タイトル:【AS】宇宙機雷掃海任務マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/18 09:58

●オープニング本文


「聞いたか? うちの副長、今度の異動で転属になるらしいぞ」
「なんだ、ようやく『栄転』か。陸(おか)にでもあがるのかね?」
「いや、新造巡洋艦の艦長らしい。だが、これは‥‥」
「シッ! 副長だ」
 慌ててこちらを振り返り、敬礼をよこす古参兵二人。それに敬礼を返しながら、私──空母『エンタープライズIII』副長、ロディ・マリガンは、数年に渡り慣れ親しんだ艦の廊下をゆるりと歩いた。
 背後でこそこそと言葉を交わす古参兵たち。「まじかっ!?」と叫んで慌てて口を押さえる彼らを一瞥し‥‥何も言わずに歩を進める。小言を喰らわず、きょとんとした顔を見合わせる兵たち。まぁ、いい。今の私は気分が良いのだ。それくらいは見逃してやるさ。
 私が新たに建造された新型巡洋艦の艦長に内定している事は、既にこの艦内にも知れ渡っているようだった。廊下のあちこちで下士官、兵たちが廊下を歩く私を見て囁き合う。
 だが、その無作法すら、今の私には心地よかった。この艦の副長になって早数年。新鋭空母の副長という出世コースに乗りながら、その後の建造ラッシュですぐにその価値も下落して‥‥ だが、これでようやく、一艦を預かる身分になれるのだ。今回の異動は、鳴かず飛ばずのまま飼い殺しにされてきた自分に巡ってきた、千載一遇の機会である。
(見てろよ。ここからまたやり直しだ。今回の異動をステップアップにしてより高みを目指してやるからな)
 心にそう誓いながら、エレベーターに乗ってアイランド(艦橋)へと上る。艦長室の扉をノックしようとした時、この扉を叩くのもあと僅かなんだな、と感慨が湧いてきた。私は改めて襟を正すと、万感の思いをこめて扉を叩いた。
「入れ」
 辞令を渡すべく私を招き入れてくれた艦長は、だが、しかし、どこか浮かないような、複雑な表情をしていた。それが私には意外だった。この艦長ならば私の栄転を誰よりも喜んでくれるはずだと思っていたからだ。
「‥‥君も、これで一艦を預かる身となるわけだ。君の転属先が、この艦で学んだことが最大限、活かせるような場である事を、祈っている」
 歯に物が挟まったような物言いをする艦長。私は心中で首を傾げながら仮辞令を受け取るった。
 曰く‥‥

 ロディ・マリガン中佐をUPC宇宙軍新造巡洋艦『ソードオブミカエル』艦長に任命する

「は‥‥?」
「気の毒だ、副長。君の転属先は海軍ではない。──宇宙軍だ」
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃイイ???!!!」

 その一週間後には、『私』はオタワのULT仮設航空宇宙局の訓練施設に放り込まれていた。
 座学から始まり、閉鎖環境対応訓練、無重力体感訓練など、様々な厳しい特訓を速成教育で詰め込まれ──
 一月後には、ロケットに乗って、衛星軌道上まで浮上したカンパネラ島にまで送り届けられた。
 そのまま荷物を下ろす間もなく、港湾部へ。
 目の前には、カンパネラ内で最終組み立てを終えたばかりのピカピカのエクスカリバー級宇宙巡洋艦『ソードオブミカエル』。そして、整列してならんだクルーたち。

 急転直下。人生のジェットコースター。
 私の艦長としての新たなる日々は、こうして始まる事になった──


「主力となる後続の宇宙艦艇は、計画通りに進めば太原のマスドライバーで随時、打ち上げられてくる予定です。今回の我が艦の任務はそれに備え、カンパネラ付近に滞留する機雷を掃海しておこうというものです。まぁ、お偉いさんたちが上がってくる前に、慣熟訓練がてら、カンパネラの庭先を掃除しておこうというものですな」
 巡洋艦『SOM(ソードオブミカエル)』、CIC(戦闘指揮所)──
 この塩気のまったくない指揮所に設けられた艦長用のシートに納まったロディは、報告がてら状況を伝える傍らの大男──いつもニコニコしているような、このアークという青年がこの艦の副長らしい──を見上げ、「分かった」と頷きながら、去るように手を振った。敬礼して立ち去る副長。それを振り返って見ていた若い少年オペレーターがにやにやしながら前を振り返る。
 ロディはため息を吐いた。集められたクルーは皆、北中央軍出身で── だが、いかにも電子機器に強そうな若造と、何年も軍で飯を食ってきたようなベテランばかりで編成されていた。海軍と違って、女性の乗組員も数多い。それを見るにつれ──ロディは宇宙軍という『異境』に飛ばされたとの思いを強くした。自分は海軍に見捨てられたのだろうか── そんな事ばかりが心に泡の様に浮かんでは消えていく。
「艦長、目標の機雷源です。距離、方位──」
 索敵担当のオペレーターの少女が小鳥の様な声で言う。随分と年季と気合の入った砲雷長がロディを見やり──ロディは制帽を被り直して命令を発した。
「全艦戦闘準備。簡易ブースト起動、針路0-4-0。G光線ブラスター砲、砲門開け。目標、前方の機雷群。‥‥砲雷長、任せる」
 ロディの命令に、砲雷長と操舵手は何か言いた気な顔をしたが、何も言わずに従った。
 3連装、8基の砲塔が左前方へと旋回し‥‥薬室内に装填されたG5カーリットが炸裂。電磁誘導に従ってエネルギーの奔流が砲口から迸る。漆黒の虚空を引き裂いた幾本もの光条は、前方に広がる機雷源へと吸い込まれ‥‥その針路上に幾つかの爆発光を煌かせる。
 ‥‥主砲の発射が失敗である事はすぐにロディにも分かった。見た目が仰々しい割りに、得られた『戦果』は驚くほど小さい。
「艦長。このエクスカリバー級の主砲であるG光線ブラスター砲は、機雷のような小さな目標、ワームやキメラの様な素早い目標への攻撃には向きません」
「分かっている。だが、これは慣熟訓練も兼ねているのだろう?」
 ロディはそう取り繕うと、艦内電話の受話器を取って飛行長を呼び出した。艦には、同じく慣熟訓練に出てきた傭兵のKVが繋留されている。
「飛行長。KVの出撃準備はできているか?」
「ああ? 命令がないんだ。できとるはずなかろうが」
「‥‥どれくらいで出撃できる?」
「およそ2分」
(できてるじゃないか!)
 なんとなく泣きそうな心持ちになりながら、ロディは、準備完了次第発艦させるよう告げると、KVに前方の機雷を掃滅するよう命令した。
 そんな艦長を無表情に見つめていた砲雷長は、部下の一人に歩み寄ると、その耳元に口を寄せた。
「‥‥高射砲群(連装8.8cm高分子レーザー砲)は起動しているな? いつでも対応できるようにしておけ。‥‥下手をしたら使う羽目になるかもしれん」

●参加者一覧

月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

 『ソードオブミカエル』、KV搭乗員待機室──
 全艦に戦闘準備が発令された瞬間、待機していた能力者たちに向かって、艦内スタッフが慌てた様子で身体を固定するよう叫んだ。
 警報が鳴り響き‥‥簡易ブーストを発動した艦が右へと変針を開始する。それによって発生した重力は、固定されていなかった物品を左の壁面へと引きつけた。響 愛華(ga4681)は、目前に漂っていた飲みかけの宇宙食(バナナ味)が左へと『落ちて』いき‥‥中身をぶちまけられるのを涙目で見送った。
 やがて、艦が定針して無重力を取り戻すと、スタッフは「トーシロが‥‥まだ水上艦な気分でいやがるのか」と悪態を吐きながら、能力者たちに『飛行甲板』に移動するよう指示を出す。能力者たちは宙を泳ぐように廊下を移動し始めた。
「‥‥ロディ艦長、まだクルーの皆との信頼関係が築けていないみたいだね」
 愛華の言葉に、綾嶺・桜(ga3143)は頷いた。初めての宇宙── 艦長も初仕事であろうし、せめて我々は彼の顔に泥を塗らぬようにせねばなるまい。
「‥‥しかし、このパイロットスーツというものは、こう、なんじゃな‥‥」
 身体にピッタリと張り付いたスーツを『見下ろし』、桜は頬を赤らめた。目の前でふわふわと揺れたゆたう友人と自分の身体のラインを見比べ‥‥むぅ、と小さく一つ唸る。
「艦長はなにか悩んでいるようです、ね‥‥ でも、艦長として、艦を動かすのは艦長なのですから‥‥ ベテランでも若手でも、関係ないと思います‥‥」
 と、そこへ後ろから小さくそんな声が聞こえてきて。桜は振り返ったが、廊下には誰もいなかった。小首を傾げて進む桜。その廊下の角から声の主──人見知りの御鑑 藍(gc1485)がひょっこり顔を出す。
「しかし、慣熟訓練のはずがいきなり実戦とはな。その場で慣れろってことか?」
「とはいえ、相手は動きの鈍い自律機雷だ。慣れの薄い機体だし、相手には丁度いい」
 第一次攻撃でビル・ストリングスのギガワームを沈められなかった影響について語りながら、月影・透夜(ga1806)と水円・一(gb0495)は外部ハッチから外に出た。エクスカリバー級にKVの運用能力はない。交通筒の類もなく、操縦者は艦外に出て直接乗り込む必要がある。
 愛機のコクピットに潜り込みながら、龍深城・我斬(ga8283)は「普通なら、そうだ」と一に返した。
「‥‥さっきの主砲か?」
「ああ。派手にぶっ放しちまったからな。敵さんも何がしか手を打ってくるだろう」

「空母と違ってまともな修理設備もないからな。壊して帰って来んじゃねぇぞ」
 そんな飛行長の発艦許可に見送られ── 加速して艦から離れた能力者たちは、その進路を機雷源へと向け直した。
 だが、目の前に見えるのは無限の闇ばかり── あるはずの機雷群も視認できない。
「なんか‥‥見晴らしが良すぎて、逆に戦場全体が確認しづらいな。センサーや母艦からの情報が頼りか?」
 コンソールに目をやる我斬。センサーモニターには、母艦とのデータリンクによってもたらされる周囲の索敵情報が映し出されていた。だが、そこには大まかな機雷源の範囲は示されているものの、個々の機雷の位置までは表示されてはいなかった。
「主砲の効果から推測するに、恐らく敵の機雷は広範な宙域に分散していると思われます。各個に捜索・撃滅して下さい」
 電測員の少女が申し訳なさそうにそう告げる。透夜と一は、機雷はこちらで何とかするから、そちらは奇襲や増援を警戒するよう進言した。
「さて、【瑞龍】を駆っての初の実戦か。無様な真似だけは曝さないようにしないといけないな」
 威龍(ga3859)は改めて気合を入れると、大きく機を移動させた。
 威龍、透夜、我斬、一、そして、鳳覚羅(gb3095)が前衛として展開し、藍、桜、愛華を後衛として配置する。
 最初に敵を発見したのは、この後衛の藍だった。藍は発見した敵影と座標を転送し、味方に敵の発見を伝えた。
「またか! また目玉なのか!」
 目玉の様な外観をした哨戒・警戒用ワーム『センチネル』の姿を見て、桜と愛華がうんざりする。
 藍は深呼吸を一つすると、高分子レーザーライフル「プレスリー」の安全装置を解除して‥‥ その最大射程から目標の敵を照準した。
「お掃除‥‥ですね」
 呟き、ゆっくりと引き金を引く。放たれた光線は、だが、目玉から離れた空間を貫いて虚空に消え去った。センチネルが脆弱ながら保有する回避性能、距離、そして、なによりも宇宙空間を漂う自機の不安定さが、照準能力の大幅な低下を招いていた。
 2発、3発と射撃を続けてその事を再確認した藍は、再装填を済ませながら僚機にそれを伝えた。機雷相手ならまた分からないが、ブーストなしに遠距離砲戦を挑むのは中々に難しいかもしれない。
「了解した。では、前衛で片づける」
 藍の連絡を受けた前衛の5機は、(簡易)ブーストを焚いて前に出た。敵を感知した目玉は即座に後退を開始した。だが、その足は決して速いとは言えず‥‥やがて、追いついた前衛機の集中砲火に砕け散る。
 だが、次の瞬間、前衛各機のセンサーに、周囲をグルリと取り囲んだ機雷群の光点が、パパパッと立て続けに表示された。‥‥どうやら誘い込まれたようだった。目玉には周囲の機雷を制御する機能があったらしい。
 全周から突進を開始する自律機雷。だが、能力者たちは慌てなかった。
「わらわらと‥‥ とりあえず、こいつでも受けてもらおうか」
 覚羅は、搭載したK−02マイクロミサイル群にカートリッジから水素を供給すると、前面に展開する機雷群へ向け一斉にミサイルをばら撒いた。同様に迫る敵の前面へ向け、小型誘導弾をばら撒く威龍。2機の放った小型誘導弾が突進する機雷に襲い掛かり‥‥一斉に煌いたかと思うと前面に巨大な爆発の壁を連鎖させる。
 我斬はまた別の方向へ誘導弾を撃ち放ちながら、その機位を横へ、横へと移動させつつ、突出する敵をその都度、土竜叩きの様にライフルとレーザーで撃ち捲くった。
 その支援の下、最も包囲の薄い母艦側へ向け突っ込む透夜機と一機。丁寧に、だが、素早く速射を放って、一が確実に敵の数を撃ち減らし、人型へと変形した透夜機がライフルを掃射してそこから包囲をこじ開ける‥‥


「KV隊、敵包囲網を突破。そのまま、ポイントA宙域に集結した機雷を掃滅しつつあります」
 『ソードオブミカエル』艦橋──
 味方有利を伝える電測員の報告は、だが、次の瞬間、悲鳴に変わった。
 新手の宇宙キメラが登場したのだ。数は8。大型1に中型3で二個編隊を組みつつ、右舷側から──つまり、こちらを機雷群とで挟み込む(或いは追い込む)形で接近してくる。
 一人で騒ぐ電測員に落ち着くよう命じると、ロディは傭兵に迎撃を指示した。能力者たちは後衛の3機を母艦の護衛に残し、前衛の5機でキメラの迎撃に向かう、と伝えてきた。
 ロディは沈思した。数は劣位。突破される可能性は少なくない。しかも、自律機雷群はまだこちらへ接近中だ‥‥
「後退しますか?」
 訊ねてくる副長に、だが、ロディは首を振った。後退はしない。下がれば傭兵たちが孤立する。
「現相対座標に艦位を固定。砲雷長、両舷の高射砲群は準備ができているな? 敵が射程に入り次第、遠慮なくぶっ放せ」

「素直に掃除だけで終わるわけはないか‥‥」
 敵キメラ接近の報を受け。前衛5機のKVは機雷との戦闘を放棄して、右舷側へ移動を開始した。
 最も早く戦場へ到達したのは、ブースト全開で移動する透夜機だった。彼が孤立せぬよう、我斬はハヤテのブースターを焚いてその移動に追随した。幸い、敵大型キメラの足はそれほど速くないようだった。代わりに、蠍の形をした中型3匹がこちらを迎撃すべく前に出る。
「龍深城、エンゲージ!」
 我斬は簡易ブーストを焚いて針路を変えると、迫る中型から一定の距離を取りつつ、アサルトライフルを撃ち捲くった。右へ、左へ、宇宙に描かれる光の軌跡。その傍らを掠め飛び、大型目掛けて透夜機が突っ込んでいく。それを追って我斬の戦場から離脱する中型1。銃弾に甲殻を砕かれた敵の死骸が血の球を撒きながら宙を奔り‥‥その隙に迫った別の1が我斬機へと組みかかる。
 もう一つの敵小隊には、送れて到着した威龍、一、覚羅の3機が当たった。迫る中型3匹に向け、威龍が帯電した電撃を敵へと向けて放射する。宇宙を走る電撃の鞭。捉えられた先頭のキメラが宇宙に水蒸気の雲を吐く。
 その横で別の1匹に突っ込む一。小型ミサイルをその進路上にばら撒きながら‥‥回避運動に入った敵の進路に回りこみ、簡易ブーストで機位を調整しながら変形。近接戦闘を仕掛けに行く。
「やってみないと判らないからな」
 冷静に呟きながら、一は格闘戦を仕掛けんと突進して来る中型キメラを、擦れ違い様にディフェンダーで以って切り裂いた。血と内臓を虚空にぶちまけながら、キメラの遺骸が流れてゆく。
 それを見て「やるじゃないか」と呟きながら、威龍もまた格闘戦を仕掛けるべく、迫る敵の真正面に機位を入れた。
「水中戦ほど自在には出来ないが‥‥簡易ブーストのお陰で機体制御はそれなりに上手く取れるしな。この戦いで近接戦のこつをものにする」 
 威龍は機拳を兵装に選択すると、距離とタイミングを計って人型へと変形した。鋏を振りかざし迫る敵の鋏を払い‥‥簡易ブーストで『半歩踏み込み』、その機拳を突き入れる。瞬間、ビシャリ、と機に飛び散るキメラの体液。胴部、そして頭部を潰された蠍は、一が倒した敵と同様、死骸を残骸にしながら宇宙の向こうへ流れていった。

 一方、機雷から母艦を守るべく、後衛3機もまたブーストを焚いて戦闘に入った。
 迫る機雷群へ向け、その巨体から放電を発する愛華のパピルサグ。音もなく迫る敵がその『投網』に絡み取られ、次々と爆発、四散していく。
「わぅっ! あっちの蠍には負けていられないんだよ!」
「‥‥まぁ、宇宙のキメラはあまり美味しそうではないしの」
 2機のG放電装置を撃ち尽くした愛華機の前に立って、桜のシコンが機関砲とガトリング砲を撃ち捲くる。飛び交う火線が機雷を捉え、爆発が彼我の機影を照らす。
「私はまだ継戦できます‥‥ 響さんと綾嶺さんは、今の内に補給を‥‥」
 無線でそう伝えながら。藍は戦場を移動しつつ、側方にプレスリーを撃ち放った。放たれた光線は機雷群の中の目玉を捉え、正確に中央を貫ぬかれたそれが爆発して砕け散る。
「こっちもあと少し保つ。先に行くのじゃ!」
 振り返って叫ぶ桜。迷っている時間はなかった。愛華はブーストを焚いて後方の母艦へ戻ると、ブーストの効果時間ギリギリで艦と速度を同調させてゆっくりと装甲板の陰へと入り‥‥空中給油の要領で補給装置に接続した。
「ベテランは腕が良くていい。給油時間は30秒だ!」
 飛行長の声。続けて桜機が別の補給装置へ接続し‥‥ 左舷高射砲群が一斉に火を噴き始めたのはその時のことだった。
(‥‥! そこまで接近されているんだ‥‥!)
 唇を噛み締める愛華。補給中のランプが青へと変わり、愛華は即座に機を前進させた。補給に戻ってくる藍機を迎えながら、後続する桜と共に激しく銃火を撃ち上げる‥‥

 エンジンの光を宙に煌かせ、螺旋を描くように敵へと切り込んだ覚羅のS−02が、装備したアサルトライフルを機首下から斉射した。
 放たれた火線が敵を捉え‥‥直後、その傍らを覚羅機が交差して行き過ぎる。覚羅機の装甲には、鋏が残した引っかき傷が一筋、刻まれた。蠍の方はその前面を機銃弾に撃ち砕かれ‥‥推進機関の火が消えたその死骸は宇宙のゴミと化して流れ行く。
「残り、大型2!」
 振り抜いた機拳でもって眼前の敵を潰した我斬は、眼前の死骸を蹴り飛ばすと背後の戦場を返り見た。1匹の大型には透夜機がついている。もう1匹は巡洋艦へ接近中だ。
「この‥‥っ!」
 慣性制御で急停止したその大型蠍に向け、透夜は人型へと変形しながら急制動をかけた。
 擬似慣性でも打ち消しきれぬGがかかり、重力がその身を振り回す。透夜は気絶しそうになりながらKV刀を煌かせて敵へと至り‥‥直後、急加速した敵が距離を開く。
 宇宙における広域戦闘において、格闘攻撃は決して不可能ではない。だが、近接戦を求めて近寄ってくる中型蠍とは違い、大型は巡洋艦を目指していた。変形動作のロスは、移動・攻撃に直結する。
「だが‥‥!」
 透夜は機を変形させると、背後から敵を追撃した。ブーストを焚いた機体はあっという間に足の遅い大型蠍に追いついた。再び変形。残された攻撃機会はあと2回‥‥!
「十分だ。喰らえ、取って置きだ!」
 透夜は、変形しかけた敵の背後からルーネ・グングニルを突き入れると、その内部で液体炸薬を炸裂させた。敵の背がぼこりと膨らみ、体液をぶちまけて弾け跳ぶ。
 我斬は透夜と合流すると、もう1匹の大型を見た。
 その『主砲』射程まで到達した大型キメラは、そのプロトンビームを放つべく砲撃形態へと変形を始めた所だった。と、そこへ母艦から撃ち上げられる高射砲。その砲撃はキメラの撃破を目的としたものではなく、傭兵機の攻撃範囲に追い込む為のものだった。そこへ反転してきた覚羅機が遠距離からの銃撃でさらに敵の行動範囲を限定し‥‥200mm砲を構えた一がその砲弾をぶっ放す。
 立て続けに放たれた6発の200mm砲弾は、その全てが狙い過たず、行動を制限されていた大型を直撃、爆砕した。

 補給を終えて装甲板の陰から出てきた藍機が、その位置からスラスターライフルを連射する。既に前線と後方の距離はない。砕けた機雷の破片が艦にぶつかりカンカンと音を立てる。
 狙撃砲を構えた愛華機の前で、両腕の機銃を撃ち捲くる桜機。藍機と入れ替わりに戻るはずの愛華は‥‥補給を諦め、艦の装甲板の上に機を取り付かせて固定した。
「機雷相手なら、ブーストなしでもここから‥‥!」
 と、その艦が舵を切り、右へと転舵し始めた。それは、右舷側の脅威がなくなった事を示していた。機雷から距離を取り始める巡洋艦。その頭上を前衛5機が通過し、迫る機雷群への『反撃』を開始する。
「味方は見捨てず、危地には晒さず、か。エクスカリバー級宇宙巡洋艦『ソードオブミカエル』‥‥良い艦じゃないか」
 ようやく距離を取り始めた艦を見下ろし、覚羅が操縦席で微笑を浮かべる。
 それを聞いた我斬は、艦長は不機嫌そうだけどな、とまぜっ返した。
「宇宙戦艦の艦長なんて、漢の浪漫だろ。手柄だって立て放題だぜ、きっと」
 その交信は艦橋にも流れていた。通信士の少年がにやにやと振り返る中、ロディは居心地悪そうにそっぽを向く。
「艦長として、艦を動かすのは艦長なのですから」
 味方の到着に一息ついた藍の言葉に、桜はん? と首を傾げた。
「大事な事なので二度言いました」
 藍はえへんと胸を張った。