タイトル:マラガ・スタンピードマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/07 04:20

●オープニング本文


●死の笛と巨大な足跡
「死を招くキメラ?」
 その言葉がジョークかどうか判断しかねたリヌ・カナートは、苦笑ともなんともつかない顔をした。
「キメラってのは、正面からハチ合わせした時点で、既に死に等しいモンじゃないか‥‥能力者でもない限りは」
「それはそうですが。しかしこのキメラが現れた地区では特に生き残りが少なく、満足に情報もない状態なんです」
 説明する壮年の男が、額に手をやりつつ嘆息する。男の視線の先では、能力者達の護衛によって無事にフランスから運ばれた物資−−水や食料、医療品に加えて、火力の高い武器もある−−を、反バグアのいわゆる『レジスタンス』のメンバーが分類し、運んでいた。食料の一部は、必要に応じてメンバーでない住民へも配布される。住民が一人でも生き続ける事が第一の『抵抗』だというのが、リーダー格である男の方針だった。
「で、その数少ない生き残りの話は、ナンだって?」
 長々と紫煙を吐いてリヌが話を促せば、リーダーは年を経た顔に深い皺を刻んで難しい表情を浮かべる。
「笛のような音が、聞こえた。と」
「笛?」
「ええ。といっても音楽を奏でる笛ではなく、ホイッスルのような音だとか。他にもインプのような、小さな人型の羽が生えたキメラを見たという話もあります。生存者のいずれも、不安を感じてシェルターに身を隠し、笛の音から数分だか数十分が経った後、物凄い破壊音がしたそうです。全てが静かになった後で外へ出ると、周辺は一面瓦礫の山になっていた‥‥という話でして」
 信じがたい話だという風に、彼は首を横に振った。だが実際にその区域は壊滅状態となっていて、破壊は南西の方向から海沿いに、徐々にマラガの中心部へ近付いてきているという。
「目撃されたキメラが人間ほどのサイズとしても、一区画を壊滅させる程の破壊力があるとは思えません。それに被害を受けた場所を調べに行った者の話は、巨大な足跡を幾つか確認しています」
 言葉を切ったリーダーはおもむろに上着のポケットを探り、数枚のポラロイド写真を引っ張り出す。
「これが、その足跡?」
「はい。こんな状況ですから、こういう写真しかありませんが」
 写真には、地面に出来た楕円のような凹みが写っていた。問題はその大きさで、傍にいる人間と比べれば1〜1.5mはある。種類には左右されるものの、象の足跡が30〜50cm程度である事を考えれば、足跡を残したナニカはかなりの巨体であると予測できた。
「‥‥これが、こっちへ近付きつつあるって?」
「進路と予測される区画には、既に住民への避難勧告を出しています。最大の悩みは、コレを追い払うどころか足を止める方法すら、我々にはない事でしょうか」
「確かにコレだけデカイ相手だと、運んできたブツでも蚊に刺された程度にしか感じないかもな。となると、ここでも能力者頼み‥‥か」
 がしがしと髪を掻きつつリヌは咥え煙草で写真を見比べ、それから改めてリーダーへ視線を向ける。
「こいつ、少し借りていいか? 先方も情報は多い方がいいだろうしな。コッチとしちゃあ、キメラよりワームを相手してもらった方が、稼げる見込みがあるんだが」
 神妙な顔をした男は、すぐさま首を縦に振って即答した。
「もちろん。これ以上の被害を、防ぐ事ができるなら‥‥マラガはアフリカからそう遠くはない場所ですが、まだ我々は生きていますから」

●競合地域からの要請
 UPC本部の斡旋所にあるモニターには、今日も世界で起きる数々の『事件』内容が表示される。
 そのモニター群にまた一つ、新着の『事件』が加わった。
『スペイン南部のマラガで、キメラの目撃情報を確認。至急現地へ赴き、キメラについての確認、調査を請う‥‥』

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
キーラン・ジェラルディ(ga0477
26歳・♂・SN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
アイロン・ブラッドリィ(ga1067
30歳・♀・ER
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
ミカエル・ヴァティス(ga5305
23歳・♀・SN

●リプレイ本文

●人々の期待
「へ〜ぇ、ここがマラガなんだ」
 潮の香りが漂う風に吹かれながら、額に手を当ててミカエル・ヴァティス(ga5305)は空と海の青の間に広がる街を見渡す。
「バグアがいなかったら、素敵な場所だったんだろうね」
 木々の多い旧市街に比べ、ビルの多い新市街の側は破壊の傷跡が生々しく残っていた。その風景に、どこか物憂げに目を伏せてアイロン・ブラッドリィ(ga1067)が足を止める。
「襲撃された街は、何処もそうですわ。バグアに蹂躙されてしまうまでは、どこも‥‥」
 彼女が纏うどこか寂しげな空気に、鏑木 硯(ga0280)もまた街を眺め、その先の水平線を見据えた。
「海の向こう、どうなっているんでしょうね」
「さて。バグアの支配下でありますからなぁ‥‥如何とも、想像し難く」
 答えながら稲葉 徹二(ga0163)はヘルムの端をつまみ、ぐいと深く引き下げる。そして何気なく下ろした視界の隅に、見覚えのある大型車両を見つけた。
「硯さん、あれでありますでしょうか。自分の記憶では、コンテナが違うかもしれませんが」
「なになに〜?」
 好奇心に輝く瞳で、ミカエルが二人の間からひょこんと顔を覗かせる。ほぼ同じ身長の日本人少年二人より、僅かに彼女の視線の位置が高い。
「ああ、あれですね。あのコンンテナなら覚えてますから」
 三人の更に頭の上から、つい先日トレーラーの護衛についたキーラン・ジェラルディ(ga0477)が答えた。四人の背を見守っていたアイロンだが、南西からビルを抜けて接近する機影を認める。
「どうやら、ナイトフォーゲルも到着したようです」
「では、急ぎますか」
 城のある高台から、キーランはトレーラーが見えた方向への道を示し。
 残る者達も、彼の後に続いた。

『ランデブーポイントは、この辺りよね?』
「はい。にしても‥‥」
 シャロン・エイヴァリー(ga1843)に答えた流 星之丞(ga1928)が、コクピットから外へ目をやった。
 現れた三体の機体に、人々は窓から外へ顔を出し、あるいは近寄ってくる。
「ナイトフォーゲル、珍しいんでしょうか」
『昼寝のエンブレムが、決まってるからじゃない? それとも、星之丞のスカイクラスパーが珍しいのかも』
 冗談めかすシャロンだが、鯨井昼寝(ga0488)の返事は少し浮かない様子だった。
『だといいんだけど。上空を飛んでる機体を見る事はあっても、変形した状態で目の前に現れる機会なんて、競合地域でもあんまりないのかもね』
 人が集まる事自体に大きな問題はないが、勢い余って進路上に飛び出してこないかと神経を使うのだ。やがて予定のポイントで止まった機体を、見物人達が取り囲む。そんな人々に、建物から慌てて現れた数人が、身振り手振りで散るように促した。
 一番最後に建物から現れた人物にシャロンがキャノピーを開き、大声で呼ぶ。
「リヌさん、久し振りーっ!」
 大きく手を振れば、名を呼ばれた相手も気付き、片手を挙げた。
「ああ、久し振り。元気だったかい」
「はい。クリスマスにリヌさんにもらったパーツ、まだ健在ですよ」
 ぐっと拳を握るシャロンにジャンク屋はからからと笑い、昼寝もコクピットから身を乗り出す。
「親睦中にナンだけど、機体はこのままで構わないかしら?」
「さすがに、ナイトフォーゲル用のパーキングはないしな。キップ切られるって事も、ないと思うが」
「駐禁‥‥ですか」
 思わず苦笑する星之丞へ、リヌは顎にやった手をひらりと振り。
「なに、ここの連中が見張ってくれるさ。それから『お仲間』、着いてるよ」
 声をかけ、あるいは手を振る人々に応えながら、機体から降りた三人はリヌの後へ続いた。

●襲撃の痕跡から
 建物の間を走る車の視界が急に開け、空が広がる。
 青空を遮っていた建築物は、全て山積みの瓦礫と化していた。
「‥‥酷いですね」
 ハンドルを握るキーランが、表情を曇らせる。やがて車は減速し、道路脇に止まった。
「ここが、例の『足跡』が残っていた場所でありますか」
 車を降りた徹二は使い込まれた双眼鏡で、ぐるりと周囲を見回す。
「敵の仔細が判らないというのも、慣れたものではありますが。しかし、相当のデカブツのようでありますな」
「ホント、瓦礫の山だね」
 倒壊の衝撃で、飛び散ったのだろう。路上に転がる小さな石片を、ミカエルがロングブーツの爪先で蹴った。
「これ程の破壊を起こせる敵‥‥放って置く訳には、いきませんね」
「あ〜、アイロン。少し、いいでしょうか?」
 静かに歩を進めるアイロンを、キーランが呼び止める。小首を傾げて彼女が振り返れば、相手は鋭い目でじっと見下ろしていた。
「‥‥髪」
「‥‥はい?」
「汚れますよ。せっかく綺麗なのに、もったいない」
 アイロンの銀髪はともすれば地面を撫でるほどに長く、それがキーランには気になるらしい。
「ありがとうございます」
 たおやかに微笑み、彼女は手を後ろへ回して髪を束ねた。それからポケットを探るが、留めるものはなく。
「あの、俺のでよければ使いますか?」
 気付いた硯が、鮮やかな色彩のリボンを差し出す。
「いいんですか?」
「はい。代わり、ありますし」
「それでは‥‥お借りしますね」
 硯へ礼を述べてリボンを受け取ったアイロンは、手馴れた風に長い髪を纏めた。
『それにしても、足跡を辿ろうにも完全に瓦礫で埋まってますね。これ』
 通信機から星之丞の声が届き、空と地上から接近する三つの機体が見える。
『足跡の主を見た人がいないのは、光学迷彩の真似事でもできるキメラって事かしらね。得体の知れない奴との勝負、面白そうだわ』
 言葉に挑戦的なニュアンスが含ませているのは、昼寝の声だ。
「上から見て、被害状況はどうでしょう?」
『そうね。見る限りは、砲撃を受けたというより、何か大きな物体を叩きつけたというか、薙ぎ倒したというか、そんな感じ‥‥上空に、大型キメラやワームの姿はないけど』
 車に積んだ通信機でキーランが問えば、シャロンが上空からの印象を伝える。じっと双眼鏡を覗いていた徹二が、身振りでキーランと通信の交代を頼んだ。
「次に襲撃されそうな場所の目星、つきそうでありますか?」
 答えはすぐに返らず、空を仰げばシャロン機と昼寝機が旋回する様子が見える。そしてやや間を置いてから、返答が届いた。
『順当に考えれば、下の皆が通ってきた地域かしら』
『そうなりますね。ここから南は、海沿いにずっと破壊された風景しか見えませんから』
 昼寝に続いて、星之丞が予測を補完し、それを聞いた地上の者達は顔を見合わせる。
「じゃあ、あの辺りが襲撃されるかもって事?」
 ミカエルが指差す先には、先日の襲撃を逃れた建物が並んでいた。
 今は襲撃を恐れる人達は避難し、人気はほとんどない。
『では、こちらは三交代で待機に入ります。まず、僕が残りますね』
「了解です。後はリヌさんに、こちらの予測を伝えた方がいいですね」
 星之丞の言葉にアイロンが答えれば、すぐに徹二が通信機の周波数を確認する。その頭上で、二機のナイトフォーゲルがマラガ中心部へ機首を向けた。

『OK、状況は了解した。住民の避難の確認と手配は、こっちのメンツとつけておく。他にやるべき事はあるかい。ハラが減って動けなくなりそうだから、メシを頼むとか』
 通信機を通して聞こえる気安いリヌの声に、からからとミカエルが笑う。
「能力者だって普通にお腹がすいて、飲んで食べるもんね」
「食事は‥‥戻ったら、ご馳走をお願いします」
 隣から硯が告げれば、今度は無線機の向こうで笑い声がした。

●笛の音が招く影
 夜闇に包まれた静かな街を、甲高い音が裂く。
 ビルの狭間を車で流していた者達は、その音に身を硬くした。
「どうやら、出たようですね」
「予測通りとは有難いですが、先に見つける事は叶いませんでしたか」
 硯がぎゅっと長い髪を後ろで結び、キーランが眉根を寄せる。その間に、ミカエルがナイトフォーゲルの三人へ連絡をつけていた。
「待機中の二人も、すぐにこちらへ飛ぶって」
「ありがとう、ミカエルさん」
 アイロンは礼を言いながら、二丁のS−01へ弾丸が装填されているか確認する。
「‥‥生きて帰らんとなぁ‥‥今回も」
 仲間の間に緊迫した空気が流れる中、徹二は双眼鏡の表面に入った細かい傷を指でなぞった‥‥胸に秘めた夢を語った相手と、いつか交わした『約束』を果たせる事を祈りつつ。

「気を付けてなーっ!」
 閉まるキャノピーの向こうで大声を張り上げるリヌに、シャロンは腕を伸ばして親指を立てた。
『流機、先に行きます』
 星之丞のLM−01は、走行形態のまま南へと加速する。
 大通りへと愛機を進めながら、遠ざかる光点を眺めたシャロンは、ふっと短く嘆息した。
「新型かぁ‥‥私、貯金苦手なのよねぇ」
 そしてまた、彼女も発進シークエンスに入る。
 通りの両脇に立つ街路樹が風圧に激しく揺れる中、ナイトフォーゲルは弾みをつけてジャンプし。
 同時に背面のブースターが出力を上げ、離陸速度を確保しながら飛行形態へ変形して、地上から離脱する。
 空へと飛び立っていくナイトフォーゲルを、窓から人々が見送っていた。

『作戦空域』を、赤いクジラのエンブレムが入ったF−104が旋回する。
『そっちはどう?』
 地上からミカエルが状況を聞くが、視認でもレーダーでも、今のところは不審な物体を捉えていない。
「まだね。空か、あるいは海からくるか‥‥どっちにしても、中心部まで来られちゃコッチの負けよ。まぁ、当然食い止めるけどね、この私が」
『自信だね〜っ。けど、任せたからね!』
「そっちも、巻き添え食ってツブされないようにしてよ」
 軽口で返せば、明るい笑い声が返ってきた。
 地上で聞こえるという『笛』の音は、昼寝の耳には届かない。
 だが代わりに精度を上げたレーダーが、ほんの僅かな瞬間だけ、接近する光点を示した。

「あれです!」
 音のする方を辿っていたアイロンが、夜の空に影を見出した。
 全身が黒く、頭には小さな角、背中には小さな蝙蝠の翼を持ち、それは確かに小悪魔のインプと酷似している。ホイッスルのような音を発し続けるキメラは、くるくると円を描くように建物の間を飛んでいた。
「急がねば、大規模破壊に巻き込まれるであります」
「ですが、ここで見逃す訳にもいきません」
 懸念する徹二に、車が完全に停車するのももどかしく、硯が車外へ飛び出した。
 スピードを殺すように道の上を二度三度と転がると、すぐさま立ち上がって赤い瞳を天へ向ける。
 敵の数は、一体。
 だが、彼の手が容易に届かない高さにいる。
 それを確認し、硯は近くの建物へ飛び込んだ。
 同じ頃、車から降りた三人のスナイパーが、頭上の標的を確認した。
 インプの更に上空を、ジェットの音を轟かせてナイトフォーゲルが通り過ぎる。
「楽器のようなものは、見えませんね。笛は、キメラ自身が出している音でしょうか」
 目を凝らしたアイロンに、キーランが頷いた。
「そのようです。とにかく、まず『落とす』事を優先しましょう」
 車を盾にして、彼はアサルトライフルを構える。
 ミカエルと、ファイターではあるが徹二もまた、手にしたそれぞれの銃で狙いを定めた。
 エミタと反応したSESが空気を取り込む吸気音と、尾を引くようなインプの笛の音が、遠く意識の外に追いやられる。
 その集中の頂点で、四つの銃口が『火』を吹いた。

 笛のような音が、途絶える。

 実弾、あるいはエネルギーの弾丸は、インプの翼を掠め、そして射抜いた。
 ギィギィと擦れるような耳障りな声で鳴きながら、小さなキメラは能力者達の射程から逃れようと傷ついた翼を忙しなく動かす。
 その上から、『影』が飛来した。
 壁を蹴った硯が、その勢いをインプへ叩きつける。
 そのまま反対の壁へ蹴り飛ばし、自身も落下しながら更に追い討ちをかけ。
 地上では、徹二が蛍火を抜き放った。
 刃が、淡い光の弧を描いて打ち下ろされ。

 海の方向から、不気味な振動が響いた。

『来るわっ』
 通信機から、昼寝の警告が飛ぶ。
『早く、避難して!』
 彼女の声は、ただならぬ緊張の色を帯びていた。

●破壊せしもの
 レーダーが影を捉えた時、ソレは海の中から躍り上がった。
 魚の様な巨体が跳ね、陸地の建造物へのしかかる。
 あらぬ方向からかけられた質量と衝撃に、鉄筋コンクリートの建物すらひしゃげ。
 うねうねと巨体をくねらせたキメラが大きく跳ねると、寸胴の胴体の下にある二本の足で、瓦礫の上に立ち上がった。
『あれが‥‥問題のキメラですか?』
 そのサイズと奇怪さに、星之丞が息を飲む。
 単に体長だけなら、ナイトフォーゲルより大きく。
 首から先は二つに分岐し、二つの頭で別々の方向を窺っていた。
 例えるなら、プラナリアを頭半分に切断し、再生させたようなモノ。
 それを巨大にしてヒレを付け、ついでに二本の足を加えた感じだ。
「バグアの趣味、疑うわね‥‥とにかく、やるわよ」
 昼寝は操縦桿を握り直し、機体を降下させた。

 何かを探すように右へ左へ頭をもたげるソレの前に、三機のナイトフォーゲルが立ち塞がる。
「いけーっ!」
 気合と共に走行形態のLM−01星之丞機が、レーザーを撃ち込み。
 変形したR−01シャロン機が、ブレイク・ホークを振るい。
 その上を、威嚇するように飛ぶF−104昼寝機のガトリング砲が、弾丸を叩き込んだ。
『油断しないで。単に、図体があるだけの相手とは限らないわ』
 昼寝が警告した、その瞬間。
 巨大なキメラは、片方の頭を大きく一振りし、開いた口から『水』が迸る。
 それは単なる水流ではなく、刃と化す程に圧縮された奔流。
 砂埃を巻き上げて、星之丞機が薙ぎ払う水を回避し。
 避けた向こうにある建物が切断され、『ズレ』た。
 街が崩れる重い音を聞きながら、星之丞は機体を変形させる。
「何とかして、あの頭を落とさないと‥‥援護します!」
『判ったわ』
 シャロンの答えに、星之丞は奥歯を強く噛み締め。
 ぬらりとした体表をレーザーと銃弾が穿ち、鈍い斧の刃が食い込んだ。

 鈍い、手ごたえ。
 実際にそれが手に感触として伝わった訳ではないが、そんな感覚を覚える。

 片方の頭が落ちた途端、首から大量の水が吹き出した。
 短い足が地を蹴り、巨体がのたうちながら滑る。
 続いて、水飛沫が上がった。
 昼寝がレーダーを注視するが、キメラの姿は水へと沈み。
 後には、崩壊の音が残った。

 インプの死骸が動かぬ事を確認した徹二は、ふと懐の箱の存在を思い出した。
「ああ、そういえば。配給煙草、まだ自宅に二箱も転がってるんでありますよ‥‥いっそ、吸っちまおうか」
『あんたに吸わせるくらいなら、遠慮なくもらってやるから。ともあれ『ガイド役』は排除したし、デカブツも追っ払ったんだ。今は戻ってきて飯を食って、ゆっくり寝るといいさ』。
 通信機越しに、リヌがねぎらい。
 八人は、海から昇る朝日に目を細めた。