タイトル:能力者でも、忘れずに?マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/24 03:13

●オープニング本文


●全く緊急を要さないお仕事
 UPC本部の斡旋所にあるモニターには、今日も世界で起きる数々の『事件』内容が表示される。
 だが時に、『事件』ではない仕事の募集も表示される。
 そう、例えば‥‥。

●ニーズに応えよう!?
「ね。『能力者』だって、オシャレはしたいわよね!」
『ラスト・ホープ』のショッピング区画の一角で、ドロテア・バトゥーリが握りこぶし付きで主張した。
 当然、周りの者達は何が起きたのかと一瞬呆然として。
「いや、でもそれは‥‥」
「あれって、軍人さんみたいなものじゃないの?」
「『能力者』って、確か生身で戦うんだよな」
「制服とか、なかったでしたっけ〜?」
 我に返ると、一斉にひそひそと小声で意見を交し合う。
 そんな相談を、ドロテアはバンッと机を叩いて押し潰した。
「御託はいいわ。ファッションはね‥‥目をつけた者勝ちなのよっ!」
 アイディアに燃える彼女から見えないところで、福利厚生の一環として衣類関係を扱うスタッフ達は「ないない」と揃って首を横に振った。
 ‥‥無論、彼女にそれは見えないし、届かない。
「そうと決まれば、早速『能力者』の人達に来てくれるよう、頼まないとね。何よりもまず着てくれる人達にいろいろリサーチしないと、始まらないわ」
 軽い足取りで、ドロテアは電話をかけに行く。
 その後姿を、スタッフ達が溜め息と共に見送った。
「忙しいと‥‥思うんだけどなぁ‥‥」

●参加者一覧

エスター(ga0149
25歳・♀・JG
クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
響月 鈴音(ga0508
15歳・♀・ST
工藤 悠介(ga1236
25歳・♂・GP
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
ルティア・モース・倉火(ga2411
22歳・♀・SN

●リプレイ本文

●まずは自己紹介から
「本日はお忙しい中、皆さんありがとうー!」
 訪れた八人を、ドロテア・バトゥーリが愛想のいい笑顔で迎えた。
 今回のリサーチが、オシャレに関する話題の為だろう。ジュースやお茶と、ちょっとしたクッキー菓子が用意されたテーブルについた八人の男女比は、圧倒的に女性が多い。
「いえ‥‥よろしくお願いします。響月鈴音です」
 黒髪を揺らし、丁寧かつ深々と響月 鈴音(ga0508)が頭を下げる。
「私で協力できる事でしたら、お手伝いさせていただきますので‥‥でもあの、激しい運動とかは、ちょっと‥‥ですけど‥‥」
「ああ、動く事ならソコに元気の有り余ってるのがおるから、平気やろ」
 明るく、かつ無情に言い放ったクレイフェル(ga0435)は、デザイナーへ向き直った。
「クレイフェルです。よろしゅうお願いします」
「元気、余ってるって‥‥ク〜ちゃん、どうしてそこで私を見るのよ」
 先の言葉に視線を感じたナレイン・フェルド(ga0506)が、銀の前髪を指に絡めながら異論ありげにクレイフェルを見やる。
「そうかな?」
「余っているかどうかはともかく、元気なのはいいと思うが」
 苦笑しながら、工藤 悠介(ga1236)がフォローらしきものを入れれば、ナレインは微笑みを返した。
「ありがと、悠介ちゃん。今回も一緒の仕事だし、もしかしてこれって運命かしら」
 礼を言われた悠介は悠介で、微妙に微妙な表情を浮かべる。
「工藤だ。よろしく頼む」
『運命』の言葉にあえて触れずドロテアへ挨拶をする悠介に、ナレインは小さく肩を竦め、そして『依頼人』へ笑顔を向けた。
「ナレインよ。よろしくね、ドロテアちゃん」
「こちらこそ、ナレイン。ええっと、じゃあ‥‥」
 答えるドロテアは、賑やかな四人に遠慮してか少し距離を取って座る者達へ視線を移す。
「私はシャロン、よっろしく!」
 ドロテアと目が合ったシャロン・エイヴァリー(ga1843)は、会釈の代わりに軽く片手を挙げ。
「あ、次は僕? 水理です。よろしくお願いしますっ」
 ひょこと、隣の水理 和奏(ga1500)がポニーテールを揺らす。
「‥‥ルティア・モース・倉火。スナイパー」
 続くルティア・モース・倉火(ga2411)は、淡々と己の素性だけを告げた。
「せっかくの機会だから、忌憚ない意見を聞かせてね‥‥あら、一人メンバー足りない?」
 ひぃふぅと、メンバーを数えるドロテア。というか、人数に合わせて用意した椅子が一つ空席な為、改めて数えなくても判るのだが。
 ‥‥そこへ。
「うわぁぁぁ、すみません遅れたッス! 部屋、間違えたッスー!」
 勢いよく扉が開き、エスター(ga0149)が飛び込んでくる。
「まだ自己紹介していたところだから、平気よ」
「ああ、よかったッス! あたしは、スナイパーやってるエスターッス。今日は皆、よろしくお願いするッス」
 ドロテアの言葉にほっとしたエスターは、豊かな胸を張って敬礼し。その『迫力』に気圧されように、和奏はまだ未成長の自分の胸に視線を落とす。ほんの一瞬、ちらっとだけ。
「じゃあ、さっそく始めましょうか。単刀直入に聞くけど‥‥『能力者』の皆だって、オシャレしたいわよねっ」
 切り出したドロテアの言葉は、『意識調査』というよりも『意思確認』のようだった。

●それがポリシー
「当たり前じゃない! 『能力者』なんて言ったって、要は1000人に1人の確率に当たっただけの一般人なんだからっ」
 真っ先に口を開いたのは、シャロンだった。肩にかかった金の髪をかき上げてから、人差し指を左右に振る。
「そもそも、バグアさえ来なかったら‥‥あるいは、私が『能力者』じゃあなかったら、今頃は大学へ行って、その帰りにウィンドウショッピングなんかしながらちょっと美味しいものを食べて、友達とは週末の予定を相談なんかもして、それからバイトとか家族と旅行とか‥‥」
 指折り数えながら、彼女はどちらかといえば出来なかった『願望』を上げ連ねる。青いフライトジャケットの下は白のシャツにデニム地のジーンズと、キャンパスでも生き生きとした笑顔をみせていたであろう事が、容易に想像できた。
 確かに、『ラスト・ホープ』内でもそれなりに教育施設はあり、ショッピング街も存在する。だが『平和な日常』のそれと較べると、緊急事態となれば戦場に立つ『能力者』としては手放しで謳歌するのは難しい。
「私が今、気に入ってるのはこのブルーのフライトジャケットね。古着に出回ってたのを値切っ‥‥コホン、善意で安く売ってもらったの。私の覚醒の変化って青白い電気みたいなのが出て、目立って仕方ないのよ。だったらいっそ服装もブルー系で統一して、とことん目立ってやれって思って」
 そう笑顔で打ち明けたシャロンの髪を留めるヘアバンドも、やはり青だ。
「発露する身体的特徴に、カラーリングを合わせてコーディネイトしているのね」
「そ。よかったら、後で覚醒してみせるわよ。ついでに和奏、軽く身体を動かさない?」
 前の仕事で顔を合わせて親しくなった和奏を、シャロンが誘う。
「僕で、よかったら」
 答える和奏の服装はYシャツにショートパンツという、動きやすい軽装をしていた。

「靴は、革が柔らかくて丈夫で、運動しやすいっていう評判のショップで、見つけてきたんです。やっぱりグラップラーとしては、動きやすさが一番かなって」
 和奏は革靴の爪先で、床をとんとんと軽く叩く。
「シャロンさんとクレイフェルさんは、僕が可愛いからきっと清楚なワンピースとかも似合うよって言ってくれたけど‥‥」
 笑いながら、少し語尾を濁す。
 その言葉を肯定するようにクレイフェルは笑顔で頷き、シャロンは「可愛いと思うんだけどな」と頬杖をついて和奏を眺めた。
 日頃から男っぽいと言われていたが故に、そんな二人の『推薦』にも気後れしていた和奏だが、ドロテアは違う意味で解釈したらしい。
「そうね。ワンピースはちょっと、動き辛いかもね」
 それを訂正するのも気乗りしないので、和奏はそのまま話を続ける。
「前の依頼だと、何故か体操服にブルマを着る事になって‥‥そしたら、「戦闘で燃えるからいいよ」って、すごく言われたんだ。そんなに燃えるなら、ショップでも売ったらどうかなって思ったんだけど」
「それ、たぶん『もえ』違いだと思うんやけど‥‥」
 素直に提案する和奏にクレイフェルが苦笑すれば、少女はきょとんとした。
「僕が思ってるのと、違うのかな?」
「下手にショップに置いたら、アブナイ人が増えそうな気がするわねぇ」
 明後日の方向へ視線を投げながら、くすくすとナレインが笑う。
「あ‥‥でも、ワンピースの下に着ても恥ずかしくないものなら、水着のようなインナーなんかもいいですよ。私もそうしていますし、これなら下着と違って見えても恥ずかしくないです」
 ワンピース姿の鈴音が、にっこりと和奏へ微笑んだ。彼女の意見に賛同するように、ビキニとホットパンツの上にショートジャケットを着ただけのエスターが、頷きながら大きく足を組み替える。
「見えたら恥ずかしいと思うから、恥ずかしいんッスよ。それなら最初からどーんと見せておけば、気にならないッスよ」
「ありがとう。アドバイスは‥‥参考にするね」
 困った風に、和奏が笑った。

「でもマジな話、覚醒すると体格変わっちゃう人もいるッスから、高い伸縮性のあるヤツがいいッス。あたしの場合、そんな顕著な変化じゃあないッスけど‥‥胸がちょっと、大きくなるくらいッス」
 ぽしぽしと赤毛を掻くエスターに、ルティアは僅かに片眉を上げた。
 ここにいるメンバーの中でも、特にエスターはグラマラスな体型をしているが、更に‥‥らしい。スナイプの際、邪魔にならないだろうかと、素朴な疑問を脳裏に浮かべたり浮かべなかったり。
「後は、収納スペースの多いロングコートとかジャケットとか、そういった上着が欲しいッス。厚めの素材で、稼動域が多いヤツで‥‥クリーニングじゃなく、洗濯機で洗濯できて‥‥いま着てるのと同じようなデザインだと、着回しきくし‥‥」
 指折り数える彼女の『注文』は、何故か庶民感覚になっていく。
「えーと。同じスナイパーとして、あなたはどうかしら?」
 簡単にメモを取りつつ、ドロテアがずっと黙って話を聞くルティアへも質問を投げた。
 シャツとスカートに加えて、長袖のジャケットに袖を通したルティアは、カジュアルな服装で年齢以上に落ち着いて見える。
「戦闘時の、服装の選考基準なら‥‥狙撃の為に長時間の潜伏ができるよう、保温保湿性に優れていて、周囲の景観に溶け込める色をしている事。加えて携帯火器や予備弾倉など、最低限収納できるホルダーやポケットがある事が好ましい」
「弾薬やサブ銃なんかを考えると、機能性も大事だけど収納も重要‥‥ね」
 腕組みをしながら考え込むドロテアに、ルティアは一度だけ首を縦に動かした。
「平常時は周囲に溶け込む為に市販の服装を着るけど、膝や肘を外気にさらすのは嫌。なんとなく落ち着かない‥‥これは、個人的な趣向」
 話すべき事は話し終わったという風に、彼女は紙コップのジュースを傾ける。

「そういえば、ドロテアちゃん。試着用の衣装とか、今日はないの?」
 うずうずしながら尋ねるナレインに、ドロテアは困った表情を浮かべた。
「ごめんなさいね。今日はあくまでも、意見取りだから‥‥試作も持ってきてないのよ」
「う〜ん、残念ね。あるなら、チャイナドレスとか着たかったわね」
 はふ。と嘆息するナレインに、シャロンが小首を傾げた。
「動きにくくない?」
「でも、可愛いと思うのよね。確かに、機動的にも機能的にもイマイチだとは思うんだけど‥‥そこを改良して戦闘用にしてくれるのは、ドロテアちゃんのお仕事って事で」
「それなら、俺もカンフー服っての? あれを着てみたいんやけどな‥‥ドロテアさん、何とかなりません?」
 ナレインに続いて、クレイフェルもまた期待の眼差しを向ける。
「そうね。意見の一つとして、検討はしておくわ」
「お願いします。ダサいものは、着たくないし」
「クレイフェルさん‥‥ズバッと言っちゃいますね‥‥」
 彼の『注文』に、フォローしようもなく鈴音が微妙に苦笑した。
「俺は、任務に則するのであればデザインは問わないがな。強いて言うなら、黒を基調としておさえた色目を希望するが。それよりも、やはり機能性と耐久性‥‥『動きやすさを維持しつつ、防御力も出来るだけ高く』といったところだ」
 ターコイズブルーのVネックシャツにミリタリーシャツを羽織り、それに‥‥要望の通り‥‥黒のカーゴパンツとシューズを合わせた悠介が、実用的な見解を述べる。
「私もやっぱり、動きやすい事と汎用性がある事、でしょうか。いま着ているインナーは、自分で‥‥和奏さんにもお話しましたけど、ワンピース水着のデザインをベースに、作ったんです」
 ワンピースを着ている為、無論インナーは見えないが、説明しながら鈴音が胸に手を当てた。
「もちろん、普段は普通に可愛い服も着ますけど、いつ出撃するかわかりませんし‥‥ナイトフォーゲルに乗る時、いろいろなモノがついた服だと、ちょっと邪魔かなって思ったんです。それで‥‥インナーは、いつもコレですね」
「ボディスーツみたいな感じかしら。よければ、見せて‥‥と言いたいところだけど、場所が場所だし、妙齢の女の子だものね」
 意味ありげにドロテアが微笑めば、僅かに鈴音は頬を赤らめる。
「でも、インナーにも高い実用性っていうのは、参考にするわ」
「はい。そうしていただけると、嬉しいです」
 背筋を伸ばし、鈴音はこっくりと頷いた。

●意見確認の後は
「で、意見としては機能性、機動性、それから耐久性についての意見が多かったんだけど‥‥よければ、『覚醒』しての行動とか、見せてもらえたらなーって思うんだけど。もし、まだ時間があるなら」
 どう? と、上目遣いで、ドロテアが八人へ伺いを立てた。
「もちろん、『覚醒』だってリスクがない訳じゃないから、無理に‥‥とは言わないわよ。でも、実際に戦う時は『覚醒』するじゃない? エスターさんみたいに、体格が変化する人もいる訳だし、グラップラーの人は身体の動きも違ってくる訳よね」
「そうだな‥‥ナレイン、ちょっと手伝ってもらえるか?」
「いいわよ〜、悠介ちゃん! ちょっと本気、出しちゃう?」
 声をかける悠介に、悪戯っぽい笑みを口元に浮かべながらナレインが立ち上がる。
「希望者のみなら、私は辞退します」
「ん。私も、鈴音に同じく」
 鈴音に続いて、クレイフェルも『覚醒』の『実演』を断った。
「私も体格などの変化はなく、射撃手‥‥だからな」
 ルティアもまた拒否する一方で、エスターは「でも」と何かを思いついたように手を打つ。
「アサルトライフルの構え方とか、見てもらった方がいいッスかね。銃を構える邪魔にならず、保持をサポートできるようなデザインとか、考えてほしいッス」
「私も『覚醒』して動くの、構わないわよ。そうね‥‥和奏、せっかくだから軽く手合わせでも、やらない?」
 誘うシャロンに、「はい」と和奏は明るく返事をし‥‥それから少し、不安そうな表情になった。
「だけど、ちょっぴり手加減して下さいね。当たったら、きつそうですし」
「ええ。友達に怪我なんて、させないわよ。でも、油断したら保障しないけどね。それから、後で一緒に服を見にいきましょ? 和奏みたいに素材のいい子が、バグアのせいでファッションに興味を持つ時間がないなんてコトになったら、未来の大きな損失になるわ」
 口唇に人差し指をあて、シャロンがウインクしてみせた。

 銃の構え方の実演をしてみせるエスターはともかく、打ち合わせ室では十分に動けないため、悠介とナレイン、それに和奏とシャロンは身体を暖める為にも一足先に外へ出る。
「あ‥‥そうそう」
 部屋から出る直前、ナレインは何かを思い出したようにドロテアに近づいた。
「ドロテアちゃん、私が男だって、気付いてた?」
 耳打ちするナレインに、ドロテアは眼を瞬かせてから、大きく溜め息に似た息を吐く。
「どっちかなーって、悩んでたのよね。女性にしては、こう‥‥骨のハリが立派なんだもの」
「あら‥‥じゃあ、以後は気をつけなきゃ」
 髪をいじりながら、ナレインは小さくおどけた風に肩を竦め。
 それから二人は顔を見合わせて、笑った。