タイトル:軍曹の挑戦!マスター:笠木

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/17 02:04

●オープニング本文



 ULTの依頼募集掲示板。
 いつもは参加者募集の用紙で埋め尽くされるその場所に、大きく派手な一枚の紙が張り出されていた。

  『挑戦者募集中!』

「これ書いたやつ‥‥何がやりたいんだ?」
 大胆にも殴り書きで書かれたその一文の下には、細々とした説明文。
 説明文を読んだ傭兵は皆、腑に落ちない表情をしている。どうやらシミュレータのテストを傭兵に依頼したいらしい。詳しい内容は実際に受けてみないと分からないようだ‥‥。
 この文面からいって普通のシミュレータではないことは間違いなさそうだった。



 ULT奥深くのシミュレータ室。
『ぐんそーのひみつくんれんじょう!』と書いてある、手作り感溢れる暖簾をくぐった先にそれは在った。
「お前らよく来た!俺はお前らを歓迎するぞ!」
 暑苦しい歓迎の挨拶が傭兵達を出迎えた。声を発したのは中年の男性。軍服を豪快に着こなし、襟には軍曹の階級章を付けている。見るからにエネルギッシュなこの軍曹はシミュレータ装置と思われる機械の前で仁王立ちをしていた。
「なんだ‥‥この空間は?」
 一人の傭兵が辺りを見渡した。正面にはシミュレータ装置。その右側には移動式の黒板。黒板の手前には机と椅子が大量に並んでいる。シミュレータ装置さえ無視すれば普通の学校の教室のような部屋だった。
「そんなとこでボケっと立っていないで座ったらどうだ?」
 はやくこっちへこいとでも言うように、軍曹は傭兵達を手招きし、椅子に座るよう促した。
 このまま突っ立っていても先へ進まない。傭兵達はしぶしぶ軍曹の言葉に従い着席していく。軍曹は傭兵達の着席を確認すると、一人一人の顔をじっくりと見渡す。そして口端を引きつり上げ笑った。黒板の前にある教卓に両の手をつき軍曹は言う。
「今回、お前らの為に特別に特別なステージを用意してやった。これを見ろ――」
 傭兵達に一枚のプリントを配布する。全員にプリントが配られたことを確認し、軍曹は説明を始める。
「このシミュレータ装置には、今まで確認されているキメラのデータが入力されている。これさえ使えば、現場に行かずともキメラと戦闘できる優れものってわけだ。シミュレータだからな。どんなに強い敵と戦って負けても死ぬことはない。普段は試すことができない攻撃方法や連携を模索することができるだろう。‥‥そこで、だ」
 一呼吸の間を入れる。軍曹の顔が次第に真剣な表情になっていく。
「お前らは普段、自分の能力を全て使い切っていると言い切れるか? 力強い者に素早い者、職業の違いによる戦い方の違いもあるだろう。だがな‥‥どんなに能力が高くても作戦同行者と意思疎通ができ、連携をとれなければその能力を全て使い切ることは難しい!」

  バン!

 軍曹は両の手を教卓へと叩きつける。シミュレータ室に音が反響した。
「このシミュレータ室は『連携』を傭兵に考えてもらう為の場所だ。まあ、お前らも分かってるとは思うが単に『連携』と言っても様々な形があるだろう。それを模索して欲しい」
 さて、と区切りを置くと軍曹は真剣な表情を崩した。
「堅苦しい前置きはここまでだ。要は、あれだ。仲間ともっと協力して攻撃してみろってことだな」
 ガハハ。と豪快に笑いながら軍曹は移動する。シミュレータ装置の前まで歩き、傭兵達を呼び寄せた。
「それじゃあ、実際にやってみっか? 今回は初めてだからな難易度は標準辺りに設定しておくか」
 端末を操作し、シミュレータの設定を入力していく。
「ふむ。硬いやつが二体にすばしっこいやつを‥‥五体ぐらいでいいか。後は平均的なやつを何体か‥‥と。戦場は森でいいな?」
 キメラとフィールドの情報入力は終わった。後はプレイヤーである傭兵が機械に接続するだけでシミュレーションは開始される。
「誰か試しに一回やってみっか?」
 軍曹は後ろに控えていた、二人の傭兵に向かって声をかけた。指名された傭兵は自慢の武器を掲げ、前へ出た。
「あいつらとは戦いなれてるしな。楽勝だぜ!」
 傭兵の自信に満ちたセリフを聞くと、軍曹は鼻で笑う。
「特別だと言っただろう。そう、やすやすとクリアなんてできねえよ?」
 二人の傭兵を乗せ、シミュレータが稼動する。

 ―――数十分後

「楽勝だったな!」
 意気揚々とシミュレータから傭兵が出てきた。
 想定ではもっと苦戦するはずだったのに‥‥。
 難しいはずの課題がなんなくクリアされた軍曹は冷や汗をたらりと流す。
 暫くして無言のまま端末まで移動し、物凄い勢いでキーボードと格闘し始めた。 
「簡単にクリアさせるわけにはいかねえんだよ! ぜってー今のは武器のおかげだもんな。ふふふ‥‥こうなりゃヤケだ。武器はこちらで指定する物をつけてもらう。お前らの武器は―――」

 「アーミーナイフとハンドガンだっ!」

「まじかよ? こいつ大人げねえ‥‥」
 軍曹の奇行を大人しく見守っていた傭兵から冷静なつっこみがきても軍曹はウロタエナイ!
 そんなことは聞こえなかったとばかり、ガハハハと半ば強引に笑い飛ばす。
「いーんだよ! これなら歯ごたえがあって面白いだろ? ちなみにSESは搭載してあるから安心しなっ。それにサイエンティストの為に俺様が特別に超機械を手配しといた。使うなら言ってくれ。当然、弱いものだから安心しな?」
 パンと両手を叩き、軍曹は宣言する。
「よし。言っとくがお前らじゃぜってークリアできないぜ? 宣言してもいい。クリアできたらご褒美でもなんでもくれてやる!」
 ガハハハとやはり軍曹は笑い、シミュレータを稼動させた。


 ―――軍曹の挑戦の始まりだ。


●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
桂木 一馬(gc1844
22歳・♂・SN
火神楽 恭也(gc3561
27歳・♂・HG
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP

●リプレイ本文


  データ読み込み開始。
  エネミーデータ読み込み‥‥一部修正点あり‥‥完了。
  特殊設定にてマスターを読み込み‥‥完了。
  連携による攻撃力加算を組み込み‥‥完了。
  バトルマップ、森林。難易度Bクラス。戦闘時間制限なし。
  全工程読み込み完了―――シミュレータを開始します。

 シミュレータが開始されると同時に傭兵達の手の中にアーミーナイフとハンドガンが現れた。
「今後の為にもって参加したが‥‥ハァ」
 火神楽 恭也(gc3561)はマガジンに弾が入っていることを確認し、近くの木に試しとばかりに銃弾を叩き込む。
「まぁ、使う武器の性能確認はやっておいて損は無いだろ?」
 武器の点検をしている恭也を見て、AUKVを装着した沖田 護(gc0208)が近寄る。
(「銃も練習しよう。技を増やすんだ」)
「あの。僕に銃の扱い方を教えて頂けませんか?」
 この機会に銃の扱い方を覚えてもっと強くなる。恭也は護の真剣な眼差しを見て、いいだろうと了承した。護は恭也に感謝し、ハンドガンを構えた。
「ええと、安全装置はどれですか?」
 恭也は苦笑いを浮かべながらも丁寧に護に扱い方を教えていった。

「んー、銃とかガラじゃねぇんだよな‥‥誰か私の銃をナイフと交換してくれねぇか?」
「構いませんよ」
 空言 凛(gc4106)のお願いに桂木 一馬(gc1844)は了承し、凛とそれぞれ武器を交換する。
「俺もナイフより銃のほうが慣れてるからな。こっちのほうがいい‥‥それに一度二丁拳銃ってのをやってみたくてね」
 ハンドガンを両の手に持ち、構える。それにしても‥‥。
(「ここまでして負けたら軍曹がどうするか見ものだな」)
 凛もナイフを逆手持ち、それぞれ両の手に収めた。
「さて、皆いいだろうか?」
 それぞれが準備が整った頃合を見計らって、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が皆に集合を告げる。
「作戦を決めよう」
 そして傭兵達は話し合う。
 いくらかお互いの持論を交えながら討論を重ねた結果、班分けが纏まった。

 A班:沖田 護、火神楽 恭也、ネイ・ジュピター
 B班:ホアキン・デ・ラ・ロサ、桂木 一馬、空言 凛

「私と組むのはアッキーとカズだな! よろしく頼むぜ!」
「アッキー‥‥?」
「カズ‥‥?」
 聞き慣れぬ呼称にホアキンと一馬は首を傾げる。凛は二人に近づくと肩を軽く叩き、気にするなと快活に笑った。
 作戦は決まった。後は実践するのみ。
「お前ら準備はいいか? そろそろ始めっぞ。くれぐれもシミュレータだと思ってせいぜい甘く見ないことだな」
 遠くにいた軍曹は傭兵達にそう告げると、自分はさっさと森の中に消えていった。それと同時に獣の遠吠えが響き渡る。
「‥‥どこまでやれるか」
 武器は最低限、敵は数多い。他人と協力し、お互いの力を引き出すことができるのか。無茶な設定だが、ホアキンには不可能とは思えなかった。

 ―――戦闘開始だ。



「罠を仕掛けやすそうな場所ですね」
 護はAUKVを巧みに操り、木の間を縫うように周囲を警戒しながら森の中を進んでいる。木が林立しているせいか視界の確保は難しい。一歩、また一歩。用心深く、森の奥深くへと足を進めていく。
「待て‥‥何かいる」
 先行していたネイ・ジュピター(gc4209)が右手を突き出し、後ろにいる味方の動きを停止させた。
「熊だ。作戦通りに動くことにしようぞ」
「「了解」」
 ネイの言葉を聞いた二人は心得たとばかりに動き出した。護とネイは距離を開け隠れ、恭也は二人の準備が終わったことを確認し、ハンドガンを構える。
 無言で頷き合う三人。恭也はタイミングを見計らいハンドガンを握る手に力を込める。
 銃声。
 恭也が撃った弾は熊型の腕に命中する。突然の横殴りにも近い攻撃に熊型は慌てて周囲を見渡す。恭也はそんな熊型を嘲る様に身を晒し、さらに銃撃を叩き込んだ。
「ほら早くこっちにきな」
 恭也は熊型を挑発する。自分が復讐すべき対象を見つけた熊型はまっすぐに恭也に向かって駆け出す。熊型は巨体に反して、その足は速い。ネイは木の陰に隠れながら、熊型との距離を冷静に測っていた。
 まだ‥‥遠い。まだ‥‥まだ‥‥いける!
 ネイは護へと合図を送る。護は合図に応じた。
「僕だって‥‥やれるんだ!」
 隠れていた木陰から飛び出し、熊型の側面を狙って射撃する。距離がそれほど遠くないこともあり、慣れぬ護の射撃でも熊型へ難なく命中する。思いもしなかった方向からの攻撃。さらに正面で待ち構えている恭也が援護射撃を繰り出した。熊型は虚を突かれ混乱する。その隙をネイは見逃さなかった。
「その隙‥‥頂くとしよう」
 護の射撃に合わせたネイの接近。同時に三方向から攻められる熊型にネイを発見することはできない。そして熊型の背後に回りこんだネイは熊型の首を切り裂いた。
「ふむ。いつもの刀ではないと少々調子が出ぬな」
 ドサ。熊型が倒れ、消え去り行く。ネイは今一度ナイフを振り、間合いと握り手を確認する。いつも使っている刀とは要領が全く違うが今のでコツは掴んだ。次はもっと素早く攻めることができるだろう。
「やりましたね、ネイさん。お見事です」
「‥‥まだこんなものではない。ほれ、次へいくぞ」
 護の賞賛をネイは素直に認めない。ハンドガンのマガジンを入れ替えつつ、自分に厳しいのか、と恭也は内心で思う。何はともあれ、一体目は被害もなく倒すことができた。順当にいけば余裕でクリアすることもできるだろう。あちらの調子はどうだろうか。恭也は無線機を取り出した。




『熊型を一頭撃破した。そっちはどうだ?』
 無線機から恭也からの連絡が入った。
「こちらは順調だ。熊型二頭撃破。特に問題はなさそうだ」
『そうか。何かあったら連絡してくれ』
 ホアキンは無線機をしまうと仲間に状況を伝える。凛は刻々と変化する状況に実戦と同じ雰囲気を感じた。
(「シミュレーターでも、戦いはワクワクするなぁ!」)
 両手を勢い良く合わせ、次の敵を探すべく周囲の警戒に移る。
 ホアキンは木の上に登る。木が林立しているせいかはっきりと視認できない場所が多い。懐から双眼鏡を取り出し周囲を観察する。
「‥‥‥っ」
 まずい。ホアキンは何かから逃げるように身を隠すと素早く木の下に降り立った。
「どうした?」
「軍曹がいた。こちらには気づいていないとは思うが―――」
 遠くにある、一際高い木の上にあたかも見せ付けるように座っていた。木の陰から軍曹がいた方角を再度確認する。
 確かに木陰からわずかに見える。あれは確かに軍曹だ。軍曹は先ほどホアキン達が戦闘していた場所を見やるとほくそ笑んだ。そして手元に端末を用意すると素早いキータッチで操作し始める。
「大人気ない軍曹は一先ず置いといて、先に障害を取り除こう」
「ラスボスは一番最後ってのが常套だもんな!」
 二人の意見にホアキンが頷く。無線機を取り出そうとするが‥‥途中で動作を止めた。近づいてくる熊型が見えたからだ。
「熊型か。桂木、作戦通りに。空言いくぞ」
「‥‥ああ」
「了解。アッキー」
 三人は熊型を迎撃するべく動き出した。


  軍曹の手元のモニタには、数多くの光点が記されていたが、今や時間が立つにつれ次第にその数を減らしている。
 「熊型撃破確認‥‥と。もう六体も撃破されてんのか。さすがといったところか」
  頭を右手で掻きながら、思案する。とはいえ、やるべきことは決まっているのだが。
 「難易度を上げるぜ。ノンアクティブからアクティブモードに変更」
  (「―――読み込み完了。さて、頑張ってくれよ」)


「ほーら、ワンちゃんこっちへおいで〜。美味しいエサが待ってるぜ〜?」
 凛が二匹の犬型の前に躍り出る。障害物が多い森の中で巧みに持ち前の素早さを活かし陽動する。
「‥‥そうだ、もっとこっちに来い」
 一馬は隠密潜行を使い、木の上からハンドガンを犬型に向け構える。弾丸を撃ち込むのにはまだ、早い。
 引き金を引く。両の手から放たれるいくつもの弾丸は犬型の鼻先を、体の隅々を掠めとる。犬型は思わず怯んだ。その隙を狙ってホアキンが動く。
 一気に距離を詰め肉薄する。すかさず左手のアーミーナイフで犬型の喉元を掻き切った。残る敵は一匹。
 ホアキンに少し遅れるタイミングで凛が迫る。方向転換を終え、犬型へと駆け出した。
 幾ばくかの時を与えてしまったせいか、犬型は体勢を立て直している。
 犬型は凛と向かい合い距離を測るように唸っている。そして、獰猛な牙をさらけ出し跳躍した。
 交差する。
 凛は犬型の牙を半身をずらし回避すると、すれ違い様に二本のアーミーナイフを交差させ、引き裂いた。
 崩れる犬型。だが、それも束の間。即座に立ち上がると空に向かって遠吠えを木霊させた。
 リロードを終えた一馬がハンドガンの射程に犬型を収め射撃する。打ち込まれる弾丸はやがて犬型の遠吠えをかき消した。

 ―――ザワザワ

 森がざわめき、蠢き立つ。
 確実に変化は訪れる。まるでざわめきが犬型の遠吠えに向かって近づいてくるように。
 いち早く変化に気づいたホアキンは素早く状況を確認する。
「バラバラに行動していたキメラがこちらに向かってきている」
 一体一体、確実に撃破するつもりだったのだが、こうなってはそれはもう望めない。
 唸り声。
 まるで狙っていたかのように熊型キメラが木々の間から飛び出してきた。



 そこから先の戦闘はまさに乱戦だった。
 迫りくる熊型と犬型の群れ。
 勢いに乗る熊型は凛に向かって鉤爪を振り上げる。凛からは熊型の攻撃はまったくの死角。避けることは適わず、咄嗟にアーミーナイフで凌ぐことで精一杯だった。
「ほら、お前の相手は俺だ! 遊んでやるからこっちへ来い!!」
 一馬は二連射を使用しハンドガンを乱射する。ホアキンは一馬を援護するように熊型へ近づいては後足首を狙い、行動力を奪う。
「ヒャッホォウ!」
 動きが鈍っている熊型へ、凛は襲い掛かる。格闘家としては熊とタイマンをしてみたいが今は我慢するしかない。
 倒れる熊型。ホアキンが喉元に尽きてていたアーミーナイフを引き抜いた。
 局地的には優勢だと言えるが木々に邪魔され、思い通りに援護することができない。
 三人はじわりじわりと後退を余儀なくされた。


   モニタに映る光点の残り数は少ない。
  「B班は後退か。A班は‥‥ほう」
   驚いた。確かにキメラの数はB班側の方が多かったが、それでも十分な数のキメラが居たはずだ。
  「やるじゃねえか」
   軍曹は口端を吊り上げ、笑った。
  「ま、それでも人型は無理だろうけどな」


 迫ってくるキメラは熊型二頭。後退しながらもなんとか数を減らすことに成功したが、休む暇もない連続した行動が続き、息が上がっている。
 逃げるべき背後から重苦しく岩がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「げぇ‥‥厄介なのがでてきたな!」
 背後から人型が二体出現した。岩に擬態していた人型は右手を大きく振りかぶり、拳を振り落とす。
 凛は咄嗟に横に跳躍しなんとか回避する。
「助太刀する。熊型を抑えるぞ」
 ネイの言葉が聞こえると同時に恭也の銃声が鳴り響く。
 ネイは走り出し、護はずいと前に出るとナイフを構える。‥‥護が思い描くのは一つのイメージ。
(「ナイフでキメラ戦‥‥あの人は本物相手でやった。だから、ぼくにも‥‥できる」)
 思い描くは憧れの大尉。あの人に少しでも近づく為にも全力を尽くす。
 ネイが自分の素早さに挑戦するように熊型をかく乱。護は気迫を込め、速度を緩めない熊型にナイフを突き立てた。
 凛も負けじと熊型を攻め立てる。一馬とホアキンの援護もあり難なく、崩れ去る。
 流れが変わった。残る敵は人型二体だ。
「コアを探せ。どこかにあるはずだ」
 それはすぐに見つかった。遠目から見ても明らかに取ってつけたかのように異質な存在が背中に突き出ていた。
「これだけデカければ狙う必要もないな。さっさと倒れろデカブツ!!」
「オッラァ! 一 撃 必 殺 !」
 一馬が凛が‥‥六人それぞれが持ちうるスキルを使用し打撃する。
 そして人型は――あっけなく崩れ去った。



「おいおい‥‥確かに見事だけどよ。人型はそんな弱くねえはずだぜ?」
 いつの間にか地に下りていた軍曹が近寄ってきた。人型のやられ方に不満を持っているようだ。
「またあなたの負けか?」
「ずいぶんと簡単なシュミレーションだな。おかげでいい暇潰しが出来たよ、軍曹」
 ホアキンと一馬は不敵に笑って軍曹を挑発する。
「いや、負けたってわけじゃねえけどよ。なんか腹立つな。おい」
「こんだけ有利な設定にしておいて、ま・さ・か負けるなんて事はねぇよな、軍曹さん?」
 ピク。凛の言葉に軍曹の顔つきが変わる。
「いい度胸だな。喧嘩うってんだろ? やってやろうじゃねえか」
 軍曹は中指をクイクイと動かし傭兵達を挑発する。
「徹底的にやろう」

 全員が持ちうる練力を全て使い切る覚悟だった。
 数を活かし死角を突いた傭兵達の全力の攻撃は、確かにいくつかは軍曹に直撃している。だが、軍曹は致命的なダメージを受けているようには見えなかった。
「死ぬ心配がないというのは締まりがなく退屈でもある。だが今は有効に活用させてもらおうか」
 限界突破。ネイは反撃を受けるのも辞さない覚悟で突撃する。まさに捨て身といってよかった。
「そういうのは関心しねえな。お嬢ちゃん」
「――な。我は!」
 勢いに乗ったネイの特攻を難なく回避する。
「最初に言ったよな? ここは『連携』を考えてもらう為のシミュレータだってな!」
 ホアキンが跳躍中の軍曹の足元を狙いソニックブームを叩き込む。着地と同時に、地面に突き刺さったホアキンの攻撃は軍曹の体勢を崩すのに十分だった。
 軍曹が倒れた隙を狙い、凛が関節技を決め、護がハンドガンを突き立てる。
「チェックメイト。いかにヨリシロでも、口の中で撃てば終わりです。あのギガワーム内で、この目で見ました」
 護は過去の記憶を回想する。そうあれは――。
「主導権を握った瞬間が慢心を生むのだ気を付けよ!!」
 ネイが護を突き飛ばす。同時に銃声が鳴り響く。
「げ。とっておきだったのに」
 軍曹の腹のアーマーが焦げ落ち、そこから銃口が見え隠れしている。そして苦笑いを浮かべながら両手を挙げた。
「ここまでだ。これがなくなったら俺に勝ち目はねーな。お前らも、いいだろ?」
 傭兵達は渋々頷く。これまで有効な攻撃が作り出せなかったのも事実だ。『連携』をもう少し煮詰める必要性があるだろう。


 ―――何はともあれ。
「結構面白かったな」
「ふぅ、シミュレーターでも楽しかったぜ!」
 最初はどうなるかと不安に思ったが意外にこういうのも悪くない。恭也も凛も満足気だ。
「軍曹、もう一戦お願いします」
「ガハハ。ぶっちゃけもう一回やったら確実にボコられそうだから俺抜きでならいいぞ」
 護の元気溢れる一言に軍曹は豪快に笑って頷いた。