タイトル:【NS】瀑布の奥の魔窟マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/21 06:18

●オープニング本文


 2011年2月下旬──
 北米反攻作戦の一翼を担うUPC北中央軍第3師団は、エリー湖東端の要衝、バッファローを攻略した。
 駐留していたバグア軍は遠く南東へと敗走し、市の北方、ナイアガラフォールズ周辺に集結していた敵も、激戦の末に包囲・殲滅された。
 だが、その攻略戦の折、傭兵の能力者たちが滝壺の奥に『怪しげな洞窟風の水路』を発見した。
 その一報に触れた師団司令部の反応は‥‥驚愕ではなく、「やはり」だった。
「『動けないから守りを厚くした。だが、数を集めただけだった』‥‥敵の指揮官は素人だ。これは言わば、『お化けが怖いから布団を重ねた』、『かくれんぼで隠れ場所を擬装しすぎた』子供のやりようで、とても『軍人』のそれではない」
「同感です。恐らく、ここの敵の指揮官は、『テクノクラート』か『ビューロクラート』‥‥そういった類のバグアなのでしょう」
 ともかく、あの穴倉を綺麗に掃除せんことには枕を高くして眠れない。
 第3師団司令部はすぐにオタワの総司令部に手配して、水中用KVを擁する特殊部隊の一隊を回して貰い、滝壺裏への進入・調査を要請した。


「第3師団司令部、こちらブルー1。これより洞窟内部へ侵入する」
 泡と轟音とを抜けて来るグリーン隊、4機のリヴァイアサンを確認して。特殊部隊隊長機『ブルー1』は、ブルー隊の面々に向かって機の手を振った。
 前進を示す『ハンドサイン』。それを受けたブルー4が、滝壺の奥に開いた暗黒の横穴へ無人照明艇を進入させる。滑る様に水中を進みながら明かりを点す照明艇。それは奈落に落とした松明の様に『沈降』していき‥‥ 近接装備と支援火器を装備したブルー2、3、更にブルー1と外部連絡用の有線通信中継機を手にしたブルー4とが後へと続く‥‥
「師団司令部、こちらブルー1。『回廊』を抜けた。突き当たりの『天井』から光が差し込んでいる。おそらく、あれが出入り口だろう」
 水路の最深部に到達したブルー3は、頭上で揺れる水面に『潜望鏡』と呼ばれるカメラを伸ばし、そっと水上を窺った。
 モニタに映し出されたのは‥‥半洞窟・半人工施設といった感じの、なにやら『空母の格納甲板』といった印象を与える広い空間だった。
 続けて、水面近くまで浮上したブルー2が手だけを出して、有線誘導式の小型自走カメラを床面へと走らせる。360度パノラマカメラを搭載した多脚装軌車両が奥へと進み‥‥物陰に隠れてジッと動かぬ敵無人機を映し出す。
 踏み砕かれる自走カメラ。その時にはもうブルー2が水上に煙幕弾を打ち込んでいた。噴き出す煙幕、闇雲に放たれる怪光線。水面から上半身だけだしたブルー3が先程の映像を元に狙撃砲で応射する。その背後、ブーストを噴射して飛び出した後続機が、煙幕の中、近接戦闘で敵を制圧していく。
「‥‥ブルー1より全機。無線封止を解除する。状況知らせ」
 立ち込めた煙幕がゆっくりと薄れだした時には、敵の火砲は全て沈黙していた。全機の無事と敵の征圧を確認した隊長は、部下に周囲を警戒する様に告げた。そうして自らも周囲を見回す。
 床面には何かのルートを示すものだろうか。二本のラインがレールの様に縦横に描かれていた。その一部は室外から三方へ伸びる通路へも続いている。その内、西側の出口は分厚い扉で塞がれており‥‥北側の水路が発進口だとするなら、こちらは兵器庫的な何かに違いない。
 後続してきたグリーン隊が手早く室内を横切り、廊下の先──南側へと進行していく。ブルー1はその後ろを守る様に南側出入り口を確保して‥‥そこで、足元に転がった敵ワームの残骸に眉をひそめた。
 脚部のない水中用HW、外装どころか装甲すら施されていない剥き出しの水中用ゴーレム──中には、殆どフレームだけのタートルワームのジェネレーターにコードを繋げたフェザー砲を、作業用のアームに括り付けただけ、なんて代物まであった。
「司令部、敵は未完成品を戦闘に投入している。或いは、ここは水中用ワームの工場か何かかもしれない」
「ブルー1、司令部だ。その確証は得られるか?」
「司令部、こちらグリーン1だ。今、その確証たる工場に進入している。‥‥すげぇ、なんてバカでかい工場だ。組み立て前の水中用ワームが一面に並んでやがる」
 その報告に師団司令部は色めきたった。HW1機を鹵獲するにも骨だというのに‥‥ここにはその生産設備から丸々残っているのだ。
「グリーン1、司令部だ。そのまま工場を確保しろ!」
「ちょっと待ってください、まだ奥に‥‥と、こっちは兵装工場か? ‥‥うおっ キメラプラントまで‥‥っ!? こいつは想像以上のお宝だぜ!」
「警戒しろ。これほど大規模な生産施設、敵が手をこまねいてこちらに委ねるとも思えん。ブルー1、グリーン隊と合流できるか?」
「待って下さい。まだ水路出口周辺の制圧が確認できていません。終わり次第すぐに‥‥」
「うおっ!? な、なんだこいつ‥‥ガガッ!」
 グリーン1の悲鳴の様な叫び声に、隊長はサブモニタを振り返った。画面には、前方の闇へ発砲する2機のKV。と、その内の1機が突然、足を掬われ転倒する。天井で爆発音。見上げたグリーン1のカメラが、砕けた岩錐が吸い込まれるように倒れた1機に突き刺さるのを映し出す。
 さらに悲鳴。離れた所にいた1機が武装のないマンタ・ワームに跳びかかられ、アームに絡みつかれたと思った瞬間、爆発する。狼狽した様に揺れるカメラ。それが再び正面を向いた時、残っていたはずの味方機は闇の中から振るわれた巨大な剣によって真っ二つにされていた。
 その正体をカメラが捉えんとした瞬間、映像は途切れて消えた。カメラ用の有線ケーブルが閉じた隔壁に潰されたのだ。
「何もいない! なのに、足を払われた! くっ‥‥なんだ?! なんで動いている!?」
「落ち着け! くそっ、各機、武装を変えて応戦しろ!」
 滝の様な轟音と砲声──かろうじて通じる無線が音声を伝えてくる。が、すぐにホワイトノイズ以外に音がしなくなった。
 司令部を沈黙が押し包んだ。
「‥‥司令部。こちらブルー1。隔壁に辿り着いた。これより突入する」
 隔壁に仕掛けられた爆薬が爆発し‥‥内部から漏れ出して来た水がそれを内側から押し破る。
 膝部まで水につかりながら室内へ突入したブルー1のカメラに、4本腕の大型人型ワームの姿が一瞬映り‥‥闇の中へと消えていった。グリーン隊の奮戦の証か、その腕の一本は半分千切れかけていた。
 付近には、ショートして動かなくなったワームと、ひしゃげ、砕かれたKVの残骸。床に這ったコードがバチリ、と火花を発した。
「‥‥敵は戦闘は素人だ。だが、どうやら『遊び心』に溢れたヤツらしい」
 師団長はブルー1に生存者を救助して後退するよう指示すると、幕僚たちを振り返った。
「傭兵たちを呼べ。あの敵を叩き潰すんだ」

●参加者一覧

雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

 ナイアガラから続く水路を抜けて内部に侵入した傭兵たちは、周辺を確保していたブルー隊と情報を交わした後、グリーン隊が全滅した『工場ブロック・外縁部』への進入を開始した。
 先頭は、蠍の様に機の姿勢を低くした響 愛華(ga4681)のパピルサグ。その後を、陸戦用兵装が収まった防水ケースを背負ったKVの隊列が周囲を警戒しながら前進する。
「──なるほど。要塞ではなく、生産工場だったわけか‥‥」
 慎重にリヴァイアサンの足を進めながら、煉条トヲイ(ga0236)が呟いた。制圧戦の時からここには何かあると踏んではいたが、まさか、こんなものが隠れていようとは‥‥
「こういう所に秘密工場を作るか。バグア側にも少しは考える奴がいるみたいだな」
「そうか? こんな目立つ場所、普通に考えればブラフだろう」
 榊 兵衛(ga0388)の言葉に、龍深城・我斬(ga8283)は疑わしげな声を上げた。どうかな、と兵衛が顎を掻く。五大湖に兵力を撒くには都合のよい場所ではある。
「ま、これでお宝がっぽりなら結果オーライなんだが‥‥まるごと自爆だけは勘弁して欲しいねえ」
 冗談めかして肩を竦める我斬。真っ先に冗談で応じそうな阿野次 のもじ(ga5480)は、しかし、生真面目な表情で沈黙する‥‥
「‥‥罠の連携、基地の規模‥‥4本腕の他にもバグアがいるかもしれませんね」
 機のライトで周囲を照らして見回しながら、守原有希(ga8582)がそう推察してみせた。罠の待つ道か、と呟く綾嶺・桜(ga3143)。この先も色々仕掛けられているのじゃろうな、と息を吐く。
「まるでダンジョントラップじゃ。10フィートならぬ50フィートの棒が必要かのぉ?」
 愛華機の持つ狙撃砲をジッと見つめる桜機。気づいた愛華が慌てて砲を背に隠して首を振る。
「ここの敵って‥‥出てこないというより、出てこれないんじゃないかしらね」
 雪野 氷冥(ga0216)がそう言った。他に出口があるのなら、戦わずにさっさと逃げればいい。
「或いは、他の味方を他の出口から逃がそうとしているのかもしれんな」
 兵衛が言った。その為に、敵はこちらを『主力』──4本腕に誘引しようとしているのかもしれない。
 のもじと有希は顔を見合わせると、外の正規軍に『他の出口が存在する可能性』について言及した。さすがに場所までは絞り込めない。連絡を受けた正規軍が広域捜索を開始する。
「‥‥さ〜って。鬼が出るか、蛇が出るか」
 氷冥がどこか楽しそうに笑みを浮かべる。能力者たちは前進を続行した。


 飾り気のない長い通路の先は、先程の工場ブロックと同じ様な広い空間だった。ただし物は何も無く、妙にこざっぱりとした印象だった。
「‥‥最初のがハンガーだとすると‥‥さっきのは修理ブロックか何かで、ここが組み立て工場辺りじゃないかしら」
 砲口を振って警戒しつつ室内へ足を踏み入れた氷冥は、生産ラインの流れを読みながら、そんなことを推測した。
「大規模な工場じゃな‥‥なるべく壊さず手に入れたいところじゃが」
 機に拳を構えつつ側面の制圧を確認する桜。その後ろを、愛華機ががちょんがちょんと前進する。
 進みつつ、正面にカメラを向けた愛華は‥‥その薄暗い闇の向こうに佇む影に気がついた。愛華は即座に照明弾を打ち上げた。闇に浮かび上がる独特な陰影──4本腕が浮かび上がる。
「ここはまだ自分の縄張りだって‥‥そう言いたいのかなっ!」
 味方の盾となるべく飛び出した愛華機に対して、4本腕が2本の短機関砲を撃ち捲った。跳弾の光が弾け、数発が装甲を貫通しても愛華は怯まなかった。振り下ろされた尾部のアンカーテイルを跳び避ける4本腕。距離をとるそれを愛華が狙撃砲で追い狙う。
 有希はその愛華機の陰に隠れる様に機を前進させると、愛華機と背を合わせる様に後ろを向き、両拳を握って腰を落とした。直後、有希に後続してきたのもじ機がその手に飛び乗り、それを有希機が投げ上げる。
 放り上げられたのもじ機は愛華機の背を跳躍し‥‥『う、美しい!』跳躍姿勢で4本腕の頭上を飛び越えた。その状況に敵素人パイロットは対応できなかった。慌てて振り返る敵を無視するように、のもじは機を前方へ──即ち、奥へと突っ走らせる。
「美しい? 勿論! その動きはなんと水鳥の如く──っ?!」
 と、走り出したのもじ機の足が、小気味よいほど綺麗にすぱ〜ん、と払われた。不可視の敵の存在を推測した我斬と有希が、軍から借り受けていたペイント弾をのもじ機周辺に撃ち捲ったが、赤い染料に染まるのは着弾した床面だけで手応えは全く無い──
 のもじ機を転ばせた敵はその間に、起動した未完成ワームを扉の前に回り込ませた。だが、それはのもじの思う壺だった。複数に分岐する進路──そのどれに進めば良いのか、のもじはカマをかけたのだ。
 その未完成ワームの群れに、十文字槍を構えた兵衛機が突っ込んだ。ダン、と一歩踏み込みつつ、突き出した片手突きで初敵の未装甲部を突き貫き──火を噴くそれを槍を振って払いながら、流れるような動きで新手を柄で打ち、突き墜とす。
 そこへライフルを右腕に提げた有希機が突っ込み、残敵を左腕の高速振動爪で切り裂いていく。のもじは機を立ち上がらせると、むぅ、と一つ唸ってから機のチェーンソーで隔壁を破りにかかった。4本腕はそれを阻む事はできなかった。他の傭兵機が打ちかかっていたからだ。
「支援砲撃を──」
「あいよ!」
 狙撃砲を抱え、味方を支援できる射撃位置へと移動するトヲイに応じて、我斬が4本足の足元へ牽制射を撃ち捲った。弾はペイント弾のままだったが、戦闘経験のない敵は目に見えて狼狽した。再び突進を開始する愛華機。後に桜と氷冥が続く。
「前だけしか見てないと危ないんだからね――桜さんっ!」
「任せるのじゃ! わしのこの手が真っ赤に燃(以下略)」
 敵の視界に立ち塞がった愛華機の背後から、バーニングナックルを構えた桜機が飛び出した。硬直する敵パイロットに代わってオートで対応する4本腕。その反応は後方の我斬から見ても、十分以上に鋭く、正確なものだった。
「速い! が‥‥」
「動きが直線的過ぎるのじゃ!」
 我斬の叫びに桜のそれが重なった。かざされた盾を左腕部で打ち弾きながら、威力を上げた拳を敵の顔面へと叩きつける桜機。4本腕の光学センサー、その幾つかが火花を上げて沈黙する。たたらを踏んでよろける敵。その踏み出した足首部を、膝射姿勢を取ったトヲイ機の狙撃砲弾が撃ち砕いた。グラリと体勢を崩す敵。その隙を氷冥は見逃さない。
「悪いけど、一気に決めさせてもらうわ!」
 砲盾を構えて走りながら、背部から引き出したロンゴミニアトの防水カバーを炸薬で強制排除する氷冥機。振るわれた4本腕の大剣を受けた盾がひしゃげるのも構わず、その機槍を突き入れる。鋭鋒は敵の肩口の一つを打ち貫き──液体炸薬が腕の1本を半ばから噴き飛ばした。
「殺(と)れる──!」
 止めを刺すべく前に出る氷冥、桜、そして、愛華の3機。だが、次の瞬間、3機共が見えない何かにその脚部を払われた。6本足のパピルサグさえ、その片側3本を同時に流され回転する。そこへ立て続けに落ちてくる岩塊の楔。3機が慌てて跳び退さる。
 湧き上がる粉塵の帳の向こう側で、脚部が破壊されて膝をついた4本腕が滑らかな動きで遠ざかっていく。それを見た有希は次の瞬間ハッと気がついた。ここはワーム工場‥‥ならば、何か反重力コンベアやリフトの様なものがこの床にあるのかもしれない‥‥!
 有希の推測を裏付ける様に、大破した4本腕は『レール』の上を運ばれていき、まだ無事な出口から外へと出て行った。
 4本腕との最初の遭遇は、こうして終わった。


 4本腕を見失った能力者たちは、班を二つに分けて探索する事にした。兵衛、のもじ、有希の探索班は、4本腕が守ろうとした通路の先を探索し、他5人の主力班は、このまま4本腕の痕跡追跡を続行する、というものだ。どうやらこの工場は北から南へ細長い構造になっているようで、班を分けてもそれほど距離は離れない。
「我々を牽引しようとする敵の意図を挫き、かつ、本来、主力班に向かうべき戦力をこちらに引きつけ、分散させる。班を分けることにはそういった意図もある」
 兵衛が言った。ここは敵の庭だ。誘引された挙句に包囲でもされたら目も当てられない。可能な限りリスクは減らしておくべきだった。

 緊張の中、前進を続けた主力班は、1時間ほど進んだ先、ワーム工場関連のブロックで改めて『4本腕』と遭遇した。
 頭部と脚部、腕部の損傷は直っていた。恐らくこの工場の施設とパーツを使って修理・交換したのだろう。
「見つけたのじゃ! 神妙にお縄に‥‥もとい、撃破されるがよい!」
 室内へと踏み込む主力班の5機。と、その入り口が急に閉ざされ、滝の様な轟音と共に工場の周囲から一斉に水が流れ込んできた。膝から腰へ──瞬く間に上昇していく水位。防水カバーを外した陸戦用兵装のエラーが各機のコンソールに明滅する。
 だが、能力者たちは全く慌てたりはしなかった。
「やはり水か」
 グリーン隊が残した戦闘の痕跡から、敵が水攻めをしてくる事は分かっていた。だからこそ、能力者たちは全員、複数の陸戦用兵装と水中用兵装を用意してきたのだ。
 即座に兵装をガウスガンへとスイッチした氷冥が、水没した4本腕に向け立て続けに連射する。その横で、背部に背負った多連装大型魚雷を一斉に撃ち放つ我斬機。白い軌跡を描いて水中を奔る大型魚雷──その横を、レーザークローを展開したトヲイ機と桜機、アンカーを曳いた愛華機が突き進む。
 水中戦に持ち込んだにもかかわらず、敵の火力が落ちない事に驚愕した4本腕のパイロットは、隔壁を強制開放してさらに奥へと遁走していった。急激に水の減る室内。追撃しようとする能力者たちの前に稲妻を発するコードの群れがウネウネと立ち塞がる‥‥
「触手ーっ!? ええい、邪魔なのじゃーっ!」
 シュルシュルとにじり寄り、飛び掛ってくるコードをばっさばっさ切り裂きながら──先へ進んだ能力者たちが次に4本腕と遭遇したのは、さらに深部の兵装用工場の中だった。
 新たに姿を現した4本腕は、巨大なプロトンランチャーとミサイルポッドつきの増加装甲で武装していた。
「ひゅう♪ こいつはまた豪勢な事で。さぞや出迎えも豪勢な事なんだろうなぁ」
 我斬の言葉が終わらぬ内に撃ち放たれるマイクロミサイル。散開するKVたちが爆発の中を前進し‥‥4本腕により放たれた七色の怪光線が、KV、未完成ワーム、工場施設の別なく周辺を薙ぎ払う──

 KVが近接戦に持ち込む前に、四本腕は再び奥へと逃げ出した。
 どうやら敵は、後退しつつ、修復と補給を繰り返しながら戦うつもりのようだった。


 一方、その頃、別働の探索班は、未完成ワームを蹴散らしながら魔窟の奥へと進んでいた。
 動力と砲とフレームだけのHWがフェザー砲を撃ちながら『レール』上を流れていく。最初は驚いたが、気づいてしまえばどうという事はない。兵衛は機槍を構えると、祭りの射的の様な気楽さで素早く、立て続けに突き貫いた。
 砕かれ、爆散し、破片だけになって宙を流れ行く残骸──それを見送りながら兵衛は哀愁を感じて嘆息する。
 機のセンサーを元に手書きで地図を作成しながら進んできた有希は、ふと周囲の変化を感じて足を止めた。
 兵衛機を周辺警戒に残し、のもじと二人で機を降りる。辿り着いた先は、巨大なモニターとコンソールが広がる一室だった。恐らくは、工場全体を管制するコントロールルーム。記された文字は読めないが、図柄が工場全体を表している事は何となく分かる。
 そのコンソールに通信が入る度に、画面の一部が光って表示が動いた。音声認識型の制御装置──この工場にいるバグアは一人だった。残っていた戦力も、非戦闘員も、既にナイアガラフォールズの制圧戦に全て投入してしまっていたのだ。
「そげんこつ‥‥っ!」
 コンソールに有希は拳を叩きつけた。そんな奴に部下を指揮する資格はない。
「報いはすぐに受けるわよ」
 ぽん、と有希の肩を叩いたのもじが窓の外の兵衛に無線を入れる。連絡を受けた兵衛は機槍でもって、管制室の主電源を突き壊した。


「──さて。そろそろ本気でいかせて貰おうか‥‥」
 トヲイが兵装をスイッチすると、これまでずっと外さなかった防水カバーの中からロンゴの姿が露になった。先程、氷冥に痛い目に合わされたその兵装を見て、4本腕が目に見えて狼狽する。
「わぅ。腕の数なら、こっちも負けないんだよ!」
 敵正面に位置した愛華機が撃ち捲り始めた30mm砲弾。それが最後の戦いの鏑矢となった。火線の両脇を駆け上がるトヲイ、氷冥、我斬の各機。慎重に狙いを定めた桜機がうろたえる敵の肩口に88mm光線砲を撃ち放つ。放たれた『光の槍』は応急修理の跡を貫き、爆発が肩を半ばから吹き飛ばした。腕の一本がだらりと垂れる。
 その隙に敵の懐へ飛び込んだトヲイ機は、胸部を狙って突き入れた槍を手の中でクルリと回すと、そのままそれを敵大腿部へと突き下ろした。仰け反り、盾で受けようとした4本腕はその動きについていけなかった。穂先が装甲を貫通し、続けて炸裂した液体炸薬が敵脚部を吹き飛ばす。腿から火を噴出し、膝を砕かれ崩れ落ちる4本足。反対側に素早く走り込んだ氷冥機が振動爪でさらに腕の一つを切り飛ばす。
「昔の俺に似てるんだよ、素人の戦い方はっ!」
 敵の背後に回りこんだ我斬は機の脚部を滑らせながら、インベイジョンを起動。腰溜めに構えた振動爪を腕部ごと突き入れた。抉り込むように突き入れられた爪が敵腕部を捻り切るように穿り出す。
「フライデ☆ドリーム・キーック!」
 そこへ探索班の3機が増援として駆けつけ、突っ込んだ。宙を舞ったのもじ機が、キックと言いながら拳のガトリングを雨霰と打ち下ろす。
 終わりだな、と兵衛は呟いた。敵の命運は既に尽きていた。
「戈を止め武を為し、最新の希望ば有らしめる! 何度も助けてくれた軍の為、沢山の仲間の為、そして──」
 それ以上の想いは心の内に。有希により突き入れられた機爪が、砕けた装甲の隙間から4本腕の腰部を貫通した。そこから火を噴いた4本腕は静かに崩れ落ち──各所から煙を上げて燃え出した。


 お約束というべきか、指揮官機が滅びた瞬間、基地の自爆装置が作動した。
 ここが水中用ワームの出撃拠点だというのなら、エリー湖側にも出撃口があるはずだ── 奥へと突き進み、拠点から脱出する能力者たち。浮上した彼等が見たものは、エリー湖東端、バッファロー市の街並みだった。展開した正規軍が救助に向かう──

 バッファローおよびナイアガラフォールズは、これで完全に北中央軍の手に落ちた。
 ナイアガラ工場の喪失は、五大湖に展開するバグアの水中戦力を大きく減じる事となる。