を離し、軽く振る。共に階段を登った佐藤 潤(gb5555)への合図である。
 手すりの陰に隠れた潤が、視線だけで返答する。キメラに悟られないためにも、声を出すわけにはいかなかった。


 更なる暗がりへと、4人の傭兵が踏み出す。
 数秒後、後手に回った彼等を凶刃が襲った。


 兎が跳ぶ。床を蹴るの音に気付いたのは潤だけだった。気配の方へ銃口を向けるが、撃てない。構えた先に見えたのは、小さな小さな煙草の火。
 僅かに遅れ、グロウランスが反応する。咄嗟に刀を構えるが間に合わない。守りの刃を易々と弾き、兎の爪がグロウランスの喉を切り裂く。
 うめく事すら適わない。鮮血が噴出し、廊下を染め上げる。
 脇を跳び抜ける影に向け、巴が機械剣を振るう。当たらない。壁が焼け、手放した懐中電灯が床に落ちる。
「グロウランス!」
 膝を突くグロウランスを岩十郎が支える。首が刎ねられる事は無かったものの、出血が止まらない
 サンディと巴がグロウランスを庇うように立つ。3人の顔には焦りが浮かぶ。
 岩十郎が覚悟を決め、傷の上から頚動脈を圧迫する。脳への血流を妨げてしまうが、このままでは失血死してしまう。能力者の治癒能力に賭けるしかない。
 出血を抑えると、徐々に傷口が塞がっていく。意識を失わなかったグロウランスのロウヒールだ。致命傷ではあったが、損傷部分は小さい。九死に一生を得る。
「大丈夫ですか?」
「なんとかな」
 サンディの問いに岩十郎が答える。その声には、安堵と焦燥が入り混じっている。
 懐中電灯を拾った巴は、救急キットから包帯を取り出した。
「替わります」
「頼む」
 手当てを巴に任せ、岩十郎はバスタードソードを構える。その時、ズズ‥‥と何かが這う音が聞こえた。
「「蛇!?」」
 岩十郎とサンディが天井を見上げる。が、鱗に覆われた巨体は、真横から襲ってきた。
 廊下の壁を突き破り、蛇が突撃する。狙われたのはグロウランス。巴が彼を庇い、直撃を受ける。
 反対側の壁を突き破り、蛇の頭が廊下から消える。蛇の巨体が、部屋の中へと這い進む。
「させんよ‥‥。サンディ、跳べ!」
 岩十郎が踏み込む。瞬時に意図を察し、サンディが跳躍する。
 渾身の力で得物を突き出す。斬撃では意味がない。バスタードソードの柄を撃ち付け、蛇を弾き飛ばす。獣突だ。
 サンディの真下を蛇の巨体が飛ぶ。部屋から抜き出された頭に向け、彼女のハミングバードが舞った。2突、蛇の片目を奪い、サンディが着地した。
「トモエ! 無事ですか?」
「私は大丈夫、でもグロウランスさんの傷が‥‥」
「そのまま治療に当たってくれ、こいつは我輩達が何とかする。潤さん!」
 岩十郎の呼びかけに銃声が応える。背後から潤の射撃を受け、蛇が掠れた悲鳴を上げた。
「こちら佐藤。突入班が廊下で兎・蛇と交戦開始。グロウランスさんが重傷です」
 蛇の巨体が、突入班の姿を隠す。射線を確保できた潤は、片手で拳銃の攻撃を続けながら、外の2人へと報告する。
「赤霧さん、援護をお願いします!」
 階下の連へ呼びかける。潜伏している彼女は、無線機を切っている可能性があった。
 兎は廊下の奥へと消えたままだ。突入班が挟撃されないためにも、蛇の注意は自分の方へ向けさせたい。
 だが、連からの返答は無線機から返って来た。
『こちら連です。今、猿キメラを発見しました。ごめんなさい、行けそうにありません』


(どこから‥‥? いえ、考えている場合ではありませんね)
 ロビーの奥から現れた猿へと「黒猫」を向ける。キキッ、と猿が嘲笑する。
 発砲する。猿が横跳びに避わす。着地地点へと銃口を向けるが、電撃が連を襲う。
 後ろに跳び、避わす。猿が瓦礫の裏に隠れた時、無線機からレヴィアの声が聞こえてきた。
『レヴィアです! 赤霧さんの援護に向います』
 兎と蛇は2階。劣勢に立たされた今、包囲を維持する意味は薄い。
『クロスフィールド、了解だ。』
 無線の声に反応したのか、猿が瓦礫の影から飛び出してくる。発砲しながら、連が跳ぶ。着地した彼女の足に、小さな掌が当たる。
 一瞬、連の集中が途切れる。電撃への対応がコンマ1秒遅れる。必死で回避するものの、左足に掠めてしまう。
 焼けるような痛み。戦闘に支障は無い。ただ、視界の隅で誰かの体が煙を上げる。
「何でですか‥‥」
 猿は答えない。そもそも、誰へ、何処へ向けられた問いなのだろう。
 再び「黒猫」が火を噴く。そこにレヴィアがロビーへと駆けつけた。

「こちらクロスフィールド、グロウランスの状態はどうだ」
 廃墟の裏手、戦闘に参加していないクロスフィールドは、傭兵達の中で最も冷静さを保っていた。
『手当ては終わったわ。でも、兎の姿が見えないせいで動けないの。退路には蛇が居るし‥‥』
 巴の応答に、一瞬思案する。2階を見上げると、壁面に空いた穴から濛々と埃が舞い上がっていた。
「窓から援護する。無線を切るなよ‥‥」
 ロビーからみえた階段の位置を思い浮かべ、通信と叫び声の内容から移動距離を想定する。
 当たりを付けた窓に向けて、グロスフィールドは射角を垂直に取り発砲した。降り注ぐガラスを避け、木に登る。
 2階の高さまで上ると、窓から巴と入り口が見える。グロウランスは壁の影に居るのだろう。
「巴、窓は俺が見張る。そこから飛び降りろ」
「わかった」
 巴は刀を下ろし、懐中電灯を廊下へと転がす。グロウランスを抱え上げた時、部屋の入り口に兎が現れた。
「やっとお出ましか。予定とは随分変わっちまったがな」
 瞬時に狙いを定め、クロスフィールドが引き金を引く。兎の体が銃弾を受け、廊下へと舞い戻った。


 蛇の尾が潤を襲う。縦に撓るその攻撃は、廊下で避わすには大き過ぎた。階段を飛び降り、中階に着地する。
 ロビーでは銃撃戦が始まっている。今、階下へ降りれば流れ弾の餌食になるだろう。蛇へ攻撃しつつ、潤は退路が無い事に気付く。
 残弾が切れ、マガジンを入れ替える。尾や腹の攻撃では、致命傷を与えられない。
 このまま戦闘が長引くのは上手くない。蛇が暴れたせいで埃が舞い上がり、廊下の状況は悪化し続けている。
 リロードを終え、覚悟を決める。階段を駆け上がり、潤はそのまま蛇の背へと飛び乗った。

 窓の割れる音が聞こえ、サンディの背後から、懐中電灯の光が差し込まれた。
 巻き上がる埃の向こうで、蛇が背後を窺っている姿が照らし出される。
「今っ!」
 一気に踏み込む。弧を描く蛇の喉へ、刺突を繰り出す。血と体液を噴出しながら、蛇がサンディに向き直る。
 間合いを取り直し、盾を構える。部が悪い。細身の刃で行う刺突では、巨獣に与えるダメージを測り辛い。確実に体力を奪っている自信はあるものの、終わりが見えない。
 逡巡するサンディの横を、岩十郎が駆け抜ける。廊下の高さを一杯に使い、バスタードソードを振り下ろす。蛇の口先が縦に切り裂かれる。が、直後に蛇の突進が岩十郎を襲う。
 引き戻したバスタードソードで受けるが、吹き飛ばされる。その背後で、銃声が鳴った。
「!?」
 サンディが振り返ると、クロスフィールドに撃ち落された兎と眼が合う。しかし、交差は一瞬。兎の視線は直ぐに岩十郎へと向けられた。
「ガンジュウロウ!」
 サンディの声に、岩十郎も振り返る。しかし、蛇に吹き飛ばされた状態では、迎撃の姿勢に入れない。
 兎が跳ぶ。岩十郎は即座に武器を手放した。
 両腕を顔の前で揃える。兎の爪が食い込み、激痛が走る。瞬間、全筋力を膨張させた。
「サンディ!」
 叫びながら、身体を回す。爪を巻き込まれ、兎の体が空中で静止する。
 ハミングバードが再び舞う。細身の剣に脳を貫かれ、兎キメラは絶命した。

 武器を手放した岩十郎へ、蛇の牙が迫る。
 二人の剣撃の痛みからか、蛇は背の重みに気付かない。
 サンディが兎から剣を引き抜く。蛇へと向き直った彼女は、開かれた口と、その頭に狙いを定めた潤の姿を見た。
 「フリージア」のマズルが瞬く。頭を打ち抜かれ、蛇の動きが止まる。
 サンディが跳ぶ。渾身の突き下ろし。上顎を、下顎を貫き、切っ先が床に刺さる。
 口を縫い止められた蛇へ、銃弾の雨が降り注ぐ。数度、体を跳ねさせた後、蛇キメラは動かなくなった。


「リロードします!」
 レヴィアが叫び、連が応じる。銃弾のリレーは猿を追い詰め、防戦に追い込んでいる。
 しかし、レヴィアが参戦した直後から、猿は小部屋へ逃げ込むそぶりを見せ始めた。見張り役が居なくなった以上、部屋に隠れさせる訳には行かない。
 足止めの為に使う弾が増え、攻撃の効率が落ちる。レヴィアの火線を意識しながら、連は猿の背後へと回り込む。当然、数発の電撃を浴びてしまう。
「くぅ」
 痛みに堪えながら、猿への射撃を繰り返す。脳裏でカウントしている残弾数が1になる。
 連がリロードの為に物陰に入る。タイミングを合わせ、レヴィアはガトリングを掃射する。
「素早いければ弾丸に当らないと思うのは間違いよ‥‥弾幕で強引にでも当ててみせるから」
 弾丸の一部が猿の足を捕える。が、打ち返された電撃を回避する間に起き上がられてしまう。
「逃がしません!」
 リロードを終えた連が攻撃に戻る。徐々にではあるが、猿の体から俊敏さが失われていった。
 猿の体が沈む。レヴィアは好機と見て、ガトリングシールドを深く構えた。
「無抵抗な子供を屠ったんだ‥‥無残に死ぬが良い!」
「駄目ッ」
 銃弾と連の声が交錯する。猿は体を跳ね上げ、大きく跳躍していた。天井の電灯を掴み、勢いをそのままに跳躍する。同時に放たれた電撃が、レヴィアを襲った。
 レヴィアが身を床に投げ出して避わす。連は猿の腕を狙い銃弾を放つ。猿の肘が千切れ、片腕が電灯に残る。
 だが、猿はまだ息絶えては居ない。鮮血を撒き散らしながら、ロビーの出口へと駆け出した。
「悪いけど、逃がす訳にはいかないわ」
 レヴィアがガトリングを構える。が、弾切れだ。
「しまった‥‥!」
 連の射撃が外れる。猿が出口へと駆け込む。その前に、漆黒の衣が立ちはだかる。
 猿が最後の力を振り絞り、目の前の影へと電撃を放つ。影‥‥巴は、避ける素振りすら見せず、機械剣を手にとった。
「相性、良いんだよね」
 電撃が巴を包み込む。しかし、その肌に届く事は無い。
 レーザーの射出音と共に、閃光が疾る。
 廃墟の前に、二つに焼き割かれた猿の体が転がった。






「子供も犠牲者と言うのが辛過ぎるわ‥‥。自分は運が良すぎたのかな‥‥?」
 墓石を前に、レヴィアがポツリと漏らす。
 廃墟での戦いから3日が過ぎた。被害者の葬儀は合同で行われ、傭兵達は助力を惜しまなかった。
 友を失った学生達、僚友を失った大人達、そして、夫や息子、或いは両方を失った家族達。彼等の嗚咽を思い出し、連は拳を握り締める。
 岩十郎が連の肩に手を乗せる。振り向いた連は、泣いているわけじゃない、と呟く。ただ、彼女の肩は小刻みに震えていた。
「もういいのか?」
 クロスフィールドが呼びかける。皆が声の先に視線をやると、首に包帯を捲き、花束を持ったグロウランスが立っていた。
「皆には迷惑を掛けた。すまなかった」
 グロウランスは7人に詫びを告げ、墓へと向き直る。花束と酒瓶を供えようと墓前を見ると、別の瓶が置かれていた。
「ガキどもには少し早いかもな」
 酒瓶の主、クロスフィールドが苦笑する。グロウランスの表情は変わらなかったが、少しだけ肩の力が抜けたようだった。
 グロウランスが下がると、潤が一歩前に出た。その手には、遺族から与った金色の剣が握られている。
「まだ、夢に酔える年頃だったのでしょう。残念です」
 金色の剣を墓前に掲げる。その後ろで、サンディが静かにフルーレを抜刀した。
「主よ。死者に等しき安らぎを与えたまえ」
 ゆっくりと、フルーレと金色の剣が重なる。快い金属音が、傭兵達の心にだけ響いていた。