タイトル:最前線に安眠をマスター:鴨山 賢次

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/25 01:13

●オープニング本文


「頭‥‥、っ痛‥‥」
 それに気付いたのは、二段ベッド上段で眠っていた衛生兵のロウドだった。
 同室のツァートがどうした? と覗き込む。耳を塞いだロウドの口から、呻きと共に一言零れた。
「音が、聞こえる」
 医務員にロウドを任せると、ツァートは異変の報告へ向かった。

 ピレネー山脈の麓、パールネックレスによって押し戻された前線では、未だバグアとの衝突が続いていた。
 ツァートやロウドの居る駐留地も、その戦線を構築する陣の一つだ。主な任務は監視だが、キメラの侵入を防ぐ役割も担っている。
 駐留地には現地の古い学校を使っていた。司令部の壁には所々ヒビが入り、立て付けの悪そうな窓が並んでいる。
「音だと?」
 ツァートの報告を聞き、上官は書類から顔を上げた。
「は。頭痛を訴えながら、聞こえる、と言っておりました。キューブでありましょうか」
「キューブワームなら我々にも異変があるだろう。今日は目撃情報もない」
 上官が山脈を仰ぐ。窓からから見える山の弧は、平穏を保っているようだった。
 ヘルメットワームや大型キメラが出現すれば、流石に見張りが気付く。
「では小型キメラでしょうか。夜間に山から降りた個体には手を回せておりません」
「かもしれん。ここのところ、北の丘からキメラらしき獣の鳴き声が聞こえるという報告が入っている。当ってみる価値はあるな」
「鳴き声でありますか‥‥」
 確かに、夜中は声が聞こえていた。五月蝿く感じてはいたが、頭痛が起きる程ではなかった。
「ロウドは耳が良かったようですが、我々には聞こえない音を聞いていたのでしょうか」
 ツァートがキメラに襲われて負傷した時も、ロウドは必ず駆けつけてくれた。同じ部屋で過ごしながらも、異変に気付けなかった事が悔しかった。
「高周波か? 考え難いぞ」
「犬笛、聞こえるらしいです」
「探知機かあいつは」
 苦虫を噛み潰したような顔をする。上官はデスクの隅に置かれた電話機を引き寄せた。 
「調査隊を派遣しますか?」
「小型とは言え、キメラ相手に一般の歩兵が向かったところで損耗が大きいだけだろう。待機中のKVパイロットを回す訳にもいかん。
 本部に頼んで、傭兵を回してもらおう。ツァート、お前は北の丘には詳しいか?」
「基地を設置する際に調査に入っております」
「では、傭兵への対応はお前に任せる。可能な限り協力してやれ」
「了解。しかし、鳴き声が頭痛の原因とは限りませんが」
 ダイアルを押しながら、上官は嘲笑って見せた。
「その時は、俺がぐっすり眠れるようになるのさ」

 彼の部屋も北側らしい。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA
虎・紅海(ga8980
16歳・♀・BM

●リプレイ本文

「丘だ、っつー割には結構広いんだな。それに高ぇ」
 虎・紅海(ga8980)が地図を片手に呟く。見上げれば木々の隙間から、青い空が顔を出していた。
「他の山が高いですからね。基地で説明しました通り、崖や急な斜面はありません」
 その分、平らな場所もありませんが。駐留地から傭兵達を案内してきたツァートが言った。
「高周波を出すキメラですか? 向こうも変わったのを用意したものです」
「犬笛の様な高周波とすると‥‥。今回のキメラは犬、もしくは狼の係累だろうか?」
 篠崎 公司(ga2413)と白鐘剣一郎(ga0184)が意見を交換している。
 篠崎も高周波を聞き取れる体質らしい。ブラウン管の作動音を聞き分ける事も可能だそうだ。
「虫じゃねーッスかね? わかんないッスけど」
 アサルトライフルを肩に掛けたエスター(ga0149)が、森の様子を観察している。
「私が聞いた鳴き声は獣のそれでした。虫では無いと思いますが」
 ツァートが言うと、石動 小夜子(ga0121)がほっと息を吐いた。虫は苦手らしい。
(小さいキメラとなると、注意深く探さないとならないわね)
 森に入ると傭兵達は口を閉ざした。アズメリア・カンス(ga8233)は足音に注意をしながら、キメラの痕跡を探す。自分達の音を殺すだけでなく、周囲の物音を聞くことも怠らない。ツァートから一定の距離を保ちながら、探索を進めていく。
 南雲 莞爾(ga4272)は樹上や茂みにも気を配っていた。キメラを探すだけでなく、足場の状態、木々の枝の高さや太さ、石や落ち葉の量を、一つずつ記憶に刻んでいく。周囲の状態をどれだけ把握しているかが、遭遇戦の結果を左右するからだ。

 傭兵達は数十分の捜索で数匹のキメラを発見し、問題なく殲滅していた。
 リスや猫科の小型キメラで、いずれも戦闘力の低い個体ばかりだった。
「さて、そろそろ散るとしようか」
 周囲にキメラの気配が無いことを確認し、剣一郎が提案する。
 索敵を担当しているA班の紅海、莞爾、小夜子が頷く。探索範囲を書き込んだ地図とトランシーバーを全員で確認しあい、傭兵達は行動の範囲を広げていった。


 ハンドアックスが一閃する。紅海が跳躍し、キメラの登った枝を叩き切る。
「くったばれぇっ!」
 落下して受身を取るキメラに追い打ちをかける。キメラが動かなくなると、紅海はトランシーバーを取り出した。
「こちら虎、5匹目撃破だ」
 個別で行動するようになり、キメラとの遭遇頻度は上がっていた。臆病な小型キメラが多いため、集団で行動している間は姿を隠していたようだ。

「こちら白鐘。俺も4匹目を始末したところだ」
 一瞬の加速では3名に劣る剣一郎だったが、発見したキメラを討ち漏らす事は無かった。
 常に風向きを意識して行動し、発見したキメラに気づかれる前に一撃で抛っていく。
 懸念していた犬科のキメラには出会わなかったが、油断する事無く歩みを進めていった。

 蝉時雨と菖蒲を使い分け、小夜子は次々にキメラを倒していく。
「石動です。8匹目撃破、損傷なし。今のところ大物は見当たりませんが、矢張り数が多いですね」
 瞬天速を駆使したそのスタイルは確実だった。問題はキメラが臆病過ぎるところだ。単独で動いているキメラを見つけても、一撃で仕留めなければ逃げられてしまう。
 しかし、小夜子は徐々に減っていく錬力を把握しながらも、討ち漏らしを許すつもりは無かった。

 逆に、錬力を温存していたのは莞爾だ。2匹目と戦闘した時点で見切りをつけ、急接近以外でのスキル使用を断っていた。
「こちら南雲。3匹目を発見した」
 樹上のキメラを見上げ、小銃を構える。素早く照準をあわせトリガーを引くと、莞爾は疾走する。
 命中した弾丸がキメラを吹き飛ばす。落下する先には、白刃が待ち受けていた。
「クリアだ」
 あまりの小物に興味を失ったのか、莞爾は一言だけ報告を済ませると、次の目標を探し始めた。

 大地を踏みしめる感触が変わっていく。しっとりとした土から、さらりと乾いた砂へ。
 最初に森を抜けたのは小夜子だった。それまで目の前に延々と続いていた木々の網が、唐突に消える。
(いけない。進み過ぎました‥‥)
 一人で森を抜けるわけには行かない。少し引き返すと、小夜子はA班に連絡をとった。
「石動です。ずいぶん進んでしまいました。岩肌の目の前まで来ています」
「後ろに居るぜ」
 紅海が木の間から姿を現した。残りの二人も近くに居るようだ。
「一旦集合すんのか?」
 そう言う紅海の腕には、幾つか裂傷がある。ハンドアックスを古木に立て掛け、傷の手当てをはじめた。
「それもいいのですが、少し困りましたね」
「ん? 何が?」
「B班と距離が開き過ぎています」
 小夜子が表情を険しくする。発見したキメラが小物過ぎたのだ。撃退が容易かったため、一度も集合せずに探索を続けてしまった。
 互いの距離に気が配れなかったのは失態だった。

 剣一郎が自分のミスに気付いたのも同じ頃だった。
「護衛班、応答しろ。そちらの状況は?」
 応答が無い。地図を取り出し、ツァートに案内を頼んだルートと自分の位置を確認する。全力で向かったとしても10分近くかかる。
(戻るか‥‥)
 剣一郎が踵を返したとき、彼のトランシーバーに反応があった。
「斑鳩か?」
『ツァートです! 現在キメラの群れと交戦中。数は13!』


「ツァートさん、自分の側を離れないで下さい」
 公司が長弓「鬼灯」に矢をつがえ、放つ。黙々と。彼我の距離を瞬時に把握し、最も脅威となる相手を打ち抜く。
 深海を思わせるその目が見据えるのは、己に迫るキメラなのか。その表情からは何も読み取れない。
 猫のようなフォルムの身体を鱗で覆った、自然界には有り得ない生命が、次々と飛び掛ってくる。
『ッギィイイイィィッ!!』
 矢を受け、吹き飛んでいくキメラの声に、公司の目に濁りが浮かぶ。
「違う」
 その呟きを聞き取れたのは班の前方でクルメタルP−38を構えていたアズメリアだけだった。
 いつでも月読を抜刀できる姿勢を保ちながら、ツァートから離れないように位置取っている。
 重量のある自動拳銃を操り、迫りくるキメラの額に穴を空ける。数が多い、まだ前に出るわけにはいかない。
 冷静に、着実に、敵の戦力を削る。銃器ではスキルを使えない。焦りを意思で封殺し、マガジンを交換する。
「ツァート、白鐘に連絡してくれッス」
 ツァートに向って叫びながら、エスターはアサルトライフルのサイトを覗き込む。
 バースト射撃と照準変更を繰り返しながら、鋭角狙撃でキメラの四肢を打ち抜いていく。
 公司とアズメリアのタイミングを見て、必要な場所へ弾を撒く。近距離に迫った個体には強弾撃を使用し、止めを刺す。
 火力の低いB班ではあったが、その射程の長さと互いのフォローによって、効率的に戦闘を進めていた。
 キメラとの距離は徐々に狭まり、傭兵の手傷も増えていたが、敵の数は半分まで減っている。
「白鐘さんと連絡がつきました。合流まで10分はかかるそうです」
 通信を終えたツァートがハンドガンを構える。SESを搭載していない通常の火器ではキメラ相手に効果は無いが、軍人としての立場が、棒立ちを許さない。
「オッケーッス。この調子なら、戻ってもらう必要も無いッスね」
 リロードしながら、エスターが応える。
「了解です。連絡しておきます」
 ツァートが再度通信を試みる。残り、4匹。

 アズメリアがそれに気づいたのは、優勢に気を緩めなかったからか。
「エスターさん! 右です!」
 声に反応したエスターが銃身を右に向ける。迂回していたのか、2匹のキメラが飛び掛ってきた。狙いはエスターとツァート。
 公司とアズメリアも反応するが、立ち木とツァートが邪魔で射線が確保できない。
「危ねーッス!!」
 迎撃を断念したエスターが、ツァートに覆い被さる。牙をむいたキメラがエスターに迫る。
「エスターさん!」
 その間に一つの影が飛び込んだ。斑鳩・八雲(ga8672)だ。自身をキメラにぶつけ、1匹を弾き飛ばすが、もう1匹の牙が八雲の左肩に突き刺る。
 痛みを堪えてキメラを引き剥がすと、もう1匹に投げつける。ダメージが大きく、八雲はそのまま意識を失ってしまう。
 起き上がり、2匹のキメラが八雲に向けて再び牙を剥く。しかし、その脚が大地を蹴る事は無かった。
 二閃。
 アズメリアが抜き払った月詠によって、キメラは4つの肉片に変わる。戦闘中、ダークファイターに背を見せる。愚行のツケだった。
 しかし、背を向けたのはアズメリアも同じだった。
「伏せるッス」
 体勢を立て直したエスターが、ライフルをアズメリアに向ける。地に伏したアズメリアの向こうに見えたのは、先ほどと同じ2匹のキメラ。
 だが、錬力は既に銃身に行き渡っている。同じ失敗は有り得ない。
「Rest in Peace!(安らかに、眠れ!)」
 フルバーストで放たれた20発の弾丸がアズメリアの頭上を飛び越えていく。地に落ちた薬莢がぶつかり合い、硬い音を立てた。

「斑鳩!」
 エスターが八雲に駆け寄る。息はある。
「すまねーッス‥‥」
 救急セットを取り出し、エスターは八雲の手当てを始めた。
「大丈夫ですか?」
 アズメリアがツァートを助け起こす。幸いツァートに怪我は無い。
 心配そうに八雲を一瞥すると、アズメリアは周囲の警戒に戻った。

 残りのキメラ2匹は公司が片付けていた。
 公司は自らが射止めたキメラに近づくと、その身体を調べる。その目は依然青く、緊張は解けていない。
「どうしました?」
 八雲の手当てを手伝いながら、ツァートが問いかける。
「白鐘さんには話したのですが、自分も高周波が聞こえる側の人間です」
 覚醒を解き、公司は語り始める。
「犬笛は試した事はありませんが、ブラウン管の作動音は聞こえるんですよ」
「それが何か?」
 今のキメラの鳴き声は、ツァートが聞いたものと同じだった。群れを潰した以上、依頼は完了したはずだ。
「先ほどの泣き声、ただの声でした。高周波は含まれていない」
 トランシーバーを取り出し、公司はA班に通信を試みる。
『南雲だ。どうした?』
「篠崎です。皆さん、気をつけてください。そちらが本命です」

「‥‥だ、そうだ」
 蝙蝠に気をつけろ、と公司は言う。
「外にはそれっぽいのは居ねぇしな? 入るしか無いんじゃねーの?」
 双眼鏡を覗き込み、山肌を観察しながら紅海が言う。
 A班の四人は森の中で集合し、最も近い洞窟の前に移動していた。唯一ライトを準備していた南雲を先頭に、全員が抜刀した臨戦態勢で洞窟に入る。
 ツァートの説明の通り、洞窟の中に高低差は無く、天井までは3メートル程ある。長身の紅海や剣一郎でも楽に歩けた。
 莞爾が歩みを止め、腰を落す。疾風脚を使用し、軽くステップを刻みながら呟いた。
「来るぞ」

 四人の耳には何も聞こえなかった。空気の振動が、攻撃者の存在を知らせる。視界が揺れ、平衡感覚が狂う。
 不意を突かれていれば、そうなったかもしれない。
 しかし彼らは攻撃がある事を知っていた。常人では立っていられないその咆哮も、精神を集中させた能力者の抵抗力には効果が無かった。
 暗がりから、体長30cm近い、蝙蝠のフォルムをしたキメラが飛び出してくる。その数は11匹。
 不似合いな牙を剥き出しにし、莞爾目掛けて飛び込んでくる。
 蝙蝠の聞こえぬ咆哮は、同時に物体の探知でもある。しかし、予め縦横無尽に位置を変えていた莞爾にはその探知も効果が薄い。
 予測、準備、経験、そして信頼の成せる技か。
 身を反らし、軸をずらし、横へ跳ね、或いは切り落とし、神がかった身のこなしで、莞爾は11匹の攻撃を全てを躱しながら、更に4匹を打ち落としていた。
 討ち漏らしは7匹。しかし問題は無い。莞爾は自分の後ろに誰が居るのかを知っている。
 金色の輝きを身に纏い、月読を青眼に構えたその男。
「天都神影流、白鐘剣一郎‥‥推して参る」
 小さな命だとしても、キメラ相手に油断は無い。
「一匹も逃がさん。行くぞ!」
 莞爾に攻撃した後のキメラ達はその速度を殺がれている。愛刀を振るう剣一郎の前に屍が積み重なる。
 その覇気に圧されたのか、キメラ達が向きを変える。踏み込んだ剣一郎の斬撃でまた1つ屍が増える。
 洞窟の奥に戻ろうとするキメラ達だったが、そこには莞爾が待ち受けている。
 掃討劇が始まろうとしたとき、新しい羽音が聞こえてきた。

「後ろですって!?」
 小夜子が振り返り、入り口から飛び込んでくる蝙蝠キメラを迎え撃つ。
(洞窟は3つ確認されています。たいした深さもありませんし、風も通っているのでガス溜まりの心配もありませんよ)
 ツァートの言葉が脳裏をよぎる。仲間の声に呼ばれたのか、別の洞窟に隠れていたキメラが襲ってきたのだ。
 森の探索で錬力を使っていた小夜子には、動きに莞爾程のキレが無い。飛び込んできた3匹を叩き落すも、その牙で負傷してしまう。
「んな、ろぅっ!」
 十分な余力を持っている紅海が、小夜子に群がるキメラを獣突で弾き飛ばす。
 しかし、一撃では倒しきれず、数の多いキメラ相手に細かな被創が増えていく。軽装の彼女には辛い状況だ。
「小夜子、抜けるぞ! 根性絞り出せよぉっ!」
 荒い口調の紅海の意図を、小夜子は一瞬で理解する。錬力の残量が限界に近づくことを覚悟しながら、二人は瞬天速と瞬速縮地で洞窟から抜け出した。
 即座に振り返り、武器を構える。洞窟内とは違い、外には十分な広さと明るさがある。飛び出すしか道のないキメラには、呼吸を合わせ武器を振るう二人の攻撃は耐え切れなかった。

 数十分後、3つ目の洞窟から莞爾と剣一郎が出てきた。戦闘が行われた様子はない。
 錬力が尽きた体で討ち漏らしの確認を訴える小夜子を押し止め、残り2つの洞窟の調査を行った二人だったが、キメラの姿は見当たらなかった。
 残っていたキメラは、全て最初の洞窟に飛び込んできたようだった。
「これで基地のお二人とも、ゆっくりと休めますね」
 安心したように小夜子が言う。
「これで少しは安眠出来るようになると良いな」
 微笑を浮かべ、剣一郎が月読を鞘に収める。
 傭兵達の戦いは終了したのだ。


 駐留地に帰還した傭兵達を待っていたのは、軍人達の歓迎だった。
 鳴き声による睡眠妨害だけではない。自分達の近くに、キメラが集まっている。そういった不安も彼らの負担となっていたのだ。
 ツァートが上官に報告し、次いでロウドの安否を尋ねる。頭痛は未だ治まっては居ないが、医務室のベッドの上で「声は聞こえなくなった」と漏らしたらしい。
「傭兵諸君、ありがとう。これで我々も戦線の維持に全力を向けることが出来る」
「本当に、ありがとうございました」
 上官の後ろにツァートが並ぶ、一斉に軍靴を鳴らし、軍人達は敬礼した。
 軍人達に敬礼を返し、傭兵達は駐留地を後にするのだった。