タイトル:【DoL】バトルオブDTWマスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/02 10:01

●オープニング本文


「ブラボーリーダーよりコントロール。第1警戒線上にて敵編隊と交戦中。凄い数だ。至急、応援をよこしてくれ!」
「コントロールよりブラボー1。直ちにアルファ隊とリマ隊を派遣する。それまで何とか凌いでくれ」
「エコーリーダーよりコントロール。進入してきた敵編隊は東部方面へと離脱した。損害2。パイロットの救助を要請する」
「ザザッ‥‥こちらチャーリー2! ワームどもの待ち伏せだ! チャーリー1墜落! 墜落! 脱出は確認できない。畜生!」

 無線機越しに聞こえてくる雑音混じりの戦況は、どう控えめに見ても地獄だった。
 五大湖周辺の工業地帯からバグア共を叩き出す──表向きには、そう発表されていた──解放作戦『Day of Liberty』。無茶な話だ。この地球上で最大の戦力同士がぶつかり合う最大の激戦区で、それも維持するのもやっとの戦場で、まがりなりにも攻勢に出ようというのだから。
 そして、最大の問題は。誰もがそれを分かっていながら、そうせざるを得なかったという点であり‥‥畜生。つまりは酷い事になるという事だ。今作戦がどう転ぶにしても、この五大湖の周辺は兵器の残骸と瓦礫の廃墟と血と肉とで埋め尽くされる事になる‥‥
 そんな地獄の機上にあって、他人事の様にそんな事を考えながら‥‥傭兵、鷹司英二郎は、滑走路へのアプローチを開始すべく、腹ペコの愛機S−01を旋回させた。
「こちらキロリーダー『Wild Hawk』。デトロイトコントロール、着陸許可を求める」
「デトロイトコントロールよりキロ1。現在、滑走路は緊急発進機の離陸を優先している。各KVは所定の位置に変形降下せよ」
 無茶苦茶だ。何もかもが無茶苦茶だ。
 鷹司は、苦笑を浮かべながら鼻息だけで溜め息を吐くと、僚機を引き連れて飛行場へと降下を開始した。

 デトロイト・メトロポリタン国際空港。
 デトロイト近郊に位置するこの飛行場は、今回の大規模作戦に際して滑走路が修復され、『前線』の『野戦飛行場』として運用されていた。
 管制塔には臨時の指揮所が設けられ、中央の卓上には大戦中さながらに巨大な地図と模型で両軍の配置が表されている。報告を受けて刻一刻と変わっていく卓上を睨み続ける士官たち。彼等の役割は、シカゴ攻撃及び地上部隊支援に参加したKVに補給と応急修理を提供する事と‥‥南東部、ワシントン方面から飛来する敵編隊を迎撃する事にある。
 ‥‥次々と飛来、離陸するKVの発進、着陸(降下)誘導に追われていた管制官たちは、レーダーに走ったノイズに心臓の鼓動を跳ねさせた。慌てて周波数を変更する。だが、ノイズは減るどころか益々その範囲を広げて彼等の『目』を侵食していく。管制官たちは互いに視線を交わして状況に間違いが無い事を確認すると、後方の士官たちに非常事態を宣告した。
 現象は、ヘルメットワームが接近した時に発生するものに類似していた。
「敵編隊に接近されたというのか!?」
「馬鹿な。哨戒機は全て健在、警戒線は維持されているはずだ」
 慌てふためく士官たち。報告はすぐに来た。
「地上の警戒員より連絡! 五大湖方面へと低空侵入する敵編隊を発見。敵編隊は爆撃機型と思しき中型ワームを含む。繰り返す、爆撃仕様中型ワームを含む!」
 ダンッ! と卓上地図に爆撃機を表す模型が置かれ、デトロイト方面へと押し出される。その近さに参謀連中の顔が一斉に青くなった。
「爆撃目標はどこだ? シカゴか、オタワか‥‥スーセントマリーという事もあり得るぞ?」
「気持ちは分かるが、今更デトロイトを抜かすな。この期に及んで工業地域の爆撃、という事はあるまい。十中八九、『ここ』に来るぞ」
 どの道やる事は一緒だがな、と呟きながら。基地司令は、固唾を飲んで見守る管制官たちに警報発令の指示を出し‥‥管制官たちは弾かれた様に席へと戻ると、その拳をボタンに叩き付けた。

 デトロイト・メトロポリタン国際空港、その滑走路脇のエプロン(駐機場)にて。
 失速ギリギリで低空侵入してきたキロ1こと鷹司機は、空中で人型に変形するとバーニアを一閃、ふわりと舞う様に着地点へと下り立った。即座に装輪走行でエプロンへと移動する。すぐに補給車両や整備兵たちがやって来て作業を開始する。
 鷹司はキャノピーを開けると、梯子も待たずに地上へと降り立った。腰に手を当てて伸びをする。能力者となって再び空に戻る事が出来たとはいえ、こうもミッションが続くと54歳の身には流石に堪える。
「お疲れ様です、大佐。これどうぞ」
 岩国時代から顔見知りの元海兵隊の整備兵が、鷹司にコーラの瓶とアルミの包みを寄越してきた。「もう大佐じゃないぞ?」と釘を刺しながら鷹司は有り難く受け取り‥‥包みから出て来たおにぎりにニヤリと笑う。
「盛況だな」
「オカゲサマデ。でも、KVでなければこんな無茶な運用は出来なかったでしょうね」
 本来、2500m以上の滑走路を6本擁するメトロポリタン空港ではあったが、作戦開始前に修復できたのはターミナル付近の2本の滑走路だけだった。だが、それでも、KVという特殊な離着陸方法を持つ兵器は問題なく運用できた。だが、元が民間の空港という事で地下指揮所や対空装備といったものはなく、防御面では非常に脆弱だ。
「つまり、この飛行場の命運は、KVとパイロットたちが握っているという事です」
 頼みますよ、と整備兵が鷹司の背を叩く。警報のサイレンが鳴ったのはその時だった。
「緊急発進。当飛行場に向けて爆撃仕様の中型を含む敵編隊が進攻中。発進可能なKVは直ちに迎撃態勢に入れ。目標の予想到達時刻は4分後‥‥」
「4分だとぉ!?」
 コックピットへと戻った鷹司が叫ぶ。とてもじゃないが補給作業は間に合わない。
「燃料補給だけなら間に合います。大佐は空中に退避して下さい」
 淡々と告げる整備兵。鷹司はそれをキッと睨むと、大声で怒鳴りつけた。
「バカ野郎! 諦めてんじゃねぇぞ! 何でもいいから間に合いそうな装備に弾込めろ。でなけりゃそこらにある装弾済みの武装を持って来い!」

●参加者一覧

響月 鈴音(ga0508
15歳・♀・ST
角田 彩弥子(ga1774
27歳・♀・FT
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
小森・ハルフェ(ga5104
16歳・♀・EL
雪村・さつき(ga5400
16歳・♀・GP
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM

●リプレイ本文

 爆撃仕様の中型を含む敵編隊が接近中。当飛行場まで約4分。
 その警報が鳴り響いた時、響 愛華(ga4681)は、綾嶺・桜(ga3143)が作ってきた太巻きを幸せそうにパクついていた。
「ぬ、警報!? 敵襲か!」
「わふぅ!? こ、こんな時に!?」
 両手に持った太巻きを交互に見ながらおろおろする愛華。思い切って2本いっぺんに口へと放り込み、もごもごと頬張りながら愛機へと駆け急ぐ。
「低空侵入かよ‥‥される側の立場に立つと、こりゃ随分とイヤらしいな!」
 シートのベルトを外しながら、角田 彩弥子(ga1774)は禁煙パイプをカリカリと噛み鳴らした。
「2分後に出るぞ! 2射分でいい、ミサイルをなんでもいいから持って来い!」
 立ち上がり、整備員たちに向かって叫ぶ彩弥子。顔を蒼ざめさせた若い整備員が、2分じゃ燃料補給と機銃弾の装填くらいしかできません、と応じた。
「ええっ!? そうなの!?」
 彩弥子機の隣り、自機のラダー(梯子)に足をかけた雪村・さつき(ga5400)が驚いて振り返る。
 彩弥子は小さく舌を打った。
「後方で燃料、機首で機銃、翼下でミサイル、平行作業で何とかならないか!?」
「無理ですよ! この混乱です。人手も足りない!」
 ミサイルくらい背負って持って来てやろうか。彩弥子が身を乗り出した時、機の無線機が冷静な男の声を伝えてきた。
「こちらキロリーダー、鷹司だ。取り合えず、皆、落ち着け」
 その声をコックピットで聞きながら、MAKOTO(ga4693)は「あれ?」と首を傾げた。なんだろう。聞いた事の無い筈の声なのに、どこかで聞いた事があるような気がする‥‥
「緊急発進です。燃料と主兵装の補給で良しとせねば‥‥一刻も早く発進して高度と距離を稼ぐべきかと‥‥」
 古河 甚五郎(ga6412)の言を鷹司は是とした。先発隊はとにかく先行して、武装を整えた後発隊の到着まで時間を稼がなければ‥‥
 コックピットでジリジリとした時間を過ごすパイロットたち。整備員たちが忙しそうに動き回り、必死の補給作業を続けている。燃料補給車から繋がるホース。レーザーは消耗部品を交換し、機銃には新たに弾薬が給弾され‥‥
 やがて、2分弱の時間を経て、各機とも随時、補給を終えた。
 整備員たちに敬礼一つ、キャノピーを閉めて滑走路に進入する鷹司機。エンジン音も高らかに滑走。離陸するやブースト点火、急角度で大空へと駆け上がる。その後に続いて離陸していく先発隊。後発隊の響月 鈴音(ga0508)と小森・ハルフェ(ga5104)が、コックピットから祈るような眼差しでそれを蒼空へ見送った。

「キロリーダーよりコントロール。タリホー。これより攻撃を開始する」
 先発隊の7機はブーストで高度を稼ぎつつ最短距離を飛行、すぐに地上スレスレを飛行する敵編隊を目視で確認した。
 爆撃機型と思しき中型2機。その周囲に三角形を作る様に護衛機が3機ずつ張り付いている。先発隊はその初撃、高高度から急降下し、敵中型に全機で攻撃をかける事にした。第1波として4機が突撃。第2波は時間差を設け、第1波に対応する敵を攻撃する。
「わぉ〜〜〜ん!」
 愛華の雄叫びを合図に、彩弥子機、桜機、愛華機、鷹司機が次々に翼を翻して急降下を開始する。回る天地。速度を殺さぬよう、直進する敵の後背へと回り込む。
「よーし、私たちも行くよ! さつき、ガムテの人、ついて来て!」
「おー!」
 第1波の降下に続いて、第2波がMAKOTO機を先頭に降下を開始する。続くさつき機。甚五郎も操縦桿を横へと倒し‥‥おや、頭の中で小首を傾げた。ガムテの人? はて。MAKOTOさんとは以前どこかでお会いしていただろうか‥‥?
 第2波の3機が降下を開始した頃、第1波は前面に敵編隊を捉えていた。
 彩弥子機を先頭に、矢の様に大空を疾駆する4機。敵爆装機を照準に捉えつつ、彩弥子は酸素マスクの奥で口寂しい唇をチロと舐めた。
(「優しい先生が教えてやる。地球じゃな、女の所に来る時はちゃんと連絡を取ってから来るもんなんだよ。今回みたいのはノーマナーだ。おかげで『お化粧』が間に合わなかっただろうが!」)
 降下に気付いた敵編隊が動きを見せる。後方の爆撃機型2番機は、3機の護衛機を至近に張り付かせたまま進路を変えて視界の外へと消えて行く。前方の1番機は進路も速度も変えずに直進し‥‥突如、護衛機たちがパッと周囲に散った。
「なんだとっ!?」
 驚愕の声が無線を飛び交う。照準機の真ん中に取り残された中型機。周囲に散った護衛機たちがクルリと砲口を中に向ける。敵爆を攻撃するには火力の集中するそこを抜けねばならず、しかもその軌道は単純なものにならざるを得ない。そして高速で降下中のKVは容易に目標を変更もできず‥‥回避? いや、ただでさえ貴重な攻撃機会をここで失うわけにはいかない‥‥!
 突撃を継続する第1波。そこへ爆撃機の『対空砲火』と周囲に散った護衛機、別編隊からも集中砲火が浴びせられる。交差する怪光線が視界を乱舞し、空を虹色に染め上げる。
「させないっ!」
 それを見たさつきが、降下中にもかかわらずブーストを焚いて速度を上げた。『包囲』する護衛機の1機に外側から回り込み、その鼻先にありったけの機銃弾をばら撒く。幾発かを被弾して機体をスライドさせる小型Hワーム。その横を物凄い勢いでさつき機が通過する。
「‥‥あれを狙います。MAKOTOさん、目標の変更を」
 時間差を設けて降下していた第2波の面々には急転した状況が見て取れた。このまま突っ込んで第1波の二の舞になるより、外縁に孤立したあの護衛機を墜としておいた方がいい。
 甚五郎の言葉に、MAKOTOはその機首を新たな敵へ向け直した。その斜め後方を甚五郎機が占位する。
 MAKOTO機のガトリング砲が鋼鉄の暴風となって護衛機を乱打する。スッと横に水平移動してその射線から逃れる敵機。MAKOTO機はそれを追わずに上昇に転じ、続けて来た甚五郎機が高分子レーザーを浴びせかける。パパッと光が走り、ボッと煙を噴き出させ‥‥だがそれもすぐに鎮火する。
「なるほど‥‥人類はあんなものを相手にしているわけだ‥‥」
 追撃してくるワームを尻目にそう呟きながら、甚五郎は機体を回避させる事に集中した。
 ‥‥第1波の各機は、周囲から浴びせられる怪光線の嵐の中を敵爆目掛けて突進中だった。擦過し、時々直撃し、激しい振動が機体を揺さぶる。そんな中、愛華は降下中にも拘らず、逆にエンジン出力を引き上げた。
「なあっ!?」
 桜が驚愕しつつも後に続く。愛華機と桜機は彩弥子機をも追い越し、怪光線の嵐を後置してレーザーの雨を爆撃機に降らしめた。まったく回避せず、ほぼその全てを受ける敵爆撃機。それに驚愕する間もなく、愛華機と桜機は迫る地面から慌てて機首を引き上げる。
「回避しない、じゃと!?」
「‥‥あの子、無人機なのかな?」
 上昇に転じながら、桜と愛華が後方の敵爆に視線をやる。アグレッシブ・ファングを起動した彩弥子機に機銃弾を浴びせかけられ、あちこちに小爆発を起こしながらも前進を続ける爆撃機。あれがもし、飛行場までただひたすらに最短距離を飛行するというルーチンを持たされているとしたら‥‥真っ先に落としておかねばならない。
「なるほど。そうして爆撃機を囮にしておいて護衛機が火力を集中する、というわけですか」
 無線機から聞こえてきた甚五郎の言葉に桜が渋面を作る。
「だとしても、中型共は何としても落とさねば‥‥天然娘、あ奴に攻撃を集中するぞ。覚悟は出来ておろうな?」
「‥‥うん。分かってる」
 答えながら、愛華はギュッと胸の御守りを握り締めた。
 空港には、今も駐機場で補給作業を続ける整備員さんたちや管制塔に詰めた人たちが残っている。彼等に逃げる時間はなく、爆撃は容易に彼等を薙ぎ払うだろう。そんな事、させるわけにはいかない‥‥!
「おい、おっさんっ!?」
 無線機に響く彩弥子の叫びに、愛華はハッと我に返った。敵の弾幕を抜けた鷹司機が幾筋もの白煙を吹きながら高度を下げていく。落下速度を抑える為、鷹司は機体を人型に変形させ‥‥主翼を根元からべきょりと折って、ポトリと一軒の民家へ落っこちた。
「大佐ぁ〜!?」
「また落っこちたぁ!?」
 通信回線を、名状し難い微妙な悲鳴が飛び交った。

「ここをやらせるわけにはいきません。補給、大急ぎでお願い致します」
 コックピットの中に立ち、両手を胸の前で祈るように組んだハルフェの要請に、整備員たちは任せろと笑顔で自らの胸を叩いた。気の良い整備員たちに微笑を返し、改めてシートに座ったハルフェは、組んだ指を解かずに呟いた。
「今頃‥‥皆さんは必死で戦っているのでしょうね‥‥私も、早く‥‥」
 後発組のハルフェ機と鈴音機は、未だに補給が終わっていなかった。フル装備には15分以上。他機の整備員たちも駆けつけたので幾らか短縮できそうだが、果たしてどれだけの時間があるのだろうか。
「あの‥‥人手が必要ではないですか? 何か私に手伝える事はありませんか?」
 鈴音も、操縦席まで上がってきた整備員にそんな事を聞いてみた。居ても立ってもいられなかった。ただじっと座って待つより、動いていた方が幾らか気が休まる。
 髭面の整備員はきょとんと鈴音を見返して‥‥鈴音の頭をクシャッと撫でた。
「嬢ちゃんはここで待ってにゃならん。俺たちが仕事を終えたらすぐに飛び立てるようにな」
 そうして皆を振り返る。急げよ、野郎共。優美な荒鷲たちがバグアのデブ鳥を叩き落す爪と翼をご所望だ。
 その時、管制塔のアナウンスが、敵編隊がエリー湖にまで到達した事を報せてきた。最早、時間的な猶予は無かった。
「もう時間のようですね。出撃致します」
 ハルフェの声に、最後まで補給作業に尽力していた整備員たちが機材と共に機体から離れる。ハルフェ機のミサイルと鈴音機の放電装置は結局搭載が間に合わなかった。
「幸運を」
「ありがとう」
 髭面の整備兵の敬礼に答礼し、二人は離陸の為に機体を加速させる。
 ブーストを焚いて高度を上げ‥‥戦場は、1分も飛ばない内にその視界に入ってきた。

「これ以上行かせる訳にはいかんのじゃ!」
 煙を吐きながら進攻する爆撃機に追い縋る桜機と愛華機。その2機を狙って護衛機が狙いを定め、それを追い払うようにさつき機が突っ込んでくる。
「敵は倒せる時に倒す‥‥って、ええい、この、すばしっこいったら!」
 お釣りはいらない、とばかりに弾をばら撒くさつき機。敵機はひらり、ひらりとかわしながら‥‥最後にボンッと被弾して落ちていく。
 さらに1機をMAKOTOと甚五郎が共同で撃墜する。『十字砲火』を担当する各護衛機は、外からの各個撃破に弱かった。
「ガムテの人、気付いてる?」
「ええ。1機、やたらと動きのいいのがいますねぇ」
 『包囲網』を形成していた残りの1機。有人機なのかもしれない。現状、撃墜は至難だが、攻撃を続ければあるいは指揮を妨害できるかもしれない。
「ええい、まどろっこしいったら!」
 彩弥子は機体の速度を落とし、爆撃機型の真後ろに占位した。それは戦闘機の優位を失うという事、いわばノーガードの殴り合いだ。爆撃機型は火力で勝るが、そんな事は承知の上だ。
 ガトリングが火を吹き、怪光線が彩弥子機を削る。それまでに累積したダメージに耐え切れず敵爆は火を吹いて‥‥エリー湖に突っ込み、やがて、轟音と共に巨大な水柱を吹き上げた。
 通信回線に歓声が満ちる。残る爆撃機は1機。だが、奴は護衛機を至近に張り付かせ、火力を集中させる傾向がある。
「奴は回避する為に針路を変更する。突っかけて時間を稼ぐんだ!」
 接近に伴う砲火の密度は前の敵よりも濃い。だが、護衛機は空中砲台と化していて組し易い。だが、そこへ遊撃する有人機。これが中々に邪魔臭い。
 やがて爆撃機がその高度を上昇させ始める。それは飛行場が近づいてきた事を意味していた。
 追い縋るKVたちから逃れるように高度を上げる爆撃機。と、その正面へ、ガンッ、と何かが命中して爆発した。
 前方からの対向攻撃。それは鈴音機によるD−2での遠距離攻撃だった。正面に見えた機体は見る間にその大きさを増し、続けて、ブレス・ノウで命中率を上げたハルフェ機の滑腔砲による攻撃が敵機正面を粉砕する。
「遅れて申し訳ありませんっ! 『Aphaea』、これより攻撃に加わります」
 すれ違い、ハルフェ機は上昇、鈴音機は下降しながら機首を180度転回させる。後発組の合流で攻撃を爆撃機型に集中させる能力者たち。だが、残された時間は少なかった。
「こいつでっ!」
 敵爆へと突っ込んだMAKOTO機がアグレッシブ・ファングによる攻撃を叩き込む。だが、護衛の1機が盾になってそれを阻み‥‥クルクルと回りながら爆発する。
 必死の抵抗にも関わらず止まらない敵編隊。地平には飛行場の姿が見え始めていた。
「野郎!」
 彩弥子機がその速度を上げる。こうなったら、被撃墜覚悟で至近距離からガス欠覚悟のアグレッシブ・ファングを放つしかない。甚五郎機とさつき機も最後のブーストを焚いて前に出る。いざとなったら機体の質量を使ってでも叩き落す‥‥!
「気をつけて下さい! 爆弾を満載しているでしょうから、爆発の規模も大きいはずです!」
 特攻覚悟で突っ込む面々にハルフェが注意を促した。
「気をつけろ? こいつを行かせる訳にはいかんだろう!」
「分かっています。だから離脱のタイミングに気をつけて下さい!」
 そう言って自らも前に出るハルフェ。面食らった彩弥子がニヤリと笑う。
「桜さん、私たちも行くんだよ!」
「ええい、どいつもこいつも!」
 最後の機会に総突撃をかける各機。一方、下方から敵爆に近づいていた鈴音は一人、その機会を窺っていた。
(「不本意ですが‥‥爆撃の為には爆弾倉を開くはず‥‥」)
 鈴音の予想通り、爆撃機型ワームの腹が大きく開く。鈴音は機首を上に向け、ブレス・ノウを使って狙撃しようと‥‥
「‥‥!」
 だが、機体底部に期待した様な爆弾倉はなかった。まるでレモンケーキのような底面にポツポツと穴が開いていて‥‥そこからシュパパパパッ、と爆弾が地上目掛けて吐き出される。
「南無三、です!」
 鈴音がトリガーを引き絞る。銃身から撃ち出される銃弾とレーザー光。あの機体底部の形態では爆弾を狙い打つのは至難の業だ。
 故に、それは奇跡といってよかった。
 バババッ、と地上、滑走路の東端で爆発の光が沸き起こる。と同時に、1パーセントに満たない確立で爆弾倉に飛び込んだレーザー光は爆撃機を木っ端微塵に吹き飛ばし‥‥デトロイトの空に巨大な花火を咲かせたのだった。

●結果
戦果:爆撃機型2機撃墜。護衛機3機撃墜。
損害:地上要員に被害なし。滑走路1本の東端20%破壊もKV運用には支障なし。
   迎撃機のほぼ全機が中破以上。キロリーダー墜落(救出済)