タイトル:『希望の島』観光案内マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/03 04:31

●オープニング本文


●ラスト・ホープ見学会
 人類最後の拠点である、巨大な浮遊島『ラスト・ホープ』。
 それは『バグア』の探知から逃れるために洋上をランダムで移動する、UPCの本部である。一般の人々にも詳細が知られる機会は、あまりない。
 ‥‥ないのだが。
「へ〜ぇ。ここが、パパが言ってた『ラスト・ホープ』なんだ〜」
「思ったより、広くて綺麗ね」
 遠く、本部ビルを望む事の出来るラスト・ホープの広場では、10代とそれ以下の子供達が集まって騒いている。
「はーい、あまり遠くへ行かないで下さいね。もうすぐ、案内してくれる人達がきますので」
 20人近い子供達を相手に、三人の女性ガイドが一生懸命まとめようと苦心していた。
「あれ? もしかして、あの人達がそうなの?」
 一人が『案内係』の能力者達の姿を見つけると、低年齢の子供達がわっと声をあげて走り出す。
 ガイド達は丁寧に会釈をし、年長者達は珍しそうに近づいてくる者達を眺めていた。

●少々時間を巻き戻し
 UPC本部の斡旋所にあるモニターには、今日も世界で起きる数々の『事件』内容が表示される。
 だが時に、『事件』ではない仕事の募集も、同時に掲示されていた。
「この‥‥『ラスト・ホープ見学案内』っていうのは?」
 依頼を目にした者が、怪訝な表情で内容をオペレーターへ確認しに来る。
「文字通り、『能力者』ではない子供達相手にラスト・ホープ見学の案内をするのよ。UPCの活動への理解と、『能力者』への理解を得てもらうためにもね。それなりに、影響力のある人達の「お坊ちゃん」「お嬢ちゃん」だから、問題を起こさないようにって注意が出てるわ。例えば、一般人の立ち入り禁止区域なんかに紛れ込まないよう、くれぐれも注意して目を離さない事」
 笑顔で答えたオペレーターは、思い出したように手を打った。
「そうそう。来て間もないなら、ついでに混ざって案内してもらうのもアリよ? 上には、内緒だけどね」

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
藤川 翔(ga0937
18歳・♀・ST
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
露崎キリヒト(ga1960
17歳・♂・FT
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
シャロン・シフェンティ(ga3064
29歳・♂・ST

●リプレイ本文

●円形広場
 空に浮かんだ赤くて丸っぽい物体はさて置き、その日はよく晴れていた。
「おはようございます。お忙しいところを、すみません」
 付き添いの女性ガイドが、八人へ挨拶をする。
 子供達との集合時間より、少し前の時間。『ラスト・ホープ』の案内役を買って出た『能力者』達は、女性ガイドの一人と顔を合わせていた。
「よろしく。ああ、よければ案内中も引き続き、ガイドさん達に見学に同行してもらいたいのですが。もちろん案内はしますが、ガイドは僕達の『本職』ではありませんから」
 肩を竦める翠の肥満(ga2348)に、彼女は「判りました」と快諾する。
「今日は、よろしくお願いしますね。えっと」
「翠の肥満と申します。お好きにお呼びを」
 名乗る相手を見上げたガイドは、ひょろりとした長身と名前の不一致さに一瞬戸惑い。
「では、私どもはグリーンさんとお呼びしますね」
 適当な着地点を模索した返事に、翠の肥満は首肯した。

「これ位の年代ならば、俺でも何とか相手が出来るだろうが‥‥ある意味で、通常の戦闘依頼よりも消耗する事になりそうだな」
「トヲイ君、今から音を上げてちゃダメよ」
 髪を掻く煉条トヲイ(ga0236)へ、立てた人差し指を左右に振って励ますハルカ(ga0640)。『ハイ(14〜18歳)』の五人は、二人の担当となっていた。
「『能力者』になってから慌ただしくて、島を散策する時間もなかったし、これを機会に『ラスト・ホープ』を改めて知っておくのも、いいわね」
 配られた簡単な案内図をチェックしたシャロン・エイヴァリー(ga1843)は、そこへスケジュールと向かう先を書き加えておく。彼女は翠の肥満、そして愛紗・ブランネル(ga1001)と共に、『ミドル(10〜13歳)』の七人を担当する予定だ。
「皆と、友達になれたらいいなっ。全員の名前、覚えられるかな〜?」
 パンダのぬいぐるみを抱く愛紗が無邪気な疑問を口にすれば、露崎キリヒト(ga1960)は口元に‥‥目は伸ばした前髪で隠れ、その表情は窺えない‥‥僅かな笑みを作った。
「大丈夫です。きっと」
「ありがとう、キリヒトお兄ちゃん!」
 笑顔を返す愛紗に、キリヒトは頷く。
 八人と一番数の多い『キンダー(5〜9歳)』は、残る『能力者』三人のうちキリヒトとシャロン・シフェンティ(ga3064)が担当するのだが。
「クク‥‥次代の担い手たる、子供達。その純粋にして無垢なる意思は、無限の可能性を秘めた扉。良い機会です。ぜひ私達の研究に、理解と興味を得てもらいましょう‥‥ク、ククク」
 シフェンティは一人、怪しげな笑いを浮かべつつ何だか自分の世界で悦に入っていた。
 ‥‥そして、怪訝な表情をした女性ガイドが彼と適度な距離を保っているのは、言うまでもない。
「あの‥‥お任せして、本当に大丈夫でしょうか。こちらとしても、子供達の安全第一ですから‥‥」
「大丈夫、と思います。たぶん」
 不安げなガイドに、藤川 翔(ga0937)が困ったような笑顔で答える。
「もし、気分の悪くなった子や怪我をした子がいれば、私が預かりますので」
「お気遣い、有難うございます」
 単身、『救護班』となる翔へガイドは礼を述べた。

 11時の少し前になると、残るガイド二人に率いられて、20人の子供達が広場へ現れる。
 案内する者達は短く自己紹介をして、『一日観光』が始まった。

●UPC本部〜兵舎
「今、『ラスト・ホープ』は太平洋上にあるけど、バグアに見つかるのを避ける為に、洋上を移動しているの。その中枢が、このUPC本部よ」
 最初に足を運んだのは、UPC本部ビルの中にある広々とした空間。白を基調としたホールの一角を、多数のモニターが陣取る。オペレーターが待機するカウンターの傍には、変形モードのナイトフォーゲルが一機、展示されていた。『能力者』ならば、誰もが頻繁に足を運ぶ場所だ。
 モニターを示しながら、エイヴァリーが説明を続ける。
「ここは私達『能力者』に依頼、つまりお仕事を紹介してくれる大事な場所。今日みたいな案内の募集からキメラの撃退まで、沢山の依頼を扱ってるわ」
 一行と目が合ったオペレーターは、この『仕事』を知っている事もあってか、声には出さないものの「ご苦労様です」と口を動かし、軽く会釈をした。
 モニターをテレビ番組の延長程度と捉えているであろうキンダーの子供達は、映る画像を指差して騒ぎ、あるいは展示用のナイトフォーゲルへ駆け寄っていき、キリヒトが後を追いかける。一方の年長組は表示された情報の意味を理解し、それを見つめていた。
「あれだけいっぱい、バグアやキメラが攻めてきてるんだ」
「うん。私も他の仲間も、皆が家に帰る頃には次の仕事に向かってるかもしれないわね。いつか、皆の街に行く機会もあるかも」
「それ、街が攻撃されるって事?」
 口を尖らせた一人から指摘をされ、エイヴァリーは「あら」と口元を押さえて肩を竦める。
「それもそうよね。でも、ホントに皆の街が危なくなったらすぐに飛んでいくし、今日みたいに戦うだけじゃない依頼もあるのよ。パーティの警護なんかあれば、ぜひよろしくね」
 冗談めかした笑顔で付け加えれば、笑い声が響いた。

 次に向かったのは、『能力者』達が集う兵舎だ。
 見学者達が各年齢に合わせたコースへ分かれる中、トヲイはハイの子供達を馴染みのある場所へ連れてきていた。
「ここでは気の合った仲間同士で憩う場所もあれば、こうして身体を動かすスペースもある。いい機会だから、剣道の『型』を披露してやろう」
 早速トヲイは竹刀を取り、基本的な動きを解説しながら披露する。
「懸待一致という言葉があるように、剣道では攻撃と防御は表裏一体。その攻守の基本となるのが『構え』だ」
 そこから、動きを面と胴、そして小手を決める技へと繋ぎ。
「単に目で相手の動きを追う事よりも、「観の眼」つまり「心の眼」で相手の動きや心理をよく観ることが大切だ。そして「観の眼」で観ることが出来れば相手の動きを体で感じ取り、相手よりも先に動く事によって、有効な攻撃が出来る」
 だが、ただ座ってトヲイの講釈を聞くだけでは、武道の心得もない見学者達には物足りなかったのか、手ごたえは今ひとつだった様だ。

「ねぇねぇ、愛紗ちゃん。おやつ、もってきたの?」
 食堂前で他の班と合流したハルカは、彼女より一回り小さい愛紗を見つけると、その背で膨らんだ鞄をつつく。
「うん、おやつは必須だもん! 皆にあげようと思って、いっぱい詰め込んできたの♪ チョコにクッキーに、スナックに‥‥うーんと、バナナはおやつに含まれ‥‥る?」
 小首を傾げた愛紗に、翠の肥満が首を横に振る。
「バナナは、おやつに含まれません。僕だけは」
「あはは。ねぇ、おやつちょっと貰っても、いいかな」
「いいけどハルカお姉ちゃん、もうお昼だよ?」
「大丈夫よ。ありがと〜!」
 鞄を開ける愛紗に、笑顔でハルカは礼を言った。

 食堂で子供達は『能力者』に混ざり、同じ昼食を取る。
 その席でも、案内者達は子供達を飽きさせないよう趣向を凝らしていた。
 キリヒトは覚醒すると、数個のリンゴをお手玉しながら、ウサギや亀など器用に様々な形にカットする技を見せ。一方でエイヴァリーは覚醒をせずに、ハイの少年達と腕相撲で勝負している。
「なんなら、ハンデに両手でも良いわよ?」
 かかってきなさいと手招きするエイヴァリーに少年達は躍起になるが、結果は明白だった。

●未来科学研究所〜図書館
「ようこそ、皆様。ここが、人類の英知の結晶。人類を救う英雄の集まる場所、未来科学研究所です」
 昼食の後に訪れた未来科学研究所では、それまではぐれる子供がいないか距離を置いて見守るだけだったシフェンティが、大仰に一礼してから饒舌に語り始めた。
「ここでは、バグアを地球から排除‥‥つまりは追い出すべく、日夜研究に明け暮れているのです。全ては、皆様の安全と平和を取り戻す為。彼らは、その礎たる『ラスト・ホープ』の頭脳なのです」
 シフェンティの解説が耳に入っているのかいないのかは判らないが、子供達は物珍しそうに研究所内を見回す。
「あれ、なに?」
「エミタ見せてよー!」
「ねぇ、エミタをつけたら皆、『能力者』になれるのかな?」
 迷子が出ぬよう、一番後ろから付いてきている翔の着物の袖を引き、キンダーの一人が尋ねた。
「『能力者』になるには、まずエミタと適合できるかどうかの検査を受けるんですよ。それに通れば簡単な適正テストの後、だいたいの人は手にエミタを埋め込むんです」
 翔は手を開き、自分のエミタが埋まった場所を示す。エミタは露出していない為、自分達と何ら変わりない手に、子供達が不思議な顔をした。
「触っても、ビリッとしない?」
「はい。エミタが埋まっていても、感触では判らないですけどね」
 おっかなびっくりで触れる小さな手の主達に、翔は腰を落とす。
「もし疲れたり、眠くなってきたりしたら、遠慮なく言って下さいね。移動用のバスで休憩できますから」
「うん」
「わかったー!」
 こっくりと頷く幼い子供達に彼女は微笑み、それから実験見学へと案内するシフェンティの後に続く年長者達を指差して、はぐれないようそっと促した。

 四番目となるのは、沢山の蔵書が収められた巨大な図書館。
 円形の巨大なメインコーナーを中心に、地層の如く本棚の列が整然と縦に詰まれ、横に伸びている。
「さて。ここは。図書館です。この図書館には。文章というモノが。生まれてから二千年以上。世界中で書き記された知識。書物のすべてが集められて。います。また。大きな戦争や祭典は。ヴァーチャルビジョンとしても。記録されて。います」
「じゃあ、『メトロポリタンX』が攻撃された時のも、残ってる?」
 ミドルの子供達からの質問に、図書館の概要を説明するキリヒトが首を縦に振って答えた。
「はーい。はっちーからも、質問です」
 同年代の子供達に混じった愛紗が、抱いたパンダの名前を交えながら片手を上げさせる。
「攻撃された『メトロポリタンX』って、今はどうなってるの?」
「『メトロポリタンX』は。フロリダ州のタンパ辺りに。ありました。今も残っていますが。街の部分はほぼ崩壊。しています」
「そうなんだ」
「怖いね‥‥」
 報道規制をされている訳ではないが、情報網が混乱しているが故にあまり大っぴらに知られていない事実に、改めて子供達のうちの何人かが眉を顰めた。
 本棚から一冊を抜き取ったキリヒトは、その表紙のタイトルを静かに指でなぞる。
「知ることは。大事です。知って。考えて。行動する。解体すると人生は。そんな感じの。だんだんと。小さくなるトンネルです。やりたいことが。あるのでしたら。まずは知ること。です。知れば知るほど。トンネルは大きくなって。行きたいところに。いけます。だから。みなさん。本を読みましょう」
 静かで落ち着いた場所でもある為、ここでのグループ行動は休憩も兼ねた。
 騒ぎ疲れ、歩き疲れたキンダーの子供達は、翔の勧めで短い午睡を取り、飲食可能なコーナーでは愛紗がミドルの子供達とおやつを分けて食べながら、他愛もない話に興じ。ハイの少年達は、バグアが大掛かりな侵攻を仕掛けてくる以前に発刊されていた本を、興味深げに読みふける。
 そうして、誰もが次の移動までのひと時を、のんびりと過ごしていた。

●KV格納庫〜ショッピング街
 次に案内された巨大な倉庫のような施設では、誰もが−−特に男の子達は−−歓声を上げ、目を輝かせて銀色の機体を見上げていた。
「これが、人々の希望の翼ナイトフォーゲルです。ナイトフォーゲルは兵器ではありません。漢のロマンの具現体なのです」
 機体を背にして、翠の肥満が熱い持論を展開していた。それはもう、力いっぱい力説する。それから一つ咳払いをし、声のトーンを落とした。
「できれば、飛行体験も行いたいところですが‥‥残念ながら、安全を考慮して見送りとなりました」
 見学者からは当然、「え〜っ」と抗議の声が上がり。
「しかし、ご安心下さい。代わりと言っては何ですが、コックピットに座る事をOKしてもらいました。ただし、座り心地の保障は出来ませんが」
 喜ぶ子供達の反応に同志を得たかの如く、彼は満足そうに何度も頷いた。

「それにしても、よく許可が出たな」
 嬉しそうにステップを登ってコックピットを覗き込み、座る順番を待つ子供達を眺めながら、トヲイがエイヴァリーへ声をかける。
「見学する相手が、相手だものね。きっと上の人も、好印象を残しておきたいんじゃないかしら」
「もっとも僕としては、動いている機に乗せてあげたかったのですが」
 二人の話を耳に挟んだ翠の肥満が、残念そうな表情をみせた。
「かといって、下手にスイッチなんかを触って面倒な事になっては、せっかくの『観光』が辛い記憶になるだろうしな」
 たとえ動かなくても、本物のナイトフォーゲルに触れる事は、あまりない機会だろう。機体を囲んだ子供達の表情を、腕組みしたトヲイはじっと見守る、
「ん、どうしたの?」
 豊かな胸の胸元に気が散る様子の年長の少年達に、身を乗り出して説明するハルカが笑顔で尋ねていた。

「さて‥‥観光の締めといえば、買い物です。土産に木刀を買わぬのは、邪道ですから」
 観光案内最後の目的地へ、引き続いて翠の肥満が案内する。
『能力者』達をサポートする数々の装備品を売るショッピング街には、一般人向けに日用品などの販売を行う店ももちろん存在する。狭い島内を有効に活用する為にも、そういった店舗の類はショッピングビルにテナントの形で入っていた。
「土産物の木刀なんか、あるんでしょうか?」
「さしづめ、『ラスト・ホープ』土産SES機関精巧模型搭載モデルの木刀‥‥といったところですか」
 翠の肥満の言葉に不思議そうな表情で首を傾げる翔へ、シフェンティが肩を竦める。
「そうだ、愛紗もショップで、ダディへのおみやげ買っていこ♪ あ、ダディって言っても、ホントのダディじゃないんだけどね。それに、ダディっていうと怒るんだよ。ホントのダディは、行方不明なんだけど‥‥」
 ぬいぐるみの動作を交えながら、愛紗はミドルの子供達と店を回る。
 すっかり日も暮れて、高層ビルの間をぬって走るチューブ式の列車の窓から夜景を眺め、歓声をあげ。
 そして、一日観光の予定は終了した。

「今日は、ありがと」
「楽しかったよ。『能力者』の人の事とか、いろいろ教えてもらったし」
「ばいばーい! またねー!」
 迷子も病人もなく、別れを告げた20人の子供達はガイドと宿泊施設へ戻る。
「あの子達を守るのが、僕達なんですね」
 背中を見送る翠の肥満が呟けば、トヲイもまた焼き付ける様に後ろ姿を見つめる。
「子供達を戦場に駆り出さずにすむよう‥‥一刻も早く、戦いを終わらせたい。いや、終わらせてみせる」
 苦労はしたが、別れ際の笑顔が何よりの報酬だった。