タイトル:【Tr】【Woi】天空の虎マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/21 02:38

●オープニング本文


「すまんな。ちょっと急ぎの『頼み事』があるんだが」
 そう言って悪魔の笑みを浮かべる企画部の同期、モリス・グレーを振り返りながら、ドローム社第3KV開発室長ヘンリー・キンベルは、苦虫を噛み潰した様な表情で手にした休暇届を破り捨てた。
 我関せずといった受付を背に庶務を出る。モリスが差し出した色違いの二つのファイル、それらの内、『NMV計画』と題されたそれを引っ手繰るようにして開くと、ヘンリーは廊下を歩く足も止めずにその視線を走らせた。

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NMV(Next Middle−scale Vogel)計画 −次期中規模KV計画−
 現在成長過程にある若手傭兵に向けて、ディアブロ、ワイバーン、アンジェリカなどに替えて、推奨できる中規模の機体をULTで採用する計画です。
 ナイトフォーゲルは時間をかけて慎重に改造と調整を繰り返すことで、大幅な性能向上が可能です。しかし、こうしたスペシャルなカスタマイズ機は一朝一夕に完成するものではなく、戦略レベルでの戦力強化としては心許ないものであり、また若手傭兵と古参傭兵の埋められない溝となっています。
 この溝を埋める方法として戦争を通じて着実に進化しているテクノロジーを取り入れ、より先進的で洗練された機体を提供することで、野心的な若手傭兵を応援するものです。
 各メガコーポレーションに、下記条件に該当する新規ナイトフォーゲルの提案をお願いします。

 要求仕様は下記のとおりです。
・傭兵への貸与権価格に換算して200万C代(200万〜290万)
・新造品の状態で既存の同規模の機体に対して、総合能力で優位性を持つこと。
・8月の発売を目指している為、すでに実機が制作されており、短期間で最終調整可能である機体であること。
・最終選考はULTで決定し、7月のような投票は実施しない。しかし、傭兵による世論は参考意見として重視する。
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 KV開発室の人間としてNMV計画の事は知っていた。正直、自分には関係のない話だと思っていたが‥‥つまりドロームも参加を決めたという事か。
 ヘンリーの問いに無言を返し、モリスがもう一方のファイルを手渡してくる。それを開いたヘンリーは、思わずその足を止めていた。
「おい、モリス、こいつは‥‥!」
「YF−194『スカイタイガー』。元々はユニヴァースナイト2番艦の主力艦載機として正式採用を目指していた機体だが、社内コンペで競合する『YF−201』が次期フラグシップ機に決定した為、3機の試作機を残して開発は中止された。‥‥この辺りの事情は改めて説明するまでも無いな?」
 ヘンリーは無言で頷いた。彼の3室が設計した201と最後までしのぎを削ったのが、第2KV開発室が開発したこのスカイタイガーだったのだ。
「今回、ドロームは、傭兵向けに再設計した194でNMV計画に参加する事を決定した。‥‥だが、開発元の2室は設計に手を加える事を拒否。そこで3室にお鉢が回る、というわけだ」
 慣れた仕事だ。お前なら2週間もあれば形に出来るだろう? モリスの言葉にヘンリーは複雑な表情で頭を掻いた。他人の設計したKVを弄るだけの日々‥‥場末の部署と呼ばれながら磨いた技術は、しかし、今の自分たちの根幹を成すものだ。
「‥‥艦載機として計画されたからか、徹底して整備性に気を使った‥‥流石、2室長らしい素直で丁寧な設計だ。機体自体は下手に弄る必要はないな。非物理兵装関連をオミットする事で低価格化を図るなら‥‥」
 2週間といわず、3日で試作機を改造できる。ヘンリーの言葉にモリスは大きく頷いた。
「では、頼む。‥‥さて、ここから先の話は礼だ。201に関して、北中央軍から内々にある提案が上層部に‥‥」
 モリスの言葉にヘンリーの表情が困惑に彩られていく。が、それはまた今回とは別の話となる‥‥


 2009年7月 カリフォルニア州某所 ドローム社KV実験場──
 集まった関係各位と能力者たちの前に、最終調整を済ませたYF−194B『スカイタイガー』が3機、駐機場へと引き出されてきた。識別の為にそれぞれ異なるカラーリングを施された3機の虎は、試作機でありながら既にKVとして完成している。既存の技術のみを用いたシンプル、かつ洗練された設計は、実機として手を入れる部分が殆ど無かった。
「この『スカイタイガー』は、S−01Hに搭載された『SES−190』エンジンを2機搭載した中型汎用機です。元々は高レベルでバランスのとれたマルチロール機として計画されていましたが、今回のNMV計画に合わせて再設計がなされました。機体価格を抑える為、制空・攻撃・要撃任務に必要な高い攻撃力を維持しつつ、PM−J8『アンジェリカ』やMk−4D『ロビン』との競合を避ける為、非物理攻撃系のパーツが削ぎ落とされています。
 代わりに搭載されたのが『アグレッシヴ・ファングver.2』。惜しまれながら一線を退きつつある当社の名機『R−01』に搭載されていたものの改良品です」
 つまり、バランスを維持しつつ物理攻撃に特化した中堅上位機種、それが『スカイタイガー』なのです。モリスが高らかに宣言する。
「用意したものは2種。威力を維持しつつ消費練力を抑えたものと、消費練力を維持しつつ攻撃力を底上げしたものとなります。能力者諸氏には、どちらの『牙』を完成機に望むかご意見を伺いたい。勿論、他にもご要望などがあれば、積極的にご提案頂きたくあります」
 ‥‥その後、質疑応答、デモ飛行、模擬戦闘などを経て、194Bのお披露目会・午前の部は終了した。モリスは管制塔内の一室に引き上げると、愛妻弁当を堪能しながら、変わった事はなかったか、管制塔の社員に尋ねてみた。現在、北米大陸は大規模作戦『War of Independence』の最中にあって、この実験場も完全に安全とは言い切れないのだ。
「北中央軍西方司令部から、敵HW(ヘルメットワーム)の接近警報が発せられました。こちらに近づく前にロス方面へ進路を変えた為、事なきを得ましたが」
「それでこそ、だ」
 それでこそ、ネバダの実験場でなくこちらで開催した意味がある。モリスの言葉に管制官は目を丸くした。HWに接近されていたら194のお披露目会は台無しになっていただろうに。
「既存の技術を応用した安定した性能‥‥だが、他社の機体の派手さに比べるとどうしても華やかさに欠ける。華がなければ持たせてやるのが、俺みたいな人間の役目だろう?」
 HW通常機相手なら、たとえ無改造であっても引けを取ることはあるまい。言いながら受話器を取り、調査部の番号をプッシュするモリス。その真意を察して管制官は息を呑んだ。
「信頼できる能力者を数人、選んでくれないか?」
 この企画部の男は、194に実戦を経験させるつもりなのだ。偶然でも事故でもなく、自ら望んで。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

●午後3時。実験場より南へ数十キロ
 茶けた荒野の道を外れて、3台の大型トレーラーが砂煙を蹴立てながら停車した。
 地上部隊随行に用いられるKVキャリアー。中でもこの3台は、実験機や新型機等、秘匿機体を運ぶ為の特別仕様車だ。ドロームのロゴが入ったコンテナが展開し、2機ずつ積載されたシュテルンとフェニックス、そして1機のロジーナが砂塵の舞う大地に足を下ろす。それはモリスの『密命』を受けて密かに実験場を出発した能力者たちのKVだった。
(「HWを誘引し、実戦で試作機を派手に、だが、さり気なく目立たせろ、か。モリス氏の無理難題も今に始まった事ではないとは言え‥‥」)
 起動チェック中のロジーナのコクピットで、寿 源次(ga3427)はその表情を曇らせた。虎の子の試作機を実戦に放り込み、実験場と非戦闘員(社外の人間も多いはずだ)を危険に晒す‥‥そこまでの『博打』が必要なのだろうか。
「一度は不採用になった機体が再び日の目を見るチャンス‥‥なんか、頑張りたくなるよね」
 レシーバー越しに、アーク・ウイング(gb4432)が呟く声が聞こえてきた。独り言なのか、思考が漏れているのか。ともかく集中状態のアークは機体の各種チェックに余念がない。
 ロジーナの隣り、翼下にカメラポッドを吊り下げたアークのシュテルンに視線をやる。表向きの理由はテスト中の試作機を撮影する為だが、勿論、その意図は別にある。
 一方、源次とアーク以外の3人娘は、チェック中も会話に花を咲かせていた。
 曰く。
「モリスさんとヘンリーさん。旦那様にするなら、どっち?」
 戦闘機形態へと変形する2機のフェニックス。友人のヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)に問われたクリア・サーレク(ga4864)は、一瞬、きょとんとしたもののすぐに瞳をきらーんと輝かせた。友人がヘンリーを好きそうだったのを思い出したのだ。
「いやー、やっぱりモリスさんだよねー。裏に表に八面六臂。やり手で切れモノなんだよー」
 ヘンリーさん? あんまり出世しそうなタイプじゃないよね。そう言って、友人のリアクションをわくわくしながら待ち構える。だが、その反応はクリアの予想とは違っていた。
「うーん‥‥やっぱり男の人って、少し危険な香りがする位の方が出世するのかな‥‥」
 へ? と目を丸くする。いや、そこは「そんな事ないですヘンリーさんだって云々」と暴発する所だろう?
「えと、いや、ヘンリーさんも好きですよ?」
「うーん‥‥」
 ワタワタと慌てるクリアと悩むヴェロニク。機を滑走路代わりの道路へと進入させつつ、そんな遣り取りを聞きながら。阿野次 のもじ(ga5480)はむふーんとした顔で蒼空を仰ぎ見た。
「ドローム、愛の泥沼デルタ劇場。さよなら三角また来て死角」
 呟き、滑走を開始する。ま、そんな深刻な話でもないだろうけど。

●それより2時間前。ドローム社実験場管制塔内の一室
「お久しぶり、ヘンリーさん! 今日もフェニックスは元気だよ♪ って、あれ?」
 元気良く扉を開け放って飛び込んできたクリアは、しかし、拍子抜けしたように室内をきょろきょろと見回した。
「ヘンリーなら、他の仕事で来てないぞ?」
「えー。じゃあモリスさんでもいいや」
 手にしたファイルの束と小さな笹飾りを手渡すクリア。短冊には『トラやんがNMVに選ばれますように』と書かれている。
「人が悪いぞ、こんな隠し玉があったなんて」
「仕様変更は残念ですが埋もれるには勿体無い機体ですし、是非採用されて欲しいものです」
 苦笑混じりの源次に続き、にこやかに手を差し出すセラ・インフィールド(ga1889)。モリスはその手を握り返すと、入って来た能力者たちを席へと案内する。表向き、能力者たちは試作機に関する意見を聞く、という名目で集められていた。
「ヘンリーさん、4足ですよ、4足! 基本色は虎縞で!(笑)」
 会議の冒頭、開口一番、クリアが猛烈にそう主張し始めた。その勢いに、煉条トヲイ(ga0236)とセラは苦笑に口元を綻ばせる。
「汎用性重視なら2足の方が妥当かと。ただ、名称的には4足の方が合っている様な気は確かにする」
「虎だけに、ですね。ワイバーン以降、4足タイプのKVはありませんから、目は引くと思います」
 スカイタイガーにはリッジウェイと同様に複数の試作機が存在した。2足型と4足型。そして最後はハイブリッド‥‥いや、これについては何も言うまい。まぁ、何にせよ、最後に決定権を持つのは買い手であるULTだ。勿論、意見は『上申』するから、それが決め手になるかもしれない。
「設計を変更せずに済むのならどちらでも構わん。それよりも『ブレス・ノウVer.2』。載せる事は出来んのか?」
 ルナフィリア・天剣(ga8313)の言葉に、トヲイも大きく頷いた。
「載せれない‥‥事も、なくはない」
 やはり需要はあるか。モリスはそう心中で呟いた。元々、ファングのVer.2は、S−01HのVer.Up機に搭載が検討されていたものなのだ。
 ただ、使い勝手の良い特殊能力というものはハード的な相性が(大人の事情的に)悪い事が多い。そしてもう一つ。この2つを搭載した機体がもし大コケ──販売数的に振るわなかった場合、ドロームはかなりの痛手を被る事となる。そのリスクを社として背負う覚悟があるか‥‥上層部の判断を待つしかない。
「では、アクセルコーティングのように防御力を上げる能力も難しいですか? 生存率の向上と燃費は新人向けかと思うのですが」
 後は垂直離着陸能力とか。尋ねるセラに、モリスはバツが悪そうに肩を竦めた。
「最強クラスの盾と矛か。相性問題の確率は高いだろうな。‥‥ドロームも防御系の特殊能力は開発してはいるんだがね。ロングボウに載せるはずだったやつが。予定の性能に届かず搭載は早々に見送られたが、一部技術はフェニックスに流用されている」
 ただ、あくまでも実験中の技術であり、今回は到底間に合わない。VTOL能力についても設計を弄る時間はないだろう。
「ライトニングクローを『虎の爪』にできないかなーって個人的には思ったり。攻撃力1.5倍〜2倍位で」
 アイデア自体は面白い。クリアの提案にモリスはそう返した。だが、技術的上限、相性問題、そして何より地上でしか使えない点がNMVのコンセプト的に敬遠される恐れがある。
「いっそ特殊能力を一つに絞り、その分能力の向上に当てるのはどうだろうか」
 値段は安くはなるだろう。能力値的には厳しいかもしれない。モリスの言葉に源次が頷く。
「‥‥難しいですね、色々と。人の想いを曲げられるのって、分かっていても悲しいな‥‥」
 じっと見つめるヴェロニクの視線に、モリスは表面上は動じなかった。技術者たちの──ヘンリーの想いを曲げる立場にある自分。ああ、だが、それが社の為、引いては自分と家族の為になるというなら優先順位は決まっている。
「‥‥では、最後にアグレッシヴ・ファングVer.2についてですが」
 能力者たちの意見は『練力維持で威力向上』が多いようだった。だが、何より、一撃使用タイプでなく1ターン持続型を望む者が多かった。
「燃費据え置きで威力向上。できれば1ターン持続して欲しい」
「元々燃費の良い能力ですので消費量はそれほど気にならないと思います。‥‥ディアブロとの兼ね合いを考えると元の倍程度は欲しい所ですが」
「低燃費で威力維持。出来ればターン持続の」
「NMV計画の目的に沿うのは低燃費型かな。特殊能力はこれ一つに絞って、防御・抵抗・生命を上積みした方が良いのかも」
 次々と寄せられる意見を、モリスは片手を上げて制した。
「この間Ver.Upがなされたディアブロ改。あれが現状での技術的天井だと思ってくれていい。他社の技術だし‥‥まぁウチでも出来ないことは無いが、同じ様なものを積んでも意味が薄かろう?」
「SESエンハンサーの物理版はできないか?」
「あれ自体、未だ放熱問題を抱えている代物だ。PM−J8はアレを載せる為に特化した機体であり、だからこそ搭載できたと言える。物理でもそれは変わらない」
 トヲイのエンハンサー案に残念そうに首を振るモリス。その背に、のもじがひょいとおぶさりかかった。
「倍プッシュだ‥‥地獄の底が見えるまで」
 バースト覚悟でターンごとに攻撃力を倍々に増やす超猛襲型を耳元に囁くのもじ。+10から始めるとして‥‥5ターンで+160、6ターンで+320か。うん。面白いけど色んな意味できっと無理。
 もっと肉を食うように言いながらのもじを抱え下ろすモリス。その目がふと、席の端にちょこんと据わるアークを捉えた。‥‥彼女はまだ1度も自分の意見を言っていなかった。
「君は何か意見を言わなくていいのかい?」
「はい。‥‥でも、意見のない自分がここに呼ばれたのには、何か他に理由があるんじゃないですか?」

●再び2時間後 ドローム社KV実験場 その上空
 乾いた大地。箱庭のように広がる滑走路と建造物。それを遥かに見下ろしながら、3機のYF−194B『スカイタイガー』はデモ飛行を始めていた。
 ──空中戦闘機動。実戦を想定した模擬空戦。だが、パイロットたちは本気を出してはいない。これが『本番』ではないと知っているからだ。
「成る程‥‥変に癖が強くなくて扱い易い機体だな」
 一通りの『演舞』を終えて機を水平に戻しながら、ルナフィリアは小さく呟いた。格闘戦機には及ばぬも一撃離脱機には十分な機動性。その一点からもバランスの良さが見て取れる。
「でしょう? 前のコンペでも私は不死鳥よりこの空虎を応援してたんですよ」
 満面に笑みを浮かべてセラがコクコク頷く。雁行を組んだ3機の最後尾、搭載したカメラポッドで前を飛ぶ2機を撮影するセラ。彼が撮影した映像は、地上の観客用スクリーンに『数秒遅れで』映っているはずだ。
「3機の試作機を残し、開発中止となったYF−194『スカイタイガー』‥‥この眠れる虎にNMV計画によってもたらされた、最初で最後の目覚めのチャンス──必ず、成功させてみせる」
 先頭を行くトヲイがその意気を謳う。その瞳が見つめる空の先には、志を共にする仲間たちがスカイタイガーに捧げる『花束』を用意しているはずだった。

「輝く明けの明星は勇気のしるし! 溢れるフレチュな香り、ストロベリー★シュテルン! 参っ、上っ!」
 人型に変形したのもじのシュテルンが空中でビシィッ、と見得を切り。そのままの姿勢で失速して編隊から落後する。
 特に深い意味はなしっ! 自らにツッコミを入れて飛行形態へと戻るのもじ機。今のがカメラに映っていない事をアークに確認して、源次はひとつ咳を払った。
「HWを発見。予定通り釣り出しにかかる」
 隣を飛ぶアーク機と共に加速をかけて突進する。
 敵数4。こちらに気付いた。反応が早い。強化型か有人機がいるらしい。狙撃砲を撃ち放つ源次とアーク。被弾した敵の装甲に火花が弾け‥‥直後、散開した敵がこちらの進路を囲むように、円の内側へと砲身を向ける。
「っ!」
 PRMを駆使したアーク機が跳ねる様にその進路を変更する。そこまでの機動性のない源次のロジーナは覚悟を決めて突っ込んだ。
 錯綜する砲火。拡散フェザー砲が四方から雨霰と降り注いで機体を焼く。赤く染まる警告灯を無視して、源次は加速を続けてそのまま敵を振り切った。
 旋回半径を大きく取りながら進路を北へと変更する。敵は4機がかりで速度の落ちたアーク機を追っていた。‥‥間違いない。奴等の中に有人機の小隊長がいる。
 流石のシュテルンと言えども4機掛かりでは分が悪い。辟易しつつもアークは機を振って火線をかわす。そこへ再び突っ込む源次機。敵はすかさず目標を変更すると、十字、或いは四角に隊形をとって一斉に怪光線を撃ち放った。
「とうっ!」
 その源次機に覆い被さるように、追いついた(かれた?)のもじのシュテルンが間に割り込んだ。盾になり、打ち放たれた光弾をPRM全開で凌ぎ切る。装甲を乱打する光弾。ここがやられ時と判断したのもじは、機体を錐揉み状態にして降下させた。
「や・ら・れたー」
 偽装の白煙を吐きながら落ちていくのもじ。源次も同様にして続き、急角度で高度を落とす。
 それをしっかりとカメラに収めたアークが一目散に逃走──誘引を開始する。それを追う4機のHW。その直上から、それまで戦闘を観察していた2機のフェニックスが逆落としに降って来た。
 その機動から有人機と目星をつけた一機にクリアが一斉にミサイルを撃ち下ろす。爆発とエネルギーの奔流が煌き、しかし、まだ墜ちぬその敵に、クリア機と入れ替わるようにヴェロニク機が前に出る。
「‥‥とっておき、見せてあげる。いくよ、クリアちゃん!」
 瞬間、炎の様に棚引く赤い力場を纏って変形する。翼の様に広がったエンジンバインダーを背に回し、推力を全開にした不死鳥が弾丸の様に突っ込んでいく。構えるは機槍ロンゴミニアト。槍先が逃げるHWの装甲を貫き、内部で炎を瞬間的に膨張させる。続けて突っ込んできたクリア機が白雪の光刃を蒼空に閃かせ‥‥三つに切り裂かれながら炎を噴き出した有人機は、赤い残像を残した蒼空に爆散した。

 有人機を失った3機のHWは、最後に与えられたコマンドに従ってアーク機を追い続けていた。指示がなくなった後も、プログラムは目前の脅威を排除する結論を出す。
 それを、セラ機のカメラが──3機の虎が上空から見下ろしていた。
「突入する‥‥!」
 真っ先に突っ込んだのはトヲイ機だった。ミサイルを全敵に撃ち下ろしながら、機銃弾を連射。そのまま敵の下方へ抜ける。即座に反応し、光弾を撃ち下ろすHW。だが、それは囮だった。別角度から降下してきたルナフィリアとセラが背後からガトリング砲を浴びせ掛ける。砕けた装甲と弾の破片がキラキラと宙を舞った。
「止めを!」
 満遍なくダメージを与えておいて、敵と同高度に戻した3機が3方より突進する。HWは戦力を集中させて突破を試みようとしたが、射程の長いミサイルが先手を取る。
「取って置きだ‥‥沈むがいいっ!」
「――天掛ける虎よ。今こそ、その力を示す時――行け‥‥! アグレッシヴ・ファング!」
 SESエネルギーを増幅させたミサイルが翼下を離れ、鋭く白煙の尾を引きながら3方からHWに襲い掛かる。それぞれに直撃した誘導弾はフィールドを容易く貫通し、ダメージの大きい3機をそれぞれに爆砕した。


 小隊戦闘のレベルではあるが、試作機段階において、YF−194(B型)は3機のHWを撃墜した。
 大規模作戦に与える影響は大きくないが、ディアブロ並みの攻撃力を194は見せ付けた。それを十分と見るか、不足と見るかは、見る者によるだろう。
「正規軍には整備性の良いこの機体を売り込んだ方が良くないか?」
 同じ機種でも、ULT向けとUPC向けで仕様が同じとは限らない。ルナフィリアの言葉を受け、誰にともなく嘯くモリス。
 だが、やはり。それはまた別の話となる。