●リプレイ本文
「小型HW、敵隊列直上に浮遊停止。どうやらそのまま敵地上部隊の直掩につくようです」
ジャミング中和装置によりクリアになったセンサーモニター。そこに映る敵影を目で追いながら、ウーフー搭乗の里見・さやか(
ga0153)は最新の敵情を味方に伝えた。
「‥‥敵はかなり重厚な布陣を敷いているようですね。これは骨が折れそうです」
「ええ。ですが、ここで抑えなければ味方の地上部隊が不味いことになります」
報告を聞いてあらあらと頬に手を当てる乾 幸香(
ga8460)。それに答えながら、アクセル・ランパード(
gc0052)は兵装を誘導弾へとスイッチする。
「フェニックスリーダーより制空隊各機。これより敵直掩機を駆逐する。一撃離脱だ。もたもたと戦場に残るなよ。対空砲に喰われるぞ」
ブーストを焚き、一気に編隊の前に出る201隊。幸香のイビルアイズ、アクセルのスレイヤー、そして、美具・ザム・ツバイ(
gc0857)の天がそれに続いて加速した。
「これより上空の掃討に入る。尻は守ってやるので、安心して攻撃するがよい」
対地攻撃の態勢に入る104隊とそれを支援する196隊へそう軽口を叩きながら、スロットルを全開に押し出す美具。対空・対地装備を満載した美具機がブースト炎を盛大に噴き出し、その重い機体を前へと押し進める。
攻撃隊の前面に展開した制空隊は、敵隊列上空、全ての戦線において攻撃を開始した。横一列に並んだ201から一斉に放たれる誘導弾。幸香が、アクセルが、そして、美具が、ロックオンマーカーが反転した敵へ向けて、それぞれが装備したミサイル兵装を次々に解き放つ。白煙を曳き、獲物へ向け獰猛に突進していく誘導弾群。群狼に喰らいつかれた雄牛の如く、立て続けに直撃を受けたHWがあちこちで爆発して砕け散る。
「バイパー隊全機、突入開始!」
「わたくしも少しでも尽力‥‥してさしあげますわ!」
幸香は上昇していく201隊から離れると、機を大きく横へと旋回させつつ地上を見下ろし、LC(レックスキャノン)をロックオンキャンセラーの範囲に収めた。その旋回半径の外側を旋回していくアクセル機と美具機。アクセルは降下部隊と合流する為に、美具は対地攻撃を仕掛ける為にその機首を南へ向け直す。
「この敵の合流を許せば、それだけ前線の人たちが危険に晒される‥‥ 行くよ、紅良狗! 生まれ変わった君の力、私に貸して!」
一方、104隊に後続する傭兵たちの降下隊では、水上から砲撃支援を行うべく、響 愛華(
ga4681)のパピルサグIIが編隊から放れ、その高度を下げ始めていた。
「気合を入れるのはよいが、大ボケはかまさぬようにの」
「わふぅっ!? さ、桜さんひどいんだよ! 帰ったら一緒にご飯でぷくぷくぷにぷにの刑なんだよ!」
綾嶺・桜(
ga3143)が愛華をちゃかしながら──その実、とても心配そうに、単騎で離れる友人を見送る。海面近くまで降下した愛華機は、そのまま機の腹面を滑らせる様に着水した。水面を跳ねる石の様に、2度、3度とバウンドし‥‥ そのままブーストを焚いて海岸線へと奔り行く。
敵前衛の陸戦本隊は、その隊列を戦闘隊形に転換し始めていた。LCは対空砲撃を開始。曲射砲装備のTW(タートルワーム)は、砲撃態勢を整えるべく北側の林へ移動しつつある。陸戦隊(第二陣)はその空いた空間を詰めるべく前進中。最後衛の輸送隊はTWの砲弾と物資を積んだ一部が林へ向かい、残った箱持ちはコンテナを展開して独自に戦闘準備を進めている。
「させないんだよ‥‥っ。『ハングリードッグ』より各機。箱持ちへの攻撃を開始するよ!」
敵輸送隊南の海岸線に辿り着いた愛華機は、ホバーで砂浜へと乗り上げながら背負ったM−181榴弾砲を展開した。弾け飛ぶ防水カバー、仰角を取る砲身。センサーが測距した数値を読み取りながら敵中に砲撃を叩き込む。
弧を描いて飛翔した砲弾は『荷』でごった返す道路上に次々と着弾、爆発した。破片に薙ぎ払われた大型キメラが肉片と体液を地にぶちまけ、外に出かけていたキューブワームがコンテナごと粉々に砕け散る。
そこへ到達したバイパー隊は、装備した対地兵装を全ての戦線に亘ってばら撒いた。反撃もまた過酷だった。最も大きな損害を出したのは、やはりLCを攻撃した隊だった。
「被弾した! 畜生、出力が上がらない!」
「離脱しろ! 敵のど真ん中でなければ、後で俺たち(海兵隊)が助け出す!」
黒煙を噴きながら高度を落とす104。美具は防御兵装「乱波」のスイッチを指で弾きつつ、操縦桿を引き倒した。掠め飛ぶ拡散プロトン砲。幸香は幾筋もの光条の中を機を傾けて飛び抜けると、キャンセラーを継続使用して敵の照準を妨害し続ける。そこへ再旋回してきた美具は、再び乱波をばら撒きながら、対艦誘導弾「燭陰」に目標座標を入力した。切り離した瞬間、フワリと機が浮き上がるのを感じながら、美具は、ロケットモーターに点火した対艦誘導弾の加速を見送った。
「ちょっと季節に早いが、美具様からのお年玉じゃ。ありがたく思うがよい!」
林の上を這うように進んだ誘導弾は、上空から目標地点へ突っ込んだ。爆発── 上空にいる各機が分かる程の衝撃波が激しく機を振動させ、直後、爆音と共に巨大な火柱が上空へと立ち昇る。
「よし、俺たちも行くぞ!」
ディアブロを駆る月影・透夜(
ga1806)が操縦桿を傾け、砂浜へ人型降下を開始する。後続する桜のシコン。さやかはそれに続きながら、愛機のコンソールを労わる様にそっと撫でた。
(前線に辿り着く敵を一機でも少なくするために‥‥大規模作戦で疲れているとは思うけど、力を貸して、『アールマティ』)
低空を降下しながら、LCに向け88mm光線砲の牽制射を放つさやか。そんな中、フェイルノートIIを駆るラサ・ジェネシス(
gc2273)は、ブーストを焚いて編隊の前に出た。
「‥‥なんか、思ってたより敵の数が多いナ。弾、足りるカナー‥‥」
一瞬、そう眉をひそめて‥‥「まぁ、いっか! やれるだけやってミヨー!」と笑うラサ。
ラサは構わず機を突進させると、敵対空砲の前面に向け、P−37大型煙幕装置から煙幕弾を射出した。砂浜の上を越え、道路に跳ねながら煙を撒き散らし始める煙幕弾。ラサはそれを5発、立て続けにLCの隊列に撃ち込んだ。立ち込める煙幕に、敵の対空砲火は目に見えて減少した。敵の重力波センサーは、上空の幸香が撹乱し続けている。
「今です!」
最も早く、最も敵の近くに降下したのは、アクセルの204だった。敵陣上空から飛行してきたアクセル機は、人型に変形するや脚部を前へと振り出し速度を殺すと、推力偏向機動で背後を振り返りながら、光り輝く機盾を手に砂浜へと降り立った。煙幕の向こうから飛来するプロトン砲。アクセルは電磁加速砲を右腕に保持すると、盾の陰から構え出した。煙の中から飛び出してくるLC。アクセルはその首元を磁力砲弾で撃ち貫く。
それを見たさやかは自らも機を変形させると、バラバラと敵火線が飛び交う中、両腕にプラズマライフルを保持しながら砂浜へと降下した。その前方、砂を巻き上げながら降着した透夜機と桜機は、体勢を立て直すとすぐにLCへの吶喊を開始した。支援砲撃を放つアクセル機の横を抜け‥‥薄れゆく煙幕の中、敵陣まで辿り着いた桜機が種子島を手に構える。
「一気に叩かせて貰うのじゃ!」
砲口から放たれた高出力レーザーが、煙を切り裂くように敵陣の中を走る。その光が消えた時、穿たれ、貫かれ、切り裂かれたLCが数匹、赤い体液を噴き出し地に倒れた。それを見て、その皮膚の色を赤く変色させるLCたち。それを突進してきた透夜機が機刀を振るって斬り飛ばし。そのまま敵を蹴散らしながら内部へ突入。スラスターライフルを撃ち捲ってLCが背負う対空砲を破壊していく。
「桜。砲塔はこちらで潰していく。本体は頼んだ」
「了解じゃ。接近戦こそわしの得意な戦場。全て叩き潰させて貰う!」
左腕に88を構えながら、右腕でハンマーボールを頭上に振り回す桜機。透夜機に後続しながら赤いLCの頭部を横殴りにぶっ飛ばし‥‥迫り来た緑のLCの牙を喰らいながら、その腹部に88の砲口を突きつけ、零距離から撃ち貫く。
「突進、突進。敵LC隊はその隊列を大きく崩しつつあり」
さやかは皆にそう知らせながら、自らも銃撃を加えながら突進を開始した。同時に集束装置を使い、味方の戦闘を支援する。
アクセルもまたクロスマシンガンを乱射しながら敵陣へと突入する。LCの混乱を確認した幸香は電子支援を中断し、自らも降下する為に南へと機首を向けた。ラサがそれに合流して、一緒になって降下する。
「サァサァ! どんなモンですカ!」
人型で着地した瞬間、マントを翻してラサ機が見得を切る。そこへ流れ飛んでくるプロトン砲。ドヤ顔をしていたラサは慌ててその首を竦ませると、「騎士の誉れにナニするデスか!」と叫びながら、腰部2門のマルコキアス、肩部2門のレーザーキャノンを一斉にそちらへ撃ち放ち始めた。
「騎士、ねぇ‥‥」
電子支援を行いつつ、自らも長距離バルカンで銃撃をLCへ撃ち込みながら、幸香がゴツい武装を満載したラサ機をジト目で眺めやる。
「細かいコトはキニスルナ!」
そう返すラサの機体の後ろに、海兵隊の196Dが次々と降り立ち始めていた。
●
対空砲を潰した傭兵たちは、そのまま隊を東西の2つに分けて戦闘を継続した。
「くっ、燃料が心許なくなってきましたね‥‥ですが、道は切り拓かせていただきます!」
迫り来る陸戦ワームの群れに向けて、アクセルは再び電磁加速砲の砲撃を開始した。その横でさやか機がプラズマライフルを撃ち放ち、ラサ機が鋼の豪雨を敵前面へ向け浴びせかける。
磁力砲弾を受けたゴーレムの肩口が吹き飛び、プラズマ光弾に貫かれた陸戦用HWが擱坐する。弾幕の嵐は突出する敵をもぐら叩きの様に打ちのめし、まるでミシンの様にその装甲を穴だらけにひしゃげて粉砕する。
だが、敵はその損害に構わず前進を継続した。機数に任せて弾幕を張るHW。ラサ機がマントをなびかせながら、右へ、左へ、ジグザグに進路を変えつつ後ろに跳んで距離を取る。
リロード中に捨て身の突撃を仕掛けてきたゴーレムを、さやかは20mmバルカンで迎え撃つ。頭部センサを砕かれながら、構わず突っ込む敵ゴーレム。横合いからそこに突っ込んだアクセル機がマシンガンの銃把でぶちかまし‥‥動きを止めた敵に、体勢を整え直したさやか機が抜き放った剣を突き入れる。
激しい敵の攻勢は、だが、196隊が側面攻撃を敢行した事で頓挫した。歓声を上げてラサが呼応し、ブーストを焚いて突撃していく。
アクセルは文字通り一息吐くと、傍らのさやか機を見やった。
「このままタートル、箱持ちと撃破しつつ、その先の道路を確保します」
「そうですね‥‥東側には先行した斥候がいるようですし‥‥」
さやかは眼下の道路を見下ろした。破片と残骸、弾痕に塗れた道路では、滑走路として使えない。
と、その時、布陣を完成させたTWが曲射砲を戦場へ向け撃ち始める。
急ぎましょう、とさやかは言った。
敵の砲撃は、砂浜の愛華機を狙い撃ちにし始めていた。
眼前の箱持ちたちは、最初に愛華が浴びせた砲撃から立ち直ってはいなかった。時折、突出してくる武装箱持ちを、その都度、愛華は狙撃砲で撃破する。
だが、TWが砲撃準備を完了した時、彼我入り混じる乱戦下にいなかったのは愛華だけだった。
亀からの砲撃は、全て愛華に集中した。
「わふぅぅぅっ!?」
幾重にも重なり響く砲弾の落下音を聞きながら、愛華はブーストを焚いて機を横へと滑らせた。有り余る敵の砲弾はそちらへも落ちてきた。立ち昇る水柱と砂柱、滝の様に降り注ぐ土砂交じりの海水。無数の破片が装甲に喰い込み、四方から襲い掛かる衝撃波に各部の関節が悲鳴を上げる。
「グレネードを撃ち込む! 全機、突撃するのじゃ!」
桜機が放った擲弾が敵中に炸裂し、敵ゴーレムが築いた盾の壁の一部が崩れた。
すかさずそこへ重機関砲を撃ち込み、その傷口を開きにかかる幸香。放たれた30mm弾の猛威に盾を弾かれ、仰け反り、膝関節を砕かれ崩れた所を穴だらけにされたゴーレムが火を噴き、爆発する。放たれた反撃の銃火は、キャンセラーによりその多くが照準を外していた。重機関砲弾をばら撒きながら1歩ずつ前進していく幸香機。銃撃を保持したまま左腕に剣を抜き放ち‥‥突進して来た敵を切り捨てながら突破口を切り拓く。
桜機もまた横薙ぎに振り回した鉄球で突入口を切り開いた。手にした剣の間合いに入る間もなく、叩き潰されるゴーレムたち。距離を取り、火力を集中しようとした敵は、だが、突進して来た透夜機によって蹴散らされた。ライフルを撃ち捲くりながらブーストで突進し、刻んだ弾痕に手刀を突き込み、傍らの敵に叩きつける。
だが、統制された敵本隊は、突出したこちらを包囲するように隊列を転換した。
「囲まれたところで‥‥やりようはある!」
打撃の衝撃に揺れる機内で、透夜はスロットルを全開にした。両腰のスラスターを前後へ向けてブーストを噴射。光の尾を曳き回転しつつ、機刀を真横へ薙ぎ払う。その勢いに、右側方にいた2機が力場ごと切り捨てられ‥‥3機目にその柄と拳を抑えられた。
「タロス‥‥! 指揮官機か!」
反撃を機刀で受け凌ぎながら、一旦距離を取る透夜。そこへ上空の美具機が高速ミサイルを撃ち下ろし、降り注ぐそれをタロスが盾で受け凌ぐ。
その隙に敵の右側から突っ込んだ幸香機が、機体正面に構えた剣を横合いから突き入れた。切っ先は敵右腕の関節部を切り裂き、半ば以上断たれた腕から敵が剣を取り落とす。
止めを差さんと前に出た透夜は、だが、ゴーレム3機がかりで阻まれた。そのまま後退していく敵。美具機が上空から重機関砲で敵指揮官機を追い打つも、やがて林の中に逃げ込まれてその姿を見失う。
「偵察機より連絡。大規模な敵航空部隊の接近を確認。直ちに離脱を開始せよ。以上です」
さやかの報告。どうやらタイムアップのようだった。逆に頭を抑えられれば、殲滅されるのはこちらの方だ。
透夜と幸香は、桜が維持していた退路を通って敵隊列から抜け出した。追撃はなかった。敵も林への離脱を最優先にしているようだった。
海兵隊と傭兵たちは機を失った味方を素早く救出すると、残敵に構わず、さやか、アクセルが確保した道路を滑走して離陸した。
「敵指揮官機を逃したのは痛いが‥‥少しは味方が飯を食える時間が稼げただろうか‥‥」
地上を見下ろしながら透夜が呟く。殲滅、というわけにはいかなかったが、再編するまでそれなりの時間を稼げただろう。
「ご飯かぁ‥‥疲れたなぁ。我輩の分のご飯はあるカナ?」
想像して笑みを浮かべるラサ。桜は難しい顔をした。
「ぷくぷくぷにぷにの刑らしいからのぉ‥‥下手したら残らんかもしれんのぉ」