●リプレイ本文
後方で警戒待機に当たっていたRM−04(AFV)の試験中隊は、1号車の砲撃によって出し抜けに戦闘に突入した。
白無垢姿の綾嶺・桜(
ga3143)を抱えて暖を取っていた響 愛華(
ga4681)は名残惜しそうに桜を下ろし、代わりにガトリング砲を抱え上げる。
そのまま暗視装置で前を見た。遠くで旋回する4機の陸戦用小型HW(浮遊型)。さらに、多数の獣型のキメラたちが木々の間を抜けてこちらへ走り寄るのが見えた。
「敵キメラの突撃を確認。これより能力者随伴歩兵は、車両前面に展開してこれを迎撃する」
ガトリング砲を撃ち始めた愛華を背に、月影・透夜(
ga1806)が無線で報告する。連絡を受けたRM−04(AFV)2号車操縦手、守原有希(
ga8582)は了解した旨を伝えると、同じく能力者の乗る3号車に通信を入れた。
「聞いての通りです。ウチら3両で中隊のケツを持ちます。隊形は鶴翼‥‥といっても、こちらは3両だけですが」
「そうですね。難敵状況と判断します。敵は4機‥‥ 多対一の優位状況を作り出し、各個撃破したいところです」
有希との通信を終えると、3号車砲手、アンジェラ・D.S.(
gb3967)は、車内通信で操縦手のD・D(
gc0959)へ移動の指示を出した。
「‥‥D・D殿! 車両を十字砲火ができる位置へ!」
「了解。‥‥御世辞にも整地とは言えん。揺れるだろうが、我慢してもらうぞ」
D・Dは暗視機能付きのペリスコープを覗いて僚車の動きを確認すると、前進速度を合わせながら、左前方に展開するよう操車した。
後退してくる中隊のM1戦車。その横を雪を蹴立てて前進するAFV。有希の駆る2号車が凍結した雪上でドリフトしながら車体を雪溜まりに遮蔽させ。砲手のセレスタ・レネンティア(
gb1731)が雪上に『顔だけ出した』砲塔を旋回させて、前方1000の距離にある浮遊型HWを照準する。
同様に隊列の反対側で停車するD・Dの3号車。アンジェラは陸戦用砲撃装置を用いての高威力精密射撃を準備した。
「陸戦用砲撃装置、照準開始。M3帯電粒子砲、SES再圧縮──」
「こちらでも敵影を確認。‥‥しかし、非能力者でもHWに対抗できる兵器とは。エミタの補助がないと思うと、若干、緊張しますね」
セレスタがそう呟く間に粒子加速器は臨界に達していた。砲撃装置が目標の補足を報せてくる。
「撃て!」
号令が響き渡り、凹型に展開した3両のAFVが一斉に発砲した。闇夜に輝く光の奔流。瞬く間もなく1000の距離を飛翔した3発の粒子砲弾が中央のHWを直撃し。その内の1発がFFを抜けて装甲を貫通。機体下部を爆発させる。
「やはり、共に戦ってこそのリッジウェイ── 戦車だな。頼りになる!」
それを見た随伴歩兵、寿 源次(
ga3427)が杖型の超機械を振り上げ、彼が愛して止まないリッジウェイの眷属を賞賛する。
だが、その高揚に水を差すように、赤い瞳の虎型が闇の中から飛びかかってきた。源次はその攻撃をのけぞるようにかわすと、眼前の虎型に向かって電磁波を浴びせかけた。獣毛に凍結した氷が湯気を立てて蒸発し、直後に再凍結して空中にキラキラ光り── 虎型は苦悶の呻き声を上げ、ずしん、と地に倒れ伏した。
だが、休む間もあればこそ。今度は熊型が源次に襲い掛かる。横へと跳び転がった源次は杖を振るい、『練成強化』を自分に、ではなく背後へ飛ばした。その目標、愛華のガトリング砲が闇の中に淡く光り。直後、源次の眼前の熊型を、愛華が放ったガトリング砲弾の豪雨が撃ち砕く。
「大丈夫、源次さん!?」
砲身から白煙を上げるガトリング砲を提げ持ちつつ、駆け寄る愛華。源次は自らの傷を『練成治療』で処置しながら、「こりゃ押し込まれるな」と呟いた。敵本隊のキメラはこちらの予想以上に数が多い。
愛華は唇を噛み締めると、前衛で戦う桜と透夜を見やった。槍で虎型を串刺しにしつつ、別の熊型から鉤爪を振るわれる透夜。引き抜いた槍を十字に組んでその一撃を受け流し。その後ろから飛び込んできた桜が薙刀で熊型の首を刎ねる。
敵を倒した透夜と桜は、だが、息吐く間もなく、新たに虎型3匹との戦闘を強いられていた。愛華は援護射撃を行いながら、無線機で早目の後退を提案した。
「後退は了解です。ですが、追撃のことを考えると、せめてあのHW3機だけはここで墜としておきたいところです」
2号車の操縦席で唸る有希。その後方頭上、砲塔内でセレスタが粒子砲の甲高い砲声を響き渡らせる。
そんな有希とセレスタの2号車に向かって、HWの1機が反撃の砲火を放った。膨大なエネルギーの奔流が逆方向に闇を切り裂き。2号車至近を掠め飛んで雪溜まりを一瞬で蒸発させる。
「プロトン砲装備のHWがいます! 狙撃型ではないようなので、この距離ではまず当たらないでしょうが‥‥」
それでもまぐれ当たりはある。ペリスコープ越しに敵を確認したセレスタが警告を発し、それを聞いた有希はAFVを後進させた。直後、それまで2号車がいた空間を、敵の第2射が貫いていく。
D・Dは1号車に後退するよう通信を入れると、隊列を維持すべく自らも3号車を後退させ始めた。アンジェラが徒歩の能力者たちに孤立せぬよう警告を発する。
「陸戦用砲撃装置にはAFVの全行動力が必要です。移動しながらでは使えませんよ!」
そんな事を1号車の砲手が叫ぶ。ならば、とセレスタは兵装をスイッチし、迫る浮遊型HWに向けて主砲同軸の20mm機関砲を浴びせかけた。
野太い連射音と共に発砲炎が舌を出す。緩やかに弧を描いて飛ぶ20mm砲弾は、だが、その殆どがFFによって阻まれた。闇夜に力場の煌きが輝き、その周囲に跳弾が花火の様に散り弾けた。
「20mmがこうも弾かれるなんて‥‥ 非能力者の皆はずっと、こんな思いをしながら戦ってきたのね‥‥」
自らの持つ武器が殆ど効かない── そんな悪夢のような光景を目の当たりにして、セレスタは改めて感嘆した。能力者が登場する以前、この強大な敵を前にして、兵たちは大量の火力を投入するという物量で── 己の命を晒して押し止めていたのだ。
能力者たちは改めて心に決めた。あのHWだけはここで墜とす。残せば味方にいらぬ被害が出る。
「車両班。このまま後退すると見せかけて、どこか狭い空間にHWを誘き寄せてくれ。敵の隊列が1列になるような場所だ。‥‥俺と桜が伏兵し、1機は確実に片付ける」
抗戦しつつ後退しながら、透夜が皆にそう告げる。愛華は驚き、友人の桜に呼びかけた。
「大丈夫なの!? 下手をしたら、敵中に孤立することだって‥‥!」
「HWとは生身でも何度か戦っておるじゃろう? なに、やり方さえ考えればなんとかなるはずじゃ!」
親友に向け、自信満々にそう断言する桜。愛華はその覚悟に声を失って‥‥ かろうじて言葉を搾り出した。
「分かったよ。二人とも、無茶をしたらダメだからね!」
いや、その無茶をしにいくのじゃろーが。自らを心配する愛華の心情を慮って桜は苦笑した。透夜と視線を交わして頷き、眼前の虎型を足爪で蹴り飛ばしてから一目散に離脱する。
そんな桜と透夜を愛華は源次と共に援護した。源次の『練成強化』の支援を受けつつ、腰溜めに構えたガトリング砲を振って追い縋る敵に砲弾をばら撒く。その横を駆け抜ける桜と透夜。桜と愛華は一瞬、目を合わせ‥‥ 以降は振り返らなかった。桜と透夜はそのまま後退中の車両のさらに後方へと走り続ける‥‥
「よし、じゃあ、本格的に後退戦を開始するわよ。‥‥D・D殿、判断は任せるわ。敵に挟撃されぬよう、出来るだけ1号車を守るように立ち回って」
「了解。‥‥1号車! 後退の速度はそちらに合わせる。あれ(HW)に追いつかれるのはゾッとしない。遅すぎず、かと言って引き離すほど早すぎず、な」
「うむ。了解だわい」
「えー!?」
どうやら1号車は操縦手の方が肝が据わっているらしい。心配は無用だろう。砲手もあんなだが砲撃の腕は良いようだ。
「響! 俺たちも車両まで退がるぞ!」
「うん!」
叫ぶ源次と互いに支援しながら、直衛距離まで退がる愛華。だが、そんな二人の迎撃を抜けて、1匹の虎型が3号車に跳びかかった。車体側面の増加装甲が鉤爪により引き裂かれる。
「ち、攻勢厳しいか‥‥ 愛華、源次、車体の前を開けろ! 二人は側方から来る敵を。正面は、私がやる!」
D・Dは二人の離脱を確認すると、3号車前面の車載20mm機関砲でキメラを銃撃した。力場ごと頭部を叩き潰され、まるで見えない壁にぶつかったかのようにひしゃげて地面に落ちる虎型。無数の20mm弾に乱打された熊型が全身の骨を砕かれ、引っくり返る。
そこへさらに、アンジェラとセレスタが放った粒子砲が通常モードで速射され、凍土に突き刺さっては爆発が湧き起こる。あまりの損害の多さに、敵はキメラによる正面突撃を諦めた。
棚引く水蒸気の白煙と、バラバラになったキメラの死骸── その上を、後退するAFVを追撃すべく、残るHW浮遊型3機が機械音と共に通過していく‥‥
AFV隊のさらに後方まで移動した桜と透夜は、味方の砲声を遠くに聞きながら、伏兵に適した地形を見つけた。
なだらかに起伏する凍土の樹林。その一角、微かに盛り上がった小山に、針葉樹の幅が狭くなっている場所がある。
「しかし、大規模な作戦が終わってもなお、これ程の戦闘を強いられるとはの‥‥ 戦いはまだまだ終わらなさそうじゃ。お陰で『仕事』にあぶれんでよいかも知れぬが」
木陰の根元に身体を滑り込ませながらそんな事を呟く桜に、透夜が苦笑してみせる。
後退する味方はすぐに来た。巨大な二本の針葉樹──それぞれ桜と透夜が伏した木の間を3両のAFVが通過していく。
(落ち着け‥‥ 狙うのは最後尾の1機だ‥‥)
逸る気持ちを抑えつつ、透夜が通り過ぎていくHWをカウントする。1機が過ぎ、2機が過ぎ‥‥ そして、3機目が丘を越える。瞬間、透夜は双槍を一つに組みつつ飛び出した。手にする槍にエミタの紋章が吸い込まれて輝き、排気音が一際甲高い音へと変わる。
「今じゃ!」
対人砲が透夜に向いた瞬間、薙刀を手にした桜が根元の木陰から飛び出した。跳躍の勢いもそのままに、機体と砲塔の継ぎ目めがけて薙刀の切っ先を突き入れる。展開されるFF。桜は『真燕貫突』の二撃目でもって一気にそれを突き破った。金属同士がぶつかる激しい音。桜の振るった薙刀が、火花と共に敵砲塔基部に切れ目を入れる。
慌てて振り返る砲口。ニヤリと笑って宙を蹴り、その射界から消える桜。浮遊するHWの下を潜り抜けた透夜が、対人砲が振り返るより早く、桜が開いた損害箇所へ槍の穂先を突き入れる。
全力で貫いた砲塔基部へ、透夜は更に槍を突き入れた。プロトン砲のパワーユニットを貫かれ、砲塔基部に火花が散る。透夜は槍を引っこ抜くと、桜と共に元いた伏兵場所へと跳び退いた。直後、砲動力炉の爆発によって主動力炉に火が回り。HWが巨大な火の玉となって爆発する。
「今です! 先頭のHWに集中攻撃を!」
「全車、反転攻勢! 速やかにHWを排除するわよ!」
有希とアンジェラの叫びと共に、伏撃に『混乱』するHW群へ向けて、後退を止めたAFVが主砲を発射した。目標は先頭のHW。アンジェラは圧縮した粒子砲弾に続けて誘導弾を発射する。眩しく光の尾を曳いて飛翔した誘導弾が、粒子砲弾に乱打されたHWに突き刺さり、その爆炎と爆風全てを装甲内部へ送り込む。機体全体から盛大に炎を吹き出した浮遊型は糸の切れた蛸のように地面に落ちて、そのまま巨大な火球と化す。
前後を爆発に晒された中央の浮遊型はひとまず稜線の向こうへ逃れようとして、セレスタの放った20mm砲弾にその動きを抑えられた。傍らを飛ぶ曳光弾に一瞬、その動きを止めるHW。それが脅威ではないとプログラムが判断する前に、3両のAFVは再照準を終えていた。
燃え盛る炎の向こうに、レティクル越しに重なる敵影。照準装置の捕捉音を合図に、セレスタが狙撃手の表情で引き金を引き絞る。連動して放たれた3両の粒子砲弾が立て続けにHWを貫き‥‥ 最後の浮遊型HWは空中で爆散して地面へと降り落ちた。
「全HWの沈黙を確認。これより残敵を掃討しつつ、本隊と合流します」
ペリスコープから目を離し、セレスタがようやく息を吐く。
「室長‥‥ 見ているか‥‥? リッジウェイの血統は、確かにここに息づいているぞ‥‥!」
砲塔脇に立ち、感極まったように空を見上げて涙した(注:ヘンリー室長は健在です)源次は、だが、カサリ、と草が鳴る音を聞いて、そちらにランタンをかざした。
見えるものはなにもなかった。だが、気になった源次は闇の中へとランタンを放り──
割れて炎を噴き上げるランタン。その回りに多数の蛇型キメラが浮かび上がる。
「どわあ! 蛇だ! 地面に蛇型キメラが肉薄しているぞ!」
慌てて警告を発しつつ、源次が蛇を焼き払う。
だが、随伴歩兵のいない1号車はスカートアーマーに潜り込まれた。跳躍し、無限軌道に噛み付いた後、プクリと膨れて自爆する蛇型。1号車は履帯をズタズタにされた挙句、転輪まで破壊された。
更にそこへ側方攻撃をかけてくるキメラたち。左右からの挟撃だ。抗戦は不可能だった。
「遺憾ながら1号車は放棄する。乗員脱出後、破壊してくれ。総員撤収準備。一刻も早くこの森から抜け出すんだ」
●
試験中隊に続いて、本隊もまた撤収を開始した。敗走したからではない。然るべき情報を入手したからだ。
「『国境』の敵戦力は大きい。だが‥‥」
「ああ。敵に指揮官がいたのは主攻だけだ。敵はその戦力、戦場の広さに比して、明らかに前線指揮官が不足している」
威力偵察により得た情報を確認し合うカールソン、ラザレフ両大尉。それを見た源次は思った。‥‥カールソン大尉、相変わらず運が無いようだが、ここにきてご同輩を見つけたようだ。
「わふぅ〜‥‥ 退役能力者の穴埋め用か‥‥皆、どんどん能力者を辞めていくね」
生き残った車両を見上げて呟く愛華。私もいつかは普通の生活に戻りたいとは思うけど‥‥ こんな戦いがまだ続くようでは、桜さんを安心して実家に連れ帰ることもできない‥‥
「それでいいんじゃないか?」
物思いに耽る愛華にそう声をかけたのはD・Dだった。
戦いを望まぬものが戦わずに済む世界‥‥ 自らの意志で戦うことを選んだ者だけが戦えばいい。一握りの英雄などに頼り切らずに──人類の未来などという責務を負わせずに済むように。
「こいつのお陰で能力者など不要、と言われる日が来るのを楽しみにしておくか‥‥ もっとも、空の方はGをなんとかしなきゃならんだろうが」
そう言い残して去っていくD・Dの背を見送った愛華は‥‥ 身体中を振るわせている透夜と桜に気がついた。伏撃に際して雪を被った為、身体が冷え切ってしまっていたのだ。
「流石に雪の中は冷える‥‥ 早く風呂に入りたいものだ」
ガタガタと震えながら呟く透夜。とりあえず愛華は震える桜を持ち上げると、腕の中にギュッと抱きしめた。