●リプレイ本文
通常、エクスカリバー級巡洋艦は、主砲であるG光線ブラスター砲を前部に集中配備している。その最大火力は前方。全長222mの艦が有効射程400mで攻撃するわけで、その戦法はラム(衝角)戦に近い。
対して、初期設計で建造されたSoMは、艦の前後部、上下甲板に砲塔を2基ずつを背負い式。最大火力は左右側方だ。
故に、その運用方法は帆船時代の戦列艦に近い。それは即ち、今回の様な同航戦──艦首を同じ方向に向けての対艦戦──は、SoMにとって得意な形であることを意味している。
「操舵手! 艦の傾斜角を常に敵艦と0に維持しろ。奴の突破を防ぐのが最優先だ。ぶつける気で行け!」
SoM、CIC── 艦長席のロディがクルー矢継ぎ早に指示を飛ばす。
それをオペレーターのマイク越しに聞き取った響 愛華(
ga4681)は、親友の綾嶺・桜(
ga3143)に興奮気味に話しかけた。
「わぅわぅ! ロディ艦長、いつになく強気だよ!」
「撃退でもよいのにの‥‥ まったく、あの艦長にも困ったものじゃ」
やれやれと肩を竦める桜。それを聞いて威龍(
ga3859)が笑った。
「そう言ってやるな。ここで敵艦を沈められれば今後の戦闘が楽になる。ここはなんとしても頑張って貰わねば。その為にも、艦に降りかかる火の粉は俺たちで確実に払わんとな」
「そうだよ! いつも以上に気合を入れていかないと! 敵艦必滅、えいえいおー、だよ!」
威龍の言葉に勢い良く頷く愛華。その様子を想像しつつ、桜が「わかっておる」と苦笑する。
やがて、発艦したKV隊は、それぞれ艦の射線を塞がぬよう上下に分かれて前進すると、前衛と後衛の二段に隊列を転換した。
月影・透夜(
ga1806)のディアブロ、桜と威龍のタマモ2機、美紅・ラング(
gb9880)のニェーバを前衛に。愛華のパピルサグ、阿野次 のもじ(
ga5480)のピュアホワイト、守原有希(
ga8582)のスレイヤー、加えてラインガーダー隊を後衛に。そして、その中間、中衛とも言うべき位置には、正規軍の4機と共に、ユメ=L=ブルックリン(
gc4492)のS−02が前衛後部を補う形で位置している。
「ちゃんと、した、宇宙機は、初めて‥‥ でも、やる、ことは、いつもと、かわんない」
ルーチンワークのように計器類を再確認していたユメが、ふと風防の外を見やる。
圧倒的な存在感、いや、虚無感でもって広がる深遠── そして、その只中に蒼く地球が輝いている。
なんとはなしにユメは思った。やっぱり、ソラより空の方が好き── ‥‥ここには何もない。まるで空っぽの自分の様に。
そんな人類側に対して、敵は中型宇宙キメラ12匹を前面に押し出しつつ、距離を置いて4機の小型HW(狙撃型)を後続させていた。
それを見た有希は唸った。敵艦の攻撃力の割に、その隊形は防御的に『過ぎる』気がした。HWを出したと言う事は、邪魔なSoMを沈める決断をしたということ。だったらもっと攻撃的でもいいはずだ。
「‥‥万が一ということもあります。のもじさん、愛華さん。伏兵や迂回奇襲を警戒しましょう」
「OK、有希っち。20km以内の敵は何一つ見逃さないわよん」
「了解だよ、有希さん! 今の所、敵艦の向こうに反応はないみたいだけど‥‥」
そう言っている間にも戦場の状況は変遷していく。彼我の距離は見る間に縮まっていき‥‥ 敵巡洋艦から新たに4つの射出体が放たれた。
「敵艦、対艦ミサイルを発射! 雷数4! 本艦に向け接近中!」
オペレーターが艦長を振り返って警告の叫びを上げる。
のもじがニヤリと笑った。脳内にBGMの前奏が流れ始める。
「OK、じゃ、みんな、今日もいくよ♪ オールナイトノモディ、まず最初の曲は『ミサイル迎撃』から。美紅ちゃんのナンバーでどうぞ♪」
センサーに映る彼我の動きを見ながら、のもじが味方機に移動の指示を出す。
それを受けて、美紅が最新鋭機を味方の前に出した。センサーには横列で迫る4発の誘導弾。その動きは美紅が予想していたように、SoMに向かって一直線に、最短距離で突進していた。
「美紅のこの目が黒いうちは、SoMを沈ませたりはしないのである」
コクピットの中で静かにそう呟く美紅。物静かな物言いであるが、それは確かに美紅の『決意』だった。荒ぶるでもなく、自らを鼓舞するわけでもなく。だが、それでも艦長の戦意に心ふるわせなかったと言えば嘘になる。ならばその決意に報いる為、SoMを決戦の地へ送り込むのが美紅の仕事──
「オーブラカ、展開。ミチェーリ、起動」
美紅が幾つかのスイッチを叩くと同時に、ニェーバの機体の各所から一斉に内蔵機銃群が顔を出した。
引き金を引き絞る。全周に放たれる圧倒的な弾幕。火線と呼ぶのも生易しい機関砲弾の嵐がミサイルを捉え、砕けたそれが巨大な火球となって爆発する。
ミチェーリにより宙に咲いた華の数は4。発射された敵誘導弾は、前衛まで達することなくその全てが撃破された。
「よし、次はこちらの番だ。CIC! G5弾頭を時限信管で発射し、敵を範囲攻撃で削れないか? その穴を俺達が更にこじ開けて敵艦へと突入する。そこに本命を叩き込んでくれ」
全弾迎撃を確認して、透夜がCICに作戦を提案する。
ロディは少しだけ考え込んだ。G5弾頭弾は射程60kmを誇る、敵艦の主砲より手の長い唯一の武器だ。だが、敵機や対空砲火に迎撃されずに命中させるにはKVの支援が欠かせない。
「よし、砲雷長。VLS1番を時限信管に変更。敵編隊の鼻先で起爆してやれ。のち、2番から4番までを連続発射。巡航は最短。終末誘導は任せる」
反撃の矢が放たれた。雷数1。敵前衛の中型キメラが迎撃しようと舵を切り‥‥ その照準が的を捉えた瞬間、G5弾頭弾が爆発する。
慌てふためき、『後退する』敵キメラ。損害1。足の速いキメラには対艦兵装は『大味』過ぎた。だが、混乱した敵の隊列は乱れに乱れ切っている。
「今だ! 本命を叩き込め!」
続けて、SoMから2番が、そして、3番、4番が立て続けに放たれた。一瞬、迎撃を躊躇するキメラたち。その隙に、能力者たちは最大限つけこんだ。
「まずはこのキメラどもから間引きを図る! GP−9、フルオープン!」
「攻撃了解。‥‥落ちろ、ゴミ虫共がぁ!」
噴進炎を激しく吐き出しながら突進した威龍機が無数のマイクロミサイルを撃ち放ち。その後方、覚醒して性格の変わったユメががしがしと引き金を引き続ける。
2機が放ったマイクロミサイルは文字通り宙を乱舞しながらキメラ群へと襲い掛かった。立て続けに炸裂するプラズマ光。あちこちに光が弾け、直撃を受けて焼け爛れた死骸が水蒸気の氷煙と共に砕け散る。
そこへミサイルコンテナをリリースしながら突進した美紅機が、そのまま装備した主兵装で残余の敵を掃討していく。
前衛の戦闘開始からものの10秒もしない内に、敵前衛はその戦力の半分以上を失った。敵後衛の有人機がポジトロン砲を浴びせかけつつ、残存兵力と共に後退しようとする。
だが、敵に再編の時間は与えられなかった。味方機が切り開いた隊列の隙間に、透夜と桜が機を突っ込ませていたからだ。
「突撃じゃ! 邪魔者を突破して道を拓く! 当てにさせてもらうぞ、透夜!」
「『影狼』より全機。これより前方一群をこじ開けて敵艦へと飛び込む。抜けた分はよろしく頼む」
高速で宙を疾駆する3発のG5弾頭弾と共に、ブーストを全開にした透夜機と桜機が突進する。前方には前衛を失い丸裸の狙撃型。その群れに透夜と桜はそれぞれK−02とアルコバレーノを撃ち放つ。
4機の狙撃型は回避にダミーを分離しながら‥‥ 迫る2機から距離を取り、その針路上から『退いた』。
「道を空けた、じゃと!?」
驚愕する桜。なにかある。そう察知し得たとしても、他に取るべき手段はなかった。すぐ後ろには必殺を期して放たれた3本のG5弾頭弾。これを命中させるには、敵艦の対空砲火を出来うる限り潰しておく必要がある。
「クッ‥‥ミサイルを落とさせるわけにはゆかぬ!」
桜は透夜と共に敢えて突撃を継続すると、回避運動を取りながら正面の敵艦へと突っ込んでいった。放たれる対空砲火。桜は敵艦上に見える対空砲群を2つ、3つと照準して7色のミサイルを撃ち放ち‥‥
直後、照準機の向こうの敵艦の陰から何かが飛び出し、攻撃態勢にあるこちらの後ろに回り込んだ。
それは敵艦の背後に『張り付いていた』4匹の大型キメラだった。敵は艦を囮にしてこちらをキルゾーンまで引き込んだのだ。
さらに発進口から3匹ずつ、計6匹の中型が飛び出して来る。対するこちらの機数は2。あまりにも戦力が足りなかった。
「桜、離脱を!」
叫び、透夜は操縦桿とフットペダルを思いっきり踏み込んだ。スラスターをめちゃくちゃに噴かして木の葉の様に機位を『落とす』。全周から放たれる怪光線。対空砲火のエネルギーが装甲を掠めて融解させる。
桜は回避運動を取りつつ超伝導RAを起動したが、浴びせられるそのエネルギー量に瞬く間に限界に達した。増加装甲を貫通した幾本かが機をも貫き、噴き出した爆発が桜ごと機を激しく揺さぶる。
透夜機は大破した桜機を守りつつ、それ以上包囲されぬよう素早くその場を離脱するしかなかった。
3基のG5弾頭は、その全てが破壊された。
戦力バランスは一変した。
透夜と桜、2機のKVを艦周辺から駆逐した敵伏兵は、残存するキメラと共に狙撃型の前に出た。
前衛には新たに中型6匹と大型4匹が加わり、透夜と桜の攻撃をかわせた2機の狙撃型が後につく。
対するこちらは傭兵6機と正規軍機。それまで後衛で待機していた有希がブーストを焚いて前に出た。
「GP−02S応射! 追撃を!」
オーバーブーストを焚いた204が、機体の各所のミサイルを一斉に撃ち放つ。最初に2機、さらに2機と中型キメラにミサイルを散らし、4機の正規軍S−02をそれぞれ止めに突っ込ませる。
そのまま巴戦に入る4機の横を、通り抜ける4発の対艦ミサイル。敵は初撃の後も対艦ミサイルを撃ち続けていた。護衛はなし。あくまでこちらに負担をかけ続けるのが目的だろう。
「くっ、このっ‥‥! ただでさえ忙しいってのに‥‥!」
大型キメラと格闘戦中の威龍が捉えた敵から照準を外し、迫り来るミサイルへとその銃口を振り向けた。突撃砲の火線が2本を捉え、ミシンで縫うように穴を開けて爆散させる。
残る2本は美紅がスラスターライフルの二連射でもって撃ち抜いた。ミチェーリは使えなくなっていた。既に乱戦と化している。
続けて迫る新手の4本。それを迎え撃とうとする美紅機の左から大型キメラが突っ込み‥‥
「左舷、弾幕薄いぞ、なにやっているか‥‥」
自分で自分にそう突っ込みを入れながら、ライフルと共に内蔵機銃をリーヴィエニで振り向ける。
「ピュアピュアピュアリンピュアホワイト☆ ジャンK−02!」
威龍と美紅を抜けてきた新手の誘導弾は、のもじがK−02の斉射で吹き飛ばした。だが、それも2回まで。立て続けに投射され続ける敵弾の数にのもじが辟易して唸りを上げる。
「ぬごご、マジ大変じゃん‥‥ 管制慣性フル稼働〜 愛華っち、ユメちゃんとこまで前進、ゴー!」
のもじの管制に従って、愛華が機をブーストで前へと進ませる。ユメ機は機を動かさず淡々と‥‥その実、コクピット内ではユメがハイテンションで、搭載したミサイルを次々と迫り来る敵へとリリースし続けていた。空になったD−08を機を回して放り投げるように切り離し、新しいミサイルポッドからロケット花火よろしく誘導弾を放ち続ける。
ユメ機に撃ち落された対艦ミサイルが間近に巨大な爆炎の華を咲かせる。愛華はそれに手をかざし、眼を細めて見つめながら‥‥ その光の向こうから吶喊してくる大型を見つけて素早く狙撃砲の照準をあわせた。
「させないよっ! 大天使の護りは任されたんだからっ!」
狙撃砲を撃ち放ちながら、愛華がファランクスを起動する。砲撃形態に変形し、艦にプロトンビームを放とうとする敵大型。そこへ自律機銃の銃撃が集中し‥‥ さらに、ユメ機のミサイルが『砲口』に飛び込んで爆発する。
「わぅん、こちら『ハングリードッグ』。ごめん、『紅良狗』のご飯を貰うんだよ」
G放電を敵へと撃ち放ちながら、補給の為に愛華機が下がる。それをセンサー上に見ながら、有希は唇を噛み締めた。
あと数十秒もしたら、自分も補給に帰らなければならなくなる。このままでは雷撃戦で押し切られかねない‥‥
危機感にかられる有希にのもじから通信が届く。それは戦闘に参加する全ての機に当てられたものだった。
「全機、これから私の指示通りに散開して。‥‥敵をこっちまで引き込んで包囲・殲滅するわ」
それは敵がとった作戦の逆バージョン。敵を正面に引き込む後衛が危険に晒されるが、上手く行けばこの泥沼から脱却できる。
散開し、防衛線を放棄して逃げ出す前衛機たち。敵キメラがそれに吸い出されるように前に出る。留まったのは有人機のみ。慌ててキメラを引き戻そうとするも、その前に反転してきたKVたちが3方から襲撃した。
「おしまいだ、腐れ共!」
上方から襲い掛かり、敵の退路に誘導弾を撃ち捲くるユメ。美紅機から迸る弾幕によって中型が次々に打ち砕かれる。
「大型は引き受けます。威龍さんは──!」
「了解している。皆まで言うな!」
敵大型へと突進する有希機が誘導弾を撃ちながら──回避行動に転じた敵の移動先へ光線銃で偏差射撃。そのまま宙空変形でもって機剣を敵に叩きつけ、体当たりで以って道を開ける。
その横をFETマニューバで駆け抜けた威龍機が、突撃砲の速射で狙撃型を撃ち貫く。そのまま敵艦まで突進した威龍機は、激しい対空砲火を潜り抜けながら‥‥ 一撃離脱でもってミサイル発射口の一つにG放電を叩きつけた。
●
小型機による戦闘は、人類側の優勢に終わった。
今や双方の距離は近い。パイロットたちは、既に戦場が自分たちの手から離れたことを悟っていた。
「距離、700‥‥600‥‥」
巡洋艦同士の距離を読み上げるのもじの声が響く。
雷撃戦で決着はつかなかった。そして、射程の優位は敵にある。
「敵艦、発砲!」
オペレーターが叫んだ時には、既に敵の初弾はSoMを掠めていた。
後方上部に至近弾。主砲塔2基が捻じ曲がって爆発し、外付けの増加装甲がその熱量にめくれあがる。
幸い、補給中の愛華機がいた右舷側は内部まで破壊が及ばなかった。だが、左舷側は完全に融解し‥‥ 愛華機の陰にいた飛行長が外へと飛び出し、その光景を見て絶句する。
「砲雷長!」
「アイサー! 全主砲、斉射!」
左舷、敵艦を志向した全ての3連装砲が圧倒的な光量と共に膨大なエネルギー量を開放する。
その奔流が一定間隔で敵艦を撃ち貫き‥‥ やがてそれは一際大きな爆発の華を咲かせると、それまでの激戦が嘘のようにあっけなく消え去った。
湧き起こる歓声。その中でロディはホッと息を吐き‥‥
「艦の最後、か‥‥」
ポツリとそう呟いた。