●オープニング本文

●古き城塞と防衛線
　フランス南部の町カルカッソンヌは、オード川を見下ろす高台にシテがある。
　シテとは都市という意味の、古いフランス語での表現だ。カルカッソンヌのシテは52の塔と、塔を繋ぐ壁で構成された二重城壁を持つ要塞で、その一角にコンタル城を構える。
　17世紀にその任を終えた砦だが、先のヨーロッパ攻防戦にてバグアとの戦線が北上した事により、人々の日々の安寧を守るため、かつての役目を再任する事となった。
　各塔には見張りが配され、城壁の内側には物資が運び込まれ、非常事態にはいつでも町の人々が逃げ込める体制が整えられる。
　現実的に考えれば石積みの城壁なぞ、ワームや大型キメラに襲われればひとたまりもない。
　それでもなお、人々にとってシテは堅牢な砦であった。
　不安な情勢において、力なき者達の心の平穏を守る‥‥という意味で。

　カルカッソンヌ郊外のブラッスリ『アルシュ』の扉には、「本日休業」の札が下げられていた。その店内には、競合地域下レジスタンス支援組織『ブクリエ』のメンバーが集まっている。
「現状で、こちらの防衛ラインはA61だな。これを越えられると、カルカッソンヌも不味い事になる」
　志を同じくする仲間達の前に地図を広げたコール・ウォーロックは、カルカッソンヌの南を走るオートルートを示した。61と番号が打たれた高速道路は、東のナルボンヌから西のトゥールーズまで通じている。カルカッソンヌの位置は、そのほぼ中央だ。
「防衛ラインといっても、どれだけキメラに対抗できるか問題だぜ。こっちの武器は効かねぇってのが、何より厄介だ」
　地図を見下ろした男達の一人が、不機嫌そうに眉をひそめる。
「ああ。あくまでもこっちの役割は、UPCの能力者が到着するまでの足止め‥‥だな。町へ近付けなければ、被害は最小限に抑えられる」
　答えながら、コールは煙草に火を点けた。
「どうあがいても、やる事は決まってる‥‥か」
「ま、損な役回りは慣れたモンだしな」
　冗談めいた笑いを交わしながら、十数人の中年男はテーブルへ立てかけた銃を取り上げる。
　その時、店の片隅に置いた無線機が、ガリガリと音を立て始めた。
　すかさず一人が応対を始め、他の者は緊張してそれを見守る。
「A61付近を巡回中の班からです。南方から、接近中のキメラを確認。個数、三。いずれも体長2〜3m級の猛獣型で、能力は‥‥うわっ」
「どうしたっ？」
　短い叫びと共に耳を押さえた男へ、すかさず別の男が怪訝な表情で尋ねた。
「通信、途絶えました。直前にハウリングのような酷い音がして、それから爆発音が」
　まだ耳をおさえながら男が答えれば、残る者達は互いに顔を見合わせる。
「至急、UPCへ救援要請を入れてくれ。半分は、現地の連中と合流してキメラの足止め。残りは引き続き、襲撃警戒」
　重い沈黙の中へ指示を出したコールは、急かすようにパンパンと手を打つ。
「そら、急げ。ちんたらしてると、若い能力者連中から足手まといの老兵扱いをされるぞ」
　男達の間から低い笑い声が上がり、機関銃やロケット砲を担いだ者達は店の外へ止めたジープへと次々に乗り込んだ。

●参加者一覧

●リプレイ本文

●鐘響かせた街
　見覚えのある一軒のブラッスリには、ピリピリとした独特の緊張感が漂っていた。
「状況は、どうなっています？」
　緊張した場に涼やかな声が尋ね、前庭に集まっていた十数人の男達が一斉に振り返る。
　渡る風がさらりと長い銀髪を揺らし、人々の反応に戸惑いながらロジー・ビィ（ga1031）は小首を傾けた。
「えっと‥‥何か？」
　怪訝そうにタリア・エフティング（gb0834）が問えば、呆気にとられていた人々は我に返り、何とも言えない表情で互いに顔を見合わせる。
「非常時にボーっとしてると、キメラの前に放り出すぞ！」
　止まった空気に、パンッと両手を打つ大きな音が響き。固まっていた者達は慌てて服の端を引っ張ったり、咳払いをして体裁をつくろった。
「お久し振りですわ、コール氏。ブラッスリは休業中だそうですけど、本日は以前のご恩をお返しに参りましたわ」
　歩み寄るコール・ウォーロックの姿を見つけ、ロジーはにっこり微笑む。
「いやはや、全くもって有難い限りだ。連中の事は、どうか気を悪くしないでくれ。能力者には若いのが多いと知っていても、実際に本人を前にすると驚くモンでな。おまけに美人が多いとなると、尚更だ」
「ありがとうございます」
　謝罪と共にコールが差し出す手を、くすくす笑いながらリゼット・ランドルフ（ga5171）は握り返した。
「ここいらの連中を預かってるコールだ、よろしくな」
　軽く会釈しながら、煉条トヲイ（ga0236）も握手をする。
「ああ、よろしく頼む。にしても、レジスタンスの支援組織‥‥か」
　銃器を確認する者、地図を広げる者、無線を聞く者と、再び動き回る男達の背を、しげしげとトヲイは眺めた。彼らのほとんどがコールと変わらないか、それ以上の年齢だ。
「今まで、俺が競合地域下で出会った者の多くは、生きる為に『親バグア派』に組している事が多かったが」
「ここには従軍経験者や警官なんかの中でも、とりわけ反骨精神と血の気の多い連中が集まっているからな。お陰で、暑っ苦しい事この上ない。ただ、そんな連中でもキメラには歯が立たんのは、口惜しいところだ」
　大仰に肩を竦めるコールだが、言葉には苦々しさが滲む。
「その鬱積、代わりに私達がキメラへぶつけてきてやる」
　トヲイ同様、動き回る者達を見ていた來島・榊（gb0098）は、片手をひらと振った。
「それで、襲撃された巡回班は？」
　安否が気がかりなのか、ルシフェル・ヴァティス（ga5140）が切り出す。
「まだ連絡はつかないが、引き際は心得ている。無事なら退避しているだろう。それから、頼まれていた車を用意しておいた」
　踵を返し、男達の間を抜けるコールに続けば、二台のジープが八人を待っていた。近付く者達にボンネットを開けていた男が気付き、油で汚れた手を軽く挙げる。
「点検完了、無線の周波数も調整済み。いつでも快適なドライブに出発できるよ」
「準備、助かります」
　ぺこんと鏑木　硯（ga0280）がコールへ頭を下げ、勢いよくポニーテールが跳ねた。
「いや。むしろ、助けられるのはコッチだからな」
　答えるコールは、背を反らして天を仰ぎ。倣うように視線を上げれば、丘の上に城砦が見えた。
「この都市の名前の由来になった領主カルカスは、フランク王国カール大帝の大軍に包囲されて五年に及ぶ籠城戦の後、勝利を収めたらしいわね」
　遠くのシテを見つめていたシャロン・エイヴァリー（ga1843）は、金の髪を翻して振り返る。
「ああ。食料も尽きた時、まだ余力があると思わせるカルカスの策に、包囲する軍は騙されて撤退。彼女は鐘を鳴らし、人々に勝利を知らせた。以来、ここはカルカスの鳴らす鐘、カルッカソンヌと呼ばれたそうだ」
　意味ありげに補足するコールへ頷き、シャロンは握った手を掲げた。
「何かあった時は、微力を尽くす‥‥約束、果たしてくるわ♪」
　細い指の間から、シャラリと銀色の光がこぼれ、揺れる。
　光を弾いて輝くのは、シルバーのロザリオ。
　以前にコールの招待を受け、ブラッスリを訪れた者達へ渡された物だ。
　同じ十字架をロジーが指でなぞり、硯は幸運のメダルを布の上から確かめる。
「そうですね。ウォーロックさんには美味しい食事の借りもあるし、頑張って防衛線を守り切りましょうか」
「なら、たまに『先行投資』で恩を売らなきゃならんか？」
　ニッと口角を上げるコールに、シャロンは硯と顔を見合わせ、笑った。

　エンジンの音が、立ち動く『ブクリエ』の男達の手を止める。
　能力者達が乗るジープが近付けば、誰もが被っていた帽子やポケットのハンカチを頭上でぐるぐると振り回した。
「私達でこの難攻不落の城砦に、エピソードを追加しましょう！」
　それに答えるよう、ジープの座席からシャロンは大きく手を振り、呼びかける。
「頑張れよ」
「頼んだぞ」
「気をつけてな」
　口々に声をかける者達は、遠ざかる車を期待を込めた目で見送った。

●刃と盾
「にしても、変な感じのキメラですよね。特に他の小さな町や村は無視して、一直線に街へ向かうなんて、目的が見えないです」
　窓から入る風に青い髪を風に遊ばせたまま、タリアは指を組んで考え込んでいた。
「確かに、きな臭いな。何かの、目的意識を持っているのだろうか」
　ハンドルを握るトヲイがミラー越しに少女へ視線を移し、すぐに前方に注意を戻す。
「目的‥‥キメラ同士で競争、とか？」
「それなら、まだいいんですけど。もし役目を理解した上で、わき目もふらずに進んでいるなら、そこそこ知能があるかもしれませんね」
　タリアと歳の近いリゼットもまた、彼女の隣で同じように思案を巡らせていた。
「役目があるなら、理由は‥‥シテでも襲撃するつもりか？　いずれにせよ、リゼットの言うとおり、最優先攻撃目標を定められるだけの知能はあると見て、いいだろうな」
「三匹きっちり潰していかないと、残りを囮にして一匹だけでも目的を果たそうとするかもしれません。それから、もし自分の役目を優先するだけの知能があるなら、巡回班の人が無事である可能性は高くなりますね」
　助手席のロジーは、『ブクリエ』のメンバーが準備した地図を手にナビをしている。地図には地元に住む者ならではの細かな目印や近道が、判りやすく丁寧に書き込まれていた。
「はい。安否は気になりますが、コールさんの話では無理に戦闘をしようとする人達でも、なさそうですから‥‥」
　大丈夫ですよね。と、自分に言い聞かせるように、リゼットは首を縦に振って呟く。
　その時、無線機がキメラ発見の報を伝えた。

　刈り取りの終わった畑は、まるで戦場の一角を切り取ってきたような状況だった。
　砲撃の爆煙が何本も立ち上り、機関銃の音が響く。
　それらをものともせず、三体のキメラが土を蹴って走る。
　後輪を滑らせ、跳ね回るジープが尻を振って急旋回し、その後を追った。
　キメラを狙って対戦車ミサイルを打ち込むが、早く俊敏な相手の動きに、直撃すら難しく。
　幾つ目かの無駄な穴が、地面に口を開ける。

「こちらでも、キメラを捕捉しました。後を引き継ぎます」
　双眼鏡で状況を確認したルシフェルが、足止めを試みる者達へ無線機で呼びかけた。
『騎兵隊の御到着か。後の歓迎は、よろしく頼んだ』
　返事と共に、銃声や爆発音が一斉に止まる。
　続いて、見える限りのジープが、素早くキメラの近辺から離脱した。
　おそらく、能力者達が周囲へ気遣わず存分に戦えるようにとの、彼らなりの判断だろう。
　いい共闘手だ――と、榊は目を細め。
「この先で、車を止める。猛獣狩りといくか」
　キメラの進路とスピードを計りつつ、アクセルを踏む。

　進路を塞いで接近する二台の車に、只ならぬ気配を感じたのか。
　キメラ達は威嚇のような行動も起こさず、いきなりソレを放った。
　衝撃波のような、見えざる圧力に車全体が振動し。
　急ハンドルを切って、ジープは停車する。
　車が止まるのを待つような、もどかしい真似などせず。
　減速するジープから、真っ先にグラップラーが飛び出した。
　ふわりと、束ねた黒髪が宙で踊り。
　難なく着地した硯の後へ、バスタードソードを携え、カプロイアM2007を手にしたリゼットが駆け寄る。
「鏑木さんっ」
「左の一匹を、引き付けます。耳鳴りやキメラが口を開けたら、気をつけて」
　赤い瞳でちらと見やった硯へ、彼女は頷き。
　直後、緩やかな曲線を描く金糸が、青みがかった黒へと色を変えた。
　遠くA61、そしてシテを背に、硯とリゼットはキメラへ駆ける。

「複数体が共に行動する意味‥‥互いの攻撃方法を共鳴共振させる事で、効果を倍増させているのかもしれない。できる限り、キメラ同士を近づけない様にしなければな」
　車から降りた榊は、顔にかかった髪を‥‥緩やかなウェーブを描く銀髪は、ストレートの黒髪へと変化していた‥‥かき上げた。
「そうね、三匹を分断しないと。行きましょう！」
　シャロンへ答える様に、ルシフェルは僅かに目を伏せる。その間に白い肌は瞬時に日焼けしたような小麦色へ代わり、銀髪の一筋が金色に染また。
「攻撃は頭部か尾より発する可能性が高いでしょうし、側面から攻撃します」
『GoodLuck』を発動したルシフェルは、改めて青い双眸で『獲物』を見据える。
「キメラが咆哮の素振りを見せた時は、即座に散開して距離を取るぞ」
　注意を促すトヲイの半身に淡く細い光が蛇の様にうねって走り、瞬く間に紋様と化した。
「では、お願いしますね。くれぐれも、気をつけて」
　気遣うロジーの瞳は緑から紫に染まり、華奢な身体よりゆらりと蒼い闘気が立ち上る。
「もちろん、任せてっ！」
　ウィンクして親指を立てたタリアは、プロテクトシールドを掲げてみせた。

●防衛線
　ジープの爆発に、大気がビリビリと振動する。
「こりゃあ‥‥」
　双眼鏡を覗いていた男が、喉の奥で低い呻いた。
「どうだ、戦況は？」
　目を細め、来た方向を窺う者の一人が尋ねれば、呻いた男は無言で双眼鏡を寄越す。
　受け取った者は、そのレンズを覗き込み。
「子供や‥‥それに、あれは‥‥」
　始めて間近で見た光景に表現が追いつかず、驚愕した男は頭を振った。
「あれが、『能力者』なのか」
　絞り出す声を、クラクションがかき消す。驚いて振り返った者達へ、無線機を手にした男が肩を竦めた。
「四人を状況報告に残し、残りは巡回班の救助に向かえと、コールから指示だ。それから‥‥」
　言葉を切った男は、無線機と再度やり取りをしてから、後を続ける。
「キメラと戦う連中も、我々と同じ志しの人間だってのを忘れるな。とさ」
「ああ」
「そうだな」
　誰ともなく右手を掲げ、遠く自分達に出来ない戦いをする者へ、彼らは礼を送り。
　そして自分の役割を果たす為に、動き始めた。

　ギィンッ！
　耳ざわりな鋭い音がして、火花が散った。
　勢いと体重をかけた爪が、金属の表面を引っかく。
「あなた達の目的が、何かは知りませんが」
　攻撃を受け止めたタリアが、盾の陰からキメラを睨み。
「これより先には、一歩も通しませんっ！」
　小柄で華奢な身体ながら、渾身の力でのしかかる相手を押し返す。
　そこへ、銀光が疾走した。
　淡く光る蛍火は、脇腹を深々と抉り。
　苦痛か牽制か、後ろ足で地を蹴ったキメラが長い尾を振り回す。
　獣の動きを冷静に捉えたロジーは、それをイアリスで薙ぎ払った。
　僅かな戦いの狭間、キメラが咆哮の素振りを見せるよりも先に。
　炎の揺らめきをまとった拳が、頭部を捉えた。
「カルカッソンヌへ入れる訳には、いかないんでな‥‥悪いが、此処で消えてもらう！」
　硬質の爪を持つシュナイザーを、トヲイが容赦なく手加減なく叩き込んだ。

　やや距離を取った位置でも、真正面からの激突が繰り広げられている。
　突破しようとするキメラの突進を、シャロンが小型の丸盾で受け止めていた。
「あいにく、ここで通行止めよっ」
　衝撃に腕の痺れを覚えるが、『豪力発現』も発動させて、吹き飛ばされるのを防ぎ。
　肩からぶつかったキメラは、素早く後ろへ跳んで距離を取る。
　身を低くして縮め、力を溜め。
　その次の動きを、銀色の弓より放たれた矢が阻害した。
「一体でも突破されれば、其の時点で終了だ。意地でも、抜けさせる訳にはいかない」
　長弓「クロネリア」に次の矢を番える榊は、スナイパーではない。
　だが必中必殺でなくとも、相手の勢いを削ぐには十分。
　後は信頼する仲間へ、その役割を任せる。
　響くのは、ハウリングのような音ではなく、悲鳴に似た咆哮。
　ルシフェルが、パイルスピアを急所に突き立てていた。
　それでもなお、キメラは北へと走ろうとする。
「きます！」
　ルシフェルが短く警告し、キメラの注意をそらすように榊が新たな矢を放ち。
　踏み込んで間合いを詰めたシャロンが、増した力もその勢いに加え。
　見えざる攻撃より先に、バックラーでキメラの鼻面を強打した。
　文字通り出鼻を挫かれたキメラは、よろめく。
　狩り手は、その機を見逃す筈もなく。
　パイルスピアの斧刃とイアリスの剣身が、獣の自由を奪った。

　味方が窮地に陥れば、助ける。
　その程度の考えは、バグアの手で創られた獣にも備わっていたかもしれない。
　跳躍して身を翻したキメラは、行く手を塞ぐ邪魔者ではなく、別の方向へ口を開き。
「させるものかっ！」
　一気に間合いを詰めた硯が、咄嗟に顎を蹴り上げる。
　SES搭載武器もない蹴りに大きなダメージはないが、仲間への攻撃を防ぐには十分。
　近付いた硯へ、すぐさまキメラは鋭い爪を振り下ろし。
　硯はパリィングダガーで、それを受け止める。
　ギリギリと、刃と爪が擦れる嫌な音がせめぎ合い。
　動きの止まったところへ、バスタードソードが弧を描く。
　重い手ごたえが、柄を握るリゼットの手に伝わり。
　左手に浮かんだ青白い蝶の紋様へ、赤い飛沫が飛ぶ。
　‥‥それが命ある存在の証だからこそ、せめて長引かせず速やかに。
　痙攣するキメラの胸へ、蛍火が吸い込まれた。

『了解。迎えはすぐに回そう』
　無事だったジープの無線で任務の完了を伝えれば、すぐさまコールが答えた。
「巡回班は、ご無事で居らっしゃいます？」
「あの、怪我人がいるなら、手当てのお手伝いをします。救急セットもありますし」
　ロジーに続いて、タリアが横から付け加える。
『それは助かる。重傷という程でもないが、手当てが必要な者もいるようだ』
「判りました、向かいます。次はブラッスリでお会いしたいですわね、コール氏」
　微笑んで告げるロジーに、『是非』と明るい笑い声が返ってきた。
　ほどなく近付く車の姿が見え、手を振る者達の声を聞きながらトヲイは空を仰ぐ。
「『ブクリエ』の様に、戦っている皆も居る。その事を、改めて知る事が出来て良かった」
　地上を見下ろす赤い星を、彼は目を細めて見上げた。