タイトル:南仏戦描〜vent violentマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/21 00:16

●オープニング本文


●偵察隊の帰還
「バイヨンヌも、特に目ぼしいコトはナシ、か」
 助手席に乗り込んだ男は、背もたれに体重をかけ、狭い車内で大きく伸びをする。
「これで、カルカッソンヌへ帰れるな。あっちこっち立ち寄っての移動で時間がかかったし、そろそろ『お仲間』も寂しがってんじゃねぇか?」
 振り返った男に聞かれ、後部座席に座る二人の少年のうち、しっかりした印象の少年が口を開いた。
「別に‥‥ちょっと何日か連絡がなくて心配はしても、寂しがったりするのとは、また違うと思う‥‥」
「そうか? ソレも逆に、寂しい気がするけどなぁ」
 答えるイヴンへ助手席の男は苦笑し、会話の間にもう一人の男が運転席へ乗り込む。
「それにしても、電話一本使えないのは不便だが」
「仕方ない、盗聴の危険もあるんだ。俺達だけの時に狙われちゃあ、お手上げだからな」
「確かに。だが、戻るまで気は抜けないが、正直ほっとするな。どうも‥‥誰かにずっと見られているような気がして、落ち着かん」
「ああ、それはあるな。気のせいかもしれんが‥‥」
 エンジンのかかる振動が車を揺らし、その間ももう一人の少年ミシェルは窓に腕をかけ、じっと外を眺めていた。友人の様子をイヴンは黙って見やり、それから反対側の窓の外へ目を向ける。
 8月の空の下、車は一路東へ走り出した。

「‥‥はい、伝えて下さい。『お客さん』は何も気付かず、滞りなくお帰りになりました。 しかし、よかったのですか? ‥‥はい、判りました。では、後の事は次へ引継ぎを‥‥」
 幾つか並んだ、公衆電話の一つ。声を落として話していた若い男は受話器を戻すと、何食わぬ顔で往来を歩く人の流れに混ざっていった。

 そして、静かに8月は終わり――。

●南からの暗雲
 その奇怪な一群は、何の前触れもなく小さな町の南に現れた。
 背には翼、頭部に角を持つ竜蛇が身体をくねらせて空を覆い、眼下の家々へと電撃を吐き散らし。
 赤い目を爛々と光らせた黒犬の一団が、口から唾液の代わりに炎を撒き散らしながら、逃げ惑う人々へ襲い掛かる。
 背中の巨大な殻を揺らし、伸縮して鞭の様にしなる触覚を振り回しながら、ぬらりとした身体の蝸牛に似た蛇が、僅かに残った町のカタチを溶かし、押し潰して蹂躙した。
 最後に凄惨な破壊の嵐の後を、波打つ長い髪の女の姿をしたモノがキメラ達を従えて進む。
 だが人のカタチをしているのは上半分のみで、腹からはぐるりと六匹の黒犬が生え、更に六匹の蛇が鎌首をもたげていた。
 竜蛇と黒犬と蝸牛に囲まれた合成獣は、悠然と瓦礫の上に立ち。
 六対の犬と、六対の蛇と、一対の人の眼で、死が支配した町を征服者の如く見下ろす。
 それから、長い腕を北の方向へと振り下ろし。
 一斉に唸り声をあげたキメラの群れは、北へと移動を再開した。

   ○

 トゥールーズから南西へ、約20km程離れた場所に位置するミュレが、突如として連絡を絶った。
 状況を把握する為、急ぎ編成された偵察部隊から届いた報せは、トゥールーズ近郊ではヨーロッパ攻防戦以来になる、群れ成す異形との遭遇。キメラ発見の情報を伝えた偵察部隊だったが、仔細な続報もないまま通信は途絶える。
 すぐさま、仏政府はミュレからトゥールーズ間およびトゥールーズ周辺に点在する町村へ住民の避難勧告を発し、同時にUPCへ救援を要請した。

●雲払う翼
「フランスのトゥールーズより、緊急の救援要請が来ています」
 UPC本部のカウンターで、オペレーターが緊張した表情で告げた。
「今回は報告されたキメラの数と状況より、こちらで三つのチームに分ける形を取っています。無論、仮のチームと役割ですので、皆さんの判断で最終的に変更していただいても構いません」
 前置きを終えて一つ息を吐くと、オペレーターはモニターへ地図を表示した。
「こちらのチームは、地上で活動するチームや避難住民の安全を確保する事を重視し、ナイトフォーゲルによる竜蛇の討伐を最優先で行います。キメラの機動力についてはデータがないので一切不明ですが、可能ならば街の上空へ侵入する前に撃破して下さい。
 早く制圧できれば、地上へのサポートも可能となりますが‥‥あくまでも上空のキメラの排除が主目的ですから、よろしくお願いします。
 少ない情報ですけれど、こちらが現地で確認されたキメラのデータです」
 オペレーターが切り替えたモニターには、「竜蛇(ギーヴル)」「黒犬(キ・ドゥー)」「蝸牛(ル・カルコル)」と仮称の付けられた三種のキメラのデータが表示されていた。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
八神零(ga7992
22歳・♂・FT

●リプレイ本文

●暗雲迫る
 最もキメラとの距離が近い『前線基地』では、キメラの進行および被害、住民の避難状況などを伝える無線が飛び交い、人々が忙しく動き回っていた。
「大規模作戦前の肩慣らしには、丁度いいか‥‥」
 肩を回した八神零(ga7992)が、南の方角へ目を向ける。
「だが、気になるな」
『作戦概要』を確めながら、白鐘剣一郎(ga0184)は眉をひそめた。
「複数種のキメラが、合同で部隊として動く。無作為に街を襲うのでなければ、纏め役がいそうなものだが」
 報告にあるのは、4体のギーヴル(竜蛇)とル・カルコル(蝸牛)、加えて10体のキ・ドゥー(黒犬)という、3種18体のキメラ。
 このうち空を舞う飛行型キメラの竜蛇が、彼らの標的だ。
「これだけのキメラが街に入れば、被害が広がるのは間違いなしですよね。街の上空へ入られる前に倒せるよう、頑張らないと‥‥」
 小さく両手を握り、青い機体へリゼット・ランドルフ(ga5171)が顔を上げる。
 リゼットの緊張とは逆に、簡易椅子に深く腰掛けたUNKNOWN(ga4276)は、手にしたトランプを軽やかにシャッフルしていた。
 切ったカードを傍らのテーブルへ伏して広げ、手袋をはめた指で選び取る。
「――フランスの空でも4枚が揃った、か」
 表に返した四枚のカードを前に、UNKNOWNが僅かに口角を上げた。

「準備が完了したそうだ」
 繋ぎ役であるコール・ウォーロックが短いインターバルの終わりを告げると、その場の空気は一瞬で『臨戦態勢』に入った。
「地上班は?」
 紫煙と共にホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が短く問えば、大柄な中年男はずらりと並んだ16もの機体を見やる。竜蛇と対峙する八人に加えて、地上のキメラを叩く別班の八人もKVの使用を選択していた。
「こっちが離陸次第、あっちも出る。避難誘導の方は、そろそろリヌと合流してるだろう」
「そう。なら、出遅れる訳にはいかないわね」
 誰へ向けるでもなく答えた緋室 神音(ga3576)は、長い黒髪を揺らし、虹色にグラデーションした三対六翼のエンブレムが描かれたディアブロへ踵を返す。
「キメラは、ここで止めるさ。スペインを奪回する為にも」
 憧れの闘牛王国復興と、いつか本家本元の闘牛場で『真実の瞬間』に至る事を思いながら、ホアキンは煙草を灰皿へ押しつけ、コールへ親指を立ててみせた。
「小鳥、何時も通り行くわよ」
 静かに佇んでいたロッテ・ヴァステル(ga0066)が、パートナーへ声をかける。身を縮め、不安げに人々を眺めていた幸臼・小鳥(ga0067)だが、信頼する『隊長』の声からいつもより張り詰めた空気を感じ取って、彼女は勢いよく頷いた。
「はい‥‥! 魔弾の力‥‥見せて‥‥あげるのですぅー。それから‥‥早めに倒して‥‥他の人達の‥‥援護に回るのですぅー」
 頼もしい少女の返事に、一瞬だけ青い瞳の奥で優しい色が滲んだ。
 だが、すぐにそれも感情を窺わせない表情の下に消え、ロッテはワイバーンのコクピットへ身体を滑り込ませる。
「薔薇色の街トゥールーズ‥‥か。フランスの空を、地上を‥‥これ以上蹂躙させてなるものか」
 固い決意と共に彼女は操縦桿を強く握り、飛び立つ空を鋭い瞳で見据えた。

●Lancez une attaque
 遮る物のない広大な空間で、鈍く光を弾く鋼鉄が旋回する。
 順番に空へ上がった機体は、まず互いのパートナーと合流し、他のペアと互いの位置を合わせた。
 八機のKVは二組四機単位に分かれて平行に高度を保ち、上下に4対4のアブレストを保つ。
『作戦開始の合図は、「らいおんさんはりけーん」でいいな』
『‥‥何だ、それは』
 突然UNKNOWNが投げた提案に、強張った声色で零がごく当然の疑問を返した。
『深く気にするな。大仰な号令より、皆の肩の力も抜けていいだろう』
『らいおんさん、なんだか可愛いですよね』
 ほわほわと微笑ましげに、微妙に論点の違う感想をリゼットが加える。
『何でもいいわよ。好きにすれば』
『先に言ってもらって‥‥よかったですぅー。ちょっと‥‥頭まっしろに‥‥なったですぅー』
 淡々とロッテが受け流し、肩どころか全身の力が抜けた小鳥はほっと安堵の息を吐いた。
『こちらQuena、敵影を確認した』
『Irisでも確認、作戦ポジションにつく』
 警告するホアキンに神音も報告を重ね、緩やかに操縦桿を傾ける。
「行くぞ、インティ」
 太陽神の名をホアキンは呟き、雷電が右へ進路を取る。その動きに、リゼット機ワイバーンが呼吸を合わせて追随した。
『折角の花火だ‥‥派手に打ち上げるとするか』
 対する神音機は左へ分かれ、零が僚機に続く。
『ともあれ、あの竜蛇を街まで来させる訳にはいかない』
 地上へも目を配りながら、剣一郎もまたUNKNOWNと翼を並べ、平行飛行を保ったまま他のチームと距離を取った。主要道に車影はなく、レーダーは別動班を彼らの後方に捕捉している。
『住民の避難に、地上で迎撃を担当するチ−ムの動きもあるからな‥‥俺の経験則では、竜種は強力な個体が多い。時間を掛けると、押し込まれる危険性もある。初手が勝負所だ、行くぞ!』
 剣一郎機とUNKNOWN機、ロッテ機と小鳥機もまた、それぞれ組んで左右に散開し。
 平行飛行を続けながら、各ペアを角とするスクエアを描く隊列を組んだ。
 前方では、接近するKVに気付いたのか。
 黒犬と蝸牛の上を飛ぶ竜蛇が、水の上を泳ぐように身体をくねらせ、高度を上げ始めた。
『目標確認‥‥狂騒劇の開幕よ』
 ミサイルポッドの発射スイッチに指をかけながら、ロッテは狙うべき『獲物』を捉える。
『今だ、「らいおんさんはりけーん」』
 気の抜けそうなUNKNOWNの言葉を合図に、八機のKVは一斉攻撃を開始した。

●Dansez d’acier et eclair
 次々とミサイルが爆発し、爆煙が広がる。
 風に散る煙の中を、雷光が走った。
 皮翼が薄くなった煙を裂き、一対の角が生えた頭をもたげ。
 値踏みをするように、四体の竜蛇は襲撃者達をまばたきをしない眼で追う。
 その一体へ、嵐の如く砲弾の群れが射出された。
『さぁ、追ってきなさい』
 ロッテはレーダーでキメラの動きを確認すると、ロールを行って旋回した機体を水平飛行へ戻す。
 そのまま、失速しない程度に減速するワイバーンを、小鳥はじっと注視していた。
 ロッテ機と竜蛇の動き、そして自機の速度。
 それらを素早く小鳥は計算し、システムからの補正を受けつつ標的を追う。
『うー‥‥見えましたぁ‥‥! そこ‥‥ですぅ!』
 バイパーに搭載したスナイパーライフルより放たれた砲弾は、フォースフィールドを突き破り、硬い鱗を穿つ。
 だが致命的な一撃ではないのか、キメラに怯む様子はなく。
 狙撃手へ転進して電撃を放つ竜蛇へ、またバルカンの雨が叩き込まれた。
『何処を狙ってる、こっちよ蛇頭っ!』
 誘うかの如く機体のハラを見せながらロッテ機は旋回し、煩わしげに頭を振った竜蛇が向きを変え。
 ワイバーンへ向かうターゲットに、再び小鳥は照準を合わせる。

 ディアブロとK−111改が、揃って急速反転した。
「悪いが、体勢を立て直す時間は与えない」
 一度は遠ざかったキメラとの距離が縮まり、最も近い竜蛇を剣一郎はロックする。
 剣一郎機ディアブロからG放電装置、タイミングを少しずらしてUNKNOWN機K−111改が試作型G放電装置を発射した。
 二発の攻撃は放電現象を発生させるが、竜蛇もまた電撃を吐き、爆発が起きる。
『なかなか、タフだな』
 高度も落とさず、飛行を続けるキメラをレーダーと目視で確認したUNKNOWNは、特に感慨も驚愕もない平坦な言葉を呟いた。
『やはり竜種、すんなり決着を付けさせてはくれないか』
 強固なキメラにキャノピー越しで感心しながら、剣一郎は兵装を20mm高性能バルカンに切り替え。
 剣一郎機からやや斜め後ろの上方、若干の距離を置いたポジションをキープしたまま、UNKNOWN機も僚機と共に次のアプローチにかかる。
 対する竜蛇も、翼を打ちながら迫る襲撃者へ雷撃を放った。

「‥‥ッ」
 長い尾が、キャノピーをかすめる。
 一瞬、影に覆われたコクピットで零は舌打ちし。
 機首を下げ、高度を落として、ニアミスしたキメラから離れる。
 その動きを、金色の瞳がじっと見つめていた。
 零機とキメラが距離を開いたところで、神音機は3.2cm高分子レーザー砲を発射する。
 身をくねらせるキメラの鱗を、エネルギー塊が浅く削った。
 手傷を負いながら応戦する竜蛇を挟み、二機のディアブロが空を舞う。
『接触のダメージは、なさそうね』
『ああ‥‥前衛を任されたからには、しっかり働かないとな』
 答える零へ、神音は無言を返した。
 互いに、交わす言葉は少ないが。
 積極的に零がキメラへ接近、神音が援護・牽制する形で攻撃を重ねる。
 神音機が放ったホーミングミサイルは、白煙の尾を引いて標的へ着弾し、炸裂した。

 三匹の竜蛇をそれぞれのペアがマークして引き離し、分断して撃破に当たる中。
 リゼットは僚機の後背上方をキープして攻撃を仕掛けると同時に、四匹目の竜蛇を観察する。
『行動のパターンは、見切れそうか?』
 言葉をかけるホアキンは相手の目、もしくは翼を狙い、攻撃を繰り返していた。
『電撃を吐く前兆の動作などは、特になさそうですね。角が発光でもすれば、すぐに判るんですけど』
 問われたリゼットが頬を膨らませれば、その返事に『全くだ』とホアキンは笑う。
『となれば、口を開くのを見て判断するしかないな』
『はい、援護しますね』
 搭載したAAM(空対空ミサイル)がいつでも撃てる状態にある事を再確認し、彼女は前方を飛ぶ雷電に合わせて操縦桿を傾けた。

●翼折りて
 敵味方の位置をホアキンはレーダーで把握しつつ、既に幾度かの攻撃を加え、傷を負った竜蛇の動きへ注意を戻す。
 翼を羽ばたかせ、空を泳ぐよう蛇行したキメラはKVへ迫り。
 後方のリゼット機から放たれる『援護』が、キャノピー越しに見えた。
 うねる身体に比べ、動きの少ない竜の頭へホアキンは照準を合わせ。
「‥‥沈め」
 超伝導アクチュエータを起動し、死の宣告と共に8式螺旋弾頭ミサイルを発射する。
 鎌首をもたげて竜蛇は回避行動を取るが、ドリル状の先端を持つAAMが頭部を覆う鱗を抉った。
 苦痛にのたうつ竜蛇を雷電が急上昇して避け、マイクロブーストを使用したワイバーンが側面へロールする。
 それでも近距離で起きた爆発に、機体が震えた。
 振動を感じながらも、垂直上昇したホアキンがループして機首を地上へ向け。
 一方リゼットは、長い身体をもつれた糸の如く縮め、丸めるキメラの動きを封じるように、3.2cm高分子レーザー砲を撃つ。
 そこへ、雷電が急降下で突っ込み。
 強化コーティングされ、刃と化した翼で、硬い竜蛇を切り裂いた。
 機体へ鈍い衝撃が伝わり、近付く地上を前にホアキンは操縦桿を引く。
 風圧で草木が大きく揺れる中、雷電は空へ駆け上がり。
 切断された蛇体は飛行能力を失い、加速された勢いのまま地上へ激突する。

「悪いが‥‥その喉笛は、この魔狼が食い千切る」
 零機がディアブロのみが有する能力、アグレッシブ・フォースを発動させる。
 高度を上げた神音機を追って空を昇る竜蛇へ、急接近した。
 急接近するキメラに、コクピットでは控え目な電子音がニアミスを知らせる。
 それを無視して、零は補助スラスターで自機の位置を微調節し。
 ソードウイングが、硬い鱗を砕く。
 両断したと確信した直後、一斉に警報が機体後部での異常発生を告げた。
『切断されたキメラが、脚部付近に巻きついているわ』
 僚機の異常を察した神音が、コクピットから見た状況を伝える。
 真紅と漆黒、ツートンカラーの機体には、錆色の飛沫が撒き散らされていた。
 切断された蛇体には、まだ攻撃本能が残っているのか。
 たたまれた脚部へ巻きつき、絡まって締め付け、機体へ負荷をかける。
『排除するから、高度と速度を維持して』
『判った』
 神音の指示に零は短く答え、彼女を信頼して後を任せた。
 ざっと状況を目視で確認し、ベストと思われるポジションへ神音は機体をつける。
「――アイテール、『アグレッシブ・フォース』起動‥‥ここで落ちなさい!」
 躊躇なく放たれたレーザー砲は、死してなお仲間を落とそうとするキメラの執念を撃ち抜いた。

『白鐘っ』
 UNKNOWNが警告を発すると同時に、不吉な音と振動が機体へ突き立った。
 剣一郎機の後方では、行き違った刃の翼で角と刃を切断された竜蛇が、とぐろを巻くように長い身体を螺旋にねじる。
 そして弾き折れた角の片方が、ディアブロへ刺さっていた。
『現状では、機動に問題ない。キメラを叩くのが先だ』
『了解、来るぞっ』
 迸った雷光に、剣一郎機とUNKNOWN機は翼を振って左右へ散る。
 苦痛にのたうつ竜蛇が、四方八方に電撃を吐いて足掻き。
『援護に回る』
『頼んだ。次の剣翼突撃で、仕留める』
 剣一郎が短く託す言葉をUNKNOWNへ投げ、二機のKVは回避行動から反転して攻撃に移った。
 電撃を避けながら最後の試作型G放電装置を発射したK−111改は、更にスナイパーライフルRで螺旋に動く蛇体に追い討ちをかけ。
「‥‥その首、貰い受ける!」
 ソードウィングを装着したディアブロで、剣一郎は竜蛇へ突っ込む。
 切断された竜の頭部は、周囲に電撃を撒き散らしながら落ちていった。

『仕掛けるわよ、小鳥』
『はい‥‥いっけぇ‥‥ですぅ!』
 ソードウィングを備えた小鳥機が加速し、幾つものミサイルや砲弾を喰らって弱った竜蛇との距離を詰めた。
 それに合わせて、ロッテがマイクロブーストを起動したワイバーンでフォローに回る。
 生身ならば、スナイパーの小鳥とグラップラーのロッテの立場は逆なのだ。
 だが今回、ロッテは『切り札』をワイバーンへ搭載していた。
 周囲の状況を考慮した上で、小鳥機は一番被害が少ない方向へ竜蛇を吹き飛ばすように、『体当たり』をかける。
「消えなさい、悪夢として‥‥ラ・ソメイユ・ペジーブル」
 冷たい声で引導を渡し、ロッテは発射スイッチを押す。
 M−12強化型帯電粒子加速砲――対シェイドに開発された兵器は、超高速で粒子の『弾丸』を射出した。
 縦長の瞳孔を持つ眼から、生気が失せ。
 ボロボロになった竜蛇は、小鳥の計算通り一番被害の少ない畑へ墜落していく。
『終わり‥‥ましたかぁ‥‥? それじゃあ‥‥他の人達の援護にぃ‥‥』
『そうね。向かいましょう』
 ややほっとした小鳥へ答える声に特別な感慨や憐憫はなく、ロッテは次の行動へ移った。

『竜蛇の制圧は完了だな』
 一部被害が出た地上を見下ろし、ホアキンは深く息を吐いた。
『損傷を受けた機体は、先に帰投する。地上のフォローを頼んだぞ』
『任せて』
 心苦しそうな剣一郎に、短くロッテが答える。
 KVでは小型のキメラへの対処は難しいが、上空からサポートをする事は可能だ。
 予断を許さぬトゥールーズの空で、編隊は二手に分かれた。